「無題」(2010/11/27 (土) 04:51:46) の最新版変更点
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*無題 ◆Qpd0JbP8YI
いつもは揺れ動くそのつぶらかな瞳は、今は決意で固められ、一片の弱さも感じさせない。
それはかつてはあった温かな感情を切り捨て、悲壮なる覚悟の下に生まれた強さ。
今はもうどんなになっても自分の話を聞こうとしてくれた優しい「彼女」に対して抱いたような戸惑いはない /
大切な母に刃を向けた時に感じたような躊躇いもない /
主である八神はやてを守るために剣を手にした守護騎士たちと相見えざるを得なかった時のようなやり切れなさもない。
戻るべき道のりも今は炎によって焼け落ち、無くなった――新庄運切という人間の命と共に。
今はただ目の前の道を真っ直ぐと進んでいけばいい。
その先には自分が心から待ち望む光景が広がっているのだから……。
そしてそんな未来を映すフェイトの瞳の端に一台のトレーラーが走ってくるのが見えていた。
トレーラーに乗って大通りを悠々と走るLの目に一番最初に映ったのは炎と煙で包まれている機動六課隊舎だった。
その明らかに平穏とは言いがたい状況に、Lは冷静にどうすべきかを考えに纏め始める。
そして次にLが目にしたのは道行く前方で金色の髪の毛を揺らしながら佇んでいる一人の少女だった。
顔はマスクで隠されてはいるが、金色の髪の毛に黒いバリアジャケットとどことなく見覚えのある風貌。
その姿にLが疑問の眼差しを向けていると、彼女の持つ銃が突然とLへ向けられた。
それが何を意味するのかを瞬時に悟ったLは、すぐさまハンドルを切ったが、時既に遅し。
フェイトの持つデバイスから発せられた魔力の銃弾は雷のように空気を切り裂き、トレーラーへの着弾。
その大地を揺らすかのような衝撃によりトレーラーのコントロールは失われ、Lは自らの終わりを悟る。
運転手であるLが最後に見たのは、うっすらと鏡のように自分の顔を映すフロントガラスの向こうにあるコンクリートの壁。
Lを乗せたトレーラーはスピードを緩めることなく、ビルの壁を容赦なく突き破っていった。
&color(red){【L@L change the world after story 死七】}
堅牢とも思えるビルの横には大きな穴が開けられ、辺りにはコンクリートの瓦礫が飛散している。
その穴をくぐった向こうには、ガラスは砕け散り、傷だらけとなったトレーラーが
まるで運転手の喪に服すかのように静かにその場に佇んでいた。
傍目からでも決して無事とは言えない悲惨な事故。
トレーラーの運転手の命の行く末など自然と知れるだろう。
だけど射撃手たるフェイトはそれにも関わらず、
冷然とデバイス、オーバーフラッグを構え、再び銃口をトレーラーへと向けた。
その様子をビルの陰に隠れながら見て、軽く溜息を吐く人、一人。
それは心無い人たちに死んだと思われたLその人であった。
彼はビルの壁に衝突する寸前に、もしもの時のためにと用意していたカードデッキで仮面ライダー王蛇へと変身。
そしてシートベルト、エアバッグ、ライダースーツの三つによって事故による衝撃を緩和、軽減。
結果、Lは平生と変わらぬ様子でそこに立つことが出来ていた。
尤も無事と判明した今でも、目の前の危機的状況をどうにか出来るほどの余裕はなかった。
実際、フェイトの取った行動はLにとって最悪だった。
あのまま敵が自分をやっつけたと勘違いして、この場を去ってくれれば万々歳。
もしくは自分の倒したかどうかを確認するために近寄ってきてくれれば、
何とか不意を付くチャンスが取れたかもしれないし、それも万歳と言える。
だけど、そのどちらでもない遠くからの攻撃は、対処の仕様がなく、Lの気分を自然と暗鬱にさせた。
フェイトの選択はこちらが生きているいないにしろ、ダメージは与えられるだろうし、
何よりもトレーラーに被害が及んでしまうからだ。
これ以上のトレーラーの損壊は防ぎたいと思うLにとっては、フェイトの行動は非常に痛い所。
Lはもう一度溜息を吐き、仕方なくビルの陰から姿を現した。
「どうも……素敵なマスクですね」
銃口がトレーラーから自分へと向けられたことを確認。
今のLに銃と同じ距離で戦える武器はない。
それでも自分の不利を悟られないようLは努めて平然と話しかけた。
「念の為に言いますが、私は殺し合いに乗っていません。あなたはどうですか?」
フェイトはその質問には答えず、自分の想いを簡潔に告げる。
「どうかジッとしていて下さい。なるべくあなたを苦しめたくありません」
その言葉の終わりと共に発射される魔力弾。
