「なごり雪」(2009/01/07 (水) 11:55:43) の最新版変更点
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*なごり雪 ◆Qpd0JbP8YI
セフィロスは静かに佇んでいた。
周りには何もなく、ただ荒涼とした平野が闇夜に浮かぶだけである。
彼は周りに誰もいないことを確認すると、意識を内にへと向け始めた。
自分はあの雪の日に八神はやてたちに見送られ、ライフストリームに戻ったはずだ。
自分が生きているということには疑問はない。
いつかはこうして肉体を再び持つことになるであろうことは予見できたし、その心構えもあった。
しかし、ここにいるということには納得が出来なかった。
ライフストリームの粒子となった自分はその本流へと戻り、元の世界で復活するはずだった。
そして母の意志を継ぎ、あの世界の人類を抹殺する。
それなのに自分は何故かここにいる。
まったく予期していなかったライフストリームの本流から外れての再びの蘇生。
彼はその事実に苦笑するだけであった。
しかし、蘇ったならそれでいい。
早急にここいる参加者とやらを皆殺しに、プレシアと名乗る女も殺し、
どうにかして元の世界に帰るだけだ。
あの女は殺しあえと言った。
人の言いなりになって行動するというのは癪だが、どうせやることに変わりない。
バッグの中から武器になりそうものを取り出す。
そこからは見るものを圧倒し、対峙するものを恐怖で竦ませんとする大仰な槍が出てきた。
「ストラーダか……」
そう呟くと同時に胸の内に僅かに湧き上がった感慨は失せた。
彼の思考に歪みはない。彼はいつでもたった一つの意思の元に行動をする。
そして、彼は槍を手に歩き出した。
* * *
夜のせいかひどく冷え込んでいた。
風は強く、それによって煽られた波は容赦なくその身を浜辺に打ちつけていた。
波の音以外聞こえない静かな場所であった。
この場所がどこであるかを探ろうにも、目印となるような建物は目に入らなかった
海以外に目に留まるようなものあるとすれば、それは波打ち際残る白い泡のようなものであっただろう。
波の華と呼ばれるそれは夜において僅かにその存在を主張をしていた。
だが、それが一体何の手がかりになるだろう。
八神はやてはそれを横目に溜息混じりに呟いた。
「一体何なんや」
その言葉と同時に思い至ったのが自分に対する数奇な運命への抗議だった。
下半身不随に始まり、続いて闇の書、仮面ライダー、ミラーモンスター、そして今回の事件だ。
人一人に課せられる試練にしては少し度が過ぎている。
正直、神様がいるのなら余りの体たらくぶりに文句の一つでつけてやりたいぐらいだ。
勿論、そんな呆れとも言える憤りの他にも彼女の内には不安はあった。
どこだか知らない世界にいきなり転送され、知らない人たちと殺し合えだ。
年端のいかない女性にとって、それを平然と受け止めろというのは土台無理な話だろう。
しかし、八神はやてはその少ない年輪で周りの人の支えになれるような強い人間である。
たった一言で現状に対する不満や疑問を胸に押しとどめた。
「さて、何にしてもバッグの中身を確認せなな」
そう言って彼女がまず取り出したのは名簿だった。
月明かりを頼りに目を通す。
すぐさま彼女の目に飛び込んできたのが、見知った名前の数々だった。
高町なのは、フェイト、シグナム、ヴィータ、シャマル、そしてザフィーラ。
他にも自分の知り合いだと判断できる名前があった。
それらを確認すると、彼らが自分と同じくこんな馬鹿げた殺し合いに呼び出されたことに強い憤りを持った。
だけど、そんな気持ちの一方で安堵を覚えている彼女がいた。
殺し合いというのには不向きな人たちではあるけれど、こんな所ではひどく頼りがいがあるのは確かだったからだ。
そんな矛盾するような感情に気づき、八神はやては内心苦笑を浮かべた。
「それにしても何でウチとなのはちゃん、フェイトちゃんたちは二つ名前があるんやろ?同姓同名さんやろか?
