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*救済N/EGO~eyes glazing over ◆7pf62HiyTE
Chapter.01 EGO~eyes glazing over
「あれ……ここは……?」
気が付けば柊かがみは暗闇の中にいた。
「確かホテルで……」
冷静に意識を失う前の事を思い出そうとする。だが、何故かこれまでにあった事を思い出す事が出来ない。
「ダメ、思い出せない……」
かがみは周囲を見回した。暗がりだったが為に良くは分からなかったが、周囲には何人かの人間が倒れていた。かがみはその中の赤い髪の少年に触れるが、
「し、死んでいる……!?」
躰は冷たく、生気を感じる事は出来なかった。
「じゃ、じゃあ……もしかしてこの人達はみんな……」
倒れている者達は全て死体だった。
「なんなのよ一体……一体誰がこんな事を……?」
そう口にはするものの、それ以上考えようとはしなかった。それはまるで、脳内で警告を発していたかの様に――
それ以上思い出してはいけないと――
それでも何もしないわけにはいかない。かがみは慎重に周りを探り――それを見つけた。
「つかさ……」
そこにはかがみの双子の妹である柊つかさの死体があった。そしてすぐ傍には、
「浅倉……!」
頭部こそ失っていたがかがみにはそれが何かすぐに理解した。つかさを惨殺した浅倉威の死体であることを――そう、かがみは自分の眼前でつかさが浅倉に殺された時の事を思い出したのだ。
「な……何勝手に死んでいるのよ!! つかさを殺しておいて勝手に死んでんじゃないわよ!!」
胸に湧き上がるのは憎悪と憤怒、その感情が赴くままにかがみは物言わぬ骸を足蹴にする。
何度も何度も、何度も何度も、骨が折れる音がしようとも、内臓や筋肉が潰れる音がしようとも止まる事はない。
頭の中から『もうやめるんだ!』という声が響いても、
脳裏に蛇の甲冑を身に着けた者が桃色の髪の女性と栗色の髪の少女を襲うヴィジョンがよぎっても決して止まらなかった。
「はぁ……はぁ……」
そうして思う存分亡骸に暴行を加えたもののかがみの心は決して晴れなかった。むしろ逆に背筋に強烈な寒気が襲って来たのだ。
「なんなのよ……一体……私が一体何をしたっていうの……? 悪い夢なら覚めてよ……」
そんな時、脳裏に1人の少女の姿が浮かんだ。
「こなた……何処にいるの……?」
かがみはいるかどうかもわからない友人である泉こなたの姿を探した。
『カノジョニアッテドウスル? メントムカッテカオヲアワセルコトガデキルノカ?』
頭の中から声が響いてくる。
「うっさい……」
『オモイダセ、オマエハイママデナニヲシテキタノカヲ?』
「うっさい!」
『オマエハモハヤカノジョノ『トモダチ』デハナイ……タダノ『■■■■■』ダ!』
「黙れー!!」
頭から響く声を叫ぶ事で強引にかき消した。
「私は悪くなんかない……私が悪いわけじゃ……」
息切れしながらも周囲を見回す。そして、
「こなた……」
青い髪の少女――こなたの後ろ姿を見つけたのだ。かがみはすぐさまこなたの所へ向かう。
「こなた……良かった、無事だったのね……」
その声に反応したのか、こなたはゆっくりとかがみの方を向き――
――次の瞬間、その首が落下した。
「え?」
かがみは何が起こったのか理解が出来なかった。そして――
「ああ……あぁーーーーーーー!!」
慟哭が暗闇に響き渡った――
「本当に五月蠅い餓鬼やな……」
と、立ちつくしたままのこなたの首無し死体の後ろから血に濡れた小刀を構えた関西弁の女性が現れた。
「あああああ……あんたがこなたを!」
かがみは目の前でこなたを斬首した女性を睨み付けるが、
「いや、本当はアンタの妹の方が良かったんやけどそうそう都合良い話にはならんからな……で、都合良くアンタの友達がいたっちゅうわけや」
その女性は全く悪びれる事無く言い放った。しかもその口ぶりでは本当ならばつかさを殺すつもりだったというではないか。
「何を言っているのよアンタ! こんな事しておいて只で済むと思って……」
「その言葉そっくりそのまま返すで」
かがみの怒号を女性は平然と返す。
「は? 何を言っているの?」
「質問を質問で返す様やけど……アンタ、さっき浅倉を何で足蹴にしたん?」
「何でって浅倉がつかさを殺したからよ! 本当だったら私が殺す筈だったのに……」
「つまり、家族や友人が殺されたからというわけやな。だったら私が何故こないな事したかわかるよなぁ?」
「え……?」
「アンタ……私の目の前で何をしたのか忘れたのか?」
「何の事よ……?」
かがみはその女性が何を言っているのかを未だに理解出来ないでいた。
「アンタの足下よう見てみ」
「足下……?」
と、足下に桃色の髪の女性の死体があった。
「これは……」
その死体を見て、かがみはこれまでに起こった事、そして『その瞬間』を思い出す。
「そうや……アンタが私の大事な大事な家族……シグナムを殺したんや! よりにもよって私の目の前でな」
『あー、あいつ、本当にイライラするわね』
そう言ってかがみは幸せそうにしている少女に対し攻撃を仕掛けた――その結果、彼女を庇う様に桃髪の女性シグナムがその攻撃を受けた。そしてその少女が彼女の名を叫ぶもののかがみは幾度と無く攻撃を続けた。
無論、シグナム自身深手を負いながらも応戦を続けた。しかし結果は惨敗、
『やった!! 勝った!! 殺した!!
あはははははははは!!! これで静かになったーーー!!!
あははははははははははははははははは!!!!!!!!!!』
その場にはもう1人銀髪の男性もいた為、かがみは戦いを続けていた。その一方、
『シグナムーーーーーーー!!!』
少女が悲壮な叫び声を響かせていた。しかしそれはかがみにとって達成感と充実感、言うなれば悦びを与えていた。そして笑いながら少女と銀髪の男性を仕留めるため動こうとしたが、
『妖艶なる紅旋風』
少女による魔法の言葉により世界は真っ赤に染まった――
「あああああ……まさか……」
「どうした? 思い出せたか? そうや、アンタが私の大事な家族を奪ったんや」
「え……でもちょっと待って……」
だが、冷静に考えると何かがおかしい。
確かに目の前の女性はあの時少女が持っていた小刀を持っていた気がするし、目の前の女性の声が少女のものと同じなのも別段問題はない。
しかし、あの時の少女はどう見ても自分よりもずっと子供、見た目だけで言えばこなたと大差無いはずだ。しかし目の前の女性は自分より若干年上だ。
「アンタが何を考えているかは知らんし興味はない。重要なのはアンタがシグナムやエリオ達を殺したという事実や」
「う……」
かがみはふと後ろを振り返る。幾つかの死体の中に最初に見た赤髪の少年ことエリオ・モンディアル、眼帯の少女チンクの死体があるのが見える。どちらもかがみの手によって死を迎えた死体だ。
「ち……違う……アレは……」
「それだけやない。そこにある死体は全部アンタが殺した奴等や」
「え……?」
そう、かがみの周囲にはかがみ自身名前を知らない者もいるが他にもシェルビー・M・ペンウッド、金居、セフィロス、アレックス、L、万丈目準、ヒビノ・ミライ、チンク、スバル・ナカジマ、相川始、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体があった。
「ちょ……ちょっと待って……百歩譲ってエリオやシグナム……それからそこの女の子までは私が殺したとしても……他は違うわよ……」
と、黒い服の少年こと万丈目の死体を指し、
「コイツなんか私にカードデッキを押しつけて殺そうとしたのよ、なんで私が殺したって事になるのよ?」
「アンタは押しつけられる前どうするつもりやった? 2人で協力してデッキのモンスターをどうにかしようと考えたんか? 違うやろ?」
「それは……」
「アンタはモンスターの餌にするつもりやったやろ? もし、アンタと万丈目の立場が逆でアンタが狙いに気付いたらどうするつもりやった?」
