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悪魔とテロリスト ◆Qpd0JbP8YI




夜の暗さに拍車をかける鬱蒼と茂る林の中で、
一人の少女の瞳には誰にも負けない意思の輝きが放っていた。

許さない。

意思の輝きと共に発せられるのは、炎のように燃え滾った感情。
それが彼女の心を支配する絶対的な気持ちだった。
人一人を簡単に、それも惨たらしく殺し、
それでも尚飽き足らず娘のフェイトを含めた大勢の人たちに殺し合いをしろという。
その言動は高町なのはが信ずる正義の中に当然納まるはずもなく、
自然とこの殺し合いに対する強烈な叛意を内に養わせていった。


そしてそんな気持ちと共になのははプレシアについて幾つかの疑問を感じていた。
何故プレシアが生きているのだろうか。
なのはが最後にプレシアを見たのは、
彼女がジュエルシードと共に虚数空間に落ちいていくさまだった。
虚数空間では魔法は使えない。
よってどんな魔導師でもそこに落ちたら、帰り着くことは不可能だ。
つまり、それは魔導師にとって死を意味することになる。
普通ならそれで終わりだ。
だけど、たった一つだけなのはには帰ることができる可能性に思い当たることがあった。

それはアルハザードへ到着。
リンディ提督も何となしに呟いていたのをなのはは覚えていた。
プレシアほどの大魔導師ならアルハザードへの道のりを知っていたのではないか、と。
そしてそこに辿り着いたのなら、かつて次元世界を席巻していたというその技術によって
帰還が可能となるだろう。
しかし、それでもなのはには不思議な事があった。

「アルハザードの技術でもアリシアちゃんを蘇らせることが不可能だったのかな」

プレシアが何故アルハザードを目指したのかといえば、
娘のアリシアを蘇らすことにあった。
そしてそこに無事に到着したのなら、アリシアを蘇生すればいい。
だけど実際にプレシアがしていることといえば、酔狂ともいえるこんな殺し合いだ。
当然、なのはには納得がいかないことだった。

「それともこれがアリシアちゃんを蘇らすことに繋がるのかな」

なのはは幼い脳で考える。
だけど、この殺し合いによって誰かが蘇るというのには、どうにも想像が及ばなかった。
尤もアルハザードの技術自体知らないなのはには、確実なことは言えない。

「それともこれがアルハザードへ行くための道のりなのかな?」

アルハザードへ到達したという可能性を捨て、また別の考えを抱く。
アルハザードに似た世界に落着し、そこにアルハザードへ道のりが記されていた。
何となく気持ち的にこちら方が正しいような気もしたなのはだけど、
人が殺しあうことによって生じる道というのも、やっぱり想像がつかなかった。

「やっぱりちゃんとお話したいよ」

なのははプレシアに話しかけるように、呟いた。



しばらくプレシアについて思いを巡らしていたなのはだったが、
やがて今がどういう状況にあるか再度認識するに至る。
そして今までの時間を取り戻すかのように慌ててバッグの中身を確認。
なのはは辺りの気配を窺いながら、手早く名簿に目を通した。
そこには自分の知り合いである人たちがたくさんと記されていた。
そのことになのはは自然と胸を痛める。
そして先の会場でも気になったことだが、自分を含め、フェイトとはやての名前が二つあった。
今より大人の自分に、今より大人のアリサにフェイト。
それを確かに彼女は見た。
それもプレシア同様に幼いなのはを悩ませる問題だった。


あれを本当の自分だと仮定し、未来の自分だと考えてみる。
彼女があそこいるということは、今の自分は死ぬことはないということだが、
それはつまりこの殺し合いをから抜け出してたということになり
プレシアを逮捕するに至ったということになるだろう。

だけど、それならば今、自分が経験していることは起こらないはずだ。
いや、過去のプレシアが行ったことだから、覆すことができないのだろうか。
それとただも単純にプレシアを取り逃がしただけなのだろうか。