いや、こないな狭い空間で同姓同名の人が三人も集まるいうのは考えられへんか。
せやけど、同一人物というのも……ありえへんよな?とも言い切れんのかな?
……あかんな。こればっかりは会ってみな、わからへん」
頭をかかえこんでいるところに、ふと人の気配に気がつき、彼女は目を上げた。
まだ遠くにいるせいか、それが誰かは確認できない。
恐怖と不安がない交ぜになった感情で彼方を凝視する。
あの人はこの殺し合いに乗った人なのだろうか。
そんな疑問を持つ前にはやては風になびく銀髪に目を奪われた。
夜の中でも確かに存在感を放つ銀色。
海より吹き寄せる風により、その長い銀髪をたなびかせていた。
夜空に浮かぶ月はまるでその髪の色を称えるかのように蒼い光を注ぎ、
それを受けて淡く輝くその銀色は夜の暗闇の中で妖しく映えていた。
思わず見とれてしまうほどの綺麗な髪だった。
そしてそんな髪を持つ人を一人、八神はやては知っていた。
「リィンフォース!?ひょっとしてリィンフォースか?」
はやては思わず目を見開き、身体を前に押し出し、駆けた。
しかし逸った気持ちに急な行動せいか、足はもつれ、無様に転がった。
浜辺とはいえ、僅かに痛みが脳に訴えかける。
だけど、今の彼女がそれを気にしていられるだろうか。
目の前にはあのリィンフィースがいるかもしれないのだ。
仕方なかったかもしれない。
他にやりようがなかったのかもしれない。
だけど自分はあの雪の日に分かち難い大切なものを失ってしまったのだ。
それを今になってやっと取り戻せるかもしれない。
その喜びは今いる現状の認識を失わせるのには十分だった。
そしてそれが失態であると気がついたのは、銀髪の人の手にある大きな槍が目に入った時だった。
「リ、リィンフォース?」
そして槍は突きつけられた。
* * *
セフィロスは気の向くままに足を向かわせた。
どうせ皆殺しにするのだから、どこへ向かうと構わない。
そうしてしばらく歩いて目に入ったのが、周りに気を配らず勝手に一人ごちている女だった。
この程度の存在なら放っといても構わないかもしれない。どうせすぐに物言わぬ死体と成り果てるだろう。
しかし不慣れな武器に制限という身体の状況を鑑みれば、支給品である武器を充実させたほうがいい。
彼女が持つバッグには自分の愛刀が入っているかもしれないし、今持っている槍より扱いやすいものが入っているかもしれない。
そういった可能性はセフィロスを動かすには十分だった。
それにあの女はどう見ても非力な存在だ。
今の身体の状態からすれば、それは正に渡りに船だった。
確かにあの女が八神はやてたち同様に魔法を使えるという可能性もある。
だが、あの様子はどうだろう。ろくな戦闘経験を積んでいるとは思えない。
そんな奴が例え魔法を行使しところで問題はない。
セフィロスは悠然と女に向かって歩いていった。
槍を女に向けた瞬間、女の声が聞こえた。
どこか懐かしく、そして聞き覚えのある声だった。
暗がりの中、目を細め、怯える女の顔を見つめる。
その顔も同様に見覚えがあるものだった。
あの雪の日に見た彼女の顔、自分に居場所を与えてくれた女性。
セフィロスは八神はやての顔を思い出していた。
そしてそれと共にセフィロスの手からは自然と力が抜けていった。
「こ、殺さへんの?」
無様に地面を這いつくばっているはやては声を震わせながらも何とか言葉を口にした。
セフィロスはそれに答えず、質問で返した。
「お前の名は何という?」
「八神……はやて、いいます」
セフィロスの記憶にある八神はやてと比べて随分と幼いし、甘さを感じさせる部分が多々にあった。
それにより完全には同一人物とは言い切れない。
もしかしたら彼女を模した何者かもしれない。
だが不思議とセフィロスには彼女を切る気になれなかった。
「そうか」
セフィロスはそう答えると同時に槍をしまい、踵を返した。
それを見て呆然とするはやてだったが、急いで立ち上がり、叫んだ。
「待って!待ってぇな!」
セフィロスの足は止まった。
「あなたは殺し合いに乗ってへんの?それやったら一緒に……」
だが、彼は振り向かず、口も開かなかった。
その沈黙を否定ととった八神はやては急いで言葉を足した。
「ああと、こないな女の子と一緒じゃ不安ですか?足手まといにとかって思ってはります?
