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あの蒼穹に磔刑にしてくれたまえ ◆9L.gxDzakI




 ゆらり。
 ゆらり、ゆらりと。
 幽鬼のごとき漆黒の影が、茫洋とした朝日の中で揺らめいている。
 一歩一歩踏み出すたびに、ロングコートの裾からぱらぱらと粉がこぼれ落ちた。
 元々は生き血のごとき真紅に彩られていたコートも、今は炭化してぼろぼろになっている。
 そんなものに身を包んでいながら、しかし悠然たる不死王(ノーライフキング)は、全くの無傷で歩を進めていた。
 右手に担ぐは白銀の十字架。
 パニッシャーの封印は既に解かれ、その無骨なフォルムが外気にさらされている。
 左の肩からはデイパックを提げ、吸血鬼はただただ黙々と前進するのみ。
 アーカードがここまで誰も会わずに辿り着けたのは、偶然によるものがかなり大きかった。
 あの学園から川を渡るには、HELLSING本部の傍にある橋を渡らなければならない。
 流水はアーカードの唯一の弱点だ。その橋だけは無視するわけにはいかなかった。
 もしもその橋を、ギンガ・ナカジマが同じタイミングで渡っていたとしたら、そのままそこで鉢合わせになっていたはずだ。
 彼女は気絶した主君・インテグラを背負っていた。
 彼の捜す人物であることに変わりはないが、もしも見つけていたとしたら、ここまではたどり着けなかっただろう。
 インテグラの意志は絶対だ。殺すなと命令されれば、即座に殺人をやめなければならなくなる。
 だが幸か不幸か、アーカードが橋を渡り始めた時には、既にギンガ達はHELLSING本部に入っていた。
 こうして枷を逃れた吸血鬼は、その後も八神はやてらが待つ地上本部を避け、
 セフィロスらに捕捉されることもなく、ヴァッシュ・ザ・スタンピードらのいなくなったエリアへと到達した。
 ここまでの道中で、アーカードは己が感想をより強固なものとして抱いていた。

 ――普通に獲物を探しても、そう簡単には見つからない。

 街というものは、実際かなり入り組んでいるものだ。
 立ち並ぶビルや建造物は人を巧みに隠し、索敵を困難なものとする。
 他ならぬアーカードが証明したことだ。
 互いが建物の陰に隠された結果、彼は誰を見つけることもできず、誰から見つかることもなかった。
 こんな面倒を続けていては、いつまで経っても闘争にありつけない。
 あの龍使いとの戦いは極上の晩餐だったが、それだけで彼が満足できるはずもなかった。
 何せ向こうは、こちらを倒すつもりなどなかったのだから。ただの陽動でしかなかったのだから。
 もっと闘争を。一心不乱の闘争を。
 こんなに面白いパーティーだというのに、たった2度の戦いしか味わえないのでは興ざめだ。
 股ぐらがいきり立つほどの情動を、アーカードは完全に持て余していた。
 ――ぐしゃ、と。
 何かを潰す音を立てる。
 ぱらぱらとコンクリートの粒が音を立てる。
 建物の壁へと伸びるのは、熱で真っ黒に変色したコートの袖。
 ぼろぼろに崩れた手袋が、コンクリートへと深々と突き刺さっていた。
 アーカードが更なる力を込める。
 すっと壁から離れていく右手。
 手頃な建物の壁を腕でぶち抜いた男が、悠然とした動作で鉄骨を引き抜いていた。
 苛立ちのみが理由ではない。
 別に思い通りにいかぬ現状に腹を立て、建物に八つ当たりをしたわけではない。
 アーカードは誇り高き最高の化け物(フリーク)なのだ。
 たとえいかに腹立たしいことがあったとしても、決してそんな下衆な行動に出ることはない。
 ただ単に、思いっきり嫌な表情をするだけだ。
 こうして壁を砕いたことにも、実はちゃんとした意味がある。
 同様のやり方でもう1本の鉄骨を左手に収めると、それを乾いた金属音と共に道路に置いた。
 からん、と。
 アーカード以外の、誰の耳にも入らぬ音が虚しく鳴り響く。
 たった今調達したこの2本の鉄骨が、どうしても彼には必要だったのだ。
 ただ1つの目的のために。普通に探していても見つからない連中を、無理やりにでも引きずり出すために。
 やがてアーカードの手が、デイパックの口へと伸びた。
 開け放たれたそこから、だらんと力なく出てきたものがある。
 白い。否、白いだけではない。少し色彩の差した色。いわゆる肌色というやつ。
 それに連なるものは5本の先端。そして肌色のそれを染めるのは、半分凝固しかかった赤黒い液体。
 もう片方の手をデイパックに突っ込み、それを引きずりだす。

