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「13人の超新星(3)」(2010/02/02 (火) 08:31:15) の最新版変更点
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*13人の超新星(3) ◆WslPJpzlnU
この戦いにおいて与えられた地図は、アルファベットと数字によって81の区域に分ける。
つまりA-1という区域は順繰りに見ていったとすれば最初に見るべき区域であり、従って地図を見る者は、その中央に点で示された施設の印を目にする事になるだろう。
点の上に記された施設の名は、軍事基地。
その場所に行こうと思ったとき、
(きっとあの女は、人が一番集まり易い市街地から特に遠いから……この場所に軍事基地を置いたんだ)
そう思った。
軍事の名を冠するからには兵装の類が溢れる場所なのだろう。自分自身では強い戦闘力を持っていない、そして戦闘力のある支給品を持っていない万丈目準としては、そこに行って武器を得る事はこの殺し合いで生き残る為に必要な行動だった。
だからこそ長い時間をかけて2本の足を動かしてきた。アスファルトの地面から平野へと至り、空が紅から青に変わりつつこの時間になるまで、万丈目は歩き続けてきた。
その成果が、今目の前にある。
「すごいな」
荒涼とした平野の外れに突き立てられたフェンスの円陣、緑の塗装は所々が剥げ、天辺には渦を巻いた有刺鉄線が取り付けられている。その向こう側には、無骨で実用性を重視した造形の立方体が建ち並んでいた。
鉄と加工鉱物で建造されるそれらに窓はない。万丈目は自分の背丈の十倍はある扉というものを、初めて見る事となった。両開きなのであろうそれらは、接合のない分厚い鉄の一枚板なのだと解る。
これが軍事基地か、と万丈目は思う。
「……って感動している場合ではない!」
惚けるには、この平野は見晴らしが良過ぎる。フェンスの内側に入らなければ、安全性も目的も得られない。
よじ登って入るには有刺鉄線が邪魔をする。しかし万丈目には有刺鉄線を取り除くペンチも、金網に足をかけたままで有刺鉄線を解体するという軽業の経験もなかった。
だから左右を見渡し、扉がないか確かめる。
足も使って探しまわれば、開閉するためのフレームを設けた一角が見つかった。
空くだろうか、と心配になるが、空くに決まっている、とも思った。
「開かなければ……施設として設ける意味がない」
“この世界”にある以上、施設や道具類は全て自分達参加者のために設けられているのだろう。自分達がよりスムーズに殺し合えるように。
「ち」
小さく舌を打ち、万丈目は角張った取っ手に手をかけた。
掌でそれを押せば、ぎ、と耳障りな金属音をたてて扉が開いていく。
その事が自分の予測を裏付ける結果となったのだが、それが万丈目に喜びや嬉しさをもたらす事はなかった。そして、それでもその意図に乗らなければ殺されてしまう自分の弱さが、腹立たしかった。
「…………」
それを紛らわすように、万丈目は荒い足取りで敷地の中に入る。後ろ手に扉を閉めると、まるで閉じ込められたような気がして、気構えが据わろうというものだ。
周囲をフェンスで囲まれた軍事基地の施設は、幾つもの建造物に分かれている。万丈目はその中で最も手近にあった、かまぼこ型の倉庫へと向かう。外見から差異が見つからない以上、しらみつぶしにしていくしかないのだから、迷う必要はない。
だが、
「どうやって開けろというのだぁーーーー!!」
眼前にした倉庫の扉は、フェンスの向こうから見た時よりもずっと大きく感じられた。見上げなければ頂点の見えない扉に何の意味があるというのだろうか。当然、それは人力で道を開けるような素直さは持ち合わせていないだろう。
「スイッチ!」
思わず叫んだ。
「人力で開かないのは誰でも同じ筈だ! ならば何処かに開閉のスイッチがある筈……!!」
フェンスの時よりも、ずっと鬼気迫る様相で万丈目は左右を睨んだ。
怒りに裏打ちされた挙動は荒く攻撃的で、そして、
「………………」
万丈目から見て右手、巨大な扉が動くために刻まれたスリットの先にある人間大の扉を見た。曇り硝子を嵌め込み、塗装もないアルミ製にドアノブを生やしたそれは、仮設住宅の扉に用いられるような安物だった。
数拍ばかり万丈目は停止して、
「……オぅリャァぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」
三歩の跳躍で扉の正面に走り込み、利き足を突き出すとび蹴りによって扉の向こうへ突入した。
「おちょくるのもいい加減にしろぉ?????!!」
叫び、苛立ちのままに倉庫の内壁を殴りつけた。
と、どうやらそこには照明装置のスイッチが合ったらしい。何かを押んだような手応えの直後に、扉よりも高い位置に張り付く蛍光灯の群が一斉に光を灯す。
