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「A to J/運命のラウズカード」(2010/11/04 (木) 07:44:08) の最新版変更点
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*A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE
「IS……発動」
その声と共にスバル・ナカジマの手にあったある『モノ』が粉砕された。そして近くに降ろしていたヴィヴィオを再び背負い走り出した。
ヴィヴィオは衰弱している為急がなければならない。では、何故スバルは急がなければならないにもかかわらず足を止めある『モノ』を砕いたのだろうか――?
★ ☆ ★ ☆ ★
暗い闇の中にヴィヴィオはいた。
身体中が悲鳴をあげているかの様に痛くそして苦しい。
助けを求めようとも周囲には誰もいない。
それでも闇の中を歩き――見つけた。
「ザッフィー……シャマル……」
シャマルとザフィーラが立ちつくしていた。ヴィヴィオは重い身体を引きずって近付こうとするが――
見てしまったのだ。2人が自分を蔑む様な視線を向けるのを、それは明らかな拒絶の意志――
それだけではない、シャマルの手には破損が著しいクラールヴィントがあった。
何故、クラールヴィントは破損していたのか? ああそうだ、それは先程の戦いで――自分が壊したんだ――
ザフィーラは悲しんでいる所を励ましてくれたのに自分はそれを裏切った。
シャマルにとってクラールヴィントは相棒だったのに自分はそれを破壊した。
2人が自分を蔑んでも当然だ。
気が付くと2人は消えていた。再びヴィヴィオは周囲を見回し、
「シャーリーお姉さん……」
浴衣を着たシャーリー・フェネットを見つけた。ヴィヴィオは駆け寄ろうとするが――
「来ないで……」
シャーリーはそう言い放つ。またしても明らかな拒絶だ。
「どうしてスバルを殺そうとしたの……言ったよね、スバルは友達だって……」
そうだ、自分はあの時スバルを……
「ひどいよ……」
そういって、シャーリーの姿が消えた。そして入れ代わる様に漆黒の服に身を包んだ少年が現れた。
「俺を治療してくれた事には感謝している。だが……」
「ルルお兄さん……」
その少年ルルーシュ・ランペルージは自身を治療した事について礼を述べたが、
「何故スバルを殺そうとした? シャーリーからも聞いていたんだろう、スバルは俺やシャーリーの友人だという事を」
「それは……」
ママである高町なのはを助けようともせず漆黒の怪物と戯れていたから、つまりママを裏切ったからだと正直に言おうとしたが、
「高町なのはを助けずに怪物と戯れ彼女を裏切ったからか? まさか本気でスバルが裏切ったと思っているのか?」
ルルーシュはその理由を既に看破していた。
「違うな、間違っているぞ。スバルの性格を考えてみろ、俺の様な悪人やあの場にいた得体の知れない怪物であっても説得する事ぐらいわからないか?」
「うぅ……」
「それに高町なのはの事なら俺も少しは聞いている。彼女も同じではないのか? あの場に彼女がいたならば恐らく同じ事をしていたと思うが?」
その通りだ、何故彼がそれを知っているのかはともかく恐らくなのはママも同じ事をしていたのはヴィヴィオにもわかる。
「つまりだ……裏切ったのはスバルではない、ヴィヴィオ! お前だ!! お前がなのはやスバルを裏切ったんだ!!」
その眼には明らかな憎悪と憤怒が込められていた。彼にとってスバルは自分にとってのママ達同様大切な存在だったのだろう。それを自分は――
気が付けばルルーシュの姿も消えていた。そんな中背後から、
「えriおくnを……かeせ……」
振り向くとそこには人らしき『モノ』がいた。皮膚が破れ肉が露出し所々骨や内蔵が飛び出し身体中血塗れで至る所に欠損が見られる。そして頭部から僅かに見られる桃色の髪からそれが誰か理解した。
「キャ……ロ……」
それはキャロ・ル・ルシエだった『モノ』だ。そうだ、あの時自分が彼女を完膚無きまでに破壊し尽くした。その残骸が集まり再び人の形を成したのだろう。
「えりokuんを……こんnaにしte……」
その手らしき所にはボロボロになった鎌が握られていた。アレは自分がキャロから奪った鎌、恐らくは先の戦いでクラールヴィント同様……
「yuるさなi……!」
そしてキャロは全身でヴィヴィオに飛びついた。肉の塊だったそれはヴィヴィオにぶつかると同時に砕け散りその血肉はヴィヴィオの身体中に染みこんでいく。
「あぁぁ……」
放たれる死臭が気持ち悪い。それはまさしくヴィヴィオ自身の罪の象徴なのだろう。それでもヴィヴィオは助けを求めるかの様に彷徨う――
そして――
「なのは……ママ……」
フェイト・T・ハラオウン同様幼くなってはいたが、なのはを見つけた。しかしなのはは駆け寄ろうとするヴィヴィオに有無を言わさず魔力弾を直撃させた。
「え……」
戸惑うヴィヴィオに対し、
「おかしいなぁ……どうしちゃったのかな……誰がみんなを殺してくれって言ったの……私がそんな事言うと思っているの……ねぇ、私の言っている事……そんなに間違ってる……?」
「ママ……」
「少し……頭冷やそうか……」
そして再び魔力弾をヴィヴィオに当てた。ルルーシュの言う通りだった。なのはが皆殺しを望むわけがない、自分は彼女の事を全然理解していなかったのだ。
再び立ち上がろうとするが、目の前にはゆりかごで見た時と同様に幼いフェイトがいた。
「フェイト……ママ……」
何とか彼女に助けを求めるが、
「なんでなのはを……みんなを裏切ったんだ……」
彼女の眼には明らかな怒りが込められていた。
「お前にこんな事をさせる為に助けたんじゃない……なのは達を裏切らせる為に助けたんじゃない……お前なんか……」
ダメだ、その先の言葉を言うな、ヴィヴィオはそう口にしようとしたが、
「お前なんか……嫌いだ……!」
そう言ってフェイトは消えた。
「うぅぅ……」
ママ達からも拒絶されヴィヴィオの眼には涙が溢れていた。そんな中、視線の先には、
「あ……浅倉お兄さ……」
自身のぬいぐるみを手に持っている蛇皮の服を着た男性浅倉威がいた。その手にあるぬいぐるみは所々が破れ中身が飛び出している。
ヴィヴィオは僅かな力を振り絞り浅倉に駆け寄るが、
「がっ……」
浅倉によって蹴り飛ばされた。
「五月蠅い餓鬼が……イライラするぜ……」
そう言って、ぬいぐるみを持ったままヴィヴィオの前から消えていった。ぬいぐるみの視線も自分を蔑んでいるかの様に見えた。そうだ、ぬいぐるみもあの戦いで――
人だけではなく、デバイスやぬいぐるみからも拒絶されヴィヴィオは本当に独りぼっちになっていた。
「ぐばぁ……はぁはぁ……」
蹴られた衝撃からか口からは大量の血が吐き出される。身体の奥が痛くて苦しく感じる。だが、ヴィヴィオを助けてくれる者はだれもいない。
どうして誰も助けてくれないのか? ああ、その理由は自分が理解している、皆を裏切り皆殺しにしようとしたのだ、皆が自分から離れていって当然だ。
いっそ殺して欲しいとすら思う。しかし死神すらも自分には見えない。死が近いとしても簡単には死なせてくれないらしい。
死の瞬間まで苦しめと――いや、死んだとしてもずっと独りなのだから苦しみは決して終わらないのだろう。
それはヴィヴィオに対する罪なのだろうか?
