「守りたいもの」(2009/04/08 (水) 13:44:06) の最新版変更点
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*守りたいもの◆9L.gxDzakI
廃墟を歩む影が1つ。
目にも鮮やかなオレンジの髪を、一部ポニーテールにした少女。
西洋人の白い肌。身に纏うのは東洋の浴衣。
アッシュフォード学園高等部2年生、シャーリー・フェネット。それが彼女の名前だった。
さてそのシャーリーだが、本来彼女は1人ではなく、ある同行者と行動を共にしていたはずだ。
にもかかわらず、こうして道路を歩いている人影は1つしかない。
何故か。
答えは簡単だ。
同行者は今、歩いてはいないのだから。
(困ったな……)
声に出さず、内心で呟く。
彼女と共に行動する小さな娘――ヴィヴィオは、大地に両足をつけてはいない。
どこかぐったりとした様子で、シャーリーの背中に負われているのだ。
そもそも彼女らは本来、駅、ガソリンスタンド、ホテル、映画館、デュエルアカデミア、病院の順に、各種施設を回るつもりだった。
事実として、駅の調査は済ませている。
もっともその駅の様子はひどい有様で、有力な情報など一切手に入らなかったのだが。
一箇所だけ扉の閉まった車庫があり、残り人数15人になることでようやく開くという条件が記載されていた。
だがこれも、決して頼っていいものではないだろう。
現在の残り人数はまだまだ40は超えているはずだ。
そしてそもそも、彼女の望みは殺し合いからの脱出であり、促進ではない。中身を確かめるために殺しをしようとは思えなかった。
これらのことから、駅には特に何もなかったと判断し、そのまま南下を始めたのだが、そこで思わぬ壁にぶち当たる。
同行していたヴィヴィオの体力が、F-7の目前に迫った辺りで底をついてしまったのだ。
彼女とてまだ10にも満たぬ子供である。
この殺し合いから皆で脱出するために頑張るとは誓ったものの、身体がその精神に追いつかなかった。
そうした結果、どこか休める場所にたどり着くまで、シャーリーが彼女を背負っていくことにしたのだ。
そしてシャーリーは今、当初の予定を変更し、真っ直ぐ南へと向かっている。
F-7から最短コースでたどり着けるのは、東のガソリンスタンドと南のデュエルアカデミア。
どちらがヴィヴィオを休ませるのに適しているかは言うまでもない。
南にあるのがアカデミア(=学校)である以上、保健室などのような、ベッドのある施設があって然るべきなのだから。
予定通りガソリンスタンドを経由し、ホテル・アグスタで休ませるという手もあったが、
そちらに行くにはこのルート以上の長距離を歩くことになる。
ヴィヴィオという重りを背負っていることを考えると、あまり得策とは言えなかった。
道中でシャーリー自身も疲れきってしまっては、仮に何者かが襲ってきた場合、誰が彼女を守るというのか。
こして彼女は進路を変更し、デュエルアカデミアへと向かうことになったのだ。
ひび割れた道路もそれなりに不安定ではあるものの、エリア2つ分も地面を歩いていくよりはマシだろう。
他の施設を回れなかったのは残念だが、ヴィヴィオをベッドで休ませている間にでも、今後のルートを考えればいい。
(あまり危ない人がいないといいけど)
胸中で祈りながら、1つ、1つと歩を進めていく。
自分達がたどり着いた時、駅は既にもぬけの殻だった。
これから行くデュエルアカデミアにも、危険人物がいないと信じたい。
もちろん、誰もいないことは最善ではない。味方がいるに越したことはないのだ。
(次に会う人はいい人の方がいいな)
出会いが待っているのならば、それがよき出会いであるように、と。
祈り、願い、少女は歩む。
(たとえば……ルルとか)
だが、シャーリー・フェネットは未だ知らない。
最も望んだ少年との出会いが、彼女にとって最悪の遭遇となることを。
◆
「――月村すずかの友人、か」
「多分、なのはさんかフェイトさん……あとは、八神部隊長のうちの誰かだと思う」
照明の灯らぬ、薄暗いコンピュータールーム。
無数に並んだパソコンのうち、たった1台のモニターのみが、淡い光を放っている。
一組の男女が発した声は、そのすぐ前から響いていた。
シャーリーの待ち人――ルルーシュ・ランペルージその人と、スバル・ナカジマの2名だ。
彼らがいるということは、当然泉こなたと早乙女レイも、同様にモニターを覗いていることになる。
パソコンのインターネットを用い、何か情報は得られないかとここまで足を運んだ4人だったが、肝心のその機能は使用不能だった。
だがメールのアプリケーションを見てみると、そこに一通のメールが届いていることに気付く。
そこで、こうして届いたメッセージを確認していたのだ。
月村すずかには、スバルは1度だけ実際に会っている。
海鳴での任務に赴いた際に知り合った人で、確かなのは達の友人だったはずだ。
もう一人の友人・アリサが、このフィールドに飛ばされることなく死亡したのを考えると、送り主は彼女ら3人のうちの誰かだろう。
「絞り込めるか?」
ルルーシュがスバルへと問いかけた。
彼もなのはのことは以前、彼自身の世界のスバルに聞かされていたのだが、実際に会ったことはない。
ましてや、残り2人に関してはなおさらだ。
ここは同じ機動六課に所属していた、スバルの判断を仰ぐしかない。
「可能性があるとしたら、フェイトさんか八神部隊長……多分、なのはさんじゃない」
「根拠は?」
「職種。なのはさんは前線一筋だけど、フェイトさんや部隊長は、多分情報戦にも詳しいだろうから」
率直な感想だ。
スターズ01・なのはの所属は戦技教導隊。新兵の教育や戦術研究など、戦闘行為に関する業務が主となる役職だ。
ライトニング01・フェイトの立場は執務官。事件捜査や各種調査を担当する。地球で言えば警察の警部クラスだろうか。
ロングアーチトップ・はやてはもちろん部隊長。機動六課の全業務・全情報を統括するポジションである。
これらの立場をまとめてみると、こうした情報の使い方は、なのはよりも後者2人の方が圧倒的に上手いに違いない。
もっとも、スバルはそのなのは以下の新米なので、こうしたことは今まで考えたことすらなかったのだが。
「2人の意見は?」
椅子をくるりと背後へ回し、ルルーシュがこなた達へと問いかける。
「あたしの世界のなのはさん達は普通の学生だったから、よく分からないけど」
「私も、2人の戦ってる姿しか見たことなかったし……はやてさんには会ったこともないですから」
少年の肩が軽く竦められた。
当然と言えば当然の返答。やはりここは、3人の中でも最もなのは達に近い、スバルの意見が一番信頼できるということか。
「さて……ではそろそろ、本格的な情報交換に入ろうと思う」
であれば、今優先すべきはそれだ。
メールの送り主に関する情報は、今挙がったものが全てと見ていい。
ならばここで話題を切り替え、本題である情報交換に移った方がいいだろう。メールに記された内容の話も含めて、だ。
「誰か、メモを取ってくれないか?」
今や半分以下の長さとなった右腕を持ち上げ、尋ねた。
ルルーシュはナイブズの手によって、利き腕を切断されている。
左手では、議論の内容をスムーズにまとめることは難しい。そこで、誰かにその役割を頼むことにしたのだが、
「あたしの字は汚いよー」
「あたしも、書類仕事はちょっと苦手で……あはは、はは……」
「……仕方ない。レイがやってくれ」
苦笑する使えない青髪2人に対し、苦い表情を浮かべながら、ルルーシュがレイへと要求した。
ややあって、レイがデイパックからメモ用紙と筆記具を取り出す。
ルルーシュもまたそれに合わせ、パソコンのメモ帳機能を呼び出した。
わざわざそのウィンドウをメール画面と並べたということは、一部筆談が必要になるということなのだろう。
「まずは、俺達の今後の方針の確認だ。最大の目標はこの殺し合いからの脱出」
【そのためにも首輪を外すことと、ハイパーゼクター用のベルトを入手することが必要だ】
ルルーシュの言葉に合わせるようにして、パソコンの画面に文字が打ち込まれる。
時空間をワープする能力を持った機械――ハイパーゼクターの名称は、未だ口に出してはいない。
説明書を他の人間にも見せたは見せたが、その事実を言葉にすることは避けさせた。
参加者達の管理のために、主催者はこの首輪に盗聴器を仕込んでいる可能性が高い。
そこでこうした手法を取ることで、脱出の切り札となるこのアイテムが、自分達の手にあると判断されるリスクを削ったというわけだ。
下手に使用しようとでもすれば、首輪を爆発させられる恐れもある。それを防ぐための隠蔽工作。
