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Little Wish(後編) ◆Qpd0JbP8YI




二人の間に入り、八神はやては切実な声で訴えかける。

「主、はやて……。何故ここに……?
いえ、どいて下さい。私は奴を斬らねばならぬのです!」
「何で? 何でそないなことを言うん?」

八神はやての目を向けての真摯な問いに
思わずシグナムは目を逸らしてしまう。

「アレックスさんに聞いたんやけど、二人は殺し合いに乗っているってのはホンマなん?」
「……のってはいない」

返ってきたセフィロスの答えに八神はやては喜び、次いでシグナムに顔を向ける。

「シグナムはどうなん?」
「私は…………」
「…………何で答えてくれへんの?」

いつまでもその先の言葉を発さないシグナムに
はやては問い詰めるが彼女は一向に口を開かない。
やがてそんなシグナムに向かって、はやては悲しそうに呟いた。

「ひょっとして私のためなん? 私のためにそないなことをしたん?」
「違います! 私は自分の意思で……」

思わず否定する。
が、自分の言葉が何を意味しているのかにシグナムが気がついた時にはもう遅かった。

「やっぱり乗っているんやね」

八神はやての悪辣ともいえる誘導尋問。
それに見事に嵌ってしまった自分の迂闊さをシグナムは再び呪った。
これではもう否定のしようがない。

「さっき血を流して倒れてた女の子。あれはシグナムのした事なん?」

シグナムにそれを答える術などない。
彼女は自分の慕う主、八神はやての望まぬ道を歩いたのだ。
それを八神はやて本人に晒して、
彼女を傷つけてしまうことはシグナムには躊躇われた。
だけど、そんなシグナムに向かって苛烈な言葉がぶつけられる。

「マスターである私の命令や! 嘘はなし! ちゃんと質問に答え!」

夜天の主たる八神はやての毅然たる瞳がシグナムに向けられる。
少女とも思えぬその威圧感がシグナムを怯ませ、
彼女の思いとは裏腹に無理矢理口を開かせる。

「…………私が…………やり……ました」

やっと聞き出したその答えにはやては悲しそうな顔を浮かべるが、
すぐに表情を引き締め、シグナムの元に歩み寄った。

「シグナム、ちょっとしゃがんでくれへん?」
「主……?」

疑問に思いながらも、素直にしゃがむシグナム。
その瞬間、シグナムの左頬にはやての平手打ちが決まった。
いきなりの事に呆然とするシグナムを無視して、今度は反対の頬にもう一発。

「主……何を?」
「痛いか? …………痛いかって聞いているんや!」

八神はやての顔を窺ってみれば、
彼女は涙を流し、胸が張り裂けそうなほど辛い顔をしていた。
それはシグナムにとって何よりも痛かった。

「痛かったやろ? せやけど死んでしまった女の子はもっと痛い思いをしたはずや。
それにその女の子かて私がシグナムを思うように、シグナムが私を思ってくれるように
大切に思う人、思ってくれる人がおったはずや。
言うたやんか、シグナム。私は誰にも悲しい思いをさせとうないって。
シグナムやって分かってくれるやろう?
大切な人を失うことがどれだけ辛いことか、どれだけ悲しいことか」

主を失うことを恐れ、剣を振っていたのだから、
シグナムにそれが分からないはずがなかった。

「偉そうなことを言うてるけど、私かて人様に迷惑をかけて来た。
車椅子のこともそうやし、闇の書事件やてそうや。
たくさんの人を傷つけて、今をこうして生きている。
せやからこそ、私は誰よりも誰かのために優しくならなあかん」
「ですが、主。私は既に人を……」
「このアホ! アホンダラシグナム! 
私かて人様に迷惑をかけたゆうのは一緒や。
罪が償えるいうんは正直私にも分からんよ。
せやけど、罪を償おうとせずに何もしないんは、傲慢や。
それは自分が傷つけてしまった人を、また傷つけて、侮辱するようなもんや。
せやから、私は自分の出来ることをする。せなあかん!
みんなのためにも、誰にもこんな自分がした思いをさせないためにも。
シグナムやってそうや。
人を殺してしまうんは許せない行為や。私かて許せへん」