「だれか……ヴィヴィオを……たすけてよ……」
その声に応える者は誰もいない。誰か現れても蔑むだけで決して助けてはくれない。
悪夢は終わらない――仮に、ここでヴィヴィオが死んだとしても――
☆ ★ ☆ ★ ☆
「始さんに別れを告げた後、あたしはヴィヴィオを背負いアジトへ向かった。アジトに先行しているこなた達や八神部隊長達と合流し、衰弱しているヴィヴィオを助ける為に。
その途中、1枚のカードを見つけた。多分始さんが持っていたカードがあの時の衝撃と風でここまで吹き飛んだと思う。
余裕なんて無かったけどあたしはそのカードがどうしても気になりそれを拾った。何故かはわからないけど始さんにとって大事な物だと思ったから――」
ジェットエッジの調子は良好、このペースならばスカリエッティのアジトまでそう時間はかからない。
とはいえこの時間を無駄には使えない。周囲の警戒を怠らず、先の戦いやこれからの事を考える。
放送を冷静に思い返す。放送時点での残り人数は19人、その内ホテルに集結した参加者は自分を含めた9人。
その内、泉こなた、八神はやて、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、カテゴリーキングと呼ばれた男が先に離脱、相川始と雷の男が死亡し自分とヴィヴィオが最後にホテルを離れた。
勿論、なのは達を含めた残り10人の動向も気になるがそれについてはひとまず置いておく。大丈夫という保証も無いが考えてもきりがないからだ。
真っ先に気になるのはヴィヴィオの状態だ。
あの惨事の中心部にいたとは言えヴィヴィオは何とか生きていた。もしかしたら彼女が持っていたクラールヴィントが自らを犠牲にしてでもヴィヴィオのダメージを最小限に抑えようとしていたのかも知れない。
しかしそれは最悪の事態を避ける事が出来ただけだ。現在進行形で衰弱している事に変わりはない。
一体、ヴィヴィオに何が起こったのだろうか? いや起こった事自体はわかっている。体内に埋め込まれたレリックが暴走して大爆発を起こしたのだ。
問題は何故彼女の体内にレリックが埋め込まれJS事件の時の様な洗脳状態に陥ったのかという事だ。
少なくてもこなたやリインといた時にはそれが無かったらしい。となると連れ去られた後から約6時間の間に何かがあった事になる。
(確か、キャロかルーテシアのどちらかがゆりかごに連れ去った可能性が高いから……)
連れ去った者が聖王のゆりかごでレリックを埋め込み洗脳した。そう考えれば一応筋は通る、しかし幾つか腑に落ちない点がある。
まず、レリックは何処にあったのか? 勿論既に埋め込まれていた可能性もあるし、都合良く持っていた可能性もあるがそうそう上手く事が運ぶわけもない。
また、連れ去った可能性が高いキャロとルーテシア・アルピーノの両名は共に放送前に死亡している点も引っかかる。洗脳しておいて殺されるのはお粗末な話だろう。
(……待って、もしかしたら)
が、逆にこの事がある仮説を導き出した。ルーテシアがヴィヴィオをゆりかごまで連れて行ったが、そこで何者かにルーテシアが殺され彼女の体内のレリックをヴィヴィオに埋め込んだ可能性だ。
これならば十分に筋は通る。暴走が起こった事に関してもルーテシアのレリックが適合しなかったとすれば問題はない。その影響でヴィヴィオが苦しんでいるのだろう。
勿論、これは仮説に仮説を重ねたものでしかない為確証はない。しかし、可能性は十分にあり得るだろう。
それ以上に気になるのは彼女に染み着いた夥しい血肉の臭い。確かにあの状態ならば誰かを殺しても不思議はない。しかし、普通に返り血を浴びたとしてもここまで酷くなるとは思えない。
考えられるのは殺した死体を完膚無きまでに破壊した際に飛び散った血肉が染み着いた可能性だ。幾ら洗脳状態とは言え正直やりすぎではなかろうか?
勿論、ヴィヴィオの行動自体は洗脳状態だった為、スバルとしてはそれを責めるつもりはない。
しかし、ヴィヴィオが正気に戻った時に彼女がその時の事を覚えていたらどうだろうか?
ヴィヴィオは罪の重責で苦しむのではないだろうか? なのは達から拒絶される可能性を考えるのではなかろうか?
スバル自身は別段気にしないしそれについてはなのは達も同じだろう。だが、ヴィヴィオ自身が納得出来るかは全くの別問題だ。
このままでは仮に命が助かってもヴィヴィオの心が壊れてしまう可能性が高い。
(何とかしてヴィヴィオを助けないと……出来れば早くなのはさんと会わせたいけど……)
とりあえずホテルでの戦いではヴィヴィオは誰も殺さなかったと説明しておこう。幸いあの惨状を見たのは自分だけだから誤魔化しはきく。
ボーナスでナイフを得た事を知っているのも自分だけだからそれで知る事も……
(待って、それじゃあの男は誰が?)
ホテル跡には始の他に雷の男の死体もあった。ヴィヴィオ優先だった為詳しくは調べていないがあの戦いで死んだ事は間違いない。
危険人物ではあったが彼がヴィヴィオを抑えてくれなければヴィヴィオに一撃をたたき込めなかった事は確実、つまり彼の存在のお陰でヴィヴィオを助ける事が出来たという事になる。ある意味皮肉な話だ。
普通に考えれば彼が死んだ理由は暴走に巻き込まれたからだろうがそれならヴィヴィオが得るボーナスは2つでなければならない。
また、何よりあの男の遺体は始と比較して損傷はそれ程酷く無く、頭部に撃たれた痕跡があった。
つまり、雷の男を殺したのは別の者という事だ。では一体誰が?
(いた、それが出来る人が……)
それはカテゴリーキングだ。エネルとヴィヴィオが乱入した時点で危険を悟り早々に離脱したのだろうが、後から戻ってきて危険人物である雷の男にトドメを刺した可能性は否定出来ない。
自分達を助ける為……とは思えなかった。本当に自分達を助けるつもりならばヴィヴィオや自分を放置する筈がない。つまり、あの男は自分だけの為に雷の男を仕留めたのだろう。
自分達を放置した理由は不明、あの男にとっては自分達は排除する必要すらない取るに取らない存在なのだろうか?
