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「13人の超新星(6)」(2010/02/02 (火) 14:56:39) の最新版変更点
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*13人の超新星(6) ◆WslPJpzlnU
路上で宣言を轟かせる黒尽くめの男、しかし彼は、自分が飛び降りたビルより更に高いところに、もう1つの視点があったことに気付いていないようだった。
高さにして10の階層を数えるほどの建造物を足場として、アーカードの視覚は路上を見下ろす。
暴風を吹き起こす対決と、異形が直線で三竦みを描く対決が始まるそこで、足を止めているものなどありはしない。誰も彼もが自らの命と敵対者の命をぶつけ、奪うか奪うまいかの攻守を交換している。
実際その通りなのであるが、アーカードには、それらがとても遠くの情景に思えた。
「………………」
薄らとヒビの浮かんだビルの屋上、鉄柵を超え、僅かばかりの段差に足をかけるアーカードの視線は乾いている。耳になる空洞を風が走るような音は、背後にした大型ダクトの音か、それとも心境ゆえに聞こえる幻聴だったのか。
どうでも良いか、とアーカードは思う。
(……少年)
思い起こすのはこれまで戦ってきた者達の姿だ。
(アンデルセン。……セフィロス)
その誰も彼もがアーカードに血を吹かせ、心を血によって潤し、しかる後に濡れる寒さを味合わせる者共だった。強い戦闘力と、そして精神力を持っていながら、それを持って立ち向かいながら、しかしアーカードの満足感を徹頭徹尾で維持してくれた者はいない。
(少年は私を見ずして死に、アンデルセンは知らぬ間に殺され、セフィロスもまた同様……)
退屈とは違う。
憤りとも違う。
ただ、全ての敵対者に置いてけぼりにされたような、寂寥だけが胸を満たす。
眼下で争う者どもの一体どれほどがセフィロス並みの戦闘力を持っているだろうか。アンデルセンの再生力と狂信を抱いているだろうか。少年の使命感を持っているだろうか。
(闘争)
欲しい、そう思った。
血を吹きたい。
血を吹かせたい。
血を啜りたい。
血に浸りたい。
血を喰らいたい。
血、血、血、吸血鬼故なのか自分がアーカードたる故なのか、そんな事はどうでも良い。ただ、血に塗れる闘争だけが欲しい。
故にアーカードは屋上の縁取りを踏む脚に力を込め、黒装束の男に倣って飛び降りようと思った。
その時だ。突如として背後に気配が生まれ、空気が震えたのは。
「アーカード氏ですね」
呼びかけにアーカードは動きを止める。
音色は女性のものだ。だが油断することはない。“第三の目”によって周囲一帯を把握するアーカードの特殊能力をかいくぐり、唐突に背後に立つことが出来た人物が、正常な人間であるはずがない。
「参加者No.20、種族は吸血鬼。類稀な戦闘力と闘争意欲を持ち、バトルロワイヤルを円滑に進行させる勢力ーーつまりは“マーダー”」
「不躾だな、レディ」
アーカードは脚を揃え、そこに至って振り向いた。
鉄柵の向こう、ビルに合わせて奥行きのある長方形を描く屋上の中央に、1人の女性が立っている。褪せた茶髪、白と焦茶は法衣を思わせる装いだが、胸の谷間を覗かせる法衣はこの世に存在しない。付属品なのだろう、衣服に合わせたデザインの帽子が頭頂部を隠している。
彼女には、自分達にあるものが欠落している。
首輪だ。
何者にも遮られない首はあんなにも白かったか、アーカードは言外に感嘆する。
「プレシアの眷属か」
「はい、リニスと申します」
アーカードの誰何に女性は一礼した。
帽子を取って胸に当てる一連の動作は瀟酒の一語、しかしその時に露見した頭部には、山猫を思わせる三角形の耳が生えていた。
純粋な人間ではないらしい、そう思った目線は、リニスのそれと向かい合う。
「プレシアはこの戦いを望んでいません」
冷えきった表情だった。
「貴方達を、元々いた世界に戻します」
「元々? 笑わせる、さっきまで殺し合っていたあの世界だろう?」
思いの欠片もない、それこそ道具の作業音のような声を、アーカードは嘲笑う。
そこには微かな怒りが漂っていた。
「私をこの戦場から離すと?」
「この世界に生物は存在し得ません、長時間いれば肉体が消滅します。例え貴方といえども……」
「私から、闘争を、取り上げようと言うのだな?」
そこで始めてリニスの顔が動いた。伏し目がちだった瞳は大きく剥かれ、薄らと汗の滲んだ顔は、青ざめ引き攣っている。
賢い娘だ、とアーカードは思う。もはや遅いが。
「ーー宜しい、ならば戦争だ」
携えた抜き身の日本刀を向け、後ろ手にデイバックを放り捨てた。10階分はある下方の大地へと落ちていくデイバックを見ることもなく、その双眸はリニスを捉えて離さない。
「都合の悪い争いはさせない、と? つくづく業腹な連中だ」
「私は望んでいません。……というのは、欺瞞ですね」
解りました、と浅く俯いたリニスは呟く。
日本刀を迎えるようにして差し出されたリニスの掌、そこには金色の三角形が乗っていた。ブローチか何かであろうか、一片の三角形の上に一回り小さな同形を乗せたそれは、台座のようにも見える。
リニスの麗しい唇が、音を紡いだ。
「バルディッシュ、セットアップ」
『ーーYes,sir』
単語の羅列を口ずさむとともに、金色の三角形は強く閃いた。
やがて光は収束、先端に角張った板を備え付ける棒のような形となった。柄の長い斧のようだ、と思うが、実際光が失われてみれば、それはまさしくその通りの姿となる。
鈍色の柄に黒い刃、基部には黄色い獣の瞳のような球が埋め込まれており、武器というよりは武器型の機械と言った風だ。
「バルデッシュ・レプリカ、……転移魔法を」
Yes、その返答も終えぬうちに新たな光が放たれる。
それはリニスと自分の間、どちらかといえばリニスよりの位置からだ。円と文字、図形を交えて回転するそれは、さながらオカルトの魔法陣といったところか。
しかし円陣の中から人が現れた時、アーカードはそれが本当の魔法陣だったのだと知った。
「……貴様は」
水からせり上がるようにして屋上に立ったのは、1人の女性だった。
金髪に赤い瞳、若々しい顔立ちは長身でグラマラスな体躯を誇示している。だがそれも、分厚い軍服のような黒衣の下にあっては、いささか興ざめな感も諌めない。
そんな彼女は、見覚えのあるベルトをつけていた。まるで機械で構成されているような黄金色の装甲、脇には何かを接続するためのジョイントが設けられている。バックルだけは、鳳を模した紋章を浮き彫りにする茶色いレリーフが嵌め込まれている。だがそれは、楔のようなものでバックルに縫い付けられていた。
そこだけが、アーカードの記憶との相違点だった。
(かつて少年が身に付けていた物の同種か)
だとすれば、あの金髪の女も何らかの怪物を従えているのだろうか。
「リニス」
ふいに、金髪の女がリニスの方へと振り向いた。
「あの人を捕まえれば、良いんだよね」
「そうです、フェイト」
フェイト、そう言うらしい金髪の女に向けるリニスの表情は笑み。
しかしそれはどこか軋むような、引き攣ったような感情だった。
「そうすれば、きっとプレシアは貴方を褒めてくれますよ」
「……うん」
その言葉にフェイトは表情を締めた。生気のない瞳に意欲が宿り、一直線にアーカードを見つめる。
そして、一語を紡いだ。