そして万丈目は、倉庫の内側に並ぶそれらを目にした。
「…………!」
それはまるでスーパーマーケットで商品を並べるように鉄の棚に並べられた、火器の群だった。埃とカビと、そして鉄の臭いが充満して霞のようだ。だがそれでも、蛍光灯に照らされた鉄器の群は鈍く輝いて自己主張を止めない。
小銃、長銃、散弾銃にボーガン、その脇には弾薬を連ねた帯びまである。だがそれらに留まらず、バズーカやロケットランチャー、手榴弾、パンツァーファウスト、スリングショット、バルカン砲にガトリング砲、所によってはサバイバルナイフや折畳式の携帯刀剣まで揃っていた。
おあつらえ向きに、倉庫の最奥にあるのは装甲車だ。
全体を鈍い鉄板で包み込み、天井に備えられた機関銃は走りながら敵を撃つためだろう。タイヤや硝子は防弾のために加工されているに違いない。撃たれる事なく敵を撃つための、凶悪な兵器だった。
「…………」
目つきも鋭く、万丈目はゆっくりとした足取りで銃器の並ぶ棚へと歩み寄った。指紋が埃に隠れるのも構わず、万丈目の五指は棚に並べられた小銃の一つを手に取る。それはプラモデルなどにも見られるような典型的な拳銃で、むしろプラモデルよりも陳腐にすら思えた。
しかしそれを持ち上げた途端、重力に従順な鉄の塊は地面が恋しいと万丈目の手を引っ張った。
ずしり、と微動だにしない硬さを有した小銃を支えられない腕ではないが、それでも、自分が感じている重さは実際の重さ以上なのではないか、と万丈目は思う。
「これで、戦うのか」
目前にして万丈目の胸中に過るのは、この倉庫にある火器を用いた先にある未来の情景だった。
弾丸を受けて全身を粉々に弾けさせる人体、それを行うのは、自分の両腕。
「……………………」
この場にいる奴等の一体どれほどに火器が通じるかは解らない。だが、通じる奴等だっているだろうし、通じなかったからと言って自分は引き金を引いて良いものなのか。
そして何より、万丈目には効く奴と効かない奴の区別がつかない。
もしも撃った奴が効く奴で、しかも自分に害意を持っていない奴だとしたら、しかしそれでも万丈目にはそれが解らないだろう。効く奴ならば、喰らった直後に死んでしまっているだろうから。
「…………」
相手にものを言わせない暴力、それが万丈目の前に整列している。
そのことに、胸中のどこかで震えるような思いがある。
だが、それでも、
「俺はこれらを得ない訳にはいかないんだ……」
殺すのと殺さないのがまるで違うように、戦う力があるのとないのとではまるで違う。
先は自分が殺す可能性に悩んだが、ではそれが効かない奴だったら、そして殺意を始めから持っている奴だったらどうすればいい。そうなった時、抵抗するための力はどうしても必要だ。そして今、万丈目が得られる力は、目の前の火器しかない。
万丈目は肩にかけたデイバックを下ろし、開いた中身へと小銃を押し入れた。そして持ち得る限りの銃器を、次々とデイバックの中に突っ込んでいく。重くて持ち上がらないものは、逆にデイバックを持ち上げて被せ、内部へと収納した。こういう時にこのデイバックの機能は役に立つ。
「……見分ければ良い、軽々しく使わなければ良いんだ」
要は使い手の問題だ、と万丈目は自らに言い聞かせる。そして俺ならば問題などないのだ、と。
そう思わなければならなかった。
そう思わなければ、万丈目は生き残るための力を手に入れることが出来ないのだから。
しゃにむににに火器を回収する万丈目の姿を、装甲車は黙ってフロントガラスに捉え続けていた。
●
「そういう……事なんだよなぁ!?」
起き上がった拍子に、下敷きにしていた瓦礫の群が僅かに崩れた。
くすんだ藍色が占める空にほんの少しだけ星が瞬く空を眺めるのはもうお終いだ。今から始めるべきなのは、残されたビルや家屋の向こうに沈み始めた夕陽のように、周囲を真っ赤に染めるような闘争だ。
浅倉の周囲に無事な建造物は1つもなかった。何もかもが瓦解し、巨大な石の塊となって降り積もっている。
瓦礫に横たえていた衣服は泥と粉塵がへばりついて汚れていたが、そうするまでもなくズタボロになっていた。上も下もそこかしこが破れて解れ、剥き出しの皮膚は擦り剥けて真っ赤に濡れた肉を露出している。傷口には砂が混じり込み、重度の日焼けをしたようにひりひりと痛む。
だが、浅倉威は意に介さない。
バネ仕掛けを連想させる勢いで立ち上がり、その勢いを殺し切れずによろめく。
だが浅倉の容態は、本来立ち上がることが許されないような満身創痍だった。致命傷にはいたらないというだけで、擦過傷や打撲、火傷やら切傷やら、服も皮の一部であるように千切れさせている。
この場に意思がいたならば絶対安静を求めてきただろう。
そしてその横っ面に拳をくれてやっただろう、と浅倉は思う。
