「闇よりの使者」(2010/12/23 (木) 00:04:09) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg
アルハザードを舞台としたバトルロワイヤルという名目の、殺し合い。
プレシア・テスタロッサの手によって始められてから、既に二四時間が経過していた。
辺りは闇に包まれ、風が冷え切っている。
星々は輝いているが、それを見上げる者は誰一人としていない。
そんな空の下で、一つの建物がメラメラと音を鳴らしながら、燃え上がっていた。
静寂を破る火炎は闇を照らし、二つの人影を映し出す。
一人は、黒いマスクで顔を覆い、同じ色のスーツとマントに身を包む男、キング。
またの名を、魔王ゼロ。
本来は、世界を変えようと決意した少年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの仮初の姿。
しかし今は、己の快楽の為に戦うカテゴリーキングの位が与えられたアンデットが、ゼロの名を名乗っていた。
その仮面を被るキングの前に立つのは、アンジール・ヒューレー。
本来は、遥か彼方の宇宙より地球に飛来した生命体、ジェノバの細胞を人間に埋め込む計画、ジェノバ・プロジェクトによって生まれた男。
しかし厳密には、ミッドチルダに流れたライフストリームと呼ばれるエネルギーから、ジェイル・スカリエッティが生み出したコピー。
アンジールは、ゼロと名乗る仮面を被った男の言葉に、困惑を感じていた。
この人物は、自分のことを『プレシア・テスタロッサ』が送り込んだ者と言った。
そして、手を組むのなら死んだ妹たちを生き返らせてみせるとも。
だが、そんなことは自分を騙す為の戯言で、本当は隙を突いて殺そうと企んでいるかもしれない。
しかし、ゼロは愛弟子であるザックス・フェアの名前や、既に折れたバスターソードの事を知っていた。
もしかしたら、この男と組めばクアットロ、チンク、ディエチの三人を、本当に生き返らせることが出来る――?
(いや、ここには奴もいた。もしこいつが奴と出会ったとすれば……!)
思い出されるのは、既に名前が呼ばれたかつての親友、セフィロス。
可能性は低いが、あの男がゼロに情報を売った可能性もある。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
この男をどうするか。
もしも、自分を殺そうと企むのなら、答えは一つのみ。
連戦によって体に疲労を感じるが、死力を尽くせばあの奇妙な盾も砕けるはず。
自分の世界では、バリアやマバリアといった魔法も存在する。
攻撃を防いだ防壁も、それと同じ種類か。
「何を迷っている? アンジール」
アンジールが思考を巡らせていると、仮面の奥から低い声が響く。
それは鼓膜を刺激し、彼の意識を発生源に向けた。
地獄の業火を思わせるような炎を背に立つゼロの様子は、まさに「魔王」と呼ぶに相応しい。
テロリストの仮面を被るキングは、アンジールの様子を尻目に言葉を続けた。
「先程の放送を聞いただろう? 貴様の愛する妹たちはもう誰もいない。皆、殺されたんだよ」
「――黙れッ!」
「だから決めろと言っている! 貴様は何の為に戦うか! 貴様が求める物は何か! そして、貴様は何を決意した!?」
激高は、呆気なくかき消される。
闇の中で響くゼロの言葉によって、アンジールの勢いは止まった。
表情から怒りが消えていき、再び元に戻る。
その様子を、マスクの下から眺めるキングは、笑みを浮かべていた。
しかしそれを声には出さない。
変声機があるから誤魔化せるかもしれないが、面倒は御免だ。
最も、そうなった場合はアンジールを始末すればいいだけのこと。
だがそれでは仮面ライダーカブト、天道総司の思い通りになる。
奴の狙いに嵌るのは、気に食わない。
今やるべきことは、餌をぶら下げる事。
「君が抱くクアットロへの思いはその程度か!? 君とチンクの絆はこの位で揺らぐ程度か!? 君がディエチに感じている愛情はこの程度か!?」
キングは、放送で呼ばれたナンバーズの名前を次々に言った。
そして、警戒心を解かせる為に「君」を使う。
一人一人告げる度に、アンジールの表情が崩れていった。
何ていう愚かなことか。
