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孤独の王 ◆RsQVcxRr96




太陽が昇り始めた頃、D-5を中心に放送が響き渡る。
これがプレシアの言っていた「放送」というものだろうか――否、違う。
それは唯一人の参加者による挑戦状だった。
『不死の王』――『ノスフェラトゥ』という称号が似つかわしいヘルシング機関の鬼札であるアーカード。
この会場で最強の一角と目される化け物による私的な演説だ。
それは闘争の儀への誘い。
最凶の吸血鬼は己に闘争を挑む参加者が現れる事を切望していた。
これはその願いという名の渇きを癒すための狂気の叫びだ。
そして、その放送を聞きつけて幾人かの参加者が『悪魔も泣きだす』不死の怪物が待つ館へと向かっていた。
北方からは黒き片翼の天使と幼き夜天の主。
同じく北方より神罰の地上代行者、ソルジャー・クラス1st、そして人間台風。

そして目を南に転じて見ればこちらにもアーカードの放送を聞きつけて北へ向かう参加者がいた。
孤独な王――『プラント自立種』ミリオンズ・ナイブズ。
ナイブズがその放送を聞いたのはついさっきの事だった。
惰弱な人間の逃がすために足止めを仕掛けてきたディエチに引導をくれようかという時だった。
結果、ディエチを死に至らしめた後にナイブズは放送の主・アーカードの元へ向かうべく北を目指していた。
奇しくもナイブズにとって北からアーカードの元へ向かっている人間台風とは兄弟の間柄だった。
もちろん神ならぬナイブズは人間台風――ヴァッシュ・ザ・スタンピードが同じ場所へ向かっているなど知る由もなかった。

実のところナイブズの状態は万全ではない。
度重なる戦闘の負傷は身体の至る所に刻まれている。
特に目を引くのは唯一身体に欠けている部分――右手だ。
だが、ナイブズは止まらない。
足の裏に感じる硬質なアスファルトの感触も、肌を切る冷たい朝の風も、ナイブズの足を止めるものにはなり得ない。
その内に秘めたる目的を果たし終えるまでナイブズが足を止める事はない。
ナイブズが行う事は元々いた世界でも転移した世界でもここでも変わらない。
虫螻同然の人間を殺す事のみ。
孤独な王の望みはただそれだけ。
ナイブズもまたここでは最強の一角に名を連ねる者の一人だ。
そして自身もそれを自負していた。
なにより今までの人生の中でプラントが人間に劣るなど一度たりとも思ってもいなかった。

だが、ここにきてナイブズの心境に微妙な変化が出てきた。
きっかけは二人の参加者。
銀髪の大妖怪・殺生丸、そして戦闘機人No.10・ディエチ。
二人とも人間ではないとはいえ、あろうことかプラント自立種である自分に傷を付けた。
殺生丸には右腕を潰され、ディエチにはその右腕を消された。
それに付け加えて殺生丸には後一歩のところまで追い詰められた。
一時は言葉に出来ない程の屈辱と衝撃を受けた。
しかし、ナイブズはそこから学んだ。

――ここは慢心したまま生き残れるほど生易しい所ではない。

地球には「獅子搏兎(獅子は兎を狩る時でも全力を尽くす)」という言葉がある。
以前の自分には必要もなかった言葉、全く関係のない言葉だと思っていた。
だが今は違う。
あらゆる油断と慢心を捨て去り、常に最適な方法で虫螻である人間を屠る。
それが今ここでナイブズが行うべき事。

そしてナイブズは一路北西へ、アーカードの元へ向かう。
当然さらなる闘争の中で人間を滅ぼすためだ。
アーカードの声の聞こえ具合から推測すると北西の方角それもG-5のエリアが濃厚だろう。
そしてそこには一つの施設がある。
『Devil May Cry』
おそらくアーカードはここにいる。
目印は分かり易ければ分かり易い方がいいからだ。
地図を見れば病院とアーカードがいると思しき場所までは川で隔てられている。
少し前に一度川の上を越えてはいるが、その時は気絶していてどのようなものか見ていない。
しかしナイブズにとってそれは問題になり得ない。
飛行魔法。
守護騎士達の教導により取得できた唯一の魔法。
まさか付け焼刃の魔法がこんな所で役に立つとはナイブズは思ってもみなかった。

