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*Nightmare of Shirley(前編)◆7pf62HiyTE
結論は出た―――
シャーリー・フェネットは1人デュエル・アカデミアに向かっていた―――
自身の父親であるジョセフ・フェネットを殺したテロリストゼロであり―――
自身のクラスメイトであり初恋の相手ルルーシュ・ランペルージに会う為に―――
手にしているのは自身のデイパックとアカデミア売店の鍵、そして拳銃だけ―――
シャーリーはゼロ=ルルーシュを殺す為に彼の待つアカデミアに向かっていたのだ。
その様子など一緒にいたヴィヴィオに見せられるわけがない。だからこそ彼女はヴィヴィオを一時的に置いていったのだ。
彼女を守る為にジェットエッジとクラールヴィントは置いていった。これで一時的に身を守る事は可能だと考えたのだ。
少し考えればこれらを置いていった所でヴィヴィオが自身の身を守れる事など出来ない事など誰にでも解る。しかし、ルルーシュの事で頭が一杯だったシャーリーにはその様な冷静な判断を下す事など出来なかった。
それは行動を起こしたタイミングからもわかる話だ。彼女がヴィヴィオと別れたのは放送の約5分前―――そう、放送の存在を失念していたのである。
たった1人でいる所で親しい者の死を知らされるのがどれぐらい辛い事か少し考えればわかる話だ。当然呼ばれる可能性は充分にある―――そして実際ヴィヴィオのママであるフェイト・T・ハラオウンの名前が呼ばれた。
しかし、今のシャーリーはその事すら考えることは出来なかった。放送の中身自体はある程度頭には入ってはいるだろうが、今の所はルルーシュが生きている事以外の事は考えられなかった。
他の参加者の生死について考える事が出来ないぐらい今のシャーリーはこれからすべき事で頭が一杯だったのである。
当然の事だが後方で煙が上がっている事など気付くわけがない。
ゆっくりと、ゆっくりと、シャーリーはルルーシュの元に近付いている。
しかしだ、近付く度に足取りが遅くなっている様な気がする。
結論は出した筈なのに―――まだ迷っているのだろうか?―――
当然の話だ、これはどのケーキを食べようかで迷うという単純な問題ではない。
シャーリー・フェネットの人生における重要な決断なのだ。結論を出した所で行動に移す瞬間まで迷うのは当然と言えよう。
もしかしたら―――ルルーシュの顔を見た瞬間に結論を変える可能性だってあった―――
つまり彼女の出した結論が最終的にどのようになるのか、それはシャーリー自身すらもわからない話である―――
だが、状況は彼女を追いつめていく―――
アガデミアのある方向で何かの衝撃音が響いた。アカデミアにいるルルーシュに何かが起こったという事だろう。故に急がなければならない―――
だが、足取りは重くその歩みは遅い。未だ迷いがあるのだろう。
故に彼女は気付けない―――
ほんの少し冷静に周囲を見渡す事が出来ればルルーシュと再会出来た可能性があった事に―――
何を以てしてもルルーシュを殺す―――
それが早乙女レイの出した結論だ。遊城十代を守る為に行動していたが、不幸にも十代は死んでしまった。
更にこなた達の会話を聞いて生還しても十代がいる世界には戻れず、蘇生すら出来ないと判断してしまった。
故にレイは十代を殺したであろう誰かを、そして自分の動きを封じた元凶であるルルーシュを殺す事にしたのだ。
この時点で既に冷静ではなかったがこの時の彼女にはまだ迷いがあった。
故に運良く拳銃を手にし気を失っていた彼に向ける事が出来ても発砲する事は出来なかったのだ。
しかし、このタイミングで目覚めたルルーシュが『俺に従え』とギアスを放ったのだ。
レイの心中としては何故有無を言わさず自分の意志を奪おうとしたのかが解らなかった。まだ銃を向けただけではないか、撃つのを封じるだけで良かった筈だ。そのルルーシュの暴走とも言える行動によって―――
―――レイは弾けた―――
もう迷わない、絶対にルルーシュを殺すと―――
幸か不幸かそのタイミングでアガデミアに衝撃が走り瓦礫が落下した事で自身を襲おうとしたギアスは届かなかった。しかしギアス自体は発動していた為ルルーシュは再び気絶した。
この好機を見逃すレイではない、再び拳銃をルルーシュに向けて発砲した―――
結論を言えばその時の自分の叫び声でこなたとリインが気付いた為、銃弾を外す結果となってしまった。そして気が付いたら自分以外の者はいなくなっていた。
裏口から逃げた事はわかるしルルーシュの血痕もあった為逃げた方向は容易にわかった。
事態が事態故、こなた達は何も持たずに逃げ出した様だった。当然の事だがレイはその全て―――4つのデイパックとその中身を回収した。武装が充分に揃ったのはあまりに都合が良すぎる話だ。
しかもだ、このタイミングで衝撃が起こった理由は不明だがほぼ間違いなく殺し合いに乗った襲撃者が現れたのだろう。その場所はスバル・ナカジマがいるであろうエントランス方向……
恐らく彼女はそこにいる襲撃者に対処せざるを得ない。故に彼女も動けない。
そう、全てが彼女にとって好機だったのだ―――あまりにも遅すぎた―――
故に彼女はルルーシュを追い、そして彼を殺すと―――
既にこなた達の姿は見えなくなっていたが血痕を辿ればその方向は煙の見える方向、ルルーシュを背負っている状況ならばそう距離は離れていない。故に拳銃と動きを封じる事の出来るであろう光の護封剣を構え移動を始めたのだ。
光の護封剣でルルーシュ達の動きを封じ拳銃でトドメを刺す、それがレイの立てた作戦である。わざわざモンスターを召喚する必要はない。
こなたに関しても殺すつもりでいた。ルルーシュを殺すのを妨害したわけだし、そもそも足止めする羽目になった原因に彼女も全く関わっていないわけではない、同罪だとレイは判断した。
リインに関しては2人さえ死に彼女から離れれば放っておいても行動不能になる為何の問題もない。
それにこなたを殺しておけばこれで2人死んだ事になりプレシアの言っていた御褒美がもらえる可能性が高まる。運が良ければ十代を殺した相手が分かりそいつの元に移動する事も出来るだろう。乗らない理由は全く無い。
そして十代を殺した者に出会ったならば『バスター・ブレイダー』及び『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を召喚し全力を以てそいつを仕留める……そして全てが終われば自分も死ぬ……それがレイの考えた今後の行動方針だ。
だが、まずはルルーシュの元に追いつかなければならない。故に彼女は血痕を辿り煙の上る方向に向かう―――
その途中、血痕自体は途切れ足取りは辿れなくなった。だが、自分に襲われる可能性がある以上わざわざ戻る可能性は皆無、故にレイは進行方向自体は変えずに進む―――煙が上る方へと―――
客観的な話をすればレイの心情は理解出来なくもない。だが、些か結論を急ぎすぎていたと言えよう。
そもそも本当に十代とレイは自分と同じ世界から連れて来られたのだろうか?
彼女が同一世界から連れてきたと判断したのは、一般人である2人を違う世界から連れてきて誤解を招く可能性が皆無だからだ。
だが、本当にそうであろうか? 絶対に無いと言い切れるのか?
仮に十代達がジェネックス開催中やセブンスターズと戦っていた頃から連れて来られたならばレイは『過去に一度丸藤亮に会いに来て、その時に十代に好意を持った少女』という程度の認識しかない。
レイが再びデュエルアカデミアにやって来たのはジェネックスも終盤の時期だからだ。
その頃の十代達ならば早乙女レイの存在を失念している可能性が高い……そんな事は無いだって? ラーイエローに割と長い間いた誰かの存在を忘れる様な連中だ、そんな可能性が無いなんて言えるのか?
勿論これは少々乱暴な暴論だ。だがそれとは別にしてもある並行世界で十代が危険人物もしくは重要人物になっている可能性が0だと言えるのか?
参加者の誰もが知らない話……プレシア・テスタロッサも把握しているかは不明だがある世界の話をしよう。
覇王の軍勢が世界を蹂躙している世界があった―――
その世界にて高町なのはは覇王軍に属するモンスター達と戦っていた―――
だが、彼女は強い者との戦いを楽しみ、弱い者に対しての虐殺を楽しんでいた―――
これだけでも充分信じられない話ではあるがそれ以上に信じられないのは―――
覇王の正体が遊城十代だった事である―――
その世界の行く末などここでは重要ではない、その世界の十代ならば殺し合いに乗るのは明白、連れてくるメリットは大いにある。
勿論、そんな世界の存在など普通は信じられはしない。だが、レイが最初に出会った9歳のフェイトを考えれば19歳のフェイトの姿なんて到底想像出来やしない。それと同じ事なのだ。
そこまで考えれば本当に同一世界だと結論付ける事なんて出来るのか? いや、出来やしない。
また、連れてくる世界が増えればそれだけ管理局に発見されるリスクが増大するとあるがこれも正しいと言えるのか?