この高揚を邪魔するものは、すべからく皆殺しにしてやろうとさえ思っていたのだ。
「はは」
喉が引き攣ったように嗤いを弾き出し、その表情は蛇というよりも野犬のそれに近い。噛み付けるものを見つけたように、その牙から狂犬病を注いで狂気を伝染させようと、口角泡吹いて興奮しているのだ。
「お前等も」
不意に浅倉は視線を下げた。
二つの目線が向かうのは足下、瓦礫の上のそこかしこに散らばっている窓硝子の破片だ。夕陽に照って僅かに景色を映すそれらには、しかし景色の中に姿のないものが潜んでいる。
2体の怪物だ。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………』
かたや大蛇。
ウワバミと表現しても良い紫色の巨体は長大に長大を極め、そこら中に散らばっている硝子のあちこちに長胴の一部を垣間見せていた。浅倉に最も近い硝子の破片からは、瞳のない黄色い目が浅倉を見返している。
『VOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!』
かたや犀。
犀とはいっても四つ足の姿ではない。極太ではあったが、2本の足で立ち、4本の指を生やす両腕は人間のシルエットに近い。しかし全身を銀色の鎧が覆い、金色の角や爪を生やす形は、犀の怪物以外の何ものでもなかった。
前者をベノスネーカー、後者をメタルゲラスというこれらの怪物は、浅倉の手に戻ってきた王蛇のカードデッキに縛られる2体の契約モンスターである。ベノスネーカーとは最も古い間柄で、メタルゲラスとはしばらくしてから契約した。王蛇のカードデッキには契約のカードが3枚存在しているからだ。
メタルゲラスは本来別の契約モンスターだった。どうやらその持主を慕っていたらしく、事ある毎に強固な肩を怒らせる。今もまた、蒸気機関車のように野太い鼻息を吹いて、浅倉を睨みつけている。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!!』
「あぁ?」
しかし浅倉も、それに動じることなく睨み返した。
「お前、まだやってんのか」
は、と嘲笑うように浅倉は喉を鼻を鳴らす。
そして、メタルゲラスの映る硝子の破片を踏み潰した。
『VOOOOOOOOOO!!』
硝子の破片は単なる窓口に過ぎない。砕いたからといってメタルゲラスが傷付く筈もなく、別の破片にその姿を映した。
浅倉も勿論それを把握している。踏み砕いたのは単なる意思表示だ。
「てめぇも化物なら、何時までも人間に懐いてんじゃねぇよ」
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!』
その通りだ、と言わんばかりにベノスネーカーが甲高い鳴き声を上げる。応じるようにメタルゲラスも雄叫びを上げ、太い左腕を掲げようとして、
「オイ」
そこに浅倉の声が入った。
「やるつもりなら、別の獲物をやったらどうだ?」
その言葉を理解したのだろうか、2体の怪物は一様に浅倉を見た。それから辺りを見回すような仕草を経て、再び浅倉を見据える。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!!』
それは抗議の声のようだった。
事実、この周囲に浅倉以外の人間は存在しない。どこまでも続く瓦礫の積み重ねだけが広がっているだけだ。
よもや浅倉を襲えということなのか、と怪物達は浅倉の体躯を見る。
「忘れたかよ、お前等自身の力」
浅倉は獰猛に笑み、破れかかったポケットからカードデッキを取り出した。
紫を気色に金色のレリーフが上乗せされている。その形状はコブラ、いやさベノスネーカーを模している。
「本当の使い方を忘れちまった奴が、ずっと使ってたのか?」
にしても馬鹿だよなぁ、と呟くと、講義するように雄叫びが重複した。
く、とその音に浅倉は喉を鳴らした。
「お前等がいるんだ……。“あれ”だって在るんだろう?」
言って、浅倉は歩き出した。
埃に塗れ、所々が剥げた蛇柄の革靴で瓦礫を踏みしめ、足音をたてて焦土の上を横断していく。ベノスネーカーもメタルゲラスもその意図を図りかねているようだった。そこかしこに散らばる窓硝子の向こうで、2体の怪物は浅倉に追随する。
そうしてどれほど歩いただろうか、浅倉が立ち止まったのは、どうにか無事に残っていたビルのショーウィンドウだった。
浅倉の背丈よりも大きな窓硝子、その向こうには表彰台のような形をした土台に、高級そうな鞄やサンダルが乗せられている。どうやら女性用の小道具を販売する店を1階に持つビルだったらしい。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』
その窓硝子にベノスネーカーとメタルゲラスが映る。4つの目が浅倉を見下ろし、答えを教えろ、と脅すように唸っている。