始との対立云々を別にしても、その立ち回りと思考から警戒すべき人物なのは確かだろう。もしかしたらメールにあった『キング』と何か関係があるかもしれない。後でもう少し整理した方が良いだろう。
(あれ、何か引っかかるんだけど……)
ここまで考えて引っかかりを感じたものの深く考える余裕は無い。他にも考える事はある。
(かがみさん……無事にこなたの説得が通じれば良いけど……)
それは殺し合いに乗ったかがみの存在だ。アジトに到着すれば友達であるこなたが説得してくれる筈だ。
しかし、それは希望論でしかない。一番説得出来そうなのはこなたではあったが絶対という保証はない。
それ以前にこなた達がアジトに無事に到着しているという確証も無いし、はやて達が途中で何者かに襲われている可能性もある。
また、場合によっては彼女の持つリングに宿るバクラが何かする可能性も否定出来ない。
(いや、バクラに関しては一応ヴァッシュさんに注意しておいたから多分大丈夫だと思うけど……)
そう思いながらも不安は拭えない。また、前に会った時と比べてかがみが荒んでいるのも見て取れた。
(ホテルで再会するまで6時間弱、何があったんだろう……そうだ)
と、スバルはデイパックからレヴァンティンを出した。レヴァンティンは元々スバルが持っていたがデュエルアカデミアでの戦いでかがみに奪われ先の戦いで取り戻すまでずっとかがみが所持していたものだ。
つまり、レヴァンティンがその間に何があったか把握している筈だという事だ。
「……というわけで、かがみさんに何があったかわかる範囲で良いから教えて」
事情を説明しレヴァンティンに問う。
そしてレヴァンティンはそれまでに起こった話を語り出す。
かがみの様子を見る限り、度々誰かと会話している様な様子が見られた。しかし相手の人物の声が聞こえなかった為詳しい事はわからない。
(バクラね)
スバルとの戦いを終えた後、かがみはレヴァンティン以外のデバイスの力を利用してバリアジャケットを展開しようとした。
「え!? かがみさん何かデバイス持っていたの? ……あれ、もしかしたらあの時隠し持っていたかも知れないってこと……まぁ、かがみさん魔力無いだろうからあんまり問題は……部隊長もいるだろうし」
そして、煙の見えるレストランに向かい集まった参加者を一網打尽にしようとしていた。
ちなみに仮面ライダーには変身出来ないらしく持っていた機関銃で撃ち殺そうとしていた。
そして機関銃の準備をしている所で始と遭遇、始は人間を助ける気は無いとは言いながらもかがみを止める事は無かった。その一方逆に襲う事も無かったらしい。
その後、かがみがレストラン跡にいた浅倉と始を襲った。もっともその試みは失敗しかがみの持つ仮面ライダーに変身する為のカードデッキは浅倉に奪われ逆に返り討ちにあった。
「え、ということはかがみさん仮面ライダーに変身出来なくなったの?」
その後は浅倉と始が戦いが始まったらしいがその場面を直接見ていない為具体的な事は不明ではある。
一方、気が付けばかがみの腹部に何かベルトが装着されそのままかがみは別の仮面ライダーに変身しその場を離脱した。恐らくホテルでの姿はそれだろう。
「どういう事? アカデミアで戦った時と違うのは気になったけど、ベルトが手に入った理由がわからないんだけど……」
そう問うスバルだったがレヴァンティン自身もわからないし何よりかがみ自身すらもわかっていなかったらしい。
そしてホテルに戻ったが、そこでいきなり何かに引きずり込まれたらしい。引きずり込まれた先で待っていたのは浅倉によるかがみの妹柊つかさの惨殺。
「そんな……」
これによりかがみの精神は破綻、そして浅倉と戦いになったらしいが気が付けば元のホテルに戻ってきていた。
それからヴァッシュと遭遇し、スバルとの再会後離脱し何かの車で始を轢き殺そうとしたが失敗し始と戦いになりあの場に戻ったのだ。
勿論、ここまでの話はデイパックの中から会話や音を聞いた事による判断なのでレヴァンティン自身詳しい状況まではわからない。それでも何があったのかは概ね理解出来た。
「つまり、かがみさんがああいう風になったのは目の前でつかささんを殺されたから……」
かがみが壊れた原因はつかさの死という事は理解出来た。これ自体は不幸な事だが逆を言えば説得の糸口になる。
異なる世界の別人と決めつけながらも実の妹が殺されてショックを受けたのだ。例え口では別人と言っても割り切れないのだろう、説得の可能性が僅かに見えたと言える。
「それにしてもバクラが思ったよりも役に立っていないのが気になるんだけど……」
一方でバクラの動向も気になった。バクラが自分に都合の良い風にかがみを誘導している割には思ったよりも戦果があがっていないのだ。かがみの口ぶりからバクラは一度彼女を見捨てようとしたらしい。
一応、身体を使う等の話も出ていたが別段そんな様子は無かった。基本的にはかがみ任せにしていた事は間違いない。
もしかするとバクラ自身にも強い制限がかけられている可能性があるのかも知れない。制限故にかがみを誘導していたのだろう。
かがみのあまりの不甲斐なさに一度見捨てようとした事もその現れかもしれない。
とはいえ、バクラの存在がかがみを追い込んだ事に変わりはない為、それを許すつもりは全く無い。
と、スバルは何かに気付き足を止めヴィヴィオを一端降ろし、デイパックからベルトを出して試しに身に着けてみた。しかし、別に反応する事はなかった。
「あたしじゃこのベルトは使えない……けど、かがみさんには使える……だったら!」
ベルトを外して手に持ち
「IS……発動」
そう言ってベルトを粉砕し再び走り出した。
何故ベルトを粉砕したのか? それは再びかがみに利用されるのを防ぐ為だ。
何故ベルトがかがみに装着されていたのだろうか? 何故かがみがベルトを使う事が出来、自分は使う事が出来なかったのか?
その理由はかがみにはその資格があり自分には資格が無いからではなかろうか?
資格が何かはわからない。だが資格があったからこそベルトは勝手にかがみに装着され彼女に力を与えたのだろう。
もしここでのこのこかがみに近付いたらどうなるだろうか? 恐らく先程同様ベルトがかがみに装着される可能性が高い。そうなれば折角取り上げた意味が無くなってしまう。
あの仮面ライダーの力は絶大、あの時は上手くいったが次も上手く行くとは限らない。故に二度と使われる事が無いようにベルトを破壊したのだ。
勿論、かがみの説得が上手くいった場合、その力を奪った事は一見デメリットに思える。
だが、かがみに力を与えるという事はかがみを戦わせる事を意味する。スバルはこなたやかがみ達といった戦いと無縁の人々を戦わせるつもりは全く無い。
かがみ以外が扱えず、そのかがみにも使わせるつもりが無いならばその道具に意味など無い。だからこそ破壊したのである。
(とりあえず、これでもうかがみさんに戦う術はない……後は説得だけど……大丈夫、こなたならきっと助けられるし何かあってもヴァッシュさんや八神部隊ちょ……)
ここまで考えてスバルは違和感を覚えた。
(ちょっと待って……部隊長はあの男と行動をしていた……どうして部隊長はあの男と?)
カテゴリーキングはジョーカーだけが目的だと言っていた。確かにそれはある程度は信用出来る、だが殺し合いを止めようと言う風には感じなかった。
何故はやては彼と行動を共にしていたのだろうか。勿論この状況下だ、例え敵でも組まなければならない時があるのはわかる。しかし何かが引っかかるのだ。
『あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね』
それは雷の男がやって来た時にあの男が言った言葉だ。あいつ“ら”――複数いた、つまりヴィヴィオがいたことも知っていたという事だ。
そして恐らくははやても知っていた可能性が高い。それを知って待避したという事は――
(部隊長はヴィヴィオを見捨てた……)
友人の娘を見捨てたという事実、それはスバルにとっては信じがたい話であった。
だが、感情的な面を抜きにして考えれば有り得ない話ではない。ヴィヴィオの力が驚異的だったのはスバル自身も理解している。場を切り抜けるならば撤退という選択を選ぶ可能性が無いとは言えない。
同時にリインの話も思い出した。リインの世界の彼女は家族を取り戻す為に非人道的な作戦の指揮をとっている話だ。彼女の世界のはやてならばその選択を選んでもおかしくはない。
当然その世界のはやてである保証はないが、似たような状況に置かれた世界の彼女の可能性は十分にある。その可能性を頭から否定する事は愚行以外の何物でもない。
選択自体は認めたくはないが間違っているわけではない。だが、もしもはやての人格がスバルの推測通りだとしたらスバルにとって避けるべき事態が起こる可能性がある。
(かがみさんが危ない……)
ここで以下の3人について客観的に考えてみて欲しい。
力を暴走させてはいたものの、それ以外では友好的な姿勢を見せ、戦いにおいても誰であろうとも殺さずに無力化しようとしたヴァッシュ、
口では殺すとか戦うとは言っておきながら撤退を促し、最終的には誰も殺さず此方を助けてくれた始、
此方が説得したにも拘わらず、聞く耳を一切持たずに自分達を騙し陥れ仲間達を皆殺しにしようとしたかがみ、
3人の行動を見て誰が信用出来るか? それぞれ意見はあるだろうが殆どの者は一番信用出来ない危険人物がかがみなのは理解出来るだろう。
しかし、スバルは一般論とは外れた行動を取っているのはこれまでの行動からも明らかだ。他の2人とは戦ってはいたが、かがみに対しては戦うという選択ではなく助けるという選択肢しか選んでいない。
この理由はかがみが何の力を持たないか弱き少女であり、こなたの友人であり、同情出来る部分が多かったからというものだろう。
しかし逆を言えばその理由が無ければ話が通じないかがみこそが一番の危険人物ではなかろうか?