調べてみると、この三人はサイボーグらしい。
ならば、鉄屑で出来たガラクタの人形ということだ。
そうなると目の前にいるアンジールとは、人形にしか愛情を向けられない、愚かな男ということになるだろう。
このような奴の弟子になったザックスという人物は、哀れかもしれない。
出来ることなら、今のアンジールの顔をカメラに収めておきたいが、それは我慢だ。
もしも、タイトルを付けるのなら『ガラクタの人形を姉妹と呼ぶ、愚かで哀れな男』だろう。
仮面の下で笑みを作るキングは、愚かで哀れなアンジールを揺さぶるために言葉を続けた。
「そしてこの事実をオットーは知っている! 彼女もまた、姉妹の死に心を痛めているはずだ!」
「ッ……!?」
「君がやらずして、誰が妹を生き返らせるのだ!? 思い出せ。君にとって、妹とは何だ!」
――アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています――
ゼロの怒号を聞いた途端、アンジールの脳裏に一つの光景が浮かび上がる。
ようやく再会できた、クアットロの姿。
そして、彼女が言った最後の言葉。
――私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです――
――だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……――
アンジールの中で駆け巡るのは、クアットロの声。
傷だらけの体にも関わらず、彼女は残る力を振り絞って、自分に託した。
クアットロと、チンクと、ディエチと、また一緒に暮らせるという願いを。
――……またお会いできる時を楽しみにしています――
彼女はこの言葉を残して、逝ってしまった。
全ては、自分の力が足りなかったせいで起こってしまった、忌々しい数時間前の出来事。
そしてプレシアの元にいるオットーも、この事を知っているはず。
彼女はきっと、いや絶対に不甲斐ない自分に失望し、憎んでいるに違いない。
だが、どんな罵りだろうと甘んじて受けるつもりだ。
二人は黙り込み、炎が燃える音だけが響く。
そんなアンジールの様子が気に食わないキングは、次のアクションを起こした。
「…………所詮、君はその程度の男か」
「何……?」
「今の君を見たら、妹たちはどう思うだろうねぇ……?」
三回目の放送で名前が呼ばれた、キャロ・ル・ルシエの時のように、誘惑する。
今のアンジールなど、手に落ちるまでそれほど時間は要らない。
キングは確信を持ちながら、目の前の男を揺さぶり続ける。
「最も、君が一人で戦い続けるというのなら、私は別に……」
「待てッ!」
濁ったような声を、アンジールはかき消した。
仮面の下で、キングが笑みを浮かべていることを気付かずに。
「いいだろう……お前と手を組んでやる」
「良い返事が聞けて嬉しいよ、交渉成立だな」
「だが、分かっているだろうな……」
「心配は要らない。約束は必ず守る。でなければ、こんな話は持ち出さない」
アンジールは微かな可能性に賭けて、この男の提案を受け入れた。
キングが自称する魔王の名が、ゼロの名が、プレシアの配下であることが。
そして、妹達を生き返らせるという褒美が、全て嘘であることを知らずに。
屈強な兵士が、ただの人形と成り果てた事実に、キングは歓喜を覚える。
しかしそれを表に出すことは、しなかった。
「ではまずは、逃げ出したあの二人を追おう。市街地に向かうのはその後だ」
キングは提案を出すと、歩を進める。
その後ろを、アンジールは歩いた。
(ハハハハハハッ! 残念だったね、カブト。 君の狙いは外れたよ!)
心の中で大笑いしながら、キングは天道に対して侮蔑の感情を抱く。
あの男にバッグを少しだけ奪われた事と、ジョーカーで遊べなくなったのは残念だが、これで御相子だ。
それ以上に、高町なのはには仮面ライダーデルタに変身するという、楽しみも待っている。
正義の味方を気取っている女が、あれを使って暴走するようなことになればどうなるか。
どうせベルトの毒が生み出す快楽に溺れ、狂った挙句に人を殺すに違いない。
ならば、その様子を携帯のカメラに残してやろう。
(そして、ウルトラマンメビウス……死んじゃったんだね、君。弱いくせに王様に刃向かったから、罰が当たったんだな!)
