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勇気のアイテム(前編) ◆gFOqjEuBs6




行動の果てには「結果」という答えが待っている。
例外は無い。そこに彼らの力は及ばない。
いかなる相手にでも命令を下せる絶対遵守の力を持っていようと。
いかなる相手にも屈しない、時空さえも超越した力を持っていようと。
その必然からは逃れられない。
幼い頃に失ってしまった、大切な人の仇を討つ為に。
たった一人の妹が幸せに過ごせる場所を創る為に。
同じ目的を胸に、動き出したのは二人の男。

だがしかし、世界は、人々は―――
彼らの思惑とは別に、「結果」を突き付け、その続きを求めて来る。
その続きが世界を紡いで行くというのなら、誰かが追うべき「罪」は。
受けるべき「罰」は、一体どこにあるというのだろう。




シャーリー・フェネットの父は、殺された。
シャーリーの記憶に残る父との思い出が、走馬灯のように流れては消えて行く。
記憶の中の父は、何よりも自分を愛し、大切にしてくれた。
「ゼロ」に殺される少し前、父は自分と、ルルーシュの為にチケットを手配してくれた。
二人の仲が上手く行くように。そんな淡い願いを込めて、父が用意してくれたのだ。
優しい父親だった。誰よりも、何よりも、優しい父親だった。
そんな父が、誰に。一体何故、殺されなければならなかったのか。
その答えは至って明解。
全ての元凶は、「ゼロ」。
仮面の革命家ゼロが、弱者の味方と謳いながら、殺戮を繰り返すゼロが。
何の罪も無い父を、無惨にも殺したのだ。

あの日、河口湖でゼロは言った。
「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある者だけだ」と。
力を持つ者が、力を持たない者を傷付けることは断じて赦さないと。
自分は力無き者の味方だと、確かにそう言ったのだ。
それなのに、軍人でも無く、特別な力を持っている訳でも無い父は殺された。
それが一体何故なのか。ゼロが何故父を殺したのか。
それは誰にも解らない。
だが、一つだけ解っていることがある。
それは、“父を殺したゼロが、今自分の目の前で気絶している”という事。
無防備に、それも手負いの状態で。自分の目の前で眠りこけている。
それだけ解っていれば、今のシャーリーには十分なのかも知れない。
この男が、優しかったお父さんを殺した。
お父さんを殺した男が、今目の前で気絶している。
そして、気絶している相手の命を奪うことなど、武器さえあれば誰にでも出来る。

「お父さんの仇……私が、ゼロをッ……!!」

今なら殺せるのだ。憎きゼロを、この手で。
その一心で、シャーリーは爆砕牙を、その鞘から引き抜く。
父の仇を討つ。今なら、特別な力を持たない自分でもゼロを殺せる。
爆砕牙を握る手に力を込めて、切っ先を振り上げる。
あとは、これを振り下ろすだけ。
これを振り下ろす事で、お父さんの仇を討てるのだ。

その一心で、シャーリーは目を固く閉じ、爆砕牙を握る手をゼロへと振り下ろ――

「んっ……んん……」
「―――ッ!?」

――せなかった。

それは、シャーリーが爆砕牙の刃を振り下ろそうとした瞬間だった。
シャーリーの耳に入ったのは、ゼロの小さなうめき声。
それに気付いたシャーリーが、ゆっくりと目を開ける。
目の前で眠っていた筈のゼロが、苦しそうに顔をしかめ―――
やがて、閉じられていた目が、うっすらと開いた。

―――ど、どうしよう……ゼロが起きちゃう……!?

狼狽したシャーリーは、爆砕牙を握る手を緩め、その刀を畳へと落とす。
周囲をキョロキョロと見回し、自分はどうすればいいのか、思考を巡らせる。
もしもゼロが起きてしまえば、お父さんの仇を取るのはより困難になってしまう。
だがそれは同時に、何故父を殺したのか。ゼロは弱者の味方では無かったのか。
それを聞き出すチャンスでもあるのだ。

考えた末に、シャーリーが出した結論は―――


「……ここは……」

天道総司は目を覚ました。
うっすらと開いた目から見えるのは、天道にとっては見知らぬ場所。
何故自分がこんな所にいるのか。それは当の天道にも皆目見当が付かない。
状況を把握するために、天道は思考する。
これまでの自分に何が起こったのかを、寝起きの頭をフル回転させて思い出す。