だが浅倉の笑みが、今に解る、と言外に伝えるばかりで、声を持って教えることはなかった。
それだけに行動は雄弁だ。急な動きで、浅倉は携えていたカードデッキをショーウィンドウへと突き出した。そうして起こるのは出現、どこからともなく現れた機械のベルトが腰に装着される。そのバックルには、カードデッキを装填するためのスロットがある。
構え、そして浅倉は叫んだ。
「ーー変身!!」
空気を裂く叫びを追って、カードデッキはベルトに装填される。
直後、鏡で出来た人のシルエットが幾つも出現し、浅倉の体と重なる。それが砕ける時、浅倉の体は戦闘者としての鎧で全身をまとう、仮面ライダーの1人となるのだ。
王蛇、そう呼ばれる仮面ライダーだ。
「良いなぁ……、良いよなぁ、やっぱり」
掲げた腕の先で掌を何度構わして、鎧の感触を確かめる。
戦うためだけに設計されつつも装着者の動きを妨げないこの作りは、何度味わっても飽きることのない歓喜の感触だった。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』
主の戦闘態勢を前にして、いよいよ怪物共の困惑は極まったらしい。
戦闘狂の主が戦闘態勢になったというのに、その周囲には獲物となるような存在は1人もいない。だというのに何故浅倉は変身したのだろうか、言葉を持たない化物の精一杯の問いかけが視線で届く。
「はは、はははは」
そこで、浅倉は笑う。
難しい話じゃねぇ、と続けて、
「本当の。ーー俺達の“仮面ライダー同士の戦い”をやろうってだけさ」
浅倉は知っている。
この鎧が、戦闘のためのものであるという以上に、人知れず戦うため潜水服に似た機能も持ち合わせているのだという事を。
そして浅倉は号令した。
怪物達を、開戦の使者とするために。
「引きずり込め、ーーーーミラーワールドに!!!」
●
きぃん、と唐突になった耳鳴り。それはARMS同士の激突による聴覚の痛みかと思った。
しかし違った。それは化物が現れる前兆だったのだ。
そのことにアレックスが気付いたのは、見上げる先で2階の窓に捕まっていたキース・レッドが、何か長大な触手のようなものによって胴を縛られてからだった。
「何!?」
キース・レッドが驚く間にその体は牽引され、僅かに光を放って窓硝子へ吸い込まれる。
だが驚いたのはキース・シルバーも同じだった。
(あれは……!!)
突如として現れキース・レッドを連れ去った触手に、アレックスには見覚えがあった。あれはまだ太陽が頂上を極める前のこと、突如としてLを襲った化物の片割だ。巨体な猛威を前にして自分やLが生き残れたのは、一重にザフィーラが奴等を引き連れたお陰だったが、
(やはり仕留め切れなかったか……!!)
見えたのは一瞬だったが、それは同時に動きが鈍くなるような傷を負っていないことの裏返しだ。
ならばザフィーラは犬死にしてしまったのか。
犬だけに。
「どこへ……!!」
仇を撃とうとマッドハッターの砲門が辺りを見回す。
だがその仇は、すでにアレックスの背後に忍び寄っていた。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
キース・レッドを連れ去ったのは、奴の尾だったのだ。
怪物の片割、コブラ型のモンスターがその頭部を、丁度アレックスの両足の間に落ちていた硝子の破片から出現させた。巨大な口はアレックスを胸まで飲み込み、鋭い牙はシートベルトのようにアレックスの両肩を捕捉する。
「……!!」
荷電粒子砲を打ち込む暇もなかった。
唐突に現れたのと同じような速さを持って、大蛇の頭はアレックスを窓硝子へと引きずり込んだ。
【全体の備考】
※時空管理局地上本部付近に対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル、454カスール カスタムオートマチックが落ちています。どちらも残弾はありません。
●
「……? ……!? ……!!!?」
ようやくホテル・アグスタの正面玄関に辿り着こうとした瞬間、柊かがみの視界は闇に閉ざされた。
頭を鷲掴みにされる感触、視界が途切れる前に見たものは、胸元の千年リングから突如として豪腕が生えるという、脅威の様だった。
かがみはかつての主として、その腕の持主を知っている。
(……メタルゲラス!?)
犀の怪物を支配するためのカードデッキは奪われた。だというのに何故今になって現れたというのか。
唐突と予想外、二重の驚愕にかがみの行動は遅れてしまう。
しかしメタルゲラスが待つ事はない。だからこその、こうした結果だった。
『ご主人サ……!!』
千年リングにより聞こえるバクラの声が途絶える。
当然だ、ミラーワールドからの干渉によって肉体が流体化したかがみの体は、首にかかる千年リングの輪を潜り、その黄金に照った表面へと引きずり込まれていくのだから。
(……バクラぁ!)