バクラが元凶だ、かがみは何も悪くない? そんな理屈は通用しない、現在進行形で放置出来ない危険人物である事に違いはない。理由はどうあれチンクを殺し自分達をも殺そうとした事実は決して変わらないのだ。
話が通じないならばどうするかなど考えるまでもない。排除するしか無くなる、殺し合いを打破する為ならばその選択が間違っているとは言えない。
つまり、はやてが障害となるかがみを排除する可能性が高いという事だ。
自分の世界のはやてならばその可能性は無いと断言出来るが、リインの話やヴィヴィオへの対応を考えれば危険人物を排除する可能性は否定出来ない。
その考え方自体はわからなくはないからそれも致し方ない。だが、殺し合いとは無縁だった彼女を殺させる事を容認出来るわけがない。
勿論、はやてが行動を起こしてもヴァッシュが止めてくれる可能性はある。だがそれでは遅いのだ、事が起こればその時点でかがみは裏切られたと考え更に説得を難しくする。なんとしてでも止めなければならない。
(お願いです……早まらないで下さい、八神部隊長……)
杞憂であれば良い、しかしその可能性がある以上無視する事は出来ない。急がなければならない、故にジェットエッジを更に走らせようと――
――バランスを崩し転倒しそうになった。何とか転倒こそしなかったがスバルは一端足を止めた。
足場の良くない夜の森林であった事に加え考えていた以上に自身の受けたダメージや疲労は大きかったのだろう。
それ以前に焦りと急ぐのに夢中で周辺の警戒を怠ってはいなかっただろうか? このタイミングで奇襲に遭えばアニメイトの二の舞だ。
こんな調子では守れるものも守れず、救えるものも救えない。
スバルは深く深呼吸する。長々と休むつもりは無いが心を落ち着ける事は必要だ。
ふとデイパックから2枚のカードを出した。それは始が変化したカードと先程拾った彼が持っていたらしいカードだ。
1枚はハートの2『SPIRIT』、中にはヒトとハートが描かれている。1枚はジョーカー『JOKER』、中には始の本来の姿の頭部が描かれていて、見ようによっては緑のハートに見えなくも無い。
(始さんから何も聞けなかったな……)
カードを見て始の事を思い返す。結局の所、始は一体何者でスバルの姉であるギンガ・ナカジマと何があったのだろうか?
少なくても彼自身が語った通り彼が人間とは違う異質な怪物という事は間違いないだろう。遺体がカードとなっていることからもそれは明らかだ。
その一方、カテゴリーキングと始の会話からみるに、始が死神にして非常な殺戮者だったのはほぼ間違いないだろう。彼が殺し合いに乗っていた事についてはそれでほぼ説明出来る。
更にスバルは2枚のカードと前にルルーシュが持っていたクラブのKのカードが同じものであると共に、それらがある物に似ている事に気付いた。それはトランプだ。
となれば、『始=ジョーカー』が死神と呼ばれるというのも的を射た表現だ。トランプにおいてジョーカーは他の52枚とは異質な存在で時には忌み嫌われる事もあるからだ。
つまり、始は最初から他者とは違う全く異質な存在という事だ。
では、その始と解り合う事は不可能なのか? 答えはNoだ。
そもそもの話、最初から異質な存在という意味ではスバル達も同じなのだ。
スバルやギンガ達戦闘機人は「ヒトをあらかじめ機械を受け入れる素体として生み出す」という手段で生み出されたものであり、その目的はその名前通り高い戦闘力を持つ人型兵器を生み出す事だ。
つまり、スバル達も最初から兵器として生み出されており人間達とは違う全く異質な存在なのだ。
だが、現実ではスバル達はクイント・ナカジマに保護された後、ナカジマ家で人間として育った。また、ナンバーズにしてもその大半は更正プログラムを受けた後、ナカジマ家の養子になる等人間として暮らす事になった。
始にもスバル達と同じ事が言える筈なのだ。自分達の声が届く筈がない、スバルはそう思っている。
始とギンガの間に何があったのだろうか?
始によるとギンガは殺し合いに乗った自分を助けて命を落としたらしい。だが、始の口ぶりではギンガとの遭遇はその時1度だけだとは思えなかった。
ギンガは何度も始を説得しようとしていたのでは無いだろうか? ギンガは始と解り合えると思っていたのではないだろうか? 故に何度も説得を試み――その途中で敵の攻撃から始を守って死んだのだろう。
始はそれを馬鹿な行為だと言った、しかしスバルはそれを否定する。ギンガが無駄な命を救う訳がなかったし何より始の言動そのものがそれを証明している。
始は自分の為にギンガが死んだ事に強い悲しみを感じていた。本当にギンガの行動を馬鹿だと思うならそう感じるわけがない。
そして何より、始はギンガの言葉の影響を強く受けていたのが先の戦いでもわかった。ギンガの声は始に届いていたのだろう。
正直な話、少なくても始の行動を見る限り能動的に殺し合いに乗っていたとは思えなかった。
ホテルでの戦いでは自分に去る様に言ったり、自身のとどめを刺すように促したりしていた。
また、レストランでの戦いでも始はかがみを襲おうとはしなかった。
本当に能動的に殺し合いに乗っているのならばそんな行動をとりはしないだろう。
もしかすると、そもそも始は誰かが言ったような『死神』として殺し合いに乗っていたのではなく、別の理由で殺し合いに乗っていたのでは無いだろうか? 例えば、待っている人達の元に帰る為といったものだ。
勿論、何の確証も無い想像でしかないしそれを確かめる術もない。しかし、本当に只の『死神』ならギンガの説得は何も届かず逆に彼女を殺していた可能性が高い。
始自身が気付いていたかはわからないが、きっと始自身誰かを守る為に戦っていたのかもしれない。誰かを守ろうとしたからこそギンガの説得が届いたのだろう。
確かにジョーカーは『死神』等に代表される嫌悪される存在の意味を持っている。しかし、ジョーカーが持つ意味はそれだけではない。1つは他を凌駕する絶大な力、もう1つは他のあらゆる存在の代替になれる事だ。
つまり、ジョーカーこと始はその絶大な力で皆を救える存在にもなれるという事だ。そして確かに彼は自らの力でスバルとヴィヴィオを救う存在となった。
『誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ』
かがみが言った言葉、確かにそれは事実だ。
ディエチもチンクもルルーシュもギンガも誰かを守ろうとして死んでいった。
真面目な話、スバル自身あの時死んだと思っていたし、実際に自分とヴィヴィオを助ける為に始が死んだ事は確かだから否定出来るわけがない。
それでもだ、死んでいった者達は仲間達に何かを届けてくれた。彼等の死は無駄ではなく同時に決して無駄にしてはいけない、それだけは断言出来る。
彼等が遺した物はこの血塗られた運命を破る切り札となるかも知れない。しかし切る者がいなければ切り札に意味はない、故に生き残った者達は決して諦めてはならないのだ。
カードが煌めいた気がした。スバル達を励ますかの様に――
スバルは再び走り出した。調子はさっきよりも良い、これならば躓く事なくアジトまで行けるだろう。
ヴィヴィオの容態は悪く、かがみの説得が上手く行く保証もない。はやての動向等気になる事は多く不安は尽きない。
それでもスバルは決して諦めたりはしない。諦める事は簡単だ、だが諦めるという事は自分達を守る為に死んでいった者達の想いや意志を裏切る事になる。
彼等の行動を無駄にしない為にも必ず皆を守り殺し合いを止めるのだ。
「ルルーシュ、ディエチ、チンク、ギン姉……みんなの想いと願い、決して無駄にしない……
そして始さん……貴方の『心』と『魂』は私が受け継ぎます……
必ずなのはさん達と力を合わせてヴィヴィオ達を助けてこの殺し合いを止めます――」
【1日目 真夜中】
【現在地 E-9】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、
クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
2.六課のメンバーとの合流。かがみの事はこなたに任せる。はやてに早まった真似をさせない。
3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード、金居(共に名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ
【装備】フェルの衣装
【道具】なし
【思考】
基本:?????
1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。
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*A to J/運命のラウズカード ◆7pf62HiyTE
「IS……発動」
その声と共にスバル・ナカジマの手にあったある『モノ』が粉砕された。そして近くに降ろしていたヴィヴィオを再び背負い走り出した。
ヴィヴィオは衰弱している為急がなければならない。では、何故スバルは急がなければならないにもかかわらず足を止めある『モノ』を砕いたのだろうか――?
