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幻惑の銀幕 ◆RsQVcxRr96




夜の闇は人を孤独にする。
人は古来より闇を恐れてきた。
ゆえにその恐れを打ち破るためのものを欲した。
そして手に入れた。
闇に包まれようと辺りを明るく照らす火という存在を。

市街地に位置する建物の一室。
全てのカーテンが閉められたその部屋に火が宿るランタンを囲んでいる二つの人影があった。
しかしそのどちらも人間ではない。
男の名は元ソルジャー・クラス1stのアンジール・ヒューレー。
『本物』のアンジール・ヒューレーの魂の情報から生み出されたコピーというべき存在。
身体はクローニングや戦闘機人技術を結集させた創り物、そして人格はライフストリームから読み取った模倣物。
しかし今その内に秘める『妹達』であるナンバーズへの想いは紛れもなく本物であった。
女の名は戦闘機人ナンバーズNo.4のクアットロ。
人の身体と機械を融合させたDr.スカリエッティが生み出した戦闘機人ナンバーズの一人。
身体は改造を施されたもの、そして人格は生みの親Dr.スカリエッティの冷酷さを色濃く受け継ぐもの。
そしてその内に秘める『野望』への想いは紛れもなく本物であった。

「クアットロすまない。俺が遅れたばかりに」
「あ……え……いいえ、そんな――」

アンジールは悔いていた。
間一髪正体不明の男からクアットロを助け出す事ができたが、彼女は左腕に怪我を負っていた。
もっと早く駆けつけていれば防げたかもしれない、そんな思いがアンジールを苛む。
人と会わないように地図に記されているような建物を避けて、一旦建物の中で休息を取る事にした。
そこで簡単な処置を施したが、そんなもの気休め程度である。
この地にいる『妹達』を守り抜くと決意した。
その決意は今目の前の4番目の妹の怪我で儚くも守れなくなった。
決意が、覚悟が、意志が足りなかったのだろうか。
もうこのような目に遭わせはしない。

そう改めて決意するアンジールの傍らでクアットロはただ黙って考えを巡らしていた。

(どうなっているんでしょう。とりあえず敵意はない事は確からしいですけど……)

確かにあの場で助けがなかったら今頃自分はゲームから早々に脱落していたであろう。
その点では助けてくれた男には若干の感謝の念があったりもするが、そんな事どうでもよかった。
都合がいいのでこれを奇貨として利用しようとは思ったが、問題がある。
『自分は目の前の男の事を一切知らないのに、男の方は自分の事を知っている点』である。
いくら自分が人を欺く事を得手としても、この状況では上手く騙し通す自信はない。
ここは男の素性を早急に把握する事が先決である。
己の頭脳を回転させていくつかの可能性が考えてみる。

まずは男がDr.スカリエッティのクライアントである可能性。
クライアントであれば交渉の末にいくつかの情報を見せられる事もあっただろう。
その時に自分達ナンバーズの事を知ったという可能性がある。
しかしこれは少々無理がある。
そもそも自分の知る限りクライアントは財力や権威のある者ばかりである。
だが目の前の男は筋骨隆々で一目で歴戦の勇士と見て取れる。
どう見てもクライアントには見えない。
そもそもクライアントは自身に物理的な力がないから何らかの援助をしているのだから、男のような強者が当てはまるとは思い難い。
よってこの可能性はほぼ無いだろう。

次に自分の姿をどこかで見た可能性。
ナンバーズとして活動すること約10年。
基本的に裏で動く事が多かったが、たまには表に出る事もあった。
その時に目撃されたのだろうか。
しかしこれは先のものよりもありえない。
第一に自分程の戦闘機人が迂闊にも見ず知らずの人物に姿を晒すなど考えられなかった。
自身のISシルバーカーテンと固有装備のシルバーケープ。
この二つがあって自分が発見されるなど思いもつかない事だ。
唯一管理局なら先の戦闘で知った可能性もあるが、それならこれほど親身になる事など無いだろう。

そしてこの二つの可能性が低い事を裏付けるに値する共通の事象が男の対応である。
男の自分へ向ける感情は好意的、しかも所謂仲間とかそういう分類のものに属するようだ。
仮に上のような関係だとしたらこのような感情を抱く事はほぼ無いと言える。