「デッキを押しつけて……逃げ……」
「せやな、普通はそうする」
「論点ずれてない? それでどうして私が殺したと……?」
「普通の性格やったら、人を殺したらショックを受ける……それに万丈目の奴他に使える武器何も無かったんやろ? そんな状態で凶悪な人間に遭遇したらどうなる?」
人殺しの経験がない人間が人を殺した場合、精神に大きな傷を受ける。当然後々の行動に影響を与えるのは言うまでもない。
また、万丈目はデッキ以外に使える武器を所持していなかった。装備と精神状態が悪化している状態では生き残れる道理は全く無い。
「だ、だからってそれは私のせいじゃ……」
「違うな、間違っているで。あの時点ではまだ猶予時間はそれなりに残っていた筈や。それまでにモンスターを倒せば2人とも生き残れた。アンタ自身が生き残れた事がその証拠や」
事実、デッキを押しつけられたものの餌にされる前に銀色の巨人メビウスがモンスターを倒したためかがみは生き残れた。
「つまり、アンタが餌にしようとせんかったら2人とも生き残れたという事や、アンタが万丈目を殺したというのはそういう事や」
「そ、そんなの屁理屈よ! 実際そんな都合良い話なんて無いでしょ」
「ああ、そうや。これは一番極端なパターン、実際にそうかなんて私も知らん。万丈目が本当に悪人やったのかも知れんからな」
「そうよ! 万丈目は悪人よ! だから悪くなんか……」
「けどそれはアンタが決める事やない。確実なのは万丈目が危険なカードデッキをアンタに押しつけたという事実だけや、万丈目の人格や真意は万丈目以外にわかるわけがない」
彼女の指摘はかがみが今までに感じた万丈目への憎悪の正当性を完全に否定するものだった。かがみ自身認めたくは無かったが返す言葉が見つけられない。
「他の連中も大体同じや、アンタが襲った事が後々になって影響を及ぼした可能性は否定出来ないな」
「それは……」
かがみは金居、ペンウッドの死体を見る。あの時の事を冷静に思い出す限り、一歩間違えれば2人を殺していた可能性は多分にあるし、もしかしたらあの直後に死んでいた可能性はある。
勿論殺したという感触はなかったがそれはあくまでもかがみの主観、見えていない所で何が起こったかなどかがみにわかるわけもない。
セフィロスとアレックスにしても同じ事だ。目の前の女性の攻撃に巻き込まれて死んだ場合下手人は彼女という事になるがその切欠を作ったのは他でもないかがみだ。
また、Lに奪われたデッキを後々回収出来た事実から考え、L自身カードデッキのモンスターに襲われ負傷しその傷が元で数時間後に死亡したという可能性があるだろう。
元々かがみがデッキを持っていたという事実からこれもかがみの行動が影響したと言えなくもない。
ミライについてもある程度ダメージを与えた以上、後々の影響は否定出来ない。
スバル、ヴァッシュ、始に関しては彼女自身戦いをし向けていた為言うまでもない。
以上の事から少々乱暴な理論ではあるが彼等が死亡したのはがみの行動による可能性があると言えるのだ。
「うう……」
「それにな、まさかこれだけやと思っているんか?」
「え?」
「当たり前やけどあんたが殺した奴等にも友達や家族、もしかしたら恋人がいたかもしれん。その死を知って殺し合いに乗った可能性だってある……」
エリオ達の死を知り悲しみ嘆き怒り、それが元で修羅の道へ落ちた者が出てくる。そしてその者達は多くの参加者を殺していくだろう。
では、その元凶は何処にあるのだろうか? 修羅の道へ落ちる切欠を作ったかがみでは無いだろうか?
「そ……そんなのその人が勝手にやっていることでしょ! そこまで私に言われたって……」
「ほーこの期に及んでまだ自分を正当化するか、まぁアンタの言う通りこれは半分は言いがかりに近いと思う。せやけど、自分の行動は何がなんでも正当化するのに、相手の行動は正当化させへんってちょっと我が儘が過ぎると思わへんか?
大体、アンタがエリオやシグナム達を殺した以上、それが切欠でアンタを殺そうと考える事は流石に否定したらあかんやろ?
アンタがつかさを殺されて浅倉に憎しみやら殺意やらを抱いているわけやしな」
「だって……」
「それにな……そのつかさが死んだのだってアンタのせいかも知れないんやで」
「は?」
つかさが死んだ原因は自分? 何を言っているのだろうか? つかさは浅倉によって一方的に惨殺された筈だ、何処に自分の責任があるというのだ?
「そもそもの話、浅倉があんたを恨んであんたを苦しめる為にやった可能性だってあるやろ、あんたが私の目の前でシグナムを殺した様にな」
「ちょ……何を言っているのよ……浅倉が何で私を苦しめ……」
「確かその前にレストランで戦ったやろ、最初に仕掛けたのは誰や?」
「それは……」
レストランでの戦いを思い出して欲しい。確かに浅倉は戦闘目的でレストランを燃やし参加者を呼び寄せ、それに惹かれ始とかがみがやって来た。
しかし、あの戦いで最初に仕掛けたのは始でも浅倉でもなくかがみだ。始にはモンスターを、浅倉には機関銃による銃撃を仕掛けた。
戦いの切欠など問題ではない、浅倉が最初に奇襲を仕掛けたかがみを強く意識したという可能性は多分にあるだろう。
そして、つかさとかがみは双子であるが故非常に似ている。浅倉がかがみを意識しつかさに手を掛けたという説は大いにあり得る事だ。
「そんな……まさか……そんな事って……」
「曖昧な言い方はもう止めようか……ハッキリと言ってやる――
――アンタが自分の妹である柊つかさを殺した――」
「あああぁ……浅倉じゃなく……私が……つかさを……そんなことって……」
今までのかがみであれば感情的でも何でも否定しただろう。しかし、ここまでの話や自身の行動を振り返れば振り返る程、それらが今の結果を引き起こした可能性を強めてしまう。
故に最早かがみに女性の言葉を否定する事は出来ない。
「さてと……」
「……いっそ殺してよ……その刀でひと思いに……」
「何で私があんたの言葉に従わなあかん? そうやなぁ……あんた元の世界に家族や友達がいたよなぁ」
「!?」
その言葉から彼女が何を考えているのか想像がついた。
「ままままままままさか……父さんや母さん達、それにみゆき達をををを……」
「アンタの目の前で1人1人……」
「そ、そんなどうし……いや……そんな事して許されると思っているの……? そんなの私と同じ只の『人殺し』じゃない!!」
「違うな、アンタはその罪から目を背け続けていたやろ。けど私は違う、私は自分の……いや家族の罪まで全部含めて背負う覚悟がある!」
確かあの三文芝居を聞いた限り人殺しの罪を犯したシグナムを少女が受け入れていた様な会話だった。
それから考えても目の前の彼女が家族の罪まで背負う覚悟を持っており、同時に自身もまた家族の為に罪を犯す覚悟が出来ている事は理解出来た。
「そ……そんな……」
「安らかな死など与えへん……私やシグナム達が受けた苦しみ、存分に受けてもらう……恨むのやったら自分の愚かな行動を恨むんやな……まずは下手に抵抗されへんようその両手両足を斬り落とそうか……
まぁ、もしかしたらそれでショック死するかもしれへんけど……その時は私の読みが甘かったというだけの話や」
そうして、女性は小刀を構えゆっくりとかがみに近付いていき、遂にその小刀を振り下ろした――
どうしてこんな事になったのだろうか――
そんな事は考えるまでもない、因果応報にして自業自得でしかない――
だからこそ彼女の行いに関しては仕方の無い事かもしれない――
それでも幾ら自分もやった事とは言え、自分の行動と関係の無い家族や友人達が殺されて良いわけがない――
いや、それを望む事すらも今更自分勝手な理屈なのだろう――
悪い夢ならば覚めて欲しい――
だが――
この夢はまだ終わらない――
Chapter.02 Heavenly Stars
「やっと……会えたね……」
『はい、マスター』
高町なのははインテリジェントデバイスにして自身の相棒レイジングハートを手に感慨深い表情を浮かべていた。
放送が終わり、かがみから事情を聞いた後すぐに動き出さなければならない。故に、放送前に改めて自身の手持ち道具を確かめていたのだ。
