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Little Wish ◆Qpd0JbP8YI




暗闇の中を八神はやては自分の力の持てる限り全力で走っていた。
彼女の中で絶え間なく湧き起こる感情が彼女を急き立てる。
もう二度とあんな事が起きないように、決して誰も失わせまい、と。
急ぐあまり身体は前に傾き、バランスを崩した彼女は途中で何度も転んでしまう。
その度に擦りむいた膝や手が痛みを訴えかけてくる。
だけど、そんな事に彼女が構ってなどいられない。
今、彼女の側にはセフィロスはいないのだから。


ふと目を覚ませば、周りには誰もいなかった。
さっきまで側にいたはずのセフィロスはメモを残し、いなくなっている。
それに気がついた途端、急に彼女の中に不安が押し寄せた。
胸が苦しくなる。呼吸もままならない。
こんな事は前にもあった。そしてそれを八神はやては絶対に忘れることはない。
思い出すのはリインフォースを失ったあの雪の日。
あの時もリインフォースは自分には何も知らせず、ただ消えていこうとした。

「もういややってゆうたやん! もういややってゆうたやんか、セフィロスさん!」

リインフォースは自分の言葉も空しく、空へと消えていった。
どれだけ言葉をかけ、どれだけ歩み寄ろうと、
彼女は八神はやてのためにと自分の意思を貫いていった。
そしてその辛く、悲しい出来事はどうしても今と重なってしまう。
セフィロスもリインフォースと同じように
自分に黙ってこのまま消えていってしまうのではないか。
そんな恐怖にも似た感情が彼女を責め立てた。


人によってはリインフォースやセフィロスの行為は
人に迷惑をかけまいとした優しさと取ることが出来るだろう。
だけど、八神はやてにとっては違った。
彼女にとって、そんなことは余計なお節介でしかない。
例えどんなことがあったっていい。
例え自分がどれだけ傷ついたって構わない。
ただ大切な人が側にいてくれるだけで、彼女は他の何よりも嬉しいのだ。
それなのに何故か彼女の周りにいる人は誰も理解してくれない。
彼らはいつもそうだ。
自分には何も知らせず、自分には頼らず、勝手にいなくなる。
彼女にはそれが嬉しく、歯痒く、何よりも許せないものだった。

「もう私は何も失いたくないッ!」

彼女はただ我武者羅に道を駆けていった。


*   *



アレックスが左腕のARMSを、シグナムが刀を、そしてセフィロスが槍を構えた。
三人はそれぞれ油断なく、お互いのを動きを窺っていた。
その三竦みの中でアレックスは闖入者であるセフィロスを一際強く睨んだ。
彼の言によれば、セフィロスはかつて時空管理局の機動六課に所属していたということらしい。
元所属という肩書きはアレックスにとっても気になるところだったが、
それが事実であるならばゲームに乗る可能性は低いだろう。
だが、どうしてもアレックスはその考えに疑問を呈さざるを得なかった。
彼がこの地に降り立った時見せたあの異形の姿、背中に生えた翼は何だったか。
あれは間違いなく人ではない。
どちらかと言えば、ミッドチルダでロストロギアと称されたARMSに近いものだ。
そんな存在が人間による統治機関たる時空管理局に身を置けるものだろうか。
成るほど、確かにARMSを持つアレックスもそこに籍を置いていることからして
それも不可能ではないだろう。
だが、それは人間としてではなく、有人格ロストロギアと認識された上での結果だ。
そして機動六課の部隊長である八神はやては
アレックスが管理局に入局を認められた初の有人格ロストロギアと言っていた。
故に彼のような異形の姿を持つ男がアレックスより前に機動六課に所属していたとは考えづらい。
それに機動六課はまだ設立されて間もないと聞く。
それなのに主力になりうるであろう魔導師を、
あのしたたかな八神はやてがそう容易く手放すとはアレックスには思えなかった。
この男の発言はブラフに違いない。
恐らくは管理局員の間に油断や混乱を招くための嘘。
その方が高町なのはを始めとしたストライカークラスの魔導師相手に
真正面から対峙するよりかは遥かに効率よく殺害ができる。
となると、セフィロスはゲームに乗った人物ということになる。
それならば、管理局員の間で誤解や争いが起こらぬ様に早急に排除した方がいい。
それがアレックスの出した結論だった。
勿論、あの異形に勝てるかという不安はアレックスの内にもある。
セフィロスが与えてくれた悪魔のような威圧感は久しく感じたことのないものだった。
だが、所詮は悪魔のようなもの。悪魔そのものではない。
記憶――ギャローズベル、カリヨンタワー。
そこでアレックス / キース・シルバーは本物の悪魔、ジャバウォックと対峙し、地獄の業火に身を焼かれてきた。
それと比べれば、この男が与える戦慄など涼風のようなもの。
臆することなどはない。