そないなことはないですよ。こないな事言うと頭のおかしい子やって思われるかもしれませんけど、
私、実は魔法が使えるんです。戦力的にバッチリです。それにですね、なのはちゃんやフェイトちゃん。
他にもシグナムやヴィータっていう私の守護騎士たちもいます。
みんなこないな殺し合いには乗らんいい人たちやし、
その人たちに出会えれば、こんな殺し合い、すぐさまおさらばやと思います。
それに元の世界に帰るゆうのも時空管理局が責任をもって行います。
せやから殺しあう必要なんてあらへんし、安心しておうち帰れます。
ああと、時空管理局ゆうのは次元の海に存在する幾つもの世界を管理する機関で、
今回のように多次元世界に影響を及ぼす犯罪者を取り締まる警察みたいなとこです」
八神はやては内に沸き起こる不安を取り除くように声を矢継ぎ早に並べ立てた。
自分でも随分と性急やなぁと確認できるほど早口で、そのみっともないともいえる自らの有様を心の中で自嘲した。
これでは何だか命乞いをしているようだし、嘘っぽくも感じてしまう。
それに何よりも相手がちゃんと聞き取れたかどうかが怪しいところだ。
そしてその不安を裏付けるかのように銀髪の男は沈黙を続けていた。
どれほどの時を待っただろうか。
やがてはやてが相手の反応に諦めを感じた頃、男は顔を僅かに振り向かせ、口を開いた。
「私がこの殺し合いに乗っていると言ったら、お前はどうする?」
彼は何を目的としてそんな事を問うてきたのだろうか。
はやては簡単にその答えを導くことが出来た。
恐らくはこんな状況での自分の覚悟を試すためだろう。
彼がこの殺し合いに乗っているのは正直、分からないところもある。
だけど、彼は自分を殺さなかった。それは確かなのだ。
それにそんなことをされないでも自分には覚悟がある。
もうあんな思いをしないためにも、どんなことをもする覚悟が。
「止めます。どうやっても止めさせてもらいます。私はもう大切なもんを失いとうない。
そのためなら、この身体どうなっても構わないと思います」
それが自分の贖罪です。
そう心の中で最後の文句を付け足し、口上を止めた。
言葉の内容には自分でも不安はあった。
彼を止める手段などないし、実際に彼がその槍を振りかぶってきたら自分は間違いなくお陀仏だろう。
魔法は使えるが、デバイスがなければ、そこらの女の子に毛が生えた程度でしかない。
彼が魔法を知らなければ、あるいは自分の言葉は脅しにはなると思う。
だけど彼がデバイスらしきもの持っていることからして、それに保証は与えられない。
そんな不安に押し出されるようにはやては言葉を付け足した。
自分が殺し合いに乗ってないことを伝え、彼の持っているかもしれない殺意を削ぎ、そして自分本来の魅力を伝える言葉を。
少しいたずらな笑みを浮かべて。
「それにこないな可愛い女の子を殺したり、見捨てていくゆうのは、男の風上に置けません。そう思いません?」
八神はやてと名乗る女の言葉を聞いていてセフィロスは確信した。
この女は八神はやてなのだ、と。
八神が何故子供であるのかというのは分からない。
パラレルワールドとやらの八神はやてなのか、昔の八神はやてなのか、クローンなのか、その他にも可能性かは色々とあるだろう。
だが、この女が八神であることに間違いはないようだ。
「そうか」
知らず知らずの内に、そんな言葉を呟いていた自分にセフィロスは驚いた。
「そうです」
はやては彼が返事をくれたことに喜びを隠さず笑顔で答えた。
そして一転して真面目な表情。
「せやから、どうかお願いします。私に力を貸してください」
セフィロスの身体の状態は芳しくなかった。制限とやらのせいだろうか。
