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「メビウスの輪から抜け出せなくて(後編)」(2009/06/08 (月) 02:53:17) の最新版変更点
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*メビウスの輪から抜け出せなくて(後編) ◆gFOqjEuBs6
◆
――力が、入らない。
真っ暗な闇の中で、ミライはそう感じた。
自分はこれまで何をしていた? そうだ、あの可哀想な女の子を救おうとして、やられたんだ。
だけど、それが間違いだったとは思わない。どう考えたって、自分の行動が間違っていたとは思えないのだ。
自分は誰かの為に行動した。誰かを救うために、戦った。
そんな自分に、間違いなどあってたまるものかと。心でそう言い聞かせる。
だが、ひとつ心残りがあるとすれば、あの少女を救えないままにこんなところへ来てしまったこと。
出来る事なら、あの少女を――いや、このゲームで苦しんでいる全ての参加者を救いたかった。
と、そこまで考えたところで、ミライは一つの疑問点に気付いた。
――ここは、どこだ?
そもそも自分は死んだのか? 何故さっきまで街中にいた自分が、こんな場所に居るんだ。
前後左右真っ暗闇の暗闇で、自分は唯眠っているように横たえている感覚。
自分はまさか、夢をみているのか? と、そんな気さえした。
「おいミライ! お前、こんなとこで何してんだ?」
ふと、声が聞こえた。この声には聞き覚えのある、大切な仲間の声だ。
そうだ。この声は、CREW GUYSの仲間の一人―――
――リュウさん!? リュウさんなんですか!?
間違いない。この声は、共に怪獣たちと戦った大切な仲間、アイハラ・リュウの声だ。
自分がウルトラマンだと知っても、変わらず接してくれた、大切な大切な仲間の一人だ。
ミライは久々に会えた喜びから、嬉しそうにリュウに答える。
「ミライ……俺はそんなことは聞いちゃいねぇ。お前は、なんでこんなとこにいるのかって聞いてんだよ!
お前はウルトラマンで、皆を守るんじゃあなかったのかよ! お前の……俺達の心の炎はそんなもんだったのかよ!」
その言葉に、ミライはただただ驚きを隠せなかった。
相変わらずのガラの悪い喋り方に、何処か安心してしまう自分にも驚いているのだが。
しかし、リュウの熱い心は、ミライにも伝わってくる。自分はまだ、やり残したことがある。
そうだ。ミライには、救いたい人間がいる。護りたい仲間がいる。
それをやり残して、何がウルトラマンだ。何が光の戦士だ。
次に聞こえてきた声は、まだつい先ほどまで聞いていた覚えのある声だった。
「ミライ……君はまだ戦える筈だ。こんなところで終わりじゃない。そうだろう?」
――クロノ君……君も、いるんだね?
この声は、クロノだ。
自分と、ヴィータを守るために、勇敢に戦った少年、クロノ。
自分の命を賭してまで、誰かを護ろうとするその姿が、ミライの記憶にはまだ新しい。
クロノの勇姿は、今も強くミライの心に焼き付いている。
それはまさに、かつて家族を救うため、己が命を投げ出した青年――バン・ヒロトのように。
彼も、クロノもまた、自分を投げ出して戦い、そして散って行った。
否――それは少し、違う。クロノはただ散って行った訳では無い。
あの勇敢な魂は、死んでしまった訳ではないのだ。今もこうして、自分の中で輝き続けている。
そうだ。クロノは今も、ミライの胸の中で生き続けている。こうして、ミライを突き動かす原動力になっているのだ。
それを思い出した時、再び力が沸いてくるような気さえした。
心に、そして拳に。やがてミライの身体に、力がみなぎる。
――そうだ……僕は、ウルトラマン……ウルトラマン、メビウスだ!
――最後の最後まで、絶対に諦めない!
ミライが決意した、その刹那――ミライの周囲に、再び光が戻った。
頬に当たるのは、冷たいアスファルト。腹部への痛みと、全身へのダメージが、現実に戻って来た事を痛感させる。
これまでの記憶もはっきりと残っている。自分はあの緑の戦士との戦いで、ここで一度気絶してしまったのだ。
しかし、このまま大人しく眠っている訳には行かない。
「――助けて……!」
声が聞こえた。助けを求める、誰かの声だ。
今にも消えてしまいそうな、か弱いその声の主は、さっきの女の子なのだろうと判断するのに時間は掛らなかった。
すっくと立ち上がり、緑の怪獣に襲われている女の子――ベルデを視界に捉える。
同時に、何となく状況を理解した。きっとあの少女は、あの緑の怪獣に怯えていたのだろう。
ならば、ミライの――いや、ウルトラマンメビウスのする事はただ一つだ。
助けを求める声に突き動かされるように立ち上がったミライは、勢いよく左腕を翳した。
左腕のメビウスブレスは、ミライの意志に呼応するかのように、光を放出する。
――助けるんだ、絶対に……あの女の子は、僕が助けてみせる!
頭上から大きく右手を回し、左腕に装着されたブレスに当てる。
そのまま右手を下方向へと一気に下ろす事で、輝きを放つメビウスブレスに、熱い勇気の炎が灯る。
そして眩い光を放つメビウスブレスを、一気に天へと掲げ―――ミライは高らかに、その名を宣言した。
「―――メビゥゥゥゥゥスッ!!!」
刹那、∞の光を輝かせ、ミライの身体が変わっていく。
それは、街を、人を、皆の命を守る正義のヒーローの姿。
炎のような赤を基調に、光を反射し煌めく銀の身体。
胸元に輝く青い光は、ウルトラマンの命の証――カラータイマー。
どんな状況でも、絶対に諦めはしない。どんなに闇が広がろうと、希望という名の光で闇を切り裂く。
そして、そんな人々の希望や、信じる心を力に変えて、悪と戦う。
それが光の国の戦士であるウルトラマン―――ウルトラマンメビウスの使命だ。
◆
ベルデがバイオグリーザに食われようとした刹那。バイオグリーザを中心とし、周囲は眩い光に包まれた。
それは光が止むとほぼ同刻。一瞬目を眩ましたバイオグリーザの舌を、激痛が襲う。
周囲が光に包まれたほんの一瞬の間に、バイオグリーザの舌から先が無くなっていたのだ。
何が起こったのかと混乱するバイオグリーザの前方で。
赤いウルトラマン――メビウスが、ベルデを抱えてしゃがみ込んでいた。
あいつか、と。ろくな知能を持たないバイオグリーザは、ただ目の前に現れた敵に激しい怒りの感情を向ける。
自分の舌を切断した、憎き敵。それがバイオグリーザの、メビウスに対する認識だった。
対するメビウスは、ベルデを寝かせるようにアスファルトに横たえると、すぐに立ち上がり、バイオグリーザへと視線を向ける。
しかし―――
(いない!?)