アレックスはセフィロス、シグナム、それぞれに一瞥すると、バックステップを開始した。
近接戦闘を主とするであろう二人を相手に、接近戦を仕掛けるには分が悪すぎる。
ここは距離を置き、同じ射線上に二人を配置し、そこをブリューナクの槍で貫くのが得策。
しかし、アレックスの意を察したシグナムが猛然と駆け出し、刀を振りかぶってきた。
既に距離を置いて攻撃をする素振りを見せたから、それを警戒をするのは当然。
否、シグナムであればブリューナクの槍の威力を知っていて当然。
だがアレックスは余裕の表情をもって駆け寄るシグナムを見つめた。
何故ならここにはもう一人ゲームに乗ったものがいるのだから。
アレックスの意に呼応するかのように刹那の時間をもってシグナムの前に突き出される槍、ストラーダ。
それがシグナムの前進を阻んだ。
その予想通りの光景に僅かに笑みを漏らすアレックス。
ARMS、マッドハッターの能力を知らないセフィロスは当然アレックスへの警戒が緩くなる。
それならば距離を置けば、自然と場に残る二人が相対することになる。
そしてそこをブリューナクの槍で貫けば終わり。それがアレックスの算段だった。
シグナムとセフィロスが奏でる剣戟の音を聞きながら、左腕に力を込め、砲弾となる荷電粒子を生成。
そして生成された荷電粒子を加速段階に移行。と、同時にシグナムの焦る顔が目に映る。
だが、その距離では発射を阻止するには間に合わない。
そう思った瞬間、アレックスの目は剥いた。
距離をとっていたはずのセフィロスはシグナムの刀をはじくと同時に
一瞬でこちらに間合いを詰め、その槍を横なぎに振るってきたのだ。


荷電粒子砲の発射は間に合うか。
一瞬にも満たない時間で考え、引き出す結論――答えは否。
例え発射出来たとしても、相手の反応速度から考えるに
容易にかわされ、発射直後の僅かな隙を狙われる。
首輪による死の可能性を考えると、その隙は致命的。
アレックスは歯噛みしながら、発射プロセスを中断。
瞬時にARMSを硬化し、迫る槍をその手で受け止める。
衝撃によりARMSを覆う甲殻が弾け、欠落――戦闘の継続には問題ない。
しかし、それに安堵する間もなく、容赦のない攻撃が連続で繰り出されてくる。
反撃の意図を、距離を取るだけの隙を何とか得たいが、苛烈な攻撃がそれを許さない。
このままではジリ貧。
いや、次の瞬間には相手の槍が自分を突き刺すのをイメージしてしまうほどの戦力差。
だが、この場には状況の流れを変えることの出来る人物、シグナムがいる。
問題は彼女が攻撃を仕掛けるのはどちらかとうこと。
セフィロスなら問題なし。自分なら恐らく、いや、確実な死が待っている。
これは賭け。
こちらに駆け寄るシグナムの気配を探りつつ、アレックスは柄にもない祈りを捧げる。
そして振るわれるシグナムの居合い。


攻撃されたのは――――セフィロス


セフィロスの方をより厄介と判断したのか、シグナムが背後から強襲。
剣士の名に恥じぬ一閃。常人では目視することすら叶わぬ剣。
だが、この男なら容易にかわすことが出来るだろう。
それならば、自分も攻撃を加えたらどうか。
シグナムの攻撃のタイミングを見計らって、アレックスはARMSを叩き込む。
炭素生命体の神経伝達速度を遥かに凌駕する珪素生命体、ARMS。
その攻撃は音速にも並び、セフィロスの首を刈り取らんと迫る。
人を超えた二人による同時攻撃をかわす事など不可能――必死は免れない。



その、筈だった。



一瞬の間で繰り広げられる戦いの舞踏。
セフィロスは視線をアレックスに向けたまま槍の柄の先端でシグナムの居合いを受け止め、
その逆にある槍の穂先でARMSの攻撃を受け流す。
そして自らの身体を横にずらし、槍を反転。
セフィロスの命を摘むはずだったARMSは槍に誘導され、シグナムの刀と音を立てて衝突。
勢いあまった自らの身体もシグナムの前に放り出される。
必然的に重なる射線――途端に背筋を襲う悪寒
何を考えるまでもなく、アレックスは思いっきり横に飛んだ。
そして次の瞬間には槍がアレックスのいた場所を音もなく貫き、
それを刀で受け止めたシグナムの身体ごと後ろに吹き飛ばしていた。

「化物かっ!?」

シグナムと自分を同時に相手出来るほどの存在に
アレックスは思わずそんなことを口走ってしまう。
確かにこの男にはジャバウォックのような圧倒的な破壊力、
ホワイトラビットのような感知できぬほどの速さというものはない。
だが、彼にはコウ・カルナギを素手で倒したというナイトを遥かに凌ぐ技量がある。
このままでは二人がかりでもセフィロスを排除するのは難しいかもしれない。
シグナム、そしてセフィロスらを殲滅するにはARMSの完全開放が望まれる。
恐らくマッドハッターの力ならそれが可能だろう。
だが、その際に放つブリューナクの槍による破壊はこのエリアだけには留まらない。
槍が突き進む先は全て破壊。何者も止めることなどは不可能。
それでは他のエリアにいる管理局員を殺してしまう可能性がある。
それに妙な制限に加えて、首輪のこともある。
それらを考えると完全開放は難しいかもしれない。
しかし、それ以外にも状況を打開出来る手段がないというもの事実。
三者がお互いの動きを窺う膠着状態のまま、状況の打開策を考えるアレックス。
そんなアレックスを悠々と見つめながら、銀髪の男、セフィロスが口を開いた。