いや、確かにリスクは増大する。もしかしたら無駄とも言えるかも知れない。
だが、その無駄を行っている証拠は存在する。『レッド・デーモンズ・ドラゴン』のカードがそれにあたる。
細かい説明は省くがこのカードもデュエルモンスターズのカードではあるもののレイにとっては未知のそのカードは未来のカードだと判断していた(厳密には並行世界のものだが)。
だが、そんなカードをわざわざ持ってくるメリットなんて何処にある? 攻撃力3000のカードならレイのいた世界にも存在する『青眼の白龍』等を用意すれば済む話だろう。何故そんな無駄な事をする必要がある?
そもそもの話だ、幾らデメリットが大きくなるからと言っても既に参加者だけを見ても6つ(レイ、フェイト、スバル、こなた、ルルーシュ、リイン)の世界から連れて来られているのを確認している。
実数自体はまだ多いだろうし支給品まで含めればその数は更に増大する。その中で今更1つ増やした所でリスクに大差なんて無いとは思わないか?
それ以前にだ、どんなにリスクがあるとしてもメリットが僅かにあるならばその可能性は0では無い筈だ。もう少し冷静でいたならそれぐらい考えられた筈である。
また、十代復活の望みが無いというのも勝手な決めつけでしかない。確かに可能性は0に近いかもしれないが本当に0だと言い切れるものではない。もう少し情報を集めてからでも遅くは無かったはずだ。
少なくても……放送後に1人で考えていた時のレイだったらそんな結論は出さなかった筈だった。だが、やはり十代の死亡のショックが抜け切れていなかったのだ。こなた達の話をそのまま受け取り早々に結論付けてしまったのだ。
だが、最早レイを止める事などまず不可能だ。今のレイはルルーシュ、そして十代を殺した者に対する憎悪に囚われており冷静な判断など下せる筈がない。
武器さえなければまだ止められただろうがが彼女の手元には充分な武器は揃っている。並の説得では逆に彼女を暴走させる結果にしかなりはしない。
誰が何を言ってもレイには届きはしないだろう。天上院明日香や万丈目準の声すらも―――
彼女の頭には自身の目的を果たす事しか無かった―――2人を殺し自殺をすると―――
しかし、レイは最も重要な事を失念していた―――殺し合いに乗った参加者に襲われる可能性? それもあるだろうがここで言っているのはそれ以上に最もシンプルな事だ―――
その事に気付かぬままレイは進む。そして―――
少し時間を戻そう―――
ヴィヴィオを下ろしたシャーリーはデイパックからジェットエッジとクラールヴィントを出して彼女に渡し、
「お姉さん……」
「ちょっと、お姉さん大事な用事を済ませてくるから待っていてくれる? 大丈夫、用事が済んだらすぐに戻ってくるから―――」
「もしかして、ルルってお兄さんの所に行くの?」
「うん……ちょっと大事なお話をしにね」
「ヴィヴィオも連れ……」
「ダメ! 本当に大事な用事だから……お願い、言う事を聞いて……」
そう言うシャーリーの表情は何処か辛そうであった為、シャーリーが心配なヴィヴィオとしては一緒に行きたかった。だが、辛そうなシャーリーの表情を見てしまっては連れて行って何て言えやしない。
「うんわかった……早く戻ってきてね……ルルお兄さんと一緒に―――」
「うん……何かあったらこれを使って身を守ってね」
そう言ってシャーリーはヴィヴィオの元を去っていった―――
正直な所、ヴィヴィオは不安だった―――シャーリーがルルーシュを殺しに行ったのではないのかと―――
思い返せば、シャーリーの『ゼロ』に対する憎しみが大きいのは彼女の態度を見れば明らかだ、それこそ殺しかねない位の。
だがその一方で沢山ルルーシュについての話を聞かされた為、彼に強い好意を抱いているのもわかっていた。
そのルルーシュがゼロだった―――それを知ったシャーリーがどうするのかが正直わからなかった。
当然の話だがヴィヴィオとしては誰一人として死んで欲しくはない。それが例え殺し合いに乗っている人物だとしてもだ。
更に仲の良かった友達同士ならば尚の事だ。シャーリーとルルーシュに何があったのかはわからない。でも、出来るならば仲良くして欲しいと思っていた。
だが、ヴィヴィオは無力だ―――幾ら聖王と言われた所で今の彼女は魔力を持った幼子でしかない。故に彼女にはシャーリーを信じる事しか出来なかったのだ。
ルルお兄さんと一緒に戻ってくると―――それは彼女の出来る精一杯の願いだったのだ。
シャーリーが去ってから少しすると、2度目の放送が始まった―――聞かされた内容はヴィヴィオにとって辛いものだった。
スバルの姉であるギンガ・ナカジマやなのはとフェイトの友達であるはやてが死んだ事もショックだった―――
さっき自分を元気づけてくれたザフィーラが死んだ事もショックだった―――
そして何より、フェイトママが死んだ事がショックだった―――
座り込んでヴィヴィオは1人泣いた。最初の放送の時は側にシャーリーも浅倉威もいてくれた。だが、今は自分しかいない。ヴィヴィオを元気づけてくれる人など誰もいなかった。
その一方でヴィヴィオは考えていた―――何故見かけた時は元気だったザフィーラが死んでしまったのだろうか? あんなに元気だったのにどうしてだと……
考えた所で答えなんて出るわけがない。だが、泣いている内に思い出したのだ。あの時ザフィーラは様々な事で落ち込んでいるヴィヴィオを元気づけてくれた。
そんなザフィーラが只泣いているのを望んでいるだろうか? なのはやフェイトにしてもそんなヴィヴィオの姿を見たいと思うだろうか?
そんなはずはない。みんなこんな逆境に負けずにこの殺し合いを脱してくれる事を望んでいるはずだ。
そう考えた時、ヴィヴィオは負けたくないと思った。それが死んでいったザフィーラ達が望んでいる事なのだから、「強くなる」となのはと約束したのだから―――
それでも今だけは泣かせて欲しい―――ヴィヴィオは1人泣いたのだ。
そして何時しかヴィヴィオは泣きやみ座ったままシャーリーが帰ってくるのを待った。放送ではシャーリーもルルーシュも呼ばれなかった。
きっと今2人は話をしており、それが終わったら戻ってくるはずだ。ヴィヴィオはそれを信じて待った。少し離れた方で煙が上がったのが見えたがヴィヴィオはその場から動かずシャーリー『達』の帰りを待った―――
こういう状況って『進路に光明、退路に絶望』って言うのかな……いや、違うなぁ―――
仮にこういう事を言えば柊かがみが『何のゲームの台詞だ?』とツッコミを入れ、
高良みゆきが正解を言い、
柊つかさがそんな会話を聞いて笑っているんだろうが―――
この状況で反応をしてくれる者など誰もいないし、そこまで状況が読めないほど泉こなたも馬鹿ではない。故に考えはしたものの口にしたりはしない。
泉こなたはリインフォースⅡと共に傷の悪化とギアスによる後遺症で気を失っているルルーシュを背負ってアカデミアから逃げていた。
逃げている相手はアカデミアを襲った襲撃者ではない。先程まで行動を共にしていたレイだ。
襲撃の際に瓦礫が崩れルルーシュは再び出血し、そのタイミングで側にいたレイがルルーシュに発砲したのだ。それ自体はリインが防いでくれたものの、危険である事に変わりが無かった為、こなたはルルーシュを背負いリインと共に逃走する事にしたのだ。
本音を言えばスバルと合流したかったが衝撃があったのはスバルがいると思われるエントランス……恐らく彼女は襲撃者への対処に追われているのだろう。故に合流するわけにはいかない。
だが、一連の騒動でこなたは殆どの手持ち道具を置いて来てしまった。あるのはルルーシュが今も身に付けているインカムぐらいである。
地図もなく、時間も無い状況で目的地などとっさに浮かぶわけもない。ひとまず見えた煙の方向に向かって進んでいる。
しかし、少し考えれば煙のいる方向には殺し合いに乗った危険人物がやって来る可能性があるのはわかる話だ。こなたは自ら危険な方向に足を進めているのである。
だが、危険と判っていても今更引き返すわけにはいかない。後方からはすぐにでもレイが自分達を殺す為に追い掛けてくるだろう。ルルーシュの血痕を見れば方向を見出す事は容易い。
それに気付いた時、こなたは自身の制服のスカーフをリインに渡しそれを使う事でルルーシュの止血を行う事は何とか出来た。
これ以上、血痕を辿られる心配は無くなったがそれでも方向だけは読まれている。逃げ続けなければならない事に変わりはない。が、ルルーシュを何処かで休ませなければ危険な状態な事にも変わりはない。
せめて何処か都合の良い場所で休ませる事が出来れば良かったがそんな都合の良い場所などピンと来るはずもない。
ともかく今は移動を続けるしかない。しかしだ、ルルーシュを背負っているこなたの体力も何れは限界が来る。煙の出ている場所まで辿り着けるかどうかは微妙、辿り着いた所で襲われる可能性だって高い、正直どうしたらいいのかなどわからなかった。
一番良いのはルルーシュを見捨てて何処かに隠れる事だ。レイの狙いがルルーシュに向いているならそれが自分の身を守る上で一番確実だ。
それでなくてもルルーシュは瓦礫が落ちる直前、突然レイに絶対遵守のギアスをかけようとしたのだ。ある種の洗脳能力とも言えるギアスを有するルルーシュを危険人物としてこのまま捨てておいても問題はないだろう。
しかしこなたにはそんな事は出来なかった。死にそうになっている人を放置出来ないから? 確かにそれもあるかも知れない、だが本当にそれだけなのか?