ちなみにデイパックの中にあった仮面ライダーへの変身ツールであるデルタギアに関してはその手の道具に関しての知識が一番深い天道総司に渡しておいた。
その最中デイパックを探って見つけたのが前述のレイジングハートである。デイパックの奥の奥に埋もれていたが為発見が遅れていたのだ。
そしてデイパックの中にはヴィータのデバイスであるグラーフアイゼンも見つかった。
一方、天道のデイパックの中にチンクが使う武器であるスティンガーを確認した。現状の手持ち道具はこれで以上である。
今現在天道は見たところ放送を待ちながら身体を休めている模様。とはいえ、彼の表情を見る限り全く油断は見られない。不測の事態が起これば何時でも動けるだろう。
そしてなのはの傍らではかがみが眠っている。なのはの治療魔法やデュエルモンスターズの魔法カードのお陰で死に至るダメージ自体は回復出来た。
とはいえ未だ全快には至らず、仮に傷が治った所で腱を切断された手足の機能が回復するかどうかは不明瞭だ。
その一方、なのはは手元にあるデバイス3機からこれまでの情報を整理する事にした。レイジングハートと話している内にデバイス達が何か記録しているのではと考えたのだ。
思えばこの6時間は殆どアンジール・ヒューレーやキングに振り回され殆ど何も出来なかった。他所でも殺し合いが繰り広げられている事を踏まえればどんな小さな情報でも欲しい所だ。
まず、ケリュケイオンから得られた情報だ。とはいえケリュケイオンは比較的早い段階でなのはと再会している関係もあり得られた情報は他2機より少ない。
とはいえ、全くというわけではない。ケリュケイオンの支給先はどうやらキャロ・ル・ルシエの知り合いという事がわかった。その後、ある人物がその参加者『喋るトカゲ』を喰うために襲撃したらしい。
しかし、その際に別の参加者が『喋るトカゲ』を助けたため事なきを得た。その後両名が自己紹介した事でアグモンとヒビノ・ミライという名前が判明した。
ここまでの話からなのはは前述の人物が誰なのかを推察する事が出来た。
武蔵坊弁慶は黄色の恐竜を喰おうと仕掛けた際に銀色の鬼によって妨害されたと語っていた。
つまり、ケリュケイオンの支給先は『喋るトカゲ』ことアグモン、アグモンを襲った人物が弁慶、それを助けたのが銀色の鬼ことヒビノ・ミライという事だ。
その後、アグモン達はキャロに似た声に惹かれ学校へ向かいクロノ・ハラオウンそしてヴィータと遭遇したらしい。しかしその時、凶悪な参加者が現れ戦闘になりその際にアグモンが殺害された事までは確認出来た。但し、残る参加者の生死は不明。
そしてその学校になのは達が辿り着き以後はペンウッドの手を経由してなのはの手に渡ったという事だ。
ちなみにケリュケイオンの記録にて殺害者が『インテグラルにくれてやれば、まあ、喜ぶか』と口にしていた事からその人物はアーカードだという事が推測出来た。
そしてなのは達が既に得ていた情報から判断してアーカードによってクロノとアグモンが殺され、ヴィータとミライは離脱。アーカードは何故かクロノの遺体を持ってそのまま移動したという事が推測出来た。
続いてグラーフアイゼンからの情報だ。グラーフアイゼンの支給先は危険人物である神父アレクサンド・アンデルセンだ。
アンデルセンは最初クアットロを襲撃したがその時にアンジールによって阻止されたという話だった。
但し、アンデルセン本人は完全な殺人鬼ではなくプレシア打倒を考えていたらしい。それ故にその後に出会ったヴァッシュと共闘する事にした模様。なお、このヴァッシュという人物は誰も死なせまいと行動をしていたらしい。
ところがそこに再びアンジールと遭遇、殺し合いに乗ったアンジール、そのアンジール達を殺そうとするアンデルセンだったがヴァッシュのお陰で何とか誰も死なす事無くアンジールを無力化した。
が、そこにアーカードの放送が鳴り響き、アンデルセンは2人を置いてその場所へ移動しアーカードとの激闘を繰り広げたものの巨大な光によって戦いは中断された。
その後、アンデルセンはチンクを襲撃したがそこにまたしてもアンジールが助けに入り両名は激闘を繰り広げた。だが、そこに炎の巨人の劫火に灼かれアンデルセンは死亡、その後はアンジールに回収された。
それ以降に関してはレイジングハートと重複するため、ここで話を区切りレイジングハートからの情報に移す。
レイジングハートの支給先はクアットロ。当然危険人物だと分かり切っていた為全く反応はしなかった。
前述の通りクアットロはアンデルセンの襲撃に遭いアンジールに救助されたがその際にレイジングハートはアンジールに渡された。そしてクアットロと共謀しシャマルを騙した後、アンジールは単独行動を取りアンデルセン及びヴァッシュと遭遇。
その為、アーカードの放送までの行動については前述の通り。その後、ヴァッシュもその場を離れたらしくアンジールは1人置き去りにされた。
そして放送でディエチの死を知ったアンジールは知り合いらしいセフィロスと八神はやてと遭遇。アンジールははやてを殺害したがその時にセフィロスが豹変したらしい。もっともセフィロスはこの場ではアンジールを殺そうとはしなかった模様。
その後、チンクを助けるためにアンデルセンと交戦したが炎の巨人の劫火によりチンクとも離れ離れになったらしい。
それから数時間彷徨い続け再びヴァッシュと再会。しかしその時のヴァッシュの様子は違っていて自身の強大な力を制御出来ず暴走状態になっていたらしい。
だが、なんとかヴァッシュの腕を切り落とす事でそれを止めた。但し、放送で呼ばれていなかった事から生存している模様。
そしてスーパーでなのは達と遭遇し、自身とグラーフアイゼンの入ったデイパックがようやくなのはの手に戻ったという事だ。
3つのデバイスから得られた情報は相当なもの。しかし、その中身を吟味する事である程度見えてくる事がある。
その中で現状一番重要なのがアンジールの情報だ。アンジールはクアットロ、チンク、ディエチの兄としてジェイル・スカリエッティの所にいたらしく、妹達を守る為に殺し合いに乗っていたとの事だ。
しかし、その3人の妹は既に死亡済み。それによりアンジールは修羅の道に落ちたらしい。
都合良くキングとアンジールが戦ってくれれば良いが過度な期待は出来ない。恐らく天道もその可能性は考えているだろう。両名が共闘する事になれば厄介なのは確実だ。
そのアンジールと関わった人物で今現在も生存しており重要な人物がヴァッシュだ。彼の性格は善良らしいが暴走する危険な力を有しておりそれにより誰か殺害したらしい。今現在も生存しているものの正直読み切れない所だ。
そんな中――
「あの銀色の鬼……ううん、ヒビノ・ミライ君だったかな……」
『彼がどうかしましたか?』
「アンジールを追った筈だったのに戻ってこなかった……」
この時点ではまだ放送が流れていない為断定は出来ない。しかし、状況から考えてアンジールによって惨殺された可能性が高い。
「もしもあの時、ちゃんと彼と話を出来ていたら……」
『仕方ありませんよ、緊迫していた状況でしたから』
「違うの、もっと早くケリュケイオンから話を聞いていたら……」
そもそもの話、なのはが銀色の鬼ことミライを警戒していたのは金居と弁慶から危険性を指摘されていたからだ。勿論それ自体は別段問題ではない。
が、ケリュケイオンからの情報を統合すればそれが間違いなのはほぼ明白だ。それを把握していたならば遭遇時に別の対応が出来た可能性はある。
つまり、ミライを死なせずに済んだ可能性もあったという事だ。
緊迫していた状況だから仕方がない? 確かにそういう見方はある。だが今回に関しては果たしてそうだろうか?
思い出して欲しい、ケリュケイオンがなのはの手に渡ったのは10数時間も前、ケリュケイオンから話を聞く機会は幾らでもあった筈だ。
何も得られないと思った? それこそ馬鹿げている。学校での惨劇の場に居合わせた以上、それに関する情報を得られた可能性は高い。
では何故それをしなかったのか?
