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残る命、散った命(前編) ◆gFOqjEuBs6




「さて……どうしたものか」
真夜中の市街地に、銀縁の眼鏡を軽く押し上げながら、ぽつりと呟く男が一人。
彼の名前は金居。またの名をギラファアンデッド。
世界最大のクワガタムシと、その全ての仲間達の祖となった不死生物である。
彼の戦う理由は至って簡単。
最後の一人になるまでバトルファイトを戦い抜き、統制者によって与えられた万能の力で、クワガタムシだけの楽園を創る事。

人間達に捕獲され、子供達に命を弄ばれ、揚句の果てには針に刺されて標本にされる。
それが、彼の仲間であるクワガタムシ達の多くが歩んで来た末路。
地球の自然に生まれ、誰の力も借りる事無く、その生涯を終える事が出来るクワガタムシはこの世界でもほんの一握りのみ。
金居には、それがどうしても許せなかった。
何故人間達だけが繁栄を謳歌し、自分達クワガタムシは世界の隅に追いやられなければならないのか。
それだけならまだいい。何故クワガタムシ達は森で静かに、自由に生きる事すら許されないのか。
金居からすれば、人間に飼い馴らされ、クワガタムシの誇りを失った者に、最早生きている価値など無いのだ。
故に、こんな腐った世界を滅ぼし、クワガタムシだけの楽園を創ると誓った。
それなのに、世界を創り変える為の唯一のチャンスであるバトルファイトは人間やワーム等といった連中に邪魔をされ、
揚句の果てにはプレシアとかいう人間の女に呼び出され、互いに殺し合えと脅迫される。
プライドの高い金居は、それに屈辱を感じずにはいられなかった。
されど、この忌ま忌ましい首輪がある限り、金居はプレシアに逆らう事は出来ない。
もちろん、自分を含めたアンデッドに死という概念は無いのだが、それならばこんなゲームに参加する意味が無い。
恐らくはここで死ぬ事は、それ即ち“カードへの封印”を意味するのだろうと推測。
こんな所で、こんなふざけたゲームで倒されてしまっては、クワガタムシの楽園を創る等夢のまた夢。
だが、このデスゲームはアンデッド同士のバトルファイトとは訳が違うのだ。
このデスゲームはまさに、相手の戦力も解らない、サバイバルゲームも同然。

最強のアンデッドとして、人間共を皆殺しにするか。
もしくは、人間共と協力し、このゲームから脱出するか。
金居が取れる選択肢は二つだ。

もしも前者の行動を取った場合……。
確かに自分の命は安全だ。
だが、例え勝ち残ったとしても、それはプレシアの言いなりになったも同然。
プレシアに命を握られた状況は変わらないし、勝ち残ったからと言って、プレシアから解放されるとは限らない。
いや、寧ろ、もしも自分がプレシアの立場であったならば。
恐らく自分は、自分の掌で踊り続ける手駒をそう簡単に捨てはしない。
ましてやこのデスゲームに勝ち残る程の実力となれば尚更だ。
それに何よりも、プレシアの言いなりに戦うのは、金居のプライドが許さなかった。
故に、前者は却下。
次に金居は、後者の条件を思考し始める。  
もしも人間共と協力し、この首輪を解除することが出来たならば……。
まず第一に、プレシアに命を握られるという、この最悪の状況を打破する事が出来る。
そうなれば後は自由だ。自分は直ぐにでも元のバトルファイトに復帰させて貰う。
だがそのためには、この首輪を解除出来る人材を探さねばならない。
それは即ち、人間共と手を組まなければならないということ。
と言っても、元々金居は暫くは人間に味方する立場に居るつもりだったのだ。
今更人間と手を組むのを躊躇う必要も無い。
あと問題なのは、この首輪を解除する為の環境を揃える事。首輪を解除する為の施設、そして人材など。
上手くそれらを利用して、この首輪を解除。そしてこのデスゲームから脱出する。

