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家族(前編) ◆gFOqjEuBs6




「――ったく、やってくれるじゃんプレシアの奴」
薄暗い通路で呟く少年が一人。
ぽつりぽつりと灯る通路の明かりに、真っ赤なジャケットが照らされる。
左手に持った携帯電話をパカパカと開閉しながら、不機嫌そうな表情で歩を進める。
事実少年――キングは今現在、非情に不機嫌であった。

理由は至って簡単だ。
そもそもキングは、自分達“アンデッド”だけの神聖なるゲーム――バトルファイトを人間達に邪魔されただけでも十分にやる気が削げていた。
そこへ来て、今まで記憶喪失の哀れな女だと思っていたプレシアによって、突然こんなゲームに呼び出されたのだ。
結果、キングのやる気はさらに削げ落ちることとなった。
そもそもキングには、人間同士での殺し合いに、アンデッドである自分を収集する意味が解らなかった。
たかが人間如きが、最強のカテゴリーキングと自負する自分に勝てる訳が無いのだから。
自分がキングと名乗るのも、自分が誰にも負けない最強の存在であるという確かな自信があるからだ。

彼――キングの本当の名前は、コーカサスビートルアンデッド。
この世界における全てのコーカサスオオカブトムシと、その種族であるカブトムシ達の始祖たる不死生物。
……そう。“不死”なのだ。それこそが彼の自信を裏付けする事実。
彼らアンデッドは、いかなる傷を負おうとも、いかに痛め付けられようと、絶対に死ぬ事が無ければ消滅させる事も不可能。
故にアンデッドは、ラウズカードに封印する事でしか対応する術がないのだ。
そして、彼らアンデッドを封印出来るのは、人間達がジョーカーを真似て造った“ライダーシステム”のみ。
もちろんキングは仮面ライダーなんかに負けるつもりは毛頭無いが、それでも仮面ライダーが居なければ自分には傷一つ付ける事は不可能。
そこで何かに気付いたキングは、ふとデイバックを下ろし、中身を確認し始めた。

「このゲーム、仮面ライダーいんのかなぁ」

言いながら取り出したものは、一枚の紙。このゲームの参加者を印した名簿だ。
周囲が薄暗い為に、普通に考えれば文字は見えにくい筈だが、キングにはそんな心配はいらない。
何故ならば、彼は“カブトムシ”だからだ。
今でこそ人間の姿を借りてはいるが、本質はカブトムシ以外の何者でも無い。
夜行性のカブトムシの始祖である為に、暗い場所での視力は常人のそれを遥かに上回っている。
もちろん、甘いジュースなんかもキングの大好物だ。

「――って、おいおいジョーカーもいんの!?」

名簿を読み進めて行くうちに、とある名前を発見。一気にキングの非情が和らいだ。
そう。ざっと目を通し、真っ先に確認した名前は、“相川始”――ジョーカー。
自分と同じアンデッドで有りながら、どの生物の始祖にもあたらない、言わば“ジョーカー”。
ジョーカーが勝ち残る事は、そのまま全ての生命の絶滅を意味する。
今回のゲームでもジョーカーとして収集されたのかな?
等と想像しながら、不敵な笑みを浮かべるキング。
面白い事になりそうだと、少しだけゲームに興味が湧いて来る。
キングの笑顔はまだ終わらない。続けて名簿に知った名前を確認。

「へぇ、ギラファもいるんだ」

ギラファ――またの名を金居。
自分と同じくカテゴリーキングの称号を持つ、不死生物――ギラファアンデッドだ。
一応仲間ではあるが、心配する必要は無いだろうと、キングは名簿をデイバックにしまい込んだ。

「ま、せいぜい頑張りなよ」

ここには居ないギラファ――金居に、一言だけメッセージを零す。
また会えた時は、一緒に何か面白いことをやらかそうねと、心の中で微笑む。

さて、一通り名簿の確認が終わった事で、キングの機嫌はすっかり上機嫌となっていた。
ジョーカーやギラファがこのゲームに参加しているというのならば、仮面ライダーが参加している可能性だって十分にある。
ならば、キングの目的は今までと何ら変わりは無い。

「全部目茶苦茶にブチ壊してやるよ、プレシア」

そう。全て滅茶苦茶にし、何もかも破滅へと導くことこそが、キングの楽しみ。
別に戦いの結末なんかはどうでもいい。自分が勝とうが負けようが、それすら興味が無い。
とにかく面白ければそれでいいので。それ上でゲームを滅茶苦茶に出来れば、最高だ。
クスクスと笑いながら、どこかで聞いているであろうプレシアに対し、キングは言った。