自分は確か、あの青いワームを倒した後、クロックアップでフェイト達の前から姿を消した。
そこまでは天道にとってもはっきりとした記憶だ。問題なのは、その後。
その後の記憶が無いのだ。天道はただいつも通り、樹花の待つ家へと帰るつもりだった。
それなのに、気付いた時自分は、見知らぬ人々が集められた空間に束縛されていた。

やがて目にしたのは、大学生くらいの少女の、死の瞬間。
首からしたを残し、頭を爆ぜさせて、少女は絶命した。
流石の天道にも、何が何だか訳が解らなかった。
行動をしようにも、自分は動けない。
天道がいくら念じても、カブトゼクターも、ハイパーゼクターも現れる気配を見せない。
状況に流されるまま、天道の記憶はまたも暗転。
次の瞬間、天道は深夜の森の中に立たされていた。
状況を整理しようと、支給されたデイバッグの中を探る。
その時点で天道は完全に油断していた。まさかいきなり敵の襲撃を受ける事になるなんて、思いもよらなかった。

現れたのは、黒い“マスクドライダー”。
デイバッグの中に入っていた刀で応戦するも、最初に受けた一撃が致命的だった。
刀と刀を激突させる度に天道の体力は消耗していった。
それでも、ここで訳も解らないままに死ぬわけにはいかない。
天道はひたすらに黒いライダーから逃げながら、川を目指した。
そんな時、途中で聞いた電子音は、剣崎の持つ、ブレイドの電子音に酷似していた。
だが、それを認識したのも一瞬。
黒いライダーの攻撃―――恐らくはライダーキック。
それを受ける前に、自分はすぐに川に飛び込み―――そこで記憶は途切れた。

「ここはどこだ……俺は一体……」

先程言った台詞を、もう一度言う。
自分が目を覚ました時、自分の周囲は廃墟と化していた。
そこから想像するに、ここはシブヤ隕石の落下地点――所謂エリアXと呼ばれる場所だろうか?
だが、何故自分がエリアXに居るのかが解らない。
まさか、今までの出来事は全て夢だったのかとすら思えて来た。
だが、夢にしてはリアルすぎる。かといって、先ほど黒いライダーに受けた傷が体に見受けられないのは明らかに可笑しい。
とすると、やはりあれは夢だったのか? それともこっちが夢なのだろうか?
天道が周囲を見渡すと、自分のすぐ側に居た、一人の男が視界に入った。

「お前……」
「やっと起きたか、天道」

刹那、天道は表情をしかめた。
目の前にいるのは、仮面ライダーガタックとして、共に戦って来た男――加賀美 新。
何故こんなところに加賀美がいる? 何故こんなところに、こいつと二人きりでいなければならない?
あらゆる疑問が頭を駆け巡る。考えても考えても答えは出ないというのに。
やがて加賀美は、ゆっくりと天道の眼前まで近寄ると、地べたに座ったままの天道に手を差し延べた。

「ったく、いつまで寝てるんだよ。お前は」
「……加賀美、ここはどこだ。何故俺達はこんな所にいる」

加賀美の手を掴み、起き上がりると、天道は真っ先に質問した。
あの会場に集められ、デスゲームに参加させられた人達は。
みせしめとして殺されて、無惨にも命を散らした少女は。
俺に襲い掛かって来た黒いライダーは。
今抱いている疑問を加賀美にぶつける。
だが、加賀美は何も言わない。ただいつも通り、涼しい笑顔を浮かべるのみ。

「なぁ天道。お前、前に言ったよな」
「加賀美、質問に答え――」
「“アメンボから人類まで、地球上の全ての命を守る”って」
「…………」

天道には、何が何だかわからなかった。それ故に会話が止まる。
そもそも加賀美が何を言いたいのかがさっぱりわからない。
ただ加賀美は、天道の言葉を無視し、自分の言葉を続けるだけだ。
いつだって、加賀美は天道のペースに巻き込まれていた筈なのに、珍しく加賀美が話を続ける。
加賀美とこんなにも会話が噛み合わないのは、天道にとっても初めてだ。