「お前もこの殺し合いに乗っているのか?」

殺し合いに乗っている当の本人の質問にアレックスは目を細める。
実力差がハッキリとしたこの状況でも尚相手の油断を誘おうとする慎重さ。
彼自身が持っている強さに加えて、改めて厄介な敵だと痛感させられる。
アレックスはセフィロスの問いにARMSを油断なく構えることで答えた。
それにセフィロスは目を細め、シグナムも刀の柄を強く握り締め対応。
しかし、再び戦いの幕が上がろうとしたところで
それは唐突な第三者の声によって遮られることになった。


「セフィロスさーーん!」


場違いにも命を賭けた戦場で響く幼い声。
その声の持ち主は息を切れ切れにその身体を走らせてきた八神はやてだった。
この狭くもない空間でセフィロスを見つけることが出来たのは、
闇の書の暴走の中で意識を取り戻したように、
あの雪の日のリインフォースの別れを感じたように
相手を真に思うはやての心が引き起こした奇跡だろうか。
そしてその誰もが聞き覚えのある声に、戦場にいた全ての者が目を向けた。
その場にいたのは幾多の戦場を駆け抜け、生き残ってきた紛れもない強者たち。
僅かに見せた隙は誰もが気づかないほどの一瞬だったであろう。
だけど、最強のソルジャーである彼にとっては、その時間だけで十分だった。

アレックスとシグナムが幼き八神はやてに目を向けた瞬間、
二人の間に銀色の髪が舞った。
月下において思わず見とれてしまうほどの麗容。
それに二人が気がついた時には、もう遅かった。
アレックスの左腕は切り落とされ、
シグナムの持つ正宗も地面に叩き落とされていた。
僅かな時間差もなく全く同時に繰り出される二つの斬撃。
セフィロスの本来のコンディション、武器なら八つの斬撃を同時に放っていたであろう八刀一閃。
例え得物が違おうが、例え体調が悪かろうが、二つ程度なら彼にとっては易いもの。
銀色の髪が過ぎ去った後は、戦いの牙をもがれた二人がいるだけであった。
これでセフィロスの当初の思惑通り二人は無力化した。
しかし、その結果に盛大に異を唱える人間がいた。

「って、セフィロスさーーん!! 何してはるん!!?」

アレックスの切り落とされた腕を見て、はやては思わず叫び声を上げる。
セフィロスはゲームに乗っていないのではないか。
自分に協力をしてくれるのではないか。
いきなり目の前で残酷とも言えるマネをしてくれた彼に疑問が胸にひしめく。
そしてあたかもその疑問の行き着く先が正しいかのように
橙色の髪をした女の子が道の傍らで血を流して倒れていた。

「そこで寝てる女の子は何なん? こないなとこで寝てると風邪引いてまうで。なぁ、そうやんな?」

縋り付くようにセフィロスに同意を求めるはやて。
だけど、彼女の周りにある血が、プレシアの言葉が、
そして先程セフィロスが見せた惨劇がどうしても一つの結論にもたらしてしまう。
八神はやてはただセフィロスに否定してほしかった。
今、目の前にあることは全部嘘なんだと。
そうすれば信じられる。安心していられる。
だけど、そんな言葉を言ってくれるはずのセフィロスははやてを僅かに一瞥するのみであった。
その対応にどうしようもないほどの恐怖と不安をはやては抱えてしまう。

と、そこで自分を見つめる視線の持ち主、シグナムにはやては気がついた。

「……ってシグナム? シグナムもおったん? 良かった。無事やったんやね。
なあ、教えてくれへん? ここで一体何があったん?」

最愛なる家族との邂逅に喜びと安堵を覚えると共に
胸にくすぶる疑問の答えを求めた。
彼女なら人を殺すなどということは絶対にしないし、自分にも嘘はつかない。
きっと目の前の出来事は何かの間違いだと言ってくれるはずだ。
だけど肝心のシグナムは、はやてと目が合うと、すぐにそれを逸らし
ただその顔を俯かせるだけであった。
八神はやてにはさっぱり状況が飲み込めなかった。
ゲームに乗っていないはずのセフィロスとシグナムが武器を持って対峙しており、
そのセフィロスは何の躊躇いもなく人の腕を切り落としていた。
その説明を二人に求めても、ただ沈黙があるだけ。
それならばしょうがない。
この場にいるもう一人、被害者の人に話を聞くということになる。
そちらを見つめると同時に、金髪翠眼の男性が口を開いてくれた。

