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家族(後編) ◆gFOqjEuBs6




「……ちょっと待て、ギルモン」
「え……?」

さっきまで大声を張り上げていたヴィータが、突然大人しくなった。
何が起こったのかと、ギルモンも吊られてヴィータの視線の先を見る。
――そこに居るのは、僅かな光を反射して輝く、黄金の怪人。

「何だろう……? デジモンかなぁ?」
「何だかわかんねぇけど……味方って訳じゃなさそうだな……」

ゆっくりと歩いて来る、黄金の怪人――コーカサスビートルアンデッド。
カブトムシのように立派な角を頭部に生やしたそいつは、透き通るような蒼い瞳で自分達を見詰めていた。

「おい、何なんだテメーは! 」

ヴィータが声を張り上げるが、コーカサスはまるで聞く耳を持たずに、迫り来る。
やがてコーカサスは走り出し、一気にヴィータとの間合いを詰め、その剣――オールオーバーを力強く振るった。

「ぐっ……!?」
「な……っ!?」

ヴィータが咄嗟に槍を構えた事で、オールオーバーは防がれる。
本来ならば、例えどんな物質であろうと一刀の元に両断するオールオーバーであるが、制限下では防ぎ切るのもそう難しくは無い。
吹っ飛んだヴィータに駆け寄ろうと、ギルモンが立ち上がる―――が、名前が解らない。

「え、えーっと……」
「ヴィータだッ! 鉄槌の騎士、ヴィータ!!」

困った顔で狼狽するギルモンに気付いたのか、ヴィータは名前を名乗り、すぐに飛び上がった。
挑発的に構えるコーカサスに一泡吹かせようと、上空から槍を振り下ろす。

「なっ……!?」

だが、槍がコーカサスの頭に届く事は無かった。
コーカサスの腕に装着されたソリッドシールドと同型の盾が、ヴィータの攻撃に対して、自動的に現れたのだ。
それによりヴィータは弾き返され、さらにコーカサスが横一線に振るうオールオーバーの一撃を受けた。

「チッ……!」

オールオーバーが激突する瞬間、直ぐにアイゼンの時と同じ要領で障壁を展開。
横に振り抜かれたオールオーバーの一撃を受け止めるが、衝撃は緩和出来ず、ヴィータ自身の体も吹っ飛ばされる。
破られた障壁は粉々に砕けるが、どうやらヴィータ本人への直撃だけは防げたらしい。
これがもしそのまま振りぬかれていたならば、ヴィータの体は二つに分かれていたことだろう。

「ぐぁっ……!」
「ヴィータちゃん!!」

地面に激突したヴィータに、ギルモンが駆け寄る。
オールオーバーの攻撃を受けた左肩からは血が流れ出し、ギルモンが心配そうに見詰める。

「ヴィータちゃん、早くデジソウルをチャージして!」
「あん? なんだそりゃ!?」
「デジヴァイスだよ、さっきの機械ーっ!」

急かされたヴィータは、慌ててポケットからデジヴァイスを取り出す。
が、先程のような輝きは放たれず、もちろんデジソウルのチャージ等論外。
「何でだよ!」と、ギルモンが苛立ちの表情を浮かべる。
そう。このバトルロワイアルにおいて、ギルモンは……いや、全てのデジモンは、進化を封じられているのだ。
故にギルモンはグラウモンへの進化は不可能。
それに気付かないギルモンは、とにかくヴィータを守ろうと、コーカサスの行く手を阻むように立つ。
ヴィータの視線が、自分の背中へと真っ直ぐに向けられているのが解る。

―――負けられない! 僕はヴィヴィオちゃんを助けなきゃならないんだ……!

