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コピーベントの罠! ナンバーⅤ危うし(前編) ◆9L.gxDzakI




「――一体何がどうなっているんだ!」
 廃墟の真ん中で、1人の少年が苛立ったように喚いた。
 元はどこかの小さな町であったのだろうか。しかし今現在のこの場所は、見るも無惨に朽ち果てている。
 ひび割れた家、壁に穴の空いた家、半壊状態にさえ至った家。
 電柱は軒並みへし折れ、砕けたアスファルトに散乱した電線には電気の光すらない。
 大規模な戦争か何かが通り過ぎたような、そんな場所。
 ここで戦いがあったわけではない。ここは元からこうだったのだ。
 一体あのプレシア・テスタロッサが、いかなる意図でこういう場所を用意したのかは誰にも分からない。
 ともかくも、その残骸の中心地に、万丈目準は不機嫌そうに立っていた。
 デュエルアカデミア3年生。黒い制服は、ノース分校で仕立てられた特注品。
(あのデュエルモンスターズ世界からようやく出られたと思ったら……結局何も変わらんではないか!)
 苦々しげに歯軋りをする。
 つい先ほどまで、彼はここともまた別の異世界にいた。
 どこまでも続く白い砂の大地。その中にぽつりと佇立する、母校アカデミアの校舎。
 実体を持ったカードゲームのモンスター達との、終わりの見えない生存競争。
 その場所からようやく脱出できたかと思ったら、ここでもまた要求されるのは殺し合いだ。
(何でこうもたびたびこんな――)
 ――轟。
 唐突に耳を貫く爆音。
 さながら悪魔の唸り声。
 身体をびくりと震わせて、瞳をくわと見開いて、万丈目の思考はいずこへと吹き飛ぶ。
 遠くから響いたのは、さながら遠雷にも匹敵する凄まじい音だった。
 次いで、めりめり、めりめりと、木々の砕ける音が混じる。
 どうやらこの廃墟を囲む森の中で、何か大規模な破壊が起こったらしい。
 ここが戦場であるということを、改めて実感する。それも並々ならぬレベルの危険度の。
(……ええい、冗談じゃないっ! この万丈目サンダーをこんなことに巻き込んで、ただで済むと思うなよ!)
 怒りを胸へと蘇らせながら、内心でプレシアへと叫ぶ。
 この借りは十倍にして返してやろう。いや、百倍だ。千倍。一万倍にしてやってもいい。
 とにかくまずはここから脱出し、説明を受けたあの部屋へと戻り、あの女を思いっきり殴り飛ばしてやる。
(そのためには、なのは達魔導師組との合流が必要か……)
 ふと、冷静さを取り戻しながら、デイバッグから名簿を抜き出す。
 あの場にはすぐ近くに座っていたアカデミアの仲間と共に、異世界から来た魔法使い達の姿もあった。
 そもそもプレシアとは、そちら側の世界に位置する人間らしい。であれば、彼女らがいるのは必然か。
 名簿に並んだ名前へと、ざっと目を通す。
 遊城十代、天上院明日香、早乙女レイ……アカデミア組は、どうやら自分が確認した面子で全員らしい。
 つまりこの場には、丸藤翔とティラノ剣山、エド・フェニックス、そしてヨハン・アンデルセンを筆頭とした分校組はいないということ。
 誰か1人忘れている気がしないでもないが、何となく今に始まったことではないような気がしたので放っておく。
 そして、続いて確認したのは管理局の人間だ。
 高町なのはを始めとする、6人のデタラメ人間達。こちらは全員この場に集められたようだ。
 彼女らは転移魔法という、いわゆるテレポートのような力を持っているらしい。
 ならばそれを使えば、あの場所へと戻ることができるだろう。
 ここがあの砂漠と同じように、転移に対するジャミングの張られた場所である可能性には、遂に至ることはなかった。
 ちなみに更に補足するならば、先ほどの咆哮はそのなのはの招いたものだったが、そんなことは知る由もない。
 とはいえ、それは万丈目の知らない「もう1人のなのは」の方の話なのだが。
(よし……今後の方針は決した! まずはここから脱出するために、連中と合流を果たす!)
 拳を握る。万丈目の瞳に宿るのは、ぎらぎらとした決意。
 デュエルアカデミアで、互いにしのぎを削ったライバル達と。
 時空管理局からやってきた、超人的な力を持つ魔法使い達と。
(何よりもまず――天上院君とッ!)
 自分が惚れたクラスメイトと。
 握った拳を天へと掲げ、煌々と輝く天上の月へと、固く誓った。
(……では、残る支給品を確認するか)
 どっかと腰を下ろすと、道路へデイバックを置き、中身をあさる。
 まずは武器が必要だ。誰かに襲われた場合の自衛手段として、そしてプレシアへの報復手段として。
 ここで重要となるのは、別に万丈目には他の参加者を殺すつもりはないということだ。
 あくまで当面は外敵を追い払うためのもの。一撃で対象を殺すような危険物は欲しくない。
 要するに、銃器などはNGだ。どちらかと言えば、いわゆる「峰打ち」のできる剣などの方が都合がいい。
 やがて何かが手に触れた。それを掴み、外気へと晒す。
「タッパー?」
 出てきたのは、プラスチックで作られた容器だった。
 家庭の弁当などで見られる、食品類を入れるためのもの。ご丁寧にも、カレーライスと思しきものが既に入っている。
 一体何故、こんなものが支給されたのだろう。見たところ食料品は別にあるというのに。
 とはいえ、こうして用意されたからには、何らかの意味があるはずだ。
 輪ゴムで括りつけられたプラスチック・スプーンを手に取り、蓋を開ける。
 何やら微妙に赤いような気がするが、まぁ気のせいだろうと判断。漆黒の宵闇は、万丈目の色彩認識能力を削っていた。
 中のカレーライスを掬い取り、口へと運ぶ。