【プレシアに聞かれるとまずい。今後もこのハイパーゼクターに関しては、極力口に出さないように】
画面に表示された文章に、残る3人が無言で頷いた。
【スバル。この市街地で、首輪の解析が出来そうな場所に心当たりは?】
続いてスバルへと話題を振る。
要するに、管理局の知識が欲しいということだ。工場が使えるかもしれないということくらい、ルルーシュだって分かっている。
そして今度の筆談だが、別に首輪を外そうとしていることそのものは、隠す必要もないだろう。
企てるだけで行動に移さないのならば、わざわざプレシアも爆破することはないはずだ。
ただ外しにかかる場所とタイミングさえ分かればいい。そのための筆談だった。
その意図を汲み取ると、スバルもまた、自分のデイパックから筆記具を取り出す。
【設備が整ってるのは機動六課。あまり詳しくは知らないけど、地上本部にも、研究施設ぐらいはあるかもしれない】
【では解析用の首輪を手に入れた後は、その2つの施設に寄ることにしよう。メールに記された罠には注意すること】
取り出したメモ帳をパソコンデスクに置き、さらさらと鉛筆を走らせた。ルルーシュもそれに続き、キーボードを打つ。
魔導師のデバイスは精密機械だ。
管理局の各種施設には、その整備や開発を行うための、デバイルスームが設置されていることが多い。
恐らく地上本部にも、そうした設備があって然るべきだろう。首輪の解析に使える可能性があるなら、調べておいて損はない。
「続いて、人物関係の確認」
これに関しては、ある程度スムーズに進めることができた。
既にディエチと合流していたルルーシュは、彼女から管理局の人間について話を聞いている。
更に、スバルはゲームが始まった頃からこなたと合流していたので、今さら聞くこともない。
となると、残るはレイの話だけ。
「遊城十代、万丈目準、天上院明日香の3人です。万丈目は怪しいかもしれませんが、残り2人は殺し合いに乗ってないと断言できます。
それから……フェイトさんが私の世界から来ていた場合、敵の洗脳を受けている可能性があるので、気をつけて」
これが彼女の証言だ。
顔色から察するに、嘘はついていないと判断。
別世界のフェイトが敵に洗脳されているような事態に陥っていたと聞き、スバルは僅かに驚愕していたのだが。
ともあれ、これらの情報をパソコンのテキストにまとめる。
要救助者:シャーリー、ヴィヴィオ、十代、万丈目、明日香
(ただし、万丈目には注意が必要)
合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ユーノ、クアットロ、チンク、C.C.
(ただし、フェイト及びクアットロには注意が必要)
危険人物:赤いコートとサングラスの男(名前不明)、金髪で右腕が腐った男(名前不明)
ひとまず、現状で把握できているのは以上の面々だ。
それぞれの参加者名簿へと、各々が分かりやすい形で情報を書き込んでおく。
「次は各自の持ち物だな。使える手札は確認しておきたい」
ルルーシュが話題を切り替えた。
手札というのはデュエルモンスターズのことではなく、武器や道具の彼なりのたとえである。
もちろん、そんなことは分かりきっているので、それをツッコむ者はいない。
まずはルルーシュ自身がデイパックの口を開き、自らの持ち物を公開する。
爆弾、木刀、インカム、病院で手に入れてきた物品一式、クラブのKの意匠のカード、ハイパーゼクター。
改めて見ると、かなりの大荷物だ。
体力に乏しいルルーシュでも、これだけのものを持ち運べるのは、このデイパックの賜物といったところだろう。
「じゃあ、次はあたし」
対して、二番手のスバルの持ち物は少ない。
銃が2挺と、何の変哲もない指輪が1つ。しかも銃のうちの片方は、元々レイが持っていたピストルだ。
もっともこの場合、ルルーシュが異常に多くの物品を手元に納めていた、というのもあるのだが。
「あたしはみんなが知ってるの以外、あまり真新しいものはないけど……」
続いて、こなた。
こちらも持ち物は少なく、バスター・ブレイダーのカードに投げナイフ。
それから首にかけられた、小さな剣の形を模したペンダント。待機状態のレヴァンティンだ。
「それは?」
ルルーシュがそこに着目する。
無理もない。彼はスバル以外の魔導師が、戦っている姿を見たことがない。
「レヴァンティンっていうデバイス。スバルから渡されたんだ」
「デバイスというと、魔法を使うための機械だったか……何故スバルが持っていないんだ」
紫の瞳が細められた。
冷ややかな視線と声音に込められるのは、誰の目にも明らかな非難。
魔導師がデバイスを装備せず、貴重な武器を一般人に割り振る。
ルルーシュほどの知恵者が、その矛盾に気付かぬはずがない。
一方、非難の視線を向けられたスバルはというと、びくりと肩を震わせ僅かにうろたえる。
「あ、えっと……剣型のレヴァンティンなら、万一攻撃されても盾に使えるだろうし……
そもそも、こなたを戦わせたくなかったから、こっちの銃を渡さなかったわけで……」
「――違うな」
ぴしゃり。
まさにそんな擬音が相応しい。
よく通る、低い声が割って入った。
「間違っているぞ」
スバルの弁明を遮る声。冷たい氷のようなルルーシュの声。
その鋭き紫の双眸は、真っ向から少女の瞳を睨みつけている。
視線という名の極寒の刃を、両の目に突きつけられたかのような感触。
ごくり、と。
思わず、スバルの喉が鳴った。
――たとえ一般人のこなただろうと、戦わないことは許されない。
これまでの流れから察するに、ルルーシュが次に言うであろう言葉はこれだ。
恐らく彼はアサルトライフルを、こなたに渡すように指示するだろう。
そんなことはさせない。
尻込みするのをぐっと堪え、来たるべき言葉へと身構える。
こなたは絶対に戦わせない。そう決めたのは自分だから。
戦うべきは自らの意志で、戦う力を手に取ったもの。流されるままに戦うなんてことを、彼女にさせるわけにはいかない。
次の瞬間。
発せられたのは。
「――本当にこなたを戦わせたくないのなら、何故守りきれなかった場合を想定する?」
しかし。
そんな、言葉。
「………、え?」
それだけを、口にする。
それだけしか返すことができなかった。
鳩が豆鉄砲を食らったような、呆けた顔を浮かべているスバルには。
ただそれを返すだけにも、数瞬の間を置いていた。
「守るのならば攻めさせない。
持てる力を最大限に発揮し、何人たりとも触れさせはしない。
敵の魔の手が届くより先に、全力で敵を叩き潰す。……守ると決意するということは、そういうことだろう」
正直、意外だった。
脇に立っていたこなたとレイも、同じような感想を浮かべていたに違いない。
「10の力を持つお前が、1しか持たない者を守る……それを願うなら、相手に自分の力を分け、わざわざ7まで落ちることをするな。
たとえ相手が1だとしても、ましてやゼロだったとしても、10の力で守り抜いてみせろ。
決して通すな。決して死ぬな。最後の最後まで生き抜いて、降りかかる火の粉を薙ぎ払え」
この男が求めているのは、戦う意志のない人間に、戦闘を強要することではなかった。
戦える人間が――戦えない者を守りたいと願う人間が、その分必死で戦い抜くこと。
「決意も、行動も……お前が“スバル・ナカジマ”なら、できるはずだ」
信じているから。
スバルにはそれができるのだと。
誰かを思いやることのできる優しさ。誰かを励ますことのできる笑顔。
そして、時に優しき少女が発揮する、誰かを守るための強さ。
一緒にいた時間は短くても、ルルーシュにはそれが分かっていた。
たとえ別世界の彼女だとしても、その本質は変わらないと信じていた。
「……すまなかったな、言い方がきつくて」
ふ、と表情を緩ませる。
整った顔に笑顔を浮かべ、少年の伸ばした右腕が、くしゃっとスバルの髪を撫でた。
「あ、うん……いや……別に、そんなに気にしてないけど……」
この人のこういう表情を見るのは、どうにもむず痒い。
今日会ったばかりの人だというのに、何もかも見透かされているかのような。
否、実際に見透かされているのだろう。
こことは別の並行世界の、ほとんど自分と遜色ないであろう自分と、触れ合ってきているのだから。
そのくせ自分だけが、この人のことを全く知らないのだ。もどかしいと思うのも無理はなかった。
照れくさいやら何やら、複雑としか言いようのない表情で、ほんのりと頬を朱色に染める。
「いやぁ、何だかんだ言っていいコンビだよねぇ」
「ちっ、ちちち違うよっ! そんなんじゃないから! こなたが思ってるようなんじゃないから!