1つ目として前述の通りケリュケイオンは一度ペンウッドの手に渡ってからなのはに渡された。つまり数時間のタイムラグがあったが為に学校での惨劇の事が頭から抜け落ちたのだ。
2つ目としてケリュケイオンを手にしてからはスペック確認を優先した為、それにより話を聞く事を怠ってしまったという事だ。それ以降は様々な事が起こり優先すべき事項が数々と出てきたために忘却の彼方に置かれてしまったということだ。
脳裏に去来するのはジュエルシード集めをしていた時、ジュエルシードの暴走によって海鳴市に巨大な大樹が現れた時の事だ。
実はなのははあの時、1人の少年がジュエルシードを持っていた事をある程度察知していた。にもかかわらずその時に特に言及しなかったが為に暴走を止められず大惨事を引き起こす結果を引き起こした。
勿論、あの当時はまだ魔法と出会って間もなかったし、それに加え連日のジュエルシード回収で疲労していた事もあった為ある程度は仕方が無かったと言える。
それでもその一件が自分なりの精一杯ではなく本当の全力でジュエルシード集めをする決意を固めさせた。無論、同じ事を引き起こさないためである。
だが、果たして今それが出来ているだろうか? 本当の全力ではなく自分なりの精一杯レベルでは無かったのだろうか? 現状を見る限りあの時と比べて進歩したとは言い難い。
『仕方が無い』の言葉で片付けて良いのは本当に全力を出した時だけだ。しかし、今回は違う。打てる手が十分にあった以上それを打たなかったのは怠慢以外の何物でもない。
少々乱暴な言い方ではあるがミライを殺したのはなのは、そういう解釈だって出来るという事だ。
そんな中、傍らで眠っているかがみを見る。かがみに関わる問題にしてもなのはが全く無関係というわけではない。
エリオを殺した事で動揺しているかがみへの対応を誤ってしまい、自身に支給されていたデルタギアを奪われる結果を引き起こしている。
状況から考えてシグナムを殺した事に関してはデルタギアの暴走によるものと考えて良い。
それ以降に関しては現段階では情報不足だが2人殺したともなれば精神に負う傷は相当なものなのは確実だ。
勿論、これらの事に関しても客観的に言えば『仕方がない』で片付ける事も出来る。 だが果たして本当にそうだろうか?
もし、かがみへの対応を誤らなければ? もしデルタギアを奪われなければ? 恐らくシグナムがかがみによって殺される事は無かっただろうしその後もチンクを殺す事は無かっただろう。
いや、それ以前に最初の銃声が聞こえる前に行動を始めていればエリオを死なせる結果すらも避ける事が出来た可能性もあっただろう。
そう、かがみをここまで追いつめてしまい多くの参加者を死なせてしまった要因の1つはなのはの行動によるものだという事だ。
なのはの脳裏にティアナ・ランスターとの模擬戦での一件が思い返される。
それはなのはの教導を無視して危険な行動を取ったティアナを一撃で仕留めた後、無抵抗状態になった彼女にもう一撃加えた時の一件だ。
この時のなのはの行動には明確な理由があったわけだがそれに関してはこの場では一切考慮しない。
そもそも、ティアナがそこまでの行動に至った動機を考えてみて欲しい。ティアナは兄の無念を晴らそうと強くなろうとしていた。
しかし周囲には才能に溢れた者が多すぎた。それ故にティアナは焦りホテル・アグスタでは誤射するという事態を起こしたのだ。
その失敗を取り返すために無茶な特訓を続け模擬戦での暴走に至ったというわけだ。
おわかりだろうか? なのは自身がもっと早くティアナの暴走を諫めきちんとした対話を行っていれば模擬戦での暴走は起こらなかっただろう。
更に言えばその後の対応に関しても正しい対応が出来ていたとは正直言いがたい。結果だけを見れば場は収まったわけだがそれはシャリオ・フィニーノ達が上手く立ち回ってくれたからに過ぎない。
しかし考えてもみて欲しい、それは本来ならばなのは自身が行わなければならなかったのではないか?
更に言えば、今回の対応が本当に最善だったのか? もう少し上手いやり方があったのではないだろうか?
あの時はガジェットの反応があったからそれを優先しなければならなかったのでは? 確かにそういう見方は出来る。
だが実際はそうではない。なのはは頭を冷やす必要性があると対話を翌日にしようとしていた。つまり、対話する気ならばもっと早く出来たという事だ。
それ以前に最終的に事が綺麗に纏まったのはある意味では幸運だったからでは無いだろうか? 場合によっては上手くいかず拗れた可能性だってあっただろう。
つまり――この一件が取り返しのつかない結果を引き起こしていた可能性だってあるという事だ。それこそ生死に関わりかねない程の――
そして、それと似た事をかがみを通じて繰り返してしまったという事だ。
エリオを殺した事でどれだけ精神的な負担がかかったのだろうかをちゃんと考えただろうか?
いや、結論から言えば考えていなかったと言わざるを得ない。あの場に遺体が無かった事からなのはは最初かがみがエリオを殺した事を信じなかった。故にそれは無いと頭から決めつけてしまったのだ。
そして放送でエリオが死亡した事が伝えられてもかがみが殺したという事に関しては深く考えていなかっただろう。その事を理解出来たのはモンスターとの大軍との戦闘を経た2度目の放送後の情報交換時だ。
結局の所、なのははかがみをデルタギアで暴走した不幸な少女としか見ていなかったという事だ。こんな甘い見通しで正しい対話など出来るわけがないだろう。
勿論、どういう風に対応すれば良かったかは今となっては誰にもわからない。しかし、その対応の甘さはまさしくティアナの一件と重なると言える。
しかもあの時とは違い今度はかがみを暴走させ何人もの死者を出してしまい取り返しの付かない事態を引き起こしてしまった。
勿論、暴走し何人も殺したかがみに責任があるのは言うまでもない。しかし何度も書く様に対応を誤ったなのは自身にも責任はあるだろう。
どちらにしても、かがみが目を覚ましたら今度こそちゃんと彼女と向き合わなければならないだろう。自分なりの精一杯ではなく、本当の全力で――
そんな中、天道の方に視線を向ける。自分とデバイスの情報交換の方は聞こえていたと思うが特に何か言うわけでもなく沈黙を保っている。一体彼は何を考えているだろうか?
