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「Burning Dark(後編)」(2009/08/14 (金) 10:07:12) の最新版変更点
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*Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI
ぎん、と。
鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。
驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。
バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。
荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。
自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。
おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。
断言しよう。こいつは強い。
自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。
それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。
いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。
仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。
もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。
どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。
それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。
つまり、アンデルセンは無敵ではない。
であれば、倒せる。
ばさ、と。
背後の片翼を羽ばたかせた。
戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。
相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。
そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。
敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。
舌打ちと共に振り返るアンデルセン。
さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。
「はぁっ!」
気合と共に、一閃。
振り向くその刹那に、一撃。
バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。
肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。
この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。
使うと擦り減る。勿体ない。
故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。
だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。
「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」
「ブリザガ!」
そして今回は、これだけではない。
ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。
故に、戦い方を変える。
突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。
マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。
迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。
命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。
自慢の再生は中断される。
「ぬおっ……」
「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」
「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」
ぴしっ、と。
ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。
そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。
込められた気合が。発揮される気迫が。
氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。
当然の帰結だ。
そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。
であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。
だが。
「――氷を砕くために、その足を止める!」
それが狙いだ。
突撃。すれ違いざまに、また一閃。
氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。
当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。
治り始めたところを、また即座に氷結。
「俺がその隙を許すと思ったか」
再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。
これが彼の狙いだ。
いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。
これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。
だが、ここにいるのは常人ではない。
アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。
互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。
回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。
これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。
無論、だからといって楽に勝てるわけではない。
普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。
自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。
ばさ、と羽ばたく。
怒濤の三撃目を叩き込まんと。
「チィッ!」
されど、回避。
まさしく紙一重。
その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。
お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。
鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。
これも回避。
振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。
大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。
(防御を捨ててきたか!)
さすがにそう簡単にはいかないようだ。
この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。
素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。
「Amen!」
そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。
これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。
ぎん、と。
弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。
やはり手ごわい。
再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。
少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。
鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。
間違いない。
これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。
このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。
そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。
ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。
そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。
びゅん、と。
純白の翼が疾風と化す。
眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。
振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。
そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」
「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」
一度斬りかかれば反撃も一度。
二度打ちかかってくれば反撃も二度。
十度の攻撃は十度の反撃。
百度の猛攻は百度の反撃。
目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。
さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。
激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。
アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。
一歩も押せず、一歩も引かず。
両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。
パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。
しかし、均衡は崩れなかった。
どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。
「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」
「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」
ただありのままに、互いの一撃一撃を。
憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。
そして――
《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》
剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。
◆
今のは何だ。
ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。
それはアンジール達も同じようだ。
互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。
アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。
大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。
であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。
轟、と。
地鳴りのような音が響く。
いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。
揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。
陽炎を起こす炎の音だ。
そしてその音源は――――――北から来る!
「いかん……チンク、逃げろッ!」
アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。
一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。
「なっ……!」
鬼だ。
まさしく炎の鬼の姿。
屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。
凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。
溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。
理性で判断している余裕などない。
一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。
かわせるか。いいや、かわすしかない。
あんなものを食らってはひとたまりもない。
かっ、と。
地面を叩き、バックステップ。
思い出したように、ハードシェルの準備を整える。
だが。
その時には既に遅かった。
一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。
「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」
炎がその身に襲いかかった。
◆
単刀直入に言おう。
この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。
その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。
クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。
事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。
だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。
召喚獣の破壊力は絶大。
骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。
まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。
そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。
まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。
雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。
続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。
たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。
間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。
真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。
そして、アレクサンド・アンデルセン。
いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。
彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。
故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。
そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは――
――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。
◆
凄まじい圧力を身体に感じている。
凄まじい熱量が身体を舐めている。
抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。
くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。
そうだ。これこそが真の化物だ。
人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。
掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。
だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。
殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。
語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。
偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。
それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。
それがどうした。
そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。
絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。
既に身体は動かない。
アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。
再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。
情けない。
何だこの体たらくは。
法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。
このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。
アンジールやチンクを放置したまま。
あの男との決着もつけられぬまま。
――アーカードを殺せぬまま。
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」
&color(red){【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】}
&color(red){【残り人数:42人】}
※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。
道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。
※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。
アレクサンド・アンデルセンは死んだ。
道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。
それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。
だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。
もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。
「……チンク……」
肩を震わせ、呟く。
視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。
何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。
姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。
小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。
いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。
ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。
「俺はまた……守れなかったのか……」
彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。
肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。
間に合わなかった。
イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。
その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。
地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。
自分のせいだ。
自分の力不足が彼女を殺した。
あの時回避をチンクに任せなければ。
距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。
2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。
「……くそ……ッ!」
後悔が。絶望が。
男の顔を、歪ませる。
【1日目 午前】
【現在地 G-6 大通り】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
基本:クアットロを守る。
1.チンク……
2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。
3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。
4.いざという時は協力するしかないのか……?