許せない。
その言葉を聞いた瞬間、シグナムの心はえぐられ、
未だかつてないほどの痛みを感じた。
それと共に今更ながらの後悔を彼女は覚えた。
自分は本当に主を裏切り、その道を汚してしまったのだ、と。
でも、それは覚悟していたことだ。
主さえ生きていればいい。
そのために自分が主から見限られようと構わない。
彼女はそう思っていた。
だからこそ、続けてかけられた言葉には思わず耳を疑ってしまった。

「せやから、シグナム、一緒に罪を償っていこう。
何年かかるかもしれへんし、何十年もかかるかもしれへん。
もしかしたら一生かかっても償いきれないものなのかもしれへん。
せやけど、一緒に頑張っていこう、シグナム」
「主は、こんな私とまだ一緒にいてくれるというのですか?」

主の志を知りながら、それを裏切るのだから蔑まされて当然だと思っていた。
もう主は自分には笑いかけてくれない。
もう二度と皆で過ごした幸せな生活は送れない。
人を斬り、その血を見た時にそれを確信した。
もう自分の歩く道に主はいないのだ、と。
それなのに何故、主、八神はやては血に濡れた自分に手を差し伸べてくれるのか。

「シグナムは私の守護騎士で、そのマスターは私や。
自分の子を見捨てるゆうんは私には出来ひんよ」
「ですが……ですが……」

目の前で語りかけてくる八神はやての目の前にして
自分の意思とは関係なくシグナムの目には涙がこみ上げてくる。
騎士としての誇りを捨てた自分を未だに慕ってくれる。
道を外した自分に尚、優しくしてくれる。
思わずそんな主の下に跪いて懺悔したくなる。
自分は間違っていたのだ、と。
そうすればどれだけ楽になれるだろう。
だけど、そんなことは彼女には出来ない。
こんな心優しい主だからこそ、心を鬼にして人を斬らねばならないのだ。
そうでなければ、ここから生きて出られる可能性は低い。
例えそれによって自分が幸せな生活を得られなくなってしまっても。
例えそれによって自分が独りきりになろうとも。
そう、それは絶対に成さねばならないことなのだ。
それなのに、何故、そんな自分の思いを揺るがしてしまう言葉をかけてくれるのか。

「もう無理せんでええよ、シグナム。私はずっと側におるから。なっ、シグナム」

八神はやてはずっと側にいてくれる。
シグナムはそれを聞いた瞬間、今まで戦うために、人を殺すために
張り詰めさせていた緊張の糸が、安心という言葉によって緩んでいくのを感じた。
そしてそれと共に自分は無理をしていたのだと気づかされた。
主と道を違えるのが、どれほどの覚悟が必要だろうか。
大切な人に蔑まされ、罵られ、見捨てられていく。
そんな事は想像するだけでも胸が張り裂けてしまう。
だけど、こんな自分でも主はこれからも側にいてくれるという。
もう二度と手に入らないと思った幸福を再び得ることが出来る。
それに気がついた時には幸せから、安心から彼女の目から涙がとめどなく流れ出ていた。

「すみません、主……すみません、主」

気がつけば彼女はただ頭を垂れ、涙を流し、謝り続けていた。
八神はやてはまだ自分の側にいてくれる。
その優しさに触れた彼女は八神はやてを裏切ってしまったことを心底悔いた。
そしてこうして八神はやての側にいられる幸福が
二度と失われないようにシグナムは精一杯、今という時を噛み締めた。
そんなシグナムを八神はやては優しく抱き締めた。

「もう……こんな泣いている子を放っておけるわけないやろ?」
「すみません、主。すみません、主」
「よしよし」

相変わらず謝り続けるシグナムの頭をはやてはそっと優しく撫で続けた。

「よしよし」


*   *



悪魔が目を覚ましたのいつだろうか。
それは誰にも分からない。
ただ確実なことは下らない茶番劇を繰り広げる三人の様子を
倒れながらも目にしていたということだけだった。
そして柊かがみはそれが気に入らなかった。
無力ともいえる子供が二人の大人に守られるような形で笑顔を湛え、幸せそうにしている。
そんなことが彼女に許されようか。
自分の意思とは関係なく殺し合いというゲームに巻き込まれ、
そして自分を心配してくれる子供を殺してしまう。
挙句、信じていた友達にまで裏切られる始末。
そんな最悪を経験した柊かがみにとって、
自分をあざ笑うかのように幸せを享受している人間など
到底許せる範囲に存在していなかった。