思えば何度と無く彼には助けられ続けた。商店街での乱戦や先のアンジール戦、そしてかがみの治療、何れも彼の存在無くしては最悪な事態を迎えていただろう。
更に言えばヴィヴィオの話を聞いて此方の心中を察しヴィヴィオ救出を優先してくれてもいる。
その一方で自分は何をしていたのだろうか? 乱戦時にはフリードリヒを暴走させ、戦いは殆ど天道任せ、更に言えばフリードをキングに奪われ人質にされてしまう体たらく。せいぜい治療やサポートしか出来ていなかっただろう。
管理局のエース・オブ・エースと呼ばれておきながらあまりにもお粗末と言わざるを得ない。所詮はまだ19歳の小娘でしかなかったという事だ。
レイジングハートが無かったから本来の力が出せなかった? そんなのは言い訳にもならない。天道はカブトのベルトが無くても十分に戦っていたし、かがみを助けた時に関してはカブトの有無は関係ない。
断言しても良い。天道は自分達よりもずっとずっと強いと――彼の行動はそれを体現している。
だが何時までも彼に頼り続けてはいけない。そもそもこの殺し合いの参加者は自分達の関係者が中心だ。
主催者が自分達と関係の深いプレシア・テスタロッサである事を踏まえてもこの件は自分達の手で片を着けなければならないだろう。
正直な所、自分の無力さに心が折れないと言えば嘘になる。想いや願いとは裏腹に殺戮が繰り返される現実に目を背けたくなる。
しかし自分が膝を付くわけにはいかない。今もスバルやユーノ・スクライア達は現実に負けることなく戦っているだろうし、ヴィヴィオもきっと助けを求めている筈なのだ。
そんな状況で自分が諦めてどうするというのだ? 信頼出来る仲間もいる、相棒もこの手に戻ってきた。自分達の本当の全力を出し切れば乗り越えられない困難などこの世の何処にもないだろう。
ふと空を見上げれば綺麗な星々が輝いている。同じ星空の下でスバルやユーノ達も戦っている事だろう。そう考えれば自分はまだ戦える。
決して折れる事の無い、不屈の心を持って――
「高町」
そんな中、今まで沈黙を保っていた天道が声を掛けてきた。彼が次に口にした言葉は――
「状況が変わった、俺は今から西へ向かう」
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*救済N/EGO~eyes glazing over ◆7pf62HiyTE
Chapter.01 EGO~eyes glazing over
「あれ……ここは……?」
気が付けば柊かがみは暗闇の中にいた。
「確かホテルで……」
冷静に意識を失う前の事を思い出そうとする。だが、何故かこれまでにあった事を思い出す事が出来ない。
「ダメ、思い出せない……」
かがみは周囲を見回した。暗がりだったが為に良くは分からなかったが、周囲には何人かの人間が倒れていた。かがみはその中の赤い髪の少年に触れるが、
「し、死んでいる……!?」
躰は冷たく、生気を感じる事は出来なかった。
「じゃ、じゃあ……もしかしてこの人達はみんな……」
倒れている者達は全て死体だった。
「なんなのよ一体……一体誰がこんな事を……?」
そう口にはするものの、それ以上考えようとはしなかった。それはまるで、脳内で警告を発していたかの様に――
それ以上思い出してはいけないと――
それでも何もしないわけにはいかない。かがみは慎重に周りを探り――それを見つけた。
「つかさ……」
そこにはかがみの双子の妹である柊つかさの死体があった。そしてすぐ傍には、
「浅倉……!」
頭部こそ失っていたがかがみにはそれが何かすぐに理解した。つかさを惨殺した浅倉威の死体であることを――そう、かがみは自分の眼前でつかさが浅倉に殺された時の事を思い出したのだ。
「な……何勝手に死んでいるのよ!! つかさを殺しておいて勝手に死んでんじゃないわよ!!」
胸に湧き上がるのは憎悪と憤怒、その感情が赴くままにかがみは物言わぬ骸を足蹴にする。
何度も何度も、何度も何度も、骨が折れる音がしようとも、内臓や筋肉が潰れる音がしようとも止まる事はない。
頭の中から『もうやめるんだ!』という声が響いても、
脳裏に蛇の甲冑を身に着けた者が桃色の髪の女性と栗色の髪の少女を襲うヴィジョンがよぎっても決して止まらなかった。
「はぁ……はぁ……」
そうして思う存分亡骸に暴行を加えたもののかがみの心は決して晴れなかった。むしろ逆に背筋に強烈な寒気が襲って来たのだ。
「なんなのよ……一体……私が一体何をしたっていうの……? 悪い夢なら覚めてよ……」
そんな時、脳裏に1人の少女の姿が浮かんだ。
「こなた……何処にいるの……?」
かがみはいるかどうかもわからない友人である泉こなたの姿を探した。
『カノジョニアッテドウスル? メントムカッテカオヲアワセルコトガデキルノカ?』
頭の中から声が響いてくる。
「うっさい……」
『オモイダセ、オマエハイママデナニヲシテキタノカヲ?』
「うっさい!」
『オマエハモハヤカノジョノ『トモダチ』デハナイ……タダノ『■■■■■』ダ!』
「黙れー!!」
頭から響く声を叫ぶ事で強引にかき消した。
「私は悪くなんかない……私が悪いわけじゃ……」
息切れしながらも周囲を見回す。そして、
「こなた……」
青い髪の少女――こなたの後ろ姿を見つけたのだ。かがみはすぐさまこなたの所へ向かう。
「こなた……良かった、無事だったのね……」
その声に反応したのか、こなたはゆっくりとかがみの方を向き――
――次の瞬間、その首が落下した。
「え?」
かがみは何が起こったのか理解が出来なかった。そして――
「ああ……あぁーーーーーーー!!」
慟哭が暗闇に響き渡った――
「本当に五月蠅い餓鬼やな……」
と、立ちつくしたままのこなたの首無し死体の後ろから血に濡れた小刀を構えた関西弁の女性が現れた。
「あああああ……あんたがこなたを!」
かがみは目の前でこなたを斬首した女性を睨み付けるが、
「いや、本当はアンタの妹の方が良かったんやけどそうそう都合良い話にはならんからな……で、都合良くアンタの友達がいたっちゅうわけや」
その女性は全く悪びれる事無く言い放った。しかもその口ぶりでは本当ならばつかさを殺すつもりだったというではないか。
「何を言っているのよアンタ! こんな事しておいて只で済むと思って……」
「その言葉そっくりそのまま返すで」
かがみの怒号を女性は平然と返す。
「は? 何を言っているの?」
「質問を質問で返す様やけど……アンタ、さっき浅倉を何で足蹴にしたん?」
「何でって浅倉がつかさを殺したからよ! 本当だったら私が殺す筈だったのに……」
「つまり、家族や友人が殺されたからというわけやな。だったら私が何故こないな事したかわかるよなぁ?」
「え……?」
「アンタ……私の目の前で何をしたのか忘れたのか?」
「何の事よ……?」
かがみはその女性が何を言っているのかを未だに理解出来ないでいた。
「アンタの足下よう見てみ」
「足下……?」
と、足下に桃色の髪の女性の死体があった。
「これは……」
その死体を見て、かがみはこれまでに起こった事、そして『その瞬間』を思い出す。
「そうや……アンタが私の大事な大事な家族……シグナムを殺したんや! よりにもよって私の目の前でな」
『あー、あいつ、本当にイライラするわね』
そう言ってかがみは幸せそうにしている少女に対し攻撃を仕掛けた――その結果、彼女を庇う様に桃髪の女性シグナムがその攻撃を受けた。そしてその少女が彼女の名を叫ぶもののかがみは幾度と無く攻撃を続けた。
無論、シグナム自身深手を負いながらも応戦を続けた。しかし結果は惨敗、
『やった!! 勝った!! 殺した!!
あはははははははは!!! これで静かになったーーー!!!
あははははははははははははははははは!!!!!!!!!!』
その場にはもう1人銀髪の男性もいた為、かがみは戦いを続けていた。その一方、
『シグナムーーーーーーー!!!』
少女が悲壮な叫び声を響かせていた。しかしそれはかがみにとって達成感と充実感、言うなれば悦びを与えていた。そして笑いながら少女と銀髪の男性を仕留めるため動こうとしたが、
『妖艶なる紅旋風』
少女による魔法の言葉により世界は真っ赤に染まった――
「あああああ……まさか……」
「どうした? 思い出せたか? そうや、アンタが私の大事な家族を奪ったんや」
「え……でもちょっと待って……」
だが、冷静に考えると何かがおかしい。
確かに目の前の女性はあの時少女が持っていた小刀を持っていた気がするし、目の前の女性の声が少女のものと同じなのも別段問題はない。
しかし、あの時の少女はどう見ても自分よりもずっと子供、見た目だけで言えばこなたと大差無いはずだ。しかし目の前の女性は自分より若干年上だ。