Lはそれを予測していたかのように跳んでかわすが、着地点を狙ったかのように飛んでくるもう一つの弾。
更に追い討ちをかけるかのように先程かわした魔力弾が悪辣にも反転。
前後より迫る攻撃に戦闘に不慣れなLがかわせるはずもなく、
殺傷設定の魔力弾の直撃を、その身体で余すところなく受けた。
確かな着弾を表す煙。
それにほんの少しの安堵と罪悪感を覚えながら、フェイトは再びデパートへ向けて足を進めようとする。
だけど最後の確認とばかりにフェイトはLに目を向けて、僅かに目を開いた。
煙の中から現れたのは、先程と変わらぬ様子の仮面ライダー王蛇、Lだったのだ。
「…………丈夫……なんですね」
「そのようです。今の攻撃には不覚にも冷や汗をかいてしまいしたが……杞憂に終わって何よりです」
「……長引けば、あなたが苦しむ時間が増すだけです。
もう一度言います。その……鎧を解いて、どうか大人しくしていて下さい。
そうすれば、痛みなど感じさせず、一瞬で楽にしてあげます」
「そうですか。ですが、そういった心遣いは無用です。そもそも……」
Lの言葉は最後まで告げられなかった。
一瞬の間を待たずにLの胸元から上げられる煙。
先程の攻撃より威力が高かったのか、仮面ライダー王蛇となったLも思わずよろめく。
見てみれば、フェイトはいつの間にかデバイスを構え、Lを狙っていた。
それに対してLの抗議の声があげられる間なく、更に発射されるフェイトの魔力弾。
容赦なく浴びせられる弾幕に、さすがのLも舌打ち一つ。
Lは急いでガードベントでシールドを取り出し、迫りくる攻撃を受け止める。
シールドに突き刺さる攻撃、腕に響く衝撃に意識を奪われながらも、Lは勝利の為の一手を模索。
やがてLは何か思いついたのか、攻撃の合間を縫って、距離を詰めようと行動に移す。
だけどその意図は簡単にフェイトに察せられ、彼女は空中に回避。
そして今の行動からLに遠距離からの攻撃はないと判断したフェイトは空からゆっくりとデバイスを構え、攻撃を続けていった。
空から雨のように降ってくる魔力の固まり。
その距離での攻撃の手段を持たず、ただシールドを掲げるだけのL。
遠からず決着がつくだろう。
それが仮面ライダー王蛇、Lを見てのフェイトの考えだった。
(耐久性、運動性共にこのライダースーツには問題ありません。信頼性は高いと言えるでしょう)
肝心のLはと言えば、自分を殺そうと向かってくる敵を相手に暢気にライダースーツの能力を確かめていた。
確かに目の前の相手は自分を遥かに凌ぐ力を持っており、苦戦を強いられている。
だけど、Lはそれでも自分の勝利を一片も疑っていなかった。
ライダースーツにそれをサポートするミラーモンスター。
それらの能力を考えれば、Lの自信にも納得はいく。
でも、往々にしてそういった心持ちは、実際の戦闘において多大なる隙を生むことに繋がる。
そしてLが余裕を見せて立ち止まった瞬間を狙い、彼の身体の動きを縛る鎖が発生。
フェイトによって発せられた魔法、バインドは容赦なくLを拘束。
自由を奪われた王蛇は呆然と空中のフェイトを見上げる。
(……これで終わり……)
彼女のデバイスに集まっていく、先程とは比べようがないほどの魔力。
ライダースーツを穿ち、装着者を殺すための砲撃の準備。
これによってまた一人の命を摘む。
それにまた一つの悲しみを心の内に積み重ねながらも、決して彼女の銃の照準は揺るがない。
そして限界まで達した魔力の光が咆哮を上げようとする。
だが、その刹那、Lはその銃口――ならぬ、砲門を目の前にして、
まるでフェイトの心の声に応えるかのように不敵に呟いた。
「いいえ、私の勝ちです」
自分の身体を拘束するバインドを仮面ライダーの力によって強引に引きちぎり、一枚のカードを牙召杖にセット。
――Steal Vent――
仮面ライダー王蛇は自分の持つカードを牙召杖と呼ばれるステッキの頭に差し込んで、魔法にも似た能力を使用することが出来る。
その効果はカードごとに違い、剣や盾を召還したり、自身を透明にしたり、果ては何人もの自分の幻を生み出したりもする。
そして今回、Lが使用したのはスチールベントと呼ばれるカード。
その効果は相手の武器、または防具を相手に意思に関わらずに強制的に奪取出来ること。
勿論、Lが奪い取ったのは、今、まさに砲撃を発しようとしていたデバイス、オーバーフラッグ。
カードを発動した次の瞬間には、フェイトの持つデバイスはLの手に移り、彼女が組み込んでいた魔法はそれと共に自然と霧散。
フェイトのバリアジャケットも解かれ、また空中制御も失った彼女は糸の切れた人形のように地面へと落ちていった。
Lは一連の有様を見届けると、勝利者らしく悠然と倒れているフェイトへと歩み寄っていった。