あーもうニヤニヤするの禁止ぃーっ!」
案の定にやついた顔を浮かべるこなたに対し、両手をぶんぶんと振り回しながら反論した。
ふぅ、と。
一方で、ルルーシュはやや呆れたような表情でため息をつく。もちろん、スバルの頭を解放してやることは忘れない。
こうして見ると、学校の休み時間での他愛ない会話そのものだ。ここが殺し合いの場だとは思えない。
余裕があることはいいことだ。切り替えのできる奴だということも分かっている。特にスバルは。
自分は何度か目にしている。
戦いの場へと降り立った瞬間、このやかましい少女の顔が、真剣な戦士の顔へと激変することを。
逆に自分は、気の休め方を知らないのかもしれないな。
そう思って、何だかむしろ自分が未熟なように見えて、こうしてため息を漏らしていたのだった。
「あのー……次、私の番なんですけど」
どこかうんざりとしたような表情と共に、おずおずとレイの手が挙がる。
それを聞いて、青髪とアホ毛の2人組は、水を打ったように静まり返った。
はぁ、と吐き出されるため息。どうやら結局レイもまた、ルルーシュと同じ穴のむじなだったらしい。
互いに警戒し合い、利用する隙を探り合う2人が似たもの同士というのも、奇妙な光景ではあった。
「私もこなたさんと同じで、大体のものはもうみんなに見せてます」
言いながら、ポケットへと手を突っ込む。
取り出したのは3枚のカード。2枚は元から持ち歩いていたもので、1枚は売店での戦利品だ。
これにスバルの預かった拳銃を加えたものが、既に知られている彼女の持ち物。
「あと……この中に人形が1つだけ」
つまりこれから取り出すものが、その大体に含まれていないもの。
スバルの身体検査は簡単なもので、すぐには取り出せないであろうデイパックの中身は、未だ確認していなかった。
デイパックをがさごそとあさり、取り出したのは1つの鞄。
鞄の中に鞄が入っているというのも奇妙な話だが、これとその人形とで、セットで支給されたのだという。
「正直、あまり役に立つとは思えないんですけど……、って、どうしましたスバルさん?」
しかし、その時。
レイが説明をしていたまさにその時。
唯一スバルの表情だけが、思いっきり凍りついていた。
怪訝そうな顔を浮かべる残りの面子。若きフロントアタッカーの肩がわなわなと震える。
いや、知ってるし、これ。
この色といい形といい、すっごく見覚えのある鞄だし。
これの中に入ってる人形とか、もう“あの人”しか思い浮かばないし。
「ちょ、スバルさんっ!?」
次の瞬間、スバルの手が、がばっとバッグを引ったくっていた。
困惑するレイの手から強引に鞄をもぎ取ると、その口を勢いよく開く。
ああ、案の定だ。
やっぱり“この人”が入ってやがった。
自分達とお揃いの茶色い制服着た、水色っぽい銀髪の人形が転がってやがる。
人形みたいなサイズの身体の、小さな小さな上司が眠ってやがる。
何でこんな人までここにいるの。見せしめ含めて61人じゃなかったの。というか、何呑気に寝てるのこの人。
色々と言いたいことはあったが、今彼女が取るべき行動は一つ。
バッグの中身へと手を伸ばし、その身体を引っつかみ。
「リイン曹長! 起きてください、リイン曹長っ!」
思いっきり叫びながら揺さぶった。
◆
「……なるほどです。つまりみんなは、リインとは別のパラレルワールドから集まったんですねー」
間延びした少女の高い声が、コンピューター室に響いていた。
先ほど鞄の中にあった人形が、ふわふわと空中に浮いている。
それどころの騒ぎではない。閉じられていた瞳がまばたきし、その口から言葉を発していた。
作り物、という意味では正しいかもしれないが、彼女はただの人形ではない。
レイに支給された最後のアイテムは――人格搭載型のデバイスだ。
その名も、リインフォースⅡ(ツヴァイ)。
かの闇の書の人格プログラム・リインフォースの力を受け継ぐ、八神はやて直属のユニゾンデバイスである。
単独でもAランク魔導師級の戦闘力を持ち、おまけにスバルよりも階級が上だ。
にもかかわらず、あまり威厳のない子供っぽい性格が、玉に瑕でもチャームポイントでもあるのだが。
「……モンスターと触れ合ってたレイはともかく……何でアンタまで、そんなに冷静なんだ……?」
引きつった顔で、ルルーシュがこなたへと問いかけた。
正直彼は、この状況にまるでついていけていない。
まるで人形のようなサイズの小人が、突然あくびを上げて目を覚まし、挙句ふよふよと空を飛び始めたのだ。
魔法とも精霊ともまるで無縁な、一般人には何をどうリアクションしていいか分からない。
自分の世界も思いっきりSFしてるくせにか、ということは、この際置いておくことにする。
「そりゃまあ、ちっちゃいマスコットは魔法少女モノの基本だし?」
しかし当のこなたはというと、さらりとそう言ってのけた。
おまけにそう言いながら、呑気にも上半身をぐっと屈めて、下方から覗き込むようにリインを見上げている。
「ちょ、ちょっとぉ! じろじろとぱんつ覗かないでくださいー!」
「ほうほう、こりゃまた精巧にできてらっしゃる」
「……はぁ」
図太いというか、何というか。
一応心を許したものの、こいつの心の方はさっぱり分からない。
そう言わんばかりの表情で、額を抑えながら、ルルーシュがまた1つため息をついた。
「ま、まぁそれはともかく……リイン曹長も、ここに連れて来られた時のこと、やっぱり分からないんですか?」
そこへスバルが問いかける。
確かにここらで打ち切っておかねば、話を進めるタイミングを見失ってしまうに違いない。
おまけに、「太ももの質感が」だとか「やはり下も水色か」だとか口走ってるこなたである。
このまま放置しようものなら、遠からずお触りタイムへ突入してしまうだろう。
部下たるもの、上司がピンチの時は助けるのが務め。たとえちっこく可愛いマスコットでも、上司は上司だ。
「それがさっぱりなのですよ。スバル達と同じように、リインも気が付いたらここにいたのです」
「やはり支給品扱いでも待遇は同じか……」
先ほどとはまた別のため息と共に、ルルーシュが呟く。
もしもリインが、自分達とはまた別の形でプレシアに呼び出されていたのなら、そこから反撃の糸口が見つけられたかもしれない。
だが、それも望めないらしい。
首輪がついていないだけで、他は普通の参加者と何も変わりがないようだ。
「……まぁ、それはいいだろう」
分からないことは仕方ない。
リインの元いた世界の情報も聞き出せたことだ。彼女の件は保留としておく。
今あれこれと騒いだとしても、これ以上の情報は出ないに違いない。であれば、そこにこだわるのは愚かなことだ。
「さて、これからメールの送り主に従い、アカデミアを調べ直すわけだが……その前に、聞いておいてほしいことがある」
切り出した、その瞬間。
発光。
赤く、煌く。
紫色の瞳の中に、炎のごとき赤が宿った。
澄んだ瞳のその奥で、灼熱の不死鳥が羽ばたいた。
ルルーシュの左目の中に浮かぶ、翼のような赤いマーク。
「おおっ」
これにはこなたも驚いたようだ。他の連中も、大体似たような反応を返している。
瞳の色が変わるならまだしも、瞳に模様が浮かぶというのは、そうそうある話でもないだろう。
その辺りを考えるなら、無難な反応だ。
「ギアス。俺の持っている能力だ」
言いながら、目の中の真紅を引っ込める。
王の力の証たる紋様を、一瞬にして消滅させる。
「こなたにはさっき話したが……この力を使えば、視線を合わせた相手を一度だけ、あらゆる命令に従わせることができる」
「一種の催眠術のようなものですねー」
ルルーシュはリインの言葉に頷いた。
一般人には持ち得ない、得体の知れない力という点では、ギアスも魔法も親戚のようなものである。
その点やはり魔導師は、理解も飲み込みも早いらしい。
「本来この力は、自在にオン・オフができるものではないんだが、見ての通りそれが可能になっている。
強者の能力に制限がかけられている状況だ……こいつも弱体化していてもおかしくない。……そこで」
す、と。
その紫色の眼差しが、こなたの方へと向けられた。
「こなたの一人称は、確か『あたし』だったな」
「うん、そうだけど?」
きょとん、とした表情で返すこなた。
だが次の瞬間。
「“その一人称を『ボク』に変えろ”」
視界は赤く染まっていた。
顕現。
再び飛び立つフェニックス。
熱く燃え盛る炎のごとく、艶やかに輝く鮮血のごとく。
王者の力が真紅となり、魔王の言霊を乗せて放たれる。
ギアス発動。
宿された力は絶対遵守。
あらゆる者であろうとも、それが人間である限り、何人たりとも逆らえぬ号令。
招く結果は。
「『ボク』に変えろって言われても……ボクだって現実の人間なんだし、そんなギャルゲか何かみたいな展開が都合よく……」
命令の遂行。
全ての単語は摩り替わる。
あたしは、ボクへと。
「……あ」