だけど、この殺し合いが行われる場所が分かっているのだから、
そこを張り込んでいれば、防げるような気が…………。
いや、でも…………。

一つの答えを出し、一つの疑問を生み出し、
それに対する答えを導き出したところに、また新たな疑問が浮かぶ。
その絶え間ない連鎖にやがてなのはの脳は限界を迎えた。

「あぁ〜、もう訳分かんないよ〜」

なのはは頭を掻き毟りながら、その幼い顔を少し歪めた。
そしてそれを嘲笑うかのように夜風がなのはの顔を吹き付けていた。


しばらく風を受け、佇むなのは。
そこで思考の海に埋没して、自分の道を見失っていることに再び気がついた。
そしてそこで心機一転とばかりに、支給品の武器に目を向けた。
宛がわれたのはデバイスらしきカードだった。

「これは……インテリジェント・デバイスかな? あなたのお名前は何ていうの?」

沈黙。なのははほんの少しいたたまれない気持ちを味わった。

「そう、ストレージ・デバイスだね!」

そう言うやいなやなのはは左手に持ったカードを天高く掲げる。
そして自身に内に沸き起こった恥ずかしさを振り払うかのように叫ぶ。

「それじゃあ、お願い! セーット、アーップ!」


そう言ってなのはが言葉を発した途端、暗い夜に柔らかい光が煌々と放たれた。
彼女の服は瞬時に分解され、露になったその裸体にバリアジャケットが身に付けられていった。
そうして白い服を纏ったなのはの手に現れたのが、一本の杖だった。

「これはクロノ君の……デバイス?」

そう言いながらデバイスを仔細に見つめるなのは。
これが執務官クロノ・ハラオウンの持つデバイスなら文句はないだろう。
だが、何分初めて手に持つデバイスだ。
どういった役割を持ち、どういった距離で戦うことを前提にして作られているか
そしてこのデバイスはどれほどの性能を有しているかを確かめてみなければならない。
いつ戦闘が始まるともしれないこんな状況では
そういった確認を早急に行うのは当然のことだろう。

そして彼女は魔法の発動に準備を整える。
唱えるのは、ディバインシューター。
大した魔力消費もなく、使い慣れた魔法だ。
それ故にデバイスがどういったものであるかを知るのにはうってつけだった。
澱みなく魔力は流れ、魔法はついに形を成す。

「シューートッ!」

ピンク色に輝く10にも及ぶ光弾は、木々の間を縫うように進み
50メートルほど先の木にぶつかり、弾けた。
威力は下がっているようにも思えるが、大した問題はないだろう。
結果は良好だった。
魔法の発動に滞りもないミッドチルダ式のデバイス。
レイジングハートみたいに意思のやり取りが出来なくて寂しい思いはするはが
これならきっと自分の全力に耐え切ってくれるだろう。


支給品に何が当てられるか不安だったが、どうやらそれは彼女にとって杞憂のようだった。
無論、パートナーのレイジングハートが手に入らなかったのは彼女にとって残念なことではあったが
差し当たっての不都合はない。


これで武器も確認したし
この殺し合いにおいて叛意を告げる意気込みも問題ない。
幾つかの疑問がまだなのはの頭に残っていたが、
それも当の本人から話を聞けば問題ないだろう。
そして決意も新たに彼女は足を進めて、
――木の根に引っかかりこけた。


にゃはは……


自分のそそっかしさを、そう自嘲しようとしたところで
S2Uの警告声が響いた。


「Caution!」


なのはは急いで立ち上がる。
しかし、倒れていたせいか、初動がおくれ
相手の接近を許してしまう結果となった。
なのは緊張した面持ちで相手を睨みつける。
いつでも魔法を発動できるように準備して。


「子供? それも日本人?」


しかし予想と違ってかけられた声に
なのはの緊張はほんの少しだけ解けた。



*    *





幾つもの戦闘を経験し、幾つもの死を見てきたカレンにとっても
今起こった状況に対しては理解が及ばなかった。

いつの間にか訳の分からないところに呼び出され、
誰とも知らない女の死を見せ付けられ、
その挙句、殺しあえという。

率直に言って意味が分からなかった。

例えばカレンが行う戦いは世間からはテロと誹謗されることはあれど
日本を解放するという目的があった。
そしてカレンが見てきた死というものも
その目的のために礎となった意味のあるものであった。


だが、この殺し合いというものにも先の女の死にも意味が見出せない。


このような他を省みない野蛮な行いは侵略者ブリタニアに似通っていて腹が立つ。
おまけにお前は飼い犬だともいうようにつけられている首輪は人としての矜持が許せない。
反骨心が湧かないわけがない。