「ーー変身」
途端にどこからともなく人影が出現、しかし黒ならざる鏡色の影はあちらこちらから現れ、そしてフェイトの体に重なって覆い尽くす。それらが割れた時、そこに立っていたのは、それまでの姿ではない。
茶色と金色に彩られた、荒鷲を思わせる鎧の戦士だ。
『ーー戦え』
放たれる声までもがフェイトのものではない。
腕を組み、威厳を漂わせるように、高圧的な声が響き渡る。
『最後の1人になるまでーー戦え』
アーカードはその様に違和感を覚え、戦士の背後に立つリニスへと声を飛ばす。
「訊かせてもらおうかレディ、何だコイツは」
「仮面ライダーオーディン」
リニスは答えた。
そこにはさっきまで見せていた笑みはない。それどころか、初対面以上に感情は失われていた。
「とある世界において最も強く、また心の伴わない戦士」
そして、
「変ずるのは、ーー量産型フェイトです」
正体を明かすリニスの言葉には、苦渋の臭いが伴っている。
「このバトルロワイヤルにおいてフェイト・T・ハラオウンと記された人物、彼女はそもそも、かつて存在した人間の複製としてプレシアが造ったものなのです。そして彼女は今回のバトルロワイヤルにおいて、作業の人手として新たに創造した」
つまり、
「フェイト・T・ハラオウンは2番目のアリシア。……だから今貴女の目の前にいるのは3番目のアリシア、フェイト3号です」
なるほどな、とアーカードは頷く。
(よもや人間を建造する技術が存在したとはな)
言うほどでもない驚きを胸に秘め、続けて予想のついた問いと確認してみた。
「それを本人の目の前で言って良いのか? さっきの会話を聞いたところ、彼女にその自覚はないようだが?」
「問題ありません。オーディンに変身した今、彼女はカードデッキに入力された人格に動かされる肉の人形ですから」
やはりな、とアーカードは思う。
「加えて言うなら、このオーディンは主催仕様です。貴方達の鎮圧用に造られたものなのでベルトから取り出すことは出来ませんし、戦闘力や使用に関する制限もかけられていない代物。……制限の下で重傷を負った貴方に勝機はないと思われますが?」
「言うじゃないか」
く、と喉を鳴らして嘲る。
「ミス・リニス、お前は……人でなしと呼ばれることに抵抗が?」
「心にもないことを言うんですね、心もない癖に」
「違いない」
「そもそも私は獣です」
「なるほど」
ならば、
「化けの皮を剥がす楽しみができた訳だ」
その言葉が、アーカードのリニスに対する返答となった。
一度何かを思うように目を伏せ、改めて開くとともにリニスは命令を下した。
「オーディン、彼を鎮圧しなさい」
翼を思わせる兜が僅かに首肯する。
その直後、オーディンはその姿を失った。それまで立っていた場所に舞い落ちるのは金色の羽毛、そして今やオーディンの体は、アーカードの目前にある。
「!」
腕の引きはすでに終わっている。振り抜かれたオーディンの拳がアーカードの顔面に迫り、
「ははっ」
何の手間取りもなく、アーカードに受け止められた。
「な……!?」
驚愕したのはリニスだ。
押し殺していた感情が止められなくなったのか、それまでの冷徹な振る舞いを崩して目を見張る。だがどんなに目を剥いても、オーディンのバックルに縫い付けられた紋章を撫でるアーカードの指は、影になっていて見えない。
「取れないんだったな。ーーならば要らん」
柔らかな手付きは一瞬にして硬直、抜き手となった手は、紋章をオーディンの胴体ごと貫いた。
『……ォッ!』
短い苦悶の後、ベルトが砕かれたためだろうか、変身が解けて再び金髪の美貌が現れる。
痛みと驚きに震える瞳が愛らしい。さくらんぼ色の唇は吐血によって濡れて照り、とても美味しそうに思えた。
「は」
不意の動きで、アーカードは口付けをした。
歯を舐め、歯茎をなぞり、舌を絡め、唾液を交換し、そしていつまでも溢れ続ける吐血を啜る。携えていた日本刀を床に突き立て、空いた掌で抱きしめるようにフェイトのうなじを撫でる。
そして、千切る。
「……ぁ」
リニスの声がどこか遠い。
それほどまでに自分は興奮しているのだろうか。
頭部と胴体の繋がりは断たれ、フェイトの体を支えるのはアーカードの腕だけだ。それも抜き放れば、ご、と鈍い音をたてて屋上に倒れるのもまた道理。遺るフェイトの頭は、その麗しい下唇に食いついたアーカードの唇によって宙ぶらりんだ。尤も、ぶぢり、と喰い千切られて胴体の二の舞を見るのだが。
くちゃ、くちゃ、と水の滴る音をたててアーカードはフェイトの唇を咀嚼する。味わうように何度も反芻し、嚥下して、血を口紅にしたアーカードは一言、
「やはり処女だったか。……良い味だ」
血の残り香を口臭に、そうまとめるのだった。
「……化物め」
「解り切った事を」
リニスの憎悪を受け止めるようなアーカードではない。この程度の視線、今まで何度も受けてきた。同様に虚ろな眼球でこちらを見上げるフェイトの生首を踏み潰し、脳と頭蓋の感触を味わう。
「何が最強の戦士。化物ですらないコイツ等が、何の足しになる」
突き刺しておいた日本刀を再び手に取り、軽く振ってフェイトの胴体を斬りつけてみた。何の抵抗もなく屍骸は切断、どろり、と黒い血液を垂れ流して、上半身と下半身とが更に分けられる。
切れ味に問題はないようだ、と確認し、リニスを見やる。
「次はどうする? お前が戦うか、ミス・リニス」
「……いえ」
若干の竦みを含んだ声だった。
しかしその目は未だにアーカードへの憎悪をたたえている。
「所詮は戻れぬ道、……ならば、外道に徹しましょう」
リニスはバルデッシュを掲げ、
「ーー来なさい」
突如として屋上全体を魔法陣が埋め尽くした。
数にして百に至る数はアーカードとリニスが立つ屋上だけでは面積が足らず、左右に隣接するビルの屋上にまで展開される。
そしてその何れもが、円の中央よりオーディンを出現させる。
「これは……」
「単体の強さで敵わない以上、人海戦術でいきます」
リニスの目は据わっている。だがその姿すらも、一面を埋め尽くすオーディンによって遮られた。
「全てがアリシアの複製とやらか」
「量産型と言った筈です。ーープレシアは少しでもアリシアの面影を消すために成人体で量産しましたが、図らずもそれは個々の戦闘力を高めることになっているのですよ」
どうですか、という声がする。
「これでもまだ抵抗しますか」
「ようやく面白くなってきた、というところだな」
もはやオーディンが立っていないのは背後、眼下に大通りを敷いた虚空だけだ。前も右も左も、金色と茶色の鎧に身を固めた兵隊で埋め尽くされてしまった。
「“最後の軍隊(ラスト・バタリオン)”ならぬ“空っぽのブリキの兵隊”。ーーどれほど通用するのか、試そうではないか」
しかる後に、
「手足をもいでやろう、ミス・リニス。そして泣きわめくお前の髪を引っ掴んで持ち運び、プレシアに至る道を開けてもらうとしよう」
【アーカード@NANOSING】
【状態】ダメージ・疲労(中)、左胸に刺傷(大)、怒り・戦意(大)、
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】なし
【思考】
基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
1.リニスに自分をプレシアの元まで連れていかせる
2.邪魔をするなら量産型フェイトを皆殺しにする
3.首輪解除の技能者を探してみる?