その目に宿るは、無邪気な輝き。
例えるならば、小さな子供が抱くような“純粋な悪意”だ。
別に勝ち残る事には何の興味も無い。だが、負けるつもりも無い。
願わくば、プレシアが仕組んだこのデスゲームを、“目茶苦茶”に引っ掻き回し、全てを破滅に導く。
別にその行動に利益がある訳では無い。
ただ単に、それが“面白い”から。
だが、キングは戦い自体が好きな方では無い。故に自ら手を汚すつもりは無い。
手を汚さずに、全てを壊すのだ。
例えば“人間関係”を。
例えば他人の“精神”を。
例えば他人の“命”を。
そして、プレシアの仕組んだこのゲーム“そのもの”を。
死という概念を持たないが故に、キングは自分の命を何とも思ってはいない。
自分の命を大切に出来ない者に、他人の命の重みなど理解出来る筈も無かった。

行動方針を決めたキングが、再びデイバックを担ぎ、歩を進めようと足を踏み
――――出さなかった。

「ん?」

何か――おそらく人間の女の声――が聞こえる。
アンデッドであるキングは、やはり人間よりも遥かに高い聴力を有しており、その僅かな声を聞き逃しはしなかった。
踏み出そうとした足を止め、耳を済ませる。

「……でも目の…………命より大切な…………
 恨んで…………ええ……………恨まれ………
 ……………………いかん……………―――」

途切れ途切れにだが、確かに聞こえる。恐らく若い女の声であろう。
言っている事は完全には把握出来なかったが、聞き取った単語から、恐らく“誰かを恨んでいる”のであろう。

「……面白そうじゃん」

一言呟くと、子供のような純粋な微笑みを浮かべ、キングはゆっくりと歩き始めた。
―――いや、その純粋な微笑みの裏に潜んでいるのは、まさに悪戯っ子の如き、純粋な悪意であった。


八神はやての行動は、既に決まっていた。
ゴジラを殺し、大切な家族達を救う。その為に、プレシアの持つ技術を手に入れる。

その為に必要なのは、プレシアに太刀打ちするだけの戦力の確保。
第一に考えるのは、この首に装着された首輪を無効化し、解除する事が可能な人物。もしくは、それを可能にする道具。
第二に、大魔導師プレシアに対抗する為に必要な、デバイス――武器類。
そして、願わくば自分の居た世界で、自分達の意のままに動いてくれた“使い魔”に準ずる存在が欲しい。
だが、先程確認したデイバックの中には彼女が求めた物は何一つ入ってはいない。

入っていたのは、戦闘には役立たなそうな物ばかり。
プレシアにしても、“家族を失った八神はやてがプレシアの技術を狙う”
……という考えに至る事は想像済みだということだろうか?
そんなはやての推測が、今の自分は無力なのだとかえって実感させる。
だが、まだ諦めるには早い。自分に戦う力が無いのなら、手に入れれば良いだけの事。

誰かを倒してデイバックを奪うか?
―――否。それを実行に移す為にはある程度の戦力が必要だ。
そもそも戦力が無いから困っているのだ。それが出来れば苦労は無いだろう。
ならばどうする?
暫し思考を巡らし、一つの結論に至った。

「(先ずは誰かと合流するしかない……)」

そうだ。力が無いのならば、何者かに合流しなければ話にならない。
始めに出会った相手が使える人間であればそのまま利用する。
自分の親友達のような“お人よしタイプ”ならば―――
自分は何の戦力を持たないと話せば直ぐに信用して仲間に入れて貰えるだろう。
卑怯と言われても仕方がないが、それしか方法は無いのだ。
そうと決まれば、一分一秒が惜しく感じてくる。妖星ゴラスから、一刻も早くヴォルケンリッターを救いたいのだ。
決意を固め、レジアスの部屋から立ち去ろうと、足を進める。

はやては、気付かなかった。自分がいつのまにか、強く歯軋りをしていた事に。
決意を固めようが、心の奥ではこんなゲームを許せる筈が無かった。
ましてや自分が、人の良いなのはやフェイトと言った人々を利用しようとしていると考えれば、それだけで罪悪感が込み上げて来る。
心の中で深く謝罪を続ける。
そんな事に意味が無いということは、はやて自身がよく分かっている。
だが、それでもはやての歩みは止まらなかった。
彼女には、“絶対に譲れない物”があるのだから。

「(みんな……待っててな……私が、今すぐに……!)」

今この瞬間にも妖星ゴラスによって消耗を続けている家族達に向けたメッセージを、強く念じた。
はやてが、この部屋を出ようとドアの前に立った―――その時だった。
はやてが開けるまでもなく、外側からドアが開かれたのだ。