あと考えられるのは人違いという可能性。
これなら自分を他の親密な人と間違えて接しているという風に捉える事ができる。
だがこれもありえない。
男は自分の事を「クアットロ」と確かに呼んだ。
クアットロという名はDr.がわざわざ名前を付けるのが面倒だからという理由で付けられた番号そのままの名称である。
さすがに姿が似ているだけでなく、名前までがクアットロという偶然はないだろう。

他にも色々と思いつく可能性はあるが、どれも確証が持てない。
このままのらりくらりと話を進めても、どこかでボロが出る可能性がある。
やはり目の前の男と『クアットロ』との関係は是が非でも把握しておきたい事項だ。

「どうしたんだ? さっきから黙ったままで……まさか怪我が!」

これ以上黙りこくっても事態は進展しないばかりか、男にいらぬ疑念を抱かせかねない。
クアットロは賭けに出る事にした。

「近寄らないで!」
「な!?」

突然の拒絶。
怪我の様子を見ようと近づこうとしたアンジールをクアットロは後ずさりする事で距離を離した。
当然アンジールは意味が理解できずに呆然とする。

「証拠を見せてください」
「証拠?」
「もし本物ならプロフィールから今までの事を全て話してください!
 全部話せたら本人であると認めますわ!」

アンジールの正面に立つクアットロは身体を震わせながら一気に言葉を放つ。
これはクアットロの賭けであった。
上手くいけば男の素性、そして『クアットロ』との関係が全て解る。
もちろん震えているのは演技だ。
本人かどうか分からず、そして信用していいかどうか迷って不安で一杯。
そんな姿を演じてみせているだけだ。
さすがに自分としては不自然な感じもあるが、そこは異常事態に巻き込まれた事で多少は納得できる範囲だろう。
もし不和になればすぐさまシルバーカーテンを使用して逃げ出せるようにドアは自分の背に来るような位置にある。
そして問題のアンジールは一瞬考え込むような仕草を見せて、ふっと肩の力を抜いた。

「……ふ、クアットロらしいな」
(勝った!)

アンジールは特に表だって不審がる事もなく自身の事を話し始めた。
自身の生い立ち、ジェノバの事、スカリエッティの手によって甦った事(厳密には少し違う)。
そして自身と同じ境遇にあるナンバーズを守り抜こうと決意した事、地上本部襲撃に際して宿敵・セフィロスの足止めをしていた最中に連れて来られた事。

「これで全部だ。これでいいか」

アンジールは自身を証明するために今までの事を全て話した――目の前にいるのが自身の知るクアットロではないとも知らずに。
それを聞き終えてクアットロは己の勝利を喜んでいた。

(上手くいきましたわ。それにしても、これはどういう事でしょう)

男――アンジールの話を聞いてクアットロはようやくその態度の謎が解けたが、それでも腑に落ちない事もあった。
おそらくアンジールの話に嘘偽りはないだろう。
自身も人を欺くのを得手とする事から相手が嘘を言っているかどうかは何となく分かる。
結論からすると、アンジールは自分とは別の世界――しかも並行世界と称されるような世界から来ている事になる。
並行世界という言葉だけなら聞いた事もあったが、未だに実際それを立証された事はない。
だがクアットロはつい先程も同じような経験をしている。
いきなり襲いかかり自身の左腕を傷つけた、あのイカれた神父である。

(これであの神父が私を知っていた事も説明がつきますわね。
 おおかた神父も別世界の私を知ってあんな行動に出たんでしょうけど……並行世界と言っても基本的な性格は同じみたいですね。
 さてそうと分かれば利用し甲斐がありますわ。まずは――)

クアットロは考える。
この場でアンジールが抱いているかもしれない不審を払う対応を。
そしてすぐさま思考を終えると、『アンジールの知るクアットロ』のように答えた。

「ああすいません、アンジール様。こんな風に試すような事をして……
 でもこれでようやく全て思い出しましたわ」
「思い出した、とは?」
「おそらく私、記憶を弄られているみたいなんです」