先程の放送で呼ばれた、ヒビノ・ミライの名前。
恐らく、自分が遊んだ際にアンジールに殺されたんだろう。
諦めないなどと戯言を言っておきながら、この結果だ。
所詮、中途半端な力しか持たない弱者だったということ。
ウルトラマンであろうと仮面ライダーであろうと、自分に抗うなど無理だということだ。
(そういや、放送の時間が十分だけ遅れてたな……)
キングは充足感を覚えている一方で、疑問を感じている。
放送の時間が、少しだけ遅れていたのだ。
これまでは、一秒のズレもなくプレシアは情報を伝えている。
それが今回に限って、何故遅れていたのか。
(どうなってるんだ?)
一方で、アンジールもまた考えている。
先程の放送では、七人の名が呼ばれた。
クアットロの名前以外は、呼ばれても関係ない。
自分のやるべき事はただ一つ。
愛する妹達の命を、取り戻すこと。
だが、アンジールにとって気がかりなことが一つだけあった。
それは、呼ばれなかった名前が存在すること。
(あの男……生きていたのか)
三度に渡って戦いを繰り広げた、あの男が生きていたこと。
自分と同じように、望まぬ運命によって望まぬ力を得てしまった、あの男が生きていたこと。
自分の境遇と重なって見えた、あの男が生きていたこと。
そして、自分の手で望まぬ運命を断ち切った、あの男が生きていたこと。
妹達を守る盾の役割を託した、あの男が生きていたこと。
(いや、もう関係ない……俺は悪魔になると決めた。ならば、あの男も例外ではない)
アンジールは心の中で呟くが、あの男の顔が頭の中で思い浮かんでしまう。
振り払おうとするが、消えることはない。
続くように、あの男の声が聞こえた。
――そんな方法で家族を守ったとして……その人達が喜ぶのか!?――
――やっぱ……馬鹿みてぇか、俺?――
――……もう無理なんだ……意志だけじゃあ抑えきれない……もう言うことを聞かない……今すぐにでも離れてくれないと……僕は、君を、殺してしまう……――
それらは、アンジールの中で次々と蘇っていく。
覚悟はとっくに決めたはずなのに、何故こんな声が聞こえるのか。
今の自分にとっては、雑音に等しい。
消えろ。消えてしまえ。
――だって君も見逃してくれたじゃん――
――ついさっきビルに叩き付けられた時のことだよ。……確実にトドメを刺せる状況だったのに君は攻撃しなかった。その借りを返しただけさ――
アンジールは念じるが、消えることはない。
それどころか、声はより一層増えていく。
そして、苦笑を浮かべるあの男の顔も。
声に比例するかのように、疑問も徐々に増えていく。
だが、今はそれに気を取られている場合ではないはずだ。
やるべき事は、妹達の蘇生。
アンジールの頭の中で浮かぶ男の顔。
もしも、もっと早く出会えてたら手を組めたかもしれない男。
戦場にも関わらずして、自分を助けようとした男。
そして、今もどこかにいるはずの男。
――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの顔と声が、アンジールの中で浮かび上がっていた。
【2日目 深夜】
【現在地 D-2】
【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ボーナス支給品(未確認)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
1.まずはアンジールと共に天道総司を追跡する。
2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。
※デイバッグを奪われたことに、気付きました。
※十分だけ放送の時間が遅れたことに気付き、疑問を抱いています。
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
1.ゼロ(キング)と共に、参加者を殺す。
2.参加者の殲滅。
3.ヴァッシュのことが、微かに気がかり。(殺すことには、変わりない)
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが主催側の人間だと思っています。
|Back:[[第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編)]]|時系列順で読む|Next:[[救済N/EGO~eyes glazing over]]|