地面にぶつかる寸前に何らかの魔法を行使したのか、フェイトには怪我は見当たらない。
だけど、それでも全ての衝撃を殺しきれなかったのか、彼女の顔に付けられていたマスクは落とされ、
そのあどけなくも綺麗な顔を外に晒していた。
そしてその露になった顔を見て、Lは彼女の風貌、そして声から察していた一つの可能性に確信を深めた。
「あなたはフェイトさんですね」
Lの声にビクリと肩を震わせる。
見てみれば、先程まで見せていたフェイトの冷酷とも言える眼差しは消えていて、その瞳を揺るがせている。
だけど、それは当然のことかもしれない。
会場にいる人間を全て殺して、母であるプレシアに大切な人の蘇生を願う。
その願いを支えることの出来た理由の一つは自身の強さ。
強いからこそ、他者の屍の上に立つことを容易にし、容易だからこそ、その選択肢を簡単に選び取ってしまう。
だけど、その強さを支えるデバイスを失えば、途端に自分の選んだ道がどれだけ険しいか知ってしまう。
彼女は震えながら、死刑執行人のように歩み寄るLを見つめた。
「高町なのはさんをご存知ですか?」
「なの……なのはを……知っているの?」
王蛇の顔を見ながら、フェイトは必死に高町なのはが蘇生し、再び笑いかけてくれる未来を夢想。
それによって、恐怖が沸き起こる中、何とか反撃ならずとも、撤退の算段を巡らす。
だけどLの予想外の言葉にフェイトの心は跳ね上がり、その思惑を打ち消した。
そしてその反応を見て、Lも安堵の溜息を一つ。
異なる時間軸、そしてフェイトが攻撃してきたことから考えて、
高町なのはと出会う前のフェイトという可能性を予想していた。
もしそんなフェイトだったら説得も難しいところ。
だけど彼女が高町なのはと出会った後なら、人の話を聞く心を持ち合わせているということだ。
「八神はやてさんはご存知ですか?」
「はやてのことも……?」
八神はやてを知っており、また名前を呼び捨てにすることから、近しい関係が窺える。
つまり、フェイトは闇の書事件の後から来たということだ。
それなら闇の書を封じるべく、徒に奔走しているというわけではない。
以上のことを踏まえると、フェイトは精神的にある程度落ち着いた時期から、ここに呼び出されたというわけだ。
だけど、実際の前の前のフェイトはそのような落ち着いた精神状態にあらず、
どちらかと言えば、危うく、心許ない印象を受ける。
その理由として最も簡単に思いついたのが、先のプレシアの放送。
フェイトの友人、家族といった大切な人の喪失で暗闇に投げ落とされ、
そしてそこに悲惨な事実を覆せるかもしれない人の蘇生という光を投げかけられる。
暗闇に灯された光は、例えどんな色に輝いていようが、魅力的に映るものだ。
そういったことを考慮すれば、フェイトのゲームに乗ってしまったかのような行動も納得がいく。
無論、平行世界ということを考えれば、フェイトが暴挙にでた要因は無数に見つかる。
しかし、それを考えると、可能性が無限に生じるため、
Lは取り敢えず、ザフィーラから聞いたフェイトの過去から、
今のフェイトの状態に陥った理由の推論を組み立てていった。
「高町なのはさんらを生き返らせるために……こんな事を?」
自分の切なる願いを否定されないための一種の防衛行動だろうか。
その言葉を聞いて、一瞬、矢のようにファイトの目がLを射すくめた。
だけどその反応を見て、Lは自分の考えが正しかったことを確認すると、
容赦なくフェイトを切り捨てた。
「あなたは馬鹿ですね」
「バッ……バカ!? 大切な人とまた会いたいということのどこがバカなんだ!?」
「いいえ、全くの馬鹿です。それもとんでもなく、最大級の馬鹿です」
大切な人を想う自分の気持ちを侮辱されたフェイトは、当然それを許さず、
Lの口をこれ以上開かせまいと、急いで攻撃魔法のプログラムを組み上げ始めた。
だけど、その反抗的な意図を察したLは、すぐさま奪い取ったデバイス、オーバーフラッグをフェイトの目の前に掲げ、
それを仮面ライダーの力を使って片手で思いっきり握り潰した。
圧倒的なパワーを見せ付ける仮面ライダー王蛇。
一瞬でゴミと化したデバイスがフェイトの前に投げつけられ、言葉ではないメッセージを彼女に送る。
そしてその成れの果てが、何を意味するのかを悟ったフェイトは魔法の組成を諦め、歯噛みしながらLを睨みつけた。
「理解してくれて何よりです。私も無駄に人を殺したくはありませんからね」
フェイトの様子を見ながらLは満足気に告げていく。
「しかし、不思議ですね。フェイトさん……あなたは頭の良い人だと聞いていましたが……本当に自分の間違いに気がつかないんですか?」
「うるさい! 私は間違いなんかしていない! なのはは私の友達なんだ! なのはの為なら何だって出来る!