「……ぬぅあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!!!!」



 森全体に響き渡るような絶叫が上がった。
 この世の終わりを思わせるような、悲痛な叫び。音量ならば、先ほど聞こえた砲撃ともいい勝負。
 そして声の主たる当の万丈目はというと、廃墟のアスファルトの上でじったんばったんとのた打ち回っていた。
(辛い……辛すぎるぞこれは! 何でこんなものが支給されているんだっ!)
 ひりひりとした感触を訴える舌が痛い。
 たった一口食べただけでノックアウト。
 彼に支給されたこの追加食糧は、完全なるトラップにも等しい代物だった。
 悶絶する万丈目の思考能力は根こそぎ奪われ、ひいひい言いながら道路を転がる。
(おのれ……許さん、許さんぞプレシア! この俺様をここまでこけにしおってぇ!)
 沸々と怒りを湧き上がらせながらも、無様に身体をごろごろとさせる万丈目。
 彼がようやく動けるようになるまでには、それから数分もの時間を要することになった。
 未だ舌の痛みは抜け切らぬものの、どうにかこうにか耐えられるレベルになったことで、その身体を道路から起こす。
 再びデイバックへと手を入れ、次なる支給品を探し始めた。
 そして程なくして、更なる物体が引き抜かれる。先ほどのタッパーよりも大きい。手に伝わる金属的な感触。
「……なんだ、これは?」
 奇妙な首飾りがそこにあった。
 紐がかかっているのだが、その先端の飾りは妙に大きい。
 全体を形成するリングのサイズは、ともすれば人間の顔ほどにすら思える大きさ。
 中央には先ほど手触りで感じた、黄金に輝く三角形のパーツ。周囲には同様の素材の楔が並んでいる。
 ただの装飾品ではない。何らかの呪術の儀式で用いられるような意匠。
 そんな古めかしさと悪趣味さ、そして不気味さが同居するリングが、彼の両手に納まっていた。
(こんな大仰な形をしているからには、魔法のアイテムか何かなんだろう)
 妙に冴えた勘のもとに、それを首へと通す。
 たとえば、自身の身体能力を強化するだとか、魔法のような力が使えるようになるとか、そんなもの。
 ロールプレイングゲームのような展開に期待しつつ、そのリングを身に着けた。
 デュエルモンスターズの世界や魔法使いの世界が存在するのなら、そんなものが更に別の世界にあっても不思議ではない。
 結論を言えば、それは半分正解。だが、半分は間違いだ。
 それは善良なるサポートアイテムなどでは断じてなく――言わば呪いのアイテムにも等しき存在だった。