バイオグリーザが、何処にも居ないのだ。
カメレオンに似た外観通り、不可視となる能力まで持っていたらしい。
何処にいるかも解らない敵相手に、メビウスはいつも通りの戦闘スタイルで構えを取る。
構えたまま前後左右を確認する。だが、バイオグリーザはどの方向にも存在していなかった。
そう。バイオグリーザは、不可視となって上空に跳躍、真上からメビウスを狙っていたのだ。
「ジュアァッ!?」
突然の奇襲。上空から舞い降りたバイオグリーザの打撃攻撃を、メビウスは背中で受ける。
背後へのダメージに、メビウスは慌てて振り向くが、やはりそこには何も居ない。
そんな行動からも、どうやら、バイオグリーザは最早かがみには興味がないらしい。
それよりも己が舌を奪ったメビウスを倒す事に執着しているらしく、黙って見ているしか出来ないベルデは既に放置している。
メビウスを倒し次第、このゲームのルールに乗っ取ってかがみを襲うつもりなのだろう。
だが、メビウスはそれをさせるつもりはない。
ここであの怪獣――バイオグリーザを倒し、その呪縛からあの少女を解き放つ。
その為に、まずはこの敵の不可視能力をなんとかしなければならないのだが―――。
かつて初代ウルトラマンが、バルタン星人との戦いで使用したという透視能力。
それならばバイオグリーザの居場所を見破る事が出来るかも知れない。
その考えに至ったメビウスは、その銀色の目で敵の居場所を見破るべく、精神を集中させる。
だが、そんな隙をバイオグリーザが与えてくれる筈もなかった。意識を集中させようとした次の瞬間には、バイオグリーザの打撃がヒットしていた。
この制限された空間の中でそんな超感覚を使用するには、どうやら相当に意識を集中させなければならないらしい。
そのチャンスを掴み、バイオグリーザを倒すためにも、メビウスは五感を尖らせる。
さて、メビウスがバイオグリーザの攻撃を受けている一方で、密かに思考を巡らす人物が一人――否、二人。
『さぁて、どうする? 宿主サマ。あの赤い奴、いまなら倒せるかもしれないぜぇ?』
「え……で、でもこのまま逃げた方がいいんじゃ……」
『よく状況を見てみな。あのモンスターは今はあの赤い奴で頭がいっぱいだ。
今奴を倒せば、間違いなくあのモンスターは赤いのを食ってくれるだろうよ』
バクラの言葉に、かがみはベルデの仮面の下でなるほど、と頷いた。
確かに、今なら問題なくバイオグリーザに餌を与えることが出来るだろう。
そうすれば、参加者を一人減らし、更にベルデの力を断続して使用することもできる。
だが、それには問題が一つ。
「でももう、武器と言える武器は残ってないのに、どうやって“メビウス”と戦うのよ?」
『それなら、俺様に任せな……いい方法があるぜぇ』
バクラがにぃ、と微笑んだ。いや、微笑みというにはあまりに禍々しい笑いか。
それを見たかがみは、わかったわと一言。メビウスに関しては、バクラに任せることにした。
一瞬の出来事で、ベルデの身体を支配する精神が、かがみからバクラへと入れ替わる。
やがて体の支配権が変わったベルデが引き抜いたのは、一枚のカード。
ベルデが持つカードの内の一枚―――「COPY VENT」と書かれたカードだった。
◆
バイオグリーザの位置を把握しようと集中するメビウス。
そんなメビウスに、バイオグリーザと共に迫るもう一つの影。
それは音もなく忍び寄り、メビウスに向けて光弾を放った。
「デュアァッ!?」
突然の奇襲に、叫び声を上げるメビウス。
何が起こったのかと周囲を見渡すメビウスの目に映ったのは、信じられない光景だった。
それは、そこに居る筈の無い存在。あり得る筈のない光景。
メビウスの目の前で右腕を突き出していたのは―――
(そんな……! 僕が、もう一人!?)
そう。そこにいるのは、銀と赤の身体を持ったウルトラマン――ウルトラマンメビウス。
姿形に些かの違いも見受けられない、自分とまったく同じ姿のウルトラマンメビウスだ。
メビウスは思考する。以前にもウルトラマンに変装する宇宙人が居たが、それは全て倒した筈だ。
かつて自分に化けて街を破壊したザラブ星人も。
かつてツルギに化けて皆を騙そうとしたババルウ星人も。
勿論、そんな宇宙人が他に居ないという保証はどこにも無いが、少なくともこの空間には居ないだろう。そう思っていたのだ。
しかし、事実は違った。この会場には、モンスターを操る戦士どころか、他人の姿に化けることまで出来る者がいる。
やがてもう一人のメビウスは、一気にメビウスとの距離を詰めると、一瞬の驚愕に油断したメビウスの首をがっしりと掴んだ。
ぎりぎりと締め上げるその力は、まさにウルトラマンにも匹敵する程――否、ウルトラマンそのものと言える程の、怪力。
「お前は一体、何者だ! 正体を現せ!」
「ヒャハハハハハ! 何だっていいだろぉそんなもん、知ったって何にもなんねぇよ!」
ふざけるな、と。そう大声で言いたかったが、ニセメビウスの怪力に言葉は遮られた。
そのままの力で、メビウスの身体はすぐ近くのビルへと投げつけられた。
ビルの壁には人型のクレーターが残り、そこからメビウスが力無く崩れ落ちる。
しかし、追撃はそれだけでは終わらない。崩れ落ちる直前に、姿を現したバイオグリーザが、メビウスに掴みかかって来たのだ。
バイオグリーザはその怪力でメビウスを再び立ち上がらせると、今度はクレーターが出来たばかりのビルに、メビウスの身体を叩きつけた。
「デュァ……ッ!」
「オイオイ、そんなもんかよ……あんまりがっかりさせんなよ、メビウスさんよぉ?」
「何故……お前が僕の名を……――」
「さ~ぁ、何でだろうなぁ?」
嫌な笑い方で、ニセメビウスがそう告げた。
同時に、メビウスの胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。
どうやらウルトラマンは、この空間においても3分間しか戦えないらしい。
その3分間の戦闘と、必要以上に受けてしまったダメージから、ウルトラマンの命の危険を表す器官――カラータイマーが作動したのだ。
これ以上の戦いは出来る事なら避けたい。が、バイオグリーザはそんなメビウスの事情に付き合ってくれる程優しい筈もなく。
バイオグリーザは、今にも壁に押さえつけたメビウスに食らいつこうと、大口を開いていた。
このままでは、やられる。そう、このままでは―――
(今しか……ない!)