だが、その一方でいつの間にかつけられた首輪に、今、自分がここにいるという状況は
彼我の戦力差を雄弁に物語っているものであった。
常に戦いに身を置いてきたカレンにはそれが痛いほど分かり、
そのことに思いがいくと自然と気が挫けてしまう彼女がいた。

無論、勝てないと分かっているからといって戦わないという選択肢はない。
ゼロが現れるまで、実際にブリタニアには負け続きだったし、
カレンもそれを否定するつもりはない。
だけど、そこには命をかけても成し遂げたいという目的があった。


日本解放。


それこそが至上の美酒であり、戦いの原動力でもあった。
だが、今この場では自分が命より大事と掲げる大儀に繋がるものはない。
カレンにとって自分の命より重いとされるのは日本解放であり、それを導いてくれるゼロだ。
ならば、それがない今は戦力の差に圧倒される現状、
つまりこの強いられた殺し合いを受け入れてしまってもいいような気がする。

幸いなことにここにゼロが呼ばれている様子はない。
名簿にもそれは記されていなかった。
この殺し合いとやらをどうしても躊躇う理由はない。
勿論、名簿に記されていたルルーシュ、シャーリー、スバルといった生徒会メンバーの安否は気になる。
だがそれも彼我の実力差を思えば、しょうがないように思える。


それならば、あいつの言葉通りこの殺し合いにのってみよう。


心の中で大きく呟く。
しかし、カレンにはそれも疑問に思えた。
この殺し合いの目的が分からない以上は、例え勝ち残ったところで自身の身の安全は保証されない。
そしてそれが正解とばかりにプレシアは最後に残った一人の処遇について言及していなかった。
優勝者を元の場所に還してくれるのであれば、カレンにとって言うことはない。
自分がいなくても、ゼロがいれば日本解放をやってくれるという確信はあるが
やはり自分がいれば戦力の足しにはなるだろうし、自負かもしれないがゼロも喜ぶと思うからだ。
それに何より亡くなった兄の為にも日本解放をこの目にしたいとカレンは思う。
だが、現状では元の世界に帰してくれるかどうかは判断できない。


つまり、今の段階ではあの女の思惑に乗るような積極的な行動はできないということだ。
するべきはこの殺し合いの目的、及び脱出ための情報の収集。
平行して主催者、参加者の情報も獲得といったところか。
他の参加者と一緒に脱出できるというのなら、別段文句はない。
しかし、それが叶わないとなれば、他の参加者との戦闘という選択肢が生じてしまう。
そうなった場合、有利に事を進めるためにそういった情報が必要なものとなるだろう。
そしてプレシアという名前だったか、あの女の情報があれば、
自分が一人で対峙した時にも足元をすくってやれるかもしれない。
ブリタニアにも似た蛮行をなす女だ。
それこそ情け容赦なく殺してやることが出来る。


当面の行動目標は決まった。情報収集だ。
勿論、既にこの殺し合いに乗った人がいるというのなら、容赦する理由はない。
自分ならそう遅れをとることもないし、黙して語らずといった手合いの遇し方も心得ている。
それに幸いなことに支給された武器の中には物々しい銃が含まれていた。
気に食わない女に支給された武器に頼るのも馬鹿らしく思えたが、
いつ襲われるともしれないこの状況では、文句も言ってられないだろう。


そしてそういった自分の気持ちを励ますかのように
林の中から光が自分の方に届き、人がいることを教えてくれていた。
カレンは警戒をしめしながらも情報を求めて歩いていった。



*    *




「それでお前の名前は高町なのはといったか?」
「あ、はい」
「そしてこの殺し合いには乗っていない。確かだな!?」
「はい! 間違いありません!」

屈託なく喋るなのはにカレンは警戒を解いた。
こんな子供に殺し合いが出来るはずがない。
そして同じ日本人がこんな所にさらわれているか事を知り、カレンの中には新たに主催者に対して苛立ちが沸いた。
それもこんな年端もいかない子供も攫ったとなれば、その怒りの度合いは計り知れないだろう。