「変身」

再びデルタフォンに声をかけるが、反応なし。
しかし、柊かがみはその歪な笑みを崩さなかった。
デルタの効果により活性化された闘争本能に新たな憎しみと怒りが重なり、
柊かがみの身体をより強い闘争心が支配する。
そして純化された闘争心は新たな闘争への道筋を築いてくれる。
おもむろに取り出される王蛇のカードデッキ。
それを通りの向こうにあるガラスに掲げて、彼女はまた新たな戦いへの言葉を紡ぐ。

「変身」

現れたのは紫の鎧を身に纏った仮面ライダー王蛇。

「あー、あいつ、本当にイライラするわね」

首を僅かに傾けながら言葉を吐き捨て、王蛇はカードを手に持つ杖にセット。

――Final Vent――

ただ彼女のすることは自分を苛立たせる人間の排除。
怪我を負いながらも後ろに現れたベノスネーカーを引き連れて
王蛇は地を這うように駆けていった。


再び敵が立ち上がったことにセフィロスとシグナムは驚きを隠せなかった。
敵の姿こそ変わっているが、現れた場所からして恐らく同じ人物なのだろう。
そして八神はやても驚嘆の声を上げる。

「仮面ライダー? 何でここに?」

彼女の言葉を聞くにどうやら相手の正体を知っているらしい。
それ自体は気になることだが、今すべきことは相手の無力化だろう。
セフィロスは寄り添いあう二人の代わり迎撃に出た。
だが、王蛇は走り寄るセフィロスの前まで来ると、唐突に後ろに高くジャンプ。
王蛇の後を付いてきたベノスネーカーの口元までいくと、
その蛇の口から吐き出された溶解液により前方に押し出され加速。
破壊の体現者はセフィロスの頭上を飛び越えて、八神はやてのの元に向かった。


八神はやてはその瞬間がとてもゆっくりに見えた。
迫りくる仮面ライダー王蛇。
その姿、その一挙一動を事細かに観察することが出来た。
そして自分を庇い、自分の身体を突き飛ばすシグナムの姿も鮮明に……。



「シグナムーーーーーー!!!!」



はやての絶叫を無視して溶解液を纏って繰り出される連続の蹴り、ベノクラッシュ。
一撃目をシグナムは正宗で受けるが、飛び散った溶解液が右目にかかり失明。
痛みを我慢し、突然と塞がった視界にも動揺することなく
二撃目も正宗で受け止めるが、今度は右手に溶解液がかかり、正宗を握る手の力が弱まる。
三撃目も何とか防御に成功するが、受けた衝撃により、思わず正宗を弾かれてしまう。
もうその後のシグナムには敵の攻撃を受け止めることなどは不可能だった。
飽きることなく何十発も繰り出される蹴り。
骨は砕け、内臓は破壊され、溶解液によりシグナムの美しさをも凄惨に壊していった。
そして最後とばかりに思いっきりの憎しみの込められた蹴りをアゴに喰らって
シグナムは空高く宙を舞い、アスファルトにその身を落とした。。

「シグナムーー!! シグナムーー!!」

八神はやてが声を荒立て急いでシグナムの元に駆け寄ろうするが
それを王蛇が当然のように邪魔をする。

「うるさいって言ってんのよ!! バカッ!!」

王蛇の手により発せられた紫電が無防備な八神はやてを襲い、
その小さな身体を紙のように吹き飛ばした。

「主っ!! 貴様!!」

正宗を杖代わりによろめきながらもシグナムは必死に立ち上がる。
ボロボロとなった顔と身体からは遠目からでも分かるように骨と肉が見え、
そこからは血と肉が溶け合い、グロテスクな液体を絶え間なく地面に滴り落としていた。
そんな怪我では勿論、立つことすら出来ず、生きていることさえ奇跡と言えるものだ。
それでも彼女は双眸を歪めることなく立った。
自分の主を、馬鹿な自分と一緒にいると言ってくれた優しい八神はやてを傷つけられたのだ。
それは絶対に許せることではない。
その思いが彼女に力を与える。