     ▼     ▼     ▼


クアットロが考えた対処法は主催者による記憶操作。
自分達戦闘機人は機械との融合体、よって記憶を操作する事も容易いだろうと。
理由は誤解を生んで殺し合いを促進させるためと説明した。
これなら少々不自然な対応を取ったとしても、ある程度なら記憶操作のせいにしてごまかしが効く。
もとよりナンバーズを守り抜くと盲目的に想いを寄せているアンジールには疑う気など無かったようだが。
今アンジールは部屋の窓から外の様子を窺っている。
つまりは見張り役だ。
そしてその間、クアットロは自身とアンジールに配られた支給品を効率良く活用する術を探っていた。

(まずは私に配られた物は……はあ、人によってはアタリなんでしょうけど、私にはどれもハズレですわね)

一つ目は赤い宝玉が印象的なエース・オブ・エースのインテリジェントデバイス――レイジングハート・エクセリオン。
はっきり言うと、これは相当なアタリである――魔力のある参加者なら。
残念ながら戦闘機人には魔力はない。
よってクアットロもアンジールもレイジングハートを使用する事は不可能であった。
しかもこちらの正体を知っているのか話しかけても何の反応もない。
所謂「宝の持ち腐れ」の状態だ。
しかしこれは逆に好機でもある。
これがここにあるという事は持ち主である高町なのは及び管理局の魔導師の手にこれが支給品として配られる可能性はない。
ある意味あちらの戦力を削ぐ形になってはいる。

二つ目は見たまま金属製の杖。
ただし重量は規格外で、自分では持ち上げる事すら不可能だった。
いくら後方指揮型と言っても並みの人よりは力のある戦闘機人の自分では全く歯が立たなかった。
つまり相当な力を持つ者にしか扱えないだろう。
幸いアンジールなら使えそうなので、これは後で譲り渡す事にしよう。

そして最後は一見すると何の変哲もない手袋。
しかし付属のメモによるとこれは鋼糸内蔵の特別製の手袋との事だ。
使いこなせれば有力な武器になり得るが、今の自分にはそんな技量あるはずもない。
だが時間をかければ使えるようにはなりそうだが、果たしてどれほど時間が掛かるかは分からない。

デバイス、杖、手袋。
どれも使う事ができるなら有効な武器になり得るが、如何せん今の自分には扱えないものばかり。
クアットロはこんな選別を行ったであろうプレシアに怒りを募らせるのだった。

(はあ~どうせならアンジール様が言っていたようなマテリアでも支給してくれたら嬉しかったんですけどね。
 特に召喚マテリアなんて、無力な命を弄ぶのに最適ですのにぃ)

一方アンジールの支給品はマグロの形をした奇妙な剣と後一つ。
これは現時点では使う事はないだろう。
何かの時のために自分が所持するようにしておこう。
先程の杖と交換という形になるから問題はない。
念のためレイジングハートも渡しておこう。
アンジールなら力ずくで奪われる可能性もないはずだ。

(この様子でしたらチンク姉さまやヂィエチちゃんも私が知っている彼女達かどうかも疑問ですわね。
 こればかりは実際に会ってみないとどうしようも――)
「クアットロ、いいか」

クアットロの思考はアンジールの呼びかけによって中断された。
どうやら誰かこの付近にいるらしい。
誰にせよ接触して様子を見るのが賢明だろう。
今はなにより情報が欲しい。

「いいですよ。それでアンジール様、どんな人がいるんですの」

アンジールはその人物の特徴を簡単に説明した。
クアットロにはその姿に聞き覚えがあった。


     ▼     ▼     ▼


皆を探そうと決意して市街地を探索する事かれこれ2時間。
ヴォルケンリッターの一翼、湖の騎士シャマルは未だに誰とも合流を果たせずにいた。
目につく建物を可能な限り探索してきたが、人っ子一人いなかった。
さすがにシャマルもこのままでは不味いと思い始めてきた。

(これだけ探しても誰とも会わないなんて、皆どこに――あ!!)

