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少女の泣く頃に〜神流し編〜 ◆WslPJpzlnU




 空の暗さが今が夜であるという事を示す。
 何処までも続く夜空、それを遮るものは一つとしてない。雲も星も無く、夜空のみが満面と広がり、満月だけが淡い光彩を滲ませている。
 夜とは暗いもの。しかしその中にあって、特に暗い夜と言えた。
 そんな暗黒の中でも、ことさら暗い部分がある。
 光を貪ろうと、四方に食指を広げたもの共の密集地だ。そこは例え日中であっても薄暗いだろう。ましてや夜中ともなれば、夜空よりも暗い空間を生み出すのは自明の理だ。
 もの共の名は樹、密集した空間は森と呼ばれた。
 枝という喉が、葉という唇が、そしてそれらが幾重にも重なった深緑の天井が、月光さえも遮る。
 雲と星を欠いた空の下、そこにある森もまた、欠落を持つ森だった。
 あらゆる存在感が無いのだ。
 足音、鳴声、気配。虫でさえも、その存在を感じる事は出来なかった。
 まるで箱庭。生き物の住処としてではなく、何か別の目的を果たす為に造られたかのようだ。
 それを構成する木々の間を抜けていくと、開けた場所に出た。
 小石と砂利で舗装された川だ。水は底が透けて見える程の清涼、光の加減で僅かに夜空を映す。それらが気休め程度に森を二分していた。
 その川辺に一つの影が、否、人影がある。
 細身の少女であった。
 年頃は十代後半。引き締まった長い両脚に、白過ぎる肌と橙色の長髪が日本人に非ざる事を証明する。
 どうやら衣服は学生服のようだ。シャツの上にベージュの上着を重ね、長袖の端はミニスカートと同じ黒。首輪の嵌った喉元は襟が囲い、緑のネクタイには金色の刺繍が縫い付けられている。
 少女は素足だった。脱がれた靴下は革靴の中に押し込められ、デイバックと共に腰掛けた川縁に揃えてある。カモシカを思わせる両脚は膝辺りまで川水に浸っていた。
 僅かに俯いた少女の顔、そこには悲しげな表情がある。眉尻と瞼が下がり、僅かに開いた唇が赤い舌を覗かせた。
 川に脚を浸し、悲しげな表情を浮かべる月下の少女は、一つの絵画のようですらある。
 静寂が続いた。少女は声も身じろぎも無く、川と枝葉の鳴らす音の中に身を置く。
 それがどれ程続いただろうか。呆然とした様に、少女は呟いた。
「…………なんで」
 悲しげに、憂鬱げに、
「なんでこんな事になってるんだろう――――」
 少女、シャーリー・フェネットは呟いた。 

     ●

 シャーリーが覚えている最後の光景は、母の泣き顔だった。
 その電話がかかてきたのは、ナリタで黒の騎士団とブリタニア軍が戦ったすぐ後の事だ。
 電話に出て幾度か受け答えをして、そして受話器を取り落とす母。どうしたのか、と訪ねた私を見る母の顔。その目尻から零れる一筋の涙。紡がれた言葉は、