★ ☆ ★ ☆ ★
暗い闇の中にヴィヴィオはいた。
身体中が悲鳴をあげているかの様に痛くそして苦しい。
助けを求めようとも周囲には誰もいない。
それでも闇の中を歩き――見つけた。
「ザッフィー……シャマル……」
シャマルとザフィーラが立ちつくしていた。ヴィヴィオは重い身体を引きずって近付こうとするが――
見てしまったのだ。2人が自分を蔑む様な視線を向けるのを、それは明らかな拒絶の意志――
それだけではない、シャマルの手には破損が著しいクラールヴィントがあった。
何故、クラールヴィントは破損していたのか? ああそうだ、それは先程の戦いで――自分が壊したんだ――
ザフィーラは悲しんでいる所を励ましてくれたのに自分はそれを裏切った。
シャマルにとってクラールヴィントは相棒だったのに自分はそれを破壊した。
2人が自分を蔑んでも当然だ。
気が付くと2人は消えていた。再びヴィヴィオは周囲を見回し、
「シャーリーお姉さん……」
浴衣を着たシャーリー・フェネットを見つけた。ヴィヴィオは駆け寄ろうとするが――
「来ないで……」
シャーリーはそう言い放つ。またしても明らかな拒絶だ。
「どうしてスバルを殺そうとしたの……言ったよね、スバルは友達だって……」
そうだ、自分はあの時スバルを……
「ひどいよ……」
そういって、シャーリーの姿が消えた。そして入れ代わる様に漆黒の服に身を包んだ少年が現れた。
「俺を治療してくれた事には感謝している。だが……」
「ルルお兄さん……」
その少年ルルーシュ・ランペルージは自身を治療した事について礼を述べたが、
「何故スバルを殺そうとした? シャーリーからも聞いていたんだろう、スバルは俺やシャーリーの友人だという事を」
「それは……」
ママである高町なのはを助けようともせず漆黒の怪物と戯れていたから、つまりママを裏切ったからだと正直に言おうとしたが、
「高町なのはを助けずに怪物と戯れ彼女を裏切ったからか? まさか本気でスバルが裏切ったと思っているのか?」
ルルーシュはその理由を既に看破していた。
「違うな、間違っているぞ。スバルの性格を考えてみろ、俺の様な悪人やあの場にいた得体の知れない怪物であっても説得する事ぐらいわからないか?」
「うぅ……」
「それに高町なのはの事なら俺も少しは聞いている。彼女も同じではないのか? あの場に彼女がいたならば恐らく同じ事をしていたと思うが?」
その通りだ、何故彼がそれを知っているのかはともかく恐らくなのはママも同じ事をしていたのはヴィヴィオにもわかる。
「つまりだ……裏切ったのはスバルではない、ヴィヴィオ! お前だ!! お前がなのはやスバルを裏切ったんだ!!」
その眼には明らかな憎悪と憤怒が込められていた。彼にとってスバルは自分にとってのママ達同様大切な存在だったのだろう。それを自分は――
気が付けばルルーシュの姿も消えていた。そんな中背後から、
「えriおくnを……かeせ……」
振り向くとそこには人らしき『モノ』がいた。皮膚が破れ肉が露出し所々骨や内蔵が飛び出し身体中血塗れで至る所に欠損が見られる。そして頭部から僅かに見られる桃色の髪からそれが誰か理解した。
「キャ……ロ……」
それはキャロ・ル・ルシエだった『モノ』だ。そうだ、あの時自分が彼女を完膚無きまでに破壊し尽くした。その残骸が集まり再び人の形を成したのだろう。
「えりokuんを……こんnaにしte……」
その手らしき所にはボロボロになった鎌が握られていた。アレは自分がキャロから奪った鎌、恐らくは先の戦いでクラールヴィント同様……
「yuるさなi……!」
そしてキャロは全身でヴィヴィオに飛びついた。肉の塊だったそれはヴィヴィオにぶつかると同時に砕け散りその血肉はヴィヴィオの身体中に染みこんでいく。
「あぁぁ……」
放たれる死臭が気持ち悪い。それはまさしくヴィヴィオ自身の罪の象徴なのだろう。それでもヴィヴィオは助けを求めるかの様に彷徨う――
そして――
「なのは……ママ……」
フェイト・T・ハラオウン同様幼くなってはいたが、なのはを見つけた。しかしなのはは駆け寄ろうとするヴィヴィオに有無を言わさず魔力弾を直撃させた。
「え……」
戸惑うヴィヴィオに対し、
「おかしいなぁ……どうしちゃったのかな……誰がみんなを殺してくれって言ったの……私がそんな事言うと思っているの……ねぇ、私の言っている事……そんなに間違ってる……?」
「ママ……」
「少し……頭冷やそうか……」
そして再び魔力弾をヴィヴィオに当てた。ルルーシュの言う通りだった。なのはが皆殺しを望むわけがない、自分は彼女の事を全然理解していなかったのだ。
再び立ち上がろうとするが、目の前にはゆりかごで見た時と同様に幼いフェイトがいた。
「フェイト……ママ……」
何とか彼女に助けを求めるが、
「なんでなのはを……みんなを裏切ったんだ……」
彼女の眼には明らかな怒りが込められていた。
「お前にこんな事をさせる為に助けたんじゃない……なのは達を裏切らせる為に助けたんじゃない……お前なんか……」
ダメだ、その先の言葉を言うな、ヴィヴィオはそう口にしようとしたが、
「お前なんか……嫌いだ……!」
そう言ってフェイトは消えた。
「うぅぅ……」
ママ達からも拒絶されヴィヴィオの眼には涙が溢れていた。そんな中、視線の先には、
「あ……浅倉お兄さ……」
自身のぬいぐるみを手に持っている蛇皮の服を着た男性浅倉威がいた。その手にあるぬいぐるみは所々が破れ中身が飛び出している。
ヴィヴィオは僅かな力を振り絞り浅倉に駆け寄るが、
「がっ……」
浅倉によって蹴り飛ばされた。
「五月蠅い餓鬼が……イライラするぜ……」
そう言って、ぬいぐるみを持ったままヴィヴィオの前から消えていった。ぬいぐるみの視線も自分を蔑んでいるかの様に見えた。そうだ、ぬいぐるみもあの戦いで――
人だけではなく、デバイスやぬいぐるみからも拒絶されヴィヴィオは本当に独りぼっちになっていた。
「ぐばぁ……はぁはぁ……」
蹴られた衝撃からか口からは大量の血が吐き出される。身体の奥が痛くて苦しく感じる。だが、ヴィヴィオを助けてくれる者はだれもいない。
どうして誰も助けてくれないのか? ああ、その理由は自分が理解している、皆を裏切り皆殺しにしようとしたのだ、皆が自分から離れていって当然だ。
いっそ殺して欲しいとすら思う。しかし死神すらも自分には見えない。死が近いとしても簡単には死なせてくれないらしい。
死の瞬間まで苦しめと――いや、死んだとしてもずっと独りなのだから苦しみは決して終わらないのだろう。
それはヴィヴィオに対する罪なのだろうか?