「……ッ!?」
「……あぁ、やっぱこの部屋からだったんだ。声が聞こえるの」

はやての目の前に現れたのは、片手に持った携帯電話をパカパカと開け閉めして遊ぶ茶髪の男。
いかにも最近の若者といった風貌の男――キングに、はやては咄嗟に身構えた。
こんな境遇で初めて出会った相手を信頼出来る筈が無い。
信頼しなくとも、相手が利用出来る人間かどうかを判断するまで、迂闊に接触するのは避けたい。
故にはやては、警戒心剥き出しに、目の前のキングを睨み付けた。

「あんたは一体、何者や?」
「……ご、ごめんなさい! 打たないで!!
 声が聞こえたから、来てみただけなんだ……!」

はやてに問われたキングは、両腕を上げ、頭を隠すようにしゃがみ込んだ。
それを見たはやては、小さく口元を吊り上げる。
確信した。こいつは戦闘能力を持たない、ただの若者だと。
派手な外見で着飾ってはいるが、だからこそ心は臆病なのだろう。
恐らくはやての険しい表情にビックリし、今こうして自分の身を守る為に頭を隠して縮こまっているのだろう。

ならばこの男をどうする?
――決まっている。先程決めた目的の為、男には悪いがデイバックは寄越して貰う。
こんな明らかに年下にしか見えない少年からデイバックを奪うのは流石に気が引けるが、素直に渡せば命だけは助けてやってもいい。
デイバッグさえ奪えば、後は放って置いても、支給品を何一つ持たない少年が出来る事等たかが知れているからだ。
だからはやてはキングの腕を掴み、少し声のトーンを落として言った。

「安心し、打ったりせぇへん。だからそのデイバックを――」
「痛い」
「え……ッ!?」

はやてがその言葉を言い切る事は無かった。
つい先程まで情けない表情で泣いていた少年が、今度は怒気を込めた表情ではやてを睨み、手をかざした。
刹那、はやての体は数メートル後方へと吹っ飛び、レジアスの部屋の床に強く尻餅をついてしまった。

「(な、何や……一体今、何が起こった……!?)」

一先ず自分に怪我が無い事を確認すると、ゆっくり立ち上がって周囲を見渡す。
だが特に変わった物は存在しない。
―――いや、一つ変わった者が存在する。
はやての視線の先、はやてを見下して笑う茶髪の少年。
先程までの情けない表情は何処へ行ったのかと突っ込みたくなる程の笑顔で、自分を見下しているのだ。
先程まで泣いていた男が、突然ここまで明るくなれるだろうか?
―――否。はやては気付いた。さっきの泣き顔は全て演技だったのだろうと。
はやては、食い入るような瞳でキングを睨み付けた。


「(クソッ……時間が無いのに……こんなことしてる場合じゃないのに……ッ!)」
漆黒の闇に包まれた市街地を駆け抜ける、一人の少女がいた。
彼女こそ、八神はやてに仕える、ヴォルケンリッターの一人。
鉄槌の騎士、ヴィータ。

彼女は急いでいた。闇の書によって蝕まれた主、はやてを救う為。
自分達の存在を維持する為、既にいつ死んでも可笑しくは無い状況にまで悪化し
てしまったはやてを救う為。
絶対に救う、そう決めたのだ。

ヴィータがはやての為、ここまで必死になれるのにはいくつかの理由があった。
それはもちろん、主を護る守護騎士・ヴォルケンリッターの役目としてもある。
だが、使命や役目等では無い、それよりももっと大きな理由がある。
それは、はやてが大切な大切な“家族”だから。
はやてと過ごすようになってから、ヴィータは夢のような毎日を送っていた。
初めて人として扱われ、初めてヴォルケンリッターとしての使命以外の楽しみを見付ける事が出来た。
近所のじーさんばーさんとゲートボールで遊び、夕方になったら帰る。
待っているのは、暖かい笑顔と、温かい食事。
確かに管理局や魔導生物達との戦いは楽な物では無かった。
だが、それでもはやてや、他の皆と過ごす毎日は、夢のような毎日であった。

―――いや、もしかすると本当に夢だったのかも知れない。
はやて達と過ごした毎日が夢で、このデスゲームが現実かも知れない。
だとすれば、いつあの幸せな夢は覚めてしまったのか。

「(そうだ……あたしはまた……管理局の奴らと戦って……)」

ヴィータにとって、最も新しい記憶が蘇る。
それは自分達のベルカ式を真似たデバイス――
レイジングハートエクセリオンを携え、復活した“高町なんとか”との戦い。
一度倒した相手に、敗れる訳がないと。ヴィータもそう思っていた。
結果、負けこそしなかったものの、勝利もしなかった。

思い出すだけでも腹立たしい。
本来ならば、圧倒的に自分の有利だった筈が、あの強化デバイスの砲撃に、食いつかれてしまった。
ただでさえ時間が無いというのに……!