あの雪の日のようにとまではいえないが、身体に上手く力が入らない。
この調子ではあの新人たちにも遅れをとるかもしれないし、
何より誰がいるともしれないこの殺し合いに勝ち残ることなど到底望めないだろう。
だから、というわけでない。
「分かった。但し、俺がお前と一緒にいるのはこの下らない催しが終わるまでだ。その後は好きにさせてもらう」
「ほんまですか?」
セフィロスは八神はやての側にいることを選んだ。
セフィロスの頭に過ぎったのははやてのとの約束だった。
雪が降り注ぐあの日、八神はやての傍らで、あの場所で再び会おうとした約束。
私が俺でいられる場所で、と。
そこでようやくセフィロスは振り返り、八神はやてを見つめた。
その瞬間、一際強い風が吹いた。
波打ち際に溜まった波の華はその風によって細かく刻まれ、舞い上がり、二人の周りを漂った。
そして長い銀色の髪を風に孕ませる彼を八神はやては見上げた。
どこかリィンフォースを思い出させる銀色の髪に、物言わぬ悲しい瞳。
それと対峙する八神はやては不思議な気持ちに駆られていた。
まるで失った大切な人を取り戻したかのような感覚。
彼がリィンフォースではないことは、もう既に分かっている。
だけど、彼と一緒にいることに不安は感じなかった。
はやては知らず知らずの内に、その顔を喜びに染めていった。
あの日、泣いていた顔と見比べれば随分とマシなものだ。
セフィロスははやての顔を見てそう思った。
はやてとの約束をこんな形で果たすとは思わなかったが、存外悪くないものだ。
無論、母の意志を忘れることはない。
人類は殺すべき存在だ。
だが、しばらくは「私」ではなく「俺」のままでいていいのかもしれない。
夜に浮かぶ白い華はまるであの日の雪のように静かに二人の間に降り注いでいた。
だけど、そこにいつしかの別れを思わせる悲哀などはなかった。
二人はお互いに見つめあい、そのことを確認した。
やがて静寂を破るかのように波の音が聞こえ始めた。
不躾な風によって起こされる波のけたたましい音は、今がどういった場所であるかを知らせてくれていた。
だが、彼の耳に届く波の音はひどく心地よかった。
【1日目 深夜】
【現在地 F‐1】
【八神はやて(A's)@仮面ライダーリリカル龍騎】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本 この殺し合いからの脱出
1.目の前の男の人と情報交換
2.仲間たちと合流
【備考】
※セフィロスが自分を知っていることを知りません
【1日目 深夜】
【現在地 F‐1】
【セフィロス@リリカルなのはStrikerS片翼の天使】
【状態】健康
【装備】ストラーダ
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
基本 元の世界に戻って人類抹殺
1.八神はやてと行動を共にする
2.扱いやすい武器が欲しい
【備考】
※目の前の八神はやてが本物の八神はやてであると認識しました
※機動六課でのことを目の前の八神はやてに自ら話すつもりはありませんが、聞かれれば話します
※身体にかかった制限を把握しました
|Back:[[特別捜査、開始]]|時系列順で読む|Next:[[オタクと吸血鬼とレバ剣と]]|
|Back:[[反逆の探偵]]|投下順で読む|Next:[[二人の兄と召喚士]]|
|&color(cyan){GAME START}|八神はやて(A's)|Next:[[舞い降りた翼]]|
|&color(cyan){GAME START}|セフィロス|Next:[[舞い降りた翼]]|
*なごり雪 ◆Qpd0JbP8YI
セフィロスは静かに佇んでいた。