『――よぉ』

「っ!?」
 不意に、どこからともなく声が届いた。
 反射的に周囲を見回す。だれもいない。どこにもいない。頬を伝う嫌な汗。
 今の声は一体誰だ。敵か、味方か。少なくとも聞きなれた声ではない。では、一体何者の声なのだ。
 ごくり、と喉を鳴らしながら、再び闇夜に視線を飛ばそうとした瞬間、
『おいおい、そっちじゃねぇよ!』
 嘲るような声が再び響いた。
「だ……誰だ貴様はっ! 姿を現せっ!」
 僅かに震えた声で、万丈目は叫びを上げる。
 どこから聞こえてきたのか、それが全く読み取れない。
 右から聞こえてきたわけでも、左から聞こえてきたわけでもない。前からでも、後ろからでもなく。上からでも、ましてや下からでも。
 いや、そもそもそれは、本当に外から聞こえてきた声だったのだろうか。
 不意にそんな疑問にかられた。
 夜の闇よりなお深き、漆黒の深淵から這い上がるような声。ではその深淵とはどこだ。
 心の底から浮かび上がってくるこの呼びかけは、であればむしろ己が内側から――
『そう焦らなくても出てきてやるって』
 1人の少年の姿が、目の前に浮かび上がってきた。
 銀色の髪を長く伸ばした、恐らく自分と同年代か、あるいは1つ下といった様子の男。
 瞳はぎらぎらと獣のように輝き、獰猛な笑顔をこちらへと向けている。
 ぞわり、と。背筋が粟立つのを感じた。
 この少年は、自分の周りにいるクラスメイトとは違う。こんな凶暴さと残忍さをにおわせるティーンエイジャーなどいない。
 そこら辺に吐いて捨てるほどいる“不良”などとはわけが違う。
 言うなればセブンスターズ。言うなれば斎王琢磨。言うなれば異世界のモンスター達。
 これは“悪者”の目だ。こんな歳の少年が、正真正銘の“悪者”の気配を纏って目の前に現れている。
 こいつは自分にとって危険な奴。反射的に万丈目は身構えていた。
『そんな身構えんなよ。どの道無駄なんだから』
 嗜虐的な笑みを浮かべながら、眼前に立った少年は口を開く。
 いや、そもそも眼前とはどこだ。
 目の前に広がっている廃墟か。今自分が立っているアスファルトの上か。
 それにしてはおかしい。上手く説明できないが、奇妙な違和感がある。恐らく少年はそこにいない。
 では、一体いかなる視点の上にそいつは立っている。外面を見つめる目ではなく――内面に向けられた目?
「まさか……貴様、俺の心の声だとでも言うのか……!?」
『ご名答! 俺様はたった今、もう1人のお前になった。お前の心の中に住まわせてもらうことでな』
 二重人格。例えるならばその言葉が近いのか。
 自分の中に芽生えたもう1つの心が、こうして自分の心に直接語りかけている。
 奇妙なオカルト体験。だが、不思議ではないとさえ思えてくる。こんなことは、既にいくつか経験済みだから。
「……この、首飾りのせいか?」
 慎重に万丈目は問いかけた。
 根拠は至って簡単だ。自分と少年には、決定的な共通点がある。
 その胸元で黄金色に輝く、魔性の瞳を持ったリング。少年の首にも、全く瓜二つの物体がかけられていた。
『そうさ。俺様はその千年リングに宿りし、偉大な盗賊王の魂――バクラ様よ』
 よく言う。
 内心で万丈目が呟く。
 こいつは確かに悪役としては一級品のプレッシャーを放っているが、偉大な風格など毛ほども持っていない。
 王者に相応しき威厳がない。いやそもそも、荒くれ者を束ねる王ならば、むしろこの方が正しいのか。
 そして頭に引っかかるのは、千年リングというその単語。
「千年アイテム……か?」
『そういや、噂にはなってるんだってなァ』
 愉快そうな様子で、バクラと名乗った男が笑った。
 史上最強の使い手として語り継がれるキング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯。
 千年パズルと呼ばれる特殊なアイテムを持った彼の戦いには、常に同じ千年アイテムの存在が付きまとっていた。
 超古代の遺産の力によって繰り広げられる、人知の及ばぬ壮絶な激闘――通称、闇のゲーム。
 誰が語り出したのかは今や知る者はいない。ともかくも、確かにそんな都市伝説が存在していた。
 現に万丈目も、それを騙る敵を目の当たりにしたことがある。
 そして今まさに、千年の名を冠した謎のアイテムが、こうして姿を現した。結び付けられるのは必然だ。
『安心しな。ビビるこたぁねえ。俺様は宿主サマの味方だぜ?』
 どこまで信じていいものか。
 この狡猾にして残忍な気配を漂わせる男の笑みを。
 とはいえ、このままこの千年リングを外してしまうのも惜しい。
 これが本当に古の千年アイテムならば、戦う力の足しにはなってくれるはず。何より重要なのが、その人格。
 万丈目は頭脳を手に入れたのだ。いざ何かを考える時に、共に思考してくれる頭脳を。
 こいつがどこまでの知能を持っているのかは知らないが、参考意見くらいは出してくれるだろう。
『まぁ何にせよ、まずは残りの支給品を見ておいた方がいいんじゃねえか?』
 さっそくバクラは、万丈目にそうした意見を出してきた。
 ついぞデイバックの存在を失念していた万丈目は、我に返ってバッグへ手を入れる。
 取り出されたのは、まずは地図や食糧などの基本的な支給品一式。名簿と一緒にあったものだ。
 そして最後に取り出されたのは、何やら黄緑色のケース。