 アーカードの右腕は――クロノ・ハラオウンの頭から生えた髪の毛を掴んでいた。

 赤き龍を使役した、歳若き少年執務官。そのすっかり変わり果てた遺体が、今まさにアーカードの手中にある。
 一般支給品以外で、彼に支給されていたのはパニッシャーのみだ。それを出してしまえば、余剰スペースは十分にある。
 ついでに言うならば、原理こそは知らないものの、このデイパックは見た目よりも遥かに容積が大きいらしい。
 それこそ、14歳の子供1人をぶち込むことなど造作もなかった。
 アーカードはあの学校から、自ら息の根を止めたクロノの亡骸を持ってきていたのだ。
 かつては人であった死体を、まるで物のように扱って、鞄に詰めて持ち運ぶ。普通の人間ならば、考えるだけでもおぞましい。
 それでも彼はやってのけた。いつもと変わらぬ平然とした表情で、クロノの遺体をここまで運んできたのだ。
 デイパックの口から離れた手が、先ほど道路に置いたものを握る。
 右手に死体を。
 左手に鉄骨を。
 それがこの時の、アーカードの態勢だった。


 Devil May Cry。
 ゲームが始まった直後には、彼と同じ赤コートの男がいて、彼の最大の好敵手たる神父が訪れていた場所だ。
 この無駄にだだっ広い事務所の中で、アーカードはデスクの椅子へと腰かけていた。
 木製の机の上に手を置き、パニッシャーを椅子に立てかけて、厳然たる威厳と共に構える。
 凶悪な眼光の中にも、確かな王者のオーラが混在する、独特な威圧感。
 そこに座っているだけで、他を圧倒する壮絶な存在感を放つ者。それこそが最高の吸血鬼。
 そして、退屈そうに腰かけているアーカードの視線の先には、あの場からせしめたもう1つのものがあった。

 そう――拡声器。

 あの学校でクロノが使っていた、もう1つの支給品だ。
 それを通して人を集めたことで、彼はヴィータやヒビノ・ミライらと遭遇した。殺し合いに立ち向かう仲間を見つけられた。
 しかし同時に、それはアーカードの狂気さえも呼び寄せてしまった。
 その結果は既に知っての通りだ。残る2人は逃がすことができたものの、アグモンは死亡し、クロノ自身も殺害された。
 そしてその結果を招いた支給品が、今は襲撃者の手中にある。
 学校での戦闘の後、アーカードが滅多に使わぬ頭を使って、考えついた方針はこうだ。
 まず、あの場からクロノの死体と拡声器を回収し、己がデイパックへと詰める。
 そしてそのまま学校を脱し、人が集まりやすいと思われる場所へと移動。
 間もなくプレシアによって実行されるであろう放送に合わせたタイミングで、クロノの行動の真似事をする。以上。
 しかしアーカードの言葉は、クロノのような正義感溢れる救いの手ではない。
 更なる強者を焚きつけ、呼び寄せるための宣戦布告だ。
 全てが万事、彼の望む殺し合いのための布石。
 少年の遺体を持ち出したのは、よりその存在をアピールする演出手段とするため。
 アグモンではなくクロノを選んだのは、そちらの方がより衝撃を与えやすいからだ。
 黄色いトカゲのようなアグモンは、所詮人間の形ではない。人間に与える残虐性も薄くなるだろう。
 そこで、クロノが選ばれた。他人の同情や恐怖をより煽りやすい人型が。
 とはいえ、吸血鬼ならば、今まさに昇りかけている太陽を警戒すべきとも考えられるだろう。
 日の光は、彼ら夜の一族(ミディアン)が最も苦手とする天敵である。
 そんな状況で、不特定多数の人間に喧嘩を売ることなど、普通は避けるべきことのはずだ。
 しかし、アーカードは違った。
 既に何千何万もの敵を屠り、何千何万もの血を啜り、何千何万もの命を得た男には、そんなものは通用しない。
 もはや日光などは敵ではない。単に大嫌いなだけだ。
 なすべきことは全て完了した。あとは来訪者を待つだけ。
 故に、アーカードは待ち続ける。
 役目を終えた拡声器によって、導かれた者達が現れるのを。
 歩くこともせず、眠ることもせず。
 ただ玉座に座ったまま、その時を待ち続けるだけ。
「――演説をすることも、ひたすら闘争の時を待つことも、これはこれでなかなか新鮮なものだな」
 不意に、ぽつり、とアーカードが呟く。
 歪んだ愉悦に満ちた笑みを浮かべながら。
 ここにはいない誰かへ。このフィールドの中に存在しない者へ。
 かつて打ち滅ぼしてみせた宿敵へと。戦闘狂アーカードの、ある意味で最大の理解者へと。
「なぁ……少佐?」