「それなのに、お前はこんなところで何をしてるんだ?」
「……何だと?」
「誰かが助けを求めてるっていうのに、お前はこんな所でいつまでも寝てていいのか?」

そんなことは聞くまでも無い。
誰かが助けを求めているのならば、天道は直ぐにでも助けに行く。
それが天道のいう、“天の道”だからだ。
だが、天道は加賀美に言い返す事が出来い。
頭では解っていても、行動に移せなければ意味が無いのだ。
事実天道は、何をする事も出来なかった。
あの少女が殺された時も。
あの黒いライダーに襲われた時も。
救うことが出来なかった。戦うことも出来なかった。

「……お前はそんなに小さい奴だったのか?
 アメンボから人間まで、全ての命を守るって言葉は、嘘だったのか?」
「………………」
「俺は、お前がそんなでっかい奴だからこそ、お前を越えたいと思ったんだぞ?」
「………………」

天道は何も言わない。何も言えない。
ここまで言われても、何も言い返せない。
こんなことはやはり初めてだし、何よりも悔しかった。
ならば自分はどうすればいい?
答えはとっくに出ている筈だ。
天道がすることはとっくに決まっている筈だ。
自分は何がしたかった? 何を守りたかった?
そんな事を考えていると、天道の耳に、怒声が響いた。

「天の道を往き、総てを司るんじゃなかったのか! 天道ッ!!!」

言われた瞬間、ハッとした。
そうだ、天道が往くべき道はただ一つ。それが天道の歩む道。
加賀美はまさか、それを俺に気付かせるためにこんなことを言いに来たのか?
それは誰にもわからない。だが、天道には何故か、そんな気がした。
どちらにせよここまで言われて何も出来ないようでは、天の道を往く者として失格だろう。
気付いた時には、天道の表情には、いつもの不敵な笑みが浮かんでいた。

「全く……お前は面白い奴だ……!」
「天道……!」
「ああ、解ってる。俺は“天の道を往き、総てを司る男”だからな」

加賀美の表情にも、いつも通りの明るい笑顔が戻る。
加賀美と笑みを交わすと、天道はちらりと、天を見上げた。
太陽は今も空にギラギラと輝いている。
その光は、天道の心に、再び不屈の心を宿らせるのは十分だった。
だから天道は、自分のやるべき事を。これから自分がやることを高らかに宣言した。

「俺は全ての参加者を救い、ひよりも救ってやる!!」
「……ああ、それでこそ天道だ!」

天道の言葉を聞き届けた加賀美は、天道に踵を返し、歩き始めた。
何処へ行く気か。そんな野暮な事を聞く天道では無い。

加賀美と肩を並べて、天道も歩き始める。
大股で歩く二人の姿は、まさに戦場に赴く戦士の如く。
暫く真っ直ぐに歩いた二人は、やがて違う方向へと歩き始めた。
天道は右。加賀美は左。背中合わせに、歩いて行く。
その先に待っているのは。
二人の帰りをずっと待ち続けていたのは。
二人の“仮面ライダー”と、共に戦い続けて来た、二台のバイク。

天道の視線の先に待つのは、赤いバイク―――カブトエクステンダー。
加賀美の先に待つのは、青いバイク―――ガタックエクステンダー。

二人は同時にバイクに跨がる。
だが、どういう訳かカブトエクステンダーには鍵が刺さっていなかった。
自分のポケットを探る。だが鍵は見当たらない。
そうしていると、加賀美が天道の名を呼んだ。
天道が振り向くと同時に、加賀美が小さな鍵を天道に投げ渡した。

「忘れものだ、天道」
「……何故お前が鍵を持っている」
「さぁな? それより天道、お前はこれから何処へ向かうんだ」
「……そうだな。俺は俺の道を往く……お前は、お前だけの道を往け。」
「ああ、それでいいんだ。俺は俺のやり方で、俺の信じる道を進んで行く。
 だからお前はお前らしく、お前だけの道を……天の道を往けばいい。」

加賀美の言葉を聞いた天道の顔には、小さな笑顔が浮かんでいた。
しかしそれは天道だけでは無い。加賀美にとっても同じ事だ。
二人の表情は、まさに友達同士で笑い合っているかのような。
信頼という名の絆で、堅く結ばれた者同士の笑顔であった。

「……またな、加賀美」
「ああ、またな。天道」

その言葉を最後に、二人は走り出した。
“さよなら”では無く、“またな”と。
また、一緒に戦える時が来ると信じて、二人はそれぞれのバイクに跨り、それぞれの道を歩み出した。
加賀美はガタックエクステンダーに。
天道はカブトエクステンダーに。
バイクのエンジンを入れ、アクセルを吹かす。