「プレシアの言っていた放送までには、まだ間があるか」

デイパックから取り出した時計に刻まれた時刻は最初の放送が行われる午前6時まで後15分程残っている事を知らせてくれる。
このままの速度で進んでいけば川の手前辺りで放送が聞ける頃だろうか。
死者の名前は一応確認程度ぐらいに聞くとして、無視できないのは禁止エリアの存在だ。
プレシアが殺し合いを望むなら禁止エリアに入ったとしてもすぐに首輪を爆破される可能性は低いと思える。
だが、無視するにはあまりにリスクが大きい存在だ。
おそらく首輪の爆破は如何なる参加者をも死に追いやる代物だろう。
そうでなくては首輪の意味がない。
自分とて例外ではないに違いない。
力の制限と爆破機能付きの首輪――これが全ての参加者を縛る枷だ。

「気に喰わないな」

魔導師、されどたかが人間如きにプラント自立種である自分が束縛されているかと思うと、否応なしに沸々と怒りが湧き上がってくる。
自身の尊厳が汚されている事を改めて認識すると、ナイブズの中でプレシアへの怒りが高まった。

(……プレシア。今はお前の思い通かもしれないが、いずれは――)

不意に全身が射すくめられたかのような気配がした。
それはナイブズに向けられる殺気だった。
もうすぐ行われる放送そして主催者プレシアへの怒りで若干反応が遅れたが、こちらに攻撃が来るまでに気づく事ができた。
では襲撃者をどうするか。
答えは決まっている――当然迎撃だ。

「……フッ……愚昧な輩め。俺に何度も同じ手を使――」

ナイブズが思い起こしたのは少し前に自分に奇襲を仕掛けてきたキース・レッドの存在。
今もどこかで参加者を殺して回っているのだろうか。
だがそんな事は別にどうでもいいと思い直すと、頭を切り替える。
愚かな人間に自分へ牙を向けた報いを与えるべくナイブズは殺気を感じた方向を見上げた。

「っ」

ナイブズの目に飛び込んできたのは光だった。
激しく輝く山吹色の光が一瞬ナイブズの目を眩ませた。
ナイブズにとっては予想外だった。
確かに太陽は昇っているが、自分が見上げた方角は北だ。
太陽の光が目に入るとは思えない上に、何よりこれほどの光なら殺気を感じる前に気付くはずだ。
その時のナイブズには刹那の空隙が存在していた。
だからこそ次の行動を取るまでに僅か遅れが生じてしまった。

  • ――惑星は南を下とする。

その瞬間、文字通り世界は覆った。

「――ッ!!」

それは山吹色の光に輪をかけて予想外の出来事だった。
ナイブズの脳に声が響く。
響いてくる声は聞き覚えのある自らの声だ。
その声が告げるのは一つの事象。
『惑星は南を下とする』
その言葉通りだった。
一瞬でナイブズの今までの重力に関する概念は変貌した。
それが完全に理解できない内にナイブズにとっての地面は壁となり、後ろ――つまりは南――に身体が引かれだす。
まるで前触れなしに空中に身体が放り投げられたような感じだった。

そして次に来たのが――

「――ァガッ!!」

――衝撃だった。
山吹色の光が知覚速度を越えてナイブズの身体に深々と突き刺さった。
光が見えてからここまで刹那――一瞬の出来事だった。

「――ゴォ!!」

しかしそれは終わりではなかった。
突き刺さった物体は尚もナイブズの身体を抉っていき、ナイブズと共に下――つまり後ろ――即ち南――へ落ちていく。
途中にあった建物は全て貫通していき、そのたびに塀や壁が崩れていく。
ナイブズは背中から建物を破壊する衝撃を、腹からは抉られていく衝撃を、それぞれ薄れゆく意識の下で感じていた。
だがそれも一瞬の衝撃だった。

一際大きく響き渡るコンクリートを砕く音――ナイブズの身体は何かの柱に当たる事でようやく止まった。
突撃物を中心に肉片が飛び散る音――薄らいでいたナイブズの意識はそれによって無理やり覚醒させられる。
衝突の衝撃で震えていた建物の揺れが収まっていく。
終着点は病院だった。