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※制限に気が付きました。
※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。
※チンクが死んだと思っています。
※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。
全てを見ていた者がいた。
戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。
黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。
薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。
「……お疲れ様」
ぽつり、と呟いた。
視線の先にある、宝石のような球体へと。
マテリアだ。
魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。
人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。
そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。
対応する召喚獣の名は、イフリート。
そう。
彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。
スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。
全てはほんの偶然だった。
元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。
しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。
――あの光と風に従ってみよう、と。
ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。
あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。
少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。
あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。
幸いにも、ここからもそう遠くない。
生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。
そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。
そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。
切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。
ちょうどいい。
3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。
起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。
見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。
体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。
しかし、1つだけ不満がある。
あれだけの猛威を振るっておきながら。
「殺せたのは1人だけ……か……」
【1日目 午前】
【現在地 F-6 大通り】
【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念
【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現!
【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、
エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン
【思考】
基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。
1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。
2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。
3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。
4.一応18時に地上本部へ行ってみる?
5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。
【備考】
※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。
※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。
※ユーノが人間であると知りました。
ふらり、ふらり、と。
おぼつかない足取りが、前へと進む。
ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。
火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。
チンクは生きていた。
ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。
イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。
そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。
考えるべき事項はいくつかあった。
アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。
見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。
何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。
だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。
それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。
ぼとり、と。
コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。
それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。
「……参ったな、ディエチ……」
か細い声が、呟く。
天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。
地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。
爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。
その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。
全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。
だが、その代償もある。
それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。
アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。
「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」
す、と。
金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。
【1日目 午前】
【G-7 デュエルアカデミア外部】
【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望
【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA's、
被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、
大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕
【思考】
基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。
1.ディエチ……姉は……
2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。
3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。
4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。
5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。
6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。
7.十代に多少の興味。
8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。
9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。
10.天上院を手駒とする。
【備考】
※制限に気付きました。
※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。
※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。
※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。
※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は
皆同一人物の可能性が高いと考えています。
※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。
※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。
協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車
保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた
要注意人物……十代
※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。
※アンデルセンが死んだことに気付いていません。
※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。
※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。
※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。
|Back:[[Burning Dark(前編)]]|時系列順で読む|Next:[[]]|
|~|投下順で読む|Next:[[銀色の夜天(前編)]]|
|~|チンク|Next:[[過去 から の 刺客(前編)]]|
|~|&color(red){アレクサンド・アンデルセン}|&color(red){GAME OVER}|
|~|アンジール・ヒューレー|Next:[[Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編)]]|
|~|ルーテシア・アルピーノ|Next:[[過去 から の 刺客(前編)]]|
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*Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI
ぎん、と。
鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。
驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。
バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。
荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。
自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。
おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。
断言しよう。こいつは強い。
自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。
それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。
いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。
仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。
もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。
どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。
それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。
つまり、アンデルセンは無敵ではない。
であれば、倒せる。
ばさ、と。
背後の片翼を羽ばたかせた。
戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。
相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。
そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。
敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。
舌打ちと共に振り返るアンデルセン。
さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。
「はぁっ!」
気合と共に、一閃。
振り向くその刹那に、一撃。
バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。
肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。
この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。
使うと擦り減る。勿体ない。
故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。
だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。
「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」
「ブリザガ!」
そして今回は、これだけではない。
ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。
故に、戦い方を変える。
突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。
マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。
迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。
命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。
自慢の再生は中断される。
「ぬおっ……」
「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」
「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」
ぴしっ、と。
ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。
そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。
込められた気合が。発揮される気迫が。
氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。
当然の帰結だ。
そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。
であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。
だが。
「――氷を砕くために、その足を止める!」
それが狙いだ。
突撃。すれ違いざまに、また一閃。
氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。
当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。
治り始めたところを、また即座に氷結。
「俺がその隙を許すと思ったか」
再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。
これが彼の狙いだ。
いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。
これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。
だが、ここにいるのは常人ではない。
アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。
互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。
回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。
これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。
無論、だからといって楽に勝てるわけではない。
普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。
自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。
ばさ、と羽ばたく。
怒濤の三撃目を叩き込まんと。
「チィッ!」
されど、回避。
まさしく紙一重。
その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。
お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。
鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。
これも回避。
振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。
大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。
(防御を捨ててきたか!)
さすがにそう簡単にはいかないようだ。
この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。
素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。
「Amen!」
そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。
これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。
ぎん、と。
弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。
やはり手ごわい。
再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。
少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。
鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。
間違いない。
これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。
このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。
そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。
ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。
そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。
びゅん、と。
純白の翼が疾風と化す。
眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。
振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。
そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」
「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」
一度斬りかかれば反撃も一度。
二度打ちかかってくれば反撃も二度。
十度の攻撃は十度の反撃。
百度の猛攻は百度の反撃。
目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。
さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。
激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。
アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。
一歩も押せず、一歩も引かず。
両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。
パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。
しかし、均衡は崩れなかった。
どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。
「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」
「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」
ただありのままに、互いの一撃一撃を。
憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。
そして――
《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》
剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。
◆
今のは何だ。
ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。
それはアンジール達も同じようだ。
互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。
アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。
大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。
であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。
轟、と。
地鳴りのような音が響く。
いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。
揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。
陽炎を起こす炎の音だ。
そしてその音源は――――――北から来る!