助けて、という言葉も顎ごと握られたのでは紡げない。
時にして一瞬、かがみは千年リングが映す情景の向こうへと消える。
後にはホテル入口前の草むらに千年リングが落ちる、その音だけが作られた。
【全体の備考】
※F-9 ホテル・アグスタ正面玄関前に千年リングが落ちています。
ミラーモンスターが現れる前兆、その耳鳴りに相川始が反応出来なかったのは、一重に迷いのせいだ。始に出来た事は、通り過ぎた窓硝子の破片から伸びる極太の腕が、自分の足を掴むところを見るのが精一杯だった。
「貴様!」
腕に続いて這い出してくるのはもう片方の腕、そして金色の一角を頂く怪物の頭だ。掌ほどしかない窓硝子からかくも大きな体躯が出現する様は、怪奇以外のなにものでもない。
しかし、その怪物は全身の外殻を夕陽に照らして、確かにそこにいるのだ。
「変しーー」
懐からラウズカードを出すのと同時進攻でベルトを発現、カリスの姿に変じて迎撃を果たそうとする。
しかしそれは、相手がこちらの足を掴んでいる以上、どうしようもなく時間のかかる挙動だった。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーー!!!』
成人男性の中でも体格のいい始の身体を、一本角の怪物は事もげに振り回す。
足を掴んだ怪物は腕を引き、始の直立を崩した。圧倒的な牽引力によって足は払われ、受身をとる事も出来ずに、瓦礫で波立つ地面へ肩と側頭部を激突させる。
「が……ッ!!」
肩と腕の境目に突起がめり込み、骨と骨の接合部が押し広げられる感覚は想像を絶する。加えて側頭を打つ打撃は、下手をすれば眼球を貫きかねたい攻撃だ。始といえども、生理的な苦悶は禁じ得ない。
「ぐ、ぅ」
そして始は同じ轍を踏む事になる。
痛みに悶えている間に、窓硝子へと沈んでいく怪物に引き摺られて、始もまたその中へと吸い込まれた。
●
新庄の背後で、ざ、という物音が唐突に生じる。
「……?」
自分を追随するエネルがどうかしたのだろうか、と振り向き、
「え……!?」
そこには誰もいなかった。
影も形もなく、分ける草の根もない市街地の中で、エネルの巨躯は消え失せている。
「そんな!」
確かにエネルは一瞬で移動するような能力を持っている。しかし、ヴァッシュの驚異的な戦闘力を裏付けにしたハッタリを信じ込ませたエネルが、それを行うことは全くの予想外だった。
それも、携えていた武器まで落として。
「一体どこに……!!」
急いた動きで辺りを見回す新庄の様を、路上に放置された剣が、その細い刀身に映していることに、彼はまだ気付いていなかった。
【1日目 夕方】
【現在地 C-4 市街地・北端】
【新庄・運切@なのは×終わクロ】
【状態】全身火傷(軽)、全身打撲(軽)、全身生乾き、男性体
【装備】ストームレイダー(15/15)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
基本:極力多数の参加者とともに生還する
1.ヴァッシュを死なせない為にも生き残る
2.エネルが消えた……!?
3.レイ、フェイトが心配
4.ヘリコプターに代わる乗物を探す
5.弱者および殺し合いを望まない者を探す
6.殺し合いに乗った者は極力足止め、相手次第ではスルー
7.自分の体質に関しては問題が生じない範囲で極力隠す
【備考】
※特異体質により、「朝~夕方は男性体」「夜~早朝は女性体」になります
※スマートブレイン本社ビルを中心にして半径2マス分の立地を大まかに把握しています
※ストームレイダーの弾丸は全て魔力弾です。非殺傷設定の解除も可能です
※ストームレイダーには地図のコピーデータ(禁止エリアチェック済み)が記録さています
※エリアの端と端が繋がっている事に気付いています
※目の前にジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 が落ちています
まるで床が水か何かであるかのように現れた影は、成熟した外見となった自分さえも超える巨躯だった。影はやや背を曲げた姿勢だというにも関わらず、ヴィヴィオの目線は影の胸元ほどしかない。荒い息遣いに首と肩を揺らし、今、両腕がもたげられる。
そして、五指ならざる指が生やす金色の爪が迫った。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!』
「うううううううううううううう……ッ!!」
雄叫びに振り抜かれた2つの巨大な掌を、しかしヴィヴィオの細腕は確かに受け止める。
適性の問題があるとはいえ、レリックを身の内に秘めた聖王の器は怪物を片手間に払う戦闘力を発揮する。狂気に支配されたヴィヴィオは右脚で巨躯の胸をつき、掌を掴んだまま両腕をもぎ取ろうとする。
だがそれが出来ないことこそが、ヴィヴィオがこの対峙に敗北する理由だった。
「ううううう……っ!?」