こうして、金居の考えは決まった。
次に、プレシアに支給されたデイバッグの中身を確認。
中に入っていた物を物色した金居は、真っ先に2枚の紙——地図と名簿を取り出した。
まずは名簿を確認する。一通り目を通し、いくつか見知った名前を発見。
相川始、キング、天道総司。自分が知るのは、この三人。
その内一人は、仮面ライダー。あとの二人はアンデッド。
仮面ライダーはまだいい。問題なのは、二人のアンデッドだ。
この名簿に書かれている二人のアンデッドは、いずれもこのデスゲームにおいては最悪の部類に入る存在。
死神“ジョーカー”と、仮の仲間でありながらも、間違いなく質の悪さでは他の追随を許さない、スペードの“キング”。
このゲームもバトルファイトと同じであるならば、ジョーカーが生き残った時点で全ての生命は滅ぶ。
かといって、キングはアンデッドでありながら、自分の種族の繁栄を望まず、好き勝手な行動を取っている訳の解らない男。

———この中なら……仮面ライダーに味方するのが1番マシか。

以上の事実を踏まえた結果、金居は仮面ライダー側につくのが最善だと判断した。
理由は簡単な事。彼らは、人々を守る為に戦っているのだ。
人々を守る仮面ライダーが、こんなふざけたデスゲームに乗る事はまず有り得ないし、
何よりも彼らの戦う理由——“人々を守る為に戦う”という理由が解っているだけに、作戦も練りやすい。
次に問題なのは、自分の現在地。
ここはどこだ? 市街地だというのは明らかだが、それだけでは情報が少な過ぎる。
この地図を見るだけでも、一体どれだけ市街地が拡がっていると言うのだ。
地図上の実に半分以上が市街地では無いか。近くにある施設によって、作戦もまた変わってくるのだ。
故にここが何処だか解らないでは困る。

「チッ……どこなんだ、ここは……!」

金居が舌を打ち、地図を睨んだ———その時であった。
遥か彼方から、女性の叫び声と、銃声が響いたのは。
聞こえたのは、現在地よりも南。

——どうする? 正義の味方面して、行って助けるか……?

そんな事を考えると、不意に笑みが漏れた。
アンデッドである自分が、悲鳴を上げる人間を助けるだと?
これではまるで仮面ライダーではないか。正義と愛で世界を守る、奴ら仮面ライダーと何も変わらないではないか。
いつから自分はこんなにも甘くなったのだと、自嘲せずにはいられなかった。
だが、金居は決めたのだ。このゲームから脱出し、自分達の戦いを取り戻すまでは、人間に協力してやると。
自分達だけの——クワガタムシだけの楽園を創るまでの辛抱だ。
金居は、渋々ながらに歩き出した。叫び声が聞こえた方向へと。


F-2の北部に位置する喫茶店、翠屋。
何の皮肉か、この場所に転送されてしまった少女は、馴染みの深い喫茶店の椅子に腰掛けながら、目の前のテーブルにデイバッグの中身を拡げていた。
少女にとってこの店は、色々と思い出の深い店。何故なら、自分の両親が、自分の家族が営む喫茶店なのだから。
久々に帰って来れた実家の喫茶店。されど少女は、素直に喜ぶ事など、出来なかった。
少女は、サイドポニーに結んだ茶色の髪を揺らし、小さく、小刻みに奮えていた。
それは、果たして戦いに対する恐怖感から来る奮えなのか。
——否。少女の奮えは、深い怒りと悲しみから来るものであった。
彼女の名前は高町なのは。
時空管理局機動六課、スターズ分隊の隊長にして、先の戦争——JS事件を解決へと導いたスーパーエース。
魔導師としての実力は、恐らくこのデスゲームに参加している魔導師の中でも、1、2を争う程。
フェイト・T・ハラオウンや、八神はやてを除けば、彼女に単純な魔法の勝負で勝てる者など居ない。
しかし、実質最強である筈の彼女も、悲しまずにはいられなかった。
何が怖いという訳でもないが、泣かずにはいられなかった。
ならば、何故彼女がこうして啜り泣いているのか。

「うぅ……アリサちゃん……」

ぽつりと呟く、親友の名前。同時に零れ落ちた涙は、なのはに支給された銀のアタッシェケースを濡らす。
なのはが悲しむ理由。それは、その答えは、至って簡単な事だ。
“殺された”のだ。親友を。10年以上の長い付き合いを持つ、大切な親友——アリサ・バニングスを。
同じ管理局員から、影で“魔王”だの“冥王”だのと呼ばれていた高町なのはであるが、“鬼”では無い。
ましてや、心は優しかった少女時代から、何も変わってはいないのだ。
そんな彼女の目の前で、アリサは殺されてしまった。
無惨にも、首から上を爆ぜさせて。
手を伸ばせば届きそうなくらい、自分はそれ程にアリサと近い場所に居たというのに、何も出来なかった。
それを思い出すだけでも、涙はとめどなく溢れ出てくる。
自分は何も出来なかった。アリサを見殺しにしたのだ。
それだけで、凄まじい罪悪感が込み上げて来る。
そんななのはに、さらに追い打ちをかけるようにもう一つの考えが浮かぶ。

プレシア・テスタロッサは何故このふざけたデスゲームに、アリサを参加させたのか?