例えお前がどれだけ私を罵ろうと、どんな言葉で責め立てようと、私は自分の気持ちを曲げるつもりはない!」
「……別にあなたの友達や家族を想う心を馬鹿にするつもりはありません。
寧ろこんな状況でそこまで言い切ることの出来るあなたに賞賛を通り越して、羨ましさすら感じます。
しかし……やれやれ……恋は盲目……と言いますが、あなたの友達は想う心も似たようなものなんですかね。
……分かりました……しょうがない……フェイトさんには一つヒントを差し上げることにしましょう」
「ヒン……ト?」
「ええ、ヒントです。フェイトさん、あなたは何故プレシアさんがこのような殺し合いを開いたと思いますか?」
「それのどこがヒントだ!?」
「ヒントです。質問の答えを考えてみてください」
「知るか、そんな事!」
にべもないフェイトの一言もにもLは機嫌を損ねず、言葉を続ける。
「フェイトさん……あなたは母親であるプレシアさんが、娘のアリシアさんを蘇らす過程で生まれた…………存在だと聞きます」
「それが……それがどうした!? 母さんはアリシアを蘇らすことに成功した! だから、なのはたちもきっと……!!」
「なるほど。アリシアさんは蘇った。そしてなのはさんたちにも同様の処置をすることが出来る。あなはそう考えているんですね」
「そうだ!」
「そうですか。では、それを踏まえた上で、もう一度聞きます。アリシアさんが生き返った今、プレシアさんがこのような殺し合いを開く理由は一体何なのでしょうね?」
何度も同じ事を訊いて来るLにフェイトの苛立ちは募る。
早くこの男の口を黙らして、なのはと再び会うための行動を急がなければならない。
そんな気持ちで彼女の中は溢れ返っていた。
でも、ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけど、何故目の前の男が何度も同じ事を訊ねるのかを、彼女は考えてしまった。
そして皮肉にも若くして執務官試験を受かるほどの賢さを持つフェイトは、
その一瞬だけでLの質問の行く先を理解してしまった。
だけど、それは自分を紛れもなく絶望へと突き落とす答え。
もしそれを肯定してしまったら、自分のしたことが、新庄を殺したことが全く意味のないことになってしまう。
そしてそんなものは当然彼女に認められるはずもなかった。
だから、彼女は必死に叫んだ。
目の前の男がもう何も言わないように、自分の願うことが真実であるように、と。
「違う! アリシアは生き返った! 母さんの願いは叶ったんだ! お前に母さんの何が分かるんだ!」
慟哭とも言えるフェイトの叫びを聞いても、Lは表情一つ変えず、冷静に説明を加えていった。
「アリシアさんを蘇らす為に、プレシアさんは犯罪にも手を染めたと聞きます。
余程大切な人だったんでしょうね。
しかし、そんな大切な人が近くにいるというのに何故またこのような犯罪を?