「……ッ……ァ」

ナイブズはこの時ようやく己の身体を突き刺している物体が何か目にした。
それは槍だった。
槍はあの山吹色の光を溢れんばかりに輝かせていた。
そしてナイブズは槍を持つ人物に目を向けた。

「……ヴァッ、シュ」

山吹色の逆光で見え辛かったが、朧気ながらナイブズの目には見慣れたものが飛び込んできた。
赤いコート、金髪、そして銃口。
その姿はナイブズに一人の人物を想像させた。
『人間台風』『プラント自立種』――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。

「違うな」

だがそれはヴァッシュではなかった。
その声が冷酷にヴァッシュである事を否定する。

「キース・レッドだ」

やや興奮した声と共に乾いた4発の銃声が無人の病院に轟いた。
その1発毎にナイブズの身体が痙攣する。
最期の4発目の銃弾が放たれた時、ナイブズの意識はそこで途絶えた。


     ▼     ▼     ▼


病院から東へ伸びる大通り。
その大通りの周りには極々普通の市街地が形成されている。
様々な形をした家々が街の景観を損なわない程度に配列されている。
唯一つ不気味なのは人気が全く無い事。
それだけが不気味だった。
そんな市街地の一角、病院からそう遠くない民家の一つにキース・レッドはいた。
緑が映える軍服を着こなすキース・レッドの表情はどこか曇っていた。
その原因は自身の両腕――今はそこにはあるべきものがない。
キース・レッドの両腕は少し前にナイブズに斬り落とされていた。
それは敗北という名の屈辱だった。
怪我人だけだと思い込み、奇襲を掛けた結果がこのざまだ。
さらには自分が殺し合いに乗っていると知ると「殺し回ってくれた方が早く人が減って助かる」という理由で見逃された。

――つまり自分は完全に見下された。

キース・レッドにはそれが許せなかった。
それは自身のプライドを踏みにじる屈辱そのものだった。
だからキース・レッドは誓った――ミリオンズ・ナイブズを必ず殺すと。
キース・レッドの最終目的はこの地にいるキース・シルバーを戦い勝利して、己の力がシルバーを上回ると証明する事だ。
だからこのような所で躓いている訳にはいかないのだ。
シルバーに至るまでの障害は全て排除する。
ナイブズもその一つだ。
障害物一つに足止めを食らうようではシルバーには届かない。

「ナイブズ、覚悟しておけ。私を見下した代償は高く付くぞ」

キース・レッドは薄暗い部屋の中で改めてナイブズへの復讐を誓うのだった。
だがナイブズは強い。
おそらくはシルバーと同等だと思われる。
正面から戦うには時期尚早。
ならばこそ武装を整え、最高の機会で討つ。
できる事なら正面から戦ってみたかったが、シルバー以外は全てキース・レッドにとってはただの障害だ。
障害はどんな手を使っても取り除く。
そんな決意をした時だった。

「……ん?」

ここからそう遠くない場所、病院の方角から何やら轟音が聞こえてきた。
銃声とは違うその音は明らかに爆破音の類だった。

「なるほど。そういう事か」

キース・レッドは考えた。
病院から爆破音そして今銃声が聞こえた。
誰かが病院で戦っているのは明白だ。
では誰が?
確かな事は一方はあのナイブズであろうという事だ。
自分が病院を離れてから目の前の大通りを通った者は一人もいない。
つまりナイブズは病院に潜んでいた何者か、もしくは空から飛んで来た何者かと交戦している可能性が高い。
これは良い機会だ。

「待っていろ、ナイブズ!」

キース・レッドはそれまでいた民家を後にすると、ナイブズを求めて病院へと戻って行った。
その両腕はいつのまにか元通りになっていた。


     ▼     ▼     ▼


キース・レッドは以前自分の支給品は外れだと言った事がある。
そう言った相手は神崎優衣で、それは神崎を油断させるための方便であった。
だが、あながちそうとも言い切れない。
キース・レッドはここへ来た直後に支給品の確認を済ませていたが、支給された3つの物品は当たり1つと外れ2つだった。