「俺は時空管理局機動六課所属、アレックスだ。このゲームには乗っていない」
「ほんまに!? それやったら、こんなんあかんよ。みんなで仲ようせな。
なあ、シグナム、セフィロスさん?」

彼の言葉に顔を明るくさせるはやて。
彼が管理局員であるならば、どこにも争う必要がない。
この場は丸く収まるはずだ。
しかしはやての哀願にも似た声が二人の耳に届くが、
彼らからの返事は沈黙以外になかった。



その三人の様子を見つめながら、アレックスは自らの怪我の具合を窺った。
傷の再生が上手くいかない。
本来ならすぐにでも腕の再生を始めるはずのARMSが遅々として進まないのだ。
この現象は経験がある。
昨日、列車上で戦ったキース・レッドが所持していたデバイス。
それに組み込められていたARMS殺しに似たARMS再生遅延プログラム。
それが参加者に配られた武器に組み込まれているのであろう。
そうでなければ、ARMSを加えての殺し合いなど遊びが過ぎている。
となると、やはりこのゲームにはレッドとサイボーグの組織が関与しているのだろう。
そして尚悪いことに、殺し合いに乗っていないであろう少女は
既に殺し合いに乗った男、セフィロスに篭絡されている様子。
このままでは少女はいい様に扱われた挙句、
そう遠くない内に殺されてしまうだろう。
あの少女が管理局員であるかどうかは分からないが、
少なくとも管理局の存在を知っている。
同じく課にいるエリオやキャロの年齢、
そして彼らもこの空間にいることから考えて、
あの少女も管理局員である可能性が高い。
従って、保護する必要、情報交換すべき価値があるだろう。
だが、現状、シグナムとセフィロスを排除する力はアレックスにはない。
それならば、することは一つしかない。

アレックスは戦いの場を離れて、ここまで乗ってきた車の所に戻った。
その様子を三人は黙って見つめる。
大方逃げると踏んでいるのであろう。
その考えは間違いではない。
だが、それは一人で逃げるということを意味するわけではない。
車の横に立つと、右腕のARMSを起動。
その瞬間、シグナムとセフィロスの目が見開かれる。
今まで左腕だけで戦ってきた理由――それはARMSは左腕だけど思わせるため。
そしてその布石はここで役に立つ。
右腕の起動と共に武器を持ち直し、こちらに駆け寄る二人がいるが、この距離ではもう遅い。
ARMSを車に叩きつけ、その車体を二人の方に飛ばす。
一瞬の間を待たずに右腕を掲げ、ブリューナクの槍の発射態勢に入る。
威力は低くて構わない。求めるのは発射速度のみ。
そして次の瞬間、夜空に一筋の光が走った。
その槍が突き進む先は、飛ばされた車の燃料部。


――爆発


耳を劈くような爆音と共に煙炎天に漲る勢いで火が辺りの空間を浸食する。
車の近くにいた二人にそれを回避する術などはない。
瞬きほどの間で二人は爆発に呑みこまれていった。
無論、アレックスとてこの程度であの二人を殺せるとは思っていない。
ARMSである自分と対等に、いや、それ以上に渡り合う相手だ。
そんな簡単に死ぬことはないだろう。
だが、二人の目を僅かに眩ませるくらいのことは出来る。
その確信と共にアレックスはブリューナクの槍を放ち、すぐにその場を駆け出した。
目的はただ一つ。
彼は車の爆発に口をあんぐりと開けて呆然としている八神はやてを掴むと、
一目散にその場からの離脱を開始した。
いきなりのことに八神はやては混乱するも、すぐに現状を把握。
彼女はアレックスの腕の中で必死に暴れた。

「何や! 放してぇな! 管理局員さんなんやろ? 何でこないなことするん?
放してぇな! シグナムとセフィロスさんが死んでまう!」
「落ち着け! あの二人は殺し合いに乗っている!」
「嘘や! そんなん嘘や! 嘘に決まっとる! あの二人がそないな事をするわけない!」
「嘘ではない。あの場で倒れていた女を見ただろう。
彼女は俺の同僚のティアナ・ランスター。彼女はシグナムに殺された。
そしてこの腕を見ろ。殺し合いに乗っていない人間がこんな事をするか?」
「そ、それは……。でも、そんなん……アレックスさんやて、今さっき同じようなことをしたやん!」
「あの二人はあの程度でどうにかなる奴らではない。単なる時間稼ぎだ」
「それやったら、放してぇな! 私はあの二人と話がしたい!
殺し合いに乗っているってゆうんなら、尚更話をせなあかん! せやから、放してぇな!」

少女の言葉を聞くに、何やらあの二人に特別思うようなことがあるみたいだが、
現状最優先にすべきは安全の確保だ。
話ならその後でいい。
アレックスは暴れるはやてを押さえ込むかのようにきつく抱きしめ、
その足で力強くアスファルトを蹴り上げていった。