二人の行く道は違う。されど、二人のたどり着く場所は同じだ。

――同じ道を往くのは、ただの仲間に過ぎない。
――別々の道を共に立って往けるのが、“友達”なんだ。

その言葉を胸に、天道は己の道を進む。
そう誓った時であった。
カブトエクステンダーに跨がった天道の意識が、段々と揺らぎ始めた。
また、あの時と同じ感覚。いや、それよりも、どこか眠くなるような感覚だろうか。
だが、天道はその感覚に抗いはしなかった。
ただ流れるままに、天道は目を閉じ―――やがて再び、天道の意識は失われた。




「ここは……?」

天道は目を覚ました。
今まで長い夢を見ていたような気がする。
まだ起きたばかりの頭は、夢の内容を完全には覚えていない。
だが、天道の意識が覚醒するに従って、段々とそれも思い出していった。

――そうか……俺は……ッ!?

夢の中での加賀美との会話を思い出した天道は、ゆっくりと起き上がる。
それに伴い、脇腹への激痛が天道を襲う。
それでも何とか起き上がると、自分の脇腹にぐるぐると巻かれた包帯から、見るだけで痛々しい鮮血が滲み出ていた。

――そうか……あの時のライダーにやられた傷か

納得すると同時に、自分のすぐ側でうろたえる少女が目に入った。
この包帯は彼女が巻いてくれたのだろうか?
措置はとても上手いとは言えないが、随分と身体が楽になった実感はある。
それだけ自分が長い間眠っていたということだろう。
それはさておき、まずは状況を把握したい。
故に天道はひとまず、少女に声を掛ける事にした。

「お前は……」
「あ、貴方が……ゼロ……!」
「……何だと?」
「どうして……どうしてお父さんを殺したの!?
 お父さんは、何も悪い事なんてして無かったのに!」

少女は、落ちていた刀を拾い上げ、自分へと突き付ける。
天道はただ、そんな少女を見詰めている事だけしか出来なかった。


ずっと眠っていたゼロが、ついに目を覚ました。
シャーリーは、すぐに落ちた爆砕牙を掴み、ゼロ――天道に突き付ける。
それは咄嗟に取った行動。だが、その行動にはなんの迷いも無い。
シャーリーが聞きたい事はただ一つだ。

「どうして……どうしてお父さんを殺したの!?
 お父さんは、何も悪い事なんてして無かったのに!」

ゼロへの憤りを、目の前の男へとぶつける。
自然と目に涙が滲むのが、自分にも解った。
だが、天道は何も言わないままに、沈黙が流れる。
天道は口を開く様子が無いし、ただ自分を睨んでいるだけ。
やがて、痺れを切らしたシャーリーは、爆砕牙を突き付けたまま、怒鳴った。

「ねぇ、何とか言ってよ……ゼロッ!」
「何の話をしているのかは知らないが、俺はお前の父親を殺した覚えは無い。人違いだ」
「嘘ッ! じゃあ、これは何なの?」

よくも抜け抜けとそんな事が言える。
彼がゼロだと言うのは、彼のかばんの中身が物語っているというのに。
どうしてもとぼけるというのなら、その証拠を突きつけてやるまで。
シャーリーは、天道の傍らに落ちていたデイバッグを引っ張り出した。
中に入っている物は言うまでもない。
彼がゼロである証拠――ゼロの仮面。

「これは俺の物じゃない。あの女が勝手に―――」
「誰がそんなことを信じるっていうのよ!?」

だが、それを見ても天道は動じない。
それどころか、冷静にいい返してくる。
天道が言葉を言い終えるのを待つ事無く、シャーリーが再び怒声を響かせた。
シャーリーの声は、恐らく温泉施設の外にまで響いたであろう。
静かなこの空間で大声で叫べば、そうなる事は簡単に想像がつく。
だが、そんなことはどうでもいい。
今のシャーリーには、最早殺し合いなどどうでもいいのだ。
今目の前に、ゼロがいる。今こうしてゼロと対峙している。
ゼロはお父さんを殺した。ならば何故殺したのか。
それだけがシャーリーの思考を完全に支配していた。

「あの時言ったのは、武器を持たない全ての物の味方だっていうのは、嘘だったの!?」
「………………」
「強い者が、弱い者を襲うことは断じて赦さないって、嘘だったの!?」
「……ああ、そうだ」
「―――なッ!?」