「アンタが何を考えているかは知らんし興味はない。重要なのはアンタがシグナムやエリオ達を殺したという事実や」
「う……」
かがみはふと後ろを振り返る。幾つかの死体の中に最初に見た赤髪の少年ことエリオ・モンディアル、眼帯の少女チンクの死体があるのが見える。どちらもかがみの手によって死を迎えた死体だ。
「ち……違う……アレは……」
「それだけやない。そこにある死体は全部アンタが殺した奴等や」
「え……?」
そう、かがみの周囲にはかがみ自身名前を知らない者もいるが他にもシェルビー・M・ペンウッド、金居、セフィロス、アレックス、L、万丈目準、ヒビノ・ミライ、チンク、スバル・ナカジマ、相川始、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体があった。
「ちょ……ちょっと待って……百歩譲ってエリオやシグナム……それからそこの女の子までは私が殺したとしても……他は違うわよ……」
と、黒い服の少年こと万丈目の死体を指し、
「コイツなんか私にカードデッキを押しつけて殺そうとしたのよ、なんで私が殺したって事になるのよ?」
「アンタは押しつけられる前どうするつもりやった? 2人で協力してデッキのモンスターをどうにかしようと考えたんか? 違うやろ?」
「それは……」
「アンタはモンスターの餌にするつもりやったやろ? もし、アンタと万丈目の立場が逆でアンタが狙いに気付いたらどうするつもりやった?」
「デッキを押しつけて……逃げ……」
「せやな、普通はそうする」
「論点ずれてない? それでどうして私が殺したと……?」
「普通の性格やったら、人を殺したらショックを受ける……それに万丈目の奴他に使える武器何も無かったんやろ? そんな状態で凶悪な人間に遭遇したらどうなる?」
人殺しの経験がない人間が人を殺した場合、精神に大きな傷を受ける。当然後々の行動に影響を与えるのは言うまでもない。
また、万丈目はデッキ以外に使える武器を所持していなかった。装備と精神状態が悪化している状態では生き残れる道理は全く無い。
「だ、だからってそれは私のせいじゃ……」
「違うな、間違っているで。あの時点ではまだ猶予時間はそれなりに残っていた筈や。それまでにモンスターを倒せば2人とも生き残れた。アンタ自身が生き残れた事がその証拠や」
事実、デッキを押しつけられたものの餌にされる前に銀色の巨人メビウスがモンスターを倒したためかがみは生き残れた。
「つまり、アンタが餌にしようとせんかったら2人とも生き残れたという事や、アンタが万丈目を殺したというのはそういう事や」
「そ、そんなの屁理屈よ! 実際そんな都合良い話なんて無いでしょ」
「ああ、そうや。これは一番極端なパターン、実際にそうかなんて私も知らん。万丈目が本当に悪人やったのかも知れんからな」
「そうよ! 万丈目は悪人よ! だから悪くなんか……」
「けどそれはアンタが決める事やない。確実なのは万丈目が危険なカードデッキをアンタに押しつけたという事実だけや、万丈目の人格や真意は万丈目以外にわかるわけがない」
彼女の指摘はかがみが今までに感じた万丈目への憎悪の正当性を完全に否定するものだった。かがみ自身認めたくは無かったが返す言葉が見つけられない。
「他の連中も大体同じや、アンタが襲った事が後々になって影響を及ぼした可能性は否定出来ないな」
「それは……」
かがみは金居、ペンウッドの死体を見る。あの時の事を冷静に思い出す限り、一歩間違えれば2人を殺していた可能性は多分にあるし、もしかしたらあの直後に死んでいた可能性はある。
勿論殺したという感触はなかったがそれはあくまでもかがみの主観、見えていない所で何が起こったかなどかがみにわかるわけもない。
セフィロスとアレックスにしても同じ事だ。目の前の女性の攻撃に巻き込まれて死んだ場合下手人は彼女という事になるがその切欠を作ったのは他でもないかがみだ。
また、Lに奪われたデッキを後々回収出来た事実から考え、L自身カードデッキのモンスターに襲われ負傷しその傷が元で数時間後に死亡したという可能性があるだろう。
元々かがみがデッキを持っていたという事実からこれもかがみの行動が影響したと言えなくもない。
ミライについてもある程度ダメージを与えた以上、後々の影響は否定出来ない。
スバル、ヴァッシュ、始に関しては彼女自身戦いをし向けていた為言うまでもない。
以上の事から少々乱暴な理論ではあるが彼等が死亡したのはがみの行動による可能性があると言えるのだ。
「うう……」
「それにな、まさかこれだけやと思っているんか?」
「え?」
「当たり前やけどあんたが殺した奴等にも友達や家族、もしかしたら恋人がいたかもしれん。その死を知って殺し合いに乗った可能性だってある……」
エリオ達の死を知り悲しみ嘆き怒り、それが元で修羅の道へ落ちた者が出てくる。そしてその者達は多くの参加者を殺していくだろう。
では、その元凶は何処にあるのだろうか? 修羅の道へ落ちる切欠を作ったかがみでは無いだろうか?
「そ……そんなのその人が勝手にやっていることでしょ! そこまで私に言われたって……」
「ほーこの期に及んでまだ自分を正当化するか、まぁアンタの言う通りこれは半分は言いがかりに近いと思う。せやけど、自分の行動は何がなんでも正当化するのに、相手の行動は正当化させへんってちょっと我が儘が過ぎると思わへんか?
大体、アンタがエリオやシグナム達を殺した以上、それが切欠でアンタを殺そうと考える事は流石に否定したらあかんやろ?
アンタがつかさを殺されて浅倉に憎しみやら殺意やらを抱いているわけやしな」
「だって……」
「それにな……そのつかさが死んだのだってアンタのせいかも知れないんやで」
「は?」
つかさが死んだ原因は自分? 何を言っているのだろうか? つかさは浅倉によって一方的に惨殺された筈だ、何処に自分の責任があるというのだ?
「そもそもの話、浅倉があんたを恨んであんたを苦しめる為にやった可能性だってあるやろ、あんたが私の目の前でシグナムを殺した様にな」
「ちょ……何を言っているのよ……浅倉が何で私を苦しめ……」
「確かその前にレストランで戦ったやろ、最初に仕掛けたのは誰や?」
「それは……」
レストランでの戦いを思い出して欲しい。確かに浅倉は戦闘目的でレストランを燃やし参加者を呼び寄せ、それに惹かれ始とかがみがやって来た。
しかし、あの戦いで最初に仕掛けたのは始でも浅倉でもなくかがみだ。始にはモンスターを、浅倉には機関銃による銃撃を仕掛けた。
戦いの切欠など問題ではない、浅倉が最初に奇襲を仕掛けたかがみを強く意識したという可能性は多分にあるだろう。
そして、つかさとかがみは双子であるが故非常に似ている。浅倉がかがみを意識しつかさに手を掛けたという説は大いにあり得る事だ。
「そんな……まさか……そんな事って……」
「曖昧な言い方はもう止めようか……ハッキリと言ってやる――
――アンタが自分の妹である柊つかさを殺した――」
「あああぁ……浅倉じゃなく……私が……つかさを……そんなことって……」
今までのかがみであれば感情的でも何でも否定しただろう。しかし、ここまでの話や自身の行動を振り返れば振り返る程、それらが今の結果を引き起こした可能性を強めてしまう。
故に最早かがみに女性の言葉を否定する事は出来ない。
「さてと……」
「……いっそ殺してよ……その刀でひと思いに……」
「何で私があんたの言葉に従わなあかん? そうやなぁ……あんた元の世界に家族や友達がいたよなぁ」
「!?」
その言葉から彼女が何を考えているのか想像がついた。
「ままままままままさか……父さんや母さん達、それにみゆき達をををを……」
「アンタの目の前で1人1人……」
「そ、そんなどうし……いや……そんな事して許されると思っているの……? そんなの私と同じ只の『人殺し』じゃない!!」
「違うな、アンタはその罪から目を背け続けていたやろ。けど私は違う、私は自分の……いや家族の罪まで全部含めて背負う覚悟がある!」
確かあの三文芝居を聞いた限り人殺しの罪を犯したシグナムを少女が受け入れていた様な会話だった。
それから考えても目の前の彼女が家族の罪まで背負う覚悟を持っており、同時に自身もまた家族の為に罪を犯す覚悟が出来ている事は理解出来た。
「そ……そんな……」
「安らかな死など与えへん……私やシグナム達が受けた苦しみ、存分に受けてもらう……恨むのやったら自分の愚かな行動を恨むんやな……まずは下手に抵抗されへんようその両手両足を斬り落とそうか……
まぁ、もしかしたらそれでショック死するかもしれへんけど……その時は私の読みが甘かったというだけの話や」
そうして、女性は小刀を構えゆっくりとかがみに近付いていき、遂にその小刀を振り下ろした――
どうしてこんな事になったのだろうか――