*    *



爆炎と爆音によりシグナム、セフィロス二人の五感は鈍る。
それでもその後が自分へと繋がる攻撃なら対処できたことであろう。
しかし、実際にアレックスがした行動といえば追撃ではなく、八神はやての拉致。
それに二人が気がついた時にはアレックスは既に八神はやてを抱えて駆け出していた。
その結果に舌打ち一つ。
二人は急いで八神はやてらを追いかけようとするが、後ろから聞こえた声によりそれが阻まれた。

「ちょっと待ちなさいよ、あんた達!」

相手が誰であろうと、そんなのにかかずらっている暇などはない。
八神はやては、シグナムにとって守るべき大切な存在であり、
セフィロスにとっても他の人間の命よりかは価値があるものだ。
すべきことなどは決まっている。
だけど、その声の持ち主の放つ異様な雰囲気に二人は振り返らざるをえなかった。

「人が折角休もうとしているのに、何なの!? うるさすぎ!」

煌々と燃える炎の向こうから、薄紫色の髪を二つに結った柊かがみが現れた。
その顔に浮かぶ狂気の瞳は澱みながらも、
シグナムとセフィロスを前にして決して揺らぐことことはなかった。
だが、それを見て二人の警戒はなくなった。
少女というのには似つかわしくない不気味な威圧感あるが
彼女の身体つきは貧弱で戦闘は望めそうにない。
加えて佇まいも隙だらけで、彼女が弱者であることを証明するには十分なものだった。
平時であれば、彼女のような非戦闘員は保護したことであろう。
だけど、今の二人にはそんなことより大切なことがある。
八神はやては攫われたのだ。
彼女に比べれば、目の前の少女などゴミにも劣る価値しかない。
すぐに二人は踵を返して、アレックスの後を追うとしたが、
次の瞬間、目に映りこんだ光景が再び彼らの行動をやめさせた。

アレックスによって破壊された車。
そこから飛び散ったガラスから突然と紫色の大蛇が現れたのだ。
全長十メートルを優に超える巨体に威嚇する黄色の瞳と口から飛び出る長い舌。
ベノスネーカーと呼ばれるコブラにも似たミラーモンスターは
鏡の向こうから出ると同時に道端に捨てるように置いてあったティアナの死体に襲い掛かった。
獰猛ともいえる勢いで口にされるティアナの死体は、
その勢いの余り骨はひしゃげ、血と肉片を辺りに飛び散らせた。
蛇の口から僅かに漏れるティアナの顔に浮かぶその意思のない虚ろな瞳は
何故かシグナムを見つめているようだった。
そして人が食べられるというそんな凄惨な光景の下でかがみは笑っていた。

「ホント何なの、あんた達? ……って、聞かなくても分かるか。
どうせあんた達だって殺し合いしてたんでしょ?
いいわよ。私も混ぜてよ。かかってきなさいよ。
私が殺してあげる。私が優勝して、家に帰る! だから死んで!」

そしておもむろに取り出されるデルタフォン。
それを彼女は慣れた手つきで口元に寄せ、言葉を紡ぐ。

「変身」

――Standing By――

そのままデルタフォンをデルタムーバーにセット。

――Complete――

紫白色のフォトンストリームがかがみの身体を包みこみ、
やがて光の中から血に濡れたような真紅の瞳が浮かび上がる。
その中から現れたのは先程の貧相な少女などではなく、
漆黒の鎧を身に纏った悪魔を思わせるような仮面ライダーデルタ。
闘争本能活性化装置、デモンズスレートより発せられるデモンズイデアにより闘争心が高揚。
それが身体中を駆け巡り、先の戦闘での疲労を忘れさせてくれる。
そしてその代わりに彼女の身体を支配するのは純然たる敵愾心と殺意のみ。
変身を終えると同時にデルタは眼前の敵を殺すべく俊足の足で地を駆けた。
百メートルを五秒七で駆けるその走力は常人では決して達しえぬもの。
先程の少女の体つきを考えれば、二人の目も見張る。
だけど、所詮はその程度だ。
音速で動く魔導師と相対することの出来る二人にとって、
それは子供の遊びと何ら変わるところはない。
シグナムを狙ったデルタの拳は容易にかわされ、カウンターの一閃。
ライダースーツが火花を上げて、悲鳴を上げる。
そして烈火の将の攻撃がそれしきで緩むことなどはない。
更に命を摘まんとデルタの首元に迫る刃。
闘争本能に蹂躙されるかがみの心にも思わず死の影が過ぎる。
だが、悪魔は簡単には堕ちない。
横合いから突如迫ってくる大蛇、ベノスネーカーの牙。
シグナムは瞬時に二つの選択肢を迫られる。
自分の命を犠牲にして相手を殺すか、
それとも絶好の機会を見逃して、相手をのさばらせるか。
まだ殺し合いが始まったばかりのこの状況で命を投げ出すには早すぎる。
シグナムは舌打ちしながら後者を選択。
正宗の長さをを利用してベノスネーカーの口に入れられるのを防ぐ。
だが思ったより速く、力が強い。
受け流すほどの暇をもてず、思わず身体のバランスを崩してしまう。
それをチャンスとばかりに態勢を立て直したデルタの拳がシグナムの頬を殴りぬける。
鈍重ともいえるスピードとは裏腹の重い一撃。
奥歯が何本も口から吐き出され、口内を血で溢れさせる。
そしてその衝撃に脳が揺さぶられている間に
今度はデルタがシグナムを殺そうと再び拳を振り上げてくる。
脳と筋肉を動かすシグナムの連絡神経は未だ不全。対処は不可能。
シグナムの脳裏に死が掠める。
だが、横からの突然の刺突により、それは防がれる。
ストラーダの直撃を受け、もんどりを打って地面を転がっていくデルタ。
驚きの目を向けるシグナムを無視し、
セフィロスはデルタを次の一撃で仕留めようと思うが、
ベノスネーカーの攻撃により中断。
ベノスネーカーの口から吐き出された溶解液を
セフィロスとシグナムは跳んでかわし、相手との距離を取る。
そしてシグナムは口に溜まった血を地面に吐き捨て、
横に並んだセフィロスに訊ねた。