「許さん!! 貴様は…………絶対に許さん!!!」

自分の持てる限りの力を込めて睨み、叫ぶ。
例え身体が壊れようと、傷ついた主を放っておく事など彼女にはできはしない。
だけど、シグナムのそんな行動は王蛇に更なる怒りを注ぎ込むだけであった。

「ホンッット何なの!? みんなみんなみんな!!!!
うるさいのよ!! 分かる!? 本当にイライラさせるわね!!」

王蛇は八神はやてからうるさく喚くシグナムの方に向き直り、新たなカードをセット。

――Final Vent――

王蛇は後ろに突然と現れたメタルゲラスの肩の上に乗り、
今度はシグナムを殺すべくとどめの一撃を企てた。
だけど場に響いた電子音はそれだけではない。

――Sonic Move――

セフィロスの持つストラーダがシグナムを助けるべく声を上げる。
セフィロスは再び音速となり、王蛇へと槍を突き立てる。
だが槍が王蛇とメタルゲラスへとぶつかると思った瞬間、メタルゲラスは急加速。
音速で迫るセフィロスを置き去りにして、シグナムへと突進していった。


それを見てシグナムは正宗を腰に構え居合いの態勢に入った。
放つは紫電一閃。
相手を倒すべく自分の魔力を全てを正宗に注ぎ込む。
自分の身体の治療などどうでもいい。そんなのは後で幾らでも出来る。
今はただ相手を倒すことを考える。主を傷つけた愚か者にそれ相応の報いを与える。
無論、殺すことはない。主の道を再び血で汚すことはあってはならない。
だが、完膚なきまでに叩きのめす。
主に手を上げたことを死ぬほど後悔させてやるくらいに。
これは主と共に歩く新たな道のり。そのための第一歩。
殺すなというのは、この相手では難しいかもしれない。
だけど上手く事を運べば、主はまた笑ってくれる。
そして主と共にあの幸せな生活を送ることが出来るのだ。


高速で迫る王蛇に振るわれる居合い、紫電一閃。
例え身体が壊れていようが、例え制限下におかれていようが、
夜天の元に集いし守護騎士、烈火の将、シグナムの技は一点の穢れも、乱れもない。
その一閃は高速を超え、音速を凌駕し、神速へと達する。
振るわれるシグナム最速の居合い。

――勝った。

自分の最高の一撃の向こうにシグナムは勝利と最愛なる八神はやての笑顔を見る。
だけど、その瞬間、正宗を握るシグナムの指がベノクラッシュによって浴びせられた溶解液により溶け落ち、
刀は無残にも彼女の元から離れていった。
王蛇にぶつかる刀と指を失ったシグナムの右手。
そして――シグナムの胸に大きな穴があけられた。



「シグナムーーーーーーーーー!!!!」



口から盛大に血を吐くシグナムを前に八神はやてのあらん限りの声が夜空に響く。
だけどそれ以上に喚声を上げる者がいた。

「やった!! 勝った!! 殺した!! 
あはははははははは!!! これで静かになったーーー!!!
あははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」

柊かがみは初めて勝ち取った勝利に酔いしれた。
やはり自分は強いのだ。
その確信が更に闘争心を高め、彼女の心を高揚させる。
だけど、そんな隙だらけとなった敵を見逃しておくほど
セフィロスは甘くはない。

「ストラーダ、フォルムドライ」

――Unwetter Form――

ストラーダという大きな槍に新たな噴射口が幾つも加えられ、その姿はより禍々しくなる。
それにより一方向にのみ限られていた音速移動がより多角的に可能となる。
だけど、その姿となったストラーダの本来の能力は別の所にある。

「サンダガ」

それはストラーダ本来の持ち主であるエリオ・モンディアルの魔力変換資質を強化する装置。
即ち、雷撃魔法の強化である。
セフィロスにより送り込まれた魔力の雷が、
ストラーダの中を駆け巡り、やがて強大な紫電を形成する。
槍先より漏れ出た光はアスファルトを削り、溶かし
それでも満足することなく、辺りを威嚇する。
まるで誰かの死に憤るように、まるで誰かの怒りを表すかのように。
そして更に声を上げるストラーダ。