「いかん……チンク、逃げろッ!」
アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。
一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。
「なっ……!」
鬼だ。
まさしく炎の鬼の姿。
屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。
凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。
溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。
理性で判断している余裕などない。
一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。
かわせるか。いいや、かわすしかない。
あんなものを食らってはひとたまりもない。
かっ、と。
地面を叩き、バックステップ。
思い出したように、ハードシェルの準備を整える。
だが。
その時には既に遅かった。
一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。
「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」
炎がその身に襲いかかった。
◆
単刀直入に言おう。
この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。
その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。
クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。
事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。
だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。
召喚獣の破壊力は絶大。
骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。
まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。
そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。
まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。
雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。
続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。
たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。
間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。
真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。
そして、アレクサンド・アンデルセン。
いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。
彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。
故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。
そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは――
――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。
◆
凄まじい圧力を身体に感じている。
凄まじい熱量が身体を舐めている。
抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。
くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。
そうだ。これこそが真の化物だ。
人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。
掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。
だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。
殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。
語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。
偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。
それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。
それがどうした。
そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。
絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。
既に身体は動かない。
アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。
再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。
情けない。
何だこの体たらくは。
法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。
このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。
アンジールやチンクを放置したまま。
あの男との決着もつけられぬまま。
――アーカードを殺せぬまま。
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」
&color(red){【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】}
&color(red){【残り人数:42人】}
※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。
道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。
※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。
アレクサンド・アンデルセンは死んだ。
道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。
それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。
だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。
もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。
「……チンク……」
肩を震わせ、呟く。
視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。
何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。
姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。
小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。
いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。
ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。
「俺はまた……守れなかったのか……」
彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。
肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。
間に合わなかった。
イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。
その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。
地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。
自分のせいだ。
自分の力不足が彼女を殺した。
あの時回避をチンクに任せなければ。
距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。
2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。
「……くそ……ッ!」
後悔が。絶望が。
男の顔を、歪ませる。
【1日目 午前】
【現在地 G-6 大通り】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ
【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers
【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
基本:クアットロを守る。
1.チンク……
2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。
3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。
4.いざという時は協力するしかないのか……?
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※制限に気が付きました。
※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。
※チンクが死んだと思っています。
※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。
全てを見ていた者がいた。
戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。
黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。
薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。
「……お疲れ様」
ぽつり、と呟いた。
視線の先にある、宝石のような球体へと。
マテリアだ。
魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。
人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。
そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。
対応する召喚獣の名は、イフリート。
そう。
彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。
スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。
全てはほんの偶然だった。
元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。
しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。
――あの光と風に従ってみよう、と。
ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。
あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。
少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。
あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。
幸いにも、ここからもそう遠くない。
生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。
そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。
そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。
切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。
ちょうどいい。
3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。
起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。
見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。
体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。
しかし、1つだけ不満がある。
あれだけの猛威を振るっておきながら。
「殺せたのは1人だけ……か……」
【1日目 午前】
【現在地 F-6 大通り】
【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念
【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現!
【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、
エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン
【思考】
基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。
1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。
2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。
3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。
4.一応18時に地上本部へ行ってみる?
5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。
【備考】
※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。
※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。
※ユーノが人間であると知りました。
ふらり、ふらり、と。
おぼつかない足取りが、前へと進む。
ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。
火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。
チンクは生きていた。
ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。
イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。
そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。
考えるべき事項はいくつかあった。
アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。
見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。
何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。
だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。
それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。
ぼとり、と。
コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。
それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。
「……参ったな、ディエチ……」
か細い声が、呟く。
天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。
地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。
爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。
その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。
全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。
だが、その代償もある。
それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。
アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。
「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」
す、と。
金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。
【1日目 午前】
【G-7 デュエルアカデミア外部】
【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望
【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA's、
被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、
大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕
【思考】
基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。
1.ディエチ……姉は……
2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。
3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。
4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。
5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。
6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。
7.十代に多少の興味。
8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。
9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。
10.天上院を手駒とする。
【備考】
※制限に気付きました。
※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。
※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。
※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。
※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は
皆同一人物の可能性が高いと考えています。
※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。
※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。
協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車
保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた
要注意人物……十代
※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。
※アンデルセンが死んだことに気付いていません。
※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。
※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。
※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。
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|~|&color(red){アレクサンド・アンデルセン}|&color(red){GAME OVER}|
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