そんな理由は、参加者名簿に目を通せば、すぐに想像がつく。
アリサがゲームに参加させられ、殺された理由。
それは、自分やフェイトといった、魔導師組が参加しているからだ。
自分が知る限り、アリサは魔法とは何の関わりもない、普通の少女であった筈だ。
普通に生活し、普通に大学に通い、普通に恋をする。そんな至って平和な人生を送る筈だったのだ。
そんな彼女の人生を狂わせてしまったのは、まず間違いなく、自分を始めとした魔導師組との面識。
もしも10年前のクリスマスの日、自分達が魔導師であるという事実を明かさなければ。
もしも魔法など関係無く、普通の友達として接していたならば、アリサはここで命を失う事は無かっただろう。
結局全て、自分が原因なのだ。アリサがここに呼ばれる理由を作ったのも自分。
アリサを救えなかったのも自分。
そうだ。自分は、アリサに怨まれて当然の人間なのだ。
こんな自分は、アリサの家族にも、すずかにも合わせる顔が無い。
だが、それでもアリサは決して自分を怨む事も、責める事もしないだろう。
なのはが、伏せていた顔を上げると、心の中に、今は亡き親友の——アリサの声が響いた気がした。

『ちょっとなのは! こんなとこで私の為に泣いてる暇があったら、一人でも多く、他の誰かを助けに行きなさい!
 あんた誰かを助ける為に、誰かを護る為に、管理局ってとこに入ったんでしょ?』

「アリサ……ちゃん……」

『なら、いつまでもこんなとこで立ち止まってんじゃないの。行きなさいよ、なのは』

きっとアリサなら、なのはにこんな言葉をかけただろう。自分を責める様子も見せずに、きっと励ましてくれるだろう。
自分はいいから、他の誰かを助けなさいと。アリサはそんな、優しい少女だった。
それから暫く、なのはは泣き続けた。涙が枯れる程に、泣き続けた。
次第に、なのはの深い悲しみは、燃えるような怒りに変わっていた。
自分の中で、悲しみが怒りに変わっていくのは、なのはにも分かっていた。
アリサを救えなかった自分に対して、そして何よりも、プレシアに対して。
プレシアの魔の手から、アリサを救えなかった事。
それが、自分に限界があることを、知らさせる。
だが、それでも。アリサなら、もしもアリサならば例え限界が見えていたとしても諦めないはずだ。
火がついた心は、なのはの身体にも伝わっていった。
悲しみによる震えは、いつの間にか、怒りに震えに変わっていた。
プレシア・テスタロッサが憎い。殺してやりたい程に憎い。
だが、そんなことをしても、アリサは決して喜びはしない。
寧ろ、それこそアリサに責められるだろう。

ならば、どうすればいい?
この行き場を無くした怒りを、どこにぶつければいい?

その答えは、考えるまでも無かった。既になのはの心の中に、その答えは刻み込まれていたのだから。
プレシアが誰かの命を奪うというのなら、自分はそれをとことん邪魔するのみ。
誰かがプレシアの言いなりに戦おうとするならば、自分の全力全開でそれを止めて見せる。
もうこれ以上、誰にも自分と同じ悲しみは味わわせはしない。
自分の目の前で、誰一人として人を殺させない。
出来る限り全ての命を救い、生き抜いて見せる。このゲームから脱出して見せる。
そして、最後にプレシア・テスタロッサを逮捕する。
なのはの心に灯った小さな火は、燃え上がる願いに変わって、なのはの身体を走り出していた。

——絶対に、こんなふざけたゲームを止めてみせる……!