その最中、こなたは前方で少女が1人座っているのが見えた。
「あれ?」
こなたはその少女に接近していくが、その時にリインが、
「あれは……ヴィヴィオ!!」
座っている少女はなのはやフェイト達機動六課が保護し、なのはとフェイトの娘となったヴィヴィオであった。
リインの声を聞いてヴィヴィオは、
「え……リイン? それにお姉さんは……」
そう答えたリインの目には涙を流した跡があった。それを見たこなたは、
「……大丈夫、お姉さん達は殺し合いに乗っていないよ」
笑顔でそう答えた。そんな中、ヴィヴィオはこなたに背負われているルルーシュを見て、
「ルルお兄さん!」
「え、ルルーシュを知っているですか?」
「ちょっと待って、どういうこと?」
ルルーシュを知っていた事を驚く2人だったが、
「シャーリーお姉さんは?」
更にヴィヴィオはシャーリーの事を聞いてくる。話を聞いた所、シャーリーはルルーシュに会いに行ったという話だ。だが、
「ごめん……見てないや……」
「リインもルルーシュの治療に集中していたですから……」
こなたは前を向いて逃げる事に必死だったし、リインはルルーシュの治療に専念していた為、シャーリーを見ていなかったのだ。
「多分行き違いになったと思うですけど……」
「今戻ったらレイに追いつかれるよね……」
シャーリーの事が気がかりではあったが、レイに襲われる可能性を考え戻るという選択肢を除外する。その一方で、
「不味いなぁ……今のレイとシャーリーって人が鉢合わせになったら……」
「危ないですよ……」
レイとシャーリーが出会った時に起こる最悪な事態が頭をよぎる。しかし、今はヴィヴィオやルルーシュの事も気がかりなので2人については出会わないで欲しいと祈る事ぐらいしか出来なかった。
ともかく詳しい話を聞きたかったが、移動もしておきたい。しかし煙の方向は危険……途方に暮れつつこなたは周囲を見回すが……
「え……ちょっと待って……何であんな所に……?」
かくして最悪な事態は起こる―――
シャーリーの眼前に見慣れない赤い制服を着た少女が近付いて来た。少女は何処か思い詰めた表情でその手には見慣れない拳銃を持っていた。
彼女が何者かはわからない。だが見た目から考えてイレブンつまり日本人であったことから黒の騎士団の団員なのかもしれない。実際、日本人と思われる参加者は割といた為その可能性は十分にある。
その表情から危険人物の可能性が高かった。だが、ルルーシュのいたアカデミア方向からやって来た事を踏まえれば、もしかしたらアカデミアで起こった事やゼロ=ルルーシュの事が聞けるかも知れない。
意を決してシャーリーは口を開く、
「ちょっと聞きたいんで……」
「今、黒い服を着た人を見かけなかった!?」
だが聞くよりも早く少女から質問されたのだ。凄い剣幕だった為、言おうとした事が言えなかった。
黒い服を着た人と言えばルルーシュ=ゼロしかいない。恐らく彼女はゼロを探しているのだろう。だが、シャーリーは彼を見かけていない為、
「ごめん、誰も見ていないけど……」
そう答えるしかなかった。
ここで視点を赤い制服を着た少女、レイの方に切り替えてみよう。幾らこなた達の状態ではそんなに早く移動は出来ないとはいえ急いだ方が良いのは明白だ。
だが、やって来た浴衣の少女から何かルルーシュの目撃情報を聞けるかも知れない。故に少女が聞くよりも早くレイは黒い服を来た人を見かけたかどうか聞いた。
ルルーシュの名前を出さないで黒い服と聞いたのは名前を知らない可能性があったし何より黒い服はこの昼間では非情に目立つ。見ているならばすぐにわかるはずだからだ。
なお、見かけたのならば。本当にルルーシュかどうか確かめる為、右腕を失っていたかとか桃色の制服を着た少女はいたかとか聞くつもりであった。
だが、少女の返答は否定であった。ルルーシュを見かけたという情報が得られるならばともかく、そうでないならば構っている時間なんて無い。
フェイトやスバルといった他の参加者と関わって悠長にしていた事が十代の死に繋がった以上、最早レイは他人と関わるつもりなどなかった。武器は充分に揃っている、ここでルルーシュを逃がすつもり等ない。
そんな事は止めるべきだと説得して来たとしてもレイに止める意志など全く無い。邪魔するならば殺すつもりでいた―――
仮に2人の頭がもう少し頭が冷えていて冷静に物事を考えられ、落ち着いて情報交換が出来たならばもう少し違った結末になっていたかも知れない―――だが―――
「そうですか、それじゃ急いでいるから」
と言ってシャーリーの横を通り過ぎていった。
「え、ちょっと……なんでそんなに急いで……」
シャーリーが慌てるかの様に去っていくレイに問いかけるが……
「邪魔しないで、ボクはすぐにでも―――」
すぐにでもこの場を立ち去りたかったレイはその焦りから思わず口にしてしまったのだ。
それを聞いたシャーリーの思考が止まる、何て言ったのだろうか? いや、言った言葉だけは判っている。
『ルルーシュヲコロサナキャナラナインダ』
ご都合主義ってレベルじゃないよね―――
こなたが思ったのはその事だった。今現在こなた、リイン、ルルーシュ、ヴィヴィオがいるのはある建物の中だ。それは……
「まさかこんな所にアニメイトがあるなんてね」
そこはアニメイトであった。それもなのは達と一緒に訪れた事のあるアニメイト―――そう、こなたは数十メートル離れた所にアニメイトの看板を見付けそこで一旦休む事にしたのだ。
ちなみに現在位置はG-6ではあるが地図を見てもらってもアニメイトは載っていない。何故ここにアニメイトがあるのだろうか?
