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タイムラグは30分(後編) ◆gFOqjEuBs6




エネルが屋上にたどり着いた時、そこにいるのは始ただ一人だった。
何もない、ただだだっ広い屋上の隅の方で、始は真っ直ぐにエネルを睨みつけている。
対するエネルも、ゆっくりと歩を進め、言った。

「どうした青海人。鬼ごっこは終わったのか?」
「ああ。ゲームは終わりだ」
「ヤッハッハ……! そうか、ついに諦めたか。ならば―――」

「死ね」と。エネルが呟くが、すでにそれは始には聞こえてはいない。
何故なら、エネルの声を覆い隠す程の放電音が、ここにいる二人の聴覚を支配したから。
エネルの右腕が光り輝く。そこから発せられるのは、本日何度目か分からない神の裁き――エル・トール。

「神の裁き―――エル・トールッ!」
「無駄だ」

エネルの声に合わせて、始が小さく呟いた。
だが、その声は最早エネルには聞こえてはいなかったであろう。
ここで死ぬ人間の言葉に、聞く耳など持つ筈も無い。
エネルの右腕から放たれた閃光に、始は目を背ける。が、身体はそこから動こうとはしなかった。
やがて閃光は、真っ直ぐに走り、始の身体を飲み込―――まなかった。
エネルが放った筈の電撃は、始に当たる前に何かに吸い込まれるように消えたのだ。

「ほう……上手く避けたな。だが、次は無いぞ」
「どうかな」
「……神に向かって、何たる不届きな態度か。その愚行、あの世で後悔するがいい」

始の不敵な笑みに、エネルは眉をしかめ、言った。
再び輝くエネルの腕。今度は始に、しっかりと狙いを定めて。
裁きの名、「エル・トール」と呟く。同時に、エネルの両腕の光は真っ直ぐに始へと走る。
だが―――結果は同じ。エネルの放った電撃は、始を飲み込む直前に、何かに吸い寄せられるように消え去ったのだ。

「…………………………………………」

最早何も言う事はない。三度目を与えるつもりはない。
エネルはしっかりと狙いを定め、今度は両手を始へと向けた。
こんなことが以前にもあったような気がするが、それは相手がゴム人間だったから。
あんなどう見ても悪魔の実とは無縁な、ただの人間にそう何度もエル・トールがかわせるものかと。
今度こそ仕留める。その一心でエネルは再びエル・トールを放った。
が、結果は同じ。やはりエネルの電撃は、始に到達する前に、何かに吸い込まれてしまう。
エネルの頬を、嫌に冷たい汗が濡らした。

「……ッッ!!!」

まずエネルは、自分の目を疑った。間違いない。あのときと同じだ。
あの時のゴム人間――ゴムゴムの実の能力者、“麦わらのルフィ”の時と同じだ。
だが何故だ? 何故ゴムの男では無い筈の奴が電撃を吸収出来る? その答えは、エネルにはいくら考えても解る筈もなく。
エネルはその大きな目玉をむき出しにし、顎をあり得ない程に下方へと落とし、驚愕していた。
顔全体を滴る油汗は、離れた位置にいる筈の始にも見て取れる程。
やがて始は、羽織っていたベージュ色のコートを翻し、すぐそばに立っていた一本の柱へと歩を進めた。

「な、何だその柱は……!?」
「避雷針だ。お前の攻撃は全てこいつに吸収される」
「“ヒライシン”……!? 一体何なのだ、それは!!」

始はうっすらと不敵な笑みを浮かべながら、屋上から天へと伸びる柱――避雷針を見上げていた。
だが、これまでスカイピアで生活していたエネルの知識の中には、避雷針などというものが存在する筈も無かった。
故にエネルは驚愕する。自分の知らない未知の存在が。自分の攻撃を無効化する存在が、ゴム以外にも存在していた事に。
そんなエネルの驚愕に歪んだ表情に、始は一瞬眉をしかめた。