周りには何もなく、ただ荒涼とした平野が闇夜に浮かぶだけである。
彼は周りに誰もいないことを確認すると、意識を内にへと向け始めた。
自分はあの雪の日に八神はやてたちに見送られ、ライフストリームに戻ったはずだ。
自分が生きているということには疑問はない。
いつかはこうして肉体を再び持つことになるであろうことは予見できたし、その心構えもあった。
しかし、ここにいるということには納得が出来なかった。
ライフストリームの粒子となった自分はその本流へと戻り、元の世界で復活するはずだった。
そして母の意志を継ぎ、あの世界の人類を抹殺する。
それなのに自分は何故かここにいる。
まったく予期していなかったライフストリームの本流から外れての再びの蘇生。
彼はその事実に苦笑するだけであった。
しかし、蘇ったならそれでいい。
早急にここいる参加者とやらを皆殺しに、プレシアと名乗る女も殺し、
どうにかして元の世界に帰るだけだ。
あの女は殺しあえと言った。
人の言いなりになって行動するというのは癪だが、どうせやることに変わりない。
バッグの中から武器になりそうものを取り出す。
そこからは見るものを圧倒し、対峙するものを恐怖で竦ませんとする大仰な槍が出てきた。
「ストラーダか……」
そう呟くと同時に胸の内に僅かに湧き上がった感慨は失せた。
彼の思考に歪みはない。彼はいつでもたった一つの意思の元に行動をする。
そして、彼は槍を手に歩き出した。
* * *
夜のせいかひどく冷え込んでいた。
風は強く、それによって煽られた波は容赦なくその身を浜辺に打ちつけていた。
波の音以外聞こえない静かな場所であった。
この場所がどこであるかを探ろうにも、目印となるような建物は目に入らなかった
海以外に目に留まるようなものあるとすれば、それは波打ち際残る白い泡のようなものであっただろう。
波の華と呼ばれるそれは夜において僅かにその存在を主張をしていた。
だが、それが一体何の手がかりになるだろう。
八神はやてはそれを横目に溜息混じりに呟いた。
「一体何なんや」
その言葉と同時に思い至ったのが自分に対する数奇な運命への抗議だった。
下半身不随に始まり、続いて闇の書、仮面ライダー、ミラーモンスター、そして今回の事件だ。
人一人に課せられる試練にしては少し度が過ぎている。
正直、神様がいるのなら余りの体たらくぶりに文句の一つでつけてやりたいぐらいだ。
勿論、そんな呆れとも言える憤りの他にも彼女の内には不安はあった。
どこだか知らない世界にいきなり転送され、知らない人たちと殺し合えだ。
年端のいかない女性にとって、それを平然と受け止めろというのは土台無理な話だろう。
しかし、八神はやてはその少ない年輪で周りの人の支えになれるような強い人間である。
たった一言で現状に対する不満や疑問を胸に押しとどめた。
「さて、何にしてもバッグの中身を確認せなな」
そう言って彼女がまず取り出したのは名簿だった。
月明かりを頼りに目を通す。
すぐさま彼女の目に飛び込んできたのが、見知った名前の数々だった。
高町なのは、フェイト、シグナム、ヴィータ、シャマル、そしてザフィーラ。
他にも自分の知り合いだと判断できる名前があった。
それらを確認すると、彼らが自分と同じくこんな馬鹿げた殺し合いに呼び出されたことに強い憤りを持った。
だけど、そんな気持ちの一方で安堵を覚えている彼女がいた。
殺し合いというのには不向きな人たちではあるけれど、こんな所ではひどく頼りがいがあるのは確かだったからだ。
そんな矛盾するような感情に気づき、八神はやては内心苦笑を浮かべた。
「それにしても何でウチとなのはちゃん、フェイトちゃんたちは二つ名前があるんやろ?同姓同名さんやろか?