まずは外れに値するのが板とコートだった。

板は「板型概念展開装置」という物だった。
「―――惑星は南を下とする。」という概念を展開するための道具らしいが、聞き覚えのない言葉が多く完全には理解できなかった。
一応その説明書を読んでみたが、要約するとこれを使用すれば南が下になるらしい。
言い換えれば重力の向きを横向きにする装置という事だが、戦闘中に使うとなると使いどころが微妙だ。
効果範囲はこの装置から半径100m、さらに出入り自由と設定されている。
戦闘中に使うにしても相手の動揺は誘えるが、自分にも適応されるとなれば話は別だ。
こちらとしても重力が変化しては戦いづらい。

もう一つ、コートはヴァッシュ・ザ・スタンピードという者の真っ赤なコートだった。
傷の付き具合から随分と使い込まれている事が一目で分かった。
名簿にヴァッシュの名前があったが、おそらくはその者の私物なのだろう。
そしてコートの使い込み具合、さらには耐久性に優れて耐魔加工が施されているという但し書き。
それだけでヴァッシュという者が歴戦を潜り抜けてきた強者だという事が想像される。
ただかなり防御力に期待できる代物だが、自分には宝の持ち腐れだ。
キース・レッドの得意とする戦闘は接近戦。
はっきり言ってコートを着ていては動きに支障が出る。
他の物ならともかくキース・レッドにとってコートは戦闘には向かない物だった。

ここまでなら外ればかりで落胆したが、最後に出てきた支給品は当たりに値するものだった。

最後の支給品、それは核鉄「サンライトハート改」だった。
とある世界で密かに研究が進められていた錬金術。
その成果である「核鉄」、その一つが突撃槍(ランス)の武装錬金「サンライトハート改」だった。
外見は片手に乗る程の大きさの六角形だが、付属の紙によれば所有者の闘争本能に呼応して展開して武器の形になるようだった。
サンライトハート『改』という事はサンライトハートの改良版という事だが、どの辺りが『改』なのかは分からなかった。
だがキース・レッドが興味を示したのはその次の説明だった。
それによれば核鉄は所有者の身体能力を強化する事ができるらしい。
試しに身に付けてみれば腕の再生が付ける前に比べて格段に進行した。
普通の人間より丈夫だとはいえARMSの力はここでは幾らか制限が加えられている。
だからこのような道具は非常にありがたかった。

当初キース・レッドはこのような道具に頼らなくてもARMSの力だけで切り抜ける気であった。
その結果が先の敗北だ。
その時点でキース・レッドは気付いた。
己の力を過信していては生き残れないと。
あの時ナイブズが自分を見逃したのはナイブズの都合に依る所が大きかった。
つまり一歩間違えばあの時点で自分は死んでいた事になる。
だからもう油断などしない。
あらゆる手段を以て敵を排除する。
そのためには使える物は全て使うべきだ。
そう考えた結果、キース・レッドはあの策に辿り着いた。
既にこの時、病院の方からは音は聞こえなくなっていた。
そこから推測される事は戦闘の終息。
あの強さだ、おそらく勝利したのはナイブズの方だろう。
それなら好都合だ。
あの時の借りを返す時だ。
ナイブズは北西の方へ向かうとキース・レッドは推測した。
理由は移動中に聞こえてきた一人の参加者による挑発という名の放送だ。
少しの邂逅だったが、ナイブズがあの放送を無視するとは思えない。
そこへ向かい、さらなる闘争を引き起こそうとする可能性は高い。
だから自分はその途上で待ち受ける。
ナイブズがここへ来た時、それがナイブズの最期だ。

そして予想は当たり、キース・レッドは策を実行に移した。

初手はサンライトハート改を展開しての目晦まし、そして加速。
この武装錬金は展開した際に山吹色の光を放つ事が可能であり、これでナイブズに一瞬の隙を作る。
そしてサンライトハート改は只の槍ではなく、闘争本能に呼応して推進力を生み出すという特性がある。
高所からの落下による重力加速も加えてキース・レッドは爆発的な突撃速度は得る事になった。

次手として板型概念展開装置の発動による重力の向きの変更。
単に上空からの奇襲ではナイブズなら防ぐ可能性が高い。
そこで更にナイブズの動揺を作り、更なる隙を作る。
「―――惑星は南を下とする。」という概念が展開されれば周囲の南は下になる。
地面がいきなり下でなくなるという事態などいくらナイブズでも予想できない。
そこに付け入る隙ができる。