|Back:[[第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編)]]|投下順で読む|Next:[[救済N/EGO~eyes glazing over]]|
|Back:[[Mの姿/マイナスからのリスタート]]|アンジール・ヒューレー|Next:[[Round ZERO ~MOONLIT BEATLES]]|
|Back:[[Mの姿/マイナスからのリスタート]]|キング|Next:[[Round ZERO ~MOONLIT BEATLES]]|
----
*闇よりの使者 ◆LuuKRM2PEg
アルハザードを舞台としたバトルロワイヤルという名目の、殺し合い。
プレシア・テスタロッサの手によって始められてから、既に二四時間が経過していた。
辺りは闇に包まれ、風が冷え切っている。
星々は輝いているが、それを見上げる者は誰一人としていない。
そんな空の下で、一つの建物がメラメラと音を鳴らしながら、燃え上がっていた。
静寂を破る火炎は闇を照らし、二つの人影を映し出す。
一人は、黒いマスクで顔を覆い、同じ色のスーツとマントに身を包む男、キング。
またの名を、魔王ゼロ。
本来は、世界を変えようと決意した少年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの仮初の姿。
しかし今は、己の快楽の為に戦うカテゴリーキングの位が与えられたアンデットが、ゼロの名を名乗っていた。
その仮面を被るキングの前に立つのは、アンジール・ヒューレー。
本来は、遥か彼方の宇宙より地球に飛来した生命体、ジェノバの細胞を人間に埋め込む計画、ジェノバ・プロジェクトによって生まれた男。
しかし厳密には、ミッドチルダに流れたライフストリームと呼ばれるエネルギーから、ジェイル・スカリエッティが生み出したコピー。
アンジールは、ゼロと名乗る仮面を被った男の言葉に、困惑を感じていた。
この人物は、自分のことを『プレシア・テスタロッサ』が送り込んだ者と言った。
そして、手を組むのなら死んだ妹たちを生き返らせてみせるとも。
だが、そんなことは自分を騙す為の戯言で、本当は隙を突いて殺そうと企んでいるかもしれない。
しかし、ゼロは愛弟子であるザックス・フェアの名前や、既に折れたバスターソードの事を知っていた。
もしかしたら、この男と組めばクアットロ、チンク、ディエチの三人を、本当に生き返らせることが出来る――?
(いや、ここには奴もいた。もしこいつが奴と出会ったとすれば……!)
思い出されるのは、既に名前が呼ばれたかつての親友、セフィロス。
可能性は低いが、あの男がゼロに情報を売った可能性もある。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
この男をどうするか。
もしも、自分を殺そうと企むのなら、答えは一つのみ。
連戦によって体に疲労を感じるが、死力を尽くせばあの奇妙な盾も砕けるはず。
自分の世界では、バリアやマバリアといった魔法も存在する。
攻撃を防いだ防壁も、それと同じ種類か。
「何を迷っている? アンジール」
アンジールが思考を巡らせていると、仮面の奥から低い声が響く。
それは鼓膜を刺激し、彼の意識を発生源に向けた。
地獄の業火を思わせるような炎を背に立つゼロの様子は、まさに「魔王」と呼ぶに相応しい。
テロリストの仮面を被るキングは、アンジールの様子を尻目に言葉を続けた。
「先程の放送を聞いただろう? 貴様の愛する妹たちはもう誰もいない。皆、殺されたんだよ」
「――黙れッ!」
「だから決めろと言っている! 貴様は何の為に戦うか! 貴様が求める物は何か! そして、貴様は何を決意した!?」
激高は、呆気なくかき消される。
闇の中で響くゼロの言葉によって、アンジールの勢いは止まった。
表情から怒りが消えていき、再び元に戻る。
その様子を、マスクの下から眺めるキングは、笑みを浮かべていた。
しかしそれを声には出さない。
変声機があるから誤魔化せるかもしれないが、面倒は御免だ。
最も、そうなった場合はアンジールを始末すればいいだけのこと。
だがそれでは仮面ライダーカブト、天道総司の思い通りになる。
奴の狙いに嵌るのは、気に食わない。
今やるべきことは、餌をぶら下げる事。
「君が抱くクアットロへの思いはその程度か!? 君とチンクの絆はこの位で揺らぐ程度か!? 君がディエチに感じている愛情はこの程度か!?」
