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前編

 キーンコーンカーンコーン
 ガラッ

 「おいブス、ノート見せろ」

 私立高野浦高等学校3年E組。今日もいつもの生活が始まった。主人公の名前は岬 嗚海。ごく普通の女子高校生。そして今ドアを開けて入ってきたのが…

 「またお前か東也!!」

 嗚海の幼馴染、東也だ。

 「さっさと見せろ。俺は具合が悪くて遅刻したんだよッッ。1時間目理科だろ?俺の苦手な教科だから独学は無理だ。さっさと見せろ。休み時間終わっちまうだろ」
 「お前が遅刻すんのはいつもの事で書しょ!?担任が天然だから毎回具合が悪いで通してもらってるけどお前一生それで生きて行けるわけねえからさっさとやめろ。お前の苦手な教科かどうかは私には関係ない。毎日毎日いい加減にしろよ!」

 東也は遅刻魔。毎日規則的に1時間目が終わるチャイムと同時に教室に入ってくる。そして幼馴染の嗚海にノートを見せてもらう事をかってに習慣にしてる。嗚海は嫌がりながらも、毎朝同じ台詞の毒舌をはいて必ずノートは見せてあげる。そしてクラスの皆は…と…。嗚海曰く嫌な奴等。いつもくすくす笑いながら嗚海達を見ている。

 「まあまあ、いつもの毒舌はそこまでにして、またベレー帽落ちてんぞ。」
 「あ!」

 また落ちてるベレー帽。それは、嗚海が大切にしているベレー帽だ。
 嗚海は漫画家になるのが夢。それは、幼稚園の頃からそうだった。その頃から東也と嗚海はいつも一緒で、一緒に夢の話を語り合った。そんな中、東也が一ヶ月間だけ、海外に行く事になった。嗚海はとても寂しがったが、一ヶ月のしんぼうだ、と、ずっと東也を待っていた。そして一ヶ月経って東也が帰って来ると、東也は嗚海をいつも遊んでいる公園へ呼び出した。そして、海外のお土産である、ベレー帽を渡したのだ。これが嗚海がベレー帽を大切にしている理由。つまり…嗚海は東也の事を、その時好きになってしまったのだ。
 嗚海は毎朝ベレー帽を落としている。そして東也に拾われる。と思っている。しかし…

 「返してほしけりゃさっさとノート見せろよ!」
 「あーもうわかったよ!はい!」

 嗚海は東也にノートを渡した。実は、ベレー帽は落ちていたのではない。東也が毎朝来る度に、嗚海のすきを見てベレー帽をとっているのだ。嗚海は毎朝それにまんまとハメられている。
 そんな時、嗚海は何かの視線を感じた。後ろを向くと、他のくすくす笑っている連中の中に一人だけ、とても意味あり気な顔をして立っている女子がいた。

―あ、あの子…。

 嗚海にはすぐわかった。あの顔は、恋をしている顔。あの子は東也に、恋をしている。

―ズキッ…。

 嗚海の胸が痛んだ。その子はとても美人で、高校生でモデルをしている。そして、嗚海と同じ髪型、同じ名前だ。三崎成美。同じ、ミサキ ナルミという名前。そして、同じ髪型。違うのは、顔…。

 「はーいよっありがとよ」

 東也が嗚海にそう言ったので、嗚海は我にかえった。けれど気になる。

―三崎さん…か……東也も、ああいうのがタイプなのかな…、、、。

 その日、嗚海は具合が悪くなった。

~次の日~

 「出席をとる。秋野」
 「はい」
 「飯田」
 「はい」
 「飯塚」

 今日はとても晴れている。そして、校内ベースボール大会だ。皆とてもはりきっていた。そして、東也も今日は1時間目から来ていた。しかし…

 「三崎」
 「はい」
 「岬。あ、岬は今日は休みだ。大切な用事があるそうだ。もしかしたら…もう来ないかもしれん、という事だ。では、次。村田」
 「はい」

 東也は呆然としていた。

―嗚海が、もう来ない…?

 今までずっと一緒だった嗚海が来なくなるかもしれない。東也はわけがわからなかった。

―引っ越すとかじゃねえよなあ…。

 「と、言う事で、今日はベースボール大会だ。皆、気合入れていけよ」
 「はい!」
 「では、全員30分後までに外に並びなさい」

 東也はそこでそのまま固まっていた。そんな間に、もうクラスの皆は外に出てしまった。ある一人を除いて。

 「東也君?」

 三崎だ。

 「三崎…どうしたの?もう皆行ったよ?」
 「東也君、なんだか元気ないみたいだから…」
 「あ、うん、全然大丈夫だから。気にしないで」

 東也がそういいながら席を立とうとすると、三崎が引きとめた。

 「あ、あの!」
 「?」
 「あの、今日、ベースボール大会終わってから、時間、ある…?」
 「ん?うん。全然平気だよ?」
 「じゃ、じゃあ、体育館と裏校舎の間に、使われてない玄関があるでしょ?」
 「うん」
 「そ、そこに…あの、ベースボール大会おわったら・・来てくれ、る・・・?」
 「うん、いいよ」
 「あ、ありがとう!じゃ、ベースボール大会頑張ろうね!」

 三崎はそう言うと、教室を出て行った。

~その頃~

 高野浦高等学校裏病院。嗚海は学校を休んでそこにいた。

 「岬さん…」

 嗚海の母親と医師が、談話室で話をしていた。

 「はい」
 「お嬢さん、危険です」
 「え?」
 「急性、ノーテイルです」
 「え?なんなんですか?それ」
 「急性ノーテイルとは…」

 医師はとても深刻な顔をしてしゃべり始めた。
 急性ノーテイルとは、ある時、精神か身体の衝撃により突然何かができ、そしてまたある時何かの衝撃により、突然できた「何か」が一瞬にして脳に届き、脳の司令塔を破壊する病気。手術をすれば治るが、今までで2度しか成功した事がない。成功したとしても、一部の記憶をなくてしまう。それが何の記憶なのか、親の記憶なのか、自分の記憶なのか、思い出なのか、他の誰かの記憶なのかはわからない。

 「小学校6年生でね、成功した子はいたんですよ。一つ前の手術でね。その子はフラッシュバックで苦しむ事をなく、まるで衝撃によって突然何かができた時のように、突然記憶を取り戻したんです。でも、そんな奇跡が何回も起こるかというと…。けれど、手術をしなければ、いつ死ぬかわかりません。いつ脳が破壊されるか、検討は全くつきません。だから、手術をした方がいいとは思うのですが…」

 嗚海の親はしばらく黙っていた。そして口を開いて、こう言った。

 「この事、嗚海には言わないで下さいませんか?」
 「え?」

 嗚海の母親は、嗚海には言わないで、今までと同じ生活を送らせて、死なせてあげたい、と言うのだ。

 「けれど、それでは今日死ぬか明日死ぬかはわかりません。後悔するのは、そう決めた貴方ですよ?奥さん」
 「いいんです。嗚海には、幸せという事を最期まで実感してほしいんです。後悔はしません。お願いします」
 「…わかりました」

 嗚海の母親は医師にそう言って、談話室から出た。すると、そこには待っていたはずの嗚海がいなかった。

 「もしかして…あの子…」