 説明書のようなものが付属しており、そして本体には、そこから何かを引き抜くための穴がある。
 手を伸ばすと、触れたものは紙の感触だった。
「俺の知らないカードゲームか……」
『そういや、宿主サマもデュエルモンスターズをやるんだってな』
「何故知ってる?」
『お前の記憶は俺様に筒抜けなのさ』
 こめかみを拳骨でつつきながら、バクラが言った。
 そうしてからかう少年をひとまずは無視し、万丈目は説明書のページを開く。
 曰くこのカードデッキなるものは、ミラーモンスターなる物の力を借りて、仮面ライダーという戦士になるための装置らしい。
 強化服を纏い、カードの力を駆使して戦うファイター。それが仮面ライダーだ。
 無論、タダで力を借りられるわけではない。まず変身するためには、鏡のような物が必要となるのだという。
 そして更に、モンスター――このデッキの場合は「バイオグリーザ」というらしい――への対価が必要となる。
 仮面ライダーの力を得るために、モンスターに捧げなければならない対価は、
「!? 生きた……参加者だとっ!?」
 すなわち、人柱だった。
 そこに書かれたルールはこうだ。
 ・12時間に1人、契約モンスターに「生きた参加者」を喰わせないと所有者が襲われるようになる
 ・参加者を1人喰わせると猶予が12時間に補充される。猶予は12時間より増えない
 ・変身や契約モンスターの命令を1分継続させる毎に10分の猶予を消費する
 ・猶予を使い切ると変身や命令は解除され、契約モンスターに襲われるようになる
 ・所有者が自らの意識でカードデッキを捨てると契約モンスターに襲われる。無意識、譲渡、強奪は適用外
 はっきり言って無茶苦茶だ。これでは自分は、12時間に1人ずつは、必ず人を殺さなければならないということではないか。
『――ちょうどいいじゃねぇか』
 頭の中で、またあの声が呟く。ぞっとするような悪意の言葉を。
「な……なんだとっ!?」
『殺し合いに乗った連中がいたら厄介だろ? お前を襲って、殺そうとするかもしれねぇ。
 だがそいつらを餌にしちまえば、命は助かるし邪魔者もいなくなる。まさに一石二鳥じゃねえか』
 くっくっと嫌な笑い声を漏らしながら、バクラは言葉を並べていく。
 やっぱりだ。やっぱりこいつは悪しき存在だった。
 人殺しを行うことに何の抵抗もない。顔色ひとつ変えることなく、あの残忍な笑みを浮かべている。
「そんなことができるか!」
『おいおいそりゃねえぜ宿主サマよぉ。これは殺し合いのゲームだぜ?
 人が人を殺し血で血を洗う、糞溜めみてぇな地獄絵図。阿鼻と叫喚の木霊する、狂気と絶望のデスゲーム。
 極限のスリルと快楽に満ちた、これ以上ねぇってくらい素敵なゲームじゃねえか! だったら楽しまなきゃ損ってもんだろうが!』
 狂っている。
 頭の中で高笑いを上げながら、両手を広げて叫ぶバクラに対して、万丈目は苦々しげな表情を浮かべた。
 人殺しをいとわないどころではなかった。こいつは人殺しを楽しんでいるのだ。
 誰かを傷つけいたぶることに快感を覚えるような、そんなどうしようもない奴だったのだ。
「だが……殺人は犯罪だ」
『こんな所に法だの罰だのみてぇな、まともなルールなんざ意味ねえよ。このシチュエーションそのものが狂ってるんだからなぁ』
 だからお前も狂ってしまえと。狂ったルールには狂って従えと。
 ためらうことなく人を殺せ、と。
 悪魔のような声が囁く。
 そんなことできるはずがない。人が人を殺すなど、許されるはずがない。人類同士には生存競争の理屈など存在しない。
 だが、このカードデッキはどうする。これがある限り、自分は人を殺し続けなければ生きられない。
 いっそ誰かに渡してしまうか。いや、そんなことは論外だ。そうすればその人間がカードの呪縛に囚われる。
 ならば開き直って、この身をモンスターに捧げるか。冗談じゃない。誰だって死ぬのは嫌だ。
 ではこの状況をいかにして打開するか――
『……おっと』
 と、不意にバクラが呟く。さながら何かに気付いたように。
「どうした?」
『気をつけな。どうやら宿主サマが馬鹿みたいに叫んだのを聞きつけて、お客さんがやってきたらしいぜぇ……?』
 口にした物騒な言葉とは裏腹に、バクラの声はさぞ楽しそうに響いていた。
 張り詰める緊張。冷や汗が伝う。
 やがて聞こえてくる靴音。かつり、かつり、と。果たして来訪者は敵か味方か。
 ややあって姿を現したのは、1人の銀髪の少女だった。それも小さい。
 まだまだ10代に達するか否かといったところだろう。その片目に当てられたのは漆黒のアイパッチ。
『ありゃあ敵だぜ』
 バクラの声が響く。
「馬鹿な! あんな小さな子供だぞ!?」
『よく目を見てみな。据わってやがる。いっちょ前のチャイルドソルジャーの目だ。ついでにあの服装は多分戦闘服……もう分かるな?』
 確かに彼の言う通りだ。
 金色の隻眼の視線は鋭い。どことなく殺気のこもった目で、こちらを見つめている。
 そしてその身体を覆う青いフィットスーツは、普通の衣服とは到底思えない。
 すなわち、戦う気満々の姿。それどころか、今まで散々戦いを続けてきた兵士の姿。
 いきなり敵と相対したというわけか。しかも一般人の自分と違い、戦い慣れている相手と。
 前方では人殺しが睨みを聞かせ、後方からは人殺しが誘惑する。万丈目準の状況は最悪だった。