4.アンデルセンを殺した参加者を殺す
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
※パニッシャーは相当の強者にしか使うつもりがありません。
※第1回放送を聞き逃しました。
※ヘルメスドライブに関する情報を把握しています。
※セフィロスを自分と同等の化物だと認識しています。
※ゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。
【リニス@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】複製バルデッシュ@オリジナル
【道具】なし
【思考】
基本:使い魔として創造主であるプレシアに従う
1.プレシアの命令に従いバトルロワイヤルを円滑に進める
2.量産型フェイトを率いてミラーワールドにいる参加者を現実側の世界に戻す
3.浅倉威からカードデッキを剥奪、もしくは殺害する
4.アーカードを鎮圧して現実側の世界に送り返す
5.プレシアにバトルロワイヤルを中止して欲しい
【備考】
※バトロワ会場の世界、主催のいる空間、ミラーワールドを行き来する空間転移魔法が使えます
ゼロとか名乗る変態と同様に、上空からデイバックが落ちてきた。
内容物はそれほど多くもなかったのだろうか、内部で砕けたり潰れたりするような音はするものの、デイバックそのものに大きな損壊は見られなかった。
誰が落としたのだろうか、と見上げる摩天楼で撃音が連鎖する。
誰かが戦っているのだ。
(……最高だ)
見えるところでも見えないところでも、至るところに争乱が満ちている。これこそが浅倉が今まで望んでいたもの、何度でも繰り返したいと思う情景だった。
「はは……っ!」
哄笑に王蛇の鎧が揺れ、しかし浅倉自身に苛みを与えない。それが苛々を募らせなくて、そこまた浅倉が仮面ライダーによる戦いを好んでいる理由の1つであった。
「ご機嫌だな」
と、体を振るわせる身にかかる声がある。
あぁん、と横一線の左右に幾つも刻まれる顔を向け、その先に1人の姿を見た。
男だ。頭に布を巻き、眠たげな瞳とやたらに長い耳たぶを持つ顔は野太い首に支えられ、曝け出された筋骨隆々の肉体へと続く。下半身はエジプトで見られるようなたるみのあるものを履いていたが、2つの穴を貫いているのは素足だ。広い肩幅の後ろには、大きな輪に連ねられた幾つもの太鼓が背負われている。
声の主の異様に、しかし浅倉は笑みを刻んだ。その男が、再会したくて仕方がなかった相手だからだ。
「久しぶりだなぁ」
「不遜」
こちらの挨拶を、しかし男は3つの音で断ち切る。
双眸の瞼はやる気もなくたるんでいたが、しかし僅かばかりに引き攣っているのは、怒り故か。
「虫けら風情がこの私に話しかけるなど、何と不届きな行い」
「…………」
「よりにもよって珍獣を使って私を貶めるなど、第一級犯罪も鼻で笑う咎だなぁ」
「…………」
「とっとと私を元いた場所に戻れ。……否、貴様の力は有用だな……。そうだ、あの男を殺す為に使おう。その力を寄越すか、それとも我が配下となるか、どちらかを選べ」
「…………」
男の言葉に浅倉は答えない。そして喋ることに夢中な男は、兜から滲む浅倉の気配にも気付かない。
だがそれもここまでだ。
「何だ、何故なにも答えない。竦んだか?」
ようやく問われて、満を持して、という気分で浅倉は答える。
「どうした? 今は随分、余裕が無ぇじゃねぇか」
答えに、男は気配と表情を一変させる。
「不届き……!!」
振り抜かれた男の両腕が閃光に変じる。
ゴロゴロ、とどこからともなく空気の揺れる音。
「私に祈れ……!」
「俺は生涯誰にも頭を垂れねぇ」
もはや声もなく、男の輝く腕が振り抜かれる。
背後で契約モンスター達が動き、しかしその様に哄笑が轟いた。
「馬鹿め! 雷より早く動けるものか!!」
雷、それがお前の力か、浅倉が言う間もなく、輝く腕はもはや眼前。
響きと閃きに霞むエネルの声は、
「!!!?」
音もない、いやさ音を潰された驚愕だ。
ご、という衝撃、それを受けたのは浅倉ではなく男の方だった。顎がたわませて首を晒し、エビ反りの姿勢となって空中で仰向け姿勢、かと思った時には浅倉とは正反対の方向へ吹っ飛んでビルの外壁を貫く。
両腕の輝きは仰け反った拍子にあらぬ方へ放たれしまった。
「………」
何だろうか、とは思わない。未だ知り得ぬ力を持っている奴等は、まだ何人もいるからだ。
『CLOCK OVER』
どこからか機械の声が聴こえた。
そして男の姿が失われた空間で1つの影が浮かび上がる。それは、布を摘まみ上げたような造形の一本角を生やす仮面ライダーだった。側頭部には背後へ伸びる一対の角、取り付けられた赤い双眸の下には黒い隈のような彫り込みがあり、まるで削れるほどに流した涙の痕のようですらあった。
「……あんた」
だらしなく両手を垂らした姿には精神力の欠片も無い。
何もかもに絶望した穴ぐらのような声は、その印象に反して若々しい女のものだった。浅倉はその声に聞き覚えがある。
「あぁ、さっきのガキか」
その声は、目の前で双子の片割を殺してやった少女のものだった。仮面ライダーだとは思っていたが、しかし自分の知らない種類の仮面ライダーに変身するとは思っていなかった。
意外、といった口ぶりで浅倉は話しかける。
「何だ、復讐に来たのか?」
「どうでも良いわ、そんなの」
緑色の仮面ライダーが返した返事は、やはり予想外だった。
「……皆して私に文句言うばっかり…………折角助けてやってるのに……何よ……何よ…………なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ…………バクラもつかさもこなたもみゆきも……誰も……彼も……誰も彼もよ? ……みんなして私をいぢめないでよ……なんで私なのよ……誰だっていいじゃない……男だって女だって子供だって年寄りだって動物だって植物だって物だってミミズだってオケラだってアメンボだって空き缶だって生ゴミだって死体だって何だっていいじゃない! 何で私なのよ!! 何で私? 何の権限で私? 一体どこの誰に私をいぢめる権利があるっていうのよ!! 何で私がこんなに不幸? 勉強だって出来るし運動だって出来るしみんなに好かれてだっている……優等生じゃない! 勝ち組よ勝ち組!! この世の不幸なんてそこら中にいる屑共に押し付ければいいじゃない! 何で私なのよ! 家族だっているのに! まだ若いのに!! 将来有望なのよ……? これからなのよ……? それが何でこんな目に遭うの……? 人殺したり人に操られたり妹殺されたり妹の全身の血飲んじゃったり妹の目玉呑み込んじゃったりさぁ……もうやぁよこんなの…………1秒だっていたくないこんな場所……殺し合い……? バトルロワイヤル……? 何だっていいわよそんなの…………私を巻き込まないでよ……私は善良な市民なのよ……無力で無辜で護られなきゃ行けない子羊じゃない……それがどうしてこんな目に遭うのよ……どうしてこんな目に遭うのかって訊いてるじゃない!! ああ良いわ良いわ答えなくていいわそうよね馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略すあんた達の脳みそなんかで答えが出る訳ないもの……え……違う? そうじゃない? ……私が馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺だっていうの……だから皆私をいぢめるの……? だから私を傷付けるの……? ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいよぉーーーーーーっ!! 私だって好きでこんなんじゃないのに! 私だってもっと良くなりたいのに! こなたみたいに正直になりたいしつかさみたいにみんなになんも考えないでいたいしみゆきみたいにスタイルだって良くなりたいのに……ひどいよぉ……ぐす……それみんな……馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺でもだえる蛆虫の鳴き声だって言うんだ……そうなんでしょ……そうだって言いなさいよ!! 顔に書いてんのよみんなして!! 私を馬鹿にしてるんでしょ!!? いいわよ好きなだけ言ってなさいよ!! アンタ達なんてもう知らない……知らないわよ……もう好きにしなさいよ……知らないわよアンタ達なんて……何してても良いから私に関わらないでよ……こなたでもつかさでもみゆきでも好きにすれば良いじゃない……殴ろうが蹴ろうが犯そうが知ったこっちゃないわよ…………もう……もうやだぁ……もうやだああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! うぇっ! ぐぇっ! ぇぐっ! ひぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーん!! もういぢめないでよぉ~~~~……もう痛いのやだぁ……もういぢめられるのやだぁ……ひっ……ひぐ……もうやだぁ……私を見ないで触らないで話しかけないで…………どうせ私は馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺でもだえる蛆虫の鳴き声に見せかけた下痢の効果音よ…………底辺中の底辺なんだから……それでいいからぁ……もう私に関わらないでぇ……もう来ないでよぉ……帰してぇ…………おうちに帰してよぉ…………なによぉ……見てんじゃないわよ!! 見せ物じゃねぇんだよ!! 金とんぞビチグソが!! ぁぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……もう何も言いませんからぁ………御願いですからぁ………………!!」