――――お父さん、死んだんですって

 感情も何もない、空虚な呟きだった。
 その時シャーリーは、それがどういう意味なのか理解出来なかった。ただ視界が暗くなって、両脚から力が抜けるのを感じた。
 そして再び視界を取り戻した時、自分はあの場所にいた。
「……………ぁ」
 プレシアと呼ばれた女性、自分と同様に縛りつけられていた者達、そして殺された女性。思い出した記憶に背筋が震える。
 自身を浅く抱き、しかし寒気はシャーリーの体から抜けない。
……死んじゃった……
 少し歳上だっただろうか。彼女は、突然殺し合えと言って来たプレシアにつっかかり、首から上を失った。散った金髪は、自分と同じブリタニア人を思わせる。
 またなのか、と思う。
 ナリタの戦いが起こる前に、自分が巻き込まれたイレブン達の蜂起。河口湖のホテルに閉じ込められ、人質にされたあの事件。
 ブリタニア人が殺されるこの状況は、あそこでの出来事を思い起こさせる。
「……またイレブンの、報復なの?」
 しかしあのプレシアという女性もまた、ブリタニア人に見えた。
 ならばこれは報復活動ではないのか。
「わけ分んないよ」
 目元に熱さを感じ、シャーリーは首を埋めた。
「――助けてよ、ルル」
 呟いたのは片思いの少年、ルルーシュ・ランペルージの愛称。
 成績優秀で、格好も良くて、そのくせ飄々として変な事ばかりして、いつの間にか好きになっていた少年。
 彼に助けて欲しかった。
「ルルぅ……」
 シャーリーは身を回し、脇に置いたデイバックに手を伸ばした。
 既に開かれたデイバックからは、一冊のファイルがはみ出している。それは先ほどシャーリーが手に取った、参加者名簿と銘打たれた物だ。
 それを開けば、人名と思しき字の羅列が見開きで広がっていた。中にはシャーリーの名が、そしてルルーシュの名がある。
「ううん、それだけじゃない」
 同じ生徒会に所属する友人、カレン・シュタットフェルトとスバル・ナカジマ。
 そしてスバルの縁者だろうか、ギンガ・ナカジマという似通った名前もそこにはあった。
「みんな、大丈夫かな」
 カレンもスバルも、特にルルーシュは死んで欲しくない者達だ。
 助けて欲しい。でもそれ以上に、一緒に生きて帰りたいと思う者達だ。
「泣いてる、かな? 私みたいに」
 病弱なカレンは泣いているだろう。スバルもきっと泣いている。妙に小柄な彼女は、どうも自分達よりも年下に思えてしょうがない。
 だが、
「……きっとルルは、泣いてないよね」
 ルルーシュが泣く所を想像しようとして、思わず笑ってしまった。
 あの生意気で傲慢ちきなルルーシュが、死ぬかもしれない場所に送られて、それで泣くだろうか。
「きっと……、ううん、絶対泣いてない」
 今頃あのよく回る頭で、生きて帰る方法を捻り出そうとしているだろう。否、もう思いついているかもしれない。
「ルル、すごいもんね」
 気がつくと笑みが零れていた。
 現金なものだ、とシャーリーは思う。好きな人の事を思うだけで、こうも気が軽くなるなんて。
……ルル……
 再度思う、片思いの少年の姿。
 その思いに一つの願いが生まれてきた。それは、
「――生きて会いたいよ、ルル」
 再会し、そして共に生きて帰りたい、そういう願い。
 それを呟いてシャーリーは決意する。その願いを叶えるという決意を。
「泣いてるだけじゃ、私らしくないもんね」
 そう、シャーリー・フェネットという人間は、泣いて踞って好きな人の助けを待つだけの女じゃない。
「……私が助けちゃうんだから」
 ルルーシュが良いのは顔と頭だけなのだ。運動はてんで駄目な彼には、きっと自分が必要だ。
 そう思い、だからこそシャーリーは立ち上がる。
「うん、私、頑張るっ!」
 なけなしの意思を掻き集め、シャーリーは自身を奮い立たせた。
 友人達と、好きな人と一緒に、生きてここを出る為に。彼等を探すべくシャーリーは面を上げる。
 そして、
「あ」
 見た。
 自分とは川を挟んで対岸に立つ、一人の男を。
「ヤハハ」
 上半身を露出した、異様に耳たぶの長い男は笑う。
「こんな近くにいるとは。――女、お前は神に愛されているぞ?」

     ●

 エネルは不機嫌だった。
 森林を歩く彼の顔は一見すると無表情、しかしそれは苛立ち故のものだと気配で解る。
……あの女め……
 プレシアと名乗った女。彼女の前に引き出されたのは、丁度“限りない大地”に降り立った直後だった。無礼な鉄の船を落とし、問い質してきた白服の女と対峙したその瞬間、エネルの視界は暗転した。
 そしてどういうつもりなのか、殺し合え、と命令されてこの大地に放り出された。ご丁寧にも、その命令に従わせる為の首輪までつけられて。
 しかも首輪のせいか、はたまたプレシアの小細工なのか、“心網”の具合が悪い。どれだけ神経を集中させても範囲が広がらず、解るのは意識の場所ばかりでその思考を読む事が出来ない。
「……無礼者め」
 神に向かって何様だ、エネルはそう思う。
 不愉快極まりない状況だ。しかし、全く救いがない訳ではない。その救いを確かめるべく、エネルは大地を踏みしめた。
「ヴァース、だな」
 かつて自分が支配していた“神の島”、そこにあった土と全く同じ感触だ。ならばここにある大地、土は本物という事か。
「“限りない大地”とは違う……が、これもまた神の所有物よ」
 ならばこれを手に入れる。そして、ここを足がかりにしてあの“限りない大地”を目指す。
 それがエネルの定めた目的だった。
 そしてその為に、プレシアの命令に乗ってやる事もやぶさかではない。
「だが、覚悟しておくがいいさ」
……全ての者共を裁き、お前が出てきた折りには……貴様にも神罰を下してやる……
 参加者、主催者もひっくるめた皆殺し、それがエネルの当面の目的となっていた。
 その為にもまず、自分以外の参加者を求める。制限を受けた“心網”だったが、人探し程度ならば問題は無い。尤も、それがどんな者なのかは会わねば解らないが。
 そうしてエネルは感知した意識の元へと歩き始め、そして橙色の長髪をした少女と出会った。
「あ」
 眼前に広がる川、その彼岸寄りに立つ女がこちらを見て間の抜けた声を漏らす。
「ヤハハ、こんな近くにいるとは。――女、お前は神に愛されているぞ?」
 その様子をエネルは笑い、行動に移った。
 川縁まで寄ってしゃがみ込み、そして人差し指を川水に差す。
……この程度ならば問題はあるまい……
 水に浸った事で脱力を感じるが、指先だけならば微々たるものだ。
 不思議そうな顔でこちらを見る女、それにエネルは笑い返した。愚か者に向ける、嘲笑を。
「――“放電”」
 瞬間、川が輝いた。