怪物、メタルゲラスが現れたのは床からだ。誰もいないこの“聖王のゆりかご”でありながら磨き上げたように綺麗な廊下は、淡い非常灯によって鏡に似た性質を発揮しているからこそ、メタルゲラスは床を出入り口にした。
それはつまり廊下全体が境界線ということ。すでにヴィヴィオの両足は入口と化した床に沈んでいた。
「あ、ぅぅぅぅ……!!!」
理解不能の生理的な恐怖に顔は引き攣り、抜け出そうと両足がもがく。
しかしカードデッキ式仮面ライダーを装備しないヴィヴィオに脱出は不可能、飛行魔法もメタルゲラスの腕力を前にしては拮抗することも出来ない。
そして、
『VOOOOOOOOOOOOOOOOーーーー!!!』
一気呵成の叫びのもと、ヴィヴィオは鏡と化した廊下に叩き込まれた。
●
砂浜を走る事は想像以上の困難を伴った。
踏みつけるたびに砂の群は散り散りとなり、一歩ごとに身体のバランスを調整しなければならない。おまけに改めて踏み出そうとすれば、潜り込んだ深度に比例して砂が足にのしかかり、脱出させまいとまとわりついてくるのだ。それでいて蹴散らせばあっという間に散る軽さ、手応えの変動し易さは無意識に足を疲労させる。
だというのに、
「何これーーーーーっ!」
叫んだ柊つかさが目にしたのは、もはや海と呼んでも良いような河川だった。
市街地から流れてくる河川は砂浜を両断して海に流れている。流水に削られた砂の崖はもろく、近付こうものなら足場から崩れ、つかさの小さな体は水没して海に押しやられてしまうだろう。とてもではないが泳げるような水流ではなく、飛び越えるような足場でもない。
迂回しようにも右手は海辺の浜、左手から流れてくる水流は市街地まで届き、その果てを見せない。
川を渡るには、大きく迂回しなくてはならないようだ。
「そんなぁ」
荒い息に肺と喉が痛み、短い髪の毛は振り乱れた。
頭髪の合間をぬって流れてくる汗に濡れたつかさの顔は、目と鼻の先にある“聖王のゆりかご”を見る。沈みつつある夕陽の中でもその巨体を誇る建造物は、まるで自分を嘲笑っているようにさえ思えた。
(何とかして渡れないかなぁ)
目の前の河川を越えるだけで良い、その思いが、つかさに川面を覗かせた。
そして、
「……ぇ?」
き、という耳障りな耳鳴り。
そして揺らいだ水面に映っていたのは自分の顔ではなく、見たことも無い異形の面構えだった。金色の角を鼻先から直角に早し、瞳のない双眸はこちらを眺めている。まるで犀のような姿だったが、だとしたら両腕が人間のようになっているのは変だ。
怪物だった。
「なん、で」
戸惑いがつかさに行動の行動を遅らせた。尤も、つかさの反射神経では対応できなかっただろうが。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!』
拳が水面から生えてきた、そう思った時には、水面は赤く濁った。
「……ぷふっ」
鼻と前歯、そして顎が砕ける痛みに舌鼓を打ち、そして広げられた掌がつかさの頭を鷲掴みにする。頭部の下半分が砕かれた直後だというのに、次の瞬間には上半分が握りつぶされそうな圧力がかかる。
「ぁ、が」
現実離れした事実と痛みに、つかさの双眸は、掌に覆われた暗闇から瞼による暗闇を見るようになった。
ーーーーーーーーーープつんーーーーーーーーーー
●
夕陽に陰る事務室の中で、天道総司の耳朶は不意の高音に痛んだ。
(……これは)
覚えのある感覚に、壁にもたれて腕を組んでいた天道は面を上げる。思わずジーンズのポケットに手を突っ込み、その奥に仕舞い込んだ黒いカードデッキに指先を触れさせた。
現在進行形で黒いカードデッキが縛る龍、ドラグレッダーを統べる天道には、この耳鳴りの正体が何であるかを知っている。ミラーワールドの誰かが現実世界側の誰かへ干渉しようとした時、カードデッキの如何せんを問わず発生する前兆だった。
ドラグレッダーだろうか、と天道は思う。
何かの規則を破ったのか、それとも自分がそうと知らずと破ったのか、どちらにせよ何らかのアプローチが来る。
「天道、さん?」
と、眼下で高町が潤んだ瞳にこちらの姿を映していた。
薄く開いた唇からは吐息が漏れ、両手で握る紙コップはスポーツ飲料に満ちている。それとは対極に、空っぽになった大型のペットボトルが脇に放置されている。飲みきったのだ。
まずいな、と天道は相互を崩した。
高町の熱はまだ引いていないようだ。額は汗ばみ、僅かに荒い呼吸を証明するように豊かな膨らみが絶えず伸縮を繰り返す。壁に背をもたれて床に座り込む彼女は、体調の不備を訴えて止まない。
だがそれでも、ここから離れる必要があった。
「高町、動けるか」
かがみ込んで高町との目線を合わせ、天道は張り詰めた表情を作る。
「何が……?」
「ミラーモンスターが狙っている」
彼女には前兆がこなかったらしい、緩み潤んでいた瞳が見開かれ、天道の顔を見返した。
「お前には耳鳴りがしなかったのか」
「私、は、全然、聞こえませんでし、た」
ということは、ミラーモンスターに狙われているのは自分だけということになる。