だが、与えられた地図には大体の地形と機動六課隊舎や病院、デュエルアカデミアといった主要な施設しか載っていない。
そう、地図に載っていない施設があっても不思議は全く無いのだ。いや実際に施設は幾つか存在している。
とある片翼の剣士が見付けたF-4のビジネスホテルもそれにあたる。
そう、アニメイトもまた隠された施設の1つだったのだ。
こなた自身も隠し施設の可能性は考え一応リインにも話してはいた。だか、こなたの脳内ではそういうのは俗にいうヒーローの秘密基地や秘密の店を連想していたし、リインもあったとしてもこれは予想外だった為正直驚いている。
「こういう時ってどういう表情したらいいと思うですか?」
「……笑えば良いと思うよ」
とはいえ、こなたにとっては馴染み深い場所という事で一旦こなた達はここで休む事にした。正直煙の上っている場所に不用意に近付くのは危険なのはわかるし、それ以前にルルーシュの状態を考えればどこかでちゃんと手当てをしたかった。
レイの接近が気がかりではあったが地図にない施設であればやり過ごせる可能性は高かった。アニメが好きだからアニメイトに行っていると読まれる可能性はあるが、読まれさえしなければなんとか乗り切れる可能性があるとこなたは思ったのだ。
あくまでもルルーシュの状態がある程度回復するまでの一時的な休憩で動ける様になったらすぐに離れる、それがこなた達の出した判断だった。
故にアニメイトに行った所で遊んでいる時間は全く無い。微妙に品揃えが変わっている事が気にはなったがひとまずそれについては考えず、店の奥から救急箱を見付け出しそれを使いルルーシュの手当てを行った。
その後はヴィヴィオからこれまでのいきさつを聞くわけだが、リインはルルーシュの治療を継続して行っている為話は聞いているものの、その主導となるのはこなたであった。
(こういうのってむしろかがみんかみゆきさんの方が得意分野なんだけどね……)
そう思うこなたではあったものの幸いヴィヴィオはこなたの事を信頼してくれており、話を聞く事は容易に行う事が出来た。
彼女はまず浅倉と出会い、その時に2人の男性が襲ってきた事を話した。
それを何とか切り抜けた2人は温泉にて天道総司とシャーリーに出会い、天道は温泉から去っていき残された3人で彼の後を追ったのだ。
そしてキングが天道を連れて温泉に向かってくる所に遭遇し、天道を治療すると話していたキングに彼を任せ3人は市街地に向かった。
しかし、その後突然浅倉が暴れて2人の元を去っていったのだ。そして悲しみに暮れた際にザフィーラが現れ、すぐさまいなくなった事をヴィヴィオは語った。
ちなみにヴィヴィオの説明だけでは正直わかりにくかったが、キングと出会う前からはクラールヴィントもある程度把握していた為、クラールヴィントから確認を取りつつ話を進めていった。
ここまでのヴィヴィオ達の話を聞いたこなたは考える。真面目な話、ヴィヴィオの人物評とこなたの評価は微妙に違っているのだ。
浅倉……ヴィヴィオは彼をヒーローみたいな人物だと語っていたが、話を聞く限りこなたにはどうしても彼がそんな善人だとは思えなかった。彼の行動を見てもそうだったし、何となく危険な感じがしたのだ。
半裸の男……彼に関してはヴィヴィオの感じた通り危険人物だと判断した。
もう1人の男……ヴィヴィオは危ない人だと思ったが、こなたは浅倉と逆の評価の可能性があるかもと考えた。つまり、善人の可能性だ。
天道……シャーリーが何故かゼロと呼んでいたらしいが、こなたはそれが誤解だと分かっている為それについては考慮しない。善人かどうかは不明だが、話を聞く限り何となく大丈夫かなとこなたは思った。
シャーリー……ルルーシュの言っていた少女だ、彼女に関しては当然問題は無い。
キング……ヴィヴィオは良い人だと言っていたが、彼を警戒してと書かれたメール(フェイトかはやてが出したらしい)を見ているこなたは彼に対して一応警戒はしている。
ザフィーラと出会った事に関して気になる事もあったがとりあえずそれに付いては保留にした。
ちなみにこなたの感じた人物評に関しては今のところヴィヴィオには話すつもりはない。こなたの主観によるものが多く断定はできないし、浅倉をヒーローと思っているヴィヴィオの夢を壊す様な無粋な事がそう易々と出来るわけもなかったからだ。
とりあえず人物評に関しては一段落付いた後でリイン、ルルーシュと話し合うつもりでいた為、今の所はこなたの心に留めておく。
その後、2人は駅に向かい(クラールヴィントから確認した所)15人以下になれば開く車庫の存在を聞き。そして、2人はデュエルアカデミアに向かったが……
そこでルルーシュと出会い彼と何か話をした後、シャーリーはヴィヴィオを背負ったままアカデミアを去っていったのだ。
「あたしたちが中を調べている間にそんな事があったんだ……」
こなた達から見ればルルーシュとシャーリーの再会がこのような形になった事が信じられなかった。ヴィヴィオやクラールヴィントからの断片的な情報しか無い為具体的な事はわからないが、その結末が悪いものだった事は理解している。
その後暫くの間彷徨った後、シャーリーはヴィヴィオを置いて単身ルルーシュの所に向かったという話である。
そして1人シャーリーの帰りを待っていたらこなた達がやって来たという話だった。
さて、ここでこなたはヴィヴィオの話や起こった事を自分なりに冷静に考えてみる。
まず考えるのはシャーリーとルルーシュの間に何が起こったかである。何故、2人の再会が悲しいものとなったのだろうか?
話によれば、ルルーシュはシャーリーに自分が彼女の父親を殺したゼロである事をカミングアウトし、自分を殺すかどうかを迫ったという話だったのだ。
その事にシャーリーは強いショックを受け、ヴィヴィオも戸惑っており、実際ルルーシュと行動を共にしていたこなたも驚いている。リインは何か理由があったのではと語ったが、
「でもその理由がわかれば苦労は……あれ、ちょっと待って……」
シャーリーとルルーシュが友人という話は一同が知っている話である。だが冷静に考えてみるとこなたがルルーシュ本人から聞いている話とヴィヴィオがシャーリーから聞いている話には食い違いが見られる。
こなたはルルーシュからシャーリーにルルーシュの記憶を消したという話を聞いていた。つまり、ルルーシュ視点から見ればシャーリーは友人であり保護対象であっても、シャーリー側から見れば只の同じ学校の生徒でしか無いという事だ。
だが、ヴィヴィオの話ではシャーリーはルルーシュの事を大事な友人だと語っていた。こなたに言わせればそれは恋と言えなくもない。
そう、ルルーシュの話にあったシャーリーと状況が異なっているのだ。
(うーん……パラレルワールドって事で筋が通りそうな気もするけど……何か引っかかるんだよね……なんだろう……)
ここでこなたはルルーシュの話を思い返す。シャーリーの記憶を奪ったと言っていたがそうなると奪う前はどうだったんだろうか? その前はシャーリーはルルーシュに好意を寄せていたのではないのか?
(あれ? もしかして……シャーリーってルルーシュに記憶を消される前からやって来たとか? まさかとは思うけど……)
そもそも何故ルルーシュはシャーリーの記憶を消さなければならなかったのか? ゼロとしての行動がシャーリーを傷付けてしまい、ルルーシュがゼロだという事をシャーリーが知ったからだ。
となるとだ、ルルーシュの言っていたシャーリーはゼロの正体を知りその記憶を消されており、ヴィヴィオの話していたシャーリーはゼロの正体をまだ知らず当然記憶など消されていなかったということなのだろうか?
さて、仮にシャーリーがゼロの正体を知らないとして今のルルーシュを見たらどう思うだろうか? ルルーシュの服はゼロの衣装そのもので仮面だけが無かった。つまりそれを見れば……
(仮面無かったら……正体ばれるよね……)
会いたがっていた恋人が凶悪なテロリストだと知ったら当然ショックを受ける。その場から逃げるのだって頷ける。だが、彼女は再びルルーシュに会いに行ったのである。
(でもそうなるとヴィヴィオを置いていった理由がわからないけど……)
だが、ここでその際にルルーシュが自分を殺すかと迫ったのを思い出し、
(まさか、ルルーシュを……)
ゼロに強い憎悪を向けていた事からシャーリーはルルーシュを殺すつもりで向かい、その姿を見せたくなかったからヴィヴィオを置いていった……そんな考えるのも嫌な想像をしてしまった。
(で、身を守る為に置いていったんだろうけど……無茶にも程があるよね)
こなたの手元にはヴィヴィオから受け取ったクラールヴィントとジェットエッジがある。それを使っていざという時は身を守らせようとしたのだろうが、ヴィヴィオにこれだけで身を守らせようと言うのは無謀だと正直呆れていた。
此処までの話は割とこなたの想像による所が多い為、断定はせずに話題を切り替える。
次に考えるのはアカデミアで起こった出来事だ。
こなたが把握している範囲で整理すると
廊下で倒れていたルルーシュをリインが治療し、
その後治療の甲斐あって気が付いたルルーシュはいきなりレイにギアスをかけようとしたが、
そのタイミングで瓦礫が落下してきて、
その出来事でルルーシュは気絶&出血し、
そして、レイがルルーシュに向けて発砲した。
あの時点では何故こんな事になったのかがさっぱりわからなかったし、その時点ではアカデミアから逃げる事に必死だったので考える余力などなかった。
しかし、整理してみると実はそんな難しい話ではない。
まず、ルルーシュが倒れていたのは右腕の傷が悪化したからなのはこなた達も把握している。だが、果たして本当にそれだけだったのだろうか?