「何故助けた?」
「……お前は生きて八神はやてに会わねばならぬのだろう?」

先程の発言からもそうだが、
どうやら自分と主のことを知っている節が見受けられる。
それについて疑問はあるが、今はいい。
今はただ彼の言葉を喜ぶべきだ。

「……ならば、この場はお前に任せていいのだな?」
「条件がある」
「何だ?」
「俺の刀を返せ」

その言葉にシグナムは考えた。一見すれば破格の条件。
八神はやてのを第一に考えるシグナムなら、迷わずそれを受け入れるべきだろう。
しかし、シグナムはそれを冷たく跳ね除けた。

「それは無理な相談だな」


*    *



アレックスの腕の中で、八神はやてはかつてないほどの焦燥に苦しんでいた。
セフィロスとシグナムが殺し合いに乗っている。
俄かには信じられないが、彼らが管理局員であるというアレックスに武器を向けていたというのは事実。
大切な人たちが殺しあう。それは彼女にとってまさしく悪夢以外の何物でもなかった。
でもだからこそ、彼女は事の真実を確かめたかった。
彼らが殺し合いにのっていないのだというのなら、何も問題はない。
だけどもし仮にのっているとしたら、自分は何が何でも彼らから話を聞かなければならない。
家族の一人として、彼らを大切に思う一人の人間として。
そしてそんな彼女にセフィロスが語りかけてくれた言葉が思い浮かぶ。
勿論、それには少なからずの罪悪感を覚える。
だけど、彼女には何にもましてやらなければならないことがある。
だから、彼女は謝った。

「アレックスさん!」
「何だ?」
「ホンマごめんなさい!!」

そう言うや否や彼女はセフィロスを追いかける時に
もしものためにと装備していたデュエルディスクを思い切りアレックスに叩きつけた。
それによってARMSの移植者であるアレックスがダメージを負う事はない。
だが、驚きにより僅かに八神はやてを抱きしめていた腕の力が緩む。
そしてその僅かなチャンスにより、はやてはアレックスの腕から脱出。

「ホンマごめんなさい、アレックスさん。
せやけど、私はシグナムとセフィロスさんとどうしても話をせなあかんの!
ホンマごめんなさい!」
「なっ? 待て!」

八神はやては言うだけ言うと、アレックスの制止の声を無視して、もと来た道を帰っていった。
それを見てアレックスはすぐに追いかけようとするが、思わず二の足を踏む。
すぐにでもシグナムとセフィロスが追いかけてくるかしれないというこの状況。
このまま少女を追いかけるのは危険、愚策。
それでは折角、引き離した敵とまたすぐに相対することになってしまう。
しかも、こちらは片腕を失った状態。明らかに形勢は不利。
しかし、このままでは保護した管理局員と思われる少女を危険に晒すことになってしまう。
アレックスは遠ざかる八神はやての背中を見つめながら、これからどうすべきか、最適な答えを考えた。


*   *



セフィロスの提案はシグナムにとっても魅力的なものだった。
先程見せた主、八神はやて。
彼女の道を血で汚してしまった以上、一緒にいることは憚られるが、
彼女の確実な安全のためにも自分の目の届くところに置いておきたい。
そしてそのためにも一刻も早く彼女を追いかけることが肝要だ。
ここは素直に武器を預けてはやてを追いかけるべきなのだろう。
だが、彼女は目の前の餌によって目的を勘違いするほど愚かではなかった。
シグナムの最終目的は八神はやての優勝にある。
いずれ殺すべき相手に本来の得物を譲り渡すなど愚の骨頂。
相手がアレックスなら彼女にとっても問題はなかったであろう。
彼も強かったが、レヴァンティンを持てば十分に抗しきれるものだった。
だが、この男はどうだ。
例えレヴァンティンを持ったとしても、勝つことなど想像出来ない。
守護騎士全員でかかったとしても、尚、自分たちの勝利に疑問符を浮かべてしまう。
そんな奴に塩を送ることなどは出来はしない。
それにこの男が信頼に応えてくれるかも分からないところがある。
武器を渡した途端にすぐに逃げるでは目も当てられない。
この場に一人残るのでは、敗色も濃厚。
自分が逃げるにしても、相手が追いかけてくることを考えると、
主の去った方向に逃げることは叶わない。
それでは折角会えた主ともまた遠ざかることになってしまう。
そして未だ愛剣レヴァンティンを持たぬ身。
今持つ刀以上に手に馴染む武器がないことを考えると、
やはりそれを手放すことなどは彼女には出来なかった。
自分の言葉に目を向けるセフィロスを見据えながらシグナムは更に言葉をかけた。