それだけでも、ヴィータの精神はかなり不安定になる筈だった。
だが、それに拍車を掛けるような出来事が立て続けて起こったのだ。
自分は確かに戦闘終了後、闇の書が放った砲撃魔法から逃れる為に、ザフィーラ達と共に逃げた筈だ。
それなのに、気付いた時には、訳の解らない場所に拘束され――
その上首輪爆発という、趣味の悪いスプラッタショーを見せ付けられた。
死んだ女は自分の知らない人物であったが、それでも目の前で魔力も持たない一般人が殺されるのは、見て楽しい物では無かった。

さて、その際気になった事が一つ。
あの女の首が爆ぜた際に、声を上げた少女……あれは“高町なんとか”では無かったか? という疑問だ。
人数が多過ぎた事と、室内が薄暗かったという二つの要因により確証は無いが、あの声には確かな聞き覚えがあった。
あの憎たらしい声は、間違いなく“高町なんとか”の声。……のはずだ、多分。
故に、ヴィータは転送された後、直ぐに名簿を確認した。
しかし、名簿を確認した際にヴィータが目撃した名前は、そんな疑問を一気に吹き飛ばすだけの威力があった。
そう。そこに見付けた名前は―――

「(はやて……ッ!)」

今の自分にとって最も大切な、護るべき存在―――八神はやて。
何故か同じ名前が二つ存在したが、この際そんなことは問題では無い。はやてが参加させられたとあっては、ヴィータとしても黙っている訳には行かない。
それから、自分を省いた残りのヴォルケンリッター達の名前も発見。いずれも大切な家族に変わりは無い。
だが、だからこそヴィータは急いでいた。
ヴォルケンリッターの3人ならば、心配せずともそう簡単に負けはしないだろう。
だが、はやてはどうだ?
答えは簡単に想像がつく。そう、生き残れる訳が無いのだ。
足すらまともに動かせないはやてが、こんなデスゲームに参加させられて、助かる訳が無い。
すずかのように優しい人間と、一番最初に出会えたのならば何とか……等と考えもしたが、その考えも直ぐに振り払った。
このデスゲームにおいてそんな都合の良い人間がそう簡単に見付かるとは到底思えなかったからだ。
ましてや管理局員なんかは論外だ。もう少しで闇の書が完成するというのに、そ
の前にはやてを拘束されてしまっては話にならない。
結果、ヴォルケンリッター以外の人間など、今のヴィータには信用出来る訳もなく―――

「(はやて……待ってろよ、今すぐ……あたしが……!)」

奇しくもヴィータは、もう一つの時間軸から来た八神はやてと同じ事を、その心に強く念じていた。
支給された道具のうち、武器として使えそうなものは、自分の身長よりも長い槍型のデバイスのみ。
ヴィータは主を護る鉄槌の騎士として、八神はやてを救う為、槍を片手に走り続ける。


ビルが立ち並ぶ市街地を歩く、赤き龍がいた。
全身の体食は真紅。
筋肉質な手からは鋭い爪が伸びており、ワニのような大きな口にもまた、鋭い牙が生えそろっていた。
この奇妙な生物こそが、デジタルワールドで生まれ育った、デジモンと呼ばれる種族の生物。名前はギルモン。
ヴィヴィオをパートナーとして選んだ、爬虫類型デジモンだ。

ギルモンには、何故自分がこんな訳の解らないコンクリートジャングルに要るのかが、理解出来なかった。

「えーっと……僕は確かぁ……」

自分の記憶を辿る。思い出せるのは、キャロやアグモンと出会い、トータモンに襲撃された事。
その際にヴィヴィオによってデジソウルをチャージされた自分はグラウモンへと進化。
見事にトータモンを倒した―――筈だった。

「それがどうしてこんなことになったんだろう……」

しかし、ギルモンからはそれ以降の記憶が途絶えていた。
気付いた時には、あの広間に拉致られていたのだ。
そして見せ付けられた、一人の少女の死。
もちろん人間が死ぬ瞬間を見るのは始めて。
それに死んだ女の子だってギルモンの知らない人間だった。
それでも、あの黒い髪の女が一方的に命を弄んだ悪い奴だと言うことは、幼いギルモンにも解った。
そしてあの女が自分達に強要したのは、この狭い空間の中で互いに殺し合え、という事。
もちろん、いきなり他人を殺せ等と言う命令に従うギルモンでは無かった。