ヴィヴィオの話から察するにその前にルルーシュとシャーリーは出会っておりそこで前述のやり取りがあった。
ルルーシュの真意に関してわからない所はあるものの、それがルルーシュの望むものでは無かったのは確かだ。
更に言えば、ここに至るまでルルーシュには色々負担をかけている。自分達の前では気丈に振る舞っていても心労は溜まっていたはずだ。
そこで本来なら喜ぶべきシャーリーとの再会が恐らくは最悪の結果に終わったのだ。精神的に限界が来てもおかしくはない。
更に言えば、十代の死を聞いたレイが凶行に及ぶ可能性にルルーシュが思い当たらないはずがない。リインにしても警戒していたし自分だってそれを危惧していたのだから。
そして先程の精神状態でそんなレイの姿を見れば冷静な判断なんて下せる筈がない。故にいきなりギアスをかけようとしたのだろう。そしてそれにより再び気絶したと。
「でも、あの後のレイの様子を見る限りギアスはかかっていなかったよね? どうして気絶したのかな?」
「もしかしたら届かなくても使っただけで負担がかかるかもしれないですし、あの場にいたリインやこなたにも届いたからじゃないんですか?」
レイにギアスが届きはしなかったが発動はしていた。その推測は正しいし、またあの場にいたリインやこなたに対してもギアスの命令は届いていた可能性はある。
しかし既にこなたにはギアスが使用済の為かかるはずはないし、リインはユニゾンデバイスであるためかからなかったという所だろう(リインに関しては推測でしかないが)。
どちらにしてもこの顛末についてはちゃんとルルーシュに報告しておくべきだろう。
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*Nightmare of Shirley(前編)◆7pf62HiyTE
結論は出た―――
シャーリー・フェネットは1人デュエル・アカデミアに向かっていた―――
自身の父親であるジョセフ・フェネットを殺したテロリストゼロであり―――
自身のクラスメイトであり初恋の相手ルルーシュ・ランペルージに会う為に―――
手にしているのは自身のデイパックとアカデミア売店の鍵、そして拳銃だけ―――
シャーリーはゼロ=ルルーシュを殺す為に彼の待つアカデミアに向かっていたのだ。
その様子など一緒にいたヴィヴィオに見せられるわけがない。だからこそ彼女はヴィヴィオを一時的に置いていったのだ。
彼女を守る為にジェットエッジとクラールヴィントは置いていった。これで一時的に身を守る事は可能だと考えたのだ。
少し考えればこれらを置いていった所でヴィヴィオが自身の身を守れる事など出来ない事など誰にでも解る。しかし、ルルーシュの事で頭が一杯だったシャーリーにはその様な冷静な判断を下す事など出来なかった。
それは行動を起こしたタイミングからもわかる話だ。彼女がヴィヴィオと別れたのは放送の約5分前―――そう、放送の存在を失念していたのである。
たった1人でいる所で親しい者の死を知らされるのがどれぐらい辛い事か少し考えればわかる話だ。当然呼ばれる可能性は充分にある―――そして実際ヴィヴィオのママであるフェイト・T・ハラオウンの名前が呼ばれた。
しかし、今のシャーリーはその事すら考えることは出来なかった。放送の中身自体はある程度頭には入ってはいるだろうが、今の所はルルーシュが生きている事以外の事は考えられなかった。
他の参加者の生死について考える事が出来ないぐらい今のシャーリーはこれからすべき事で頭が一杯だったのである。
当然の事だが後方で煙が上がっている事など気付くわけがない。
ゆっくりと、ゆっくりと、シャーリーはルルーシュの元に近付いている。
しかしだ、近付く度に足取りが遅くなっている様な気がする。
結論は出した筈なのに―――まだ迷っているのだろうか?―――
当然の話だ、これはどのケーキを食べようかで迷うという単純な問題ではない。
シャーリー・フェネットの人生における重要な決断なのだ。結論を出した所で行動に移す瞬間まで迷うのは当然と言えよう。
もしかしたら―――ルルーシュの顔を見た瞬間に結論を変える可能性だってあった―――
つまり彼女の出した結論が最終的にどのようになるのか、それはシャーリー自身すらもわからない話である―――
だが、状況は彼女を追いつめていく―――
アガデミアのある方向で何かの衝撃音が響いた。アカデミアにいるルルーシュに何かが起こったという事だろう。故に急がなければならない―――
だが、足取りは重くその歩みは遅い。未だ迷いがあるのだろう。
故に彼女は気付けない―――
ほんの少し冷静に周囲を見渡す事が出来ればルルーシュと再会出来た可能性があった事に―――
何を以てしてもルルーシュを殺す―――
それが早乙女レイの出した結論だ。遊城十代を守る為に行動していたが、不幸にも十代は死んでしまった。
更にこなた達の会話を聞いて生還しても十代がいる世界には戻れず、蘇生すら出来ないと判断してしまった。
故にレイは十代を殺したであろう誰かを、そして自分の動きを封じた元凶であるルルーシュを殺す事にしたのだ。
この時点で既に冷静ではなかったがこの時の彼女にはまだ迷いがあった。
故に運良く拳銃を手にし気を失っていた彼に向ける事が出来ても発砲する事は出来なかったのだ。
しかし、このタイミングで目覚めたルルーシュが『俺に従え』とギアスを放ったのだ。
レイの心中としては何故有無を言わさず自分の意志を奪おうとしたのかが解らなかった。まだ銃を向けただけではないか、撃つのを封じるだけで良かった筈だ。そのルルーシュの暴走とも言える行動によって―――
―――レイは弾けた―――
もう迷わない、絶対にルルーシュを殺すと―――
幸か不幸かそのタイミングでアガデミアに衝撃が走り瓦礫が落下した事で自身を襲おうとしたギアスは届かなかった。しかしギアス自体は発動していた為ルルーシュは再び気絶した。
この好機を見逃すレイではない、再び拳銃をルルーシュに向けて発砲した―――
結論を言えばその時の自分の叫び声でこなたとリインが気付いた為、銃弾を外す結果となってしまった。そして気が付いたら自分以外の者はいなくなっていた。
裏口から逃げた事はわかるしルルーシュの血痕もあった為逃げた方向は容易にわかった。
事態が事態故、こなた達は何も持たずに逃げ出した様だった。当然の事だがレイはその全て―――4つのデイパックとその中身を回収した。武装が充分に揃ったのはあまりに都合が良すぎる話だ。
しかもだ、このタイミングで衝撃が起こった理由は不明だがほぼ間違いなく殺し合いに乗った襲撃者が現れたのだろう。その場所はスバル・ナカジマがいるであろうエントランス方向……
恐らく彼女はそこにいる襲撃者に対処せざるを得ない。故に彼女も動けない。
そう、全てが彼女にとって好機だったのだ―――あまりにも遅すぎた―――
故に彼女はルルーシュを追い、そして彼を殺すと―――
既にこなた達の姿は見えなくなっていたが血痕を辿ればその方向は煙の見える方向、ルルーシュを背負っている状況ならばそう距離は離れていない。故に拳銃と動きを封じる事の出来るであろう光の護封剣を構え移動を始めたのだ。
光の護封剣でルルーシュ達の動きを封じ拳銃でトドメを刺す、それがレイの立てた作戦である。わざわざモンスターを召喚する必要はない。
こなたに関しても殺すつもりでいた。ルルーシュを殺すのを妨害したわけだし、そもそも足止めする羽目になった原因に彼女も全く関わっていないわけではない、同罪だとレイは判断した。
リインに関しては2人さえ死に彼女から離れれば放っておいても行動不能になる為何の問題もない。
それにこなたを殺しておけばこれで2人死んだ事になりプレシアの言っていた御褒美がもらえる可能性が高まる。運が良ければ十代を殺した相手が分かりそいつの元に移動する事も出来るだろう。乗らない理由は全く無い。
そして十代を殺した者に出会ったならば『バスター・ブレイダー』及び『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を召喚し全力を以てそいつを仕留める……そして全てが終われば自分も死ぬ……それがレイの考えた今後の行動方針だ。
だが、まずはルルーシュの元に追いつかなければならない。故に彼女は血痕を辿り煙の上る方向に向かう―――
その途中、血痕自体は途切れ足取りは辿れなくなった。だが、自分に襲われる可能性がある以上わざわざ戻る可能性は皆無、故にレイは進行方向自体は変えずに進む―――煙が上る方へと―――
客観的な話をすればレイの心情は理解出来なくもない。だが、些か結論を急ぎすぎていたと言えよう。
そもそも本当に十代とレイは自分と同じ世界から連れて来られたのだろうか?
彼女が同一世界から連れてきたと判断したのは、一般人である2人を違う世界から連れてきて誤解を招く可能性が皆無だからだ。
だが、本当にそうであろうか? 絶対に無いと言い切れるのか?
仮に十代達がジェネックス開催中やセブンスターズと戦っていた頃から連れて来られたならばレイは『過去に一度丸藤亮に会いに来て、その時に十代に好意を持った少女』という程度の認識しかない。
レイが再びデュエルアカデミアにやって来たのはジェネックスも終盤の時期だからだ。
その頃の十代達ならば早乙女レイの存在を失念している可能性が高い……そんな事は無いだって? ラーイエローに割と長い間いた誰かの存在を忘れる様な連中だ、そんな可能性が無いなんて言えるのか?
勿論これは少々乱暴な暴論だ。だがそれとは別にしてもある並行世界で十代が危険人物もしくは重要人物になっている可能性が0だと言えるのか?
参加者の誰もが知らない話……プレシア・テスタロッサも把握しているかは不明だがある世界の話をしよう。
覇王の軍勢が世界を蹂躙している世界があった―――
その世界にて高町なのはは覇王軍に属するモンスター達と戦っていた―――
だが、彼女は強い者との戦いを楽しみ、弱い者に対しての虐殺を楽しんでいた―――
これだけでも充分信じられない話ではあるがそれ以上に信じられないのは―――
覇王の正体が遊城十代だった事である―――
その世界の行く末などここでは重要ではない、その世界の十代ならば殺し合いに乗るのは明白、連れてくるメリットは大いにある。
勿論、そんな世界の存在など普通は信じられはしない。だが、レイが最初に出会った9歳のフェイトを考えれば19歳のフェイトの姿なんて到底想像出来やしない。それと同じ事なのだ。
そこまで考えれば本当に同一世界だと結論付ける事なんて出来るのか? いや、出来やしない。
また、連れてくる世界が増えればそれだけ管理局に発見されるリスクが増大するとあるがこれも正しいと言えるのか?