こんな大規模な犯罪など、当然、時空管理局も黙っていないでしょうね。
長年の願いがやっと叶い、アリシアさんと過ごせる時間が手に入ったのだから、
大人しく次元の片隅にでも隠れてひっそりと暮らせばいい。
こんなことをしていては、折角死んだと思われて、
捜索の手が及んでいなかった自らの存在を管理局に知らしめ、
下手をすれば捕まってしまう危険性も招くことになります。
それではアリシアさんを蘇らした意味がない。
そうは思いませんか?」
「違う! 違う! 母さんは何かちゃんとした目的が……あって!」
「目的……それは何でしょうね?」
「そ、それは…………そうだ! 母さんは怒っているんだ! 私がジュエルシードの回収に失敗したのを、母さんの邪魔をした管理局を!」
「復讐ということですか? 残念ながらそれはないでしょう」
「何でお前にそんなことが分かる!?」
「それは私がここに呼ばれているからです」
「な……に?」
「確かに私はなのはさんの知り合いではありますが……出会ったのはほんの数日前。
まだ彼女の趣味や特技、まして好きな男性のタイプも知りません。
そんな私が例え死んだところで、なのはさんを…………いや、まあ彼女は優しいですから、きっと悲しんでくれるでしょう。
ですが、それを引きずるということもないでしょうね。翌日には私の死を糧に自分の道をより力強く邁進していることでしょう。
それに私は管理局にも所属していませんし、ここに呼ばれる理由など尚更ありません。
あと復讐するというのなら、なのはさんのご家族の方もここにお呼びしていることでしょう。
聞けば、PT事件において、彼女はめざましい活躍をされたという。いわば、プレシアさんの最も憎き相手。
そんな人には是非、大切な人を失うことがどれだけ辛いのかというを、身を以ってお教えしたいのではありませんか。
そしてその対象に選ばれるのは、当然なのはさんの家族や親友。
間違っても私のような、なのはさんにとって、どうでもいい人間が選ばれるはずもありません。
あと付け加えますが、復讐が目的というのなら、プレシアさんの望みを叶えるという言葉は信用できませんよ。
あなたは殺したいほど憎みたい相手の願いを叶えてやろうって気になりますか?
おそらくは最後まで生き残って希望に瞳を輝かせる人に、自分の言ったことは嘘だ、
とでも言って相手をより深い絶望に突き落とそうとするでしょう。
その方がより大きい愉悦に浸れるでしょうからね」
Lの説明と共に段々と顔の色を無くしていく。
それでも彼女は必死に考えた。
アリシアを生き返った今でも、この殺し合いを開く最もたる理由を。
目の前の男の下らない言葉を封じて、納得させる理由を。
だけど、Lはそんな時間を取らせずに、彼女の歩んだ道がどれだけ無意味なものであったかを教えてくれた。
「フェイトさん、あなたは名簿を見ましたか? そこにはあなたの大切なお友達であるなのはさんの名前は二つ記されている。
そして先程の放送で亡くなったと分かったのは一人。他にも八神さんの名前が二つありましたね」
「それは……クローン……だから……」
「なるほど……クローン……ですか。しかし、例えクローンだとしても、あなたのようにちゃんとした心と命を持った人間です。
あなたはそれを全て否定することが出来ますか? 高町なのはという名の人間の心を、命を否定することは出来ますか?
フェイトさん、私はあなたに訊ねます。あなたは高町なのはを殺すことが出来ますか?」
「なのは……を……殺す……? 私が? 違う……私は……」
高町なのはを生き返らすために高町なのはを殺す。
そんな訳の分からない論理が彼女の頭を白く塗りたてる。
そしてしばらくしてそこに描き出だされたのは
高町なのはの血に塗れる自分の手。
そんな嫌悪すべき映像はフェイトの頭の中に取り憑き、
訳の分からない感情を身体の内に這いずり回せた。
目の焦点が合わない、視界が揺れる、手が震える、身体が寒い。
生き残っている高町なのははクローンかもしれない。
だけど自分と親友と同じ姿をした人間を殺せるのか?
殺せたとして、本当になのはは蘇るのか?
それにもしかしたら生き残っているのが本当の高町なのはかもしれない。
でも、それだと、なのはは、人を既に殺した自分を、許してくれるのか? 友達と、思ってくれるのか?