戸惑いも迷いも捨て、決して揺らぐ事の無い決意を胸に、なのはは立ち上がった。
これが何よりも1番に、死んで行ったアリサへの手向けになると信じて。

自分に支給された物の中に、デバイスと呼べる物は存在しなかった。
恐らくプレシアが言っていたように、一度全ての戦力を没収され、配り直されたのだろう。
しかし、武器が無い訳では無い。どうやらこの場所では、単純な魔法ならば、デバイス無しでも使えるらしい。
それに、いざとなれば目の前に置かれたアタッシェケースに頼ればいい。
アタッシェケースの中に入っていたのは、銀のベルトが一本に、ビデオカメラとグリップ式の携帯電話が一つずつ。
「ユーザーズガイド、取扱説明書」と書かれた小冊子付きで、この機械の特徴はすぐに掴めた。
なのはが1ページ目を開くと、いきなり踊った文字。“最強、それはロマン”。
その下に書かれていたのが、“DELTA GEAR”という製品名と、製品のコンセプト、そしてツール毎に分けられた目次。
それこそ各ツールに数ページに渡って説明されており、この機械の材質から各ツールのハードディスクの容量、その他の情報まで完璧に記されていた。
これでもかと言う程にこの機械の全容が詳しく書かれた冊子を、ぱらぱらとめくっていく。
この手の機械には正直興味を引かれる。だが、詳しく読んでいる時間はない。
故に細かく読む時間が無かったのが少し残念だが、今は贅沢は言ってられない。
やがて、ざっとではあるが、一通り冊子を見終えたなのはは、最後のページに小さく書かれた文字が、やけに気になった。

“デモンズスレート機能の効果は、変身解除後にも残る事があります。自身の体調・精神状態を考慮のうえご使用ください。”

以上。
なんだろう、これは? 
しっかりと読んでいなかったという理由も多分にあるが、最後のページに一々小さく注意書きされている意味が、なのはには理解出来なかった。
気にはなるが、今はじっくり読んでいる暇など無い。
もしもこれを読んでいる間に誰かが戦いを始めていたとしたら———
そんなことを考えると、非常に時間がもったいなく思えてくる。
故になのははすぐにユーザーズガイドを元のケースにしまい込んだ。
恐らくはどこかの管理外世界の軍事企業が開発した兵器なのだろう。説明書はまた後でも読める。
とりあえずはこの場所から移動しなければ。
こうしている間にも、戦いが始まってしまうかもしれないのだ。

それから準備を整えたなのはは、デイバックとアタッシェケースを手に、翠屋を後にした。
翠屋を出たなのはの顔には、既に涙は浮かんでいない。
代わりに、今は亡きアリサの想いを胸に宿したなのはの瞳は、揺るぎの無い信念に燃えていた。
そんななのはの耳に、銃声と叫び声が聞こえて来たのは、それからすぐの事だった。
もちろんなのはの心に、それを無視するという選択肢は有り得ない。
気付いた時には、なのはは走り出していた。

——待っててね……すぐに私が行くから……!



「そんなところで何をしている?」
「……えッ!?」

シェルビー・M・ペンウッドは硬直した。
無理も無い。誰が自分を殺しに来るかわからないこの状況で、背後から突然声をかけられたのだ。
臆病者のペンウッドが、それに驚かない訳が無かった。

「え……あ……いや……あの……じゅ、銃声が……」
「………………」

ペンウッドの背後に立つのは、眼鏡の男——金居。
眼鏡の奥にギラつく瞳は、真っ直ぐに自分を見据えていた。
ペンウッドは、この目によく似た人物を知っている。
金居と同じように、眼鏡越しでありながら、その瞳から異様な威圧感を放つ人間を。
ペンウッドが知る限り最強の吸血鬼、アーカードと契約を交わした人間を。
その所為か、ペンウッドは、思うように言葉を紡ぎ出せなかった。

「そ、その……銃声が聞こえて……それで……」
「……行かないのか?」
「え……?」
「銃声が聞こえて……それでどうするんだ? すぐに駆け付けてやるのが、人間って奴なんじゃないのかい?」
「わ、私は……」