ギルモンの口内で、赤い炎が渦巻く。
それに反応し、ヴィータのデジヴァイスが小さく光った。
そして―――

「ファイアボールッ!!」

ギルモンが、灼熱の如き火炎弾を、コーカサスへと放った!
だが、やはりギルモンの炎はコーカサスに届く前に現れたソリッドシールドに阻まれる。
しかし、ギルモンはめげない。
すぐにファイアボールの再チャージに入り、コーカサスを食い入るように睨む。
先程、ヴィータに放った時と比べれば、ファイアボールを放つ際の疲労は減少していた。
それはヴィータがデジヴァイスを握りしめていることも、少なからず関係しているのだろう。

「ファイアボールッ!!」

再び放たれた火炎弾。
だが、コーカサスには届かない。ソリッドシールドに防がれてしまうのだ。
ソリッドシールドに阻まれた炎は、その威力を失い、光を失っていく。
それでも、ギルモンは諦めない。何度でも、何度でも、ファイアボールを放ち続ける。
ヴィータを守る為、ヴィヴィオを守る為、ギルモンはその気持ちを火炎弾に乗せ、放ち続ける。

「お、おい……ギルモン!」
「ヴィータちゃん、守りたい人がいるんでしょ!? こんなとこで、終われないんでしょ!?
 僕は戦うよ! 例え今は効かなくっても、いつかはあの盾だって……!」

言いながら、ファイアボールを放ち続ける。
対するコーカサスもまた、動かずにただただ攻撃を防ぎ続ける。
本人は挑発……というよりも一種のゲームのつもりなのだろうが。
コーカサスは気付かなかった。
およそ150tまでの攻撃を、完全に無効化するソリッドシールドと言えど、制限下ではその防御力も絶対では無いという事に。

ややあって、いい加減に腹が立って来たのか、コーカサスがギルモンに向かって歩き始めた。
だが、ギルモンは攻撃を止めようとはしない。
何度撃っても防がれるファイアボールを、何発も何発も、自動的に現れるソリッドシールドへとぶつけ続ける!

やがて、ギルモンの眼前にまで迫ったコーカサスは、オールオーバーを大きく振りかぶった。
だが、攻撃体制に入ったのは、コーカサスだけでは無い。ギルモンもまた、口内に灼熱の炎を蓄える。
そして―――

「……ファイアボールッ!!」
「な……ッ!?」

コーカサスがオールオーバーを振り下ろす前に、ソリッドシールドに亀裂が入った。
驚愕するコーカサスを尻目に、「今だ!」と、ヴィータが飛び出した。

「でぇやぁぁぁああああああッ!!!」
「チッ……!」

突撃したヴィータが、槍を一気に振り下ろす。
コーカサスがヴィータに反応するよりも早く、ソリッドシールドが自動的に発動し、ヴィータの槍を受け止めた。
槍がシールドにブチ当たり、今回も今までと何ら変わらない虚しい金属音が響く。
―――いや、その後に、続けてもう一つの音が響いた。

パキィィィンッ!

「な……ッ!? 嘘だろ!?」
「やったぁっ!!」

ヴィータの槍を受け止めた変わりに、コーカサスを守るソリッドシールドが、甲高い音を立てて砕けたのだ。
その一瞬の隙をついて、ギルモンが再びファイアボールを放つ。
しかし、今度はソリッドシールドは発動せず、ギルモンが放った火炎弾は、そのままコーカサスの黄金の装甲を焼いた。
キングはすぐにギルモンを潰そうと、その思い足を動かすが――
今度は、再び背後から現れたヴィータが、槍を薙ぎ払うように振るった。

「……二度目は無いよッ!」

しかし、再び復活したソリッドシールドが、ヴィータの攻撃を防ぐ。
ヴィータは舌を打ちながら後退し、着地。コーカサスを睨み付ける。
ギルモンとヴィータが視線を合わせ、コーカサスを食い入るように見詰める。


「(僕の盾が……破られたッ!?)」

ヴィータの振り下ろす槍の一太刀は、コーカサスを守るソリッドシールドを、粉々に砕いた。
驚愕するキング。
左腕のソリッドシールド本体が砕かれた訳では無い為に、またすぐに生成する事は出来るが、それでも一瞬の隙は生まれる。
ふと横を見れば、さっきの赤い恐竜が、大口を開けて構えていた。口内に輝く赤き光は、まさしく灼熱の炎。
コーカサスが身構えるが、時既に遅く。
ギルモンが放った炎は、コーカサスの脇腹を焼いていた。

―――チッ……これくらい何ともないけど……!