あっさりと嘘だと言ってのける。
だが、天道はシャーリーの質問に答えた。
それはつまり、自分がゼロだと言っているような物だった。
だが、シャーリーの返事を待つことなく、天道は続ける。

「おばあちゃんが言っていた。“強きを助け、弱きをくじけ”ってな。強い者が、生き残れるんだ」
「だから、お父さんを殺したの!? やっぱりゼロは、正義の味方なんかじゃない、ただのテロリストだったの!?」
「何度も言わせるな。俺はそのゼロって奴じゃない。人違いだ」

この期に及んで、まだ惚ける。
そんな天道に、シャーリーは余計に腹が立った。
刀を構え、天道を見据える。
強き者が生き残るというのなら、今自分がゼロを倒せば?
それならばゼロには文句は言えない筈だ。ゼロも同じ事をやったのだ。
父の仇を討つ為に、シャーリーは爆砕牙を握り締める。
この手で人を殺せる自信はシャーリーには無い。恐らくは殺す勇気も無い。
だが、それでも、シャーリーはこの憤りをぶつける為に、爆砕牙を握った。

――その時であった。

どん、と。今自分達が居る個室の襖が蹴破られた。
入口から堂々と現れたのは、一人の男と、一人の女の子。
シャーリーと天道の視線は入口に集中する。
二人が口論を続けるこの部屋に入って来たのは――
浅倉威と、高町ヴィヴィオの二人組であった。




「貴様……浅倉威か」
「ハハッ、俺を知ってるのか!」

天道の言葉に、浅倉が嬉しそうに笑う。
ただでさえ自分にとって有利な状況とは言えない中で、この二人が介入してくる事は、天道にとっては非常に拙いことだ。
まず天道の知る浅倉という人物は、まず間違いなくこのデスゲームに乗るだろう。
元々イライラしたからという理由で連続殺人を犯す様な人間だ。そんな事は簡単に想像がついた。
といっても、天道の知る浅倉と、今天道の目の前に立つ浅倉は厳密には別の世界の人間―――つまりは“別人”なのだが。
実際には、どちらの世界でも浅倉がして来た事に変わりはない。
故に、この状況は非常にまずい。
自分は脇腹に傷を追い、シャーリーはとてもマスクドライダーシステムを持った男と戦えるような人種ではない。
浅倉にぴったりくっついている少女については――保留だ。
ぴったりと浅倉にくっついている事からも、どうやら浅倉に懐いているらしい。
浅倉にしても、こんな女の子一人、殺そうと思えばいつでも殺せたはずだ。
それなのにここまで懐かれるまで一緒にいたという事は、恐らくは手を出すつもりは無いのだろう。
ならばこの少女については大丈夫だ。
どうする。シャーリーだけでも連れ出して逃げるか?
天道がそんな事を考えていた時だった。
浅倉が不敵な笑みを零しながら、天道とシャーリーの間に立った。

「何でもいい。どっちが俺と戦うんだ? それとも二人纏めてか?」
「……残念だったな。俺達はお前と戦ってやる程お人よしでも、暇人でもない」

言うが早いか、天道は、すぐに爆砕牙の鞘と、自分のデイバッグを回収。
天道が出した結論は、この場からの逃亡。
逃げるのはあまり好きではないが、この場合では仕方がない。
戦術的な勝利などはいくらでもくれてやる。天道が求めているのは、戦略的な勝利なのだ。
シャーリーの腕を掴むと、真っ先に部屋の入口へと向かって走り出した。

天道とシャーリーは、浅倉が蹴破った襖から飛び出し、ひたすらに廊下を走る。
だが、天道の意思とは裏腹に、脇腹の痛みが足枷となり、その歩みを遅らせる。
そもそもこれだけの傷を負いながらこれだけ動けるだけでも大したものだ。
しかし、このままで戦って浅倉に勝てる確率は無いに等しい。
それくらいの事は、天道にも解っていた。
それ故に、天道はこの温泉から一先ず脱出する為に、シャーリーと共に出口を目指す。
だが、二人が一緒に海鳴温泉を出ることはなかった。

「ちょっと……離してよ!」
「奴は連続殺人犯だ。逃げなければ殺されるぞ!」

途中でシャーリーが、天道の腕を振り払ったのだ。
天道もすぐに、浅倉の危険性をシャーリーに伝える。
だが、天道が――ゼロがどれだけ叫ぼうが、その声がシャーリーの心に届く筈もなく。