金居に問われたペンウッドは、その場での動きを完全に封じられてしまう。
実際自分は、銃声が聞こえたにも関わらず、歩き出せずにいたのだ。
アリサという少女に託された仕事を、勤めを全うすると誓ったものの、いざ銃声を聞いてしまえば、その足は再び固まってしまったのだ。
行けば殺されるかもしれない。
何の力も持たない自分が行った所で、何にもならないかも知れない。
そんな考えが足枷のとなって、ペンウッドの足を拘束する。
しかし、それでも動かなければならない。動かなければ何も始まらないのだ。
きっと、プレシアに歯向かおうとした、あのアリサという勇気ある少女ならば、すぐに駆け付けた筈だ。
ペンウッドは、アリサの事は何一つ知らない。
だが、きっとアリサは勇敢で、強く、気高い少女であったのだろう。
そんなことは、ペンウッドにもすぐに想像はついた。
ならば、どうする?
自分は、無能で、臆病者だ。決意を固めたにも関わらず、動き出せずにいるような男だ。
だがそれでも、ペンウッドは男だ。男の中の男なのだ。
だからペンウッドは、食いつくように金居を睨み、言った。

「わ、私は……行かねばならない……。
 こんな戦い……絶対に止めねばならない……!
 …………と、思うんだが……その……」

勇気を振り絞り、言った言葉。
最後の一言が無ければ、もっとかっこよく決まったかもしれないと思いつつ。
それを聞いた金居は、口元を吊り上げ、薄い笑顔を見せた。
——と、ここで、ペンウッドは一つの可能性に気付いた。

もしも……もしもこの男が、このふざけたゲームに乗っていたら……?
もしもこの男が、人を殺すのに何の躊躇いも持たないような男なら……?

実際、ペンウッドは何の躊躇いも無く他人の命を奪う奴らを大勢知っているのだ。
例えば、吸血鬼アーカードや、死神ウォルターを始めとしたHELLSING機関の連中。
例えば彼の有名な神父アレクサンド・アンデルセンを始めとする、法皇庁—ヴァチカン—、神罰代行13課—イスカリオテ—の連中。
彼らならば、まず間違いなく命を奪う事に躊躇いは感じないだろう。
目の前の眼鏡が、そんな化け物—フリークス—で無いという保証はどこにも無い。
この男が、ゲームに乗っているのかいないのか。
ペンウッドは、あと少しだけ勇気を振り絞って、それを聞き出す事にした。

「き……ききき君は……こ、このいかれたゲームに、の……乗っているのかね……?」
「……俺が? こんな茶番のような殺し合いに乗っているかだと……?」
「そ、そうだ……もしも君がゲームに乗っているのならば……わ、わわ私は、君を……
 こ、ここここから先に行かせる訳には……いかないね!」

震える声で、されど勇気に満ちた言葉を、金居にぶつける。
もしもこの相手がゲームに乗っていれば———ペンウッドの命はここでおしまいだ。
だが、ペンウッドは決して目を閉じはしなかった。
勇気に満ち溢れた眼光で、真っ直ぐに金居を捉えて離さなかった。
ぶっちゃけ、ペンウッドは今にも恐怖に押し潰されそうな程にビビっていた。
だが、それでも、意思を曲げるつもりは無かった。と言うよりも曲げられなかった。
曲げるわけにはいけないのだ。ここで簡単に折れるようでは、あの少女から託された仕事を果たすことなど、夢の又夢だ。
だが、そんなペンウッドを嘲笑うかのように、金居の笑い声が響いた。
まるで恐怖に震える自分を笑っているかのような大爆笑。
もちろんペンウッドにとっては、心外この上無い。

「な、ななな何がおかしい!」
「ククク……失敬。震える“君”の姿が、あまりに滑稽過ぎたのでな」
「な……な……!」

“君”を強調して言う金居。
ペンウッドは、完全にナメられていると感じながらも、金居から視線を逸らさなかった。

「ふぅ……まぁいい。質問には答えてやろう。俺はこんなふざけたゲームには乗っていない。無駄に命を奪うつもりも無い」
「へ……あ……はは……は……」

金居の言葉を聞き終わると同時に、ペンウッドは一気に全身から力が抜けて行くのを感じた。


それからややあって、金居とペンウッドは、お互いの持つ情報を交換した。
ただし、金居は現時点では、自分がアンデッドであるという情報は伏せておいた。
無駄に恐れられるような理由を作ることもない。黙っていれば普通の仲間としてやっていけるのだ。
だから代わりに、このゲームを止めたいという旨だけを伝えた。
どうやらその思いはペンウッドも同じらしく、ペンウッドは次第に金居にも普通に口を聞くようになっていた。