「くそっ! あの女め!」

カレンは忌々しげに言葉を吐き捨てる。
だが一時の感情で目的を見失うほどカレンは未熟ではない。
すぐさま本題に話を移す。

「それでなのは! あのプレシアという女について何か知っているか?」
「あぁ、はい、でも……」

なのはには説明が躊躇われた。
管理局及び魔法の存在は秘匿事項だ。
それを知らない人にはそう簡単に話すべきではない。
だが、こんな差し迫った状況ではそんな暢気なこともいってられないような気もしていた。

「何だ!? 知っているのなら話せ! 人の命がかかっている状況なんだぞ!」 
「……そう、ですよね」

捲くし立てるカレンに怯んだからというわけではないが、
なのは知っていることを話すことにした。
彼女が言ったとおり、今は人の命がかかっているのだ。
自分の悠長な判断によって、それを疎かにしてはならない。

「あのですね……」

そう言ったところで、なのはの口は閉じられた。
新たな参入者が現れたのだ。


奥にある木の陰から現れたのは小柄な女の子だった。
見たところ、10歳より少し上といった程度だろうか。
タイトな青色のスーツを身に纏い、
目を見張るような銀髪が目を引いた。
片目に眼帯をしているのがひどく印象的だった。
そして容姿に似合わない鋭い目つきが剣呑な雰囲気を放っていた。


その参入者を得て、カレンは警戒を示した。
成るほど、確かに目の前の女は高町なのはと同年齢ぐらいの少女だろう。
だが、その身には人を殺したともいえるどこか危なげな雰囲気があった。

カレンは咄嗟に銃を構え、相手を牽制する。

「止まれっ!」
「随分と無粋な挨拶だな」

だが、少女は平然とそれを受け流し、皮肉を交えた挨拶をした。

「悪いけど、こっちも命がかかっているんでね」
「ご覧の通り私は武器をもっていないだろう。それでどうやって人を殺せという。
有利なのはお前であって、不利なのは私だ。それで何故怯えるほどの警戒感を示す?
恐いのならどこぞに隠れていればよかろう」

少女は両手を軽く上に挙げて、殺し合いに乗っていないことをアピールした。

「あの、カレンさん、落ち着いてください」
「その女のほうがよほど立派だな。姉として……いや、年長者として恥ずかしくないのか?」

カレンはそれを明らかな挑発としてとった。
だが、そこでそんな言葉に乗るほどカレンは愚かではない。
銃をより力強く構え、質問する。


「では、確認する!お前はこの殺し合いに乗っていないんだな!?」

「ああ、乗っていない。姉が一人、妹が一人参加しているのだ。
どちらも私にとって大切な姉妹だ。彼女たちに危険が及ぶような真似は出来ない。
それに……だ」

そう言いながら、彼女はバッグを開ける。
俄かにカレンの警戒心の度合いは跳ね上がる。

「待て! 何をする気だ!?」
「バッグを開けるだけだ」

少女は呆れたように呟く。


「そんなに心配ならそこの女に開けてもらっても構わない」
「なのはっ!」
「あっはいっ!」

なのははバッグを受け取り中を検める。
中から出てきたのは、工具に鍋やフライパンといった調理器具だった。

「私に支給されたものはどれもハズレだ。工具セットに料理セット、そして翠屋のシュークリームだったか?
どれも人を殺せるようなものではない」

「ふぇっ? 翠屋?」

なのはの呟きを無視してカレンは叫ぶ。

「なのは! 一応中身を確認して!」
「はい!」

そして一通り確認して、なのははカレンに告げる。

「どれもその女の子の言ったとおりです」
「そう」

そこでやっとカレンは銃を下ろした。

「全く心配性だな」
「うるさいわねっ!」

そして少女はなのはからバッグを受け取る。
何故か右手にフライパンだけを残して。

「それはしまわないの?」
「何か手に持ってないと不安でな」
「呆れた。あんたも随分と心配性なんじゃないの!」
「違いない」
「それであんた、名前は何ていうの?」
「チンクだ」
「チンク? 変わった名前ね。日本人でもブリタニア人でもない。
EUの人?」
「さあな。どこの国で生まれたかというのは知らないんだ」
「ふーん、あんたも苦労してるんだね」
「……それでそちらの女の子の名前は?」
「なのはです。高町なのは」
「高町……なのは、だと?」