普段のナイブズならこの時点で状況を把握してすぐさま南に変更された重力に従う事もできたのかもしれなかった。
しかし今のナイブズにそれを要求するのは不可能だった。

原因は右腕の喪失だ。
今から約6時間前、ナイブズの身体は万全な状態だった。
それから数時間後、ナイブズの右腕は殺生丸との戦闘で壊死した。
そしてさらに数時間後つまりついさっきナイブズの右手はディエチによって消滅させられた。
右腕そのものは既に壊死していたのでそれほど損失とは考えなかったが、実は思わぬ問題があった。
プラント自立種のナイブズは『人間』ではないが『人型』ではある。
それはつまり二本の足で地面に立っているという事である。
当然そこには地面に向かって重心というものが存在する。
重力のある場所にいる以上その制約からは逃れる事は出来ない。
そんな事ができるのは重力に関して特殊な力を持つ者だけだが、ナイブズにそのような力はない。
今までは壊死したが右腕は付いていた。
人は身体全体でバランス延いては重心を取っている。
だが右腕の喪失によりナイブズの重心は大きく崩れる事となった。
まだ歩く事ぐらいならナイブズの実力でも可能だったが、咄嗟の行動となると齟齬が生じるのは明白だった。
しかも僅か数分前からの喪失では新たな重心への適応が間に合うはずなかった。

様々な要因が重なってできたナイブズは一瞬のすきを作る事となった。

重力とサンライトハート改の特性で加速して得た推進力を強引に方向修正かけながらその力の向きを南へ向ける。
今までの推進力に加えて新たに下へ向かう力がプラスされたサンライトハート改の威力は計り知れないものだ。
その道を阻む物は全て突き破り、そして後に残るのは残骸のみ。

これだけの行動に掛かった時間は10秒もなかった。
この時念のためキース・レッドはヴァッシュのコートを羽織っていた。
さすがにARMSをその身に宿すキース・レッドでも何の装備もなしにこの破壊の嵐を犯すのは無謀だからだ。
コートが無ければナイブズまでとはいかないが、その身を削り取られる事は必定だ。

全ての準備を整え持てる力を総動員した結果、キース・レッドはナイブズに勝利した。


     ▼     ▼     ▼


コツコツと階段を上る音が半壊した病院に虚しく響く。
音の発生源であるキース・レッドが目指す場所は初めてナイブズと会った4階の病室だ。
階段を上りきると右に歩を進めて、すぐに件の病室は見つかった。
一度来た事ある場所だった事に加えて、扉が無い病室の入り口が否応なしにその存在を主張していた。
そこに辿り着くとキース・レッドはある探し物を見つけるために病室を見渡した。
程なく目的の物は見つかった。
それはここに放置されていた高町なのはとカレン・シュタットフェルトのデイパックだった。

キース・レッドはナイブズを止めとしてジャッカルを撃ち放つと、血塗れの身体を横目にデイパックを回収した。
だがそこに入っていたのは共通の支給品と首輪のみ。
そこに『ベガルタ』と『ガ・ボウ』の姿はなかった。
しかしそこでキース・レッドはある事に気付いた。

「中身が少ないな」

確かあの部屋には赤髪の女が一人いて、ナイブズに殺されている。
そいつの荷物分がナイブズのデイパックには見当たらなかった。
自分が戻ってくるまでに使いきった可能性もあったが、もしかしたらと思い病室に来てみれば案の定手付かずのデイパックがあった。
しかも何があったかは知らないが、首と胴が別れた少女の死体とその少女のものと思しきデイパックが増えていた。
よく見ると少女の方は病院へ二人を背負って飛んできた魔導師だった。
首輪が無い所を見るとナイブズのデイパックに入っていた首輪はこの少女のものらしい。
キース・レッドは新たに2つのデイパックを手に入れられた事を喜んだ。
これで『ベガルタ』か『ガ・ボウ』があれば尚いいのだが、それはここを出てからにした方が良さそうだ。