コーカサスが直ぐにギルモンに向き直る。この程度の傷はかすり傷にもならない。
――が、それでもキングである自分を気付けるコイツは許し難い。
オールオーバーを振り上げて、ギルモンに迫るが―――

「っらぁっ!!!」
「……二度目は無いよッ!」

背後から迫り来るヴィータ。
再び回復させたソリッドシールドで、ヴィータの槍を受け止める。
すぐにヴィータは後方へと跳びはね、着地。ギルモンと二人で自分を睨んでいるのが解る。

―――何だよ、そんな目で見るなよ……!

コーカサスは、二人の視線に苛立ちを感じながら、オールオーバーを構え直した。
だが、それは戦闘の構えでは無い。
それとは真逆の―――戦闘の意思放棄だ。
面白く無くなった。この戦いを続ける気が失せたのだ。
やがてコーカサスは踵を返し、元来た道へと引き返した。
されど、まだ人間の姿には戻らない。
何故なら、一度怪人としての姿を見せた相手には、人間の姿は見せない方が有利に事を運べると思ったから。
無駄に手の内をさらす必要も無い。
だから、もうこいつらはどうでもいい。飽きたから、とっととはやての元へと戻ろう。
そう考えたのだ。

「逃げるのかッ!?」

背後から、ギルモンの怒声が聞こえる。

―――逃げる? 冗談じゃない。逃がしてあげるんだよ

コーカサスはそう思ったが、口には出さなかった。
ギルモンは解っていないようだが、恐らくヴィータはその事に気付いているだろう。
そして何よりも、わざわざ自分が声を発するのが面倒だった。


―――遅い。キング、遅すぎる。一体何をやってんねん

八神はやては、キングの帰還が遅い事に苛立ちを感じ、自ら地上本部の外へと歩き出した。
戦いが長引いているのかも知れないと考えるが、それならそれでキングがどのように戦うのかに興味がある。
あそこまで自信満々に“最強”と言い張るからには、よっぽどの自信があるのだろう。
もしこれでキングが弱ければ、はやての“駒”としては必要無い。はやては“強い駒”だけを求めているのだ。
キングからデイバッグを貰ったお陰で、自分の武器も確保出来た。
これ以上戦力の解らない相手の下手に回る必要も無い。
地上本部のエントランスを出たはやては、先程レジアスの部屋から見えた光に向かって真っ直ぐに歩く。
記憶通りならば、もうすぐ先程の光源にたどり着く筈だが―――

「ん?」
ややあって、目の前から、赤いジャケットを羽織った男が歩いて来るのが見えた。

―――キング……?
うっすらとしか見えないが……あんな派手な外見の男はそうは居ない。
はやては、飄々としたキングの表情にため息を付きながらも、キングへと歩み寄った。

「キング、何やったん? さっきの光は」
「あぁ、うん。はい、こんな感じだったよ」
「……?」
キングは、顔色一つ変えずに、開いた携帯電話をはやてへと投げ渡した。
慌ててそれをキャッチしたはやては、画面に標示された画像に視線を移す。

―――――ッ!?

刹那、絶句した。
そこに写されていた画像は、赤い巨大なトカゲが、最悪の家族の腕をギリギリと引っ張っている様子。

「な……そんな……アホな……
 嘘や……ヴィー……タ?」
「ん? どうしたの?」

携帯を握るはやての手が、わなわなと振るえる。最早、キングの声など、はやてには届いて居なかった。
「ヴィータは今、このすぐ近くにおる! 急がな……ヴィータが危ない!!」…と。
それを見たはやてがこう考えるのは当然の事だろう。何しろ、デバイスはプレシアにより奪われてしまったのだ。
それは先程までの自分も例外ではない。力を持たないヴィータが、こんな怪獣と戦うのは危険過ぎる。
事実、はやての元居た世界には未知の怪獣達がうようよといるのだ。
この赤い怪獣が、凶悪な怪獣でないと誰が断言出来る。
故に、はやては走った。
キングが来た道を、全速力で走った。
ヴィータに会える。ヴィータは生きてた。今、ヴィータを助けられるのは自分だけだ。