その名前を聞き、今まで冷静とも言えたチンクは僅かに狼狽を見せた。
何故なら彼女の知っている高町なのはと目の前のなのはでは様相を異にしていたからだ。
確かにこのなのははチンクの知る高町なのはの面影を深く有していた。
茶色いの長い髪に、大きくてすんだ瞳。
そしてややもすれば同性でも見とれてしまうような愛らしい笑顔。
だが、それとて単なる印象の問題。
それがあの高町なのはであるという証明にはならない。
では、この少女が偽名を用いているということだろうか。
その考えは馬鹿らしく思える。
全次元において勇名、悪名問わずにその名を馳せる彼女の名前を
偽名として持ち出すには余りにデメリットが大きい。
何故なら名前と共にその顔も広まっているからだ。
そんな簡単にばれるような嘘をつくなど、それこそ馬鹿か狂人のすることだろう。
だが、彼女が馬鹿にも狂人にも見えないし、嘘を言っているようにも見えない。


それならば、彼女は一体何者であるか。
ドクター・スカリエッティの元にいるチンクには容易にその答えが思いついた。
この少女も恐らくはプロジェクトFの遺産なのであろう、と。
高町なのはは優秀といった言葉をそのまま体現したかのような魔導師だ。
なればこそ、ドクター以外にもどこぞの科学者や軍事機関が彼女のクローンを作り、
魔導師について研究をしたり、自軍の戦力の増強を図るというのは簡単に考え付くことだった。
そしてそれは名簿に載っていたもう一人のフェイトと八神はやてがクローンであると
喚起させるものであった。


「なるほど。お前が名簿に載っていたもう一人の高町なのはの正体か」

「ふぇ? もう一人の私を知っているんですか?」

チンクの思考を中断するように、なのはが訊ねてきた。

「お前は知らないのか……。成るほど」
「ちょっとあんた! 何を知っているの!?」

そこにカレンが割り込んできた。
先ほど年長者としての心得を授けられたせいだろうか
なのはを庇うように物言いだった。

「すまない」

だがチンクはそれを褒めるわけでもなく、一言謝るとすぐさまバックステップした。
そうして距離が出来上がると、彼女は右手に持ったフライパンをカレン目掛けて
軽く放った。

「一体なんのつもりっ……!!」


カレンは抗議の声を上げつつ、そのフライパンを手で振り払おうとした。
だが、彼女の声は最後まで発せられなかった。

「IS、ランブルデトネイター」

代わりに聞こえたチンクの静かな声
そしてそれと共にフライパンは爆発した。
振り払おうとした左手は爆発に巻き込まれ、
血と共にその肉を辺りに四散させた。
爆発の勢いはそれに留まることなく、
その余波によって身体までも後方に吹き飛ばされた。
その身は後ろの木へとぶつけられ、その衝撃の強さはカレンのうめき声によって知らされていた。
そしてそこに届けられる謝罪の声。

「すまない。気が変わった」

だが、そこに相手の許しをこうような姿勢はなかった。

「チンクちゃん! 何のつもり?」

なのははカレンに気を配りながらも訊ねる。
何故チンクがこんなことをするのか。
ちゃんと話を聞いて、彼女の気持ちを知りたかった。
願わくば、ただの誤解による出来事だと信じて。
だけど、なのはの耳に届けられたのは余りに予想とはかけ離れていたものだった。

「お前がプロジェクトFの遺産であるなら、持ち帰った方がいいと判断しただけだ」
「何を言っているの? 言っていることが分からないよ」
「本当に知らないのか? 呆れたやつだな」
「だから何を言っているの!?」
「お前がクローンだということだ」

言葉と同時にチンクはバッグから取り出した鍋を放る。
チンクの言葉に一瞬呆けるなのはだったが、すぐさま目の前の状況を理解。
それを爆発物と警戒したなのはは急いでシールドを張った。