「あんな奴の言うこと、聞くもんか……! 早くヴィヴィオちゃんを探して、こんなとこから出ていかなきゃ!」

ギルモンは、声高らかにそう宣言した。
まずは一人では戦う力を持たないであろうヴィヴィオと合流し、一緒にこの空間から脱出する。
ヴィヴィオも参加しているかどうかは、今のギルモンには調べようが無いが、ギルモンは勝手にヴィヴィオもいるものと決め付けた。
あながち間違いでは無いが。


「なんだ……コレ……」

走りながら、ヴィータは呟いた。
ポケットの中で輝く小さな端末を取り出し、その画面を見詰める。
支給品を漁った際にデイバックから出て来た赤と緑の端末だ。
一応役に立つかも知れないとポケットに入れておいたのだが―――
走れば走る程にその輝きは増して行った。

「何なんだよ、コレは……!」

まるでこの機械に走る方向まで決められたかのように、ヴィータは何かに吸い寄せられるかのように走り続ける。
そして、最後の角を曲がったヴィータが見付けたのは。

「……赤い……恐竜……?」
「……女の、子?」

小さな小さな赤い恐竜。
だがヴィータが今まで見て来たような生物達とは、雰囲気がまるで違っていた。
かわいらしい大きな瞳に、とても強そうには見えない小さな体。
魔導生物の幼態かとも思ったが―――いや、そんなことはもうどうでもいい。
はやてを護る為、この恐竜のリンカーコアも頂く。
現在闇の書は手元に存在しないが、時が来れば自然と現れるだろう。
ヴィータは、赤き騎士甲冑を身に纏い、跳躍した。
とりあえずボコボコにしてリンカーコアを引き出す。弱っちそうだが、少しでもページが増やせるのなら細かい事は気にしない。
ヴィータは直ぐに飛び上がり、支給された槍をギルモンへと振り下ろした。

「でやぁぁああああッ!!!」
「うわわわ……っ!?」

が、回避される。紙一重の所でギルモンが横方向へとずっこけるような形で、ヴィータの攻撃をかわしたのだ。
アイゼンなら外さないのに……と、使い慣れないデバイスに舌打ちするヴィータ。
そんなヴィータに向かって、目の前の恐竜が口を開いた。

「い、いきなり何するんだよぉっ!?」
「……あ?」

その突然の事態に、ヴィータの思考が一瞬停止した。
恐竜が、喋った……?
こんな明らかに知性を持たなさそうな恐竜型の生き物が喋るのを見たのは、これが始めてだった。
キョトンとした表情で槍を構えるヴィータ。
慌てた表情でヴィータを睨む恐竜――ギルモン。
ヴィータのポケットの中で、赤と緑の小さな端末―――デジヴァイスicは、輝き続けていた。


レジアス・ゲイズの部屋で、二人の男女が向かい合っていた。
レジアスのデスクに腰掛け、はやてへと笑いかける男―――キング。
はやてもまた警戒した表情で、終始キングからは目を離さない。

―――最悪や。いきなりこんな相手と当たるなんて……

はやての表情は自然と曇る。
最初に当たった相手が、変な念力を使う相手。それも、ふざけた演技で自分をからかうような人間だ。
正直言って、相当に質の悪いタイプだと、はやては判断した。

「――へぇ~、じゃあ君は、家族を護る為に戦うんだ?」
「……そうや。だから、私は……こんなとこで死ぬ訳にはいかへん」

キングの質問に簡単に答えながら、ヴォルケンリッターやゴジラの話を聞かせる。
キングも興味津々といった感じに、身を乗り出している。
が、ここで不自然な事が一つ。

―――この男は、ゴジラを知らん……

そう。キングは、あれだけ猛威を奮った大怪獣・ゴジラを知らないというのだ。
普通に考えればそんな事は有り得ない。ゴジラによって一体何万……いや、何億という数の人間が死んだことか。
それこそ数え切れない程の、膨大な数の人間が死んで行ったのだ。
そのゴジラを知らないという事からも、容易に一つの答えが想像出来る。
そう。“キングは、この世界の人間ではない”という事だ。
どの管理外世界かは知らないが、ゴジラの被害の全く及ばない世界の住人なのだろう。
そう考える事で、さっきの念力にも納得が行く。

「だから……私の邪魔をするつもりなら、あんたから―――」
「ちょ……!? ちょっと待ってよ、僕は君と戦うつもりなんか無いって!!」
「何やて……?」

はやての言葉を遮り、キングが声を張った。
といってもすぐに信頼出来る筈もなく――
はやてははやてで、依然として警戒した表情を崩さないままに、キングを睨み付けていた。