アスファルトの敷き詰められた道路を歩いていてシャマルは某重大な事実に気づいてしまった。
それは自身の服装についてだった。
暗い夜道に映える純白の白衣。
殺し合いに乗っている人から見れば、どうぞ狙ってくださいと宣言しているような格好である。
これはいくらなんでも不用心すぎた。
そうなると今まで誰にも気づかれなかった事に寧ろ感謝してシャマルはすぐさま近くの建物へと入っていった。
とりあえず白衣を脱いで茶色い陸士服を表に出してその場で一息つく事にした。

(少し焦っていたのかしら。あんな初歩的なミスを犯すなんて……シャマルさんショック!)

思い返せば未だに自分に何が支給されたのかさえも確認していない事に今更ながら気付いた。
大切な人が巻き込まれている事に想像以上に焦りを感じていたようだ。
ヴォルケンリッターの参謀役の面目躍如として、ここは一度落ち着いて今後の方策を練り直す機会だ。
そう考えをまとめてシャマルはまず初めに支給品の確認を始めた。

(えーと、このデイパックの中にあるのよね。何が出るかな、何が出るかな……)

サイコロを振る昼時の番組の如く中身を漁った結果、自分に支給されている物を把握できた。
だが自分が使えそうな物は包丁ぐらいしかなかった。
しかもその包丁は明らかに血に塗れていたので、仕方なく白衣で血を拭っておいた。
残りのものに関しては今のところ保留。今は使う時ではないと判断。
第一にその内の赤い鞘など鞘だけで中身がなくて意味がない。
自衛に使える武器があっただけいい方だろう。

「皆どこにいるのかしら……闇雲に探していてもだめね。とりあえず目的地を決めたほうが良さそうね」

シャマルはしばらく地図を眺めた結果、行き先を機動六課の隊舎に定めた。
ここなら勝手知ったる我が家も同然なので何かと都合がいい。
もしかしたら外部と通信ができるかもしれない。
そんな淡い希望も抱いて気持ちも新たに再び夜道に舞い戻っていくのであった。

未だ夜の闇は濃く移動するのは少々危険だが、今は一刻も時間が惜しい。
こうしている間にも仲間が危険な目に遭っているかもしれないと思うと、自然と気持ちが焦る。
足早に歩を進めるシャマルはここでまたしても致命的なミスを犯してしまった。
仲間の事を想い気持が急くあまり周囲への注意を逸らしてしまったのだ。
今までのように周囲に誰もいないなら致命的にはならなかったであろう。
しかし今回は違った。
幾つもの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の勇士が潜んでいたのだから。

「きゃ!!」
「おとなしくしろ」

後方の細い小道からいきなり現れた男によってシャマルは首を掴まれ路地裏へと連行された。
さらに男はシャマルを押し倒し、その足をシャマルの背中の上に乗せ絶妙な力加減でシャマルの動きだけを封じたのだ。
自衛のための包丁などまるで意味を為さなかった。
今やシャマルの命運は風前の灯も同然であった。

「貴様の名前は?」
「……シャマル」
「では今から言う質問に正直に答えろ。さもないと、命はない!」

シャマルはこの短い時間で確信した――男は本気だと。
おそらく男が本気になれば自分の首など容易く折られてしまう事が鮮明に理解できた。
選択の余地など無くシャマルは男の要求に答えようと決めた。
この場さえ乗り切れれば状況が変わる事を期待しての対応であった。

「まずはこの地にいる奴の中で知っている名前を全て言え」

一瞬嘘を言おうかと思ったが、男の気迫に蹴落とされて結局知っている者全員の名前を教えた。
機動六課の仲間達に加えて、管理局の知人とJS事件に関与した者達も含めて総勢19名。
もう一人アースラでオペレーターをやっていた人の名前があったような気がしたが、どうせ気のせいだろう。
今にして思えば全体の実に約1/3が自分の知人である事に気付かされた。

「なるほど。ではその内のチンク、クアットロ、ディエチとの関係を話してもらおうか」
「え、なんでその――ッ!!」
「いいから早く言え」

有無言わず首を絞められた事でシャマルの疑問は却下された。
仕方なく彼女ら戦闘機人とJS事件の顛末について大まかに話し始めた。
そして話が地上本部襲撃、ゆりかごの発動そして事件の終結に至ると、男の雰囲気が一瞬変化した。
それは内容を聞いて驚いたような感じだが、それもすぐに殺気だったものに戻っていった。