いや、こないな狭い空間で同姓同名の人が三人も集まるいうのは考えられへんか。
せやけど、同一人物というのも……ありえへんよな?とも言い切れんのかな?
……あかんな。こればっかりは会ってみな、わからへん」
頭をかかえこんでいるところに、ふと人の気配に気がつき、彼女は目を上げた。
まだ遠くにいるせいか、それが誰かは確認できない。
恐怖と不安がない交ぜになった感情で彼方を凝視する。
あの人はこの殺し合いに乗った人なのだろうか。
そんな疑問を持つ前にはやては風になびく銀髪に目を奪われた。
夜の中でも確かに存在感を放つ銀色。
海より吹き寄せる風により、その長い銀髪をたなびかせていた。
夜空に浮かぶ月はまるでその髪の色を称えるかのように蒼い光を注ぎ、
それを受けて淡く輝くその銀色は夜の暗闇の中で妖しく映えていた。
思わず見とれてしまうほどの綺麗な髪だった。
そしてそんな髪を持つ人を一人、八神はやては知っていた。
「リィンフォース!?ひょっとしてリィンフォースか?」
はやては思わず目を見開き、身体を前に押し出し、駆けた。
しかし逸った気持ちに急な行動せいか、足はもつれ、無様に転がった。
浜辺とはいえ、僅かに痛みが脳に訴えかける。
だけど、今の彼女がそれを気にしていられるだろうか。
目の前にはあのリィンフィースがいるかもしれないのだ。
仕方なかったかもしれない。
他にやりようがなかったのかもしれない。
だけど自分はあの雪の日に分かち難い大切なものを失ってしまったのだ。
それを今になってやっと取り戻せるかもしれない。
その喜びは今いる現状の認識を失わせるのには十分だった。
そしてそれが失態であると気がついたのは、銀髪の人の手にある大きな槍が目に入った時だった。
「リ、リィンフォース?」
そして槍は突きつけられた。
* * *
セフィロスは気の向くままに足を向かわせた。
どうせ皆殺しにするのだから、どこへ向かうと構わない。
そうしてしばらく歩いて目に入ったのが、周りに気を配らず勝手に一人ごちている女だった。
この程度の存在なら放っといても構わないかもしれない。どうせすぐに物言わぬ死体と成り果てるだろう。
しかし不慣れな武器に制限という身体の状況を鑑みれば、支給品である武器を充実させたほうがいい。
彼女が持つバッグには自分の愛刀が入っているかもしれないし、今持っている槍より扱いやすいものが入っているかもしれない。
そういった可能性はセフィロスを動かすには十分だった。
それにあの女はどう見ても非力な存在だ。
今の身体の状態からすれば、それは正に渡りに船だった。
確かにあの女が八神はやてたち同様に魔法を使えるという可能性もある。
だが、あの様子はどうだろう。ろくな戦闘経験を積んでいるとは思えない。
そんな奴が例え魔法を行使しところで問題はない。
セフィロスは悠然と女に向かって歩いていった。
槍を女に向けた瞬間、女の声が聞こえた。
どこか懐かしく、そして聞き覚えのある声だった。
暗がりの中、目を細め、怯える女の顔を見つめる。
その顔も同様に見覚えがあるものだった。
あの雪の日に見た彼女の顔、自分に居場所を与えてくれた女性。
セフィロスは八神はやての顔を思い出していた。
そしてそれと共にセフィロスの手からは自然と力が抜けていった。
「こ、殺さへんの?」
無様に地面を這いつくばっているはやては声を震わせながらも何とか言葉を口にした。
セフィロスはそれに答えず、質問で返した。
「お前の名は何という?」
「八神……はやて、いいます」
セフィロスの記憶にある八神はやてと比べて随分と幼いし、甘さを感じさせる部分が多々にあった。
それにより完全には同一人物とは言い切れない。
もしかしたら彼女を模した何者かもしれない。
だが不思議とセフィロスには彼女を切る気になれなかった。
「そうか」
セフィロスはそう答えると同時に槍をしまい、踵を返した。
それを見て呆然とするはやてだったが、急いで立ち上がり、叫んだ。
「待って!待ってぇな!」
セフィロスの足は止まった。
「あなたは殺し合いに乗ってへんの?それやったら一緒に……」
だが、彼は振り向かず、口も開かなかった。
その沈黙を否定ととった八神はやては急いで言葉を足した。
「ああと、こないな女の子と一緒じゃ不安ですか?足手まといにとかって思ってはります?