「ホントだ……」
「実際に見てみるとすっごいですねー」
まさに奇跡に立ち会った瞬間だ。
こなたは我が身に起こった事象に微かに驚愕、ギャラリーの表情も感嘆に染まる。
あらゆる命令を遂行させる力、ギアス。
そこには誇張も虚偽もなく、見事にその効力を発揮してみせたのだ。
「これで、周りにも変化が分かりやすいだろう……
これから同行する、曹長殿は……今から何時間後にそれが解けるか、調べておいてくれ」
「りょーかいですっ」
左目を押さえるルルーシュの言葉に、リインが敬礼と共に答えた。曹長殿、というのは彼なりの遊び心か。
少年の顔には、微かに苦悶の色が浮かぶ。頬を伝うのは一筋の汗。
耐えられないレベルではないが、やはりきついものがある。
瞳の疼きに耐えながら浮かべた、率直な感想だ。
命令実行に伴う痛覚と脱力感。これが現在判明している、ギアスに課せられた制限だった。
とはいえ、これだけとも限らない。回数制限があるかもしれないし、時間制限があるかもしれない。
そして現在実行したのは、時間制限を計るテスト。
頻繁に用いる一人称なら、変化も分かりやすいだろう。
恩人のこなたにギアスをかけるのは気が引けたが、これくらいの命令なら、彼女もさほど気にすることはあるまい。
ふう、と一息つきながら、額に浮かんだ汗を拭う。痛みもだんだん引いてきたようだ。
「私にこの力を教えたってことは……信用してくれた、ってことですか?」
と。
そこへ。
レイが問いかけてきた。
未だ僅かに興奮している面々の中、たった1人冷めた視線を取り戻した娘が。
そもそもこのタイミングでのギアス披露が、彼女には不自然に思えて仕方ないのだ。
いかに制限があるといえど、強力無比な力であることに変わりはない。
たとえ自分が裏切ったとしても、この力を前にすれば、一瞬で無力化されてもおかしくない。
ならばだからこそ、未だ信用されていないであろう、自分には伏せるべきではなかったのではないか。
何らかの対策を講じられるよりも、不意討ちのように発動した方が、彼にとっては楽ではなかったのか。
「まさか」
しかし。
ふ、と。ルルーシュの口元には、不敵な笑み。
「抑止だよ。額に銃口が向いてると知ってて、刃向かうような馬鹿じゃないだろう?」
それが答えだ。
「……そうですか」
やられた、と思った。
迂闊に口を滑らせたのではない。決して裏切らぬよう、強固に念を押されていたのだ。
確かに今まで通りの彼なら、嘘でごまかせるような時は、ごまかし通してやろうとも思った。
だが、今は違う。どんなに嘘をついたとしても、全てが無駄だと分かっている。
不穏な空気を漂わせたが最後、ギアスで本音を暴かれて、そのまま殺されてしまうだろう。
そう思ってしまった。反逆する気を削がれてしまった。
ついでに言うならば、今の質問もよくなかった。
口を滑らせたのは自分の方だ。結果余計な念押しをされ、付け込む隙を与えてしまったのだ。
逆らうことはできない。上位にいるのはルルーシュだ。それが明確になってしまった。
恐らく今後この男は、自分のことについて今まで以上に詮索してくるだろう。反発できない空気を作ったのをいいことに、だ。
(こいつ……今まで会った誰よりも悪知恵が回る)
改めて、そう認識せざるを得なかった。
下唇を噛み締めて、握る拳を震わせるしかなかった。
「……では先ほど割り振った通り、この施設を調べていくことにしよう。
自分のエリアが終わり次第、速やかに入り口で合流すること。……では、解散」
【1日目 昼】
【現在地 G-7 デュエルアカデミア】
【早乙女レイ@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、『フリーズベント』@リリカル龍騎、『光の護封剣』@リリカル遊戯王GX、
『レッド・デーモンズ・ドラゴン』@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、
リインフォースⅡのお出かけバッグ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS、情報交換のまとめメモ
【思考】
基本:十代を守る。
1.デュエルアカデミアの未確認部分を調査する。終わり次第、入り口で仲間達と合流
2.各施設を回りカードとデュエルディスクを手に入れる。できればチューナーを手に入れたい。
3.ルルーシュは使えるかもしれない。今後の動向を伺う。
4.殺し合いに乗っている者を殺害する。
5.レッド・デーモンズ・ドラゴン……使えるかな?
6.スバル達と方針が合わなかった場合は離脱。ただし、逃げられるかどうか……?
7.フェイト(StS)、万丈目を強く警戒。
【備考】
・リリカル遊戯王GX10話から参戦です。
・フェイト(A's)が過去から来たフェイトだと思っています。
・フェイト(StS)、万丈目がデュエルゾンビになっていると思っています。
スバル達には、「自分の世界のフェイトは、敵に洗脳されているかもしれない」と説明しました。
・ここではカードはデュエルディスクなしで効果が発動すると知りました。
・デュエルデュスクを使えばカードの効果をより引き出せると思っています。
・カードとデュエルディスクは支給品以外にも各施設に置かれていて、それを巡って殺し合いが起こると考えています。
・デュエルアカデミアの3分の2を調べました、どの場所を調べたかについては次の書き手さんにお任せします。
・レッド・デーモンズ・ドラゴンが未来の世界のカードだと考えています。
・シンクロ召喚の方法がわかっていません、
チューナーとチューナー以外のモンスターが必要という事は把握済みですがレベルの事はわかっていません。
・正しい召喚手順を踏まなければレッド・デーモンズ・ドラゴンを召喚出来ないかどうかは不明です。
・リインフォースⅡの参戦時期及び制限は次の書き手にお任せします。
・ギアスの能力を知ったことで、ルルーシュに逆らうことができるかどうかと、若干の不安を抱えています。
・「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、ギアス
【装備】なし
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、
リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【思考】
基本 かがみん、つかさ、フェイトに会いたい
0.ギアスによる命令:自分の一人称を『ボク』に変えろ
1.リインと共に、デュエルアカデミアの未確認部分を調査する。終わり次第、入り口で仲間達と合流
2.アーカード(名前は知らない)を警戒
3.自分にかけられたギアスの持続時間を計測する
4.かがみん達は……友達だよ
5.あのおばさん(プレシア)何考えてるんだろう……
【備考】
・参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
なお、オタク知識については思い出してはいないものの消されているという事実には気が付きました。
しかしそれをスバル達に話すつもりはありません。
・パラレルワールドの可能性に行き当たり、かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、
彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
・参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付いていません。
・ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
・この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
・ギアスの持続時間は後続の書き手さんにお任せします。
・「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
【リインフォースⅡ思考】
基本 スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する
1.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい
2.こなたと共に、デュエルアカデミアの未確認部分を調査する。終わり次第、入り口で仲間達と合流
3.こなたにかけられたギアスの持続時間を計測する
4.はやて(StS)が心配
※スバル達が自分とは違う世界から来ていることに気付きました。
|Back:[[Teardrop]]|時系列順で読む|Next:[[守れないひと]]|