「だれか……ヴィヴィオを……たすけてよ……」
その声に応える者は誰もいない。誰か現れても蔑むだけで決して助けてはくれない。
悪夢は終わらない――仮に、ここでヴィヴィオが死んだとしても――
☆ ★ ☆ ★ ☆
「始さんに別れを告げた後、あたしはヴィヴィオを背負いアジトへ向かった。アジトに先行しているこなた達や八神部隊長達と合流し、衰弱しているヴィヴィオを助ける為に。
その途中、1枚のカードを見つけた。多分始さんが持っていたカードがあの時の衝撃と風でここまで吹き飛んだと思う。
余裕なんて無かったけどあたしはそのカードがどうしても気になりそれを拾った。何故かはわからないけど始さんにとって大事な物だと思ったから――」
ジェットエッジの調子は良好、このペースならばスカリエッティのアジトまでそう時間はかからない。
とはいえこの時間を無駄には使えない。周囲の警戒を怠らず、先の戦いやこれからの事を考える。
放送を冷静に思い返す。放送時点での残り人数は19人、その内ホテルに集結した参加者は自分を含めた9人。
その内、泉こなた、八神はやて、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみ、カテゴリーキングと呼ばれた男が先に離脱、相川始と雷の男が死亡し自分とヴィヴィオが最後にホテルを離れた。
勿論、なのは達を含めた残り10人の動向も気になるがそれについてはひとまず置いておく。大丈夫という保証も無いが考えてもきりがないからだ。
真っ先に気になるのはヴィヴィオの状態だ。
あの惨事の中心部にいたとは言えヴィヴィオは何とか生きていた。もしかしたら彼女が持っていたクラールヴィントが自らを犠牲にしてでもヴィヴィオのダメージを最小限に抑えようとしていたのかも知れない。
しかしそれは最悪の事態を避ける事が出来ただけだ。現在進行形で衰弱している事に変わりはない。
一体、ヴィヴィオに何が起こったのだろうか? いや起こった事自体はわかっている。体内に埋め込まれたレリックが暴走して大爆発を起こしたのだ。
問題は何故彼女の体内にレリックが埋め込まれJS事件の時の様な洗脳状態に陥ったのかという事だ。
少なくてもこなたやリインといた時にはそれが無かったらしい。となると連れ去られた後から約6時間の間に何かがあった事になる。
(確か、キャロかルーテシアのどちらかがゆりかごに連れ去った可能性が高いから……)
連れ去った者が聖王のゆりかごでレリックを埋め込み洗脳した。そう考えれば一応筋は通る、しかし幾つか腑に落ちない点がある。
まず、レリックは何処にあったのか? 勿論既に埋め込まれていた可能性もあるし、都合良く持っていた可能性もあるがそうそう上手く事が運ぶわけもない。
また、連れ去った可能性が高いキャロとルーテシア・アルピーノの両名は共に放送前に死亡している点も引っかかる。洗脳しておいて殺されるのはお粗末な話だろう。
(……待って、もしかしたら)
が、逆にこの事がある仮説を導き出した。ルーテシアがヴィヴィオをゆりかごまで連れて行ったが、そこで何者かにルーテシアが殺され彼女の体内のレリックをヴィヴィオに埋め込んだ可能性だ。
これならば十分に筋は通る。暴走が起こった事に関してもルーテシアのレリックが適合しなかったとすれば問題はない。その影響でヴィヴィオが苦しんでいるのだろう。
勿論、これは仮説に仮説を重ねたものでしかない為確証はない。しかし、可能性は十分にあり得るだろう。
それ以上に気になるのは彼女に染み着いた夥しい血肉の臭い。確かにあの状態ならば誰かを殺しても不思議はない。しかし、普通に返り血を浴びたとしてもここまで酷くなるとは思えない。
考えられるのは殺した死体を完膚無きまでに破壊した際に飛び散った血肉が染み着いた可能性だ。幾ら洗脳状態とは言え正直やりすぎではなかろうか?
勿論、ヴィヴィオの行動自体は洗脳状態だった為、スバルとしてはそれを責めるつもりはない。
しかし、ヴィヴィオが正気に戻った時に彼女がその時の事を覚えていたらどうだろうか?
ヴィヴィオは罪の重責で苦しむのではないだろうか? なのは達から拒絶される可能性を考えるのではなかろうか?
スバル自身は別段気にしないしそれについてはなのは達も同じだろう。だが、ヴィヴィオ自身が納得出来るかは全くの別問題だ。
このままでは仮に命が助かってもヴィヴィオの心が壊れてしまう可能性が高い。
(何とかしてヴィヴィオを助けないと……出来れば早くなのはさんと会わせたいけど……)
とりあえずホテルでの戦いではヴィヴィオは誰も殺さなかったと説明しておこう。幸いあの惨状を見たのは自分だけだから誤魔化しはきく。
ボーナスでナイフを得た事を知っているのも自分だけだからそれで知る事も……
(待って、それじゃあの男は誰が?)
ホテル跡には始の他に雷の男の死体もあった。ヴィヴィオ優先だった為詳しくは調べていないがあの戦いで死んだ事は間違いない。
危険人物ではあったが彼がヴィヴィオを抑えてくれなければヴィヴィオに一撃をたたき込めなかった事は確実、つまり彼の存在のお陰でヴィヴィオを助ける事が出来たという事になる。ある意味皮肉な話だ。
普通に考えれば彼が死んだ理由は暴走に巻き込まれたからだろうがそれならヴィヴィオが得るボーナスは2つでなければならない。
また、何よりあの男の遺体は始と比較して損傷はそれ程酷く無く、頭部に撃たれた痕跡があった。
つまり、雷の男を殺したのは別の者という事だ。では一体誰が?
(いた、それが出来る人が……)
それはカテゴリーキングだ。エネルとヴィヴィオが乱入した時点で危険を悟り早々に離脱したのだろうが、後から戻ってきて危険人物である雷の男にトドメを刺した可能性は否定出来ない。
自分達を助ける為……とは思えなかった。本当に自分達を助けるつもりならばヴィヴィオや自分を放置する筈がない。つまり、あの男は自分だけの為に雷の男を仕留めたのだろう。
自分達を放置した理由は不明、あの男にとっては自分達は排除する必要すらない取るに取らない存在なのだろうか?
始との対立云々を別にしても、その立ち回りと思考から警戒すべき人物なのは確かだろう。もしかしたらメールにあった『キング』と何か関係があるかもしれない。後でもう少し整理した方が良いだろう。
(あれ、何か引っかかるんだけど……)
ここまで考えて引っかかりを感じたものの深く考える余裕は無い。他にも考える事はある。
(かがみさん……無事にこなたの説得が通じれば良いけど……)
それは殺し合いに乗ったかがみの存在だ。アジトに到着すれば友達であるこなたが説得してくれる筈だ。
しかし、それは希望論でしかない。一番説得出来そうなのはこなたではあったが絶対という保証はない。
それ以前にこなた達がアジトに無事に到着しているという確証も無いし、はやて達が途中で何者かに襲われている可能性もある。
また、場合によっては彼女の持つリングに宿るバクラが何かする可能性も否定出来ない。
(いや、バクラに関しては一応ヴァッシュさんに注意しておいたから多分大丈夫だと思うけど……)
そう思いながらも不安は拭えない。また、前に会った時と比べてかがみが荒んでいるのも見て取れた。
(ホテルで再会するまで6時間弱、何があったんだろう……そうだ)
と、スバルはデイパックからレヴァンティンを出した。レヴァンティンは元々スバルが持っていたがデュエルアカデミアでの戦いでかがみに奪われ先の戦いで取り戻すまでずっとかがみが所持していたものだ。
つまり、レヴァンティンがその間に何があったか把握している筈だという事だ。
「……というわけで、かがみさんに何があったかわかる範囲で良いから教えて」
事情を説明しレヴァンティンに問う。
そしてレヴァンティンはそれまでに起こった話を語り出す。
かがみの様子を見る限り、度々誰かと会話している様な様子が見られた。しかし相手の人物の声が聞こえなかった為詳しい事はわからない。
(バクラね)