その一心で、駆け抜けたはやての目に映ったのは、赤い龍と共に座り込むヴィータの姿。
へなへなと座り込んでいるヴィータに向かい合う形で、ギルモンが立っている。
見るからに凶暴そうな鋭いツメが、はやての家族――ヴィータに近づく度に、はやての心は急かされる。
だがそれよりも、今のはやてには、ようやく再び出会うことの出来たヴィータに対する喜びの方が先走っていた。

「あ……あぁ……夢やない……ヴィータ……ヴィータ……っ!!」

はやての瞳から、大粒の涙が零れる。ヴィータは、確かに目の前にいるのだ。
まだこちらには気付いていないが、ヴィータは確かに生きている。
そして、次にはやての目に入ったのは―――血だ。
ヴィータの腕を流れる血。キングのオールオーバーにより切り裂かれた、大きな傷だ。

「ヴィータ……血が……ッ!?」
「あぁ、あれ君の家族だったんだ? 結構ヤバいよ
 さっきあの赤い恐竜に、随分と痛め付けられてたみたいだからさ」

口を塞いでヴィータを見詰めるはやての肩を、後ろから現れたキングが叩く。
先程の画像からも、あの赤い怪獣がヴィータの方を斬り付けたのだろうと推測。
この状況から見ても、そう判断するのは当然のことだった。
もちろんキングの言葉に何の疑いも感じないはやては、あの赤い怪獣が全て悪いのだと勝手に判断。

だが、キングの言葉は全くの出任せ。
キングは、自分が与えた傷を“ギルモンにやられた傷”だと思い込ませるつもりなのだ。
実際、疲労により座り込んだヴィータと、その目の前に立つ無傷の赤い恐竜という構図は、どう見てもヴィータが被害者にしか見えはしない。

拳を握り締めるはやて。沸き起こる殺意。
ようやく出会えた大切な大切な家族を、あんな怪獣に殺されてたまるものか。
はやては、キングから受け取ったデイパックの中から、二刀のグリップを取り出した。
ジェイル・スカリエッティが生み出したナンバーズが12番――ディードの愛用武器。
はやてが握りしめたグリップからは、桜色に光輝く刀身が飛び出した。
やがてその光はガラスのように硬質化されてゆき―――
はやては、刀――いや、ツインブレイズを構え、走り出した。

そんなはやてを見詰めるキングが浮かべる表情は、これ以上無いという程の笑み。
だが、はやては気付かない。
完全に頭に血が昇ったはやてにとって、最早キングの表情などどうでもいいことだった。


「あのさ……ギルモン……」
「何ぃ? ヴィータちゃん」

顔を伏せるヴィータに、ギルモンが笑顔で答える。よく見れば中々に可愛らしい表情だ。
一つの戦いを共に乗り越えたヴィータには、自然とギルモンに対する愛着が湧いていた。
ヴィータ自身はそんなこと認めようとはしないだろうが、先程までのギルモンへの失礼な行動は謝ってやろう……程度には考えていた。
妙な気恥しさから、ヴィータはギルモンの顔を直視出来なかった。
故に俯きながら言葉を紡ぎだす。

「さっきは……あんがとな」
「ぇ……? いきなりどうしたんだよー?」
「誰かを守りたいってお前の気持ち……よく解ったよ……」

誰かを……大切な誰かを守りたいという気持ち。
ギルモンの熱い思いは、ヴィータの中のなにかを揺さぶった。
そうだ。誰かを守るために戦っているのは自分だけじゃない。
もしも、今の自分からはやてを取り上げられたら、自分はどうするだろうか?
きっと、凄まじい悲しみと、そして怒りに包まれる筈だ。
それは、ヴィヴィオという少女を守りたいと云った、このギルモンに取っても同じ筈。
はやてを守るのは当然の事だが、その為に誰かの大切な人を殺していいなんて、ヴィータには思えなかった。
だから、闇の書とかは関係無しに、今はまずはやてを探して、ゲームに乗った奴らから守り抜く。
ヴィヴィオって奴がどんな奴かは知らないが、どうせ守るなら、そいつも一緒に守ってやるのも悪くは無い。
そんなことを考えるヴィータは、依然俯いたまま。

「だからさ……しばらくは、一緒に居てやらねーことも無いっ」

少し恥ずかしげに言うヴィータ。
きっとギルモンも喜んでいるのだろうと思うと、顔を上げるのがさらに気恥ずかしかった。

―――だが、いくら待とうが、ギルモンからの返事は帰って来ない。
こんなことを言うこっちだって、それなりに恥ずかしいのだ。
黙ってるんなら、さっきのも全部撤回してやろうかと、ヴィータは少しばかり苛立ち君に顔をあげた。

「何だよ、なんとか言えよ……ギルモ―――ッ!?」

「ヴィータ……ちゃん……逃げ……て……」
「な……」

―――おかしい。何だこれは?