|Back:[[Teardrop]]|投下順で読む|~|
|Back:[[王の財宝 ~祝福の風~]]|ルルーシュ・ランペルージ|~|
|Back:[[王の財宝 ~祝福の風~]]|スバル・ナカジマ|~|
|Back:[[王の財宝 ~祝福の風~]]|泉こなた|~|
|Back:[[王の財宝 ~祝福の風~]]|早乙女レイ|~|
|Back:[[三人の印象]]|シャーリー・フェネット|~|
|Back:[[三人の印象]]|ヴィヴィオ|~|
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*守りたいもの◆9L.gxDzakI
廃墟を歩む影が1つ。
目にも鮮やかなオレンジの髪を、一部ポニーテールにした少女。
西洋人の白い肌。身に纏うのは東洋の浴衣。
アッシュフォード学園高等部2年生、シャーリー・フェネット。それが彼女の名前だった。
さてそのシャーリーだが、本来彼女は1人ではなく、ある同行者と行動を共にしていたはずだ。
にもかかわらず、こうして道路を歩いている人影は1つしかない。
何故か。
答えは簡単だ。
同行者は今、歩いてはいないのだから。
(困ったな……)
声に出さず、内心で呟く。
彼女と共に行動する小さな娘――ヴィヴィオは、大地に両足をつけてはいない。
どこかぐったりとした様子で、シャーリーの背中に負われているのだ。
そもそも彼女らは本来、駅、ガソリンスタンド、ホテル、映画館、デュエルアカデミア、病院の順に、各種施設を回るつもりだった。
事実として、駅の調査は済ませている。
もっともその駅の様子はひどい有様で、有力な情報など一切手に入らなかったのだが。
一箇所だけ扉の閉まった車庫があり、残り人数15人になることでようやく開くという条件が記載されていた。
だがこれも、決して頼っていいものではないだろう。
現在の残り人数はまだまだ40は超えているはずだ。
そしてそもそも、彼女の望みは殺し合いからの脱出であり、促進ではない。中身を確かめるために殺しをしようとは思えなかった。
これらのことから、駅には特に何もなかったと判断し、そのまま南下を始めたのだが、そこで思わぬ壁にぶち当たる。
同行していたヴィヴィオの体力が、F-7の目前に迫った辺りで底をついてしまったのだ。
彼女とてまだ10にも満たぬ子供である。
この殺し合いから皆で脱出するために頑張るとは誓ったものの、身体がその精神に追いつかなかった。
そうした結果、どこか休める場所にたどり着くまで、シャーリーが彼女を背負っていくことにしたのだ。
そしてシャーリーは今、当初の予定を変更し、真っ直ぐ南へと向かっている。
F-7から最短コースでたどり着けるのは、東のガソリンスタンドと南のデュエルアカデミア。
どちらがヴィヴィオを休ませるのに適しているかは言うまでもない。
南にあるのがアカデミア(=学校)である以上、保健室などのような、ベッドのある施設があって然るべきなのだから。
予定通りガソリンスタンドを経由し、ホテル・アグスタで休ませるという手もあったが、
そちらに行くにはこのルート以上の長距離を歩くことになる。
ヴィヴィオという重りを背負っていることを考えると、あまり得策とは言えなかった。
道中でシャーリー自身も疲れきってしまっては、仮に何者かが襲ってきた場合、誰が彼女を守るというのか。
こして彼女は進路を変更し、デュエルアカデミアへと向かうことになったのだ。
ひび割れた道路もそれなりに不安定ではあるものの、エリア2つ分も地面を歩いていくよりはマシだろう。
他の施設を回れなかったのは残念だが、ヴィヴィオをベッドで休ませている間にでも、今後のルートを考えればいい。
(あまり危ない人がいないといいけど)
胸中で祈りながら、1つ、1つと歩を進めていく。
自分達がたどり着いた時、駅は既にもぬけの殻だった。
これから行くデュエルアカデミアにも、危険人物がいないと信じたい。
もちろん、誰もいないことは最善ではない。味方がいるに越したことはないのだ。
(次に会う人はいい人の方がいいな)
出会いが待っているのならば、それがよき出会いであるように、と。
祈り、願い、少女は歩む。
(たとえば……ルルとか)
だが、シャーリー・フェネットは未だ知らない。
最も望んだ少年との出会いが、彼女にとって最悪の遭遇となることを。
◆
「――月村すずかの友人、か」
「多分、なのはさんかフェイトさん……あとは、八神部隊長のうちの誰かだと思う」
照明の灯らぬ、薄暗いコンピュータールーム。
無数に並んだパソコンのうち、たった1台のモニターのみが、淡い光を放っている。
一組の男女が発した声は、そのすぐ前から響いていた。
シャーリーの待ち人――ルルーシュ・ランペルージその人と、スバル・ナカジマの2名だ。
彼らがいるということは、当然泉こなたと早乙女レイも、同様にモニターを覗いていることになる。
パソコンのインターネットを用い、何か情報は得られないかとここまで足を運んだ4人だったが、肝心のその機能は使用不能だった。
だがメールのアプリケーションを見てみると、そこに一通のメールが届いていることに気付く。
そこで、こうして届いたメッセージを確認していたのだ。
月村すずかには、スバルは1度だけ実際に会っている。
海鳴での任務に赴いた際に知り合った人で、確かなのは達の友人だったはずだ。
もう一人の友人・アリサが、このフィールドに飛ばされることなく死亡したのを考えると、送り主は彼女ら3人のうちの誰かだろう。
「絞り込めるか?」
ルルーシュがスバルへと問いかけた。
彼もなのはのことは以前、彼自身の世界のスバルに聞かされていたのだが、実際に会ったことはない。
ましてや、残り2人に関してはなおさらだ。
ここは同じ機動六課に所属していた、スバルの判断を仰ぐしかない。
「可能性があるとしたら、フェイトさんか八神部隊長……多分、なのはさんじゃない」
「根拠は?」
「職種。なのはさんは前線一筋だけど、フェイトさんや部隊長は、多分情報戦にも詳しいだろうから」
率直な感想だ。
スターズ01・なのはの所属は戦技教導隊。新兵の教育や戦術研究など、戦闘行為に関する業務が主となる役職だ。
ライトニング01・フェイトの立場は執務官。事件捜査や各種調査を担当する。地球で言えば警察の警部クラスだろうか。
ロングアーチトップ・はやてはもちろん部隊長。機動六課の全業務・全情報を統括するポジションである。
これらの立場をまとめてみると、こうした情報の使い方は、なのはよりも後者2人の方が圧倒的に上手いに違いない。
もっとも、スバルはそのなのは以下の新米なので、こうしたことは今まで考えたことすらなかったのだが。
「2人の意見は?」
椅子をくるりと背後へ回し、ルルーシュがこなた達へと問いかける。
「あたしの世界のなのはさん達は普通の学生だったから、よく分からないけど」
「私も、2人の戦ってる姿しか見たことなかったし……はやてさんには会ったこともないですから」
少年の肩が軽く竦められた。
当然と言えば当然の返答。やはりここは、3人の中でも最もなのは達に近い、スバルの意見が一番信頼できるということか。
「さて……ではそろそろ、本格的な情報交換に入ろうと思う」
であれば、今優先すべきはそれだ。
メールの送り主に関する情報は、今挙がったものが全てと見ていい。
ならばここで話題を切り替え、本題である情報交換に移った方がいいだろう。メールに記された内容の話も含めて、だ。
「誰か、メモを取ってくれないか?」
今や半分以下の長さとなった右腕を持ち上げ、尋ねた。
ルルーシュはナイブズの手によって、利き腕を切断されている。
左手では、議論の内容をスムーズにまとめることは難しい。そこで、誰かにその役割を頼むことにしたのだが、
「あたしの字は汚いよー」
「あたしも、書類仕事はちょっと苦手で……あはは、はは……」
「……仕方ない。レイがやってくれ」
苦笑する使えない青髪2人に対し、苦い表情を浮かべながら、ルルーシュがレイへと要求した。
ややあって、レイがデイパックからメモ用紙と筆記具を取り出す。
ルルーシュもまたそれに合わせ、パソコンのメモ帳機能を呼び出した。
わざわざそのウィンドウをメール画面と並べたということは、一部筆談が必要になるということなのだろう。
「まずは、俺達の今後の方針の確認だ。最大の目標はこの殺し合いからの脱出」
【そのためにも首輪を外すことと、ハイパーゼクター用のベルトを入手することが必要だ】
ルルーシュの言葉に合わせるようにして、パソコンの画面に文字が打ち込まれる。
時空間をワープする能力を持った機械――ハイパーゼクターの名称は、未だ口に出してはいない。
説明書を他の人間にも見せたは見せたが、その事実を言葉にすることは避けさせた。
参加者達の管理のために、主催者はこの首輪に盗聴器を仕込んでいる可能性が高い。