狂気、それを垣間見た。
やり過ぎたか、とは思わない。どうでもいい、とそう思った。
ぶつぶつと呟きながら、ぐるぐると身を回して、どれ程経ったのか不意に動きの一切を断つ。
そして絞首死体のような立ち姿で、
「……もぉーーーーーーどぉーーーーーーでもぃーーーーーーーーーーーーーーーー…………」
一言。
「ーーみんなしんだらいい」
そのたった一言に、少女の心は費やされた。
浅倉は言葉を紡がない。
だから、次に響く声は男のものであったが、浅倉のものではなかったのだ。
「どうだ」
それは背後からの声だった。それもまた聞き覚えのあるもので、誰であろうか、と浅倉は見る。
立っていたのは青年だ。安物の衣服をところどころ解れさせ、皮膚に切傷を持つ姿には硝子の破片をそこかしこに乗せている。髪と髪の間から流血し、しかし濡れる瞳はそれらに動じたところが無い。
浅倉は彼の名を知っている。
「それがお前の生んだ遺恨だ」
「天道、総司」
「そうだ」
青年、天道総司は答えた。
「俺は天道総司。ーー天の道を往き、全てを司る男」
浅く指を曲げた掌は空へと掲げられ、全ての後ろで落ちつつある夕陽を逆光とした。
そして、その掌目掛けて迫るものが空気を裂いた。
「……?」
羽音だ。
高速で空気を叩く音は、び、とも、ぶ、ともつかない超速連鎖によって浅倉の耳朶に届く。次第に音は大きくなり、そして赤色の一閃という形で浅倉の右手にある空間を貫いた。
それはカブト虫だ。
ただのカブト虫ではない、赤い楕円形に丁の字の角を伸ばす、鋼作りのカブト虫である。
「ここにいたんだな、……カブトゼクター」
告げる天道を主と崇めるかのように、掲げられる掌へ鋼の甲虫は自ら突っ込んだ。
五指が赤い機体を鷲掴みにする。
そうして、いつの間に巻いていたのであろうか、腰にはベルトが装着されている。自分達カードデッキ式の仮面ライダーとは異なる装いのベルトは、バックル全体が平たいジョイントとなっている。
続く動きは簡単なもので、浅倉も予期していた。呟きをもってカブトゼクターをバックルに接続させたのだ。
口ずさむ単語は簡潔明瞭、たったの一言、
「ーー変身」
たったそれだけのことで、天道の姿は六角形をした光の羅列に包み込まれる。
それらが消えた時こそ、この場における最後の仮面ライダーが現れる瞬間となった。
「……それがてめぇの仮面ライダーか」
光の中から身を表したのは、灰色の分厚い外殻を持つ戦士だった。潜水服か宇宙服のようでもあるそれは随分と不格好に思え、浅倉の印象に影を落とす。
だがそれに感づいた風もなく、左右に一回ずつ首を回して、鎧のうちより天道の声がした。
「どうやらこの場にいる人間のほとんどは、殺し合いに乗っている輩らしいな」
続くは、やはり一言。
「都合が良い」
「それは、お前もこの場で殺し合うって意味だよなぁ?」
「貴様等全員この世界に閉じ込めるって意味だよ」
外殻の仮面ライダーは拳を構えた。
「おばあちゃんは言っていた。ーー“臭いものには蓋をしろ”」
浅倉は首を傾げた。
「……何言ってんだ、お前」
「阿呆には理解出来ない高尚な言葉だ。貴様らの毒牙を、高町なのはや数多の非力で戦意のない者達に向けさせない」
そう言って、
「俺は天の道を往き全てを司る男。ーー全ての命は、俺無くして健やかなることはない」
溜め息を一つ。
「全く、俺が死んだ後の世が心配だ。死ぬ気は毛頭無いが」
「大層な自信だ」
しかし、
「俺に勝てる計算をしちゃいねぇか?」
「何だ、俺に勝てると思ってるのか?」
天道の即答に、ほんの少しだけ遅れて、いつしか哄笑していた。
召喚器であるベノバイザーを取り出してスロットを起こし、バックルから取り出したカードを装填する。叩き付けるようにして装填すれば、コブラを模す杖は目を輝かせた。
『SWORD VENT』
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!』
背後でベノスネーカーが雄叫びをあげる。
長い胴の末尾を振り抜き、それによって弧を描いた影が尾の先端から放たれた。影は浅倉の足下に音をたてて突き刺さり、さながら岩に突き刺さる剣といった風体をとる。
ベノサーベル、浅倉にとっては使いなれば武器だった。
は、と浅倉は笑う。
「嫌いじゃねぇ」
天道の態度は、
「嫌いじゃねぇなぁそういうのは。だからよぉ……」
もたれるように喋って、急激な動きを見せるのは浅倉特有の戦闘スタイルだった。
「苛々に変わる前に死ね……!!」
「……!!」
振り抜かれたベノサーベルに対し、天道は幾重にも防護された拳で応じる。
向かっていた2人だけに接触も一瞬、高音の響きにお互いの猛りは弾かれ合い。
「!!!?」
一瞬にして天道の姿が消えることとなった。
ご、という音がして並び立つビルの外壁が倒壊する。瓦礫となったそこには、今しがたまで浅倉の目前にいた天道の着膨れした鎧が倒れている。
「ぐ」
苦悶の声、天道は移動したのではない、攻撃によって吹っ飛ばされたのだ。
加害者は緑色の仮面ライダー、ではなかった。彼女は未だに自分の背後にいたし、何より、その攻撃は速かったものの肉眼で捉える事ができた。そして何より、その姿はそれまで天道が立っていた場所、つまりは浅倉の目前にある。
「うううううううううううううううううううううううううううううぅ」
唸り声をあげる女だった。
黒いボディスーツのような服装、豊満な体型を惜しげもなく晒すその姿には、金色のサイドポニーという風にまとめられた髪の束がかかっている。中でも特徴的だったのは、女の双眸だ。左右で異なる色合いの瞳、いわゆるオッドアイという体質を、その女は持っている。
(……何だ?)
見覚えがあるな、と浅倉は思う。
そんなに古い記憶ではない。つい最近、どこかでこの女に会ったことがあっただろうか、と思い、無い筈だ、と改めた。では、この記憶のくすぐりは一体どうしたことであろうか。
対する女の方は浅倉に見向きもしない。
まるで狂犬病を患った犬のように、怯えとも敵意ともつかない感情に瞳を痙攣させている。
「高町ぃ……なのはぁ……」
ふと、女は名を呟いた。
それはつい先ほど天道総司が告げた名前だ。
「お前えぇーーーーーーーーーー!!」
女は跳んだ。
常軌を逸した跳躍力だ。仮面ライダーですらも、たった一度地を蹴っただけであれほどまでの移動は出来ない。
一拍で天道まで辿り着いた女は、左脚を天に掲げる踵下ろしの態勢。
「なのはママに何をしたぁーーーーーー!!!」
掠れて見える蹴撃はギロチンのようだ。
それが一直線に分厚い装甲を叩き割ろうと迫り、
『CAST OFF』
出迎えたのは、解き放たれた装甲の連打だった。
「!?」
あたかも天道が破砕したかのような光景だ。全身を覆う装甲があらゆる方向に弾けて飛び、その幾つかは近接していた女の全身に打ちつけられる。片足立ちとなっていた女は姿勢を崩し、対応するために距離を開けざるを得ない。
そして装甲が消失した今、瓦礫の上にあるのは、赤い装甲の仮面ライダーだった。
『CHANGE BEELE』
鎧そのものが音声を放つ中、顎を起点にして丁の字の角が起立、ゆっくりとした動きで眉間に収められ、額に角を生やす様相となった。
(あれが本当の姿か)
二段変身とは愉快な仕様だな、と浅倉は思う。
「お前」
と、天道が喋った。
「高町の関係者か」
高町、その名前に少女は再び反応した。俯いたことでせり上がった肩が痙攣し、
「俺は……」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
意思も意味もない雄叫びを一声し、天道の言葉を遮る。
そして、先ほど与えられなかった分の打撃を今与えようというかのように、再び天道へ挑みかかった。