「それなら私は一人で逃れる! ゼロと一緒は嫌!!」
「……そうか。わかった」

シャーリーの言葉に、天道は奥歯を噛み締めながらも頷いた。
翌々考えれば、天道は既に脇腹に大きなダメージを受けている。
だが、天道とは対照的にシャーリーは依然無傷だ。
既に手負いの天道と、無傷のシャーリーならば、行動範囲が随分と変わって来る。
シャーリーが一人で逃げられるというのなら、天道は居ない方がかえって良いのかも知れない。
本当なら見捨てたくはないが、お互いが助かるためには仕方がないと、天道は踵を返した。
同時に天道の足元に、一振りの刀が投げられた。
一瞬立ち止まって、刀を拾い上げる。

「この刀は……」
「それは元々貴方のだし……それに、そんな重いもの持ってたら走れないから」
「……わかった。」

天道は爆砕牙を鞘に納めると、それを杖代わりに、再び歩き出した。
どういう訳か、浅倉が追い掛けて来ない。
浅倉にも何らかの思惑があるのだろうが、今はそれを考えている場合では無い。
追いかけてこないというのならば、天道はその隙にここから離れるだけだ。
天道は、残った体力を振り絞って、ひたすらに進み続けた。


やがて天道は、温泉を出てすぐの場所に設置された、温泉客用の小さな駐車場に姿を隠した。
この駐車場には車が数台停められている。
それはつまり、敵から身を隠す物陰にもなり得るということ。
天道は一台の車の陰に隠れ、周囲を見渡した。
まだ浅倉の姿は見えない。どうやらまだ温泉施設の中にいるのだろう。

きっとどこかに隠れたであろうシャーリーを追いかけるか。
それとも手負いの自分を追いかけるか。
恐らくは後者だろう。
天道は、浅倉が来る前にデイバッグの中身をもう一度チェックする。
先ほど黒いライダーに襲われた時にも一度チェックはしたが、ひとつ気になる支給品があったからだ。

――これは恐らくあの女が俺達参加者に与えた道具だろう。ならば……

天道からはカブトゼクターも、ハイパーゼクターも、パーフェクトゼクターも没収されたのだ。
それに代わるだけの道具が入っていて貰わなければ困る。
刀はいいとして、こんな仮面は使い道が分からない。ならば最後の支給品に期待するだけだ。
天道はデイバッグの中に入っていた小さな封筒を取り出すと、中に入っていた紙を読み始めた。

空は随分と白みを帯びており、もうすぐ朝が来るであろう事は、明白だった。
昇り始めた太陽のおかげで、紙に書かれた図を読むのに、それほど苦労はしなかった。
紙に書かれていたのは、単なる地図。ただし、自分が今いる温泉の場所に、×印が付けられていた。
それだけではまるで意味が解らない。×印の意味を調べるべく、天道は封筒の中身を漁る。
そうして出て来たのは、一つの小さな鍵だった。

「なるほど。そういう事か」

天道は、小さく、されど不敵に微笑んだ。
天道の掌の中で、薄い太陽の光りを反射して輝く鍵は、天道にとっては見慣れた物であった。

「……感謝するぞ、加賀美……。」

言いながら、天道は立ち上がり、歩き始めた。
先程見た夢の中に出て来た加賀美は、俺に鍵を渡してくれた。
あの夢が何だったのかは分からない。
もしかしたら偶然かも知れないし、もしかしたら何か別の理由があるのかもしれない。
だが、この場所に加賀美は居ない。
ここに呼び出されたライダーは、恐らくは自分と矢車・浅倉。そしてあの黒いライダーのみだろう。
となれば、元いた世界から、それだけの戦力が居なくなったことになる。
加賀美はきっと、今も自分たちが居なくなった世界で、戦い続けている筈だ。
人々を襲う異形から、人々を守る戦士――仮面ライダーとして。
ならば、自分も戦い抜かなければならない。

「俺も戦う……天の道を往く者として。仮面ライダーとして」

天道は、昇る朝日を睨み、ぽつりと呟いた。
それは今も仮面ライダーとして戦い続けているであろう友への誓い。
手に持った鍵を、目の前の赤きバイク――カブトエクステンダーへと差し込む。
天道が跨がると同時に、カブトエクステンダーはライトを点灯させ、アクセルを吹かせる。
それはまるで、主の帰還に喜んでいるかのように見えた。



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