キングは、放送で呼ばれたナンバーズの名前を次々に言った。
そして、警戒心を解かせる為に「君」を使う。
一人一人告げる度に、アンジールの表情が崩れていった。
何ていう愚かなことか。
調べてみると、この三人はサイボーグらしい。
ならば、鉄屑で出来たガラクタの人形ということだ。
そうなると目の前にいるアンジールとは、人形にしか愛情を向けられない、愚かな男ということになるだろう。
このような奴の弟子になったザックスという人物は、哀れかもしれない。
出来ることなら、今のアンジールの顔をカメラに収めておきたいが、それは我慢だ。
もしも、タイトルを付けるのなら『ガラクタの人形を姉妹と呼ぶ、愚かで哀れな男』だろう。
仮面の下で笑みを作るキングは、愚かで哀れなアンジールを揺さぶるために言葉を続けた。
「そしてこの事実をオットーは知っている! 彼女もまた、姉妹の死に心を痛めているはずだ!」
「ッ……!?」
「君がやらずして、誰が妹を生き返らせるのだ!? 思い出せ。君にとって、妹とは何だ!」
――アンジール様が生き返らせてくれる。私は、そう信じています――
ゼロの怒号を聞いた途端、アンジールの脳裏に一つの光景が浮かび上がる。
ようやく再会できた、クアットロの姿。
そして、彼女が言った最後の言葉。
――私だけじゃありません。きっとディエチちゃんも、チンクちゃんも、そう信じているはずです――
――だからお別れは少しの間だけです。私達のためにも、アンジール様は……このデスゲームで最期の一人になってください……――
アンジールの中で駆け巡るのは、クアットロの声。
傷だらけの体にも関わらず、彼女は残る力を振り絞って、自分に託した。
クアットロと、チンクと、ディエチと、また一緒に暮らせるという願いを。
――……またお会いできる時を楽しみにしています――
彼女はこの言葉を残して、逝ってしまった。
全ては、自分の力が足りなかったせいで起こってしまった、忌々しい数時間前の出来事。
そしてプレシアの元にいるオットーも、この事を知っているはず。
彼女はきっと、いや絶対に不甲斐ない自分に失望し、憎んでいるに違いない。
だが、どんな罵りだろうと甘んじて受けるつもりだ。
二人は黙り込み、炎が燃える音だけが響く。
そんなアンジールの様子が気に食わないキングは、次のアクションを起こした。
「…………所詮、君はその程度の男か」
「何……?」
「今の君を見たら、妹たちはどう思うだろうねぇ……?」
三回目の放送で名前が呼ばれた、キャロ・ル・ルシエの時のように、誘惑する。
今のアンジールなど、手に落ちるまでそれほど時間は要らない。
キングは確信を持ちながら、目の前の男を揺さぶり続ける。
「最も、君が一人で戦い続けるというのなら、私は別に……」
「待てッ!」
濁ったような声を、アンジールはかき消した。
仮面の下で、キングが笑みを浮かべていることを気付かずに。
「いいだろう……お前と手を組んでやる」
「良い返事が聞けて嬉しいよ、交渉成立だな」
「だが、分かっているだろうな……」
「心配は要らない。約束は必ず守る。でなければ、こんな話は持ち出さない」
アンジールは微かな可能性に賭けて、この男の提案を受け入れた。
キングが自称する魔王の名が、ゼロの名が、プレシアの配下であることが。
そして、妹達を生き返らせるという褒美が、全て嘘であることを知らずに。
屈強な兵士が、ただの人形と成り果てた事実に、キングは歓喜を覚える。
しかしそれを表に出すことは、しなかった。
「ではまずは、逃げ出したあの二人を追おう。市街地に向かうのはその後だ」
キングは提案を出すと、歩を進める。
その後ろを、アンジールは歩いた。
(ハハハハハハッ! 残念だったね、カブト。 君の狙いは外れたよ!)
心の中で大笑いしながら、キングは天道に対して侮蔑の感情を抱く。
あの男にバッグを少しだけ奪われた事と、ジョーカーで遊べなくなったのは残念だが、これで御相子だ。
それ以上に、高町なのはには仮面ライダーデルタに変身するという、楽しみも待っている。
正義の味方を気取っている女が、あれを使って暴走するようなことになればどうなるか。
どうせベルトの毒が生み出す快楽に溺れ、狂った挙句に人を殺すに違いない。
ならば、その様子を携帯のカメラに残してやろう。
(そして、ウルトラマンメビウス……死んじゃったんだね、君。弱いくせに王様に刃向かったから、罰が当たったんだな!)