答えは――
その言葉の先を思い浮かべて、途端にフェイトは胃液を道路に吐き出した。
彼女の中に蹲る暗い感情は、自分の全てを否定し、それでも尚収まることなく、彼女を責め立てた。
自らの身体の中にある感情はまるで実体をもったかのように暴れまわり、
胃にあるもの全てを吐き出せた今となっても内臓を痙攣させて止まなかった。
やがてフェイトの口から吐き出される血の塊。
彼女の中にあって、彼女が作り出した感情は、ついに彼女自身を傷つけ始めた。
胃液のすえた臭いにLは眉をひそめながら、フェイトに語りかけた。
「勘違いしないで下さい。私は別にあなたを責めているつもりはありません。
私の仕事はあくまで犯罪の、そして犯罪者の正体を探ること。
犯罪者を裁こうなどという驕った気持ちは微塵もありません。
それに第一法律という観点からでは、あなたを罪に問うことは出来ません。
相手を殺さなければ、自分が死ぬかもしれないという状況です。
緊急避難が適法されることは、必然でしょう。
ミッドチルダの法律については、詳しくはありませんが、そこらへんは地球と同じなんではないでしょうか。
他人の命を自らのより優先しろなどという法律があったら、あまり健全な社会は構築出来ないでしょうから」
「でも、私は……」
「……それでも、自分が許せませんか? 先程も言いましたように、私も法律もあなたを裁くことは出来ません。
ですから、自らで贖罪の方法を探すしかないでしょうね。勿論、この殺し合いに乗るというのは論外ですが」
「しょく、ざい……自分で……」
フェイトは小さな声でそんな声を発し、それきり顔を蹲らせてしまった。
恐らくは自分なりに贖罪の方法を考えているのだろう。
しかしそれからどれほどの時間が経過したのか、やがてLは大きく溜息を零した。
当初、Lはフェイトは強い人間だと思っていた。
時空管理局に身を置き、執務官という身体能力や魔力以上に心の強さが求められる立場にいた人間だ。
だからある程度道を正せば、勝手に答えを見つけ、プレシアに反旗を翻してくれると思っていた。
だけど、現状を見るにその見通しが甘かったことをLは認めずにはいられなかった。
とはいえ、今のフェイトは子供だ。
大人のような強さを、ここで求めるのは間違いなのかもしれない。
Lはもう一度溜息を零して、仕方なくフェイトに語りかけた。
「確かに失った命を取り戻すことは出来ません。
人の命とは、それほど掛け替えのないものなのです。
ですが、このままこうしていても何も始まりません。
今の間もまた一つの命が失われていっているかもしれない。
それはなのはさんであったり、八神さんである可能性もあるのです。
今は僅かな休息を得るために立ち止まることすら許されない状況なのです。
そして幸いにも管理局のおいて有数の魔導師であるあなたには、それをどうにか出来る力を持っている。
勿論、あなただけで、それを成すことは難しいでしょう。
それくらい私達の前に立ちはだかるプレシアさんの存在は大きい。
ですから…………」
その言葉の先を疑問に思い、フェイトは顔を上げた。
「私と友達になりましょう。私と一緒にプレシアさんの凶行を止めましょう」
そう言って、Lはフェイトの力ない手を掴み、ブンブンと上下に振った。
そしてそれに対するフェイトの答えは――
「は?」
――疑問の声だった。
確かに言葉だけを考えるなら、Lの言うことには誰もが頷ける部分もあった。
そして友達になってくれるという言葉にも優しさが窺えた。
その言葉を聞けば、きっとフェイトも立ち直ってくれることであろう。
それがLの本心からの言葉であったならばだ。
フェイトがなのはと友達になれたのは、なのはに相手を思う優しい心があったからだ。
どんなに傷つけられても、どんなに距離を置かれようと、
高町なのはという女性は自分のことより、相手のことを考えて、関係を築いてきた。
そしてそんな彼女だからこそ敵対していた少女とも友達となれたのだ。
しかし今のLが発する言葉は、それとは反対に高町なのはのような優しさなど微塵も感じさせず
ただプレシアを止めるという目的の為だけに、その戦力の確保の為だけに声をかけた。
だから当然、Lのように無感動な表情で、何の感情も灯さない無機質な声で、
どんな美辞麗句を語られても、決してフェイトの心に響くことなどはなかった。
「ふ、ふざけるな! 友達だと!? よくもそんなことをぬけぬけと! お前みたいな奴が信じられるか!