いや、確かにリスクは増大する。もしかしたら無駄とも言えるかも知れない。
だが、その無駄を行っている証拠は存在する。『レッド・デーモンズ・ドラゴン』のカードがそれにあたる。
細かい説明は省くがこのカードもデュエルモンスターズのカードではあるもののレイにとっては未知のそのカードは未来のカードだと判断していた(厳密には並行世界のものだが)。
だが、そんなカードをわざわざ持ってくるメリットなんて何処にある? 攻撃力3000のカードならレイのいた世界にも存在する『青眼の白龍』等を用意すれば済む話だろう。何故そんな無駄な事をする必要がある?
そもそもの話だ、幾らデメリットが大きくなるからと言っても既に参加者だけを見ても6つ(レイ、フェイト、スバル、こなた、ルルーシュ、リイン)の世界から連れて来られているのを確認している。
実数自体はまだ多いだろうし支給品まで含めればその数は更に増大する。その中で今更1つ増やした所でリスクに大差なんて無いとは思わないか?
それ以前にだ、どんなにリスクがあるとしてもメリットが僅かにあるならばその可能性は0では無い筈だ。もう少し冷静でいたならそれぐらい考えられた筈である。
また、十代復活の望みが無いというのも勝手な決めつけでしかない。確かに可能性は0に近いかもしれないが本当に0だと言い切れるものではない。もう少し情報を集めてからでも遅くは無かったはずだ。
少なくても……放送後に1人で考えていた時のレイだったらそんな結論は出さなかった筈だった。だが、やはり十代の死亡のショックが抜け切れていなかったのだ。こなた達の話をそのまま受け取り早々に結論付けてしまったのだ。
だが、最早レイを止める事などまず不可能だ。今のレイはルルーシュ、そして十代を殺した者に対する憎悪に囚われており冷静な判断など下せる筈がない。
武器さえなければまだ止められただろうがが彼女の手元には充分な武器は揃っている。並の説得では逆に彼女を暴走させる結果にしかなりはしない。
誰が何を言ってもレイには届きはしないだろう。天上院明日香や万丈目準の声すらも―――
彼女の頭には自身の目的を果たす事しか無かった―――2人を殺し自殺をすると―――
しかし、レイは最も重要な事を失念していた―――殺し合いに乗った参加者に襲われる可能性? それもあるだろうがここで言っているのはそれ以上に最もシンプルな事だ―――
その事に気付かぬままレイは進む。そして―――
少し時間を戻そう―――
ヴィヴィオを下ろしたシャーリーはデイパックからジェットエッジとクラールヴィントを出して彼女に渡し、
「お姉さん……」
「ちょっと、お姉さん大事な用事を済ませてくるから待っていてくれる? 大丈夫、用事が済んだらすぐに戻ってくるから―――」
「もしかして、ルルってお兄さんの所に行くの?」
「うん……ちょっと大事なお話をしにね」
「ヴィヴィオも連れ……」
「ダメ! 本当に大事な用事だから……お願い、言う事を聞いて……」
そう言うシャーリーの表情は何処か辛そうであった為、シャーリーが心配なヴィヴィオとしては一緒に行きたかった。だが、辛そうなシャーリーの表情を見てしまっては連れて行って何て言えやしない。
「うんわかった……早く戻ってきてね……ルルお兄さんと一緒に―――」
「うん……何かあったらこれを使って身を守ってね」
そう言ってシャーリーはヴィヴィオの元を去っていった―――
正直な所、ヴィヴィオは不安だった―――シャーリーがルルーシュを殺しに行ったのではないのかと―――
思い返せば、シャーリーの『ゼロ』に対する憎しみが大きいのは彼女の態度を見れば明らかだ、それこそ殺しかねない位の。
だがその一方で沢山ルルーシュについての話を聞かされた為、彼に強い好意を抱いているのもわかっていた。
そのルルーシュがゼロだった―――それを知ったシャーリーがどうするのかが正直わからなかった。
当然の話だがヴィヴィオとしては誰一人として死んで欲しくはない。それが例え殺し合いに乗っている人物だとしてもだ。
更に仲の良かった友達同士ならば尚の事だ。シャーリーとルルーシュに何があったのかはわからない。でも、出来るならば仲良くして欲しいと思っていた。
だが、ヴィヴィオは無力だ―――幾ら聖王と言われた所で今の彼女は魔力を持った幼子でしかない。故に彼女にはシャーリーを信じる事しか出来なかったのだ。
ルルお兄さんと一緒に戻ってくると―――それは彼女の出来る精一杯の願いだったのだ。
シャーリーが去ってから少しすると、2度目の放送が始まった―――聞かされた内容はヴィヴィオにとって辛いものだった。
スバルの姉であるギンガ・ナカジマやなのはとフェイトの友達であるはやてが死んだ事もショックだった―――
さっき自分を元気づけてくれたザフィーラが死んだ事もショックだった―――
そして何より、フェイトママが死んだ事がショックだった―――
座り込んでヴィヴィオは1人泣いた。最初の放送の時は側にシャーリーも浅倉威もいてくれた。だが、今は自分しかいない。ヴィヴィオを元気づけてくれる人など誰もいなかった。
その一方でヴィヴィオは考えていた―――何故見かけた時は元気だったザフィーラが死んでしまったのだろうか? あんなに元気だったのにどうしてだと……
考えた所で答えなんて出るわけがない。だが、泣いている内に思い出したのだ。あの時ザフィーラは様々な事で落ち込んでいるヴィヴィオを元気づけてくれた。
そんなザフィーラが只泣いているのを望んでいるだろうか? なのはやフェイトにしてもそんなヴィヴィオの姿を見たいと思うだろうか?
そんなはずはない。みんなこんな逆境に負けずにこの殺し合いを脱してくれる事を望んでいるはずだ。
そう考えた時、ヴィヴィオは負けたくないと思った。それが死んでいったザフィーラ達が望んでいる事なのだから、「強くなる」となのはと約束したのだから―――
それでも今だけは泣かせて欲しい―――ヴィヴィオは1人泣いたのだ。
そして何時しかヴィヴィオは泣きやみ座ったままシャーリーが帰ってくるのを待った。放送ではシャーリーもルルーシュも呼ばれなかった。
きっと今2人は話をしており、それが終わったら戻ってくるはずだ。ヴィヴィオはそれを信じて待った。少し離れた方で煙が上がったのが見えたがヴィヴィオはその場から動かずシャーリー『達』の帰りを待った―――
こういう状況って『進路に光明、退路に絶望』って言うのかな……いや、違うなぁ―――
仮にこういう事を言えば柊かがみが『何のゲームの台詞だ?』とツッコミを入れ、
高良みゆきが正解を言い、
柊つかさがそんな会話を聞いて笑っているんだろうが―――
この状況で反応をしてくれる者など誰もいないし、そこまで状況が読めないほど泉こなたも馬鹿ではない。故に考えはしたものの口にしたりはしない。
泉こなたはリインフォースⅡと共に傷の悪化とギアスによる後遺症で気を失っているルルーシュを背負ってアカデミアから逃げていた。
逃げている相手はアカデミアを襲った襲撃者ではない。先程まで行動を共にしていたレイだ。
襲撃の際に瓦礫が崩れルルーシュは再び出血し、そのタイミングで側にいたレイがルルーシュに発砲したのだ。それ自体はリインが防いでくれたものの、危険である事に変わりが無かった為、こなたはルルーシュを背負いリインと共に逃走する事にしたのだ。
本音を言えばスバルと合流したかったが衝撃があったのはスバルがいると思われるエントランス……恐らく彼女は襲撃者への対処に追われているのだろう。故に合流するわけにはいかない。
だが、一連の騒動でこなたは殆どの手持ち道具を置いて来てしまった。あるのはルルーシュが今も身に付けているインカムぐらいである。
地図もなく、時間も無い状況で目的地などとっさに浮かぶわけもない。ひとまず見えた煙の方向に向かって進んでいる。
しかし、少し考えれば煙のいる方向には殺し合いに乗った危険人物がやって来る可能性があるのはわかる話だ。こなたは自ら危険な方向に足を進めているのである。
だが、危険と判っていても今更引き返すわけにはいかない。後方からはすぐにでもレイが自分達を殺す為に追い掛けてくるだろう。ルルーシュの血痕を見れば方向を見出す事は容易い。
それに気付いた時、こなたは自身の制服のスカーフをリインに渡しそれを使う事でルルーシュの止血を行う事は何とか出来た。
これ以上、血痕を辿られる心配は無くなったがそれでも方向だけは読まれている。逃げ続けなければならない事に変わりはない。が、ルルーシュを何処かで休ませなければ危険な状態な事にも変わりはない。
せめて何処か都合の良い場所で休ませる事が出来れば良かったがそんな都合の良い場所などピンと来るはずもない。
ともかく今は移動を続けるしかない。しかしだ、ルルーシュを背負っているこなたの体力も何れは限界が来る。煙の出ている場所まで辿り着けるかどうかは微妙、辿り着いた所で襲われる可能性だって高い、正直どうしたらいいのかなどわからなかった。
一番良いのはルルーシュを見捨てて何処かに隠れる事だ。レイの狙いがルルーシュに向いているならそれが自分の身を守る上で一番確実だ。
それでなくてもルルーシュは瓦礫が落ちる直前、突然レイに絶対遵守のギアスをかけようとしたのだ。ある種の洗脳能力とも言えるギアスを有するルルーシュを危険人物としてこのまま捨てておいても問題はないだろう。
しかしこなたにはそんな事は出来なかった。死にそうになっている人を放置出来ないから? 確かにそれもあるかも知れない、だが本当にそれだけなのか?