―――参ったなぁ……この子、完全に僕のこと警戒しちゃってるよ……

キングは後悔していた。はやてをびっくりさせようと思って、無駄にあんな念力を見せてしまった事を。
あの意味の無い念力によって、自分は想像以上に消耗した上に、はやてには必要以上に警戒されてしまった。
とりあえず念力の使用は控えよう……等と考えながらも、はやてとの話を進める。
ゴジラやヴォルケンリッター等と、色々と興味深い内容の話ではあったが、まずはやてから信用を得なければ話にならない。

「もう……さっきのは謝るからさぁ、そんな怒った顔しないでよ。
 僕が悪かったって、ほら、この通り」
「…………」

一応頭を下げるが、はやては依然として警戒の表情を崩さない。
もういっそアンデッドに変身して斬り殺しちゃおうか……なんて考えが浮かぶが、キングは何とかその衝動を抑えた。
殺そうと思えばいつだって殺せるのだ。ならばもっと面白い物を見てからでも遅くは無いだろう。

「……あんたは何が目的なんや……?」
「え……僕?」
「そうや。私にだけ色々喋らせるのは不公平やろ?
 相手に信じて貰お思うたら、自分の目的も明かすのが筋ってもんや」
「う、うーん……ま、それもそうだね」

この女、こっちが下手に出てればだんだん調子に乗って来たな……
等と考えつつも、キングは自分のデイバックを漁り始めた。
ある程度漁った所で、一つだけめぼしい物を見付けたキングは、それを取り出し、
それ以外を――自分のデイバックを、丸ごとはやての足元に投げた。

「あげるよ、それ」
「な……!? なんでや? これは生き残る為に必要な――」
「アハハハ、僕それいらないもん。なんてったって、僕が誰よりも“一番”強いんだからね」

不可解な表情でキングを睨むはやてを尻目に、キングは先程取り出した一本のベルトを見せびらかす。
一緒に着いて来た説明書に軽く目を通したキングは、ベルトを手で振り回しながら言った。

「でも僕さ、あのプレシアっておばさんの言いなりに戦うつもりなんて無いんだよね」
「じゃあ……どうするっていうんよ?」
「全部目茶苦茶にするのさ。このプレシアのふざけたバトルファイトも、ここに来た仮面ライダー達も、全部ね」
「仮面……ライダー?」

はやての言葉から、やはりこいつは仮面ライダーを知らないという事が伺える。
仮面ライダーとは、人々の平和を守るために、無償で悪い奴らと戦う仮面の戦士達……
などと、キングはざっと仮面ライダーの説明をすると、振り回していた銀色のベルトをはやてに見せ付け、言った。

「―――で、これがカブトのベルトって訳。僕はカブトの他に参加者達に支給されたライダーシステムを集める。
 あいつらが変身出来ない間に守りたい物が傷付けられて、それで悔しがるとこが見たいんだ。」
「……悪趣味な」
「アハハ、だからライダーシステム以外のアイテムは全部君にあげる。それでいいでしょ?」

呆れた表情で自分を見つめるはやてに、けらけらと笑いながら返すキング。
自分の子孫であるカブトムシをモチーフにしたライダーのベルト――
仮面ライダーカブトのライダーベルトを手にぶら下げながら、キングは考える。
説明書によれば、カブトに変身する為には、カブトゼクターとやらに選ばれねばならないらしい。

―――どうせ僕にはカブトの資格は無い。なら……

キングが考えることは非情に単純。自分が使えないなら、現在の資格者を殺して、その資格を奪い取るまで。
……いや、このベルトでそいつを揺すって遊ぶのもいいかも知れない。
そんなことを考えるだけで、キングの表情はほころぶ。
まだ見ぬカブトを蹂躙するのが、楽しみで仕方が無いのだ。
この男、相当に質が悪い。

やがてキングはレジアスのデスクからぴょんと飛び降り、自分のデイバックを漁るはやてに視線を送った。

「……ねぇはやて、君面白そうだからさ、力貸してあげるよ」
「何やて……?」
「プレシアの技術を使って、ゴジラってのに復讐するんでしょ?」

またしても不可解な表情で自分を見つめるはやてに、キングは優しく笑いかける。
と言っても、キングにとってはただ面白そうな展開になるのが楽しみなだけだが。
返事に躊躇っているのか、はやては依然自分を見詰めている―――
と、その時であった。