「!!!!?」

 ば、という空気の破裂音、そして水面に微細な稲妻が走る。苛烈な閃光が闇夜を裂き、森林を一瞬照らした。その一瞬後には、ぼ、と気化した川水が立ち上る。
 超高圧の電気、その熱量によって一帯の川水が蒸発したのだ。
「ヤハハ、死んだか?」
 エネルは立ち上がり、白煙の向こうに消えた少女の行く末を思う。
 ゴロゴロの実。喰った者にその体を雷に変化する能力を与える、“自然系”系の悪魔の実。
 それがエネルの持つ最大の力だった。
「ん〜? いささか威力が低いな」
 もう少し威力を上げたつもりだったのだが、これもプレシアによる制限の一環だろうか。
……まあいいさ……
 幾度か腕を振って噴煙を払い、彼岸を見やる。
 そこには、先ほどの少女が尻をついてこちらを見返していた。
「あ、あぁ、あ……」
「寸前で岸に上がったか? 恐怖を延ばす事も無かろうに、愚かな娘だ」
 少女の瞳に宿るその感情に、エネルは満足げに頷く。
……そう、それこそ神の象徴だ……!
 人は理解出来ぬもの、圧倒的に強いものを恐れる。その思いは相手を神格化し、神を讃える。
……恐怖こそが神! 最も恐れられる私こそが、神なのだ……!
 エネルは川を飛び越え、尻をついたまま後ずさる少女の目前に着地する。そして再びしゃがみ込んで少女を覗き込む。
「ひ……っ」
 息を漏らした彼女の顔、それを眼前にしてエネルは笑む。
「怖いか? 女」
 問うた直後、エネルの右手が少女の首を掴んだ。
 そうして立ち上がれば、少女は首を支点にしたぶら下がり状態。首に発生した痛みと締め付けに苦悶が零れる。
「あ、ぐ……っ!」
「ヤハハハハ! だから先ほどので消えれば良かったものを」
 親指を立てて少女の喉元を撫でる。
「解るか? 私は雷なのだ。今この状態で、私が腕を雷に変えれば、どうなるか解るか?」
「…………っ!」
 エネルの言葉に少女は息を飲んだ。そして反抗、細腕がエネルの腕を掴む。
 しかしそれは無意味だ、とエネルは思う。鍛え上げられたエネルの豪腕は、ほっそりとした少女の腕力でどうにか出来るものではない。
「……っ! っ!! ……っ!!」
 少女は必死に抵抗している。エネルの腕を掴み、叩き、掻き、抓り、宙ぶらりんの両脚をばたつかせる。
 だが全てが無意味だ。
……神を前にして、人間がどれ程抵抗しようと無意味なのだ……
 それでも必死な少女の様子に、エネルは暗い歓び、加虐の楽しみを見出す。圧倒的戦闘力で弱者を嬲る、これもまた神の余裕、たしなみだ。
「さあ死ぬが良い」
「……っっ!!」
 首を掴む手に力を込め、より一層締め上げてやる。
 そして、その苦しみからかだろうか、はたまた恐怖からだろうか。
「…………ぁ、ゃ……っ」
 少女は泣き出した。大粒の涙が頬を伝い、狭まった喉で精一杯の嗚咽を漏らす。
「ヤハハハハハハッ! そう、その表情だ! 神への畏敬を胸に抱いて死ぬがいい!!」
 エネルは哄笑し、そして意識を働かせる。自身の右腕を、雷電へと変化させる為に。
「“放……」
 言葉と共に、エネルは右腕を変化させようとした。
 だがその時、予期せぬ事態が起こる。
「やああぁぁ―――――――っ!!!」
 少女がその両脚で、エネルの胸板を蹴り飛ばしたのだ。