そんな事は考えるまでもない、因果応報にして自業自得でしかない――
だからこそ彼女の行いに関しては仕方の無い事かもしれない――
それでも幾ら自分もやった事とは言え、自分の行動と関係の無い家族や友人達が殺されて良いわけがない――
いや、それを望む事すらも今更自分勝手な理屈なのだろう――
悪い夢ならば覚めて欲しい――
だが――
この夢はまだ終わらない――
Chapter.02 Heavenly Stars
「やっと……会えたね……」
『はい、マスター』
高町なのははインテリジェントデバイスにして自身の相棒レイジングハートを手に感慨深い表情を浮かべていた。
放送が終わり、かがみから事情を聞いた後すぐに動き出さなければならない。故に、放送前に改めて自身の手持ち道具を確かめていたのだ。
ちなみにデイパックの中にあった仮面ライダーへの変身ツールであるデルタギアに関してはその手の道具に関しての知識が一番深い天道総司に渡しておいた。
その最中デイパックを探って見つけたのが前述のレイジングハートである。デイパックの奥の奥に埋もれていたが為発見が遅れていたのだ。
そしてデイパックの中にはヴィータのデバイスであるグラーフアイゼンも見つかった。
一方、天道のデイパックの中にチンクが使う武器であるスティンガーを確認した。現状の手持ち道具はこれで以上である。
今現在天道は見たところ放送を待ちながら身体を休めている模様。とはいえ、彼の表情を見る限り全く油断は見られない。不測の事態が起これば何時でも動けるだろう。
そしてなのはの傍らではかがみが眠っている。なのはの治療魔法やデュエルモンスターズの魔法カードのお陰で死に至るダメージ自体は回復出来た。
とはいえ未だ全快には至らず、仮に傷が治った所で腱を切断された手足の機能が回復するかどうかは不明瞭だ。
その一方、なのはは手元にあるデバイス3機からこれまでの情報を整理する事にした。レイジングハートと話している内にデバイス達が何か記録しているのではと考えたのだ。
思えばこの6時間は殆どアンジール・ヒューレーやキングに振り回され殆ど何も出来なかった。他所でも殺し合いが繰り広げられている事を踏まえればどんな小さな情報でも欲しい所だ。
まず、ケリュケイオンから得られた情報だ。とはいえケリュケイオンは比較的早い段階でなのはと再会している関係もあり得られた情報は他2機より少ない。
とはいえ、全くというわけではない。ケリュケイオンの支給先はどうやらキャロ・ル・ルシエの知り合いという事がわかった。その後、ある人物がその参加者『喋るトカゲ』を喰うために襲撃したらしい。
しかし、その際に別の参加者が『喋るトカゲ』を助けたため事なきを得た。その後両名が自己紹介した事でアグモンとヒビノ・ミライという名前が判明した。
ここまでの話からなのはは前述の人物が誰なのかを推察する事が出来た。
武蔵坊弁慶は黄色の恐竜を喰おうと仕掛けた際に銀色の鬼によって妨害されたと語っていた。
つまり、ケリュケイオンの支給先は『喋るトカゲ』ことアグモン、アグモンを襲った人物が弁慶、それを助けたのが銀色の鬼ことヒビノ・ミライという事だ。
その後、アグモン達はキャロに似た声に惹かれ学校へ向かいクロノ・ハラオウンそしてヴィータと遭遇したらしい。しかしその時、凶悪な参加者が現れ戦闘になりその際にアグモンが殺害された事までは確認出来た。但し、残る参加者の生死は不明。
そしてその学校になのは達が辿り着き以後はペンウッドの手を経由してなのはの手に渡ったという事だ。
ちなみにケリュケイオンの記録にて殺害者が『インテグラルにくれてやれば、まあ、喜ぶか』と口にしていた事からその人物はアーカードだという事が推測出来た。
そしてなのは達が既に得ていた情報から判断してアーカードによってクロノとアグモンが殺され、ヴィータとミライは離脱。アーカードは何故かクロノの遺体を持ってそのまま移動したという事が推測出来た。
続いてグラーフアイゼンからの情報だ。グラーフアイゼンの支給先は危険人物である神父アレクサンド・アンデルセンだ。
アンデルセンは最初クアットロを襲撃したがその時にアンジールによって阻止されたという話だった。
但し、アンデルセン本人は完全な殺人鬼ではなくプレシア打倒を考えていたらしい。それ故にその後に出会ったヴァッシュと共闘する事にした模様。なお、このヴァッシュという人物は誰も死なせまいと行動をしていたらしい。
ところがそこに再びアンジールと遭遇、殺し合いに乗ったアンジール、そのアンジール達を殺そうとするアンデルセンだったがヴァッシュのお陰で何とか誰も死なす事無くアンジールを無力化した。
が、そこにアーカードの放送が鳴り響き、アンデルセンは2人を置いてその場所へ移動しアーカードとの激闘を繰り広げたものの巨大な光によって戦いは中断された。
その後、アンデルセンはチンクを襲撃したがそこにまたしてもアンジールが助けに入り両名は激闘を繰り広げた。だが、そこに炎の巨人の劫火に灼かれアンデルセンは死亡、その後はアンジールに回収された。
それ以降に関してはレイジングハートと重複するため、ここで話を区切りレイジングハートからの情報に移す。
レイジングハートの支給先はクアットロ。当然危険人物だと分かり切っていた為全く反応はしなかった。
前述の通りクアットロはアンデルセンの襲撃に遭いアンジールに救助されたがその際にレイジングハートはアンジールに渡された。そしてクアットロと共謀しシャマルを騙した後、アンジールは単独行動を取りアンデルセン及びヴァッシュと遭遇。
その為、アーカードの放送までの行動については前述の通り。その後、ヴァッシュもその場を離れたらしくアンジールは1人置き去りにされた。
そして放送でディエチの死を知ったアンジールは知り合いらしいセフィロスと八神はやてと遭遇。アンジールははやてを殺害したがその時にセフィロスが豹変したらしい。もっともセフィロスはこの場ではアンジールを殺そうとはしなかった模様。
その後、チンクを助けるためにアンデルセンと交戦したが炎の巨人の劫火によりチンクとも離れ離れになったらしい。
それから数時間彷徨い続け再びヴァッシュと再会。しかしその時のヴァッシュの様子は違っていて自身の強大な力を制御出来ず暴走状態になっていたらしい。
だが、なんとかヴァッシュの腕を切り落とす事でそれを止めた。但し、放送で呼ばれていなかった事から生存している模様。
そしてスーパーでなのは達と遭遇し、自身とグラーフアイゼンの入ったデイパックがようやくなのはの手に戻ったという事だ。
3つのデバイスから得られた情報は相当なもの。しかし、その中身を吟味する事である程度見えてくる事がある。
その中で現状一番重要なのがアンジールの情報だ。アンジールはクアットロ、チンク、ディエチの兄としてジェイル・スカリエッティの所にいたらしく、妹達を守る為に殺し合いに乗っていたとの事だ。
しかし、その3人の妹は既に死亡済み。それによりアンジールは修羅の道に落ちたらしい。
都合良くキングとアンジールが戦ってくれれば良いが過度な期待は出来ない。恐らく天道もその可能性は考えているだろう。両名が共闘する事になれば厄介なのは確実だ。
そのアンジールと関わった人物で今現在も生存しており重要な人物がヴァッシュだ。彼の性格は善良らしいが暴走する危険な力を有しておりそれにより誰か殺害したらしい。今現在も生存しているものの正直読み切れない所だ。
そんな中――
「あの銀色の鬼……ううん、ヒビノ・ミライ君だったかな……」
『彼がどうかしましたか?』
「アンジールを追った筈だったのに戻ってこなかった……」
この時点ではまだ放送が流れていない為断定は出来ない。しかし、状況から考えてアンジールによって惨殺された可能性が高い。
「もしもあの時、ちゃんと彼と話を出来ていたら……」
『仕方ありませんよ、緊迫していた状況でしたから』
「違うの、もっと早くケリュケイオンから話を聞いていたら……」
そもそもの話、なのはが銀色の鬼ことミライを警戒していたのは金居と弁慶から危険性を指摘されていたからだ。勿論それ自体は別段問題ではない。
が、ケリュケイオンからの情報を統合すればそれが間違いなのはほぼ明白だ。それを把握していたならば遭遇時に別の対応が出来た可能性はある。
つまり、ミライを死なせずに済んだ可能性もあったという事だ。
緊迫していた状況だから仕方がない? 確かにそういう見方はある。だが今回に関しては果たしてそうだろうか?
思い出して欲しい、ケリュケイオンがなのはの手に渡ったのは10数時間も前、ケリュケイオンから話を聞く機会は幾らでもあった筈だ。
何も得られないと思った? それこそ馬鹿げている。学校での惨劇の場に居合わせた以上、それに関する情報を得られた可能性は高い。
では何故それをしなかったのか?