――Sonic Move――

紫電を纏いしストラーダは再び音速となって駆けた。
セフィロスは倒れたシグナムを僅かに見やり、
そしてストラーダを思い切り笑い声を上げる王蛇に叩き込んだ。
音速を超えて一瞬にして繰り出される紫電に輝く四つの斬撃――八刀一閃
その攻撃により王蛇のライダースーツは一瞬にして砕かれる。
柊かがみの身体もその衝撃に耐え切れず、
アスファルトにその身を打ちつけながら遠くに転がっていった。
これで敵は排除した。
しかし八神はやてはそんな事には目もくれず、一心不乱にシグナムの元に駆け寄った。

「シグナム! シグナム!」
「主……ッ」
「シグナム、死んだらあかん! 死んだらあかん!」

シグナムの胸から流れ出る血を必死に手で押さえつけながら、八神はやては叫んだ。

「……す……み……ません」
「いやや! 何で謝るん!? 今の謝るとこちゃうやん!」

八神はやての膝の上でシグナムは涙を受け止めていた。
そんな彼女に過ぎったのは、過ぎ去りし過去のこと。
だけどそれは幸福の日々などではなく、己を苦しめる後悔ばかりであった。
闇の書の蒐集では主の言いつけを無視したことは勿論、
それにより幾度となく家を空けて主に心配をかけたこと。
そしてこの殺し合いにしても主の志を裏切ってしまったこと。
そんな事実が死の際になっても彼女を責め立てた。
こんなものでよく守護騎士と言えたものだ。
シグナムは自嘲する。
一体、自分は主の為に何をしてこれただろうか。
既に血の気を失いつつある頭で彼女は精一杯考える。
だけど、シグナムには八神はやてのために出来たことなど何一つ思い浮かばなかった。
本当に駄目な騎士だな。
心底自分に呆れ帰る同時に、ふと彼女の頭に疑問が過ぎった。

「……ある……じ」
「何や!? 何や、シグナム?」
「足……は……もう…………?」
「何を言うてるん? シグナムやみんなのおかげでこの通りや!
シグナムたちが頑張ってくれたおかげで治ったんよ!」

それを聞いてシグナムはやっと笑みを零すことが出来た。
主の命令を無視して開始した闇の書の蒐集。
それによって蓄えられた魔力が本の持ち主に何らかの働きかけを行ってくれたのだろう。
それならば自分は救われる。自分は主の役に立ったのだ。

「シグナム! シグナム!」

涙を流しながら自分の名前を呼ぶ八神はやてのことを嬉しく思いながらも
シグナムはまだこれから死にゆく不安を拭えなかった。
だから、彼女は最後の力を振り絞り、声をかけた。

「セフィ……ロス……だっ……たか?」
「何だ?」
「こんな……ことを、頼む……のは、勝手……かもしれん。
どうか……主を……主を…………守って、やっ……てくれ。たの……む」

自分の身体から消えゆく力を必死にかき集め、自分の思いを託す。
だけど、返ってきた言葉はあまりに無慈悲なものであった。

「お前の頼みなど聞く義理はないな」

その答えに表情を失うシグナム。
しかし、それは当然のことかもしれない。
命を奪おうとした相手に自分が死ぬからといって
最後にモノを頼むなど虫が良すぎるだろう。
再び後悔の海にシグナムは沈むが、続けてかけられた言葉に
シグナムは表情をほんの少しだけ緩めることが出来た。

「だが、どうやら俺の刀は返してもらえそうだからな。その礼ぐらいはしてやっても構わない」

依然と蒼き瞳は何の感情を灯さなかったが、
その存在はひどく頼もしく思えた。
これで安心して逝ける。
主にはまだヴィータ、シャマル、ザフィーラがいる。
きっと寂しがることもないだろう。

「シグナム、ダメや! せっかく一緒に……頑張っていこうって決めたやないか!」
「すみ……ま……せん」

胸にあいた穴から血がとめどなく流れ続ける。
もう残された時間は後少ないだろう。
なら、最後にどうしても伝えたい言葉がある。
こんな自分を本当の家族として扱ってくれ、
こんな自分に本当の幸せを与えてくれた人に向けて、自分の思いを。