     ●

 ある意味それは、当然の事態だったのかもしれない。
 誰しも死を目前にすれば、火事場の馬鹿力の一つや二つは発揮するものだ。
 その瞬間、シャーリー・フェネットの両脚は水泳で鍛えられた強靭な脚力を発揮し、エネルの胸へと伸びた。
 だがそれだけならば、シャーリーが助かる見込みは無かった。
 一般人の脚力に必死が加わった程度で揺らぐ、エネルの体ではないのだ。そもそも体を雷に変える事が出来る彼に対して、物理攻撃は自滅を招くだけだ。
 しかしこの時、幾つかの事実が奇跡を起こした。
 事実その1、制限により、エネルの胴体は雷に変化する事が出来なかった事。
 事実その2、エネルはシャーリーの抵抗を、雷に成って自滅させようとしていた事。
 事実その3、エネルが立っているのは、小石や砂利が積もる不安定な川辺であった事。
 事実その4、エネルの背後には川があり、その水量は蒸発する以前の状態にまで回復していた事。
 エネルの身を取り巻く、この4つの事実が要因となって一連の結果が生まれる。
 打撃を受け流すつもりだったエネルは、脚にふんばりをかけていなかった。
 そこへ、無効化される筈の蹴りが突き刺さった。
 エネルは驚きつつも耐えようとした。
 しかし足裏は小石と砂利に滑り、体は後方へと倒れる。
 そこには水量が回復した川、悪魔の実の能力者にとって弱点である、水溜りへと倒れる。
 じゃぼーん。



【1日目 深夜】
【現在地 B-7 川】
【エネル@小話メドレー】
【状態】脱力、川を流れている
【装備】無し
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
 基本 主催者も含めて皆殺し、この世界を支配する
 1.ち、ちからが入らん……
【備考】
 ※自身の制限に気付きました。
 ※悪魔の実の能力者の弊害として、水没による極度の脱力状態です。割とピンチです。
 ※川への放電により、A-7〜B-7の河川に発光現象が発生しました。周囲に参加者がいた場合、気付いた可能性があります。

     ●

「え、えぇと……?」
 予想外の結果にシャーリーは呆然とする。
 つい先ほどまで自分を殺そうとしてた半裸の男を、シャーリーは抵抗のあまりに蹴り飛ばした。だがそれで事態が打破出来るとは思っていなかった。むしろ徒労に終わると思っていた。
 しかし結果はどうだ。自分は男の手から逃れ、そして川へと倒れ込んだ男は、
「お――――――――――の――――――――――れ――――――――――――――――……………」
 妙に脱力した声で、川を流れていった。
……泳げば良いのに……
 そうでなくとも、この川は脚がつかない程の深さは無い。ただ立ち上がるだけで、事態は回避出来るのに。
 何故それをしないのか、シャーリーには理解出来なかった。
 理解出来るのは、自分が死を免れたという事実だけだ。
「た、助かった……」
 胸一杯に感じる安堵、思わず全身の力が抜けてシャーリーは川辺にへたり込む。
 と、
「…………………………………………じめぇっ?」
 何だろうか、内股に冷たさを感じた。いや、太ももの辺りまでそれはある。
 まるで何か濡れたような感覚、しかし自分はさっきの男とは違い、川には落ちていない。
 では何だろうか、と思い、
「――まさかっ!!」
 思い至った予想に、シャーリーはミニスカートをまくり上げた。周囲に人がいないので、はしたなさは取り合えず度外視だ。
 そして目に入ったのは、脚の付け根を覆う逆三角形の布。
 だがそれはシャーリーの知っている色とは違っていた。白かった筈のそれは、今は水分で黒ずんでいる。そして両の太ももには、やや黄味を帯びた液体が付着していた。
 それが何なのか、シャーリーは見当をつけていた。
……わ、わわ、わたしっ、怖過ぎて、し、し、し、しっき……
「ん」
 思わず単語の語尾を呟いた直後、周囲の森林に少女の絶叫が響いた。



【1日目 深夜】
【現在地 B-7 川辺】
【シャーリー・フェネット@コードギアス 反目のスバル】
【状態】健康、恐慌
【装備】濡れたパンツ
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考】
 基本 ルルーシュ達と一緒に帰りたい
 1.いや――――ッ! 乙女の尊厳が――――――――ッ!!
 2.ルルを探さなくちゃ
 3.スバルとカレンも探さないと
【備考】
 A-7〜B-7にシャーリーの悲鳴が響きました。周囲に参加者がいた場合、気付いた可能性があります。



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GAME START エネル Next:駆け抜ける不協和音
GAME START シャーリー・フェネット Next:誰がために彼の者は行く






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