「……ッ!?」
「ん……?」

レジアスの部屋の、ガラス張りの窓から、赤い炎が爆ぜるのが見えた。
光自体は小さなものであったが、時間は深夜。漆黒の闇の中で唯一輝く光を、二人が見逃す訳は無く。
距離はここから歩いて5分程度の場所だろう。
生憎光が納まった為に、正確な場所までは掴めないが、近い事には間違いない。

―――さぁ、どう出る? 八神はやて

口元で笑みを浮かべるキング。
それを知ってか知らずか、はやては今も光った位置を睨んでいる。
恐らく悩んでいるのだろう。無視するべきか、行くべきか。
だが、はやてにとっては悩み事かも知れないが、キングにとってはそうではない。

―――面白い事が起こるかもしれない。

あの小さな輝きは、されどキングの興味を引くには十分な輝きであった。

「じゃあさ、君はここで待っててよ。ちょっと僕が見て来てあげる」
「……そうやね。わざわざ私が自分の身を危険に晒すまでも無い。お願いするわ、キング」

キングは思った。
この女も相当に性格が悪いなと。
……いや、元々はこんな性格では無かったのかも知れないが、キングはそれを知る由も無い。
これがもし“お願い”では無く“命令”であったならば、キングはこの女を軽く
念力で吹っ飛ばしてから行こうと思っていたが、どうやらその必要は無いらしい。
キングは、直ぐにレジアスの部屋から出て行った。


「もう、話を聞いてってば……! 僕は戦うつもりは無いんだってばぁ!」
「(チッ……何なんだよこのトカゲ野郎は……!)」

ヴィータが再び槍を振るうが、ギルモンは頭を抱えてしゃがみ込み、それを回避する。
どうやらこの赤い龍、それなりに戦闘経験はあるらしい。
でなければ使い慣れないデバイスとはいえ、ヴィータの攻撃をここまでかわせるとは到底思えない。

だが、それ以前にヴィータには不可解な事が一つあった。
それは、“何故こいつは反撃して来ない?”という疑問。
これではまるで自分が弱い者虐めをしているようだ。
ギルモンの言葉をまるで聞いていないヴィータには、それが不可解で仕方がなかった。


ギルモンは今、非情に困っていた。戦いたくなんて無いのに、目の前の女の子は無条件に襲い掛かって来る。
それもギルモンにはこの女の子が、何かに強要されて戦っているように見えたのだ。
―――それはあながち間違いでは無い。
目の前の少女は実際、誰かを守る為、望まない戦いを強いられているのだ。

―――話を聞いてくれないのなら……!

優しいギルモンにはもう、これ以上苦しそうな女の子の表情を見るのが辛かった。
こうなったら、仕方が無い。
再び槍で突撃してくるヴィータ。
ギルモンはそれを上空に飛び上がって回避し、口を大きく開けた。
同時に、赤き炎がギルモンの体内から湧き起こる。
ギルモンの必殺技、“ファイアボール”だ。

もちろん当てるつもりは無い。話を聞いて貰う為に、ヴィータが簡単に回避出来そうな軌道に向けて、火炎弾を放った。
口から放たれた炎は真っ直ぐにヴィータへと向かって行くが、ヴィータはギルモンの予想通り、簡単にそれを回避。
ギルモンの放った炎――ファイアボールは、ヴィータに回避された事により、アスファルトを爆ぜさせた。
爆音が響き、アスファルトに小さな小さなクレーターが出来る。

「あ……あれ……?」

その時、異変が起こった。
空中でファイアボールを放ったギルモンの体から力が抜け、地面に吸い寄せられる。

―――なんで……?

ギルモンは気付かなかった。
プレシアによって装着されたこの首輪は、技の消費をさらに促進させるという事に。
受け身を取る事に失敗したギルモンは、硬いアスファルトに激突し、声にならない鳴咽を漏らした。
それはヴィータに取っては十分な隙。
飛び上がったヴィータは、直ぐに倒れたギルモンの元へと着地した。

「てこずらせやがって……あたしの勝ちだ……!」
「うぅ……ここまでか……ごめんよ……ヴィヴィオちゃん……」

ヴィータが冷たく輝く槍をギルモンの喉元に突き付ける。
ギルモンは最早これまでかと、ヴィヴィオを守る事も出来ずに逝ってしまう事を、小さく謝罪した。

―――あれ?

だが、ギルモンの喉元に、槍が突き刺さる事は無かった。


「―――あたしの勝ちだ……!」
ヴィータは、ギルモンの喉元へと槍を突き付けた。後はこの腕に少しでも力を込
めれば、ギルモンは絶命するであろう。

「うぅ……ごめんよ……ヴィヴィオちゃん……」
「……ッ!?」

何故だ? 手が動かない。あと一息だと言うのに。

―――あたしの目的は何だ? リンカーコアを奪う事じゃなかったのか……?