「なるほど。チンクとディエチは更生プログラムを受ける事を受諾して、クアットロはそれを良しとせず牢獄行きか」
「これで十分かしら」
「ああ、いいだろう。では死ね」
「――ガァ!!」

先程よりも更に強い圧迫感。
男の手に力が込められていく毎に意識が朦朧としてくる。
抵抗しようにも力の差は歴然。
シャマル程度の必死の抵抗では男の手を止める事など不可能であった。
薄れゆく意識の中でシャマルは死を覚悟した。

(み、みんな……ごめんな、さい……)

しかし死の瞬間は訪れなかった。
不意に耳に入ってきたガラスが割れる音。
男の注意がそちらに逸れた瞬間シャマルを拘束する力は弱まった。

「しまっ――」

男が気づいた時にはもうシャマルは火事場の馬鹿力をも振り絞って拘束を破り、逃走に成功した。
路地裏は一方通行のようで脇に逸れる道など見当たらなかった。
追いつかれたら今度こそジ・エンドという事は痛いほど理解している。
だからこそ全速力で走り――

「――ッ!!」

唐突に死のランニングは終わりを告げた。
直角カーブを曲がり終えた所だった。
突然前方左手の窓が開いたと認識した瞬間にはその窓から生えた腕が自分を掴んで部屋の中へと引きずり込んでいた。
前に進んでいた力のベクトルを生かしたまま窓の方へ修正されたのが、身体にかかる力加減でなんとなく分かった。
そのままシャマルは床に激突した痛みに呻く暇もなく、引きずり込んだ本人が素早く窓を閉めたその手で口を塞がれた。
男は窓の外を通り過ぎたのはまさにその時だった。
男はシャマルが部屋の中に連れ込まれたとは思わなかったのか、そのまま道を進んでいった。
それから気配を探り続ける事数分間。
もういいだろうというところでシャマルはようやくまともに呼吸ができるようになった。

「はぁ、はぁ、あ、ありがとうございます、どなたか知り――あ、貴女は!?」
「ご無事でなによりですわ、シャマル先生」

シャマルは自分を助けてくれた人物が誰なのか知って驚いた。
目の前にいるのは紛れもなく戦闘機人ナンバーズのクアットロだったからだ。
このデスゲームにおいて最も注意しなければいけない人物の一人とも思っていたから驚きは一押しだった。

「何を企んでいるの。事と次第によってはこの場で――」
「た、企むなんて、そんな!? 私はただお世話になっているシャマル先生を助けようと必死で……」
「……お世話? それに、シャマル先生って!?」

どういう事なのか混乱したシャマルだったが、クアットロから話を聞くうちに彼女の態度の理由が理解できた。
クアットロによると彼女はJS事件以降心を改めて今は管理局で働いていると言うのだ。
その際に何かと世話をかけてくれたのが他ならぬシャマルだったので、今では人一倍恩は感じているとの事だ。

「だから私、シャマル先生の声を聞いて咄嗟に……」
「あ、ええ、ありがとう……」

シャマルは目の前のクアットロの変貌ぶりに唖然としていた。
全体的に以前より遥かに大人しくなり何というか性格が丸くなっている。
自分の知っているクアットロとはまるで別人のようであった。
人から聞いたならまず信じられないような内容だった。
それにクアットロの話が正しいとするなら自分とクアットロの世界もしくは時間が違う事になる。
プレシアがアルハザードに辿り着いたのならばありえる話だが、確証はない。
並行世界に時間移動……どれも俄かには信じがたいものばかりだった。

「あの、シャマル先生?」
「なにかしら」
「さっきから返事がないみたいですけど、どうしたんですか」

シャマルはどう対応していいか途方に暮れていた。
これが自分を騙すための演技という可能性も十分にある。
クアットロなら尚更その可能性が高いだろう。
自身の知るクアットロの性格を鑑みる程にどうすればいいか分からなくなる。
その様子を見て何を思ったのかクアットロは口を開いた。