【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】仮面ライダーカブト(C.OFF)、疲労(小)
【装備】カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEALー封印ー』@仮面ライダーリリカル龍騎、『CONTRACTー契約ー』@仮面ライダーリリカル龍騎
【思考】
基本:極力多数の参加者とともに帰還する
1.オッドアイの少女(ヴィヴィオ)の誤解を解く
2.王蛇のカードデッキを破壊して全マーダーをミラーワールドに閉じ込める
3.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者の未来を切り開く
4.『封印』と『契約』のカードでミラーモンスター(ジェノサイダーA)に対処する
5.キングを警戒する
5.このゲームに存在する全ゼクターを回収する
【備考】
※参戦次期はACT.10冒頭、クロックアップでフェイト達の前から立ち去った直後
※自信の制限に気付いています
※首輪に名前が書かれている事に気付いています
※ドラグレッダーはなのはと天道に城戸真司の面影を重ねています
※SEALのカードを持つ限り、モンスターは現実世界にいる天道総司を攻撃できません
※C.C.からカードデッキの説明書を受け取っています
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、聖王モード@、洗脳による怒り(極)
【装備】レリック(ルーテシアのシリアルNo.、融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】なし
【思考】
基本:ママ(なのは(StS))の敵を皆殺しにする
1.一本角(仮面ライダーカブト=天道総司)を叩きのめす
2.なのはママとフェイトママを殺した参加者を優先的に殺す
2.頃合いを見て聖王のゆりかごにを動かすべく戻る
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています
※浅倉はまだ信頼しています。殴ったのは何らかの理由があるからだと考えています
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています
※キングは天道総司を助ける善人だと考えています
※クラールヴィントは浅倉を警戒しています
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします
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|~|キング|~|
|~|ヴィヴィオ|~|
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|~|アーカード|~|
|~|柊つかさ|~|
|~|万丈目準|~|
|~|プレシア・テスタロッサ|~|
|~|リニス|~|
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*13人の超新星(6) ◆WslPJpzlnU
路上で宣言を轟かせる黒尽くめの男、しかし彼は、自分が飛び降りたビルより更に高いところに、もう1つの視点があったことに気付いていないようだった。
高さにして10の階層を数えるほどの建造物を足場として、アーカードの視覚は路上を見下ろす。
暴風を吹き起こす対決と、異形が直線で三竦みを描く対決が始まるそこで、足を止めているものなどありはしない。誰も彼もが自らの命と敵対者の命をぶつけ、奪うか奪うまいかの攻守を交換している。
実際その通りなのであるが、アーカードには、それらがとても遠くの情景に思えた。
「………………」
薄らとヒビの浮かんだビルの屋上、鉄柵を超え、僅かばかりの段差に足をかけるアーカードの視線は乾いている。耳になる空洞を風が走るような音は、背後にした大型ダクトの音か、それとも心境ゆえに聞こえる幻聴だったのか。
どうでも良いか、とアーカードは思う。
(……少年)
思い起こすのはこれまで戦ってきた者達の姿だ。
(アンデルセン。……セフィロス)
その誰も彼もがアーカードに血を吹かせ、心を血によって潤し、しかる後に濡れる寒さを味合わせる者共だった。強い戦闘力と、そして精神力を持っていながら、それを持って立ち向かいながら、しかしアーカードの満足感を徹頭徹尾で維持してくれた者はいない。
(少年は私を見ずして死に、アンデルセンは知らぬ間に殺され、セフィロスもまた同様……)
退屈とは違う。
憤りとも違う。
ただ、全ての敵対者に置いてけぼりにされたような、寂寥だけが胸を満たす。
眼下で争う者どもの一体どれほどがセフィロス並みの戦闘力を持っているだろうか。アンデルセンの再生力と狂信を抱いているだろうか。少年の使命感を持っているだろうか。
(闘争)
欲しい、そう思った。
血を吹きたい。
血を吹かせたい。
血を啜りたい。
血に浸りたい。
血を喰らいたい。
血、血、血、吸血鬼故なのか自分がアーカードたる故なのか、そんな事はどうでも良い。ただ、血に塗れる闘争だけが欲しい。
故にアーカードは屋上の縁取りを踏む脚に力を込め、黒装束の男に倣って飛び降りようと思った。
その時だ。突如として背後に気配が生まれ、空気が震えたのは。
「アーカード氏ですね」
呼びかけにアーカードは動きを止める。
音色は女性のものだ。だが油断することはない。“第三の目”によって周囲一帯を把握するアーカードの特殊能力をかいくぐり、唐突に背後に立つことが出来た人物が、正常な人間であるはずがない。
「参加者No.20、種族は吸血鬼。類稀な戦闘力と闘争意欲を持ち、バトルロワイヤルを円滑に進行させる勢力ーーつまりは“マーダー”」
「不躾だな、レディ」
アーカードは脚を揃え、そこに至って振り向いた。
鉄柵の向こう、ビルに合わせて奥行きのある長方形を描く屋上の中央に、1人の女性が立っている。褪せた茶髪、白と焦茶は法衣を思わせる装いだが、胸の谷間を覗かせる法衣はこの世に存在しない。付属品なのだろう、衣服に合わせたデザインの帽子が頭頂部を隠している。
彼女には、自分達にあるものが欠落している。
首輪だ。
何者にも遮られない首はあんなにも白かったか、アーカードは言外に感嘆する。
「プレシアの眷属か」
「はい、リニスと申します」
アーカードの誰何に女性は一礼した。
帽子を取って胸に当てる一連の動作は瀟酒の一語、しかしその時に露見した頭部には、山猫を思わせる三角形の耳が生えていた。
純粋な人間ではないらしい、そう思った目線は、リニスのそれと向かい合う。
「プレシアはこの戦いを望んでいません」
冷えきった表情だった。
「貴方達を、元々いた世界に戻します」
「元々? 笑わせる、さっきまで殺し合っていたあの世界だろう?」
思いの欠片もない、それこそ道具の作業音のような声を、アーカードは嘲笑う。
そこには微かな怒りが漂っていた。
「私をこの戦場から離すと?」
「この世界に生物は存在し得ません、長時間いれば肉体が消滅します。例え貴方といえども……」
「私から、闘争を、取り上げようと言うのだな?」
そこで始めてリニスの顔が動いた。伏し目がちだった瞳は大きく剥かれ、薄らと汗の滲んだ顔は、青ざめ引き攣っている。
賢い娘だ、とアーカードは思う。もはや遅いが。
「ーー宜しい、ならば戦争だ」
携えた抜き身の日本刀を向け、後ろ手にデイバックを放り捨てた。10階分はある下方の大地へと落ちていくデイバックを見ることもなく、その双眸はリニスを捉えて離さない。
「都合の悪い争いはさせない、と? つくづく業腹な連中だ」
「私は望んでいません。……というのは、欺瞞ですね」
解りました、と浅く俯いたリニスは呟く。
日本刀を迎えるようにして差し出されたリニスの掌、そこには金色の三角形が乗っていた。ブローチか何かであろうか、一片の三角形の上に一回り小さな同形を乗せたそれは、台座のようにも見える。
リニスの麗しい唇が、音を紡いだ。
「バルディッシュ、セットアップ」
『ーーYes,sir』
単語の羅列を口ずさむとともに、金色の三角形は強く閃いた。
やがて光は収束、先端に角張った板を備え付ける棒のような形となった。柄の長い斧のようだ、と思うが、実際光が失われてみれば、それはまさしくその通りの姿となる。
鈍色の柄に黒い刃、基部には黄色い獣の瞳のような球が埋め込まれており、武器というよりは武器型の機械と言った風だ。
「バルデッシュ・レプリカ、……転移魔法を」
Yes、その返答も終えぬうちに新たな光が放たれる。
それはリニスと自分の間、どちらかといえばリニスよりの位置からだ。円と文字、図形を交えて回転するそれは、さながらオカルトの魔法陣といったところか。