大体顔も見せずにそんな仮面を被って友達などと馬鹿にしているのか!?」
幼いフェイトはその出自故か、孤独を感じ、自らの存在に疑問を抱いていた。
だからこそ自分を認めてくれる友達という存在に依存し、その疑問を振り払っていた。
ザフィーラから得たそんな情報を下に友達という言葉でLは
フェイトの不安や悩みを一時的にしろ解消しようと試みたが、どうやら失敗に終わったようだった。
それに彼女の仮面云々という言葉を聞いてLも心の中で頷いた。
こんな状況で自分の本当の顔を見せずに友達になろうなどどは、余りにおめでたい発言だ。
しかし、未だ敵意を見せる相手を前にしてライダースーツを脱ぐのは躊躇われる。
さりとて、このまま無意味に敵対関係を続けるのも看過しづらい問題だ。
さて、どうしようか。
Lは口元に寂しさを感じつつ、考えを纏め始めたが、唐突にその必要はなくなった。
粒子となって空中へと消えていくライダースーツ。
カードデッキの制限時間が終わり、変身が解けたのだ。
そして制限時間の終わりが告げるものは、それだけではない。
契約モンスターによるカードデッキ所持者の捕食。
Lの意思とは無関係にそれは始まり、
ミラーワールドより現れたベノスネーカーが大口を開けて生身のLに襲い掛かった。
「フェイトさん! あなた……!」
予想よりも早かったカードデッキの制限時間。
自分の失態による代償は自分だけで良い。
Lは近くにいたフェイトを叫び声と同時に突き飛ばし、
そして大蛇の口の中に飲み込まれていった。
「……あ……ぁ……っ」
訳の分からない光景にただ言葉にならない言葉を発するフェイト。
自分の言葉を聞いてか、鎧を解いた目の前の男は突然現れたモンスターに食べられた。
確かに彼の言葉には何の感情も感じられなかった。
彼女の友達のような慈しみや優しさといった温かなものとは無縁に思えた。
だけどだからといって、彼はすぐ死んでいいような悪人とも思えなかった。
彼はこのゲームを止めようとしていた。
きっとそれはフェイトの友人である高町なのはもそう考え、行動しようとしていた立派な指針だ。
それを自分の言葉でもって死に追い詰めてしまった。
鎧を着ていれば、助かったかもしれないのにだ。
先程までの彼女であったなら、人の死に喜ぶ、とまではいかないにしても
自分の目的の為なら仕方ないと割り切ることが出来た。
しかし、既にLの言葉を聞いてしまい、
自分の目的に疑念を抱いてしまった今となっては
目の前で起こる人の死に対して、取り分け自分の責任によるものに対しては
そんな器用な考えなど出来るはずもなかった。
――ビチャッ
再びフェイトの口から吐き出される胃液と血。
虚ろな目でベノスネーカーを見上げながら、彼女はLの最後の言葉を思い浮かべた。
『フェイトさん! あなた……!』
彼は一体何を言おうとしていたのだろう?
フェイトさん、あなたを恨みます
フェイトさん、あなたを許しません
フェイトさん、あなたは最低の人間です
フェイトさん、あなたは友達に値しません
フェイトさん、あなたは……
無数の言葉が怨嗟の声となってフェイトを責め立てる。
彼女の目の前に築きあげられた屍が声をあげる。
幾ら耳を塞いでも、鳴り止まない2人の人間の慟哭。
そしてそんな彼女の目の前に親友である高町なのはがゆっくりと現れた。
『フェイトちゃん、人を殺しちゃったんだね』
「違う、違うよ、私は殺してないよ、なのは」
『違くないよ。フェイトちゃんは人を殺した。犯罪者でもない、フェイトちゃんのお母さんを止めようとしていたいい人たちを』
「だ、だって、だってそうすれば、なのはが!」
『本当にそう思ったの? フェイトちゃんなら少し考えれば分かったはずだよ。そんなのは無理なことだって』
「そ、それは……」
『それなのにフェイトちゃんは人を殺した。自分の為だけに』
「違う! 私はなのはの為に!」
『私の為? ううん、それは違う。フェイトちゃんは自分の為に人を殺した。私がいないと嫌だから、一人じゃ寂しいから。私のことを思うんだったら、私が人を殺すことを喜ぶと思う?』
「それは……なのは……」
『フェイトちゃんは卑怯者だね。私の為にと銘打って人を殺して、その責任を全部私に擦り付ける。ほんとフェイトちゃんは最低だよ』
「なのは、なのは……もう分かったから、それ以上は……言わないで」
『やっぱりクローンなんていう偽者じゃ本当の人間のようには考えることは出来ないんだよね』
「なのは、なの……は、お願い……!」
『フェイトちゃん、私はフェイトちゃんと友達になったことをすごく後悔している。フェイトちゃんなんかと友達になるんじゃなかった』
高町なのはそう言い、フェイトに背中を見せて、ビルの陰へと消えていった。
そんな絶望すべき光景を目の前にして、刺すようなどうしようもないほどの胃痛がフェイトを責める。