チャンスは今しかない。
刹那―――メビウスの前蹴りが、バイオグリーザに直撃。
予想外の反撃に戸惑いながらも、バイオグリーザはメビウスから数歩後ろに後退。
今だとばかりに、メビウスはメビウスブレスのクリスタルサークルに触れ―――そこから、光輝く黄金の剣を顕在させた。
その名はメビュームブレード――ウルトラマンヒカリと同じ、メビウスに与えられた光の剣だ。
それを大きく振りかぶり―――駆け出した。
「――ハァッ!」
全ては一瞬。恐らくはバクラも何が起こったか理解出来なかったのではないだろうか。
メビウスが突然バイオグリーザを蹴り飛ばし、走りだしたと思ったら、既にバイオグリーザの背後に立っていたのだ。
それっきり動きを止めたバイオグリーザに見られる、先ほどまでとの目立った異変はただ一つ。
今まさに振り抜いたとばかりに剣を構えるメビウスの背後、バイオグリーザの肩から腰に掛けて、一本の線が入っていた。
黄金に輝く線からはやがて、“∞”の形に輝く光が溢れ出し―――そして、バイオグリーザの身体が、ズレた。
刹那、爆発。メビウスの背後にいた筈のバイオグリーザが、跡形もなく爆散したのだ。
爆発の轟音が鳴り止み、全てが静止したかにも思えるこの世界で、聞こえる音はただ一つ。
ピコン、ピコンと鳴り響く、カラータイマーの音声のみ。
「もう、終わりだ!」
「あぁ? 何腑抜けたこと言ってやがんだ! まだゲームは終わってねぇだろぉ!?」
ぜえぜえと息を切らしながら告げるメビウスに、ニセメビウスが大笑いする。
しかし、その笑いは長くは続かない。
ニセメビウスの姿を形造っていた虚像が、まるでガラスが割れるかのように消滅したからだ。
結果、そこに残ったのは、黒い仮面ライダー――ベルデ・ブランク体。
ベルデは何が起こったのかとばかりに、自分の身体を眺めていた。
メビウスは振り向き、メビュームブレードを黒く変色したベルデへと突き付け、告げる。
「これ以上戦っても無駄だ! お前に戦う力は残っていない筈だ!」
「チッ……もう時間切れか。だがよぉ、戦う力が残ってないのはテメェも同じなんじゃねぇのかぁ!?」
メビウスは、ゆっくりとピコンピコンと点滅を続けるカラータイマーに視線を向ける。
このカラータイマーの点滅は、誰がどう見たって時間切れか何かを現しているのだろうということは一目瞭然。
それ故に、確かにこのまま戦い続けるのは得策では無い。だが、目の前の悪を野放しにする訳にも行かないのだ。
だから、今出来る事をする。その一心で、メビウスは、メビュームブレードを構え、再び駆け出した。
結果は先程と同じ。ベルデが何らかの行動を起こす前に、メビウスがベルデの背後へと駆け抜けた。
この仮面ライダーを殺すつもりはない。装甲だけを切り裂き、戦いを終わらせる。
それが、メビウスの思惑だった。
「これで本当に、君に戦う力はない筈だ」
言うが早いか、黒いベルデの装甲には、メビュームブレードで切り裂かれた亀裂が入り―――。
変身時とは真逆、重なり合った虚像が剥がれて行くように――消滅した。
ベルデの装甲の中から現れたのは、紫の髪の少女。足元に落ちるのは紋章の消えた緑の箱。
少女――いや、バクラはやれやれとばかりにカードデッキを拾い上げた。
「――ケッ……つまんねぇ野郎だ」
「もう一度聞く……お前は何者だ! 何故その女の子の身体を使っている!」
「バァ~カ、俺様がそんな質問に応えるとでも思ってんのかよ!?」
それだけ言うと、バクラはメビウスに向き直った。
対するメビウスも、変身を解除し、人間としてのヒビノ・ミライの姿に変化する。
ミライの鋭い眼光が、バクラを睨みつける。バクラの目つきを見れば、少女の人格がさっきまでと違う事は一目瞭然だ。
それはもう、天然なミライなら、こんな状況でさえなければ、顔芸でもやっているのですかと聞きたくなってしまうくらいの差。
恐らくは、かつてヤプールがアイハラ・リュウの身体を奪った時と同様に、この少女も身体を利用されているのだろう。
正確にはバクラと少女は協力関係にあるのだが、そんなことは今初めて少女と出会ったミライが知る訳も無い。
「お前は、このゲームに乗っているのか!?」
「あぁん? 当たりまえだろぉ、こんなに面白いゲーム、他にねぇからなぁ!」
悪びれる様子無く、楽しそうにバクラは告げる。
そんなバクラの言葉に、言動に、ミライは言いようの無い怒りを感じた。その感情を隠す事もせず、ミライは強く拳を握り締める。
沸き上がってくるのは、単純な怒りの感情。本当なら楽しく笑っていられた筈の人達を殺し合わせるこんなゲームを、バクラは楽しいと言った。
それがミライには、どうにも許す事が出来ない。平和に暮らせる筈の人々の命を奪う悪を、ミライは絶対に許しはしない。
しかし、ミライが次の言葉を繋ぐ前に、バクラがゆっくりと後方へと後退して行き―――
「けどよぉ、こっちも困ってたんだ。このままじゃモンスターに食われちまいそうだったんでなぁ……
その点に関してだけは、感謝してやるよ。じゃあ、な……メビウスさんよぉ!」
ゆっくりと後退して行った先に待っていたのは、どんな街中にもありふれた路地裏。
バクラはそれだけ言うと、踵を返して、一気に路地裏の奥へと走り抜けていったのだ。
咄嗟に「待て!」と一言。ミライもすぐにバクラの後を追いかける。
だが、入り組んだ路地裏の角を一つ曲がれば、既にバクラの姿は消えていた。
◆
誰も居なくなった路地裏で、ミライはキッと表情を強める。
どうやら、今までの自分が甘かったらしい。基本的に平和主義なミライは、参加者を殺して回るような奴がそこまで沢山いるとは思っていなかったのだ。
あの赤コートを着た男のような悪人が、そんなに沢山居てたまるものかと、そう思っていたのだ。
しかし、現実はそう甘くはない。怪獣のようなモンスターや、それを使う鏡の騎士。
おまけに人の人格まで乗っ取ってしまう悪魔のような参加者が居ることが、この戦いで解った。
「こうしてはいられない……」
このデスゲームは、ミライが思っていたよりももっとハイペースで進んでいるのかもしれない。
そう思った瞬間、ミライは居ても立ってもいられなくなった。
今こうしている間に、誰かの命が無くなってしまうなら、自分は一刻も早く他の参加者と合流しなければならない。
そしてウルトラマンとして、救える命はすべて救う。その決意を胸に、ミライは駆け出した。
今度こそ、クロノのような犠牲を二度と出さないと、胸に誓って。
【1日目 午前】
【現在地 E-2】
【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
【状態】疲労(大)、強い決意 、一時間変身不可(メビウス)
【装備】メビウスブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは
【道具】基本支給品一式、『コンファインベント』@仮面ライダーリリカル龍騎、『おジャマイエロー』&『おジャマブラック』&『おジャマグリーン』@リリカル遊戯王GX
【思考】
基本:仲間と力を合わせて殺し合いを止める。
1.一刻も早く他の参加者と合流して、殺し合いを止める策を考える。
2.助けを求める全ての参加者を助ける。
3.まずは北に向かい、スーパーや商店街と言った人が集まりそうな施設を巡る。
4.なのは、フェイト、ユーノ、キャロと合流したい。
5.ヴィータが心配。
6.メビウスに変身出来なかった理由を確かめたい。
7.アグモンを襲った大男(弁慶)と赤いコートの男(アーカード)を警戒。
8.紫髪の少女(かがみ)を乗っ取った敵(バクラ)や、その他の未知の敵たちを警戒。
9.自分の為に他の人間の命を奪う者達(主にマーダー)に対する怒り。
【備考】
※メビウスブレスは没収不可だったので、その分、ランダム支給品から引かれています。
※制限に気付いてません。
※デジタルワールドについて説明を受けましたが、説明したのがアグモンなので完璧には理解していません。
※参加者は異なる並行世界及び異なる時間軸から連れて来られた可能性がある事に気付きました。
※支給品の中にカードがある事に気付いていません。
海鳴りの音が聞こえる浜辺で、柊かがみは力なくへたり込んだ。
ここまで、ほぼ1エリア分に相当する距離を走り続けて疲れたのだろう。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば、もう大丈夫でしょ」
『あぁ、もうメビウスは追いかけてきてねぇぜ』
かがみの呟きに、いつの間にか交代していたバクラが答えた。
もう後ろを振り向いても、追ってくる影は見えないし、それどころか付近に人影すら見えない。
モンスターに襲われる心配も無くなった安堵からか、かがみの表情からは緊張が一気に抜けていた。
『それにしても宿主サマ、おかしいとは思わねぇか?』
「何がよ?」
『宿主サマは、あのメビウスって奴の事も実は知ってたんじゃねぇか?』
「知らないわよ……あんな変な宇宙人みたいな奴」
かがみの台詞に、バクラは興味なさげにそうかい、と一言。
まぁ、この質問をしてもかがみがこう答える事は解っていた為に、今更驚くことでもないが。
しかしバクラが気になるのは、バクラが見たかがみの記憶の中に、確かにあのメビウスとかいう赤い戦士と似たような姿をした奴らの記憶があった事だ。
おまけに、かがみは自分でも気付いてはいないのだろうが、確かにあの赤い戦士の事を「メビウス」と呼んだのだ。それも、誰よりも最初に。
かがみがバイオグリーザに食われそうになった瞬間に見た光が「メビウスの輪」の形をしていたから、奴の名前は「メビウス」と
決め付けてしまうのは簡単だが、それにしたって初めて見る相手をさも普通にメビウス、なんて呼んだりするのはおかしいだろう。
恐らく先程メビウスの輪も見た際に、「メビウス」という先入観を植え付けられてしまったかがみは、
あの赤い奴をメビウスと呼ぶことに何の躊躇いも疑念も抱かないのだろうが。
しかし、だからこそ可笑しい。その不自然なまでの自然さが、バクラには妙に腑に落ちなかった。
「あれ……何かしら」
ふと、かがみの言葉にバクラの思考は中断する。
かがみの視線の先にあるのは、2つのデイバッグ。きっと何者かが落としたのだろう。
その周囲に落ちているものは、大きな杖にも似た何かと、紫の箱。
刹那、かがみの思考がストップした。
『おい、あのデッキってまさか……』
「で、でも……そんな、Lは……!?」
そう。あの紫の箱は、紛れもなく自分に支給されていた王蛇のカードデッキだ。
エリオを食った忌々しい蛇が契約されている、自分にとってトラウマとも言えるデッキ。
しかし、それを現在持っていたのはLの筈だ。何故Lが居ないのに、デッキだけがこの場所に放置されているのか?