先の突撃やその前の戦闘の余波でこの病院はだいぶ被害が出ている。
所々で爆発痕が見られ、その中でも先程キース・レッド達が突っ込んで来た際にできた破壊が目立つ。
北側の壁は半分崩壊して、1階北フロアは瓦礫の山と言っても過言ではない状況だ。
下手に長居をすれば倒壊に巻き込まれる可能性がある。

「さて行くか。いろいろ手に入ったのは僥倖か」

キース・レッドは手に入った物をまとめると、病室を抜け出し階段へと向かった。
階段を若干急ぎ気味で降りると出口に向かって行こうとするが、そこであるはずのものが無い事に気付いた。

「……ナイブズッ!」

柱にサンライトハート越しに突き刺して、さらに頭に2発と胸に2発の計4発のコロラド撃ちで仕留めたはずだ。
必殺を期すに値すると言われたコロラド撃ちを受けて、それに確かに血が噴き出るところまで見ている。
あれで生きているなど到底思えない。

「――ッ!!」

キース・レッドの疑問は程なく解けた。
探していたナイブズは階段のすぐそば――つまり柱に近づいたキース・レッドの背後に立っていた。
振り向いた時には既にナイブズは唯一残っている左手をこちらに向けていた。
その腕はまるで天使のような雰囲気をキース・レッドに与えた。

(あれはオレの腕を消した時の――ッ)

エンジェルアーム。
ここに集う参加者の中でも最強とも言うべき威力を秘めた切り札。
その切り札が今キース・レッドに向けられていた。

(くそ、間に合え!!)

キース・レッドは今自分が置かれている状況をすぐに把握した。
接近して対処するだけの時間はない。
そして自らの死を回避するためにジャッカルの残り2発をすぐさま撃ち放った。

今度の銃声は2つだった。


     ▼     ▼     ▼


俺はなぜここにいるのだろう。
俺にはやらなければいけない事があったはずだ。
それは俺達を虐げている者への断罪。
そうだ。
人間など滅ぶべきだ。
自分達の繁栄のためにプラントを搾取していく存在。
そんな虫螻に生きている価値など無い。

さっきは危なかった。
腹の傷は深いが、動けない事はない。
4発の銃弾は咄嗟に張ったシールドで防いだ。
何とはなしに胸ポケットに入れていたデバイスが役に立つとは思ってもみなかった。
だが急な事で防げる限界ギリギリの小さなものしか張れなかった上に、直撃を防いだだけだった。
それでもこうして生きている。

今、目の前に襲撃してきた張本人がいる。
目が霞んでよく見えないが、エンジェルアームの狙いぐらいは付けられる。
人間にしては良くやった方だが、これで終わりだ。

だが、ここに来てから人間に傷を負わされてばかりだ。
油断や慢心が残っていた結果がこの有り様。
では、これを機に改めて一切の油断と慢心を捨て去る事を決意しよう。

そしてヴァッシュ。
いずれ貴様にも分かる時が来るだろう。
人間が如何に愚昧の輩であるという事が。
今に教えてやる。
だから――

――待っていろ、ヴァッシュ。


     ▼     ▼     ▼


キース・レッドは病院を後ろにして歩きながら複雑な気持ちだった。
既に回復した両腕は銃弾の補充という作業に勤しんでいた。
だが持っている銃はジャッカルの黒ではなく銀の色だ。
それは病院を出る前に拾った.454カスール カスタムオートマチックだった。
最初は弾切れしていたので捨てて置こうかと思った。
だが偶然にもジャッカルと口径が一致していたので、試しに予備弾を宛がってみれば上手く装填できた。
そこで予備弾12発をジャッカルとカスールに装填する作業に入ったのだ。

しかしそれでも考えるのはナイブズの事だ。
自分が放った2発の銃弾は今度こそナイブズの命を奪い取った。
先程はナイブズを救ったデュランダルも最初の攻防で既に無理な行いで限界を超えた上に胸への銃弾はそれを直撃していた。
だがエンジェルアームの方がこちらより若干狙いを付けるのが早かったとキース・レッドは思った。
それなのにこちらの銃弾はエンジェルアームが発動する前に届いた。
その理由は終ぞ分からなかった。