 やがて時は満ちるだろう。

 やがて囁きは広がるだろう。

「――間もなく最初の放送の時間だな、人間(ヒューマン)諸君?」

 悪魔も泣き出す男の砦で、1人待ち受ける悪魔。

 その魔性の誘いが、多くの人間を揺り動かすことだろう。

「さて、今に至るまでに何人が犠牲となったやら……ははは、まさか誰も死んでいないなどとは思っていないだろうな?」

 多くの人間が、彼の元へと足を運ぶだろう。

 そして目にすることになるだろう。

「ここまででもう分かっているはずだ。このデスゲームとやらに安全などない。聖域はない。
 参加者達全員が全員、殺し合いを望まぬ善人だとは思わぬことだ。たとへどこへ逃げようとも、殺人者達は見逃さない。
 逃走劇の果てに待ち受けているものは、間もなく名を読み上げられる連中と同じ末路というわけだ」

 赤き電灯の光を放つ、アルファベットで書かれた看板。

 その上方に現れたオブジェの存在を。

「……それとも、まだこの状況が信じられないか? いいだろう、ならば証明してやろう。
 既に他ならぬこの私が、1人の少年を殺めている。犠牲者がいて、それを生み出した殺人者がいる。
 信じられないならば放送を待つがいい。少なくとも1人分、名前が読み上げられるはずだ。
 それでも尚疑う者は、私のもとへと来るがいい。そして目の当たりにするがいい。無情にも突きつけられた現実を」

 両の手首を貫く鉄骨。血液すら乾き果てた身体。

 さながら蒼穹からつり下げられるがごとく。さながらゴルゴダの十字架のごとく。

 ――クロノ・ハラオウンの亡骸が、コンクリートの壁へと磔にされているのを。

「さぁ、戦端は開かれたぞ! 贄は今ここに捧げられた! 闘争の儀の始まりだ!
 私に抗う覚悟ができたものは、この私を求めるがいい。最高の礼儀と苦痛と悦楽をもって、最高の闘争でもてなしてやろう。
 私を恐れる心を抱いたものは、すぐに退散するがいい。私直々に、地の果てまでも追いかけて、その息の根を絶ってやろう。
 歌い踊れ人間達よ。挑み、挑まれ、殺し、殺され、豪華絢爛の限りを尽くした宴を上げろ。
 この私をもてなすがいい。最高の狂気と殺意と暴力に満ちたフルコースによって。
 私を退屈させないことだ。私を苛立たせないことだ。
 戦うなら早く戦うがいい。逃げるなら早く逃げるがいい。さっさと諸君の行動を見せてみろ。
 Hurry! Hurry! Hurry! Hurry! Hurry!」

 魔窟(パンデモニュウム)の扉が開かれる時は、すぐそばまで迫っているのだ。

「――私の名はアーカード。逃げもせず、隠れもせず、諸君らの来訪を楽しみに待っている」


【一日目 早朝】
【現在地 G-5 Devil May Cry内】

【アーカード@NANOSING】
【状況】健康、半裸(衣服は完全に炭化)
【装備】パニッシャー@リリカルニコラス
【道具】首輪(アグモン)、拡声器@現実、基本支給品一式
【思考】
基本:インテグラルを探しつつ、闘争を楽しむ。
1.Devil May Cryにて、自分に闘争を挑む人間が来るのを待つ。
2.アンデルセンとスバル達に期待。
【備考】
※スバルがNANOSINGのスバルと別人であると気付きました。
※パニッシャーが銃器だという事に気付いていません。

【共通の備考】
※D-5学校の校庭から、以下の2つがアーカードによって持ち出されました。
 ・パニッシャーに腹を貫かれたクロノの死体
 ・拡声器@現実
※第一回放送の直前、アーカードの声がG-5を中心に辺りに響きました。
※Devil May Cryの正面に、クロノの死体が鉄骨によって磔にされました。

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