スバルとの戦いを終えた後、かがみはレヴァンティン以外のデバイスの力を利用してバリアジャケットを展開しようとした。
「え!? かがみさん何かデバイス持っていたの? ……あれ、もしかしたらあの時隠し持っていたかも知れないってこと……まぁ、かがみさん魔力無いだろうからあんまり問題は……部隊長もいるだろうし」
そして、煙の見えるレストランに向かい集まった参加者を一網打尽にしようとしていた。
ちなみに仮面ライダーには変身出来ないらしく持っていた機関銃で撃ち殺そうとしていた。
そして機関銃の準備をしている所で始と遭遇、始は人間を助ける気は無いとは言いながらもかがみを止める事は無かった。その一方逆に襲う事も無かったらしい。
その後、かがみがレストラン跡にいた浅倉と始を襲った。もっともその試みは失敗しかがみの持つ仮面ライダーに変身する為のカードデッキは浅倉に奪われ逆に返り討ちにあった。
「え、ということはかがみさん仮面ライダーに変身出来なくなったの?」
その後は浅倉と始が戦いが始まったらしいがその場面を直接見ていない為具体的な事は不明ではある。
一方、気が付けばかがみの腹部に何かベルトが装着されそのままかがみは別の仮面ライダーに変身しその場を離脱した。恐らくホテルでの姿はそれだろう。
「どういう事? アカデミアで戦った時と違うのは気になったけど、ベルトが手に入った理由がわからないんだけど……」
そう問うスバルだったがレヴァンティン自身もわからないし何よりかがみ自身すらもわかっていなかったらしい。
そしてホテルに戻ったが、そこでいきなり何かに引きずり込まれたらしい。引きずり込まれた先で待っていたのは浅倉によるかがみの妹柊つかさの惨殺。
「そんな……」
これによりかがみの精神は破綻、そして浅倉と戦いになったらしいが気が付けば元のホテルに戻ってきていた。
それからヴァッシュと遭遇し、スバルとの再会後離脱し何かの車で始を轢き殺そうとしたが失敗し始と戦いになりあの場に戻ったのだ。
勿論、ここまでの話はデイパックの中から会話や音を聞いた事による判断なのでレヴァンティン自身詳しい状況まではわからない。それでも何があったのかは概ね理解出来た。
「つまり、かがみさんがああいう風になったのは目の前でつかささんを殺されたから……」
かがみが壊れた原因はつかさの死という事は理解出来た。これ自体は不幸な事だが逆を言えば説得の糸口になる。
異なる世界の別人と決めつけながらも実の妹が殺されてショックを受けたのだ。例え口では別人と言っても割り切れないのだろう、説得の可能性が僅かに見えたと言える。
「それにしてもバクラが思ったよりも役に立っていないのが気になるんだけど……」
一方でバクラの動向も気になった。バクラが自分に都合の良い風にかがみを誘導している割には思ったよりも戦果があがっていないのだ。かがみの口ぶりからバクラは一度彼女を見捨てようとしたらしい。
一応、身体を使う等の話も出ていたが別段そんな様子は無かった。基本的にはかがみ任せにしていた事は間違いない。
もしかするとバクラ自身にも強い制限がかけられている可能性があるのかも知れない。制限故にかがみを誘導していたのだろう。
かがみのあまりの不甲斐なさに一度見捨てようとした事もその現れかもしれない。
とはいえ、バクラの存在がかがみを追い込んだ事に変わりはない為、それを許すつもりは全く無い。
と、スバルは何かに気付き足を止めヴィヴィオを一端降ろし、デイパックからベルトを出して試しに身に着けてみた。しかし、別に反応する事はなかった。
「あたしじゃこのベルトは使えない……けど、かがみさんには使える……だったら!」
ベルトを外して手に持ち
「IS……発動」
そう言ってベルトを粉砕し再び走り出した。
何故ベルトを粉砕したのか? それは再びかがみに利用されるのを防ぐ為だ。
何故ベルトがかがみに装着されていたのだろうか? 何故かがみがベルトを使う事が出来、自分は使う事が出来なかったのか?
その理由はかがみにはその資格があり自分には資格が無いからではなかろうか?
資格が何かはわからない。だが資格があったからこそベルトは勝手にかがみに装着され彼女に力を与えたのだろう。
もしここでのこのこかがみに近付いたらどうなるだろうか? 恐らく先程同様ベルトがかがみに装着される可能性が高い。そうなれば折角取り上げた意味が無くなってしまう。
あの仮面ライダーの力は絶大、あの時は上手くいったが次も上手く行くとは限らない。故に二度と使われる事が無いようにベルトを破壊したのだ。
勿論、かがみの説得が上手くいった場合、その力を奪った事は一見デメリットに思える。
だが、かがみに力を与えるという事はかがみを戦わせる事を意味する。スバルはこなたやかがみ達といった戦いと無縁の人々を戦わせるつもりは全く無い。
かがみ以外が扱えず、そのかがみにも使わせるつもりが無いならばその道具に意味など無い。だからこそ破壊したのである。
(とりあえず、これでもうかがみさんに戦う術はない……後は説得だけど……大丈夫、こなたならきっと助けられるし何かあってもヴァッシュさんや八神部隊ちょ……)
ここまで考えてスバルは違和感を覚えた。
(ちょっと待って……部隊長はあの男と行動をしていた……どうして部隊長はあの男と?)
カテゴリーキングはジョーカーだけが目的だと言っていた。確かにそれはある程度は信用出来る、だが殺し合いを止めようと言う風には感じなかった。
何故はやては彼と行動を共にしていたのだろうか。勿論この状況下だ、例え敵でも組まなければならない時があるのはわかる。しかし何かが引っかかるのだ。
『あいつらは俺の手に負える奴らじゃないんでね』
それは雷の男がやって来た時にあの男が言った言葉だ。あいつ“ら”――複数いた、つまりヴィヴィオがいたことも知っていたという事だ。
そして恐らくははやても知っていた可能性が高い。それを知って待避したという事は――
(部隊長はヴィヴィオを見捨てた……)
友人の娘を見捨てたという事実、それはスバルにとっては信じがたい話であった。
だが、感情的な面を抜きにして考えれば有り得ない話ではない。ヴィヴィオの力が驚異的だったのはスバル自身も理解している。場を切り抜けるならば撤退という選択を選ぶ可能性が無いとは言えない。
同時にリインの話も思い出した。リインの世界の彼女は家族を取り戻す為に非人道的な作戦の指揮をとっている話だ。彼女の世界のはやてならばその選択を選んでもおかしくはない。
当然その世界のはやてである保証はないが、似たような状況に置かれた世界の彼女の可能性は十分にある。その可能性を頭から否定する事は愚行以外の何物でもない。
選択自体は認めたくはないが間違っているわけではない。だが、もしもはやての人格がスバルの推測通りだとしたらスバルにとって避けるべき事態が起こる可能性がある。
(かがみさんが危ない……)
ここで以下の3人について客観的に考えてみて欲しい。
力を暴走させてはいたものの、それ以外では友好的な姿勢を見せ、戦いにおいても誰であろうとも殺さずに無力化しようとしたヴァッシュ、
口では殺すとか戦うとは言っておきながら撤退を促し、最終的には誰も殺さず此方を助けてくれた始、
此方が説得したにも拘わらず、聞く耳を一切持たずに自分達を騙し陥れ仲間達を皆殺しにしようとしたかがみ、
3人の行動を見て誰が信用出来るか? それぞれ意見はあるだろうが殆どの者は一番信用出来ない危険人物がかがみなのは理解出来るだろう。
しかし、スバルは一般論とは外れた行動を取っているのはこれまでの行動からも明らかだ。他の2人とは戦ってはいたが、かがみに対しては戦うという選択ではなく助けるという選択肢しか選んでいない。
この理由はかがみが何の力を持たないか弱き少女であり、こなたの友人であり、同情出来る部分が多かったからというものだろう。
しかし逆を言えばその理由が無ければ話が通じないかがみこそが一番の危険人物ではなかろうか?