しかし円陣の中から人が現れた時、アーカードはそれが本当の魔法陣だったのだと知った。
「……貴様は」
水からせり上がるようにして屋上に立ったのは、1人の女性だった。
金髪に赤い瞳、若々しい顔立ちは長身でグラマラスな体躯を誇示している。だがそれも、分厚い軍服のような黒衣の下にあっては、いささか興ざめな感も諌めない。
そんな彼女は、見覚えのあるベルトをつけていた。まるで機械で構成されているような黄金色の装甲、脇には何かを接続するためのジョイントが設けられている。バックルだけは、鳳を模した紋章を浮き彫りにする茶色いレリーフが嵌め込まれている。だがそれは、楔のようなものでバックルに縫い付けられていた。
そこだけが、アーカードの記憶との相違点だった。
(かつて少年が身に付けていた物の同種か)
だとすれば、あの金髪の女も何らかの怪物を従えているのだろうか。
「リニス」
ふいに、金髪の女がリニスの方へと振り向いた。
「あの人を捕まえれば、良いんだよね」
「そうです、フェイト」
フェイト、そう言うらしい金髪の女に向けるリニスの表情は笑み。
しかしそれはどこか軋むような、引き攣ったような感情だった。
「そうすれば、きっとプレシアは貴方を褒めてくれますよ」
「……うん」
その言葉にフェイトは表情を締めた。生気のない瞳に意欲が宿り、一直線にアーカードを見つめる。
そして、一語を紡いだ。
「ーー変身」
途端にどこからともなく人影が出現、しかし黒ならざる鏡色の影はあちらこちらから現れ、そしてフェイトの体に重なって覆い尽くす。それらが割れた時、そこに立っていたのは、それまでの姿ではない。
茶色と金色に彩られた、荒鷲を思わせる鎧の戦士だ。
『ーー戦え』
放たれる声までもがフェイトのものではない。
腕を組み、威厳を漂わせるように、高圧的な声が響き渡る。
『最後の1人になるまでーー戦え』
アーカードはその様に違和感を覚え、戦士の背後に立つリニスへと声を飛ばす。
「訊かせてもらおうかレディ、何だコイツは」
「仮面ライダーオーディン」
リニスは答えた。
そこにはさっきまで見せていた笑みはない。それどころか、初対面以上に感情は失われていた。
「とある世界において最も強く、また心の伴わない戦士」
そして、
「変ずるのは、ーー量産型フェイトです」
正体を明かすリニスの言葉には、苦渋の臭いが伴っている。
「このバトルロワイヤルにおいてフェイト・T・ハラオウンと記された人物、彼女はそもそも、かつて存在した人間の複製としてプレシアが造ったものなのです。そして彼女は今回のバトルロワイヤルにおいて、作業の人手として新たに創造した」
つまり、
「フェイト・T・ハラオウンは2番目のアリシア。……だから今貴女の目の前にいるのは3番目のアリシア、フェイト3号です」
なるほどな、とアーカードは頷く。
(よもや人間を建造する技術が存在したとはな)
言うほどでもない驚きを胸に秘め、続けて予想のついた問いと確認してみた。
「それを本人の目の前で言って良いのか? さっきの会話を聞いたところ、彼女にその自覚はないようだが?」
「問題ありません。オーディンに変身した今、彼女はカードデッキに入力された人格に動かされる肉の人形ですから」
やはりな、とアーカードは思う。
「加えて言うなら、このオーディンは主催仕様です。貴方達の鎮圧用に造られたものなのでベルトから取り出すことは出来ませんし、戦闘力や使用に関する制限もかけられていない代物。……制限の下で重傷を負った貴方に勝機はないと思われますが?」
「言うじゃないか」
く、と喉を鳴らして嘲る。
「ミス・リニス、お前は……人でなしと呼ばれることに抵抗が?」
「心にもないことを言うんですね、心もない癖に」
「違いない」
「そもそも私は獣です」
「なるほど」
ならば、
「化けの皮を剥がす楽しみができた訳だ」
その言葉が、アーカードのリニスに対する返答となった。
一度何かを思うように目を伏せ、改めて開くとともにリニスは命令を下した。
「オーディン、彼を鎮圧しなさい」
翼を思わせる兜が僅かに首肯する。
その直後、オーディンはその姿を失った。それまで立っていた場所に舞い落ちるのは金色の羽毛、そして今やオーディンの体は、アーカードの目前にある。
「!」
腕の引きはすでに終わっている。振り抜かれたオーディンの拳がアーカードの顔面に迫り、
「ははっ」
何の手間取りもなく、アーカードに受け止められた。
「な……!?」
驚愕したのはリニスだ。
押し殺していた感情が止められなくなったのか、それまでの冷徹な振る舞いを崩して目を見張る。だがどんなに目を剥いても、オーディンのバックルに縫い付けられた紋章を撫でるアーカードの指は、影になっていて見えない。
「取れないんだったな。ーーならば要らん」
柔らかな手付きは一瞬にして硬直、抜き手となった手は、紋章をオーディンの胴体ごと貫いた。
『……ォッ!』
短い苦悶の後、ベルトが砕かれたためだろうか、変身が解けて再び金髪の美貌が現れる。
痛みと驚きに震える瞳が愛らしい。さくらんぼ色の唇は吐血によって濡れて照り、とても美味しそうに思えた。
「は」
不意の動きで、アーカードは口付けをした。
歯を舐め、歯茎をなぞり、舌を絡め、唾液を交換し、そしていつまでも溢れ続ける吐血を啜る。携えていた日本刀を床に突き立て、空いた掌で抱きしめるようにフェイトのうなじを撫でる。
そして、千切る。
「……ぁ」
リニスの声がどこか遠い。
それほどまでに自分は興奮しているのだろうか。
頭部と胴体の繋がりは断たれ、フェイトの体を支えるのはアーカードの腕だけだ。それも抜き放れば、ご、と鈍い音をたてて屋上に倒れるのもまた道理。遺るフェイトの頭は、その麗しい下唇に食いついたアーカードの唇によって宙ぶらりんだ。尤も、ぶぢり、と喰い千切られて胴体の二の舞を見るのだが。
くちゃ、くちゃ、と水の滴る音をたててアーカードはフェイトの唇を咀嚼する。味わうように何度も反芻し、嚥下して、血を口紅にしたアーカードは一言、
「やはり処女だったか。……良い味だ」
血の残り香を口臭に、そうまとめるのだった。
「……化物め」
「解り切った事を」
リニスの憎悪を受け止めるようなアーカードではない。この程度の視線、今まで何度も受けてきた。同様に虚ろな眼球でこちらを見上げるフェイトの生首を踏み潰し、脳と頭蓋の感触を味わう。
「何が最強の戦士。化物ですらないコイツ等が、何の足しになる」
突き刺しておいた日本刀を再び手に取り、軽く振ってフェイトの胴体を斬りつけてみた。何の抵抗もなく屍骸は切断、どろり、と黒い血液を垂れ流して、上半身と下半身とが更に分けられる。
切れ味に問題はないようだ、と確認し、リニスを見やる。
「次はどうする? お前が戦うか、ミス・リニス」
「……いえ」
若干の竦みを含んだ声だった。
しかしその目は未だにアーカードへの憎悪をたたえている。
「所詮は戻れぬ道、……ならば、外道に徹しましょう」
リニスはバルデッシュを掲げ、
「ーー来なさい」
突如として屋上全体を魔法陣が埋め尽くした。
数にして百に至る数はアーカードとリニスが立つ屋上だけでは面積が足らず、左右に隣接するビルの屋上にまで展開される。
そしてその何れもが、円の中央よりオーディンを出現させる。
「これは……」
「単体の強さで敵わない以上、人海戦術でいきます」
リニスの目は据わっている。だがその姿すらも、一面を埋め尽くすオーディンによって遮られた。
「全てがアリシアの複製とやらか」
「量産型と言った筈です。ーープレシアは少しでもアリシアの面影を消すために成人体で量産しましたが、図らずもそれは個々の戦闘力を高めることになっているのですよ」
どうですか、という声がする。
「これでもまだ抵抗しますか」
「ようやく面白くなってきた、というところだな」
もはやオーディンが立っていないのは背後、眼下に大通りを敷いた虚空だけだ。前も右も左も、金色と茶色の鎧に身を固めた兵隊で埋め尽くされてしまった。
「“最後の軍隊(ラスト・バタリオン)”ならぬ“空っぽのブリキの兵隊”。ーーどれほど通用するのか、試そうではないか」
しかる後に、
「手足をもいでやろう、ミス・リニス。そして泣きわめくお前の髪を引っ掴んで持ち運び、プレシアに至る道を開けてもらうとしよう」
【アーカード@NANOSING】
【状態】ダメージ・疲労(中)、左胸に刺傷(大)、怒り・戦意(大)、
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】なし
【思考】
基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
1.リニスに自分をプレシアの元まで連れていかせる
2.邪魔をするなら量産型フェイトを皆殺しにする
3.首輪解除の技能者を探してみる?