バクラがその答えを導き出すのに、それほどの時間は必要としなかった。
『ハ、ハハ……ヒャハハハハハハァ! なるほど、そういうことか!
やったぜ宿主サマ、Lの野郎……あのデッキのモンスターに食われやがったんだ!』
「あ……そ、そっか……確かに、エリオを食べてからあのデッキは使いっ放し、誰も餌を与えてなかったから……」
そう考えれば全ては納得できる。ここにLが居ない理由も、あのデッキと、デイバッグがここに散らばっている理由も。
そういえば、ここにあるデイバッグも、最初にLと出会ったトレーラーで見たものと同じような気がする。
つまり、Lは愚かにも、モンスターの契約猶予期限をオーバーし、あの蛇と犀に食われたのだ。
たったこれだけの手がかりでは、そう思うのも無理はない。かがみもバクラも、そう信じて疑わなかった。
『そうと決まれば、決まってるよなぁ宿主サマ?』
「えぇ、残りの猶予期限は12時間。時間さえあれば……餌を取ることくらい、私にも出来る。私はもう、迷わない!」
『ヒャハハハハハハハハハ! いい顔になったじゃねぇか宿主サマァ!』
バクラが高らかに笑う中、かがみは紫のデッキへと歩み寄った。
それを拾い上げ、まじまじと見つめる。自分の元へと戻ってきた力を。
これは、元々自分に支給されていた力。これの所為でエリオは死んでしまった。
そういう意味では、嫌な思い出しか残っていない。が、それを使いこなしてこそ、かがみは後戻りが出来ないところまで突っ走る事が出来る。
幸か不幸か―バクラには不幸か―、ベルデのデッキからの制限から解き放たれたはいいが、結局のところかがみはまだ自分の意思で殺人を犯していない。
しかし、この力を手にした事で、かがみが闇へと落ちる新たなお膳立ては整った。
つい先ほどまでとは一転、この事態に、バクラは喜びを隠せなかった。
――さて、ここで一つだけ。二人にはまだ気付いていない事実がある。
バイオグリーザが破壊された時点で、ベルデのカードデッキは未契約の状態――即ちブランク体となった。
それはつまり、「ADVENT」のカードの消失。同時に、「CONTRACT―契約―」と「SEAL―封印―」のカードが現れたということ。
王蛇のような例外を除いて、本来一つのデッキで契約できるモンスターは一体と決まっている。
そんなモンスター達と契約する為に必要なカードが、契約のカード――CONTRACTだ。
そして、モンスターと契約するまでの間、モンスターに襲われなくなるという便利なカードが存在する。
それが封印のカード――SEALだ。これはベルデのデッキの契約が途切れたことにより、再び姿を現したカード。
ベルデのデッキに用意された契約のカードは元々一枚のみ。その契約が途切れ、“未契約”とみなされたことにより、このカードは現れたのだ。
契約すると同時にこのカードは消滅してしまうが、デッキがブランク体である限り、このカードは存在し続ける。
それはどういうことか?
つまりは、このカードを持っている限り、ミラーモンスターは現実世界に存在するカードの持ち主――柊かがみを襲う事は不可能となるのだ。
即ち――柊かがみはこの瞬間、プレシアが定めたカードデッキのルールから、解放されたという事になる。
何のリスクも無しにデッキを使い続けられるというだけでかなりのアドバンテージとなる事はまず間違いないだろう。
強いてリスクを挙げるとすれば、モンスターはカードの所有者に手出しができなくなる反面、
このカードを手放した隙を狙って襲おうと、執拗に所有者をつけ狙う可能性が高くなる事。
と言っても、12時間の猶予時間が経過するまで、それは考えなくてもいいことなのだが。
新たな決意と共に、力を取り戻した柊かがみは、これからももっと多くの参加者を襲うだろう。
そうだ。その先に待つ“元の世界への帰還”を求めて、かがみは殺人を繰り返す。
しかし、本当にそんな事を続けて、この輪の中から抜け出せるのか―――
それは、今はまだ、誰にも解らない事だ。
【現在地 F-1 浜辺】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(中)、肋骨数本骨折 、六時間憑依不可(バクラ)
【装備】ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、
カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎、サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎、スーパーの制服
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品(エリオ1~3)、柊かがみの制服(ボロボロ)、Ex-st@なのは×終わクロ、カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎
【思考】
基本:死にたくない。なにがなんでも生き残りたい。
1.もう誰も信じない。バクラだけは少し信用。
2.参加者を皆殺しにする。
3.万丈目に対する強い憎悪。万丈目を見つけたら絶対に殺す。
4.同じミスは犯さないためにも、12時間という猶予時間の間に、積極的に参加者を餌にして行く。
5.メビウス(ヒビノ・ミライ)を警戒。
【備考】
※デルタギアを装着した事により、電気を放つ能力を得ました。
※地図、デイパッグの中身は一切確認していません。名簿は確認しましたがこなたやつかさであっても信じられる相手とは思っていません。
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし、何かのきっかけで思い出すかもしれません。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※Lは相手を縛りあげて監禁する危険な人物だと認識しています。
※第一放送を聞き逃しました。
※万丈目の知り合いについて聞いてはいますが、どれぐらい頭に入っているかは不明です。
※Lはモンスターに食われて死んだと思っています。
※王蛇のカードデッキには、未契約カードがあと一枚入っています。
※ベルデのカードデッキには、未契約のカードと「封印」のカードが1枚ずつ入っています。
※「封印」のカードを持っている限り、ミラーモンスターはこの所有者を襲う事は出来ません。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
基本:このデスゲームを思いっきり楽しむ。
1.かがみをサポート及び誘導する。
2.万丈目に対して……?(恨んではいない)
3.こなたに興味。
4.可能ならばキャロを探したいが、自分の知るキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。自分の知らないキャロなら……
5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は、万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※千年リングは『キャロとバクラが勝ち逃げを考えているようです』以降からの参戦です
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※並行世界の話を今の所かがみにするつもりはありません。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません。
【CONTRACT(コントラクト)のカード@仮面ライダーリリカル龍騎】
ブランク体のデッキに入っている、未契約のアドベントカード。
このカードでミラーモンスターと契約することが出来る。契約後は消滅する。
【SEAL(封印)のカード@仮面ライダーリリカル龍騎】
ブランク体のデッキに入っているカード。
ミラーモンスターはこのカードを持っている人物を襲う事が出来ない。契約後に消滅する。
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|~|投下順で読む|Next:[[三人の印象]]|
|~|ヒビノ・ミライ|Next:[[Road to Reunion]]|
|~|柊かがみ|Next:[[烈火(Side K)]]|
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*メビウスの輪から抜け出せなくて(後編) ◆gFOqjEuBs6
◆
――力が、入らない。
真っ暗な闇の中で、ミライはそう感じた。
自分はこれまで何をしていた? そうだ、あの可哀想な女の子を救おうとして、やられたんだ。
だけど、それが間違いだったとは思わない。どう考えたって、自分の行動が間違っていたとは思えないのだ。
自分は誰かの為に行動した。誰かを救うために、戦った。
そんな自分に、間違いなどあってたまるものかと。心でそう言い聞かせる。
だが、ひとつ心残りがあるとすれば、あの少女を救えないままにこんなところへ来てしまったこと。
出来る事なら、あの少女を――いや、このゲームで苦しんでいる全ての参加者を救いたかった。
と、そこまで考えたところで、ミライは一つの疑問点に気付いた。
――ここは、どこだ?