バクラが元凶だ、かがみは何も悪くない? そんな理屈は通用しない、現在進行形で放置出来ない危険人物である事に違いはない。理由はどうあれチンクを殺し自分達をも殺そうとした事実は決して変わらないのだ。
話が通じないならばどうするかなど考えるまでもない。排除するしか無くなる、殺し合いを打破する為ならばその選択が間違っているとは言えない。
つまり、はやてが障害となるかがみを排除する可能性が高いという事だ。
自分の世界のはやてならばその可能性は無いと断言出来るが、リインの話やヴィヴィオへの対応を考えれば危険人物を排除する可能性は否定出来ない。
その考え方自体はわからなくはないからそれも致し方ない。だが、殺し合いとは無縁だった彼女を殺させる事を容認出来るわけがない。
勿論、はやてが行動を起こしてもヴァッシュが止めてくれる可能性はある。だがそれでは遅いのだ、事が起こればその時点でかがみは裏切られたと考え更に説得を難しくする。なんとしてでも止めなければならない。
(お願いです……早まらないで下さい、八神部隊長……)
杞憂であれば良い、しかしその可能性がある以上無視する事は出来ない。急がなければならない、故にジェットエッジを更に走らせようと――
――バランスを崩し転倒しそうになった。何とか転倒こそしなかったがスバルは一端足を止めた。
足場の良くない夜の森林であった事に加え考えていた以上に自身の受けたダメージや疲労は大きかったのだろう。
それ以前に焦りと急ぐのに夢中で周辺の警戒を怠ってはいなかっただろうか? このタイミングで奇襲に遭えばアニメイトの二の舞だ。
こんな調子では守れるものも守れず、救えるものも救えない。
スバルは深く深呼吸する。長々と休むつもりは無いが心を落ち着ける事は必要だ。
ふとデイパックから2枚のカードを出した。それは始が変化したカードと先程拾った彼が持っていたらしいカードだ。
1枚はハートの2『SPIRIT』、中にはヒトとハートが描かれている。1枚はジョーカー『JOKER』、中には始の本来の姿の頭部が描かれていて、見ようによっては緑のハートに見えなくも無い。
(始さんから何も聞けなかったな……)
カードを見て始の事を思い返す。結局の所、始は一体何者でスバルの姉であるギンガ・ナカジマと何があったのだろうか?
少なくても彼自身が語った通り彼が人間とは違う異質な怪物という事は間違いないだろう。遺体がカードとなっていることからもそれは明らかだ。
その一方、カテゴリーキングと始の会話からみるに、始が死神にして非常な殺戮者だったのはほぼ間違いないだろう。彼が殺し合いに乗っていた事についてはそれでほぼ説明出来る。
更にスバルは2枚のカードと前にルルーシュが持っていたクラブのKのカードが同じものであると共に、それらがある物に似ている事に気付いた。それはトランプだ。
となれば、『始=ジョーカー』が死神と呼ばれるというのも的を射た表現だ。トランプにおいてジョーカーは他の52枚とは異質な存在で時には忌み嫌われる事もあるからだ。
つまり、始は最初から他者とは違う全く異質な存在という事だ。
では、その始と解り合う事は不可能なのか? 答えはNoだ。
そもそもの話、最初から異質な存在という意味ではスバル達も同じなのだ。
スバルやギンガ達戦闘機人は「ヒトをあらかじめ機械を受け入れる素体として生み出す」という手段で生み出されたものであり、その目的はその名前通り高い戦闘力を持つ人型兵器を生み出す事だ。
つまり、スバル達も最初から兵器として生み出されており人間達とは違う全く異質な存在なのだ。
だが、現実ではスバル達はクイント・ナカジマに保護された後、ナカジマ家で人間として育った。また、ナンバーズにしてもその大半は更正プログラムを受けた後、ナカジマ家の養子になる等人間として暮らす事になった。
始にもスバル達と同じ事が言える筈なのだ。自分達の声が届く筈がない、スバルはそう思っている。
始とギンガの間に何があったのだろうか?
始によるとギンガは殺し合いに乗った自分を助けて命を落としたらしい。だが、始の口ぶりではギンガとの遭遇はその時1度だけだとは思えなかった。
ギンガは何度も始を説得しようとしていたのでは無いだろうか? ギンガは始と解り合えると思っていたのではないだろうか? 故に何度も説得を試み――その途中で敵の攻撃から始を守って死んだのだろう。
始はそれを馬鹿な行為だと言った、しかしスバルはそれを否定する。ギンガが無駄な命を救う訳がなかったし何より始の言動そのものがそれを証明している。
始は自分の為にギンガが死んだ事に強い悲しみを感じていた。本当にギンガの行動を馬鹿だと思うならそう感じるわけがない。
そして何より、始はギンガの言葉の影響を強く受けていたのが先の戦いでもわかった。ギンガの声は始に届いていたのだろう。
正直な話、少なくても始の行動を見る限り能動的に殺し合いに乗っていたとは思えなかった。
ホテルでの戦いでは自分に去る様に言ったり、自身のとどめを刺すように促したりしていた。
また、レストランでの戦いでも始はかがみを襲おうとはしなかった。
本当に能動的に殺し合いに乗っているのならばそんな行動をとりはしないだろう。
もしかすると、そもそも始は誰かが言ったような『死神』として殺し合いに乗っていたのではなく、別の理由で殺し合いに乗っていたのでは無いだろうか? 例えば、待っている人達の元に帰る為といったものだ。
勿論、何の確証も無い想像でしかないしそれを確かめる術もない。しかし、本当に只の『死神』ならギンガの説得は何も届かず逆に彼女を殺していた可能性が高い。
始自身が気付いていたかはわからないが、きっと始自身誰かを守る為に戦っていたのかもしれない。誰かを守ろうとしたからこそギンガの説得が届いたのだろう。
確かにジョーカーは『死神』等に代表される嫌悪される存在の意味を持っている。しかし、ジョーカーが持つ意味はそれだけではない。1つは他を凌駕する絶大な力、もう1つは他のあらゆる存在の代替になれる事だ。
つまり、ジョーカーこと始はその絶大な力で皆を救える存在にもなれるという事だ。そして確かに彼は自らの力でスバルとヴィヴィオを救う存在となった。
『誰かの為にとか、守る為にとか、そんな事言ってる奴から死んで行くのよ』
かがみが言った言葉、確かにそれは事実だ。
ディエチもチンクもルルーシュもギンガも誰かを守ろうとして死んでいった。
真面目な話、スバル自身あの時死んだと思っていたし、実際に自分とヴィヴィオを助ける為に始が死んだ事は確かだから否定出来るわけがない。
それでもだ、死んでいった者達は仲間達に何かを届けてくれた。彼等の死は無駄ではなく同時に決して無駄にしてはいけない、それだけは断言出来る。
彼等が遺した物はこの血塗られた運命を破る切り札となるかも知れない。しかし切る者がいなければ切り札に意味はない、故に生き残った者達は決して諦めてはならないのだ。
カードが煌めいた気がした。スバル達を励ますかの様に――
スバルは再び走り出した。調子はさっきよりも良い、これならば躓く事なくアジトまで行けるだろう。
ヴィヴィオの容態は悪く、かがみの説得が上手く行く保証もない。はやての動向等気になる事は多く不安は尽きない。
それでもスバルは決して諦めたりはしない。諦める事は簡単だ、だが諦めるという事は自分達を守る為に死んでいった者達の想いや意志を裏切る事になる。
彼等の行動を無駄にしない為にも必ず皆を守り殺し合いを止めるのだ。
「ルルーシュ、ディエチ、チンク、ギン姉……みんなの想いと願い、決して無駄にしない……
そして始さん……貴方の『心』と『魂』は私が受け継ぎます……
必ずなのはさん達と力を合わせてヴィヴィオ達を助けてこの殺し合いを止めます――」
【1日目 真夜中】
【現在地 E-9】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、
クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
2.六課のメンバーとの合流。かがみの事はこなたに任せる。はやてに早まった真似をさせない。
3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード、金居(共に名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】気絶中、リンカーコア消失、疲労(極大)、肉体内部にダメージ(極大)、血塗れ
【装備】フェルの衣装
【道具】なし
【思考】
基本:?????
1.ママ……
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※レークイヴェムゼンゼの効果について、最初からなのは達の魂が近くに居たのだと考えています。
※暴走の影響により、体内の全魔力がリンカーコアごと消失しました。自力のみで魔法を使うことは二度とできません。
※レリックの消滅に伴い、コンシデレーションコンソールの効果も消滅しました。
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