そないなことはないですよ。こないな事言うと頭のおかしい子やって思われるかもしれませんけど、
私、実は魔法が使えるんです。戦力的にバッチリです。それにですね、なのはちゃんやフェイトちゃん。
他にもシグナムやヴィータっていう私の守護騎士たちもいます。
みんなこないな殺し合いには乗らんいい人たちやし、
その人たちに出会えれば、こんな殺し合い、すぐさまおさらばやと思います。
それに元の世界に帰るゆうのも時空管理局が責任をもって行います。
せやから殺しあう必要なんてあらへんし、安心しておうち帰れます。
ああと、時空管理局ゆうのは次元の海に存在する幾つもの世界を管理する機関で、
今回のように多次元世界に影響を及ぼす犯罪者を取り締まる警察みたいなとこです」
八神はやては内に沸き起こる不安を取り除くように声を矢継ぎ早に並べ立てた。
自分でも随分と性急やなぁと確認できるほど早口で、そのみっともないともいえる自らの有様を心の中で自嘲した。
これでは何だか命乞いをしているようだし、嘘っぽくも感じてしまう。
それに何よりも相手がちゃんと聞き取れたかどうかが怪しいところだ。
そしてその不安を裏付けるかのように銀髪の男は沈黙を続けていた。
どれほどの時を待っただろうか。
やがてはやてが相手の反応に諦めを感じた頃、男は顔を僅かに振り向かせ、口を開いた。
「私がこの殺し合いに乗っていると言ったら、お前はどうする?」
彼は何を目的としてそんな事を問うてきたのだろうか。
はやては簡単にその答えを導くことが出来た。
恐らくはこんな状況での自分の覚悟を試すためだろう。
彼がこの殺し合いに乗っているのは正直、分からないところもある。
だけど、彼は自分を殺さなかった。それは確かなのだ。
それにそんなことをされないでも自分には覚悟がある。
もうあんな思いをしないためにも、どんなことをもする覚悟が。
「止めます。どうやっても止めさせてもらいます。私はもう大切なもんを失いとうない。
そのためなら、この身体どうなっても構わないと思います」
それが自分の贖罪です。
そう心の中で最後の文句を付け足し、口上を止めた。
言葉の内容には自分でも不安はあった。
彼を止める手段などないし、実際に彼がその槍を振りかぶってきたら自分は間違いなくお陀仏だろう。
魔法は使えるが、デバイスがなければ、そこらの女の子に毛が生えた程度でしかない。
彼が魔法を知らなければ、あるいは自分の言葉は脅しにはなると思う。
だけど彼がデバイスらしきもの持っていることからして、それに保証は与えられない。
そんな不安に押し出されるようにはやては言葉を付け足した。
自分が殺し合いに乗ってないことを伝え、彼の持っているかもしれない殺意を削ぎ、そして自分本来の魅力を伝える言葉を。
少しいたずらな笑みを浮かべて。
「それにこないな可愛い女の子を殺したり、見捨てていくゆうのは、男の風上に置けません。そう思いません?」
八神はやてと名乗る女の言葉を聞いていてセフィロスは確信した。
この女は八神はやてなのだ、と。
八神が何故子供であるのかというのは分からない。
パラレルワールドとやらの八神はやてなのか、昔の八神はやてなのか、クローンなのか、その他にも可能性かは色々とあるだろう。
だが、この女が八神であることに間違いはないようだ。
「そうか」
知らず知らずの内に、そんな言葉を呟いていた自分にセフィロスは驚いた。
「そうです」
はやては彼が返事をくれたことに喜びを隠さず笑顔で答えた。