 戦闘機人ナンバーⅤ・チンクが行動を再開したのは、今からほんの少し前のことだった。
 万丈目の聞きつけた轟音――高町なのはのディバインバスターを受けた身体も、徐々に動くようになってきた頃。
 さて、自分はこれからどうするか。
 あの幼いなのはが向かった方向は分からない。砲撃に目をふさがれた結果、完全に見失ってしまった。
 なら何を目印にして動けばいいだろう。どこに行けば妹達を救え、ターゲットを確保できるか。
 枝に埋もれた身体をゆっくりと起こしながら、チンクはしばし思案する。
 そんな彼女の行動を決定づけたのは、

「……ぬぅあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!!!!」

 この、バクラ曰く「馬鹿みたいな叫び」だった。
 砲撃の爆音にすら勝るとも劣らぬ大声に、一瞬チンクはびくりと身体を震わせる。
 今の声は一体なんだったのか。妙に悲痛な叫びだったが、誰かが殺されでもしたのだろうか。
 いずれにせよ、近くに参加者がいるのは理解できた。同時にこのゲームの前提を思い出す。
 開始から24時間で1人も死者が出なかった場合、ゲームは即座に中断される。
 全ての首輪が爆破され、全ての参加者が死亡し、強制的にゲームオーバーだ。
 なのはを24時間以内に見つけ出せる確証はない。ならば早いうちに行動を起こした方がいい。
 そもそもああいう声が上がったということは、近くに殺し合いに乗った人間がいるということだ。
 それを始末することは、同時にクアットロやディエチを襲う可能性のある人間が、1人減るということに繋がる。
 方針は決まった。声のする方へ行き、その場にいる人間を抹殺する。
 未だ微妙に痛みと疲労の抜け切らぬ足を動かし、チンクは森を進んでいった。
 それなりに距離はある。歩いていくうちに、受けたダメージも回復していった。
 そして目の前に生い茂る木々が姿を消し、荒れ放題の廃墟が目に移る。確か地図に記されたエリアのはずだ。
 そこで待っていたのが、黒コートを羽織り、首には悪趣味なリングをぶら下げた男。
 しかも、こちらを警戒している。
 決まった。
 こいつは敵だ。
 デイバッグへと手を突っ込み、そこから工具セットを取り出す。
 そこから選んだのは、鍋やフライパンに比べれば扱いやすいドライバー。
 もう先ほどのようなミスは犯さない。こいつで確実に息の根を止める。
 黄金の隻眼が、獲物を真っ向から睨みつけた。




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