始は最初から、この屋上に設置されていた避雷針目当てに走っていたのだ。
何故このビルの屋上に避雷針が設置されていることが解ったのかと問われれば、理由は簡単なこと。
日本の高層ビルの屋上には、避雷針の設置が法で定められている。現代社会を生きる始は、それを知っていたのだ。
といっても、このビルが本当に日本のビルかどうかは賭けだったのだが。
そして避雷針の効果は、子供でも知っている。それは、周囲に落ちた雷を吸収するというもの。
特に近年のビルに使われている避雷針は、近くで発生した雷を積極的に吸い寄せてくれるものがほとんど。
始自身も避雷針の効果を余り掘り下げて知っていたわけでは無いが、エネルの攻撃を防ぐことは出来ると判断したのだ。

カリスへの変身可能時間まで、残り1分弱。
このまま時間を稼いで変身し、一気にカタを付ける。
そう考えた始は、一枚のラウズカード――ハートのA、チェンジマンティスを手に握った。
腹部にカリスラウザーを形成しようと、足を肩幅くらいに開き、構える。

「そうか……その柱が私の雷を吸い取るというのか。だが……」
「……」
「これならどうだ?」

始の視線の先、エネルは腰に差していた赤い剣を手に取り、その切っ先で―――背中の太鼓を一つ、叩いた。
刹那、エネルの身体からエル・トールよりも高圧の電流が迸る。

「3000万ボルト……雷鳥《ヒノ》」
「何……!?」

次に放たれたのは、エネルの背後から現れた、巨大な鳥。
ヒノと呼ばれたそれは、凄まじい圧力の電流を放電しながら、始へと向かって行く。
エネルの放つ超高圧力の電撃が、幻獣の姿を形どったのだ。
その巨大な翼を広げながら、ヒノは吸い寄せられるように、避雷針に向かって方向転換。
幻獣は避雷針に吸い込まれて行くが。

「雷獣《キテン》」

すぐに避雷針は、火花を発し始めた。それに驚く暇もなく、エネルから発せられる次なる幻獣の名前。
背中から繋がった奇妙な太鼓を叩くことで、今度は巨大な狼に似た姿の雷獣が駆け出した。
駆け出した獣は、始と避雷針に向かって一直線。
確かにある程度までの雷になら耐えられるように設計された避雷針ではあるが、それにも限度があるのだろう。
よもや自然現象でもない、人工的に発生させられた雷に避雷針が破壊されるなど、流石の始とて夢にも思わなかったであろう。
これは拙いと判断した始は、すぐに幻獣から逃れるために走り出す。が、時すでに遅かった。

「ヤハハ、何処へ行くつもりだ……?」

始が走りだした時には既に、雷獣がオーバーヒートした避雷針もろとも、周囲を爆ぜさせていた。
エネルの雷獣の威力は本物の雷と同等。それを二発連続で同じ避雷針に集中攻撃をされたとあっては、持つ筈も無かった。
エネルの雷撃の衝撃で、ビル内部のそこかしこで火災が発生。屋上の床も崩れ始める。
どうやらいよいよこのビルの耐久力も限界に近付いているらしい。
しかし、エネルの追撃は止むことは無い。

「6000万ボルト、雷龍《ジャムブウル》」

崩れ始めたビルの屋上、足場の確保に戸惑う始を尻目に、エネルは頭上の太鼓を二つ叩いた。
同時にエネルは上空に飛び上がり、その背後から巨大なドラゴンを呼び出した。
これもエネルの凄まじいまでの高圧力の雷が形となって形成されたもの。
つまりは龍の姿をした、雷の塊。エネル自身は6000万ボルトと言っているが、恐らくはその数倍の電圧を誇るであろう雷龍は、
始の居る屋上を、完全に崩壊させた。勿論、ジャムブウルの電力は屋上だけに留まる筈もなかった。
凄まじいまでの電流は、ビル全体に伝わり、その内部構造の全てを粉々に破壊していく。
勿論ビルの内部に設置されていた家電製品は全てオーバーヒート。つい先刻まで美しかった筈のビルは、燃え盛る炎とともに崩れ落ちた。

「ヤーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

ビルを完全に破壊し、上空へと飛び上がったエネルは、地面へと落下しながら大きな高笑いを響かせる。
エネルの放った超高圧力の電撃は、ビルだけではなく、あらゆる電線、通信線路からエリア全体へと広がっていく。
それに伴い、周囲の全てのビル、及び建造物内のありとあらゆる電気器具はその機能を停止し、耐えきれなかった物は火を噴き出し始める。
ただでさえエネルによって破壊されていた街は、あちらこちらで火災が発生し、まさに火の海と化していた。




エネルが放った雷獣と雷龍がビルを破壊していく。
始には、為す術がなかった。ただ崩れ去るビルに身を任せることしか出来ない。
あと少し。あと少しだけ時間を稼げれば、と始は酷く後悔した。
崩れていくビルの中、共に落下していく。
ジョーカーの戦いを、逃れられないジョーカーの宿命もこれで終わらせる事が出来るのなら、と始は眼を閉じる。
周囲に響く凄まじい轟音と熱風で、始の意識は今にも持って行かれそうになる。
これで終わりか、と思い返すのは天音達と過ごした夢のような日々。
『始さん!』と。自分を呼ぶ少女の声が、笑顔が、走馬灯のように始の脳裏を過る。

―――ごめんね、天音ちゃん……すみません、遥さん。俺は……

その時だった。始の心の奥底から、何かが叫ぶ声が聞こえる。
「戦え」と、始の闘争本能に語りかける獰猛な獣――ジョーカーの声。
「戦え」と、始の人間としての心に語りかける一人の人間――ヒューマンアンデッドの声。
二つの自分が、諦めるなと語りかける。
「目の前の奴を殺せ」と。「天音達を護れ」と。二つの相反する人格は、奇しくも始に同じ選択を強要した。

落下開始から数十秒。カリスへの変身可能時間まで―――残り、10秒。
9、8、7、6……と。0に向かうカウントダウンが、少しずつカウントされていく。

―――俺は……

始は、握りしめた一枚のカードをじっと見つめた。
今まで共に死線をくぐりぬけて来たカード。チェンジマンティスのカードを。
もしもこのまま始が戦うことを諦めたら―――きっと始の中のジョーカーは暴走を始め、誰にも止められなくなるだろう。
そうなれば、きっと自分は全アンデッドを封印するどころか、全ての生命を滅ぼすまで、どこまでも走り続ける。
人類を滅ぼして、全ての動植物を滅ぼして―――始が愛した天音ちゃん達の笑顔は、消える。

―――俺は……天音ちゃん達を護る……。

始の腹部に、赤いハートが輝きを灯した。
ハートは、輝きを放ちながら、ベルトの形を形成。
始は、手にしたチェンジマンティスのカードを、眼前に掲げた。

―――そのために俺は……俺の意志で、最後の一人まで生き残る!

これは、その為の力だ。護りたいものを、護ると誓ったものを。
あの家族の笑顔を護るために、俺は全ての参加者を倒す!
例えこの手を血で汚しても、俺はあの家族の元へ帰るんだ!

始の瞳に宿る、闘志の炎。始の視界に映るのは、始にそれを思い出させてくれた張本人。
神を名乗る狂人――エネル。奴を倒すため。全ての参加者を倒すため。
その為に始は、全てを覆い隠す漆黒の鎧を身に纏う。伝説のカテゴリーエース――マンティスアンデッドの鎧を。

「変身!」

――Change――

落下を始める始の身体は、まるで水に包まれているかのように黒い輝きを放つ。
そこに顕在するのは、人間《相川始》ではない。伝説の鎧を纏った戦士――《カリス》だ。
奇しくも、始が発した掛け声は、始の世界で“仮面ライダー”と呼ばれる者たちが唱える言葉と告示していた。