「私、シャマル先生が励ましてくれた事感謝しているんです。
 罪が許されるのはまだまだ先ですけど、私一生かけても償っていきたいと思っています」

その言葉にシャマルはハッとさせられた。
それは10年前の自分達ヴォルケンリッターと同じような姿だったからだ。
夜天の魔導書――闇の書の守護騎士として幾度となく手を血に染めてきた。
そんな自分達を主はやては優しく受け入れ、居場所を作ってくれた。
でも現実は甘くはなく、中には過去に自分達が犯した行いのせいで一生癒えない恨みを持った人もいた。
そんな人もいる中で管理局入りを決めたのはひとえに今までの罪を償うためだ。
目の前のクアットロも考えてみれば同じようなものだ。
犯した罪の大小はあれ、その気持ちには変わりはないはずである。
信じてみたい――シャマルはそんな気持ちに傾いた。

「クアットロ、貴女今言った事は本当なの?」
「ええ、本当です。私は自分の罪を償うと決めたんです」
「ならあなたを信じるわ。それとごめんなさい。
 私はあなたの知っているシャマルじゃないの。別の世界のシャマルなのよ」
「それでもシャマル先生はシャマル先生です」
「ありがとう」

そう呟くと、シャマルはクアットロを抱き寄せた。
この地に来て初めて会った知り合い。
元は敵同士、だからこそ心を入れ替えて目の前にいる彼女を嬉しく思う。
例えそれが別の世界の住人だとしても嬉しかった。

シャマルはクアットロとしばらく抱き合っていた。
だから気づかなかった。
クアットロの顔に邪悪な笑みが浮かんでいた事に……


     ▼     ▼     ▼


(うふふ、なんて甘ちゃんなんでしょう。こんな演技に騙されるなんて、馬鹿すぎですね♪
 さて掴みはO.K.みたいですし、道々信頼を深めましょうか。
 精々役に立って下さいね、シャマル先生。あはははは♪)

クアットロは自身の策略が思った以上に成功して大満足だった。
自分が改心して管理局で罪滅ぼしをしているなど全くの出鱈目だ。
相手の信頼を得るための嘘偽り。
これならアンジールにわざわざ襲わせた甲斐があったというものだ。

シャマルの姿を確認したあの時、クアットロの脳裏に一つの策略が浮かんだ。
周知の通り自分は管理局側から見れば要注意人物になっている事は確かだ。
そうとなれば方々で自分の悪評が振り撒かれている可能性は非常に高い。
こうなると密かに参加者を扇動して暗躍する事が困難になる。

それを打破して思い通りに動くのに必要なのは……誰かの信頼――それも管理局関係の人物が好ましい。
そしてその役としてシャマルは適任であった。
罪を償うと言えば自身の境遇と照らし合わせて同情すると踏んでいたが、よもやここまですんなり信じられるとは予想外だった。
さらに医療に携わっている点も都合がいい。
このようなサバイバルの要素を多分に含んでいる所では時間が経つにつれて治療などが重要になってくるのが常だ。
それにもしも相手に敵意があったとしてもシャマル程度なら自分でも倒せる可能性が高い。
これが同じヴォルケンリッターでもシグナムやヴィータなら危うかっただろうが、自分の網に掛かったのは最も好都合な哀れな贄だ。
この幸運に感謝しつつ、存分に利用し尽くそう。
もしも役に立たなくなったら弾除けにでも使えばいい。
使い捨てる時はまだまだ先だろう。


     ▼     ▼     ▼


夜の闇は人を孤独にする。
ここにも一人市街地を進む男がいる。
先程シャマルに襲いかかった男――アンジール・ヒューレーであった。
あの時アンジールはクアットロの計画通りに行動しただけだった。
まずは隙を見てシャマルを拘束して必要な情報を聞き出す。
一応口調は変えておいた方が正体が分かり難くなるという事で少し普段とは違う口調で対応した。
聞き出すのはシャマルがいた世界での人物関係。
その際に近くにクアットロも潜んで情報を入手する。
そして準備ができたならクアットロがはめた手袋から伸びた糸を引っ張る手筈になっていた。
糸の先はアンジールの服に付けられて引っ張るとすぐに分かるようにしていた。
情報を聞き出して整理する時間が若干必要だったからだ。
しかしまさかスカリエッティの計画が阻止された世界から来ていたとは思いもしなかった。
そのためクアットロの様子が気にかかったが、少し間を置いて糸は引かれたので安心した。
あとはクアットロが投げた石で適当な窓を割る音で注意が逸れた振りをして、わざとシャマルを解放、その隙に糸を外しておく。
そして適当に追いかけて見失ったように見せかければ、とりあえず計画は成功である。

(さてと、クアットロもあの様子だとうまく信頼を得られたようだな。
 ならば……俺は俺のやるべき事をするだけだ!)