「それで……カナイ君、私は思ったんだが……恐らくあの女は、我々の行動を正確には把握仕切れていない……んじゃないかな」
「ほう……何故そう思う?」
「あ、あのアリサという少女は、あの女に口答えをしたから殺されたんだ。君も見ただろう……?」
「確かにそうだな? あのアリサって女は口答えをしたから殺された。
 ならば堂々とゲームに乗らないと公言している俺達が殺されないのは、妙だな?」

ペンウッドの考察を聞いた金居が、くいと眼鏡を指で押し上げる。
これは非常に重要な鍵だ。
もしもプレシアがゲームの参加者を一人一人監視仕切れていないのだとすれば、
こちらもさらに作戦を練り安くなる。
だが一人一人監視仕切れていないとなると、この首輪には一体どんな効果があるというのだ?
恐らく無理な衝撃を加えれば爆発するというのは間違い無いのだろう。
他には何がある?
盗聴機能か? だがそれならば、ゲームに反発した時点で俺達はドカンの筈だ。
しかし、もしかしたら聞こえているのに見逃しているだけかも知れない。
プレシアの目的は俺達に殺し合わせる事。
ゲームに反発したという理由で一々首輪を爆ぜさせていては、それこそゲームにならない。
だとすれば、何故あのアリサという少女は殺されたのか。まだゲームも始まっていないというのに。
あれではまるで首輪の力を見せ付け、参加者に恐怖を植え付ける為だけに殺されたようなものだ。
と、そこまで考えたところで、一つの事実に気付いた。

“あのアリサという少女は、最初からみせしめにする為だけに呼ばれ、殺されたのだ”

それに気付いた時、自然に金居の顔は険しくなっていた。
別にあのアリサとかいう女が可哀相だとか、そういう事ではない。
あの女は、首輪の力を見せ付ける為だけに、みせしめの為だけに、最初から殺すつもりで、一人の人間を頭数に入れた。
仮にそうだとすると、それはなんとも計画的で、悪質な事実。
だが、何の為にみせしめ要員が必要だったのか?
そんなことは問うまでもない。それはまさしく首輪による恐怖を植え付ける為。
だが、最初にそれだけインパクトのある恐怖を植え付けておきながら、ゲーム本番で首輪が起動しないでは意味が無い。
やはり、この首輪は完璧に参加者を監視仕切れていないのだろうか。
それ故に、恐怖による洗脳を与えるの必要があった。だから最初にアリサという生贄が必要だったのか。
……現時点ではこれに関しては考えても答えは出まい。ここで一旦考えるのを止める。
どちらにせよ、この首輪は邪魔だ。監視が不完全というのならば好都合。
何としてもこの首輪を解除させてもらう。
それが、金居の決意であった。

「ペンウッド……一人一人監視が出来ていないのなら、首輪を解除する手立てもあるかもしれないぞ」
「え……え!? で、でも……どうやって!」
「それをこれから考えるのさ。」

金居は不敵に微笑んだ。それは、味方にしてはこれ以上無いという程に心強い表情だろう。
金居が頭に浮かべるのは、先程記憶した地図。確かエリアB−8に“工場”があった筈だ。
何の工場かは知らないが、工場ならばそれなりに工具も揃っているだろう。
それが、この首輪を解除する手がかりになるかもしれない。

「まずは工場へ向かう……この首輪について調べるんだ」
「こ、工場……? え……えっと……あ……」

すぐにデイバッグから地図を取り出したペンウッドは、工場の場所を確認する。

「で……でも、一体ここはどこなんだ……? ここが何処だかわからなければ、工場へは行けないぞ……?」
「チッ……分かっているさ。まずは現在地を把握しなきゃ、お話にならないってな。」
「あ……ああ、さっきの銃声の聞こえた場所なら、何か目印があるかもしれない」