4.アンデルセンを殺した参加者を殺す
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
※パニッシャーは相当の強者にしか使うつもりがありません。
※第1回放送を聞き逃しました。
※ヘルメスドライブに関する情報を把握しています。
※セフィロスを自分と同等の化物だと認識しています。
※ゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。
【リニス@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】複製バルデッシュ@オリジナル
【道具】なし
【思考】
基本:使い魔として創造主であるプレシアに従う
1.プレシアの命令に従いバトルロワイヤルを円滑に進める
2.量産型フェイトを率いてミラーワールドにいる参加者を現実側の世界に戻す
3.浅倉威からカードデッキを剥奪、もしくは殺害する
4.アーカードを鎮圧して現実側の世界に送り返す
5.プレシアにバトルロワイヤルを中止して欲しい
【備考】
※バトロワ会場の世界、主催のいる空間、ミラーワールドを行き来する空間転移魔法が使えます
ゼロとか名乗る変態と同様に、上空からデイバックが落ちてきた。
内容物はそれほど多くもなかったのだろうか、内部で砕けたり潰れたりするような音はするものの、デイバックそのものに大きな損壊は見られなかった。
誰が落としたのだろうか、と見上げる摩天楼で撃音が連鎖する。
誰かが戦っているのだ。
(……最高だ)
見えるところでも見えないところでも、至るところに争乱が満ちている。これこそが浅倉が今まで望んでいたもの、何度でも繰り返したいと思う情景だった。
「はは……っ!」
哄笑に王蛇の鎧が揺れ、しかし浅倉自身に苛みを与えない。それが苛々を募らせなくて、そこまた浅倉が仮面ライダーによる戦いを好んでいる理由の1つであった。
「ご機嫌だな」
と、体を振るわせる身にかかる声がある。
あぁん、と横一線の左右に幾つも刻まれる顔を向け、その先に1人の姿を見た。
男だ。頭に布を巻き、眠たげな瞳とやたらに長い耳たぶを持つ顔は野太い首に支えられ、曝け出された筋骨隆々の肉体へと続く。下半身はエジプトで見られるようなたるみのあるものを履いていたが、2つの穴を貫いているのは素足だ。広い肩幅の後ろには、大きな輪に連ねられた幾つもの太鼓が背負われている。
声の主の異様に、しかし浅倉は笑みを刻んだ。その男が、再会したくて仕方がなかった相手だからだ。
「久しぶりだなぁ」
「不遜」
こちらの挨拶を、しかし男は3つの音で断ち切る。
双眸の瞼はやる気もなくたるんでいたが、しかし僅かばかりに引き攣っているのは、怒り故か。
「虫けら風情がこの私に話しかけるなど、何と不届きな行い」
「…………」
「よりにもよって珍獣を使って私を貶めるなど、第一級犯罪も鼻で笑う咎だなぁ」
「…………」
「とっとと私を元いた場所に戻れ。……否、貴様の力は有用だな……。そうだ、あの男を殺す為に使おう。その力を寄越すか、それとも我が配下となるか、どちらかを選べ」
「…………」
男の言葉に浅倉は答えない。そして喋ることに夢中な男は、兜から滲む浅倉の気配にも気付かない。
だがそれもここまでだ。
「何だ、何故なにも答えない。竦んだか?」
ようやく問われて、満を持して、という気分で浅倉は答える。
「どうした? 今は随分、余裕が無ぇじゃねぇか」
答えに、男は気配と表情を一変させる。
「不届き……!!」
振り抜かれた男の両腕が閃光に変じる。
ゴロゴロ、とどこからともなく空気の揺れる音。
「私に祈れ……!」
「俺は生涯誰にも頭を垂れねぇ」
もはや声もなく、男の輝く腕が振り抜かれる。
背後で契約モンスター達が動き、しかしその様に哄笑が轟いた。
「馬鹿め! 雷より早く動けるものか!!」
雷、それがお前の力か、浅倉が言う間もなく、輝く腕はもはや眼前。
響きと閃きに霞むエネルの声は、
「!!!?」
音もない、いやさ音を潰された驚愕だ。
ご、という衝撃、それを受けたのは浅倉ではなく男の方だった。顎がたわませて首を晒し、エビ反りの姿勢となって空中で仰向け姿勢、かと思った時には浅倉とは正反対の方向へ吹っ飛んでビルの外壁を貫く。
両腕の輝きは仰け反った拍子にあらぬ方へ放たれしまった。
「………」
何だろうか、とは思わない。未だ知り得ぬ力を持っている奴等は、まだ何人もいるからだ。
『CLOCK OVER』
どこからか機械の声が聴こえた。
そして男の姿が失われた空間で1つの影が浮かび上がる。それは、布を摘まみ上げたような造形の一本角を生やす仮面ライダーだった。側頭部には背後へ伸びる一対の角、取り付けられた赤い双眸の下には黒い隈のような彫り込みがあり、まるで削れるほどに流した涙の痕のようですらあった。
「……あんた」
だらしなく両手を垂らした姿には精神力の欠片も無い。
何もかもに絶望した穴ぐらのような声は、その印象に反して若々しい女のものだった。浅倉はその声に聞き覚えがある。
「あぁ、さっきのガキか」
その声は、目の前で双子の片割を殺してやった少女のものだった。仮面ライダーだとは思っていたが、しかし自分の知らない種類の仮面ライダーに変身するとは思っていなかった。
意外、といった口ぶりで浅倉は話しかける。
「何だ、復讐に来たのか?」
「どうでも良いわ、そんなの」
緑色の仮面ライダーが返した返事は、やはり予想外だった。
「……皆して私に文句言うばっかり…………折角助けてやってるのに……何よ……何よ…………なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ…………バクラもつかさもこなたもみゆきも……誰も……彼も……誰も彼もよ? ……みんなして私をいぢめないでよ……なんで私なのよ……誰だっていいじゃない……男だって女だって子供だって年寄りだって動物だって植物だって物だってミミズだってオケラだってアメンボだって空き缶だって生ゴミだって死体だって何だっていいじゃない! 何で私なのよ!! 何で私? 何の権限で私? 一体どこの誰に私をいぢめる権利があるっていうのよ!! 何で私がこんなに不幸? 勉強だって出来るし運動だって出来るしみんなに好かれてだっている……優等生じゃない! 勝ち組よ勝ち組!! この世の不幸なんてそこら中にいる屑共に押し付ければいいじゃない! 何で私なのよ! 家族だっているのに! まだ若いのに!! 将来有望なのよ……? これからなのよ……? それが何でこんな目に遭うの……? 人殺したり人に操られたり妹殺されたり妹の全身の血飲んじゃったり妹の目玉呑み込んじゃったりさぁ……もうやぁよこんなの…………1秒だっていたくないこんな場所……殺し合い……? バトルロワイヤル……? 何だっていいわよそんなの…………私を巻き込まないでよ……私は善良な市民なのよ……無力で無辜で護られなきゃ行けない子羊じゃない……それがどうしてこんな目に遭うのよ……どうしてこんな目に遭うのかって訊いてるじゃない!! ああ良いわ良いわ答えなくていいわそうよね馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略すあんた達の脳みそなんかで答えが出る訳ないもの……え……違う? そうじゃない? ……私が馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺だっていうの……だから皆私をいぢめるの……? だから私を傷付けるの……? ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいよぉーーーーーーっ!! 私だって好きでこんなんじゃないのに! 私だってもっと良くなりたいのに! こなたみたいに正直になりたいしつかさみたいにみんなになんも考えないでいたいしみゆきみたいにスタイルだって良くなりたいのに……ひどいよぉ……ぐす……それみんな……馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺でもだえる蛆虫の鳴き声だって言うんだ……そうなんでしょ……そうだって言いなさいよ!! 顔に書いてんのよみんなして!! 私を馬鹿にしてるんでしょ!!? いいわよ好きなだけ言ってなさいよ!! アンタ達なんてもう知らない……知らないわよ……もう好きにしなさいよ……知らないわよアンタ達なんて……何してても良いから私に関わらないでよ……こなたでもつかさでもみゆきでも好きにすれば良いじゃない……殴ろうが蹴ろうが犯そうが知ったこっちゃないわよ…………もう……もうやだぁ……もうやだああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! うぇっ! ぐぇっ! ぇぐっ! ひぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーん!! もういぢめないでよぉ~~~~……もう痛いのやだぁ……もういぢめられるのやだぁ……ひっ……ひぐ……もうやだぁ……私を見ないで触らないで話しかけないで…………どうせ私は馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺でもだえる蛆虫の鳴き声に見せかけた下痢の効果音よ…………底辺中の底辺なんだから……それでいいからぁ……もう私に関わらないでぇ……もう来ないでよぉ……帰してぇ…………おうちに帰してよぉ…………なによぉ……見てんじゃないわよ!! 見せ物じゃねぇんだよ!! 金とんぞビチグソが!! ぁぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……もう何も言いませんからぁ………御願いですからぁ………………!!」
狂気、それを垣間見た。
やり過ぎたか、とは思わない。どうでもいい、とそう思った。
ぶつぶつと呟きながら、ぐるぐると身を回して、どれ程経ったのか不意に動きの一切を断つ。
そして絞首死体のような立ち姿で、
「……もぉーーーーーーどぉーーーーーーでもぃーーーーーーーーーーーーーーーー…………」