「ラウンドシールド!」

だが、鍋はシールドにぶつかって地面に転がるだけであった。

「えっ?」

そんな疑問の言葉と同時に背後から衝撃を受ける。
その正体はなのはの後頭部を狙ったチンクの回し蹴りだった。
人の身を超えた戦闘機人の攻撃。
幾らバリアジャケットを着込んでいるからといって大丈夫であるという保証はない。
なのはは地面に顔をぶつけながら、吹き飛んでいった。
だが仮にもなのはもPT事件と闇の書事件で戦闘経験を積んできた身。
攻撃を受ける瞬間、身体を包むフィールド系の防御魔法で更にバリアジャケットを補強し、ダメージを和らげていた。
尤もそれで全てのダメージを緩和できたというわけではない。
脳に残る衝撃がまだなのはの身体との連絡を妨げていた。


「なるほど。腐っても高町なのはか」


そう言いながらチンクはなのはに歩み寄る。
なのはもよろめきながらも立ち上がろうとするが、
まだ身体が言うことを聞かない。

そこに突如として響く銃声。
見ればカレンが地面に倒れながらも銃を撃っていた。
地面に伏せての片手での射撃に、左手欠損による痛み。
そんな条件による射撃など大した精度は持ち合わせていないだろう。
だが、それがどうしたとばかりにカレンは気勢を上げる。


「日本人をっ!!!嘗めるなーーーーっ!!!」


気合と共にカレンは引き金を立て続けに引く。
しかし、チンクはそれを冷笑に付した。
彼女は戦闘機人だ。
幾ら質量兵器といえど、
普通の銃弾程度でどうにかなるようでは、最初から作られはしない。
そしてそれを示すかのようにチンクは佇み、言葉を返す。

「戦闘機人にそんな銃など……」

無意味。そう言おうとしたところで、チンクの言葉は止まった。
身体には確かに銃痕が刻まれ、その銃弾は強化フレームに食い込んでいたからだ。
チンクは舌打ちしながら、咄嗟に手近な木の陰に隠れる。

そしてそんなチャンスを見逃すほど、高町なのはの信念はゆるくない。
襲い掛かる身体の反抗を無理やり意思の力で押さえ込み、
すぐさまカレンの元にかけより、飛行魔法を発動。
脱出の準備にとりかかる。

チンクとて稼動歴の長い戦闘機人。
大人しくそれを逃すほど甘くはない。
すぐさま鍋の蓋を投げ込む。
だがナイフほど手馴れた投擲武器ではない故
狙いは甘く、飛距離も出なかった。
投げられた武器は高町なのはとカレンに届くことはなかった。

「やはり慣れぬ武器で戦うべきではないな」

そんな自戒の言葉を呟く。
まだろくに戦闘経験を積んでいないであろうクローンだ。
労せず捕獲できると思ったが、存外、相手も戦いを知っているようだった。
それに加えて自身の身体への違和感。
どうやらこの会場において自分の身体はいつもと違うようだ。
気がつかぬうちに、こんな所に呼び出されたのだから、そういった処置がされてないと言い切れないだろう。
そしてそれと共に首輪の不快さが増し、チンクを悩ませた。
この殺し合いとやらに呼び出された時は随分と自分の不覚さを呪ったが、
幸いなことにクアットロもこの会場にいた。
彼女ならこの首輪を解析し、取り外せると思い、
本来の任務を優先させてしまったが、少し早計だったかもしれない。
こんな制限がかかっていたら、クアットロも怪しいものだ。
いらぬ敵を作ってしまったな。
チンクは自嘲する。


そして溜息一つ吐き、放り投げた鍋を拾い上げながら
最後とばかりに逃げてゆく高町なのはを見やった。
だが、不思議なことに高町なのははある一点に留まっていた。
一体何をしているのだ。
そう疑問に思うと同時に高町なのはの魔力集束を観測。
チンクの顔に冷や汗が浮かぶ。

「まさか! まさか撃つのか!? あんなところから!?」

次の瞬間、限界点までに達した魔力の光が咆哮をあげた。

「ディバイーーーン!!バスターーーーーーーーー!!!」

聞こえるはずのない彼女の声と共に
強大な光の帯が一直線にチンクに向かい、飲み込んでいった。



*    *




なのはとカレンは夜空を飛びながら、病院に向かっていた。
人を背負っているせいだろうか、なのははいつもより飛行を困難に感じていた。
だからといって速度を緩めるわけにはいかないが。