そこでこうした手法を取ることで、脱出の切り札となるこのアイテムが、自分達の手にあると判断されるリスクを削ったというわけだ。
下手に使用しようとでもすれば、首輪を爆発させられる恐れもある。それを防ぐための隠蔽工作。
【プレシアに聞かれるとまずい。今後もこのハイパーゼクターに関しては、極力口に出さないように】
画面に表示された文章に、残る3人が無言で頷いた。
【スバル。この市街地で、首輪の解析が出来そうな場所に心当たりは?】
続いてスバルへと話題を振る。
要するに、管理局の知識が欲しいということだ。工場が使えるかもしれないということくらい、ルルーシュだって分かっている。
そして今度の筆談だが、別に首輪を外そうとしていることそのものは、隠す必要もないだろう。
企てるだけで行動に移さないのならば、わざわざプレシアも爆破することはないはずだ。
ただ外しにかかる場所とタイミングさえ分かればいい。そのための筆談だった。
その意図を汲み取ると、スバルもまた、自分のデイパックから筆記具を取り出す。
【設備が整ってるのは機動六課。あまり詳しくは知らないけど、地上本部にも、研究施設ぐらいはあるかもしれない】
【では解析用の首輪を手に入れた後は、その2つの施設に寄ることにしよう。メールに記された罠には注意すること】
取り出したメモ帳をパソコンデスクに置き、さらさらと鉛筆を走らせた。ルルーシュもそれに続き、キーボードを打つ。
魔導師のデバイスは精密機械だ。
管理局の各種施設には、その整備や開発を行うための、デバイルスームが設置されていることが多い。
恐らく地上本部にも、そうした設備があって然るべきだろう。首輪の解析に使える可能性があるなら、調べておいて損はない。
「続いて、人物関係の確認」
これに関しては、ある程度スムーズに進めることができた。
既にディエチと合流していたルルーシュは、彼女から管理局の人間について話を聞いている。
更に、スバルはゲームが始まった頃からこなたと合流していたので、今さら聞くこともない。
となると、残るはレイの話だけ。
「遊城十代、万丈目準、天上院明日香の3人です。万丈目は怪しいかもしれませんが、残り2人は殺し合いに乗ってないと断言できます。
それから……フェイトさんが私の世界から来ていた場合、敵の洗脳を受けている可能性があるので、気をつけて」
これが彼女の証言だ。
顔色から察するに、嘘はついていないと判断。
別世界のフェイトが敵に洗脳されているような事態に陥っていたと聞き、スバルは僅かに驚愕していたのだが。
ともあれ、これらの情報をパソコンのテキストにまとめる。
要救助者:シャーリー、ヴィヴィオ、十代、万丈目、明日香、かがみ、つかさ、ルーテシア
(ただし、万丈目には注意が必要)
合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ユーノ、クアットロ、チンク、C.C.
(ただし、フェイト及びクアットロには注意が必要)
危険人物:赤いコートとサングラスの男(名前不明)、金髪で右腕が腐った男(名前不明)
ひとまず、現状で把握できているのは以上の面々だ。
それぞれの参加者名簿へと、各々が分かりやすい形で情報を書き込んでおく。
「次は各自の持ち物だな。使える手札は確認しておきたい」
ルルーシュが話題を切り替えた。
手札というのはデュエルモンスターズのことではなく、武器や道具の彼なりのたとえである。
もちろん、そんなことは分かりきっているので、それをツッコむ者はいない。
まずはルルーシュ自身がデイパックの口を開き、自らの持ち物を公開する。
爆弾、木刀、インカム、病院で手に入れてきた物品一式、クラブのKの意匠のカード、ハイパーゼクター。
改めて見ると、かなりの大荷物だ。
体力に乏しいルルーシュでも、これだけのものを持ち運べるのは、このデイパックの賜物といったところだろう。
「じゃあ、次はあたし」
対して、二番手のスバルの持ち物は少ない。
銃が2挺と、何の変哲もない指輪が1つ。しかも銃のうちの片方は、元々レイが持っていたピストルだ。
もっともこの場合、ルルーシュが異常に多くの物品を手元に納めていた、というのもあるのだが。
「あたしはみんなが知ってるの以外、あまり真新しいものはないけど……」
続いて、こなた。
こちらも持ち物は少なく、バスター・ブレイダーのカードに投げナイフ。
それから首にかけられた、小さな剣の形を模したペンダント。待機状態のレヴァンティンだ。
「それは?」
ルルーシュがそこに着目する。
無理もない。彼はスバル以外の魔導師が、戦っている姿を見たことがない。
「レヴァンティンっていうデバイス。スバルから渡されたんだ」
「デバイスというと、魔法を使うための機械だったか……何故スバルが持っていないんだ」
紫の瞳が細められた。
冷ややかな視線と声音に込められるのは、誰の目にも明らかな非難。
魔導師がデバイスを装備せず、貴重な武器を一般人に割り振る。
ルルーシュほどの知恵者が、その矛盾に気付かぬはずがない。
一方、非難の視線を向けられたスバルはというと、びくりと肩を震わせ僅かにうろたえる。
「あ、えっと……剣型のレヴァンティンなら、万一攻撃されても盾に使えるだろうし……
そもそも、こなたを戦わせたくなかったから、こっちの銃を渡さなかったわけで……」
「――違うな」
ぴしゃり。
まさにそんな擬音が相応しい。
よく通る、低い声が割って入った。
「間違っているぞ」
スバルの弁明を遮る声。冷たい氷のようなルルーシュの声。
その鋭き紫の双眸は、真っ向から少女の瞳を睨みつけている。
視線という名の極寒の刃を、両の目に突きつけられたかのような感触。
ごくり、と。
思わず、スバルの喉が鳴った。
――たとえ一般人のこなただろうと、戦わないことは許されない。
これまでの流れから察するに、ルルーシュが次に言うであろう言葉はこれだ。
恐らく彼はアサルトライフルを、こなたに渡すように指示するだろう。
そんなことはさせない。
尻込みするのをぐっと堪え、来たるべき言葉へと身構える。
こなたは絶対に戦わせない。そう決めたのは自分だから。
戦うべきは自らの意志で、戦う力を手に取ったもの。流されるままに戦うなんてことを、彼女にさせるわけにはいかない。
次の瞬間。
発せられたのは。
「――本当にこなたを戦わせたくないのなら、何故守りきれなかった場合を想定する?」
しかし。
そんな、言葉。
「………、え?」
それだけを、口にする。
それだけしか返すことができなかった。
鳩が豆鉄砲を食らったような、呆けた顔を浮かべているスバルには。
ただそれを返すだけにも、数瞬の間を置いていた。
「守るのならば攻めさせない。
持てる力を最大限に発揮し、何人たりとも触れさせはしない。
敵の魔の手が届くより先に、全力で敵を叩き潰す。……守ると決意するということは、そういうことだろう」
正直、意外だった。
脇に立っていたこなたとレイも、同じような感想を浮かべていたに違いない。
「10の力を持つお前が、1しか持たない者を守る……それを願うなら、相手に自分の力を分け、わざわざ7まで落ちることをするな。
たとえ相手が1だとしても、ましてやゼロだったとしても、10の力で守り抜いてみせろ。
決して通すな。決して死ぬな。最後の最後まで生き抜いて、降りかかる火の粉を薙ぎ払え」
この男が求めているのは、戦う意志のない人間に、戦闘を強要することではなかった。
戦える人間が――戦えない者を守りたいと願う人間が、その分必死で戦い抜くこと。
「決意も、行動も……お前が“スバル・ナカジマ”なら、できるはずだ」
信じているから。
スバルにはそれができるのだと。
誰かを思いやることのできる優しさ。誰かを励ますことのできる笑顔。
そして、時に優しき少女が発揮する、誰かを守るための強さ。
一緒にいた時間は短くても、ルルーシュにはそれが分かっていた。
たとえ別世界の彼女だとしても、その本質は変わらないと信じていた。
「……すまなかったな、言い方がきつくて」
ふ、と表情を緩ませる。
整った顔に笑顔を浮かべ、少年の伸ばした右腕が、くしゃっとスバルの髪を撫でた。
「あ、うん……いや……別に、そんなに気にしてないけど……」
この人のこういう表情を見るのは、どうにもむず痒い。
今日会ったばかりの人だというのに、何もかも見透かされているかのような。
否、実際に見透かされているのだろう。
こことは別の並行世界の、ほとんど自分と遜色ないであろう自分と、触れ合ってきているのだから。
そのくせ自分だけが、この人のことを全く知らないのだ。もどかしいと思うのも無理はなかった。
照れくさいやら何やら、複雑としか言いようのない表情で、ほんのりと頬を朱色に染める。
「いやぁ、何だかんだ言っていいコンビだよねぇ」
「ちっ、ちちち違うよっ! そんなんじゃないから! こなたが思ってるようなんじゃないから!