ヴィータの思考が、完全にストップする。

―――何で……ギルモンの体から“こんなもん”が生えてんだよ……!?

ギルモンの胸を突き破って伸びる、二刀の刀。桜色の刃を濡らす、ギルモンの赤い体液。
刀――ツインブレイズから滴り落ちた血の雫が、ヴィータの足元を黒く染める。
ヴィータには、何が何だか解らない。
このピンクのソードも、ギルモンがその体から生み出した秘密武器なんじゃないか……とも考えた。

「お、おい……ギルモン……?」
「ヴィ……タちゃん……ごめん……ね……
 ……ヴィヴィ……ちゃ……を……お願…………―――」
「お、おい……何言ってんだよ……ギルモン?」

依然訳のわからないヴィータは、悪い冗談かと、ギルモンに声をかけ続ける。
だが、いくら待とうが、やはり返事は帰ってこない。それっきりギルモンは喋らなくなったのだ。
目を閉じたギルモンは、まるで糸が切れたようにドッサリと崩れ落ち、赤い体から流れ出る血が、赤黒い血溜まりを作った。

―――な……んだよ……何なんだよ……これ!? 嘘だろ……!?

ヴィータが、震えた手で崩れ落ちたギルモンの顔を撫でる。
だが、ギルモンはぴくりとも動かない。

「なぁ……ギルモン……嘘だろ……?
 何とか言えよ……おい、ギルモンッ!!」

目尻に小さな涙を浮かべながら、ヴィータがギルモンを揺さぶる。
だが、いくら揺さぶっても。いくら叫んでも。
ギルモンは動かない。ギルモンは喋らない。

「ヴィータ……会いたかった……ヴィータ……!
 やっと……やっと私が助けに来れた……!」

赤い液体を滴らせた刀を振るい、茶髪の女が言う。
だが、ヴィータの頭には、最早何も入っては来なかった。
ゆっくりと顔を上げ、涙で霞んだ目に、茶髪の女を捉えた。
込み上げてくるどす黒い感情に、ヴィータの体が震える。
気付けばヴィータの手には、再び起動した槍状のデバイスが握られていた。

「テメェ…………」
「ヴィータ……私や、はやてや! やっと迎え……―――」

「――黙れッ!!!」

周囲の空気を震わすヴィータの怒声に、はやてがびくっと固まる。

―――こんな奴がはやてだと……? ふざけんじゃねえ……

涙を拭い、立ち上がるヴィータ。槍を構え、目の前の女を睨み付ける。

―――はやてはなぁ……どんなことがあっても……誰かを傷つけるような真似はしねぇ……!

目の前の女は、ヴィータの最愛の人物――八神はやての名を語る。
それがヴィータの怒りをさらに燃やした。
そして、目の前の女に槍を突き付ける。

―――テメェなんかが……テメェなんかがはやての名前を語るんじゃねぇ!!

そうだ。確かに声は似ているかもしれないが、目の前の女は、はやてとは似ても似つかない。
まず普通に立っている時点で有り得ないのだ。
ヴィータの知っているはやては、車椅子が無ければ移動も出来ないというのに。
いや、それよりも一番に、こんなに簡単に誰かを殺せる“人間”が、ヴィータの大好きな八神はやて等とは、思いたく無かった。
――いや、人間などという呼び方は似合わない。こいつは紛れもない、“悪魔”だ!
ギルモンがどんな悪いことをした? 出会ってからそう時間はたってないけど、あいつはずっと、誰かを守るために必死だった。
そんなギルモンが、何故殺されなければならない?

「ギルモンを殺して……はやての名を語って……
 お前だけは……お前だけは……絶対に許さねぇッ!!!」
「な、何言うてんねん……ヴィータ……?」

この期に及んで、まだはやての振りを続ける女に、ヴィータは堪え切れない怒りを感じた。
手にした槍を、強く握りしめる。こいつだけは、こいつだけは許さない。
――絶対に、あたしがブッ倒す……!


―――何や? 何を言うてんねん……ヴィータ?

はやてには、訳が解らなかった。
ようやく再会出来たのに……ようやくゴラスに消えた家族と再会できたのに……
今だってこうして助けたのに、何故そんな酷いことを言われなければならない?

―――まさか……私のこと……忘れたん?

そんなこと、信じたくは無かった。
だが、目の前のヴィータは今こうして、自分に槍を突き付けているのだ。
あり得ない。はやての知っているヴィータは、こんなことをする子では無い。
多少我がままではあるが、真っ直ぐな、良い子だった筈だ。
ぐるぐると思考を巡らせる。考えれば考えるほどに訳がわからなくなる。頭が痛くなる。
そんな中、先程まで自分の背後にいた筈のキングが、ひょっこりと顔を出した。

「あ! わかった……!」
「……キング……?」

背後から歩いて来るキングに、はやてが視線を合わせる。
いつになく真剣な表情のキングは、ヴィータへと冷たい視線を下ろしたまま、言った。

「この女の子、もしかして偽物なんじゃない?」
「偽……物?」
「うんうん。だってさ、有り得ないじゃんか? 
 君の家族達は今もゴラスとやらの中にいるんだろ?」

キングの言葉に、はやては思考を巡らす。
そうだ。翌々考えても見ろ、ゴジラから人々を……
自分を守るために人柱になったヴィータが、こんなところに居ること自体が不自然ではないか。

―――偽物? ヴィータが偽物? そっか……だからか……

だが、このヴィータが偽物だとすれば。それならば全てに納得が行く。
ヴィータが自分を忘れてしまった事にも、自分に向かって槍を構えている事にも。

―――こいつは……偽物……ヴィータの姿を使った、偽物……!

ただでさえ錯乱していたはやてに、まともな考えが出来る筈も無く。
はやてはキングの言うままに、ヴィータを偽物だと判断した。
さしずめヴィータの名を語る、プレシアに生み出されたクローンか何かであろう、と。
ならば話は早い。
目の前のヴィータもどきは、はやての心を踏みにじったどころか、
体を張ってゴジラを食い止めてくれている筈のヴィータさえをも侮辱した。

―――なんや……ヴィータとちゃうんや……敵、なんやね

はやては、再びツインブレイズを構え直し、目の前のヴィータの姿をした“敵”を、鋭く睨み付けた。

「あんたは……ヴィータを侮辱したあんたは、私が倒す……」


―――やっべー、面白過ぎるだろ、これ!

キングは、その冷静な表情の下で、それこそ腹筋が痛くなる程に爆笑していた。
そもそもキングは、この世界のバトルファイトについて、一つの予測を立てていた。
ゴジラとかいう聞き覚えの無い大怪獣や、はやての仮面ライダーを知らないという言葉。
普通に考えればこんなことはまずあり得ない。
故にそれぞれが別の世界から連れて来られたのだろうという事は、簡単に想像が着いていたのだ。

キングの推理が正しければ、恐らく目の前のヴィータは偽物などでは無い。正真正銘の本物なのだろう。
ただ、別の世界から来たが故に、どういう訳か記憶の食い違いが生じているのだろうと判断。
もしかしたら時間軸が違うのかも知れない。
もしかしたら全くのパラレルワールドかも知れない。
それはキングの知るところではないが、それだけ解ればキングにもやりようはあった。
この状況で、精神的に混乱したはやてを焚き付けること等、簡単な事だ。
調度勝手に暴走したはやてがあの赤い龍を刺してくれたし、これで相手にも戦う準備が整う。

―――家族同士の絆……か。面白い面白い、どうなるか見物だなぁ

キングの心からは、笑いが耐えなかった。
こんなに面白い茶番を開始早々見られるなんて、キングにとってはプレシアに感謝したいくらいだった。

もうこれ以上自分が手出しする必要は無いだろう。
邪魔にならないようにはやて達から距離を取ったキングは、携帯電話を取り出し、血溜まりを作るギルモンへとレンズを向けた。
ズーム機能を使い、血を流し倒れたギルモンを、画面一杯に写し出す。

「残念だったね、でも最期の言葉は、ちょっとイカしてたよ♪」

ピロリンと、携帯電話の明るいシャッター音が鳴る。
携帯のメモリーに力尽きたギルモンの画像を保存。
同時に、キングの笑い声が小さく漏れる。
また面白い写真が撮れた。そのうちネットにでも流してやろうかな、などと考える

―――“ついに発見!赤い恐竜!”……なんていいかもね。

そんな考えが、キングをさらに笑顔にする。
こらえ切れずに少し大きな笑い声を漏らしてしまうが、問題はない。
どうせはやて達には聞こえない。
完全に二人の世界に入ったはやて達には、最早外界のどんな言葉も聞こえないだろう。
まるで子供のように純粋な悪意は、決して止まる事は無かった。


【1日目 深夜】
【現在地 E-5 地上本部付近】


【キング@魔法少女リリカルなのはマスカレード】
【状態】健康、非常に上機嫌。一時間変身不可(コーカサスビートルUD)
【装備】無し
【道具】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのはマスカレード
    キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのはマスカレード
【思考】基本 この戦いを全て滅茶苦茶にする
    1.面白そうだから、はやてとヴィータの戦いを見物する
    2.カブトの資格者を見つけたら、ゲームでも持ちかける。でも、飽きたら殺す
    3.面白そうだから、当面ははやてに協力してやる
    4.とにかく面白いことを探す
【備考】
 ※先ほどの戦いで、何となく自分に制限が掛けられている事に気がつきました
 ※ゴジラにも少し興味を持っています
 ※携帯電話は没収漏れです。写メ・ムービー以外の全ての機能は停止しています。
 ※携帯には相川始がカリスに変身する瞬間の動画等が保存されています。
 ※キングの携帯に外部から連絡出来るのは主催側のみです。
 ※カブトの資格は持っていません


【八神はやて(sts)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康、怒り
【装備】ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ランダム支給品1~3個(武器では無い)
    ランダム支給品1~2個(キングから貰いました)
【思考】基本 プレシアの持っている技術を手に入れる
    1.目の前のヴィータの偽物を倒す
    2.キングを一人目の駒として利用する
    3.首輪を解除できる人を探す
    4.プレシアに対抗する戦力の確保
    5.以上の道のりを邪魔する存在の排除
 【備考】
 ※参戦時期は第一話でなのは、フェイトと口喧嘩した後です
 ※名簿はまだ確認してません
 ※このゲームに参加しているヴォルケンリッターは全員、プレシアが用意した偽物だと思っています
 ※ツインブレイズはキングから受け取ったデイバッグに入っていました
 ※キングのことは、ただの念力が使えるだけの少年だと思っています


【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(小)、左肩に大きな切り傷、激しい怒りと悲しみ
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
    ランダム支給品0~1(武器では無い)
【思考】 基本 はやてを救って、元の世界に帰る
    1.ギルモォォォォォンッ!!!
    2.目の前にいる、はやての名を語る女(八神はやてStS)をブチのめす
    3.ヴィヴィオって奴を見付けた場合は、ギルモンの代わりに守ってやる
【備考】
 ※はやて(StS)を、はやて(A's)の偽物だと思っています
 ※デジヴァイスには、一時的に仮パートナーとして選ばれたのかも知れません。
 ※なのは達のデバイスが強化されたあたりからの参戦です

【共通の備考】
 ※E-5 地上本部付近には、ギルモンの死体が放置されています。
 ※E-5 地上本部付近にギルモンのデイバックが放置されています。中身は不明。




「……モン……! ギルモン……!
 なぁ……嘘だろ…………何とか言えよ……」

微かに聞こえる声に、ギルモンはゆっくりと、されど他人からは解らない程に薄く、瞼を開いた。
自分を揺さぶって泣いている少女は、さっき出会ったばかりの少女――ヴィータだ。
だが、何故泣いているのだろう? あの強そうなカブトムシの敵を倒せたていうのに。
何か悲しいことでもあったのかな?
泣き顔なんて見たくはなかった。出来る事なら笑顔でいて欲しかった。
故にギルモンは、ヴィータを励ましたい一心で、声を絞り出した。

―――ヴィータちゃん……? 何で泣いてるの……? ねぇ、そんなに悲しい顔しないでよ

自分を揺さ振るヴィータに、ギルモンはそう返した……気がした。
だが、どういう訳か、自分の声は聞こえない。なんでだろう?
頭上に疑問を浮かべる。
だが、疑問と同時に、睡魔がじわじわと襲いかかってくる。
ギルモンには、もうそんな細かい事はどうでも良く思えてきた。




『ギルちゃん、ギルちゃん!』

―――んー……誰ぇ?

ギルモンは、どこかから聞こえる声に再び、うっすらと目を開けた。
正直言って、まだ眠かった。もっと眠っていたかった。
それでも自分を呼び起こす声に、瞼を擦りながらもなんとか目を開ける。

『あ、ヴィヴィオちゃん、おはよー』
『もう、ギルちゃんったら、もうお昼だよー!』

目の前にいるのは、緑と紅の綺麗な瞳を持った少女。
掛け替えの無い大切な家族―――ヴィヴィオだ。

『うーん……もうお昼なの……?』
『外、もうこんなに明るいんだよー? ギルちゃん寝過ぎだよー』

―――そんなこと言ったって、疲れてるんだよぉ。
心の中で愚痴を漏らしながら、ギルモンはゆっくりと起き上がる。
そしてヴィヴィオに手を引かれながら、うとうとした両の目を擦る。

――あれ? 僕、どうしてこんなに疲れてるんだっけ……?
暫しの間、ギルモンは座り込んで考える。
何か、凄い経験をしたような気がするけど……うーん、思い出せないや。
何だか、誰かと一緒に凄く強い奴と戦ったような……

『ギルちゃん何してるのー? お昼ご飯冷めちゃうよー』
『あー、待ってヴィヴィオちゃーん』

ヴィヴィオに呼ばれた、ギルモンは、ヴィヴィオ達と共に暮らしていた洞窟の奥へと掛けて行く。
温かい食事。家族皆で囲む食卓に、ギルモンは幸せで、幸せで、胸が一杯だった。

願わくば、こんな平和な日常がいつまでも続けばいいな……
そんな事を思いながら、ギルモンは食事を頬張る。
家族で一緒に食べられる食事がこんなにも美味しいだなんて、今始めて気づいた気がした。
ギルモンは、ひしひしと、家族の絆のありがたみを、胸に刻んだ。
ギルモンの目の前にちょこんと座ったヴィヴィオは、可愛らしく小さなスプーンを口へと運んでいる。

『おいしいね、ヴィヴィオちゃん♪』
『うんっ、美味しいね、ギルちゃん♪』

ギルモンの声に、ヴィヴィオが返す。
その声の中には、一切の悲しみが存在しない。こんなに幸せな日々を送れたことに、感謝の気持ちで一杯だった。
そんなギルモンの顔は――いや、ギルモンだけではない。
一緒に食卓を囲むヴィヴィオの顔にも、これ以上無い程に幸せな笑顔が浮かんでいた。

もうこれ以上、ギルモンはこの幸せを、脅かされる必要は無い。
願わくば、いつまでも……いつまでも、こうして居られますように。
ギルモンは屈託の無い笑顔を浮かべながら、ヴィヴィオにほほ笑み掛けた。



その生を全うしたギルモンは、きっと新たなデジタマへと帰り、再びデジタルワールドに生まれるのであろう。
それはギルモンとしてでは無いかも知れない。
次はどんなデジモンになれるのか、それは誰にも解らない。
ギルモンの未来は、無限に広がっているのだ。

だが、ギルモンの想いは――願いは、決して消える事は無い。
ギルモンの心は、きっとこれからもヴィータと……そしてヴィヴィオを守り続けるであろう。
ヴィータのポケットの中に輝くテジヴァイスは、今もギルモンの想いを乗せ、小さな輝きを放ち続けていた。

【ギルモン@デジモン・ザ・リリカルS&F 死亡】
【残り58人】


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ギルモン GAME OVER






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