「お前は信用できん」

勿論、すぐに主を追いかけることのできないことに不安はあるが、
あのアレックスは管理局員といっていた。
管理局員である以上、敵であることに変わりはないが、
そう簡単に相手の命を奪う輩たちではない。
すぐに主の身に危険が迫るということにはならないだろう。
今は目の前の敵に集中すべきだ。

「ファイヤ!」

――Burst Mode――

その敵は暢気に二人が会話をしている隙に
デルタフォンを取り付けたデルタムーバーを取り出し、銃となったそれを構えた。
そしてデルタは闘争本能の赴くままに引き金を引き続けた。
弾丸雨飛となった光弾は夜を明るく染めるかのように空間を侵食し、そのまま二人を襲う。
しかし、歴戦の兵をそれで相手取るには不足。
迫りくる弾丸をかわし、いなし、受け止め、シグナムとセフィロスは確実に距離をつめていく。
その侵攻に焦りを覚え、狂ったようにデルタは引き金を引くが、結果は変わらず。
そこにベノスネーカーがデルタを助けるべく、猛進するセフィロスに食らいつこうとする。
だが、それはセフィロスに目に何度も映った攻撃。
セフィロスはベノスネーカーの上に跳んでかわし、ストラーダを突き立てる。

「サンダガ」

セフィロスの口より唱えられる雷撃魔法。
彼の魔力により生成された雷がストラーダから伝わり、
ベノスネーカーに苦悶の声を上げさせる。
セフィロス自身は魔法の威力の低さに驚くが、それでも対象の動きを止めるのには十分。
雷撃により倒れ伏したベノスネーカーを捨て置き、そのままデルタの元に向かう。
だけど、腹を空かしたミラーモンスターは何も一匹だけではない。
鏡の世界により突如現れたメタルゲラスが、かがみの盾となり矛となりセフィロスを襲う。
それにより再びセフィロスの進撃は止まってしまう。
しかし、シグナムがセフィロスを後を継いで相手を休ませることなくデルタを襲う。
このままでは流石に勝ち目がないと思ったのか、銃撃をやめ、
デルタはミッションメモリーを急いでデルタムーバーに挿入。

――Ready――

「チェック」

――Exceed Charge――

起死回生の一撃の準備を整えるが、既に眼前には刃を振るうシグナムがいる。
デルタは全ての神経を注ぎ、己の最速でもって、急いで銃口をシグナムに向ける。
交差し、音を立てて衝突するデルタムーバーと正宗。
僅かな拮抗の後、競り勝ったのはシグナム。
衝撃によりデルタの腕は後方へと弾き飛ばされる。
しかし、デルタムーバーより発射された光弾はシグナムへと着弾。
シグナムはその威力の低さに一笑し、
隙だらけとなったデルタにとどめの一撃を加えようとするが、何故か身体が動かない。
気がつけば、目の前に三角錐状のエネルギー体が生じ、身体を拘束。

「なっ!? しまった! バインドか!?」

シグナムの意思とは無関係に両腕を横に広げ、胸を相手に突き出す。
その視線の先には真紅の瞳が佇み、その仮面の下でかがみが獰猛に笑う。

「死ねぇぇ!」

甲高い叫び声と共に三角錐に目掛けてドロップキック。
繰り出されるのは悪魔の名を冠す仮面ライダーデルタの必殺技ルシファーズハンマー。
その威力はファイズ、カイザといった他のライダーたちの必殺技を遥かに凌ぐ。
不用意に近づいた己の迂闊さを呪い、絶体絶命の状況を目の前にシグナムは目を閉じた。


――直撃


耳にこだまする盛大な衝撃音。
だけど、不思議とシグナム身体には何の痛みも感じなかった。
恐る恐る目を開けてみると、ストラーダを手に持ったセフィロスが目の前に佇んでいた。
シグナムの危機を知ったセフィロスがストラーダの能力を使用。
音速となったセフィロスがメタルゲラスをなぎ払い、デルタにその槍を突き刺したのだ。
状況からセフィロスが助けたのというのはシグナムも分かったが、
その行動は彼女の理解の及ぶことではなかった。