「あ……るじ、あるじ……と……一緒に過ご……せて、本……当に……幸せ……でした」
「うん、そやね! 私も幸せやった。ずっと独りでいて寂しかったけど
シグナムたちが来てくれてからは、ホンマ楽しかった、幸せやった。
せやから、これからも一緒に幸せになろう。シグナムも一杯頑張ったもんな。
何も悪いことなんかあらへん。もっと幸せになってええんよ。
そや、まだシグナムに食べさせたい料理があるんよ。
この前テレビでやってたんやけどな、ホンマ美味しそうやったんよ。
大丈夫。心配はあらへんで。シャマルには味付けはさせへんから。
シャマルには悪いけど材料を切らせるだけにしとこか。
それにな、シグナム。シグナムと一緒に行きたいとこが一杯あるんよ。
確かシグナムは温泉が好きやったよな?
今度みんなでどこか行ってゆっくりしてこよか。みんなで温泉に入ったりしてな。
どや、楽しそうやろ? 
それにな、他にもまだたくさんシグナムと一緒にしたいことがあんねん。
一生かかっても時間が足りないくらいに一杯したいことがあるんよ。
だからシグナム…………お願いだから目を開けてぇな。
そんなんじゃ…………そんなんじゃ…………」

何も応えてくれないシグナムの身体を必死に揺らしながら、はやては呼びかけた。
すぐに目を開けて、いつも通り自分に声をかけてくれる。
それくらいにシグナムの顔は安らかでいた。
だけど、いつまで経っても彼女の目は決して開くことはなかった。
それが何を意味するかに八神はやてが気がついた時
彼女は涙を流しながら、もう一度名前を呼び、叫んだ。



「シグナムーーーーーーー!!!」



*   *



八神はやての悲壮な叫び声が響く中で柊かがみは意識を取り戻し、笑っていた。
人を殺した。自分を手こずらせる相手に勝った。
その達成感と充実感は未だ彼女の心を支配してやまなかった。
もう彼女の身体は度重なる戦闘によって重傷とも言える怪我を負っている。
幾らライダースーツを身に纏っていたからといって、
全ての衝撃を緩和できるわけではない。
胸部は打撲と骨折が甚だしいし、その他の場所にしても無事な所は数少ない。
それほどセフィロスとシグナムの攻撃は苛烈だった。
だけど勝利による陶酔感、そしてそれによって漲る闘争心は
どんな怪我の痛みも、どんな身体の疲労をも忘れさせてくれる。
そしてその不死身の身体が自分は最強なのだと確信させてくれる。
だから、彼女は笑った。
笑いながら再び立ち上がった。
勝利を得るために、人を殺すために。
そして彼女はそのまま笑いながら、残る二人の獲物に向かって走っていった。


セフィロスはかがみの姿を確認すると、ストラーダを地面に突き刺し
シグナムの手を離れた正宗を拾い上げた。
未だシグナムの死体にすがり付いている八神はやてを見るに
このまま逃げるというのは難しいだろう。
だが、もとより彼に逃げるという選択肢はない。
それに正宗が手に入った今ならどんな敵にも遅れを取ることはない。
呆れるほどしつこい目の前の敵にしても手足の一、二本切り落とせば静かになるだろう。
セフィロスは悠然とかがみに向かって歩いていった。


八神はやてはもう二度と経験したくないと思っていた家族の死によって悲しみの底に沈んでいた。
涙は枯れることなく絶えず流れ続け、胸も数えくれないくらい張り裂け、
その度に心に痛烈な痛みと苦しみを与えていた。
だけど、彼女の目は決して下ばかりを見ていたわけではない。
そんな辛い状況だからこそ、彼女の意思はたった一つのことに燃えた。
そしてそれに呼応するかのようにバッグから光が漏れ、
その持ち主である八神はやてに語りかけた。
その言葉が何を意味するのかは分からない。
だけど、彼女には不思議と確信があった。
それは自分の味方になってくれる、と。
だから彼女はそれを手に取り、名前を呼んだ。
自分の思いを実行するために、自分の願いを叶えるために
もう誰にも決して、決して悲しい思いをさせないために。