そもそも自分は死んだのか? 何故さっきまで街中にいた自分が、こんな場所に居るんだ。
前後左右真っ暗闇の暗闇で、自分は唯眠っているように横たえている感覚。
自分はまさか、夢をみているのか? と、そんな気さえした。
「おいミライ! お前、こんなとこで何してんだ?」
ふと、声が聞こえた。この声には聞き覚えのある、大切な仲間の声だ。
そうだ。この声は、CREW GUYSの仲間の一人―――
――リュウさん!? リュウさんなんですか!?
間違いない。この声は、共に怪獣たちと戦った大切な仲間、アイハラ・リュウの声だ。
自分がウルトラマンだと知っても、変わらず接してくれた、大切な大切な仲間の一人だ。
ミライは久々に会えた喜びから、嬉しそうにリュウに答える。
「ミライ……俺はそんなことは聞いちゃいねぇ。お前は、なんでこんなとこにいるのかって聞いてんだよ!
お前はウルトラマンで、皆を守るんじゃあなかったのかよ! お前の……俺達の心の炎はそんなもんだったのかよ!」
その言葉に、ミライはただただ驚きを隠せなかった。
相変わらずのガラの悪い喋り方に、何処か安心してしまう自分にも驚いているのだが。
しかし、リュウの熱い心は、ミライにも伝わってくる。自分はまだ、やり残したことがある。
そうだ。ミライには、救いたい人間がいる。護りたい仲間がいる。
それをやり残して、何がウルトラマンだ。何が光の戦士だ。
次に聞こえてきた声は、まだつい先ほどまで聞いていた覚えのある声だった。
「ミライ……君はまだ戦える筈だ。こんなところで終わりじゃない。そうだろう?」
――クロノ君……君も、いるんだね?
この声は、クロノだ。
自分と、ヴィータを守るために、勇敢に戦った少年、クロノ。
自分の命を賭してまで、誰かを護ろうとするその姿が、ミライの記憶にはまだ新しい。
クロノの勇姿は、今も強くミライの心に焼き付いている。
それはまさに、かつて家族を救うため、己が命を投げ出した青年――バン・ヒロトのように。
彼も、クロノもまた、自分を投げ出して戦い、そして散って行った。
否――それは少し、違う。クロノはただ散って行った訳では無い。
あの勇敢な魂は、死んでしまった訳ではないのだ。今もこうして、自分の中で輝き続けている。
そうだ。クロノは今も、ミライの胸の中で生き続けている。こうして、ミライを突き動かす原動力になっているのだ。
それを思い出した時、再び力が沸いてくるような気さえした。
心に、そして拳に。やがてミライの身体に、力がみなぎる。
――そうだ……僕は、ウルトラマン……ウルトラマン、メビウスだ!
――最後の最後まで、絶対に諦めない!
ミライが決意した、その刹那――ミライの周囲に、再び光が戻った。
頬に当たるのは、冷たいアスファルト。腹部への痛みと、全身へのダメージが、現実に戻って来た事を痛感させる。
これまでの記憶もはっきりと残っている。自分はあの緑の戦士との戦いで、ここで一度気絶してしまったのだ。
しかし、このまま大人しく眠っている訳には行かない。
「――助けて……!」
声が聞こえた。助けを求める、誰かの声だ。
今にも消えてしまいそうな、か弱いその声の主は、さっきの女の子なのだろうと判断するのに時間は掛らなかった。
すっくと立ち上がり、緑の怪獣に襲われている女の子――ベルデを視界に捉える。
同時に、何となく状況を理解した。きっとあの少女は、あの緑の怪獣に怯えていたのだろう。
ならば、ミライの――いや、ウルトラマンメビウスのする事はただ一つだ。
助けを求める声に突き動かされるように立ち上がったミライは、勢いよく左腕を翳した。
左腕のメビウスブレスは、ミライの意志に呼応するかのように、光を放出する。
――助けるんだ、絶対に……あの女の子は、僕が助けてみせる!
頭上から大きく右手を回し、左腕に装着されたブレスに当てる。
そのまま右手を下方向へと一気に下ろす事で、輝きを放つメビウスブレスに、熱い勇気の炎が灯る。
そして眩い光を放つメビウスブレスを、一気に天へと掲げ―――ミライは高らかに、その名を宣言した。
「―――メビゥゥゥゥゥスッ!!!」
刹那、∞の光を輝かせ、ミライの身体が変わっていく。
それは、街を、人を、皆の命を守る正義のヒーローの姿。
炎のような赤を基調に、光を反射し煌めく銀の身体。
胸元に輝く青い光は、ウルトラマンの命の証――カラータイマー。
どんな状況でも、絶対に諦めはしない。どんなに闇が広がろうと、希望という名の光で闇を切り裂く。
そして、そんな人々の希望や、信じる心を力に変えて、悪と戦う。
それが光の国の戦士であるウルトラマン―――ウルトラマンメビウスの使命だ。
◆
ベルデがバイオグリーザに食われようとした刹那。バイオグリーザを中心とし、周囲は眩い光に包まれた。
それは光が止むとほぼ同刻。一瞬目を眩ましたバイオグリーザの舌を、激痛が襲う。
周囲が光に包まれたほんの一瞬の間に、バイオグリーザの舌から先が無くなっていたのだ。
何が起こったのかと混乱するバイオグリーザの前方で。
赤いウルトラマン――メビウスが、ベルデを抱えてしゃがみ込んでいた。
あいつか、と。ろくな知能を持たないバイオグリーザは、ただ目の前に現れた敵に激しい怒りの感情を向ける。
自分の舌を切断した、憎き敵。それがバイオグリーザの、メビウスに対する認識だった。
対するメビウスは、ベルデを寝かせるようにアスファルトに横たえると、すぐに立ち上がり、バイオグリーザへと視線を向ける。
しかし―――
(いない!?)