そうだ。今は何も見当たらないが、そこまで行けば何か目印もあるかも知れ無い。
自分の命を危険に晒す事になるかも知れ無いが、金居は普通の人間になら負けるつもりは無かった。
ましてや、聞こえたのは銃声。銃による攻撃は、金居には通用しない。
それが、金居の確固たる自信を裏付ける理由であった。
先程は「無駄に命を奪うつもりは無い」と言ったが、もしもこの先に待ち受けるものが敵ならば、金居は容赦をしない。
無駄に命は奪わないと言っても、それは奪う必要が無ければ、の話だ。
相手が向かってくるなら、金居は何の躊躇いもなく命を奪う。躊躇う必要などどこにも無い。
相手は憎き人間なのだ。多くの同胞達が住む自然を、命を、奪い続けて来た人間なのだ。
人間共の手によって死んで行った同胞達を思えば、この会場にいる人間全員を殺したって足りないくらいだろう。
だが、幸い金居は地道にこつこつと人間を殺して行くつもりは無かった。
どうせゲームから脱出し、アンデッド同士のバトルファイトに優勝した暁には、人類など皆滅ぼすのだから。
人間共と手を組むのは、それまでの辛抱だ。それまでは、せいぜい正義の味方面して悪と戦ってやる。
そんな事を考えながら、金居は、ペンウッドと共に大通りを歩き続けていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……———」

私は生きていてはいけない存在。
私を救おうとしてくれた少年を、エリオを殺してしまった私は、許されてはいけない存在なのだ。
柊かがみの思考は、心は、最早砕けて壊れてしまいそうな程に追い詰められていた。
私のせいでエリオは死んだ。
私が撃たなければ、エリオは助かったかもしれない。
されど、撃ってしまった。
撃つつもりが無かったなんて、ただの言い訳にしかならない。
もう嫌だ。こんな狂った世界にいるのは、もう嫌だ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

死のう。今度こそ、これ以上誰かの命を奪ってしまう前に、死んでしまおう。
柊かがみは、先程落とした銃を拾い上げ、再び引き金に指をかけた。
銃口を米噛に密着させる。既にトリガーセーフティは解除されているのだ。
後は引き金を引いてしまえば楽になれる。もう、悩む必要は無くなる。
故にかがみは、引き金を———

「待ちなさい!!!」

———引いた。
同時に響く銃撃音。甲高い銃声が、再び響き渡る。
頭は打ち抜かれ、鮮血が吹き出し、その場に倒れ込む———筈だった。
だが、いつまでたっても、血は流れないし、かがみの身体が崩れることもない。
そこに横たわっている筈の柊かがみの体は、どういう訳か、白い制服を着た人物に、抱きしめられていたから。

「自分で命を捨てるなんて……絶対にしちゃいけないことなんだよ……!?」

高町なのはは、瞳に涙を浮かべながら、柊かがみを抱きしめていた。
既に引き金が引かれた後で。突如現れたなのはは、力いっぱい、かがみの体を抱きしめていた。

「あ……あぁ……なの……は……?」

そう。柊かがみは、まだ死んではいない。
それどころか、かがみには、傷一つ付いてはいなかった。
この一瞬で起こった出来事。かがみには、何が起こったのかが解らなかった。
何故自分は生きているのか。
何故転校生が——なのはが自分を抱きしめているのか。
ただ、かがみには、白い衣服を身に纏い、自分を抱きしめてくれるなのはの事が、まるで天使のように感じられた。


高町なのはは、ひたすらに走った。
元々体力に自信がある訳でも無いなのはが、何故ここまで必死に走るのか。
それは、銃声と、女の子の悲鳴が聞こえたから。ただそれだけだ。
一体どんな状況になっているのか等、なのはは知る由も無い。
だが、今誰かが泣いているのだ。
自分はその声を聞いてしまったのだ。
ならば、それだけで理由は十分。これ以上、誰にも泣いて欲しくは無いから。
だからなのはは、全力で走った。
やがてなのはの目に映ったのは、自分の頭に銃を突き付ける一人の少女。
少女の、完全に崩壊し切った涙腺からは、とめどなく涙が溢れていた。
きっと辛い思いをしたのだろう。悲しい思いをしたのだろう。
なのはには、目の前の見知らぬ少女に何があったのかなど解らない。解るはずも無い。
だけど、一つわかるのは、目の前の少女は自分の手で命を断とうとしていること。

———そんなこと、絶対にさせない!!