1つ目として前述の通りケリュケイオンは一度ペンウッドの手に渡ってからなのはに渡された。つまり数時間のタイムラグがあったが為に学校での惨劇の事が頭から抜け落ちたのだ。
2つ目としてケリュケイオンを手にしてからはスペック確認を優先した為、それにより話を聞く事を怠ってしまったという事だ。それ以降は様々な事が起こり優先すべき事項が数々と出てきたために忘却の彼方に置かれてしまったということだ。
脳裏に去来するのはジュエルシード集めをしていた時、ジュエルシードの暴走によって海鳴市に巨大な大樹が現れた時の事だ。
実はなのははあの時、1人の少年がジュエルシードを持っていた事をある程度察知していた。にもかかわらずその時に特に言及しなかったが為に暴走を止められず大惨事を引き起こす結果を引き起こした。
勿論、あの当時はまだ魔法と出会って間もなかったし、それに加え連日のジュエルシード回収で疲労していた事もあった為ある程度は仕方が無かったと言える。
それでもその一件が自分なりの精一杯ではなく本当の全力でジュエルシード集めをする決意を固めさせた。無論、同じ事を引き起こさないためである。
だが、果たして今それが出来ているだろうか? 本当の全力ではなく自分なりの精一杯レベルでは無かったのだろうか? 現状を見る限りあの時と比べて進歩したとは言い難い。
『仕方が無い』の言葉で片付けて良いのは本当に全力を出した時だけだ。しかし、今回は違う。打てる手が十分にあった以上それを打たなかったのは怠慢以外の何物でもない。
少々乱暴な言い方ではあるがミライを殺したのはなのは、そういう解釈だって出来るという事だ。
そんな中、傍らで眠っているかがみを見る。かがみに関わる問題にしてもなのはが全く無関係というわけではない。
エリオを殺した事で動揺しているかがみへの対応を誤ってしまい、自身に支給されていたデルタギアを奪われる結果を引き起こしている。
状況から考えてシグナムを殺した事に関してはデルタギアの暴走によるものと考えて良い。
それ以降に関しては現段階では情報不足だが2人殺したともなれば精神に負う傷は相当なものなのは確実だ。
勿論、これらの事に関しても客観的に言えば『仕方がない』で片付ける事も出来る。 だが果たして本当にそうだろうか?
もし、かがみへの対応を誤らなければ? もしデルタギアを奪われなければ? 恐らくシグナムがかがみによって殺される事は無かっただろうしその後もチンクを殺す事は無かっただろう。
いや、それ以前に最初の銃声が聞こえる前に行動を始めていればエリオを死なせる結果すらも避ける事が出来た可能性もあっただろう。
そう、かがみをここまで追いつめてしまい多くの参加者を死なせてしまった要因の1つはなのはの行動によるものだという事だ。
なのはの脳裏にティアナ・ランスターとの模擬戦での一件が思い返される。
それはなのはの教導を無視して危険な行動を取ったティアナを一撃で仕留めた後、無抵抗状態になった彼女にもう一撃加えた時の一件だ。
この時のなのはの行動には明確な理由があったわけだがそれに関してはこの場では一切考慮しない。
そもそも、ティアナがそこまでの行動に至った動機を考えてみて欲しい。ティアナは兄の無念を晴らそうと強くなろうとしていた。
しかし周囲には才能に溢れた者が多すぎた。それ故にティアナは焦りホテル・アグスタでは誤射するという事態を起こしたのだ。
その失敗を取り返すために無茶な特訓を続け模擬戦での暴走に至ったというわけだ。
おわかりだろうか? なのは自身がもっと早くティアナの暴走を諫めきちんとした対話を行っていれば模擬戦での暴走は起こらなかっただろう。
更に言えばその後の対応に関しても正しい対応が出来ていたとは正直言いがたい。結果だけを見れば場は収まったわけだがそれはシャリオ・フィニーノ達が上手く立ち回ってくれたからに過ぎない。
しかし考えてもみて欲しい、それは本来ならばなのは自身が行わなければならなかったのではないか?
更に言えば、今回の対応が本当に最善だったのか? もう少し上手いやり方があったのではないだろうか?
あの時はガジェットの反応があったからそれを優先しなければならなかったのでは? 確かにそういう見方は出来る。
だが実際はそうではない。なのはは頭を冷やす必要性があると対話を翌日にしようとしていた。つまり、対話する気ならばもっと早く出来たという事だ。
それ以前に最終的に事が綺麗に纏まったのはある意味では幸運だったからでは無いだろうか? 場合によっては上手くいかず拗れた可能性だってあっただろう。
つまり――この一件が取り返しのつかない結果を引き起こしていた可能性だってあるという事だ。それこそ生死に関わりかねない程の――
そして、それと似た事をかがみを通じて繰り返してしまったという事だ。
エリオを殺した事でどれだけ精神的な負担がかかったのだろうかをちゃんと考えただろうか?
いや、結論から言えば考えていなかったと言わざるを得ない。あの場に遺体が無かった事からなのはは最初かがみがエリオを殺した事を信じなかった。故にそれは無いと頭から決めつけてしまったのだ。
そして放送でエリオが死亡した事が伝えられてもかがみが殺したという事に関しては深く考えていなかっただろう。その事を理解出来たのはモンスターとの大軍との戦闘を経た2度目の放送後の情報交換時だ。
結局の所、なのははかがみをデルタギアで暴走した不幸な少女としか見ていなかったという事だ。こんな甘い見通しで正しい対話など出来るわけがないだろう。
勿論、どういう風に対応すれば良かったかは今となっては誰にもわからない。しかし、その対応の甘さはまさしくティアナの一件と重なると言える。
しかもあの時とは違い今度はかがみを暴走させ何人もの死者を出してしまい取り返しの付かない事態を引き起こしてしまった。
勿論、暴走し何人も殺したかがみに責任があるのは言うまでもない。しかし何度も書く様に対応を誤ったなのは自身にも責任はあるだろう。
どちらにしても、かがみが目を覚ましたら今度こそちゃんと彼女と向き合わなければならないだろう。自分なりの精一杯ではなく、本当の全力で――
そんな中、天道の方に視線を向ける。自分とデバイスの情報交換の方は聞こえていたと思うが特に何か言うわけでもなく沈黙を保っている。一体彼は何を考えているだろうか?
思えば何度と無く彼には助けられ続けた。商店街での乱戦や先のアンジール戦、そしてかがみの治療、何れも彼の存在無くしては最悪な事態を迎えていただろう。
更に言えばヴィヴィオの話を聞いて此方の心中を察しヴィヴィオ救出を優先してくれてもいる。
その一方で自分は何をしていたのだろうか? 乱戦時にはフリードリヒを暴走させ、戦いは殆ど天道任せ、更に言えばフリードをキングに奪われ人質にされてしまう体たらく。せいぜい治療やサポートしか出来ていなかっただろう。
管理局のエース・オブ・エースと呼ばれておきながらあまりにもお粗末と言わざるを得ない。所詮はまだ19歳の小娘でしかなかったという事だ。
レイジングハートが無かったから本来の力が出せなかった? そんなのは言い訳にもならない。天道はカブトのベルトが無くても十分に戦っていたし、かがみを助けた時に関してはカブトの有無は関係ない。
断言しても良い。天道は自分達よりもずっとずっと強いと――彼の行動はそれを体現している。
だが何時までも彼に頼り続けてはいけない。そもそもこの殺し合いの参加者は自分達の関係者が中心だ。
主催者が自分達と関係の深いプレシア・テスタロッサである事を踏まえてもこの件は自分達の手で片を着けなければならないだろう。
正直な所、自分の無力さに心が折れないと言えば嘘になる。想いや願いとは裏腹に殺戮が繰り返される現実に目を背けたくなる。
しかし自分が膝を付くわけにはいかない。今もスバルやユーノ・スクライア達は現実に負けることなく戦っているだろうし、ヴィヴィオもきっと助けを求めている筈なのだ。
そんな状況で自分が諦めてどうするというのだ? 信頼出来る仲間もいる、相棒もこの手に戻ってきた。自分達の本当の全力を出し切れば乗り越えられない困難などこの世の何処にもないだろう。
ふと空を見上げれば綺麗な星々が輝いている。同じ星空の下でスバルやユーノ達も戦っている事だろう。そう考えれば自分はまだ戦える。
決して折れる事の無い、不屈の心を持って――
「高町」
そんな中、今まで沈黙を保っていた天道が声を掛けてきた。彼が次に口にした言葉は――
「状況が変わった、俺は今から西へ向かう」
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