バイオグリーザが、何処にも居ないのだ。
カメレオンに似た外観通り、不可視となる能力まで持っていたらしい。
何処にいるかも解らない敵相手に、メビウスはいつも通りの戦闘スタイルで構えを取る。
構えたまま前後左右を確認する。だが、バイオグリーザはどの方向にも存在していなかった。
そう。バイオグリーザは、不可視となって上空に跳躍、真上からメビウスを狙っていたのだ。
「ジュアァッ!?」
突然の奇襲。上空から舞い降りたバイオグリーザの打撃攻撃を、メビウスは背中で受ける。
背後へのダメージに、メビウスは慌てて振り向くが、やはりそこには何も居ない。
そんな行動からも、どうやら、バイオグリーザは最早かがみには興味がないらしい。
それよりも己が舌を奪ったメビウスを倒す事に執着しているらしく、黙って見ているしか出来ないベルデは既に放置している。
メビウスを倒し次第、このゲームのルールに乗っ取ってかがみを襲うつもりなのだろう。
だが、メビウスはそれをさせるつもりはない。
ここであの怪獣――バイオグリーザを倒し、その呪縛からあの少女を解き放つ。
その為に、まずはこの敵の不可視能力をなんとかしなければならないのだが―――。
かつて初代ウルトラマンが、バルタン星人との戦いで使用したという透視能力。
それならばバイオグリーザの居場所を見破る事が出来るかも知れない。
その考えに至ったメビウスは、その銀色の目で敵の居場所を見破るべく、精神を集中させる。
だが、そんな隙をバイオグリーザが与えてくれる筈もなかった。意識を集中させようとした次の瞬間には、バイオグリーザの打撃がヒットしていた。
この制限された空間の中でそんな超感覚を使用するには、どうやら相当に意識を集中させなければならないらしい。
そのチャンスを掴み、バイオグリーザを倒すためにも、メビウスは五感を尖らせる。
さて、メビウスがバイオグリーザの攻撃を受けている一方で、密かに思考を巡らす人物が一人――否、二人。
『さぁて、どうする? 宿主サマ。あの赤い奴、いまなら倒せるかもしれないぜぇ?』
「え……で、でもこのまま逃げた方がいいんじゃ……」
『よく状況を見てみな。あのモンスターは今はあの赤い奴で頭がいっぱいだ。
今奴を倒せば、間違いなくあのモンスターは赤いのを食ってくれるだろうよ』
バクラの言葉に、かがみはベルデの仮面の下でなるほど、と頷いた。
確かに、今なら問題なくバイオグリーザに餌を与えることが出来るだろう。
そうすれば、参加者を一人減らし、更にベルデの力を断続して使用することもできる。
だが、それには問題が一つ。
「でももう、武器と言える武器は残ってないのに、どうやって“メビウス”と戦うのよ?」
『それなら、俺様に任せな……いい方法があるぜぇ』
バクラがにぃ、と微笑んだ。いや、微笑みというにはあまりに禍々しい笑いか。
それを見たかがみは、わかったわと一言。メビウスに関しては、バクラに任せることにした。
一瞬の出来事で、ベルデの身体を支配する精神が、かがみからバクラへと入れ替わる。
やがて体の支配権が変わったベルデが引き抜いたのは、一枚のカード。
ベルデが持つカードの内の一枚―――「COPY VENT」と書かれたカードだった。
◆
バイオグリーザの位置を把握しようと集中するメビウス。
そんなメビウスに、バイオグリーザと共に迫るもう一つの影。
それは音もなく忍び寄り、メビウスに向けて光弾を放った。
「デュアァッ!?」
突然の奇襲に、叫び声を上げるメビウス。
何が起こったのかと周囲を見渡すメビウスの目に映ったのは、信じられない光景だった。
それは、そこに居る筈の無い存在。あり得る筈のない光景。
メビウスの目の前で右腕を突き出していたのは―――
(そんな……! 僕が、もう一人!?)
そう。そこにいるのは、銀と赤の身体を持ったウルトラマン――ウルトラマンメビウス。
姿形に些かの違いも見受けられない、自分とまったく同じ姿のウルトラマンメビウスだ。
メビウスは思考する。以前にもウルトラマンに変装する宇宙人が居たが、それは全て倒した筈だ。
かつて自分に化けて街を破壊したザラブ星人も。
かつてツルギに化けて皆を騙そうとしたババルウ星人も。
勿論、そんな宇宙人が他に居ないという保証はどこにも無いが、少なくともこの空間には居ないだろう。そう思っていたのだ。
しかし、事実は違った。この会場には、モンスターを操る戦士どころか、他人の姿に化けることまで出来る者がいる。
やがてもう一人のメビウスは、一気にメビウスとの距離を詰めると、一瞬の驚愕に油断したメビウスの首をがっしりと掴んだ。
ぎりぎりと締め上げるその力は、まさにウルトラマンにも匹敵する程――否、ウルトラマンそのものと言える程の、怪力。
「お前は一体、何者だ! 正体を現せ!」
「ヒャハハハハハ! 何だっていいだろぉそんなもん、知ったって何にもなんねぇよ!」
ふざけるな、と。そう大声で言いたかったが、ニセメビウスの怪力に言葉は遮られた。
そのままの力で、メビウスの身体はすぐ近くのビルへと投げつけられた。
ビルの壁には人型のクレーターが残り、そこからメビウスが力無く崩れ落ちる。
しかし、追撃はそれだけでは終わらない。崩れ落ちる直前に、姿を現したバイオグリーザが、メビウスに掴みかかって来たのだ。
バイオグリーザはその怪力でメビウスを再び立ち上がらせると、今度はクレーターが出来たばかりのビルに、メビウスの身体を叩きつけた。
「デュァ……ッ!」
「オイオイ、そんなもんかよ……あんまりがっかりさせんなよ、メビウスさんよぉ?」
「何故……お前が僕の名を……――」
「さ~ぁ、何でだろうなぁ?」
嫌な笑い方で、ニセメビウスがそう告げた。
同時に、メビウスの胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。
どうやらウルトラマンは、この空間においても3分間しか戦えないらしい。
その3分間の戦闘と、必要以上に受けてしまったダメージから、ウルトラマンの命の危険を表す器官――カラータイマーが作動したのだ。
これ以上の戦いは出来る事なら避けたい。が、バイオグリーザはそんなメビウスの事情に付き合ってくれる程優しい筈もなく。
バイオグリーザは、今にも壁に押さえつけたメビウスに食らいつこうと、大口を開いていた。
このままでは、やられる。そう、このままでは―――
(今しか……ない!)