「何故そうまでして助ける?」

シグナムは純粋に疑問に思い、セフィロスに訊ねた。
だがセフィロスはそんなシグナムを冷たく見据え、
彼女の質問には答えずに代わりに彼女に問うた。

「お前の最も大切なものは何だ?」
「無論、主の命に他ならない!」

シグナムにとって八神はやての命は何よりも、自分の命より尊いもの。
答えなど考えずとも決まっている。
だけど、その言葉、その信念を切って捨てるものがいた。

「……哀れだな」
「なっ!? 貴様、侮辱する気か!?」
「お前はその血塗られた剣を持って主の前に立つのか?」
「何を……?」
「一体、お前の剣で八神はやての何を守れた?」
「これから守るのだ! 主の命を!」
「八神はやての周りにいる人間を殺してか?」
「そうだ!」
「ならば、何故先程八神はやてが現れた時、すぐに彼女の下に行かなかった? 
どうしても主の命を守るというのなら、何ら躊躇うことなく実行してみせろ」
「……黙れ」
「お前に光を捨て去る気などないくせに」
「黙れ」
「お前に過去を捨て去る気などないくせに」
「黙れ」
「お前に闇など似合わない」
「黙れ!」

その叫びと共にシグナムが剣を力まかせに振るう。

「私は主の命を守らねばならないのだ!」

シグナムの剣をストラーダで受け止め、睨み付ける彼女を冷然と見つめる。

「笑止。お前の言葉が、剣が、八神はやてを傷つけていることを、お前が一番良く知っている」
「……黙れ! 黙れと言っているのだ!!」

セフィロスの言葉一つ一つが胸に突き刺さり、己の掲げた決意を揺るがしていく。
八神はやては誰かが傷つくことを恐れ、誰かがいなくなることを何より恐れていた。
決して少なくない時間を共にしてきたのだ。
シグナムにもそれは痛いほどよく分かる。
だけど、それでも守りたいものがあるのだ。
その為にも主である八神はやての言いつけを敢えて無視して、
闇の書の蒐集を開始し、この殺し合いに乗ったのだ。
それは自分でも悩み苦しんで、涙を呑んで、ようやく出した結論なのだ。
それを赤の他人の安っぽい言葉で論じられたくなどない。

「貴様に私の何が分かる!? 貴様に主の何が分かる!?」
「さあ……。だが、お前は知っているのだろう? この場にて八神はやてが何を望むか」
「……私は既に人を殺したのだ! もう後には退けん!」

怒りと力を込められた正宗がストラーダを押していくが
唐突に響く声が競り合う二人の間に入ってくる。

「お前が黙れぇぇぇーーーーーーー!!!!」

場違いにも程がある声で柊かがみは立ち上がり、叫ぶ。
見渡せば、ベノスネーカーとメタルゲラスは倒れ伏している。
それだけで相手方の強さ、自分がどれだけ不利な状況にいるかが分かる。
だけど、その程度のことで仮面ライダーデルタの闘争心は微塵も萎えることはない。

「アンタ達、さっきからうるさいって言ってんでしょ!!
さっさと黙って!! お願いだからさっさと死んで黙って!!」

そう言いながらデルタは我武者羅にこちらに走ってくる。
だが、怒りを抱えているのは何も彼女一人ではない。
八神はやてを追うことを止めさせられ、いらぬ会話をさせられ、
その会話も中途半端な形でやめさられ、
そして何度倒してもしつこく立ち上がってくる敵。
それが全て一人によってもたらされているのだから、
二人にとっても優しい気持ちでいろというのは無理なことだった。

「お前が……」
「貴様が……」

期せずして重なる二人の声。

「「黙れ!」」


二人はそのままデルタに向かって駆け出し、それぞれの武器を構える。
立ちはだかる相手に何の憐憫の感情も抱かない。
向かってくる相手に何の躊躇いなど存在しない。
ただ目の前の相手を倒す。
それらは必然となってお互いの必殺技に結びつく。

「八刀」
「紫電」

「「一閃!」」

八刀の名がつけど、今のセフィロスには四つ斬撃が限界。
シグナムの紫電一閃にしても炎熱の加護を受けていない。
だけど、それは何も貧弱を意味するものではない。
それぞれの技は例え制限下でも、必殺に値する威力を持っている。
そしてそれが二つ同時に繰り出されたのだから、それは必殺を遥かに凌駕する。
合計五つの斬撃を受けたデルタは火花を散らしながら遥か後ろへと吹き飛ばされた。
遠くの地面に転がるのは変身の解けた少女だけだった。


途端に空間に響き渡る静寂。
デルタが倒れたのを確認するとシグナムは再び刃をセフィロスに向けた。
相手に勝てるかなどは知らない。
だが、決意を惑わす相手を倒さねば、前には進めないということだけは彼女は分かっていた。
殺意もあらわに相手をにらみつけるシグナム。
だけど、そこにシグナムが最も望んでいて、最も会いたくない人間が現れた。

「やめてー! やめて、シグナム、セフィロスさん! 二人で戦ったりしたらあかん!」


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