エネルは、すぐ近くのビルの屋上に足を降ろした。
このビルも既に内部は火の海なのだが、未だ火の手は屋上には迫っては居ない。
周囲を見渡せば、このビルと、僅かな例外を残して、このエリアは地獄と化していた。
どちらを見渡しても倒壊したビルと、瓦礫の山。そこかしこで炎が燃え上がり、黒い煙が天に立ち昇る。
エネルの破壊活動は、超高圧力の雷による純粋な破壊。それ故に魔法や特殊な技術を用いた兵器による破壊とは質が違う。
典型的な、超自然災害と言っても過言ではないそれは、八神はやてが元居た世界での、大怪獣たちによる攻撃にも似ていた。

「ヤッハッハ、少々やり過ぎてしまったか? いや、そんなことは無いか」

エネルは笑う。自分の力を解放したことによる爽快感と、破壊活動による快感に酔いしれて。
「さて」と呟き、エネルは北に視線を向ける。さっきの不届きな青海人は既に死んだ。
次は当初の予定通り、北を目指して直進するか、と。
エネルが歩き出そうとした、その時だった。




「何処へ行く」
「ん……?」

エネルが振り向けば、そこには疾風を巻き起こして、宙にに浮かぶ漆黒の戦士がいた。
声の色からして、さっきの青海人かと判断。エネルは小さく、「ヤハハ」と笑った。
やがて戦士――カリスは、ゆっくりと屋上に着地すると、その弓を構え、駆け出した。
きぃん、と。エネルの持つ真紅の剣と、カリスの持つ両刃の剣が高い金属音を鳴らす。

「まさかあの中から生き延びるとはな、青海人よ」
「俺は死ぬ訳にはいかない」
「そうか、だが残念だな青海人。お前は神の裁きによって、今日ここで消えるのだ」

エネルが持つ剣から、高圧力の電流が流れる。
電流はカリスアローを通じ、それを握るカリスの身体から無数の火花が飛び散る。
すぐにカリスはエネルから離れると、今度はカリスアローをエネルへと向ける。

「ほう、まだその矢を使うか? 効かないと解っているのに?」

エネルの言葉を無視し、カリスは光の矢を連射する。
カリスアローから放たれた矢は、真っ直ぐにエネルを射抜こうと駆けるが。
バリバリ、と。電流が流れる音に伴って、光の矢は消滅した。
最初から解ってはいたが、やはりあの男が発する電流によって、矢が当たる前に消滅してしまう。
どうすれば奴を攻撃できる? 生身での攻撃ではあの電流に阻まれてしまう。
かといって射撃攻撃は意味を為さない。ならばラウズカードはどうだ?
モスリフレクトで奴の攻撃を反射するか? いや、恐らく奴に電気攻撃は通用しない。

「くっ……」
「どうした? 万策尽きたか?」

考えれば考えるほど、カリスの戦法は無駄に終わるという結論に行きついてしまう。
このまま考えていても埒が明かない。こうなったら、電流を流される前に奴に攻撃、すぐに離脱。
一撃離脱の戦法を繰り返すしかない。
エネルが放った電撃を、前転でかわすと、カリスは一気にエネルに肉薄した。
振り上げるカリスの剣と、それを受けるエネルの剣がぶつかり合ってふ火花を散らす。
一瞬の激突の後、カリスは直ぐにエネルの剣を弾き、両刃の剣を振り下ろす。

「……ヴァーリー」
「……ッ!?」

刹那、エネルの剣が放電を開始。振り下ろされたカリスの剣が、エネルを斬るよりも早く、エネルが剣を振り上げた。
二本の剣が触れ合う瞬間、カリスの身体に電気が走る。
電気による鋭い痛みと、痺れて鈍る感覚に戸惑っている隙に、今度はエネルが、電撃をまとった剣を横一線に振り抜いた。
ハートの形を模したカリスの胸部装甲に、剣による傷と、電撃による黒い焦げが残る。

