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第1話


 それを見つけたのは、両親が亡くなって一週間が過ぎた、ある夏の日。私は、不思議な水槽の水をかえていた。金魚を小さな桶へ移し、ポンプで水を抜き取って、ジョウロから新しい水を注ぐ。その時、誰かの声が聞こえた。

『壁……』
――え!?
『壁……』
「壁……?」
『……で……壁……こうへ……』
「何!?」
『おいで……壁の向こうへ……』
「壁の…向こう?」

 私は目を見開いた。私がそう言ったとたん、水槽の水の色が真っ赤な血の色になったのだ。私は、誰かが言った『壁』という言葉を思い出して、水槽をその場からどけようとした。壁とは、水槽が置いてある場所の壁だと思ったのだ。
けれど、どんなに力をこめて水槽をどかそうとしても、水槽は重たくて動かない。というより、水槽が床にくっついている感じがした。私は、新しく水槽に入れた綺麗な水を抜き、水槽の周りの家具を全てどけた。そして、水槽を横から思いっきり押し倒した。

「やっぱり……」

 水槽があった場所を見ると、その壁は真っ赤になっていた。水槽の水が赤くなるのは、壁の色が赤くなっていたからだ。私は息をのんだ。怖いくらいの好奇心でいっぱいになり、手が震えた。私は、手の震えをおさえながら、静かに壁に近づき、その壁に触れようとした。
 しかしその時、壁に手が触れる直前に、昼の11時の鐘が鳴った。私がビクッとして手を戻すと、壁の色はにごった赤い色に戻っていた。

『夜の11時に……また……』

 誰かの声はそう言うと、どこかへ行ってしまったのだろう。それ以来、何も聞こえなくなった。
 私はテーブルの椅子に座り、頬に手を当ててぼんやりしていた。あの真っ赤な血の色。さわったら、どこまでも吸い込まれていきそうな色だった。でも、触ってみたかった。そんな事を考えていたら、私はいつのまにか、座ったまま眠ってしまっていた。
 私は午後10時の鐘で目が覚めた。あの不思議な出来事のせいで昼ごはんを抜いてしまったあげく、晩御飯も遅くなってしまった。そんな事を考えながら、私は急いで晩御飯を作り、急いで食べた。忘れるはずがない。あの誰かの言った言葉。『夜の11時に、また』。もう一度会えるのだ。そしておそらく、もう一度、あの壁の色は現れる。私はすごい勢いで片付けを済ますと、テーブルに座って、赤い血の壁を待った。

『おいで……壁の向こうへ……』

 その声が聞こえたのは、午後11時の鐘とちょうど同じタイミングだった。私は嬉しさでいっぱいになり、その場に立ち上がった。そして、立ち上がったときに椅子が倒れた事も気にせず、催眠術にでもかかったかのように、そのまま壁の方へ進んだ。壁は、また赤くなっていた。赤い、血の色に。私は、今度こそ触ってみた。赤い壁に、そっと……。その瞬間、私は気を失った。気が付いたら、暗い部屋の中にいた。

『気がついた?』

 またあの声がした。私が声のした方を向くと、にかっと笑った金髪の長い髪の男の人がいた。
 それが、私と彼の出会いだった。