チャンスは今しかない。
刹那―――メビウスの前蹴りが、バイオグリーザに直撃。
予想外の反撃に戸惑いながらも、バイオグリーザはメビウスから数歩後ろに後退。
今だとばかりに、メビウスはメビウスブレスのクリスタルサークルに触れ―――そこから、光輝く黄金の剣を顕在させた。
その名はメビュームブレード――ウルトラマンヒカリと同じ、メビウスに与えられた光の剣だ。
それを大きく振りかぶり―――駆け出した。
「――ハァッ!」
全ては一瞬。恐らくはバクラも何が起こったか理解出来なかったのではないだろうか。
メビウスが突然バイオグリーザを蹴り飛ばし、走りだしたと思ったら、既にバイオグリーザの背後に立っていたのだ。
それっきり動きを止めたバイオグリーザに見られる、先ほどまでとの目立った異変はただ一つ。
今まさに振り抜いたとばかりに剣を構えるメビウスの背後、バイオグリーザの肩から腰に掛けて、一本の線が入っていた。
黄金に輝く線からはやがて、“∞”の形に輝く光が溢れ出し―――そして、バイオグリーザの身体が、ズレた。
刹那、爆発。メビウスの背後にいた筈のバイオグリーザが、跡形もなく爆散したのだ。
爆発の轟音が鳴り止み、全てが静止したかにも思えるこの世界で、聞こえる音はただ一つ。
ピコン、ピコンと鳴り響く、カラータイマーの音声のみ。
「もう、終わりだ!」
「あぁ? 何腑抜けたこと言ってやがんだ! まだゲームは終わってねぇだろぉ!?」
ぜえぜえと息を切らしながら告げるメビウスに、ニセメビウスが大笑いする。
しかし、その笑いは長くは続かない。
ニセメビウスの姿を形造っていた虚像が、まるでガラスが割れるかのように消滅したからだ。
結果、そこに残ったのは、黒い仮面ライダー――ベルデ・ブランク体。
ベルデは何が起こったのかとばかりに、自分の身体を眺めていた。
メビウスは振り向き、メビュームブレードを黒く変色したベルデへと突き付け、告げる。
「これ以上戦っても無駄だ! お前に戦う力は残っていない筈だ!」
「チッ……もう時間切れか。だがよぉ、戦う力が残ってないのはテメェも同じなんじゃねぇのかぁ!?」
メビウスは、ゆっくりとピコンピコンと点滅を続けるカラータイマーに視線を向ける。
このカラータイマーの点滅は、誰がどう見たって時間切れか何かを現しているのだろうということは一目瞭然。
それ故に、確かにこのまま戦い続けるのは得策では無い。だが、目の前の悪を野放しにする訳にも行かないのだ。
だから、今出来る事をする。その一心で、メビウスは、メビュームブレードを構え、再び駆け出した。
結果は先程と同じ。ベルデが何らかの行動を起こす前に、メビウスがベルデの背後へと駆け抜けた。
この仮面ライダーを殺すつもりはない。装甲だけを切り裂き、戦いを終わらせる。
それが、メビウスの思惑だった。
「これで本当に、君に戦う力はない筈だ」
言うが早いか、黒いベルデの装甲には、メビュームブレードで切り裂かれた亀裂が入り―――。
変身時とは真逆、重なり合った虚像が剥がれて行くように――消滅した。
ベルデの装甲の中から現れたのは、紫の髪の少女。足元に落ちるのは紋章の消えた緑の箱。
少女――いや、バクラはやれやれとばかりにカードデッキを拾い上げた。
「――ケッ……つまんねぇ野郎だ」
「もう一度聞く……お前は何者だ! 何故その女の子の身体を使っている!」
「バァ~カ、俺様がそんな質問に応えるとでも思ってんのかよ!?」
それだけ言うと、バクラはメビウスに向き直った。
対するメビウスも、変身を解除し、人間としてのヒビノ・ミライの姿に変化する。
ミライの鋭い眼光が、バクラを睨みつける。バクラの目つきを見れば、少女の人格がさっきまでと違う事は一目瞭然だ。
それはもう、天然なミライなら、こんな状況でさえなければ、顔芸でもやっているのですかと聞きたくなってしまうくらいの差。
恐らくは、かつてヤプールがアイハラ・リュウの身体を奪った時と同様に、この少女も身体を利用されているのだろう。
正確にはバクラと少女は協力関係にあるのだが、そんなことは今初めて少女と出会ったミライが知る訳も無い。
「お前は、このゲームに乗っているのか!?」
「あぁん? 当たりまえだろぉ、こんなに面白いゲーム、他にねぇからなぁ!」
悪びれる様子無く、楽しそうにバクラは告げる。
そんなバクラの言葉に、言動に、ミライは言いようの無い怒りを感じた。その感情を隠す事もせず、ミライは強く拳を握り締める。
沸き上がってくるのは、単純な怒りの感情。本当なら楽しく笑っていられた筈の人達を殺し合わせるこんなゲームを、バクラは楽しいと言った。
それがミライには、どうにも許す事が出来ない。平和に暮らせる筈の人々の命を奪う悪を、ミライは絶対に許しはしない。
しかし、ミライが次の言葉を繋ぐ前に、バクラがゆっくりと後方へと後退して行き―――
「けどよぉ、こっちも困ってたんだ。このままじゃモンスターに食われちまいそうだったんでなぁ……
その点に関してだけは、感謝してやるよ。じゃあ、な……メビウスさんよぉ!」
ゆっくりと後退して行った先に待っていたのは、どんな街中にもありふれた路地裏。
バクラはそれだけ言うと、踵を返して、一気に路地裏の奥へと走り抜けていったのだ。
咄嗟に「待て!」と一言。ミライもすぐにバクラの後を追いかける。
だが、入り組んだ路地裏の角を一つ曲がれば、既にバクラの姿は消えていた。
◆
誰も居なくなった路地裏で、ミライはキッと表情を強める。
どうやら、今までの自分が甘かったらしい。基本的に平和主義なミライは、参加者を殺して回るような奴がそこまで沢山いるとは思っていなかったのだ。
あの赤コートを着た男のような悪人が、そんなに沢山居てたまるものかと、そう思っていたのだ。
しかし、現実はそう甘くはない。怪獣のようなモンスターや、それを使う鏡の騎士。
おまけに人の人格まで乗っ取ってしまう悪魔のような参加者が居ることが、この戦いで解った。
「こうしてはいられない……」
このデスゲームは、ミライが思っていたよりももっとハイペースで進んでいるのかもしれない。
そう思った瞬間、ミライは居ても立ってもいられなくなった。
今こうしている間に、誰かの命が無くなってしまうなら、自分は一刻も早く他の参加者と合流しなければならない。
そしてウルトラマンとして、救える命はすべて救う。その決意を胸に、ミライは駆け出した。
今度こそ、クロノのような犠牲を二度と出さないと、胸に誓って。
【1日目 午前】
【現在地 E-2】
【ヒビノ・ミライ@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】
【状態】疲労(大)、強い決意 、一時間変身不可(メビウス)
【装備】メビウスブレス@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは
【道具】基本支給品一式、『コンファインベント』@仮面ライダーリリカル龍騎、『おジャマイエロー』&『おジャマブラック』&『おジャマグリーン』@リリカル遊戯王GX
【思考】
基本:仲間と力を合わせて殺し合いを止める。
1.一刻も早く他の参加者と合流して、殺し合いを止める策を考える。
2.助けを求める全ての参加者を助ける。
3.まずは北に向かい、スーパーや商店街と言った人が集まりそうな施設を巡る。
4.なのは、フェイト、ユーノ、キャロと合流したい。
5.ヴィータが心配。
6.メビウスに変身出来なかった理由を確かめたい。
7.アグモンを襲った大男(弁慶)と赤いコートの男(アーカード)を警戒。
8.紫髪の少女(かがみ)を乗っ取った敵(バクラ)や、その他の未知の敵たちを警戒。
9.自分の為に他の人間の命を奪う者達(主にマーダー)に対する怒り。
【備考】
※メビウスブレスは没収不可だったので、その分、ランダム支給品から引かれています。
※制限に気付いてません。
※デジタルワールドについて説明を受けましたが、説明したのがアグモンなので完璧には理解していません。
※参加者は異なる並行世界及び異なる時間軸から連れて来られた可能性がある事に気付きました。
※支給品の中にカードがある事に気付いていません。
海鳴りの音が聞こえる浜辺で、柊かがみは力なくへたり込んだ。
ここまで、ほぼ1エリア分に相当する距離を走り続けて疲れたのだろう。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば、もう大丈夫でしょ」
『あぁ、もうメビウスは追いかけてきてねぇぜ』
かがみの呟きに、いつの間にか交代していたバクラが答えた。
もう後ろを振り向いても、追ってくる影は見えないし、それどころか付近に人影すら見えない。
モンスターに襲われる心配も無くなった安堵からか、かがみの表情からは緊張が一気に抜けていた。
『それにしても宿主サマ、おかしいとは思わねぇか?』
「何がよ?」
『宿主サマは、あのメビウスって奴の事も実は知ってたんじゃねぇか?』
「知らないわよ……あんな変な宇宙人みたいな奴」
かがみの台詞に、バクラは興味なさげにそうかい、と一言。
まぁ、この質問をしてもかがみがこう答える事は解っていた為に、今更驚くことでもないが。
しかしバクラが気になるのは、バクラが見たかがみの記憶の中に、確かにあのメビウスとかいう赤い戦士と似たような姿をした奴らの記憶があった事だ。
おまけに、かがみは自分でも気付いてはいないのだろうが、確かにあの赤い戦士の事を「メビウス」と呼んだのだ。それも、誰よりも最初に。
かがみがバイオグリーザに食われそうになった瞬間に見た光が「メビウスの輪」の形をしていたから、奴の名前は「メビウス」と
決め付けてしまうのは簡単だが、それにしたって初めて見る相手をさも普通にメビウス、なんて呼んだりするのはおかしいだろう。
恐らく先程メビウスの輪も見た際に、「メビウス」という先入観を植え付けられてしまったかがみは、
あの赤い奴をメビウスと呼ぶことに何の躊躇いも疑念も抱かないのだろうが。
しかし、だからこそ可笑しい。その不自然なまでの自然さが、バクラには妙に腑に落ちなかった。
「あれ……何かしら」
ふと、かがみの言葉にバクラの思考は中断する。
かがみの視線の先にあるのは、2つのデイバッグ。きっと何者かが落としたのだろう。
その周囲に落ちているものは、大きな杖にも似た何かと、紫の箱。
刹那、かがみの思考がストップした。
『おい、あのデッキってまさか……』
「で、でも……そんな、Lは……!?」
そう。あの紫の箱は、紛れもなく自分に支給されていた王蛇のカードデッキだ。
エリオを食った忌々しい蛇が契約されている、自分にとってトラウマとも言えるデッキ。
しかし、それを現在持っていたのはLの筈だ。何故Lが居ないのに、デッキだけがこの場所に放置されているのか?