「すごいね、なのは。空を飛べるんだ」
「はい。後でちゃんと話しますから、今はゆっくりしていてください」
「すごいね、なのは。あの攻撃」
「はい。それもちゃんと説明しますから、ゆっくりしていてください」
「なのはは日本人なんだよね?」
「はい、そうです。高町なのは。正真正銘日本人です。だから今は喋らないでください」

なのはの言葉と同時に後ろに背負ったカレンは口を閉じた。
気絶したわけではないみたいだが、容態が気になる。
急いで病院に向かうべきだろう。
そしてなのはを悩ますもう一つの懸念事項。

『お前はクローン』


そんな言葉が胸に響く。
自分にはアリサ、すずか、フェイト、はやて、それに家族との記憶がちゃんとあるし、
自分はクローンではないとも思える。
だけど、アリシアのクローンである親友のフェイトもアリシアの記憶をちゃんと有していた。
だとしたら、自分の記憶も偽りなのだろうか。
自分の名前が二つあったということはどちらかがオリジナルで
どちらかがクローンということなのだろうか。


私は一体誰なんだろう。



*    *




倒れた木と巻き上げられた土砂の下でチンクは笑っていた。

「成るほど。クローンが作られるわけだ。
非殺傷設定でなければ間違いなく自分は死んでいただろう。
想像してみろ。あれが10人、100人ともなり砲撃を加えてくるのだぞ。
それこそ管理局をねじ伏せ、次元世界全てを席巻できるほどの戦力だ。
ドクターの切り札であるゆりかごもそれには耐えられるかどうか」


そんな光景を頭に浮かべ、思わず身震いするチンク。
勿論、父の言葉どおりFの遺産、タイプ・ゼロの捕獲は続ける。
だが、もしあの暴虐ともいえる力が妹に及ぶのなら躊躇いはない。


殺してやるぞ、高町なのは。


【1日目 深夜】
【現在地 E−8】
【高町なのは(A's)@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(中)
【装備】S2U@リリカルTRIGUNA's
【道具】支給品一式、ランダム支給品0〜2個
【思考】
 基本 プレシアと話し合いをする
 1.カレンの治療
 2.仲間との合流
 3.もう一人の私に会って……

【備考】
 ※制限に気がつきました
 ※自分がクローンではないかと思い悩んでます
 ※パラレルワールドという考えには至っていません
 ※プレシアの目的がアリシアの蘇生か、アルハザードへ到達するためにあると思っています
 ※S2Uがなのはの全力に耐えられるかは分かりません



【1日目 深夜】
【現在地 E−8】
【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反目のスバル】
【状態】疲労(小)、重傷(左手欠損)
【装備】ヴァッシュの銃 (0/6)@リリカルTRIGUNA's
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜2個
【思考】
 基本 元の世界に帰る
 1.病院で治療
 2.なのはから情報を得る

【備考】
 ※なのはとチンクが普通の人間でないことに気がつきました
 ※ここが日本でないことには気がついてます
 ※異世界の存在には気づいてません
 ※参戦時期はSTAGE10でいなくなったゼロを追いかけていったところからです


【1日目 深夜】
【現在地 D−8】
【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(大)、身体の幾つかに銃創(戦闘にそれほど支障はないです)
【装備】鍋
【道具】支給品一式、工具セット、料理セット、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA's
【思考】
 基本 姉妹と一緒に元の世界に帰る
 1.クアットロに会い、制限の確認、出来れば首輪の解除
   姉妹に危険が及ぶ存在の排除
 2.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲
 3.機動六課を警戒
【備考】
 ※制限に気がつきました
 ※幼なのはがクローンであると認識しました
 ※この会場にフェイト、八神はやてのクローンがいると認識しました
 ※ディバインバスターの直撃を喰らいました
 ※しばらくは動けません
 ※料理セットは一人暮らしの人に向けて販売されている簡単な調理器具の一式です
 ※参戦時期はスバルのISを喰らって、生体ポッドで修理中の時です



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Back:特別捜査、開始 投下順で読む Next:Railway Track
Back:それは最悪の始まりなの 高町なのは(A's) Next:童子切丸は砕けない(前編)
GAME START チンク Next:コピーベントの罠! ナンバーⅤ危うし(前編)
GAME START カレン・シュタットフェルト Next:童子切丸は砕けない(前編)






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