そして一転して真面目な表情。
「せやから、どうかお願いします。私に力を貸してください」
セフィロスの身体の状態は芳しくなかった。制限とやらのせいだろうか。
あの雪の日のようにとまではいえないが、身体に上手く力が入らない。
この調子ではあの新人たちにも遅れをとるかもしれないし、
何より誰がいるともしれないこの殺し合いに勝ち残ることなど到底望めないだろう。
だから、というわけでない。
「分かった。但し、俺がお前と一緒にいるのはこの下らない催しが終わるまでだ。その後は好きにさせてもらう」
「ほんまですか?」
セフィロスは八神はやての側にいることを選んだ。
セフィロスの頭に過ぎったのははやてのとの約束だった。
雪が降り注ぐあの日、八神はやての傍らで、あの場所で再び会おうとした約束。
私が俺でいられる場所で、と。
そこでようやくセフィロスは振り返り、八神はやてを見つめた。
その瞬間、一際強い風が吹いた。
波打ち際に溜まった波の華はその風によって細かく刻まれ、舞い上がり、二人の周りを漂った。
そして長い銀色の髪を風に孕ませる彼を八神はやては見上げた。
どこかリィンフォースを思い出させる銀色の髪に、物言わぬ悲しい瞳。
それと対峙する八神はやては不思議な気持ちに駆られていた。
まるで失った大切な人を取り戻したかのような感覚。
彼がリィンフォースではないことは、もう既に分かっている。
だけど、彼と一緒にいることに不安は感じなかった。
はやては知らず知らずの内に、その顔を喜びに染めていった。
あの日、泣いていた顔と見比べれば随分とマシなものだ。
セフィロスははやての顔を見てそう思った。
はやてとの約束をこんな形で果たすとは思わなかったが、存外悪くないものだ。
無論、母の意志を忘れることはない。
人類は殺すべき存在だ。
だが、しばらくは「私」ではなく「俺」のままでいていいのかもしれない。
夜に浮かぶ白い華はまるであの日の雪のように静かに二人の間に降り注いでいた。
だけど、そこにいつしかの別れを思わせる悲哀などはなかった。
二人はお互いに見つめあい、そのことを確認した。
やがて静寂を破るかのように波の音が聞こえ始めた。
不躾な風によって起こされる波のけたたましい音は、今がどういった場所であるかを知らせてくれていた。
だが、彼の耳に届く波の音はひどく心地よかった。
【1日目 深夜】
【現在地 F‐1】
【八神はやて(A's)@仮面ライダーリリカル龍騎】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3個
【思考】
基本 この殺し合いからの脱出
1.目の前の男の人と情報交換
2.仲間たちと合流
【備考】
※セフィロスが自分を知っていることを知りません
【1日目 深夜】
【現在地 F‐1】
【セフィロス@リリカルなのはStrikerS片翼の天使】
【状態】健康
【装備】ストラーダ
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
基本 元の世界に戻って人類抹殺
1.八神はやてと行動を共にする
2.扱いやすい武器が欲しい
【備考】
※目の前の八神はやてが本物の八神はやてであると認識しました
※機動六課でのことを目の前の八神はやてに自ら話すつもりはありませんが、聞かれれば話します
※身体にかかった制限を把握しました
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