先程の放送で呼ばれた、ヒビノ・ミライの名前。
恐らく、自分が遊んだ際にアンジールに殺されたんだろう。
諦めないなどと戯言を言っておきながら、この結果だ。
所詮、中途半端な力しか持たない弱者だったということ。
ウルトラマンであろうと仮面ライダーであろうと、自分に抗うなど無理だということだ。
(そういや、放送の時間が十分だけ遅れてたな……)
キングは充足感を覚えている一方で、疑問を感じている。
放送の時間が、少しだけ遅れていたのだ。
これまでは、一秒のズレもなくプレシアは情報を伝えている。
それが今回に限って、何故遅れていたのか。
(どうなってるんだ?)
一方で、アンジールもまた考えている。
先程の放送では、七人の名が呼ばれた。
クアットロの名前以外は、呼ばれても関係ない。
自分のやるべき事はただ一つ。
愛する妹達の命を、取り戻すこと。
だが、アンジールにとって気がかりなことが一つだけあった。
それは、呼ばれなかった名前が存在すること。
(あの男……生きていたのか)
三度に渡って戦いを繰り広げた、あの男が生きていたこと。
自分と同じように、望まぬ運命によって望まぬ力を得てしまった、あの男が生きていたこと。
自分の境遇と重なって見えた、あの男が生きていたこと。
そして、自分の手で望まぬ運命を断ち切った、あの男が生きていたこと。
妹達を守る盾の役割を託した、あの男が生きていたこと。
(いや、もう関係ない……俺は悪魔になると決めた。ならば、あの男も例外ではない)
アンジールは心の中で呟くが、あの男の顔が頭の中で思い浮かんでしまう。
振り払おうとするが、消えることはない。
続くように、あの男の声が聞こえた。
――そんな方法で家族を守ったとして……その人達が喜ぶのか!?――
――やっぱ……馬鹿みてぇか、俺?――
――……もう無理なんだ……意志だけじゃあ抑えきれない……もう言うことを聞かない……今すぐにでも離れてくれないと……僕は、君を、殺してしまう……――
それらは、アンジールの中で次々と蘇っていく。
覚悟はとっくに決めたはずなのに、何故こんな声が聞こえるのか。
今の自分にとっては、雑音に等しい。
消えろ。消えてしまえ。
――だって君も見逃してくれたじゃん――
――ついさっきビルに叩き付けられた時のことだよ。……確実にトドメを刺せる状況だったのに君は攻撃しなかった。その借りを返しただけさ――
アンジールは念じるが、消えることはない。
それどころか、声はより一層増えていく。
そして、苦笑を浮かべるあの男の顔も。
声に比例するかのように、疑問も徐々に増えていく。
だが、今はそれに気を取られている場合ではないはずだ。
やるべき事は、妹達の蘇生。
アンジールの頭の中で浮かぶ男の顔。
もしも、もっと早く出会えてたら手を組めたかもしれない男。
戦場にも関わらずして、自分を助けようとした男。
そして、今もどこかにいるはずの男。
――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの顔と声が、アンジールの中で浮かび上がっていた。
【2日目 深夜】
【現在地 D-2】
【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ボーナス支給品(未確認)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
1.まずはアンジールと共に天道総司を追跡する。
2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。
※デイバッグを奪われたことに、気付きました。
※十分だけ放送の時間が遅れたことに気付き、疑問を抱いています。
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
1.ゼロ(キング)と共に、参加者を殺す。
2.参加者の殲滅。
3.ヴァッシュのことが、微かに気がかり。(殺すことには、変わりない)
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが主催側の人間だと思っています。
|Back:[[第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編)]]|時系列順で読む|Next:[[救済N/EGO~eyes glazing over]]|
|Back:[[第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編)]]|投下順で読む|Next:[[救済N/EGO~eyes glazing over]]|
|Back:[[Mの姿/マイナスからのリスタート]]|アンジール・ヒューレー|Next:[[Round ZERO ~MOONLIT BEETLES]]|
|Back:[[Mの姿/マイナスからのリスタート]]|キング|Next:[[Round ZERO ~MOONLIT BEETLES]]|
----
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: