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空への翼 ◆WslPJpzlnU




 暗い夜だ、と新庄は思う。
 自分の周りに散らしたデイバックと支給品、そこに含まれる時計が深夜である事を示していた。
 淡い月光に黒い長髪が煌めく。同様に着込んだ装甲服もその白色を主張し、暗闇にその存在を主張していた。
 装甲服といっても、外見は白黒のボディースーツに金属製の骨子を付け加えた様な様相だ。ゴム製にも見えるロングスカートが腰部と接続しているが、一見した限りでは防護性があるようには見えなかった。
 だがその全ては概念によって防護効果を付加されており、外見に反して優れた防御力を有する現代の鎧だ。
 そして、厚手の軍用手袋をした両腕は一丁の狙撃銃を構えていた。鈍く照る黒い外装からは細長い銃身が伸びており、その基部には逆さまになった二等辺三角形のコンソールが備わっている。
 機体と並行に伸びた銃床を肩に当て、右手でグリップを、左手で機体下部を握りこんでいた。そして機体に添えられたスコープに右目を押し当てている。
 しかし、新庄の構えは、狙撃銃のその機能を行使するには欠くものがある。
 まず第一に解る事は、伏せていない事だ。狙撃を望むなら、伏せて地面との接着面を増やすなり、銃身を建造物の外縁で固定するのが基本である。だが新庄はそれをせず、直立した状態で背を丸めて銃を構える、不格好な姿勢をしていた。
 そしてもう一つ、決定的に欠くものがある。
 グリップを握った右手、その人差し指が引き金に掛けられていない事だ。
 戦意の無い戦闘態勢、不完全な狙撃姿勢のまま銃口は周回する。
 右から、次第に、左へ。
 それは狙撃ではなく、望遠鏡で周囲を確認しているかのようだった。
 事実、新庄が立つのは望遠鏡が備えられていても可笑しくない、高層ビルの屋上だ。
 白みを帯びた長方形の建造物、壁面には窓硝子を整列させ、屋上外縁には落下防止のフェンスが突き立っている。フェンス越しに見える風景は、このビルほどではないものの、高層ビルと呼ぶに足りる建物の密集地帯だ。
……地図にある、ビル密集地って事だよね……
 先ごろに確認した地図、その中央部に描かれていた地域の事を新庄は思い返した。そして、狙撃銃によって確認した景色によって現在位置も把握済みだ。
 把握の鍵は、新庄の居るビルにも匹敵する超高層ビル。このビルに反して色黒の印象を受けるそれは、山林地帯を背景にしていた。
……あれが、地上本部っていう所なんだよね……?
 地図にも特記事項として記された施設。それとの位置関係や同等の規模である事から、新庄が推測する現在位置の名は、
……スマートブレイン本社ビル……
 その屋上に自分は居るのだ、と新庄は判断している。
 そうして周囲を一通り確認して、新庄は狙撃銃を下ろした。
「……はぅ」
 まだ見ぬ環境の確認と、それなりの重量がある狙撃銃を不完全な体勢で構える事、その両方を完遂して新庄は浅く息を吐いた。
 膝を曲げて尻を下げ、狙撃銃から離した左手を接地させて支えにしつつ、座り込む。そうやって座り込んだ後は、親指と人差し指で疲労の溜まった眉間を揉んだ。
「どうでしたか?」
 不意に新庄は問いを放つ。目は天上を仰ぎ瞬かせており、話し相手を見ていない。
 まるで、話し相手が傍にいるかのように。
 しかし新庄の周囲に人の姿はない。ビルの屋上は新庄を除いて、無人だ。問いかけは明後日の方向に放たれ独り言で終わる、かに思われた。
 だが、 
『ビンゴ、ですね』
 答えは返ってきた。
 声はやや低めの女性のもので、しかし肉声ではない。同じ声が二重になって聞こえるような、電子音の混じった声だ。
 その声は、狙撃銃のコンソールが点滅するのに同期していた。
『予想は当たっていましたよ、新庄』
 ストームレイダー、そう呼ばれた狙撃銃は新庄に吉報を告げる。
……良かったぁ……
 思った途端、肩が緩んだ。気の綻びに自然と頬の力が抜け、脱力するような笑みが新庄に浮かぶ。
 そして気色の微笑みと共に、新庄はストームレイダーへと目を向けた。
「やりましたね、ストームレイダーさん! これで当面の目的と……希望が持てました」
 小さくはしゃぐような様子でかけられた声に、そうですね、とストームレイダーは控えめに答える。
 自分と同様に喜色を感じつつも、それとは別に何か思うところがあるようなその様子に、新庄は小首をかしげた。
『……新庄、喜ばしい状況の所に、余り茶々を入れたくはないのですが……』
 押し堪えるようなストームレイダーの声に、びくり、と新庄の肩が震えた。
 何かいけない事したかなぁ、と思いつつ、
「な、なんですか? ストームレイダー……さん」
『それです』
 問い返しに断言がなされ、一際大きく肩が震える。
『良いですか新庄? 私はデバイス、貴女に与えられた貴女の武装なのです。それに敬語を使う必要はありません』
 道具に注意される女、新庄。
……やっぱり武器型になる人って、考え方も格式ばってるのかなぁ……
 人じゃないけど。
 少し偏見だけど。
 とか付け加えつつ。
 慌てて新庄は抗弁に励む。
「で、でも、あのね? ボクの知ってるデバイスって、ストームレイダー……さんみたいのじゃなくて…こう、道具としては扱い辛いというか」
『それなのですが、本当に新庄のところのデバイスは、全て自我を持たないのですか? 確かに私の知るデバイスもそういうのは多いのですが……』
「うん。僕の知ってるデバイスっていうのは……概念を使うための機械で、自我を持つのは極少数って聞いてるよ」
『……概念、ですか』
 新庄の放った単語にストームレイダーは押し黙った。深慮するような様子で、再び問うた時もまだ疑問を引きずって、喋る。
『それが、またよく解らない単語ですね。何というか、正に概念的で要領を得ないというか……』
 ごねる様に呟いて。
『一定の空間に新しい物理法則を加える、という認識で良いのですか?』
「そんな感じ、かな? それだけって訳じゃないんだけど」
 概念。
 数ある異世界が固有に持つ、物理法則の原因。
 空間に加えれば、その範囲に。
 道具に加えれば、その機能に。
 それが示す力を発揮させる、特殊能力の結晶。
……概念を知らないデバイスっていうのも、何か不思議な感じ……
 ストームレイダーが言うには、彼女のいたところでは、デバイスは魔力という力を消費して魔法を起こす機械であったらしい。自分たちがGと呼ぶ、かつて滅びた異世界群の他にも異世界はあったのだろうか、と新庄は思う。
 この奇妙な協力者を得たのは、ほんの数十分前だった。
 突如として連れ込まれた、殺し合い。
 縛られ。
 脅され。
 見せつけられ、た。
 逆らい殺された少女を。
 少女を殺した女性、プレシアは、それを新庄達にも行なえと命じ、否応もなく新庄をこの場へ送り込んだ。
 原理不明の転移が為され、このビル屋上に飛ばされ、新庄が最初に行ったのは名簿の確認だった。
 巻き込まれてほしくない、少年がいたから。
……佐山君……
 出会い、まだ一日にも満たない少年。
 なのに、何故か意識してしまう少年。
 幸いにも名簿に彼の名は無く、彼はここにいないようだ、と新庄は判断した。
 ほ、と我知らずと息が抜け、新庄は名簿を仕舞おうとした。気づけば辺りにデイバックの内容物が散らかっており、ずいぶんと慌てたんだな、と自分を思い。
 そして出会ったのがストームレイダーだ。
 正確には、見つけた、という方が正しかったが。
……認識票が喋るとは思ってなかったもんなぁ……
 散らかった道具の内の一つに、何の役に立つのかと疑問に思う、認識票が混じっていた。
 ひょっとして自分が死んだ時の為か、と恐る恐る摘み上げ、しげしげと見つめた時に声をかけられた。
……うっかり取り落としちゃったりして……
 それでしばらくは微妙に怒ってた気もしたけれど。
 とりあえずストームレイダーの言われるがままに彼女を起動させ。
 ストームレイダーは、認識票から狙撃銃への奇跡の変身を遂げた。
……貴女の助けになります、か……
 助けます。
 起動したストームレイダーが最初に言った言葉。
 それを聞いた時、新庄は不覚にも、
……泣いちゃったもんなぁ……
 殺し合いに呼ばれ。
 目前で人が死んで。
 自分も強要されて。
 そして出会った不思議な機械の、その言葉。
 それを受けて、新庄は緊張を途切れさせてしまった。
……困ってたもんなぁ、ストームレイダーさん……
 それはそうだろう、とも新庄は思う。
 齢十七になる大の女が、恥ずかしげもなく泣き喚けば、そりゃ扱いにも困る。
「……うぅ」
 思い出された自分の醜態に、自然と頬が熱くなった。
『新庄? どうかしましたか?』
「ふぁ、ふぁいっ!?」
 不審げなストームレイダーの問いの問いに、新庄は間の抜けた返事をする。
 ただいま現在時間。
「な、なんでもありませんですよっ!?」
『……ではどうして疑問形なのですか……』
 あきれた様子のストームレイダーにどうもばつが悪くて、新庄は話題を進める事にした。
「それで、ストームレイダーさんの言ってた物はあったんですよね?」
「……ええ、まあ」
 話題をそらした新庄に、ストームレイダーは胡乱げな返答。彼女に目があったらきっと半目だったろうな、と新庄は思いつつ、
「――704式ヘリ、っていう、ストームレイダーの載ってたヘリコプターは」
 探していた、それの名を告げる。
「機動六課隊舎、だっけ? ストームレイダーの言ってた施設って」
『はい。先ほど名簿と共に確認した地図上にあったのですが……たった今、新庄の協力で実際でも確認でいました』
 スコープを、と促され、新庄は再びストームレイダーのスコープに右目を押し当てる。
「座ったままでも見えるんですか?」
『位置はもう特定しましたから。私の誘導に添って視点を動かして下さい』
 スコープに当てた右目が、円形に区切られた風景を捉えた。それはスコープの機能により、深夜にあっても正確かつ拡大された立地を映す。
 と、円形の風景に赤い矢印が投影された。
……これが誘導、かな?
 スコープの表示した矢印に従い、示された方向へと新庄はストームレイダーの先端を動かす。そして視点の位置調整を終えると、次は自動で望遠機能が作動し、一つの施設を新庄に確認させた。
 それは背の低い、引き換えに奥行きのある建造物だった。
 高さにして五階程度、しかし左右に広い構造になっており、前面には湾岸、背面には広大な庭とヘリポートが広がっている。
 そしてヘリポートには、闇夜に馴染む深緑のヘリコプターが鎮座していた。
……あれが704式ヘリ……
 輸送用というその機械は、無骨な作りをしていたが大型であり、相応の物資や人員が運べる事を新庄に悟らせる。
 目的を再確認した新庄はスコープから目を離し、ストームレイダーを下げた。
 と、
『私の本来の主は』
 不意にストームレイダーが語りだした。
『彼は、あれを駆って仲間達を事件現場に運ぶ仕事についていました。私自身も、機体に組み込まれ補佐をして』
 その言葉に新庄は少し驚く。
「じゃあ、狙撃銃の形態は使ってなかったんですか?」
 狙撃銃という攻撃的な形態を持つストームレイダーだから、新庄は本来の主は戦闘要員なのだと思っていた。
 新庄の率直な問いにストームレイダーは、
……え……?
 無言で答える。
 それも言葉に詰まったのではなく、語らない、という意味のある意味のある沈黙だった。
『……えぇ』
 そうして告げられた答えよりも。
 それまでの間の方が重要に思えて。
 新庄はそれ以上聞くのを止めた。
「ともあれ、ストームレイダーがいればあのヘリを動かせるって事ですよね」
 本題へと逸れて、それをストームレイダーがどう思ったのかは解らない。
 ただストームレイダーは、沈黙を抜いて回答を告げる。
『……そうですね。操縦の履歴は残っていますし、簡単な飛行と離着陸ぐらいなら出来ます』
「十分だよ」
 ストームレイダー自身は完璧ではない事に、少し言いにくそうな様子だったが、新庄にしてみればそれで事は足りた。
 うん、と一人頷き、新庄は意気込む。
 だがストームレイダーは、新庄ほどに楽観視はしていないようだった。
 音声以外に意志表示ができない筈のデバイスから、新庄は一つの感情を如実に得る。
 不安、その一語。
『しかし新庄、704式ヘリを動かすには、私が継続的に待機状態で組み込まれている必要があります』
 それを皮切りにしてストームレイダーは懸念を続けた。
『その間、貴女はどうするのですか? 私以外に、貴女には武器は支給されていないのでしょう?』
 どうやって生き伸びるのか。
 どうやって身を守るのか。
 どうやって、戦うのか。
 そう、訊かれて。
「――戦わないよ」
 答えは一言。
 言い聞かせるように。
 彼女にも。
 自分にも。
「ボクは誰も殺さないし、誰にも死んでほしくない」
 だから。
 手に入れる。
 殺さず、死なさず、戦わずに済ます、道具を。
「この殺し合いに巻き込まれた人たちを、助ける為に。……ストームレイダーは704式ヘリにたどり着くまでの自衛手段になってくれれば良いんだよ」
 言葉を返して、返されることはない。ストームレイダーは黙したままで、言った新庄に、自分の顔を見る事は出来ない。
 しかしストームレイダーの、目のない彼女の注目が自分の顔に向けられていて。
 何かが。
 伝わる何か、が。
 あったのかな。
 とか思う。
『解りました』
 そして、ストームレイダーは答えた。
 解りました。
 判りました。
 分かりました。
 と。
「殺し合いに乗らない、乗らない人達を助ける。…それは、私としても望むところです」
 笑みとか、意気とか。
 そういう感情を感じた。
「――やりましょう、新庄。誰かを助ける為に」
 その言葉に。
 だから。
「……うん!」
 言って。
 思った。
 今度は泣かないよ、と。
……有難い人……
 そんな風に、新庄は思う。
 ありがとう。
『それに新庄も、やっと私に対して道具らしい扱いをしてくれましたし』
 続けてストームレイダーは、ふ、と笑ったように言った。
 その言葉に新庄は、へ、と首をかしげ、
「あ。は、話し方の事?」
 言われてみれば、確かにいつの間にか新庄は敬語で話すことを止めていた。
「そ、その、ごめんなさい」
『謝らなくていいんです。機会に謝らないでください、新庄。大体、その方が貴女も素でしょう?』
 それはそうなんだけど、と新庄は言い淀み、それからふと思う。
 ストームレイダーの物言いもまた、どこか軽いものになったな、と。
……馴染んだのかな……
 自分も。
 彼女も。
 そう思うと、胸の内に喜色がにじみ出て。
「これからよろしくお願いします!」
 あらためて挨拶してみたりして。
 ただ、
「ストームレイダー………………………………………さん」
 これだけは外れませんでした。
『……はぁ』
 器用にも。
 ストームレイダーは電子音で溜息をついた。





【1日目 深夜】

【現在地 F-5 スマートブレイン本社ビル屋上】
【新庄・運切@なのは×終わクロ】
【状況】健康、女性体
【装備】ストームレイダー(15/15)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ランダム支給品(0~2、武器はありません)
【思考】
 基本:出来るだけ多くの人と共にこの殺し合いから生還する
 1.機動六課隊舎の704式ヘリ確保を目指す
 2.弱者、及び殺し合いを望まない参加者と合流する
 3.殺し合いに乗った参加者は極力足止め、相手次第では気付かれないようにスルー
 4.自分の体質については、問題が生じない範囲で極力隠す
【備考】
 ※参戦時期は、第7章で佐山と別れた後です。
 ※特異体質により、「朝~夕方は男性体」「夜~早朝は女性体」となります。
 ※スマートブレイン本社ビルを中心して、半径2マス分の立地をおおまかに把握しました。
 ※ストームレイダーの弾丸はすべて魔力弾です。非殺傷設定の解除も可能です。
 ※H-3機動六課隊舎のヘリポートには、704式ヘリがあります。

【704式ヘリ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
 ヴァイス・グランセニック、アルト・クラエッタが操縦した輸送用ヘリ。内部には十数人を収容できるスペースがある。
 待機形態のインテリジェントデバイスを操縦桿に組み込むことで、インテリジェントデバイスはヘリを操縦することができます。デバイス無しでも操縦はできますが、その場合は完全にマニュアル操作となります。
 デバイスによる操縦の場合は、操縦中は常に組み込まれている必要があるため、デバイスは操縦以外の事が出来なくなります。



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