ヴィータはようやく気付いた。
“どうやって”リンカーコアを奪うんだ? 奪う手段は、今どこにある?
その時になれば出てくると思っていた闇の書は、一向に出てくる気配を見せない。
それどころか、一滴の涙を流すギルモンを見ていると、完全に自分が悪者としか思えなかったのだ。
今までとは訳が違う。ろくな知性を持たない魔導生物では無く、この恐竜は自分の意思を見せたのだ。

リンカーコアを奪えないのなら、はやてを優勝させる為にこの恐竜を殺すか?
果たしてはやては、そんな犠牲の上に成り立つ優勝で、喜んでくれるのか?
一度決めた決意が、揺るぎ始める。
その時であった。ヴィータのポケットの中で、赤と緑の―――ヴィヴィオのデジヴァイスが、眩ゆく輝いたのは。

「うわっ……!?」
「この光は……まさか!!」

あまりの眩ゆさに、ヴィータはバランスを崩してしまった。
その隙にギルモンも起き上がり、ヴィータへと接近する。
ヴィータは構わずポケットからデジヴァイスを取り出し、その画面を食い入るように見詰めた。

「な、何だよ……コレ!?」
「やっぱり……! ヴィヴィオちゃんのデジヴァイスだ!!」

ギルモンがヴィータに近づく事で、ゆっくりとデジヴァイスの光は納まってゆく。
何が何だか訳が解らないままに、ヴィータはデジヴァイスを握りしめた。

「ねぇ、このデジヴァイスを何処で手に入れたの……!?」
「んなこと知るかよ……! あたしのデイバックに入ってたんだよ……!」

慌てながらも、デジヴァイスをギルモンに見せる。だが、それ以上は何も起こらない。
光る事も無ければ、何かが現れることも、画面の表示が変わる事も。
しかし、ギルモンにはそれで十分だったのだろう。
嬉々としてヴィータの腕を掴んだギルモンは、嬉しそうに言った。

「決めたっ! 僕、しばらく君と一緒にいるよ!」
「は、はぁ!? 勝手に決めんじゃねぇ! あたしにはやることがあるんだよ!?」

ヴィータは、ギルモンの手を振り払い、デジヴァイスを押し付ける。
はやてを救わねばならないというのに、こんな所で油を売っている暇があるものか。
――しかし、ギルモンは引き下がらない。ヴィータの腕を引っ張り、無理矢理にでも話を聞かせようとする。

「僕だって、ヴィヴィオちゃんを助けなきゃならないんだ。それまで一緒にいようよ」
「ふざけんな! なんであたしがお前みたいな変な恐竜と一緒に居てやらなきゃなんねーんだ!?」
「変な恐竜なんかじゃないよ! 僕にはギルモンって名前があるんだ!」
「知るかそんなもん! あたしははやてを助けなきゃなんねーんだ、足手まといなんだよ!」

胸を張って名乗るギルモンであったが、ヴィータは聞く耳を持たない。
守るべき物があるとは言え、二人共精神面はまだまだ子供。
先程まで戦っていた事等忘れたかのような漫才を繰り広げる。


ギルモンとヴィータのやり取りを、静観する男――キング。
物影から、ギルモンがヴィータの腕を引く瞬間を、携帯電話のシャッターに納める。
携帯電話からは“ピロリン”とふざけた音が鳴り、その画面にはギルモンがヴィータの腕を引く画像が写し出された。
それは状況を知らない者が見れば、ヴィータの腕を凶暴な巨大トカゲが引きちぎろうとしているようにも見えた。
小さく笑いながら携帯電話をポケットにしまったキングは、次に冷酷な視線でヴィータ達を見詰めた。

―――何だよ、もう終わり?

どうやら、これ以上は二人の戦いは進展しないらしい。
つまらない。つまらなさすぎる。そんな面白く無い結末は、キングの望む物では無かった。
故にキングは、額から一降りの巨大な剣を抜き取った。
剣の名は“オールオーバー”。全てを斬り裂く、強力にして絶対的な力を誇る破壊剣。
キングの姿は、黄金に近い体色をした、全てのカブトムシの祖たる生物へと変わっていた。
右手に持つは、破壊剣“オールオーバー”。
左手に持つは、どんな攻撃をも無効化する強固な盾、“ソリッドシールド”。
キングは――コーカサスビートルアンデッドは、ゆっくりとヴィータ達の元へと歩を進めた。


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