自分はアリサに誓ったのだ、救える限り全ての参加者を救い、ゲームを止めてみせると。
絶対に、誰一人として目の前で殺しはしないと。
故になのはは、走りながら目の前に一つのスフィアを浮かべた。
——アクセルシューター。
なのはが幼い頃から使っていた、初歩的な魔法だ。
レイジングハートが無い為に、一度に操れるスフィアの量もたかが知れている。
だが、あの少女が引き金を引く前にあの銃を弾き飛ばすだけなら、一つあれば十分。
なのはは直ぐにスフィアを飛ばし、続けて叫んだ。

「待ちなさい!!!」

声が届いた時、既に少女の手に銃は握られていなかった。
なのはが飛ばしたアクセルシューターが、見事に銃だけを弾き飛ばしたのだ。
空に向かって発射された銃弾は、どこにも当たる事無く、虚しい銃撃音を響かせた。
なのはは、デイバッグも、デルタギアケースも放り出して、すぐに少女に駆け寄った。
そのまま、何が起こったのかと、訳もわからずに固まる少女を、強く抱きしめた。

「自分で命を捨てるなんて……絶対にしちゃいけないことなんだよ……!?」

抱きしめると同時に、なのはは目頭が熱くなるのを感じた。
きっと、アリサならこうして、無理矢理にでも少女を止めただろう。
無理矢理にでも自殺など止めて見せただろう。
親友の想いを胸に、なのはは少女を強く、強く抱きしめた。

「あ……あぁ……なの……は……?」

少女が呟いた言葉に、なのはがぴくりと反応する。
この少女は自分の事を知っているのだろうか?
いや、知っていてもおかしくは無い。ミッドにおいて、高町なのははかなりの有名人なのだ。
寧ろ知らない人間の方が少数派だろう。
だからなのはは、そのまま少女を抱き続けた。


——なんで? どうして私は生きてるの?

かがみは、虚ろな瞳で、そんな疑問を抱いた。

何で死なせてくれないの?
まだ、私に苦しみ続けろっていうの?

「ね……辛かったんだよね、苦しかったんだよね……」
「…………やめて……」

なのはの言葉、どこかで聞いた事がある。
そうだ。エリオが言ってたんだ。
かがみの記憶に残る、エリオの言葉。皮肉にもなのはの言葉は、エリオと酷似していた。
それが、嫌でもエリオの事を思い出させる。

「でもね……死んだってどうにもならないんだよ……何にもならずに、そこで終わっちゃうんだよ!?」
「……やめて……離して……」

かがみが腕に力を込めるが、なのはの力はかがみよりも遥かに強かった。
強く抱きしめられたかがみは、身動きも取れずに、なのはの言葉を聞くしか出来なかった。

「一人で辛いなら、私がいるから……私が全部受け止めるから……!」
「………………」
「だから、自分で自分の命を捨てるなんて……寂しいことしないで……」
「……な……なの……は?」

なのはの声は震えていた。
それに気付いたかがみの頭は、一瞬洗い流されたかのように真っ白になった。

泣いてる? なのはが、私の為に泣いてくれてる?
何で? エリオを殺した私なんかの為に?
……そうだ、私はエリオを殺したんだよ……?
エリオを殺した私の為に? 何でよ……?

かがみの脳裏に焼き付いて離れない、エリオの笑顔。
あの優しい笑顔を、私は奪ったのだ。
そんな私が、生きていていい筈が無い。
頭の中で何度も呟いた言葉を、もう一度強く念じた。
でも、なのはに抱きしめられていると、そんな思いを忘れてしまいそうになる。
許されていいのかと思ってしまう。
本来ならば、それが最も楽な考え方なのだ。されど、かがみにとっては、それは最も辛い考え方であった。
忘れたくない、忘れてはいけないのだ。エリオの優しさを。自分の罪を。

「寂しいのなら、私が傍にいてあげる。いつだって私が一緒にいてあげるから——」
「……めてよ…………やめてよ!!」
「……!?」

かがみは、言葉を続けようとしたなのはを突き飛ばした。

「私は……人を殺しちゃったの……! エリオを殺しちゃったの!!」
「な……エリオ……を?」
「私のせいで……私がいなければ、エリオは死なずに済んだのに! こんな私が、許されていい訳がない!!」

どういう訳か、“エリオを殺した”という言葉を聞いたなのはの表情が固まった。
考えてみればそれも当然か。何せ自分は“人を殺した”のだ。
それを聞いて距離を取らない人間がいる訳が無い。

「だから……もう放っておいてよ……お願い」

ひとしきり叫んだ後、かがみは再び涙を流し、その場に崩れ落ちた。


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