「……感謝する。お前のおかげで私は学んだ。これを糧にさせてもらうぞ」

キース・レッドはナイブズと相対する事でいくつかの事を学んだ。
最高の機を以て使える手段は全て使って事に当たる。
キース・レッドもある意味ナイブズと同類だった。
プラント自立種とARMSという違いはあれど、どちらも自分の力を自負していた。
だが今こうしてキース・レッドは生を迎え、ナイブズは死を迎えている。
その違いはどこから来るものであろうか。
それは今独りの彼には分からなかった。


【1日目 早朝(放送直前)】
【現在地 H-6】
【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】疲労(小)、両腕に若干の痺れ
【装備】対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(6/6)@NANOSING、.454カスール カスタムオートマチック(6/6)@NANOSING、核鉄「サンライトハート改」(待機状態)@なのは×錬金
【道具】支給品一式×5、ジャッカルの予備弾(18発)@NANOSING、レリック(刻印ナンバーⅦ)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(神崎優衣、高町なのは(A’s))、ヴァッシュのコート@リリカルTRIGUNA's、S2U@リリカルTRIGUNA's、ランダム支給品0~4(元なのは(A’s):0~2、元カレン:0~2)
【思考】
 基本:キース・シルバー(アレックス)と戦い、自分の方が高みにある事を証明する。
 1.シルバー(アレックス)及び『ベガルタ』『ガ・ボウ』の捜索。
 2.1を邪魔するものは容赦なく殲滅する。
 3.できるだけ早く首輪を外したい。
 4.とりあえずどこかで落ち着きたい。
【備考】
 ※第六話Aパート終了後からの参戦です。
 ※キース・シルバーとは「アレックス@ARMSクロス『シルバー』」の事だが、シルバーがアレックスという名前だとは知りません。
 ※神崎優衣の出身世界(仮面ライダーリリカル龍騎)について大まかな説明を聞きました。
 ※自身に掛けられた制限について把握しました。


     ▼     ▼     ▼


ミリオンズ・ナイブズは孤独の王だった。
一人でずっと続けた幾度かの戦闘。
それによる疲れや傷がエンジェルアームの発射を妨げていた。
孤独ゆえに誰とも交わらない孤高の王。
だからその意思を推し量るなど常人にはできない事だった。
最期にナイブズが何を思ったか。
それはナイブズ本人しか分からない事だ。

【ミリオンズ・ナイブズ@リリカルTRIGUNA's  死亡確認】

※ナイブズの胸ポケットにデュランダル(損傷大、機能停止)@魔法少女リリカルなのはA'sが入っています。
※ナイブズ・なのは(A’s)・カレンのデイパック、S2U@リリカルTRIGUNA's、.454カスール カスタムオートマチック(0/6)@NANOSINGはキース・レッドが回収しました。
※病院は半壊状態です(特に北側エリアが被害甚大)。
※H-6北西エリアから病院まで一直線に破壊痕が見られます。
※早朝(放送まであと少し)にH-6北西エリアにて概念空間(「―――惑星は南を下とする。」)が形成されました(第一放送までには解除されます)。

【板型概念展開装置@なのは×終わクロ】
周囲の空間に概念を展開する金属製カード(簡単に言えば一定区域に特殊能力を付け足すアイテム)で、これは「―――惑星は南を下とする。」という概念のもの。
発動すれば一定区域は南方が下、北方が上になる様に地面が垂直になる。発動時に前記の文章(概念条文という)が効果範囲内にいる者の脳裏に響く。
本来はこれが発動している空間と現実空間は出入り不能になる。
ただし本ロワでは出入り自由で効果エリアは半径100m・効果持続時間は10分とする。使用回数1回。

【サンライトハート改@なのは×錬金】
黒い核鉄Ⅲ、突撃槍(ランス)の武装錬金。
通常は掌に乗る程の六角形の金属塊だが、所有者の闘争本能に呼応して展開して小型の槍となる。
所有者の生体エネルギーを使って推進力の獲得や刀身のサイズの変化などの特性がある。
また所有者の身体の各機能を強化させる事もできる。



Back:パンドラの箱は王の手に 時系列順で読む Next:第一回放送
Back:パンドラの箱は王の手に 投下順で読む Next:第一回放送
Back:ちぎれたEndless Chain キース・レッド Next:絶望の罪人~夜天の主~
Back:ピカレスク ミリオンズ・ナイブズ GAME OVER






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