「マハーーーーーーーーーーーーッ!!!」



その眩いばかりの光が空間を覆う。
はやての呼びかけによって目の前に現れた紫の剣を抱きしめ、彼女は再び叫ぶ。

「もうみんな、戦うのやめてーーーーー!!」

そして彼女は自分の願いを叶える為の魔法の言葉を紡ぐ。

「妖艶なる紅旋風」

轟然たる風がはやての周りを渦巻き始め、やがてそれはエリア全体に至る。
その風に気がついた瞬間、セフィロスの、柊かがみの視界は真っ赤に染まった。
触れるもの全てを切り裂く薔薇の花びら。
それはビルを壊し、家屋を崩壊させ、アスファルトを削りながら
その場にいる全てのものに容赦なく襲い掛かった。
勿論、その魔法は非殺傷設定であるために、人に傷を与えることはない。
だけど、それによる魔力ダメージは健在。
魔導師ランクSSの八神はやてによる魔法。
それはロストロギアであるレリックを埋め込められた人造魔導師にも到達出来なかった境地。
オーバーSランクの魔法攻撃をカートリッジによって魔力補強、威力増強することなく連発できるほどの桁外れの魔力。
それが全てマハに注ぎ込まれ、八神はやての思いを体現する。
そしてその空間全ては薔薇と風に覆われていった。


*    *



アレックスは八神はやてに逃げられた後、結局彼女を追いかけることにした。
シグナムとセフィロスを正面から相手取るのは不可能。
だが、殺し合いに乗っている以上、いずれは排除すべき相手。
それならば、と彼は一つの結論を出した。
即ち、少女を囮にして、あの二人をブリューナクの槍で射殺す。
無論、少女も巻き込まれて死ぬ可能性もあるが
リターンの大きさを考えれば、十分にやる価値はある。
そう思いアレックスは少女に、そしてシグナムとセフィロスに気づかれぬよう
遠く建物の影に隠れながら、彼女を追いかけていった。
そして彼がようやく三人のいる場についた時、事態は一変した。
突如として訪れる風と薔薇の花びら。
それを何者かの攻撃によると判断した瞬間、アレックスは即座にARMSを起動。
ARMSより高出力の電撃を発生させ、迫り来る花びらを焼き払う。
だが、片腕を失った彼に四方からだけでなく、八方からも押し寄せる攻撃を回避できる術はない。
止むことのない激烈な攻撃に耐え切れなくなったアレックスは
堪らず近くにあったビルの中に逃げ込む。
しかし、彼がそれが失策であると気がついた時には、もう遅かった。
ビルは花びらによって瞬く間に刻まれ、ビルを形成していた全てのものは
アレックスの上に降りかかってきた。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

彼の身体は薔薇の花びらとビルの残骸に埋もれていった。




【1日目 黎明】
【現在地 F-3】
【アレックス@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】気絶、疲労(大)、左腕欠損(再生中)
【装備】なし
【道具】支給品一式、はやての車@魔法少女リリカルなのはStrikerS、サバイブ“烈火”のカード@仮面ライダーリリカル龍騎、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本 この殺し合いを管理局の勝利という形で終わらせる
 1.気絶中
 2.機動六課隊舎へ向かう
 3.六課メンバーとの合流
 4.キース・レッドに彼が所属する組織のことを尋問
 5.キース・レッドの首輪の破壊
【備考】
 ※身体にかかった制限を把握しました
 ※セフィロスはゲームにのっていると思っています
 ※幼はやては管理局員だと思っています
 ※幼はやてはセフィロスに騙されて一緒にいると思っています
 ※キース・レッド、管理局員以外の生死にはあまり興味がありません
 ※左腕は朝までには再生すると思われます
 ※参加者に配られた武器には、ARMS殺しに似たプログラムが組み込まれていると思っています
 ※殺し合いにキース・レッド、サイボーグのいた組織が関与していると思っています