バクラがその答えを導き出すのに、それほどの時間は必要としなかった。
『ハ、ハハ……ヒャハハハハハハァ! なるほど、そういうことか!
やったぜ宿主サマ、Lの野郎……あのデッキのモンスターに食われやがったんだ!』
「あ……そ、そっか……確かに、エリオを食べてからあのデッキは使いっ放し、誰も餌を与えてなかったから……」
そう考えれば全ては納得できる。ここにLが居ない理由も、あのデッキと、デイバッグがここに散らばっている理由も。
そういえば、ここにあるデイバッグも、最初にLと出会ったトレーラーで見たものと同じような気がする。
つまり、Lは愚かにも、モンスターの契約猶予期限をオーバーし、あの蛇と犀に食われたのだ。
たったこれだけの手がかりでは、そう思うのも無理はない。かがみもバクラも、そう信じて疑わなかった。
『そうと決まれば、決まってるよなぁ宿主サマ?』
「えぇ、残りの猶予期限は12時間。時間さえあれば……餌を取ることくらい、私にも出来る。私はもう、迷わない!」
『ヒャハハハハハハハハハ! いい顔になったじゃねぇか宿主サマァ!』
バクラが高らかに笑う中、かがみは紫のデッキへと歩み寄った。
それを拾い上げ、まじまじと見つめる。自分の元へと戻ってきた力を。
これは、元々自分に支給されていた力。これの所為でエリオは死んでしまった。
そういう意味では、嫌な思い出しか残っていない。が、それを使いこなしてこそ、かがみは後戻りが出来ないところまで突っ走る事が出来る。
幸か不幸か―バクラには不幸か―、ベルデのデッキからの制限から解き放たれたはいいが、結局のところかがみはまだ自分の意思で殺人を犯していない。
しかし、この力を手にした事で、かがみが闇へと落ちる新たなお膳立ては整った。
つい先ほどまでとは一転、この事態に、バクラは喜びを隠せなかった。
――さて、ここで一つだけ。二人にはまだ気付いていない事実がある。
バイオグリーザが破壊された時点で、ベルデのカードデッキは未契約の状態――即ちブランク体となった。
それはつまり、「ADVENT」のカードの消失。同時に、「CONTRACT―契約―」と「SEAL―封印―」のカードが現れたということ。
王蛇のような例外を除いて、本来一つのデッキで契約できるモンスターは一体と決まっている。
そんなモンスター達と契約する為に必要なカードが、契約のカード――CONTRACTだ。
そして、モンスターと契約するまでの間、モンスターに襲われなくなるという便利なカードが存在する。
それが封印のカード――SEALだ。これはベルデのデッキの契約が途切れたことにより、再び姿を現したカード。
ベルデのデッキに用意された契約のカードは元々一枚のみ。その契約が途切れ、“未契約”とみなされたことにより、このカードは現れたのだ。
契約すると同時にこのカードは消滅してしまうが、デッキがブランク体である限り、このカードは存在し続ける。
それはどういうことか?
つまりは、このカードを持っている限り、ミラーモンスターは現実世界に存在するカードの持ち主――柊かがみを襲う事は不可能となるのだ。
即ち――柊かがみはこの瞬間、プレシアが定めたカードデッキのルールから、解放されたという事になる。
何のリスクも無しにデッキを使い続けられるというだけでかなりのアドバンテージとなる事はまず間違いないだろう。
強いてリスクを挙げるとすれば、モンスターはカードの所有者に手出しができなくなる反面、
このカードを手放した隙を狙って襲おうと、執拗に所有者をつけ狙う可能性が高くなる事。
と言っても、12時間の猶予時間が経過するまで、それは考えなくてもいいことなのだが。
新たな決意と共に、力を取り戻した柊かがみは、これからももっと多くの参加者を襲うだろう。
そうだ。その先に待つ“元の世界への帰還”を求めて、かがみは殺人を繰り返す。
しかし、本当にそんな事を続けて、この輪の中から抜け出せるのか―――
それは、今はまだ、誰にも解らない事だ。
【現在地 F-1 浜辺】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(中)、肋骨数本骨折 、六時間憑依不可(バクラ)
【装備】ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、
カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎、サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎、スーパーの制服
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品(エリオ1~3)、柊かがみの制服(ボロボロ)、Ex-st@なのは×終わクロ、カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎
【思考】
基本:死にたくない。なにがなんでも生き残りたい。
1.もう誰も信じない。バクラだけは少し信用。
2.参加者を皆殺しにする。
3.万丈目に対する強い憎悪。万丈目を見つけたら絶対に殺す。
4.同じミスは犯さないためにも、12時間という猶予時間の間に、積極的に参加者を餌にして行く。
5.メビウス(ヒビノ・ミライ)を警戒。
【備考】
※デルタギアを装着した事により、電気を放つ能力を得ました。
※地図、デイパッグの中身は一切確認していません。名簿は確認しましたがこなたやつかさであっても信じられる相手とは思っていません。
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし、何かのきっかけで思い出すかもしれません。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※Lは相手を縛りあげて監禁する危険な人物だと認識しています。
※第一放送を聞き逃しました。
※万丈目の知り合いについて聞いてはいますが、どれぐらい頭に入っているかは不明です。
※Lはモンスターに食われて死んだと思っています。
※王蛇のカードデッキには、未契約カードがあと一枚入っています。
※ベルデのカードデッキには、「契約」のカードと「封印」のカードが1枚ずつ入っています。
※「封印」のカードを持っている限り、ミラーモンスターはこの所有者を襲う事は出来ません。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
基本:このデスゲームを思いっきり楽しむ。
1.かがみをサポート及び誘導する。
2.万丈目に対して……?(恨んではいない)
3.こなたに興味。
4.可能ならばキャロを探したいが、自分の知るキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。自分の知らないキャロなら……
5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は、万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました。
※千年リングは『キャロとバクラが勝ち逃げを考えているようです』以降からの参戦です
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※並行世界の話を今の所かがみにするつもりはありません。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません。
【『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎】
ブランク体のデッキに入っている、未契約のアドベントカード。
このカードでミラーモンスターと契約することが出来る。契約後は消滅する。
【『SEAL―封印―』@仮面ライダーリリカル龍騎】
ブランク体のデッキに入っているカード。
ミラーモンスターはこのカードを持っている人物を襲う事が出来ない。契約後に消滅する。
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