ならば自分が移動すれば高町の安全は確保出来るか、と思い、しかし今1人にすることが高町の安全になるのか、とも思う。
どれほどの猶予があるのか、それすらも解らない逡巡の時間に一筋の汗が頬を撫で、
「…………!!」
天道は見る。
顎先から放たれた汗の注ぐ先、高町が携える紙コップの中身に巨大な獣の頭部が見えたのを。
しまった、そう言うだけの暇もなく、紙コップに満ち満ちたスポーツ飲料を出入り口にして巨大な舌が出現した。
「なーー!?」
「がぁ……!!」
驚愕に固まった高町の目前で、天道の首を支柱にして舌が何十にも巻き付いた。
首を始点にしての牽引、くわえて膝立ちで前のめりという踏ん張りの利かない態勢では、スポーツ飲料の向こう側にいるモンスターに抵抗することは出来ない。ドラグレッダーを喚び出す命令さえも思う暇がなかった。
底辺に空いた穴へ水が渦巻いて流れ込むように、天道は紙コップの小さな陥没の中へと飲み込まれる。
靴裏まで取り込まれる直前、現実世界との繋がりが途絶える直前に、高町の声を聞きながら。
「天道さん……!!」
【現在地 D-2 スーパー 事務室】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】発熱、魔力消費(大)、驚愕、キングへの疑念と困惑
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式
【思考】
基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する
1.天道さんが消えた……!?
2.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める
3.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
4早く騎士ゼストの誤解を解かないと……
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています
「貴様は」
かかげた刃の中に、アーカードは化物の姿を見た。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!』
背後には何者もいない。まるで鏡のように光る刀身が窓口だというかのように、そこには人型の犀が映っている。野太い腕を肩ごと上下させ、瞳のない双眸はアーカードを見返している。
耳鳴りに顔をしかめるアーカードは、視線だけで怪物の意図を悟る。
「私を、狙っているのか」
肯定するように怪物は鳴いた。まるで汽笛のような咆哮は耳鳴りとの重奏となり、アーカードは更に頭を痛めることとなる。
だがそれでも、表情は笑みだったのだ。
「面白い」
思いは一言に尽きる。
「やってみろ化物。私に、修羅場というものを見せろ」
応じたことが切っ掛けだったのだろうか。
怪物はこちらへと両手を差し出し、8本の指が刀身から生えてきた。
一体どういう原理なのか、アーカードには解らない。ただ目前で、携えた日本刀から化物の巨腕が伸びてきて、そして自らの頭を両側から鷲掴みにしたことだけは、実体験として信じていた。
引きずり込まれたのは、直後のことである。
●
「う、うわぁっ!!」
腰砕けの悲鳴をあげ、デイバック片手に万丈目は装甲車へと駆け込んだ。
ドアに鍵はかかっていなかった。それどころか運転席の鍵穴にその先端を挿入し、何か認識票のようなものをキーホルダーとして垂らしている。後部座席に滑り込んだ万丈目の目は、運転席と助手席の合間からその事実を覗いていた。
「な、何なのだアイツは!?」
閉じた後部座席の扉、その一部をくり抜いて埋め込まれた強化硝子越しに見えたのは、紫色をした巨大な蛇だった。瞳の無い眼球で窓硝子を覗き込み、身体をすくませる万丈目の姿を睨みつける。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!!!』
凶悪な目を一端に遠ざけ、直後に迫った再接近は突進と呼べるものだった。
横殴りの一撃が装甲車を万丈目ごと揺るがす。
「わああああああああああぁぁぁッ!!」
化物の突進に装甲車が吹っ飛ばなかったのは、一重に装甲車自身の重量と幸運によるものだ。だが激突によって確かな被害はある。万丈目が急いで閉じた扉は、いまや内側に大きく陥没している。突進の被害であることは、そして二度目を受ければ弾け跳ぶことは明白だった。
「に、逃げなければ」
化物が再び身を引いたうちに、万丈目は這うようにして前部座席へと身を映す。もとより狭い前後座席を行き来するスペースは、武装車両の中とあってはよりせまいもののような気がした。
辿るように手を添えたのは操縦席のクッションだ。軍用の分厚く角張った座席に座れば、ハンドルと2枚のペダル、そしてエンジンを始動させるための鍵が備わっている。運転経験どころか免許も持っていない万丈目であったが、この状況にあってはどうこう言う訳にはいかない。
(早く、早く鍵を……!)
