ホーチル

ホーチル

ホーチル(хуучир/quGuc'ir)は、バドラハによれば漢語の胡琴(hu qin)から生じたモンゴル語である 。現在のモンゴル国では、小さな共鳴胴とそれを貫く長い棹を持つ二弦または四弦の擦弦楽器 、すなわち二胡や四胡のような楽器を指す言葉である。20世紀初頭の鳥居きみ子らの記録からすると、この種の楽器は歌の伴奏楽器として王府などの楽士のみならず一般に広く行われており、ホール(хуур) と呼ばれることも多かった。歌や語りに優れ、四弦の楽器を演奏するO’.ロブサンやジグメドの写真が残っていて、彼らのような人もホールチ(ホール奏者)と呼ばれていた。四弦のものは二弦ずつ同じ音に調弦するが、これを特にドゥルブン・チフテイ・ホール(дөрвөн чихтэй хуур/4つの耳(ペグ)を持つホール)またはドゥルブン・オタスト・ホール(дөрвөн утаст хуур/4つの糸を持つホール)と呼ぶ場合がある。またバドラハは1930年代当時使われていた楽器は、棹が木製で、長さは51~61cm、共鳴胴は竹で、片面にのみ蛇側が張られ、竹と馬のたてがみの弓で奏していたという 。
 20世紀初頭に用いられていたこの種の楽器は四弦であったが、モンゴル国で現在製作され使われているホーチルはほとんどが二弦のものである。これは1937年に、劇場付属芸能学校で他の楽器との合奏の際、チューニングを容易にするために二弦に減らしたという 。しかしその後も四弦の楽器は使用されていたようで、1947年の世界学生青年祭にも音楽ドラマ劇場の団員が四弦の楽器で出演しているし 、1972年の人民歌舞団の民族楽器オーケストラでも四弦の楽器が使われている 。
 現代モンゴル使われる楽器は2種類で、小ホーチルは全長54cm、調弦は左B♭4、右F5で、音域はB♭4からG6、実音より1オクターブ下に記譜する。中ホーチルは全長78cm、調弦は三種類あり、それぞれB♭3とF4、C4とG4、D4とF4である。音域はB♭3からE♭6。以上2つは胴に蛇皮を張る。これ以外にバス・ホーチルが1960年代~1970年代に人民歌舞団のオーケストラで用いられていたが、今は用いられなくなったという 。全長は107cmで調弦は変ロとハ。実音より1オクターブ上に記譜した。胴の表板部分には蛇皮のみならず、ヤギの皮を使う場合がある。この大きさのものは20世紀初頭にも用いられていてロブサンもこれを弾いていたという 。以上の楽器は1990年代までは金属性の胴を持つものが主流であったが、近年木製に取って代わられつつある。


最終更新:2012年10月13日 20:56