一言。
「ーーみんなしんだらいい」
そのたった一言に、少女の心は費やされた。
浅倉は言葉を紡がない。
だから、次に響く声は男のものであったが、浅倉のものではなかったのだ。
「どうだ」
それは背後からの声だった。それもまた聞き覚えのあるもので、誰であろうか、と浅倉は見る。
立っていたのは青年だ。安物の衣服をところどころ解れさせ、皮膚に切傷を持つ姿には硝子の破片をそこかしこに乗せている。髪と髪の間から流血し、しかし濡れる瞳はそれらに動じたところが無い。
浅倉は彼の名を知っている。
「それがお前の生んだ遺恨だ」
「天道、総司」
「そうだ」
青年、天道総司は答えた。
「俺は天道総司。ーー天の道を往き、全てを司る男」
浅く指を曲げた掌は空へと掲げられ、全ての後ろで落ちつつある夕陽を逆光とした。
そして、その掌目掛けて迫るものが空気を裂いた。
「……?」
羽音だ。
高速で空気を叩く音は、び、とも、ぶ、ともつかない超速連鎖によって浅倉の耳朶に届く。次第に音は大きくなり、そして赤色の一閃という形で浅倉の右手にある空間を貫いた。
それはカブト虫だ。
ただのカブト虫ではない、赤い楕円形に丁の字の角を伸ばす、鋼作りのカブト虫である。
「ここにいたんだな、……カブトゼクター」
告げる天道を主と崇めるかのように、掲げられる掌へ鋼の甲虫は自ら突っ込んだ。
五指が赤い機体を鷲掴みにする。
そうして、いつの間に巻いていたのであろうか、腰にはベルトが装着されている。自分達カードデッキ式の仮面ライダーとは異なる装いのベルトは、バックル全体が平たいジョイントとなっている。
続く動きは簡単なもので、浅倉も予期していた。呟きをもってカブトゼクターをバックルに接続させたのだ。
口ずさむ単語は簡潔明瞭、たったの一言、
「ーー変身」
たったそれだけのことで、天道の姿は六角形をした光の羅列に包み込まれる。
それらが消えた時こそ、この場における最後の仮面ライダーが現れる瞬間となった。
「……それがてめぇの仮面ライダーか」
光の中から身を表したのは、灰色の分厚い外殻を持つ戦士だった。潜水服か宇宙服のようでもあるそれは随分と不格好に思え、浅倉の印象に影を落とす。
だがそれに感づいた風もなく、左右に一回ずつ首を回して、鎧のうちより天道の声がした。
「どうやらこの場にいる人間のほとんどは、殺し合いに乗っている輩らしいな」
続くは、やはり一言。
「都合が良い」
「それは、お前もこの場で殺し合うって意味だよなぁ?」
「貴様等全員この世界に閉じ込めるって意味だよ」
外殻の仮面ライダーは拳を構えた。
「おばあちゃんは言っていた。ーー“臭いものには蓋をしろ”」
浅倉は首を傾げた。
「……何言ってんだ、お前」
「阿呆には理解出来ない高尚な言葉だ。貴様らの毒牙を、高町なのはや数多の非力で戦意のない者達に向けさせない」
そう言って、
「俺は天の道を往き全てを司る男。ーー全ての命は、俺無くして健やかなることはない」
溜め息を一つ。
「全く、俺が死んだ後の世が心配だ。死ぬ気は毛頭無いが」
「大層な自信だ」
しかし、
「俺に勝てる計算をしちゃいねぇか?」
「何だ、俺に勝てると思ってるのか?」
天道の即答に、ほんの少しだけ遅れて、いつしか哄笑していた。
召喚器であるベノバイザーを取り出してスロットを起こし、バックルから取り出したカードを装填する。叩き付けるようにして装填すれば、コブラを模す杖は目を輝かせた。
『SWORD VENT』
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!』
背後でベノスネーカーが雄叫びをあげる。
長い胴の末尾を振り抜き、それによって弧を描いた影が尾の先端から放たれた。影は浅倉の足下に音をたてて突き刺さり、さながら岩に突き刺さる剣といった風体をとる。
ベノサーベル、浅倉にとっては使いなれば武器だった。
は、と浅倉は笑う。
「嫌いじゃねぇ」
天道の態度は、
「嫌いじゃねぇなぁそういうのは。だからよぉ……」
もたれるように喋って、急激な動きを見せるのは浅倉特有の戦闘スタイルだった。
「苛々に変わる前に死ね……!!」
「……!!」
振り抜かれたベノサーベルに対し、天道は幾重にも防護された拳で応じる。
向かっていた2人だけに接触も一瞬、高音の響きにお互いの猛りは弾かれ合い。
「!!!?」
一瞬にして天道の姿が消えることとなった。
ご、という音がして並び立つビルの外壁が倒壊する。瓦礫となったそこには、今しがたまで浅倉の目前にいた天道の着膨れした鎧が倒れている。
「ぐ」
苦悶の声、天道は移動したのではない、攻撃によって吹っ飛ばされたのだ。
加害者は緑色の仮面ライダー、ではなかった。彼女は未だに自分の背後にいたし、何より、その攻撃は速かったものの肉眼で捉える事ができた。そして何より、その姿はそれまで天道が立っていた場所、つまりは浅倉の目前にある。
「うううううううううううううううううううううううううううううぅ」
唸り声をあげる女だった。
黒いボディスーツのような服装、豊満な体型を惜しげもなく晒すその姿には、金色のサイドポニーという風にまとめられた髪の束がかかっている。中でも特徴的だったのは、女の双眸だ。左右で異なる色合いの瞳、いわゆるオッドアイという体質を、その女は持っている。
(……何だ?)
見覚えがあるな、と浅倉は思う。
そんなに古い記憶ではない。つい最近、どこかでこの女に会ったことがあっただろうか、と思い、無い筈だ、と改めた。では、この記憶のくすぐりは一体どうしたことであろうか。
対する女の方は浅倉に見向きもしない。
まるで狂犬病を患った犬のように、怯えとも敵意ともつかない感情に瞳を痙攣させている。
「高町ぃ……なのはぁ……」
ふと、女は名を呟いた。
それはつい先ほど天道総司が告げた名前だ。
「お前えぇーーーーーーーーーー!!」
女は跳んだ。
常軌を逸した跳躍力だ。仮面ライダーですらも、たった一度地を蹴っただけであれほどまでの移動は出来ない。
一拍で天道まで辿り着いた女は、左脚を天に掲げる踵下ろしの態勢。
「なのはママに何をしたぁーーーーーー!!!」
掠れて見える蹴撃はギロチンのようだ。
それが一直線に分厚い装甲を叩き割ろうと迫り、
『CAST OFF』
出迎えたのは、解き放たれた装甲の連打だった。
「!?」
あたかも天道が破砕したかのような光景だ。全身を覆う装甲があらゆる方向に弾けて飛び、その幾つかは近接していた女の全身に打ちつけられる。片足立ちとなっていた女は姿勢を崩し、対応するために距離を開けざるを得ない。
そして装甲が消失した今、瓦礫の上にあるのは、赤い装甲の仮面ライダーだった。
『CHANGE BEELE』
鎧そのものが音声を放つ中、顎を起点にして丁の字の角が起立、ゆっくりとした動きで眉間に収められ、額に角を生やす様相となった。
(あれが本当の姿か)
二段変身とは愉快な仕様だな、と浅倉は思う。
「お前」
と、天道が喋った。
「高町の関係者か」
高町、その名前に少女は再び反応した。俯いたことでせり上がった肩が痙攣し、
「俺は……」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
意思も意味もない雄叫びを一声し、天道の言葉を遮る。
そして、先ほど与えられなかった分の打撃を今与えようというかのように、再び天道へ挑みかかった。
【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】仮面ライダーカブト(C.OFF)、疲労(小)
【装備】カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEALー封印ー』@仮面ライダーリリカル龍騎、『CONTRACTー契約ー』@仮面ライダーリリカル龍騎
【思考】
基本:極力多数の参加者とともに帰還する
1.オッドアイの少女(ヴィヴィオ)の誤解を解く
2.王蛇のカードデッキを破壊して全マーダーをミラーワールドに閉じ込める
3.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者の未来を切り開く
4.『封印』と『契約』のカードでミラーモンスター(ジェノサイダーA)に対処する
5.キングを警戒する
5.このゲームに存在する全ゼクターを回収する
【備考】
※参戦次期はACT.10冒頭、クロックアップでフェイト達の前から立ち去った直後
※自信の制限に気付いています
※首輪に名前が書かれている事に気付いています
※ドラグレッダーはなのはと天道に城戸真司の面影を重ねています
※SEALのカードを持つ限り、モンスターは現実世界にいる天道総司を攻撃できません
※C.C.からカードデッキの説明書を受け取っています
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、聖王モード@、洗脳による怒り(極)
【装備】レリック(ルーテシアのシリアルNo.、融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】なし
【思考】
基本:ママ(なのは(StS))の敵を皆殺しにする
1.一本角(仮面ライダーカブト=天道総司)を叩きのめす
2.なのはママとフェイトママを殺した参加者を優先的に殺す
2.頃合いを見て聖王のゆりかごにを動かすべく戻る
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています
※浅倉はまだ信頼しています。殴ったのは何らかの理由があるからだと考えています
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています
※キングは天道総司を助ける善人だと考えています
※クラールヴィントは浅倉を警戒しています
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします
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