ありとあらゆる負の感情がのしかかり、身体を重くする。
それでも彼女は今ある現実を認めまいと、最後の藁を掴むように必死な想いで大切な人の名を叫んだ。
「なのは!!」
決して返ってこない高町なのはの声。無人の街に響く沈黙。
フェイトは絶え間なく押し迫ってくる胃痛に顔を歪めながら、
なのはが消えていったビルの陰へと走っていった。
「なのは! お願いだから返事して! なのは!」
フェイト以外に誰もいない空間は、それ自体が意味となって、彼女に痛切な言葉を送る。
自分は大切な友人に見捨てられたのだと。
もう自分には友達は一人もいないのだと。
「なのは……いやだよ……なのは」
波間もなく押し寄せる不安、寂寥感。
周りには誰もいない。友達にも捨てられた。
――自分は独り
それを意識した瞬間、彼女の中から急速に力が抜けていった。
そしてこみ上げる痛みを抑える力を失った胃は、再び血をフェイトの口から吐き出せた。
辺りに漂う胃液の臭いと地面を濡らす血の色は、如何に自分が惨めかを教えてくれる。
「もう……嫌だ……何もかも……嫌だ」
大切な友人たちを生き返らせるという目的に疑問を抱き、彼女は自分のすべき事を見失った。
そして既に人を殺した彼女には、もう大切な友人たちと一緒にいる資格を失った。
彼女に残ったものは、自分の存在への疑問。
こんな自分に果たして生きている価値はあるのだろうか。
彼女はビルの一角で涙に暮れながら、現実から逃げるかのように意識を失った。
&color(red){【L@L change the world after story 死亡】}
【1日目 午前】
【現在地 G-3】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】魔力消費(中)、左腕に軽い切傷(治療済み、包帯代わりにシーツが巻かれている)、胃潰瘍、気絶
【装備】なし
【道具】支給品一式、医療品(消毒液、包帯など)、パピヨンスーツ@なのは×錬金
【思考】
基本:???
【備考】
※もう一人のフェイトを、自分と同じアリシアのクローン体だと思っています。
※はやての一人はクローンなのではと思っています。
※新庄は死んだと思っています。
※自分の存在価値を見失っています。
Lを飲み込んだ後、ベノスネーカーは恐怖に震えてか、独り言を口走る少女、フェイトを威嚇しながら見据えた。
既に蛇の腹は膨れた。だが、まだ戦闘によって負ってしまった傷を癒すには餌が足りない。
そう思い、逃げ出した少女を喰らわんと、その身を襲い掛からせようとするが、何故か身体が動かない。
やがて首を傾げるベノスネーカーの疑問に答えるかのように、その腹で太陽のように輝きだすΔの文字。
そして次の瞬間、ベノスネーカーの身は突き破られた。
ドッッッッッッバ――――――――z__________ッッ!!!!!
突如、大蛇の腹の中から現れる黒い影。
漆黒のライダースーツを身に纏い、深紅の両眼を飾る不敵な輩。
その名は――
「どうも、仮面ライダー エルです」
片方の足で残った足を掻きながら、面倒くさそうに呟かられる声。
仮面ライダーデルタに変身したLその人であった。
「まさかミラーモンスターの腹の中でデルタに変身するとは思いませんでした。
これには賭けである部分が多分に含まれていましたが無事に終わって何よりです。
ところでフェイトさんは無事で……?」
フェイトに心配の声を配ろうとするが、肝心のその人物がいない。
念のために辺りを見回してみるが、人影一つ掴めない。
「フェイトさん、あなたはそこで少し待っててください、と言おうとしたのですが、
どうやら先程の私の言葉は上手く伝わらなかったようですね。残念です」
ライダースーツ越しに頭を掻きながら、誰もいなくなった彼方を見つめる。
とはいえ、一先ずは彼女のゲームに乗るという気持ちを削いだことは確かなので、
エルはそれ以上彼女に気持ちを向けることをやめた。
そして粒子となって霧散していくベノスネーカーを後ろでに、エルはトレーラーに戻っていった。
これでフェイトの襲撃、ミラーモンスターの脅威も一体退け、エルの前の道は開かれた。
しかし改めてトレーラーの現状を見つめて溜息を一つ。
走行には問題ないようだが、辺りに散らばる瓦礫がそれを許していなかったのだ。
エルは大きな瓦礫を一つ持ち上げ、一人呟く。
「アレックスさんの時といい、私はここに来てから、瓦礫の掃除しかしていないような気がします」
心なしか重くなった瓦礫を手に最後にもう一度エルは溜息を吐いた。
&color(cyan){【L@L change the world after story 生存確認】}
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