あーもうニヤニヤするの禁止ぃーっ!」
案の定にやついた顔を浮かべるこなたに対し、両手をぶんぶんと振り回しながら反論した。
ふぅ、と。
一方で、ルルーシュはやや呆れたような表情でため息をつく。もちろん、スバルの頭を解放してやることは忘れない。
こうして見ると、学校の休み時間での他愛ない会話そのものだ。ここが殺し合いの場だとは思えない。
余裕があることはいいことだ。切り替えのできる奴だということも分かっている。特にスバルは。
自分は何度か目にしている。
戦いの場へと降り立った瞬間、このやかましい少女の顔が、真剣な戦士の顔へと激変することを。
逆に自分は、気の休め方を知らないのかもしれないな。
そう思って、何だかむしろ自分が未熟なように見えて、こうしてため息を漏らしていたのだった。
「あのー……次、私の番なんですけど」
どこかうんざりとしたような表情と共に、おずおずとレイの手が挙がる。
それを聞いて、青髪とアホ毛の2人組は、水を打ったように静まり返った。
はぁ、と吐き出されるため息。どうやら結局レイもまた、ルルーシュと同じ穴のむじなだったらしい。
互いに警戒し合い、利用する隙を探り合う2人が似たもの同士というのも、奇妙な光景ではあった。
「私もこなたさんと同じで、大体のものはもうみんなに見せてます」
言いながら、ポケットへと手を突っ込む。
取り出したのは3枚のカード。2枚は元から持ち歩いていたもので、1枚は売店での戦利品だ。
これにスバルの預かった拳銃を加えたものが、既に知られている彼女の持ち物。
「あと……この中に人形が1つだけ」
つまりこれから取り出すものが、その大体に含まれていないもの。
スバルの身体検査は簡単なもので、すぐには取り出せないであろうデイパックの中身は、未だ確認していなかった。
デイパックをがさごそとあさり、取り出したのは1つの鞄。
鞄の中に鞄が入っているというのも奇妙な話だが、これとその人形とで、セットで支給されたのだという。
「正直、あまり役に立つとは思えないんですけど……、って、どうしましたスバルさん?」
しかし、その時。
レイが説明をしていたまさにその時。
唯一スバルの表情だけが、思いっきり凍りついていた。
怪訝そうな顔を浮かべる残りの面子。若きフロントアタッカーの肩がわなわなと震える。
いや、知ってるし、これ。
この色といい形といい、すっごく見覚えのある鞄だし。
これの中に入ってる人形とか、もう“あの人”しか思い浮かばないし。
「ちょ、スバルさんっ!?」
次の瞬間、スバルの手が、がばっとバッグを引ったくっていた。
困惑するレイの手から強引に鞄をもぎ取ると、その口を勢いよく開く。
ああ、案の定だ。
やっぱり“この人”が入ってやがった。
自分達とお揃いの茶色い制服着た、水色っぽい銀髪の人形が転がってやがる。
人形みたいなサイズの身体の、小さな小さな上司が眠ってやがる。
何でこんな人までここにいるの。見せしめ含めて61人じゃなかったの。というか、何呑気に寝てるのこの人。
色々と言いたいことはあったが、今彼女が取るべき行動は一つ。
バッグの中身へと手を伸ばし、その身体を引っつかみ。
「リイン曹長! 起きてください、リイン曹長っ!」
思いっきり叫びながら揺さぶった。
◆
「……なるほどです。つまりみんなは、リインとは別のパラレルワールドから集まったんですねー」
間延びした少女の高い声が、コンピューター室に響いていた。
先ほど鞄の中にあった人形が、ふわふわと空中に浮いている。
それどころの騒ぎではない。閉じられていた瞳がまばたきし、その口から言葉を発していた。
作り物、という意味では正しいかもしれないが、彼女はただの人形ではない。
レイに支給された最後のアイテムは――人格搭載型のデバイスだ。
その名も、リインフォースⅡ(ツヴァイ)。
かの闇の書の人格プログラム・リインフォースの力を受け継ぐ、八神はやて直属のユニゾンデバイスである。
単独でもAランク魔導師級の戦闘力を持ち、おまけにスバルよりも階級が上だ。
にもかかわらず、あまり威厳のない子供っぽい性格が、玉に瑕でもチャームポイントでもあるのだが。
「……モンスターと触れ合ってたレイはともかく……何でアンタまで、そんなに冷静なんだ……?」
引きつった顔で、ルルーシュがこなたへと問いかけた。
正直彼は、この状況にまるでついていけていない。
まるで人形のようなサイズの小人が、突然あくびを上げて目を覚まし、挙句ふよふよと空を飛び始めたのだ。
魔法とも精霊ともまるで無縁な、一般人には何をどうリアクションしていいか分からない。
自分の世界も思いっきりSFしてるくせにか、ということは、この際置いておくことにする。
「そりゃまあ、ちっちゃいマスコットは魔法少女モノの基本だし?」
しかし当のこなたはというと、さらりとそう言ってのけた。
おまけにそう言いながら、呑気にも上半身をぐっと屈めて、下方から覗き込むようにリインを見上げている。
「ちょ、ちょっとぉ! じろじろとぱんつ覗かないでくださいー!」
「ほうほう、こりゃまた精巧にできてらっしゃる」
「……はぁ」
図太いというか、何というか。
一応心を許したものの、こいつの心の方はさっぱり分からない。
そう言わんばかりの表情で、額を抑えながら、ルルーシュがまた1つため息をついた。
「ま、まぁそれはともかく……リイン曹長も、ここに連れて来られた時のこと、やっぱり分からないんですか?」
そこへスバルが問いかける。
確かにここらで打ち切っておかねば、話を進めるタイミングを見失ってしまうに違いない。
おまけに、「太ももの質感が」だとか「やはり下も水色か」だとか口走ってるこなたである。
このまま放置しようものなら、遠からずお触りタイムへ突入してしまうだろう。
部下たるもの、上司がピンチの時は助けるのが務め。たとえちっこく可愛いマスコットでも、上司は上司だ。
「それがさっぱりなのですよ。スバル達と同じように、リインも気が付いたらここにいたのです」
「やはり支給品扱いでも待遇は同じか……」
先ほどとはまた別のため息と共に、ルルーシュが呟く。
もしもリインが、自分達とはまた別の形でプレシアに呼び出されていたのなら、そこから反撃の糸口が見つけられたかもしれない。
だが、それも望めないらしい。
道具として支給されたこと以外は、普通の参加者と何も変わりがないようだ。実際、首輪もついている。
「……まぁ、それはいいだろう」
分からないことは仕方ない。
リインの元いた世界の情報も聞き出せたことだ。彼女の件は保留としておく。
今あれこれと騒いだとしても、これ以上の情報は出ないに違いない。であれば、そこにこだわるのは愚かなことだ。
「さて、これからメールの送り主に従い、アカデミアを調べ直すわけだが……その前に、聞いておいてほしいことがある」
切り出した、その瞬間。
発光。
赤く、煌く。
紫色の瞳の中に、炎のごとき赤が宿った。
澄んだ瞳のその奥で、灼熱の不死鳥が羽ばたいた。
ルルーシュの左目の中に浮かぶ、翼のような赤いマーク。
「おおっ」
これにはこなたも驚いたようだ。他の連中も、大体似たような反応を返している。
瞳の色が変わるならまだしも、瞳に模様が浮かぶというのは、そうそうある話でもないだろう。
その辺りを考えるなら、無難な反応だ。
「ギアス。俺の持っている能力だ」
言いながら、目の中の真紅を引っ込める。
王の力の証たる紋様を、一瞬にして消滅させる。
「こなたにはさっき話したが……この力を使えば、視線を合わせた相手を一度だけ、あらゆる命令に従わせることができる」
「一種の催眠術のようなものですねー」
ルルーシュはリインの言葉に頷いた。
一般人には持ち得ない、得体の知れない力という点では、ギアスも魔法も親戚のようなものである。
その点やはり魔導師は、理解も飲み込みも早いらしい。
「本来この力は、自在にオン・オフができるものではないんだが、見ての通りそれが可能になっている。
強者の能力に制限がかけられている状況だ……こいつも弱体化していてもおかしくない。……そこで」
す、と。
その紫色の眼差しが、こなたの方へと向けられた。
「こなたの一人称は、確か『あたし』だったな」
「うん、そうだけど?」
きょとん、とした表情で返すこなた。
だが次の瞬間。
「“その一人称を『ボク』に変えろ”」
視界は赤く染まっていた。
顕現。
再び飛び立つフェニックス。
熱く燃え盛る炎のごとく、艶やかに輝く鮮血のごとく。
王者の力が真紅となり、魔王の言霊を乗せて放たれる。
ギアス発動。
宿された力は絶対遵守。
あらゆる者であろうとも、それが人間である限り、何人たりとも逆らえぬ号令。
招く結果は。
「『ボク』に変えろって言われても……ボクだって現実の人間なんだし、そんなギャルゲか何かみたいな展開が都合よく……」
命令の遂行。
全ての単語は摩り替わる。
あたしは、ボクへと。
「……あ」