『妹達』の安全を脅かす者を一人残らず始末する。
それが『妹達』を守り抜く事につながるとクアットロは言った。
本心ではクアットロの傍にいて守ってやりたかったが、自分なら心配いらないと強く主張していた。
それよりも敵を葬り、チンクとディエチを保護する事の方が大事だと言われた。
役に立つかもと言っていくつか支給品を受け渡しをされた。

(意外と妹想いな面があったんだなあ)

アンジールはクアットロの普段見ない一面を見たような気がして嬉しかった。

だが真意は違う。
クアットロはアンジールの戦力はかなり高い事を先の戦闘で知っていた。
これほどの戦力をただ自身の守り役として置いておくのはいささか勿体ないと思ったのだ。
それよりも会場を闊歩して参加者を減らしていってくれた方がこちらとしても後々都合がいい。

アンジールは知らない。
自分が出会ったクアットロが実はアンジールの事をただの駒としてしか見ていない事に。


     ▼     ▼     ▼


悪意に満ちた幕は上がった。
その幕は銀の光を見せつけ人々の目を欺き続ける。
嘘と偽りが蔓延し、疑心と暗鬼が闊歩する。
そんな開幕を暗示するような幕がゆっくりと上がる。



【1日目 黎明】
【現在地 F-5】
【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】健康、疲労(小)
【装備】レイトウ本マグロ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具】支給品一式、杖@ゲッターロボ昴、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:妹達(クアットロ、チンク、ディエチ)を守る。
 1.チンクとディエチを保護する。
 2.妹達に危害を加える者は殺す。
 3.セフィロス……
【備考】
 ※第七話終了~第八話、からの参戦です。
 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。
  もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
 ※制限に気が付きました。



【1日目 黎明】
【現在地 F-5 建物1階の1室】

【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】左腕負傷(簡単な処置済み)
【装備】ウォルターの手袋@NANOSING
【道具】支給品一式、ランダム支給品(確認済み、元アンジールのもの)×1
【思考】
 基本:この場から脱出する。
 1.シャマルの信頼を固めて、とことん利用し尽くす。
 2.他のナンバーズともコンタクトをとる。
 3.聖王の器の確保。
【備考】
 ※地上本局襲撃以前からの参戦です。
 ※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
 ※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めてません)。
 ※アンジールの前では『アンジールの世界のクアットロ』のように振る舞う(本質的に変わりなし)。
 ※改心した振りをする(だが時と場合によれば本性で対応する気です)。


【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状況】健康、疲労(中)
【装備】血塗れの包丁@L change the world after story
【道具】支給品一式、白衣(若干血で汚れてる)、ガ・ボウ@ARMSクロス『シルバー』、ランダム支給品(確認済み)0~1
【思考】
 基本:はやてを含めた、全ての仲間を守り抜く。
 1.はやてとの合流が最優先。
 2.できれば機動六課の仲間達とも合流したい。
 3.クアットロと共に行動する。
【備考】
 ※クアットロが別世界から連れて来られた事を知りました(他の知り合いは同じ世界から来たと思っています)。
 ※クアットロを信用するようになりました(若干の不安は残っている)。



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Back:夢・オ・チでリセット! 投下順で読む Next:大食漢走る 巨人の鼓動
Back:CROSS CHANNEL アンジール・ヒューレー Next:GUNMAN×CHAPEL×BLADE
Back:CROSS CHANNEL クアットロ Next:クアットロがもってった!セーラーふく(前編)
Back:Wolkenritter シャマル Next:クアットロがもってった!セーラーふく(前編)






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