*   *



「もうみ……んな………………ん」

制限のせいだろか、彼女の意識は魔力の急激な消費によって途切れた。
彼女の周りには既に誰もいない。
赤い嵐によって人も物も全て吹き飛ばされ、ただ廃墟が残るのみであった。
だが、そんな中でやがて一人の男が立ち上がり、遠く離れた八神はやての元までやってきた。
魔法の攻撃により彼の髪はひどく乱れ、仮面のようなそ顔にも疲労が滲んで見えるようだった。
八神はやての魔法をくらって立ち上がれたのはただ一人。
それは彼女と同じ魔導師ランクに位置されたセフィロスであった。
彼はシグナムの上で眠るように安らかな息をたてる八神はやてを拾い上げると、
時折膝を折りながらも、再びゆっくりと、そしてしっかりと歩き始めた。
それを見送るシグナムは何も言わない。
だけど、彼女の顔は後悔にも憤怒にも歪むことなく、ただ静かに、満足げに目を閉じていた。
それがセフィロスには忌々しく、何よりも不愉快だった。






【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's 死亡】
【残り人数:54人】



【1日目 黎明】
【現在地 F-3】

【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、魔力消費(極大)
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式×3、バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、ランダム支給品0~5個
【思考】
 基本 元の世界に戻って人類抹殺
 1.八神はやてを安全な場所へ連れて行き、休息する
 2.八神はやてから仮面ライダーの情報を得る
 3.八神はやてにアレックスの行方を訊ねる
 4.八神はやてが目を覚まし、自身の身体もある程度回復したら、共に機動六課隊舎へ向かう
【備考】
 ※現在行動を共にしている八神はやてが、本物の八神はやてであると認識しました
 ※機動六課でのことをはやてに自ら話すつもりはありませんが、聞かれれば話します
 ※身体にかかった制限を把握しました
 ※アレックスが制限を受けていることを把握しました
 ※八神はやてが無事なことから、アレックスはゲームにのってないと判断しました 
 ※殺し合いを止めるというスタンスは尊重するが、不可能と悟った時には殺すことも辞さない つもりです
 ※参加者同士の記憶の食い違いがあることは把握していますが、特に気にしていません


【八神はやて(A's)@仮面ライダーリリカル龍騎】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)
【装備】デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、ランダム支給品0~1個
【思考】
 基本 殺し合いを止め、誰にも悲しい思いをさせない
 1. シグナム……
 2. 何で仮面ライダーが……?
 3. 仲間たちと合流
【備考】
 ※セフィロスが自分を知っていることを知りません
 ※憑神刀(マハ)のプロテクトは外れました


【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】疲労(大)、肋骨数本骨折、全身打撲、一時間変身不可(デルタ、王蛇)
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎、デルタギア一式@魔法少女リリカルなのはマスカレード
【道具】支給品一式×3、ランダム支給品0~6個 、デルタギアケース@魔法少女リリカルなのはマスカレード
【思考】
 基本 みんな殺して生き残る!
 1. 気絶中
 2. 幼はやてとセフィロスを殺す
 3. エリオやなのはの気持ちを無駄にしないためにも戦う
【備考】
 ※なの☆すた第一話からの参戦です
 ※デルタギアに適合しなかった後遺症として、凶暴化と電気を放つ能力を得ました
 ※デモンズスレートによる凶暴化は数時間続きます
 ※ユーザーズガイドを読めばデルタギアの全てを理解することが出来ます
 ※ベノスネーカーとメタルゲラスは回復中です。餌を食べれば回復は早まります
 ※王蛇のカードデッキには、未契約カードがあと一枚入ってます
 ※参加者名簿や地図、デイパッグの中身は一切確認していません
 ※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし、何かのきっかけで思い出すかもしれません
 ※自分が最強だと思っています
 ※高揚する闘争心により怪我の痛み、身体の疲労を感じていません
 ※柊かがみは八神はやての魔法「妖艶なる紅旋風」によりF-3のどこかに吹き飛ばされました



 ※F-3にある建造物は橋を含め、「妖艶なる紅旋風」により全て破壊されました
 ※「妖艶なる紅旋風」は周囲一マスにあるエリアで確認出来たかもしれません



【支給品情報】
 ※アンカーガン@魔法少女リリカルなのはStrikerS はティアナの死体ごとベノスネーカーに食べられました
 ※ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS は「妖艶なる紅旋風」によりF-3のどこかに吹き飛ばされました


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八神はやて(A's) Next:
セフィロス Next:
アレックス Next:光が紡ぐ物語
柊かがみ Next:光が紡ぐ物語
シグナム GAME OVER






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