「ホントだ……」
「実際に見てみるとすっごいですねー」
まさに奇跡に立ち会った瞬間だ。
こなたは我が身に起こった事象に微かに驚愕、ギャラリーの表情も感嘆に染まる。
あらゆる命令を遂行させる力、ギアス。
そこには誇張も虚偽もなく、見事にその効力を発揮してみせたのだ。
「これで、周りにも変化が分かりやすいだろう……
これから同行する、曹長殿は……今から何時間後にそれが解けるか、調べておいてくれ」
「りょーかいですっ」
左目を押さえるルルーシュの言葉に、リインが敬礼と共に答えた。曹長殿、というのは彼なりの遊び心か。
少年の顔には、微かに苦悶の色が浮かぶ。頬を伝うのは一筋の汗。
耐えられないレベルではないが、やはりきついものがある。
瞳の疼きに耐えながら浮かべた、率直な感想だ。
命令実行に伴う痛覚と脱力感。これが現在判明している、ギアスに課せられた制限だった。
とはいえ、これだけとも限らない。回数制限があるかもしれないし、時間制限があるかもしれない。
そして現在実行したのは、時間制限を計るテスト。
頻繁に用いる一人称なら、変化も分かりやすいだろう。
恩人のこなたにギアスをかけるのは気が引けたが、これくらいの命令なら、彼女もさほど気にすることはあるまい。
ふう、と一息つきながら、額に浮かんだ汗を拭う。痛みもだんだん引いてきたようだ。
「私にこの力を教えたってことは……信用してくれた、ってことですか?」
と。
そこへ。
レイが問いかけてきた。
未だ僅かに興奮している面々の中、たった1人冷めた視線を取り戻した娘が。
そもそもこのタイミングでのギアス披露が、彼女には不自然に思えて仕方ないのだ。
いかに制限があるといえど、強力無比な力であることに変わりはない。
たとえ自分が裏切ったとしても、この力を前にすれば、一瞬で無力化されてもおかしくない。
ならばだからこそ、未だ信用されていないであろう、自分には伏せるべきではなかったのではないか。
何らかの対策を講じられるよりも、不意討ちのように発動した方が、彼にとっては楽ではなかったのか。
「まさか」
しかし。
ふ、と。ルルーシュの口元には、不敵な笑み。
「抑止だよ。額に銃口が向いてると知ってて、刃向かうような馬鹿じゃないだろう?」
それが答えだ。
「……そうですか」
やられた、と思った。
迂闊に口を滑らせたのではない。決して裏切らぬよう、強固に念を押されていたのだ。
確かに今まで通りの彼なら、嘘でごまかせるような時は、ごまかし通してやろうとも思った。
だが、今は違う。どんなに嘘をついたとしても、全てが無駄だと分かっている。
不穏な空気を漂わせたが最後、ギアスで本音を暴かれて、そのまま殺されてしまうだろう。
そう思ってしまった。反逆する気を削がれてしまった。
ついでに言うならば、今の質問もよくなかった。
口を滑らせたのは自分の方だ。結果余計な念押しをされ、付け込む隙を与えてしまったのだ。
逆らうことはできない。上位にいるのはルルーシュだ。それが明確になってしまった。
恐らく今後この男は、自分のことについて今まで以上に詮索してくるだろう。反発できない空気を作ったのをいいことに、だ。
(こいつ……今まで会った誰よりも悪知恵が回る)
改めて、そう認識せざるを得なかった。
下唇を噛み締めて、握る拳を震わせるしかなかった。
「……では先ほど割り振った通り、この施設を調べていくことにしよう。
自分のエリアが終わり次第、速やかに入り口で合流すること。……では、解散」
【1日目 昼】
【現在地 G-7 デュエルアカデミア】
【早乙女レイ@リリカル遊戯王GX】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、『フリーズベント』@リリカル龍騎、『光の護封剣』@リリカル遊戯王GX、
『レッド・デーモンズ・ドラゴン』@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、
リインフォースⅡのお出かけバッグ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS、情報交換のまとめメモ
【思考】
基本:十代を守る。
1.デュエルアカデミアの未確認部分を調査する。終わり次第、入り口で仲間達と合流
2.各施設を回りカードとデュエルディスクを手に入れる。できればチューナーを手に入れたい。
3.ルルーシュは使えるかもしれない。今後の動向を伺う。
4.殺し合いに乗っている者を殺害する。
5.レッド・デーモンズ・ドラゴン……使えるかな?
6.スバル達と方針が合わなかった場合は離脱。ただし、逃げられるかどうか……?
7.フェイト(StS)、万丈目を強く警戒。
【備考】
・リリカル遊戯王GX10話から参戦です。
・フェイト(A's)が過去から来たフェイトだと思っています。
・フェイト(StS)、万丈目がデュエルゾンビになっていると思っています。
スバル達には、「自分の世界のフェイトは、敵に洗脳されているかもしれない」と説明しました。
・ここではカードはデュエルディスクなしで効果が発動すると知りました。
・デュエルデュスクを使えばカードの効果をより引き出せると思っています。
・カードとデュエルディスクは支給品以外にも各施設に置かれていて、それを巡って殺し合いが起こると考えています。
・デュエルアカデミアの3分の2を調べました、どの場所を調べたかについては次の書き手さんにお任せします。
・レッド・デーモンズ・ドラゴンが未来の世界のカードだと考えています。
・シンクロ召喚の方法がわかっていません、
チューナーとチューナー以外のモンスターが必要という事は把握済みですがレベルの事はわかっていません。
・正しい召喚手順を踏まなければレッド・デーモンズ・ドラゴンを召喚出来ないかどうかは不明です。
・リインフォースⅡの参戦時期及び制限は次の書き手にお任せします。
・ギアスの能力を知ったことで、ルルーシュに逆らうことができるかどうかと、若干の不安を抱えています。
・「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、ギアス
【装備】なし
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、
リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【思考】
基本 かがみん、つかさ、フェイトに会いたい
0.ギアスによる命令:自分の一人称を『ボク』に変えろ
1.リインと共に、デュエルアカデミアの未確認部分を調査する。終わり次第、入り口で仲間達と合流
2.アーカード(名前は知らない)を警戒
3.自分にかけられたギアスの持続時間を計測する
4.かがみん達は……友達だよ
5.あのおばさん(プレシア)何考えてるんだろう……
【備考】
・参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
なお、オタク知識については思い出してはいないものの消されているという事実には気が付きました。
しかしそれをスバル達に話すつもりはありません。
・パラレルワールドの可能性に行き当たり、かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、
彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
・参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付いていません。
・ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
・この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
・ギアスの持続時間は後続の書き手さんにお任せします。
・「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
【リインフォースⅡ思考】
基本 スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する
1.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい
2.こなたと共に、デュエルアカデミアの未確認部分を調査する。終わり次第、入り口で仲間達と合流
3.こなたにかけられたギアスの持続時間を計測する
4.はやて(StS)が心配
※スバル達が自分とは違う世界から来ていることに気付きました。
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