座席の陥没に尻を収め、右手をスロットに挿入された鍵穴へと伸ばす。と、そこで万丈目は、フロントガラス越しに1つの行動を見た。
右のサイドミラーがへし折れており、そこに嵌め込まれた小さな鏡に怪物の尾先が埋まっているのだ。
刺さっているのとは違う。まるで鏡が水か何かであるように、そこから這い出すようにして尾先がサイドミラーに埋まっている。
「な、何だ? あんな小さな鏡の中から這い出してきたというのか!?」
小事であった。それそのものは何の危機ももたらさない、ただ、危機の準備だった。
だからこそ万丈目は、その狼狽えている間に鍵を捻ってエンジンを起こし、しゃにむにでもアクセルペダルを踏み抜くべきだったのだ。
だがそれも、もはや間に合わないことであったが。
「!!?」
がくん、と装甲車が揺れた。
何だろうか、また体当たりを仕掛けてきたのだろうか、と万丈目は思う。だがそれにしては揺れが小さく、また断続的だ。ぎし、ぎし、と装甲車全体が耳障りな軋みをあげている。
そしてフロントガラスから見える景色が浮上した時、装甲車そのものが持ち上がっているのだと気付いた。
「う、うわ……!!」
長大な胴をした蛇の怪物は装甲車に巻き付き、万丈目ごと捕らえたのだ。
螺旋を描くように巻き付いた胴体により、もはや前後の扉は開かない。踏みつける地面がないのでは、エンジンを駆動させてタイヤを回しても何の意味は無かった。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「ひぃ……っ!」
フロントガラスから怪物が覗き込んできた。
目前に迫る凶暴な顔に、思わずデイバックを盾にして身を小さくする。
そんな風に目を硬く閉じていたから、万丈目は自分や装甲車が流動状に変形し、怪物の尾先についたサイドミラーへ吸い込まれる奇怪な情景を見ることはなかった。
●
「「「何!?」」」
それはヴィータの驚愕でありアギトの驚愕であり、同時に金居の驚愕でもあった。
赤いドレスから覗くか細い両腕、それが携える槍の刀身より長大な舌が出現して金居の胴を縛ったのだ。
「ぐ」
金居の姿が陽炎のように揺らぐ。
何かの特殊能力なのだろうか、ヴィータは思う。それはこの場を逃れうる力だったのかもしれないが、しかし、変化が完了するよりも先に舌は動く。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!』
どこか聞き覚えのある雄叫びの後、牽引された舌によって金居は引きずり込まれてしまう。
槍の矛先、鏡面のように光る小さな刃へと。
「……金居!?」
まるで手品か幻のように、刃よりも遥かに大きな金居の体躯は引かれる胴体を先頭にして輪郭を歪め、まるで穴に流れ込む水のような有様となって刀身の中に消えてしまった。後に残されるのは、武器を持ったヴィータと、傍らのアギトだけ。
すでにヴィータの平常心は完全に転覆している。額から頬へと流れる冷や汗は幾筋も顎から伝い落ち、足下の瓦礫は通り雨でもあったかのように黒い斑点に彩られる。
白昼夢というにはあまりにも時間が遅い。だが夢でなければ大の男が一度に2人も消えた事になる。そんなことは、転移魔法かそれに準ずる能力がなければ不可能なように思えた。
一体どこへ、そう呟こうとして、
「……まさか」
憶測の言葉が口をついた。
思い起こすのは牽引とともに聴こえた雄叫びだ。合成音声のような2重の声は聞き覚えのあるものだったが、それをどこで聞いたのか、今ようやく思い出す。
それはかつて、アーカードと戦ったクロノ・ハラオウンが従える獣のそれに似ていたのだ。
「鏡から出てくる化物」
糸口を見つけてしまえば、あとは芋づる式で言葉が出てきた。
「誰かが、……あの化物で奇襲をかけてんのか!?」
【現在地 E-5 市街地】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(中)、奇襲に対する危機感(大)
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で数時間使用不可、核鉄状態)@なのは×錬金、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
【思考】
基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する
1.はやて(StS)は様子見、当分同行するが不審点があれば戦闘も辞さない
2.やべぇぞ……どこから敵が来るか解らねぇ……!
3.ヴィヴィオ、ミライ、ゼスト、ルーテシアを探す
4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す
5.グラーフアイゼンはどこにいるんだ……?
【備考】
※ヘルメスドライブの使用者として登録されています
※セフィロスの遭遇以前の動向をある程度把握しています
※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジール、セフィロスを警戒しています
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表
【思考】
基本:ゼスト&ルーテシアと合流して脱出する
1.とりあえずヴィータやはやてと協力
2.この状況ってやべぇんじゃねぇの!?
3.ゼストとルーテシアが自分の知る2人か疑問
4.金居の事を非常に警戒しています
【備考】
※アギトの参戦次期はシグナムとともにゼストの所へ向かう途中(23話)です
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。ただし具体的には解っていないので現状誰かに話す気はありません
※デイバックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています
※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です
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