その最中、こなたは前方で少女が1人座っているのが見えた。
「あれ?」
こなたはその少女に接近していくが、その時にリインが、
「あれは……ヴィヴィオ!!」
座っている少女はなのはやフェイト達機動六課が保護し、なのはとフェイトの娘となったヴィヴィオであった。
リインの声を聞いてヴィヴィオは、
「え……リイン? それにお姉さんは……」
そう答えたリインの目には涙を流した跡があった。それを見たこなたは、
「……大丈夫、お姉さん達は殺し合いに乗っていないよ」
笑顔でそう答えた。そんな中、ヴィヴィオはこなたに背負われているルルーシュを見て、
「ルルお兄さん!」
「え、ルルーシュを知っているですか?」
「ちょっと待って、どういうこと?」
ルルーシュを知っていた事を驚く2人だったが、
「シャーリーお姉さんは?」
更にヴィヴィオはシャーリーの事を聞いてくる。話を聞いた所、シャーリーはルルーシュに会いに行ったという話だ。だが、
「ごめん……見てないや……」
「リインもルルーシュの治療に集中していたですから……」
こなたは前を向いて逃げる事に必死だったし、リインはルルーシュの治療に専念していた為、シャーリーを見ていなかったのだ。
「多分行き違いになったと思うですけど……」
「今戻ったらレイに追いつかれるよね……」
シャーリーの事が気がかりではあったが、レイに襲われる可能性を考え戻るという選択肢を除外する。その一方で、
「不味いなぁ……今のレイとシャーリーって人が鉢合わせになったら……」
「危ないですよ……」
レイとシャーリーが出会った時に起こる最悪な事態が頭をよぎる。しかし、今はヴィヴィオやルルーシュの事も気がかりなので2人については出会わないで欲しいと祈る事ぐらいしか出来なかった。
ともかく詳しい話を聞きたかったが、移動もしておきたい。しかし煙の方向は危険……途方に暮れつつこなたは周囲を見回すが……
「え……ちょっと待って……何であんな所に……?」
かくして最悪な事態は起こる―――
シャーリーの眼前に見慣れない赤い制服を着た少女が近付いて来た。少女は何処か思い詰めた表情でその手には見慣れない拳銃を持っていた。
彼女が何者かはわからない。だが見た目から考えてイレブンつまり日本人であったことから黒の騎士団の団員なのかもしれない。実際、日本人と思われる参加者は割といた為その可能性は十分にある。
その表情から危険人物の可能性が高かった。だが、ルルーシュのいたアカデミア方向からやって来た事を踏まえれば、もしかしたらアカデミアで起こった事やゼロ=ルルーシュの事が聞けるかも知れない。
意を決してシャーリーは口を開く、
「ちょっと聞きたいんで……」
「今、黒い服を着た人を見かけなかった!?」
だが聞くよりも早く少女から質問されたのだ。凄い剣幕だった為、言おうとした事が言えなかった。
黒い服を着た人と言えばルルーシュ=ゼロしかいない。恐らく彼女はゼロを探しているのだろう。だが、シャーリーは彼を見かけていない為、
「ごめん、誰も見ていないけど……」
そう答えるしかなかった。
ここで視点を赤い制服を着た少女、レイの方に切り替えてみよう。幾らこなた達の状態ではそんなに早く移動は出来ないとはいえ急いだ方が良いのは明白だ。
だが、やって来た浴衣の少女から何かルルーシュの目撃情報を聞けるかも知れない。故に少女が聞くよりも早くレイは黒い服を来た人を見かけたかどうか聞いた。
ルルーシュの名前を出さないで黒い服と聞いたのは名前を知らない可能性があったし何より黒い服はこの昼間では非情に目立つ。見ているならばすぐにわかるはずだからだ。
なお、見かけたのならば。本当にルルーシュかどうか確かめる為、右腕を失っていたかとか桃色の制服を着た少女はいたかとか聞くつもりであった。
だが、少女の返答は否定であった。ルルーシュを見かけたという情報が得られるならばともかく、そうでないならば構っている時間なんて無い。
フェイトやスバルといった他の参加者と関わって悠長にしていた事が十代の死に繋がった以上、最早レイは他人と関わるつもりなどなかった。武器は充分に揃っている、ここでルルーシュを逃がすつもり等ない。
そんな事は止めるべきだと説得して来たとしてもレイに止める意志など全く無い。邪魔するならば殺すつもりでいた―――
仮に2人の頭がもう少し頭が冷えていて冷静に物事を考えられ、落ち着いて情報交換が出来たならばもう少し違った結末になっていたかも知れない―――だが―――
「そうですか、それじゃ急いでいるから」
と言ってシャーリーの横を通り過ぎていった。
「え、ちょっと……なんでそんなに急いで……」
シャーリーが慌てるかの様に去っていくレイに問いかけるが……
「邪魔しないで、ボクはすぐにでも―――」
すぐにでもこの場を立ち去りたかったレイはその焦りから思わず口にしてしまったのだ。
それを聞いたシャーリーの思考が止まる、何て言ったのだろうか? いや、言った言葉だけは判っている。
『ルルーシュヲコロサナキャナラナインダ』
ご都合主義ってレベルじゃないよね―――
こなたが思ったのはその事だった。今現在こなた、リイン、ルルーシュ、ヴィヴィオがいるのはある建物の中だ。それは……
「まさかこんな所にアニメイトがあるなんてね」
そこはアニメイトであった。それもなのは達と一緒に訪れた事のあるアニメイト―――そう、こなたは数十メートル離れた所にアニメイトの看板を見付けそこで一旦休む事にしたのだ。
ちなみに現在位置はG-6ではあるが地図を見てもらってもアニメイトは載っていない。何故ここにアニメイトがあるのだろうか?
だが、与えられた地図には大体の地形と機動六課隊舎や病院、デュエルアカデミアといった主要な施設しか載っていない。
そう、地図に載っていない施設があっても不思議は全く無いのだ。いや実際に施設は幾つか存在している。
とある片翼の剣士が見付けたF-4のビジネスホテルもそれにあたる。
そう、アニメイトもまた隠された施設の1つだったのだ。
こなた自身も隠し施設の可能性は考え一応リインにも話してはいた。だか、こなたの脳内ではそういうのは俗にいうヒーローの秘密基地や秘密の店を連想していたし、リインもあったとしてもこれは予想外だった為正直驚いている。
「こういう時ってどういう表情したらいいと思うですか?」
「……笑えば良いと思うよ」
とはいえ、こなたにとっては馴染み深い場所という事で一旦こなた達はここで休む事にした。正直煙の上っている場所に不用意に近付くのは危険なのはわかるし、それ以前にルルーシュの状態を考えればどこかでちゃんと手当てをしたかった。
レイの接近が気がかりではあったが地図にない施設であればやり過ごせる可能性は高かった。アニメが好きだからアニメイトに行っていると読まれる可能性はあるが、読まれさえしなければなんとか乗り切れる可能性があるとこなたは思ったのだ。
あくまでもルルーシュの状態がある程度回復するまでの一時的な休憩で動ける様になったらすぐに離れる、それがこなた達の出した判断だった。
故にアニメイトに行った所で遊んでいる時間は全く無い。微妙に品揃えが変わっている事が気にはなったがひとまずそれについては考えず、店の奥から救急箱を見付け出しそれを使いルルーシュの手当てを行った。
その後はヴィヴィオからこれまでのいきさつを聞くわけだが、リインはルルーシュの治療を継続して行っている為話は聞いているものの、その主導となるのはこなたであった。
(こういうのってむしろかがみんかみゆきさんの方が得意分野なんだけどね……)
そう思うこなたではあったものの幸いヴィヴィオはこなたの事を信頼してくれており、話を聞く事は容易に行う事が出来た。
彼女はまず浅倉と出会い、その時に2人の男性が襲ってきた事を話した。
それを何とか切り抜けた2人は温泉にて天道総司とシャーリーに出会い、天道は温泉から去っていき残された3人で彼の後を追ったのだ。
そしてキングが天道を連れて温泉に向かってくる所に遭遇し、天道を治療すると話していたキングに彼を任せ3人は市街地に向かった。
しかし、その後突然浅倉が暴れて2人の元を去っていったのだ。そして悲しみに暮れた際にザフィーラが現れ、すぐさまいなくなった事をヴィヴィオは語った。
ちなみにヴィヴィオの説明だけでは正直わかりにくかったが、キングと出会う前からはクラールヴィントもある程度把握していた為、クラールヴィントから確認を取りつつ話を進めていった。
ここまでのヴィヴィオ達の話を聞いたこなたは考える。真面目な話、ヴィヴィオの人物評とこなたの評価は微妙に違っているのだ。
浅倉……ヴィヴィオは彼をヒーローみたいな人物だと語っていたが、話を聞く限りこなたにはどうしても彼がそんな善人だとは思えなかった。彼の行動を見てもそうだったし、何となく危険な感じがしたのだ。
半裸の男……彼に関してはヴィヴィオの感じた通り危険人物だと判断した。
もう1人の男……ヴィヴィオは危ない人だと思ったが、こなたは浅倉と逆の評価の可能性があるかもと考えた。つまり、善人の可能性だ。
天道……シャーリーが何故かゼロと呼んでいたらしいが、こなたはそれが誤解だと分かっている為それについては考慮しない。善人かどうかは不明だが、話を聞く限り何となく大丈夫かなとこなたは思った。
シャーリー……ルルーシュの言っていた少女だ、彼女に関しては当然問題は無い。
キング……ヴィヴィオは良い人だと言っていたが、彼を警戒してと書かれたメール(フェイトかはやてが出したらしい)を見ているこなたは彼に対して一応警戒はしている。
ザフィーラと出会った事に関して気になる事もあったがとりあえずそれに付いては保留にした。
ちなみにこなたの感じた人物評に関しては今のところヴィヴィオには話すつもりはない。こなたの主観によるものが多く断定はできないし、浅倉をヒーローと思っているヴィヴィオの夢を壊す様な無粋な事がそう易々と出来るわけもなかったからだ。
とりあえず人物評に関しては一段落付いた後でリイン、ルルーシュと話し合うつもりでいた為、今の所はこなたの心に留めておく。
その後、2人は駅に向かい(クラールヴィントから確認した所)15人以下になれば開く車庫の存在を聞き。そして、2人はデュエルアカデミアに向かったが……
そこでルルーシュと出会い彼と何か話をした後、シャーリーはヴィヴィオを背負ったままアカデミアを去っていったのだ。
「あたしたちが中を調べている間にそんな事があったんだ……」
こなた達から見ればルルーシュとシャーリーの再会がこのような形になった事が信じられなかった。ヴィヴィオやクラールヴィントからの断片的な情報しか無い為具体的な事はわからないが、その結末が悪いものだった事は理解している。
その後暫くの間彷徨った後、シャーリーはヴィヴィオを置いて単身ルルーシュの所に向かったという話である。
そして1人シャーリーの帰りを待っていたらこなた達がやって来たという話だった。
さて、ここでこなたはヴィヴィオの話や起こった事を自分なりに冷静に考えてみる。
まず考えるのはシャーリーとルルーシュの間に何が起こったかである。何故、2人の再会が悲しいものとなったのだろうか?
話によれば、ルルーシュはシャーリーに自分が彼女の父親を殺したゼロである事をカミングアウトし、自分を殺すかどうかを迫ったという話だったのだ。
その事にシャーリーは強いショックを受け、ヴィヴィオも戸惑っており、実際ルルーシュと行動を共にしていたこなたも驚いている。リインは何か理由があったのではと語ったが、
「でもその理由がわかれば苦労は……あれ、ちょっと待って……」
シャーリーとルルーシュが友人という話は一同が知っている話である。だが冷静に考えてみるとこなたがルルーシュ本人から聞いている話とヴィヴィオがシャーリーから聞いている話には食い違いが見られる。
こなたはルルーシュからシャーリーにルルーシュの記憶を消したという話を聞いていた。つまり、ルルーシュ視点から見ればシャーリーは友人であり保護対象であっても、シャーリー側から見れば只の同じ学校の生徒でしか無いという事だ。
だが、ヴィヴィオの話ではシャーリーはルルーシュの事を大事な友人だと語っていた。こなたに言わせればそれは恋と言えなくもない。
そう、ルルーシュの話にあったシャーリーと状況が異なっているのだ。
(うーん……パラレルワールドって事で筋が通りそうな気もするけど……何か引っかかるんだよね……なんだろう……)
ここでこなたはルルーシュの話を思い返す。シャーリーの記憶を奪ったと言っていたがそうなると奪う前はどうだったんだろうか? その前はシャーリーはルルーシュに好意を寄せていたのではないのか?
(あれ? もしかして……シャーリーってルルーシュに記憶を消される前からやって来たとか? まさかとは思うけど……)
そもそも何故ルルーシュはシャーリーの記憶を消さなければならなかったのか? ゼロとしての行動がシャーリーを傷付けてしまい、ルルーシュがゼロだという事をシャーリーが知ったからだ。
となるとだ、ルルーシュの言っていたシャーリーはゼロの正体を知りその記憶を消されており、ヴィヴィオの話していたシャーリーはゼロの正体をまだ知らず当然記憶など消されていなかったということなのだろうか?
さて、仮にシャーリーがゼロの正体を知らないとして今のルルーシュを見たらどう思うだろうか? ルルーシュの服はゼロの衣装そのもので仮面だけが無かった。つまりそれを見れば……
(仮面無かったら……正体ばれるよね……)
会いたがっていた恋人が凶悪なテロリストだと知ったら当然ショックを受ける。その場から逃げるのだって頷ける。だが、彼女は再びルルーシュに会いに行ったのである。
(でもそうなるとヴィヴィオを置いていった理由がわからないけど……)
だが、ここでその際にルルーシュが自分を殺すかと迫ったのを思い出し、
(まさか、ルルーシュを……)
ゼロに強い憎悪を向けていた事からシャーリーはルルーシュを殺すつもりで向かい、その姿を見せたくなかったからヴィヴィオを置いていった……そんな考えるのも嫌な想像をしてしまった。
(で、身を守る為に置いていったんだろうけど……無茶にも程があるよね)
こなたの手元にはヴィヴィオから受け取ったクラールヴィントとジェットエッジがある。それを使っていざという時は身を守らせようとしたのだろうが、ヴィヴィオにこれだけで身を守らせようと言うのは無謀だと正直呆れていた。
此処までの話は割とこなたの想像による所が多い為、断定はせずに話題を切り替える。
次に考えるのはアカデミアで起こった出来事だ。
こなたが把握している範囲で整理すると
廊下で倒れていたルルーシュをリインが治療し、
その後治療の甲斐あって気が付いたルルーシュはいきなりレイにギアスをかけようとしたが、
そのタイミングで瓦礫が落下してきて、
その出来事でルルーシュは気絶&出血し、
そして、レイがルルーシュに向けて発砲した。
あの時点では何故こんな事になったのかがさっぱりわからなかったし、その時点ではアカデミアから逃げる事に必死だったので考える余力などなかった。
しかし、整理してみると実はそんな難しい話ではない。
まず、ルルーシュが倒れていたのは右腕の傷が悪化したからなのはこなた達も把握している。だが、果たして本当にそれだけだったのだろうか?
ヴィヴィオの話から察するにその前にルルーシュとシャーリーは出会っておりそこで前述のやり取りがあった。
ルルーシュの真意に関してわからない所はあるものの、それがルルーシュの望むものでは無かったのは確かだ。
更に言えば、ここに至るまでルルーシュには色々負担をかけている。自分達の前では気丈に振る舞っていても心労は溜まっていたはずだ。
そこで本来なら喜ぶべきシャーリーとの再会が恐らくは最悪の結果に終わったのだ。精神的に限界が来てもおかしくはない。
更に言えば、十代の死を聞いたレイが凶行に及ぶ可能性にルルーシュが思い当たらないはずがない。リインにしても警戒していたし自分だってそれを危惧していたのだから。
そして先程の精神状態でそんなレイの姿を見れば冷静な判断なんて下せる筈がない。故にいきなりギアスをかけようとしたのだろう。そしてそれにより再び気絶したと。
「でも、あの後のレイの様子を見る限りギアスはかかっていなかったよね? どうして気絶したのかな?」
「もしかしたら届かなくても使っただけで負担がかかるかもしれないですし、あの場にいたリインやこなたにも届いたからじゃないんですか?」
レイにギアスが届きはしなかったが発動はしていた。その推測は正しいし、またあの場にいたリインやこなたに対してもギアスの命令は届いていた可能性はある。
しかし既にこなたにはギアスが使用済の為かかるはずはないし、リインはユニゾンデバイスであるためかからなかったという所だろう(リインに関しては推測でしかないが)。
どちらにしてもこの顛末についてはちゃんとルルーシュに報告しておくべきだろう。
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