「うぉおおお……ッ!!」
「神に楯突く愚かな戦士が……!」

叫び声を洩らしながら後退するカリスに、再びエネルが迫る。
振り降ろしたエネルの剣をなんとか両刃の剣で受け返すと、身を翻し、左足を軸に一回転。
後ろ回し蹴りで、エネルの胸を蹴り付ける。
舌打ちをするエネル。後退しながらも電撃を放つが、対するカリスはその攻撃を背後へと転がることで回避。
そして起き上がり様に、右腰に装着されたラウズカードボックスから、二枚のカードを引き抜いた。
それらを立て続けにカリスアローに装着したカリスラウザーに読み込ませる。

――Bio――
――Chop――

鳴り響く電子音。一枚目のカードは「バイオプラント」。二枚目のカードは「チョップヘッド」。
まずはバイオプラントの効果で、カリスアローから延びた触手がエネルを拘束する為に迫る。
電撃で触手を叩き落とそうとするが、全ての触手は落とし切れない。拘束されたエネルに肉薄するカリス。
カリスの手刀は、チョップヘッドの効果により鋭い輝きを放つ。
恐らくは拘束していられるのもこの一瞬のみだ。故にカリスは、すぐにエネルの胸部に輝く手刀を叩き込んだ。

「ぐっ……!」

エネルの、声にならない嗚咽が漏れる。そして、嗚咽と共に吐き出したのは真紅の血。
血液の量はほんの少量。だが、カリスは一瞬我が目を疑った。

「血が赤い……だと?」
「どうした戦士よ。神の血が赤いのが、そんなに不思議か?」

アンデッドの血が赤である筈がない。普通アンデッドの血液は、真緑の液体である筈なのだ。
故にカリスは確信した。何故自分が今までこいつの気配を感じることが出来なかったのか。
それは、こいつがアンデッドではないからだ。こいつはアンデッド以外の“何か”。
そう考えると、全てに辻褄が合う。

「そうか、そういうことか……お前はアンデッドではない」
「何度も言わせるな。私は神――神・エネルだ」
「お前はアンデッドではないが……神でもない」

言うが早いか、カリスは再び前転でエネルの懐に飛び込むと、両刃の剣でエネルを斬り付ける。
が、もちろんその刃はエネルの持つ真紅の剣により遮られ、電撃を纏った剣がカリスを襲う。
カリスアローを握る手に痛みを感じながらも、全身に電気が走る前にエネルから離れる。

「お前は俺の……俺達の神じゃない」
「ヤッハッハ、認めたくないのならば、見せつけてやる。神の力を……!」

エネルは、不敵な笑いを浮かべながら言った。
ジョーカーを始めとする53体のアンデッドに、このバトルファイトを強要した神はこんな奴じゃない。
こいつは神じゃない。ならば神は――統制者は、何故こんなアンデッドとは無縁の者をこの戦いに寄越した?
ならばあの女は、ここにいる60人の参加者に、新たなバトルファイトを強要したあの女は、何だ?
ここで戦って勝ち残る事に、本当に意味はあるのか? そんな疑問が、始の脳裏を駆け巡る。
そんな思考に囚われ、一瞬動きが止まったカリスに、エネルは再び電撃を放つ。

「うおぉぉぉっ!?」

完全に油断していた。エネルの放ったエル・トールは、カリスの胸部装甲に正面から直撃。
激しい火花を撒き散らしながら後方に吹っ飛んだカリスは、屋上の隅の柵に激突。
カリスの仮面の下、始の表情が苦痛に歪む。

「ヤハハ、戦闘中に考え事か? 随分と余裕だなぁ?」
「俺の……俺達の神は……何処に居る」
「頭でもおかしくなったのか? 神ならここにいる! ヤーッハッハッハッハ!」
「違う……俺達の神は―――」

満身創痍の身体で、カリスは三枚のカードを取り出した。
一枚は「トルネードホーク」。一枚は「ドリルシェル」。一枚は「フロートドラゴンフライ」。
ここまでで使用したカードは、フロート・バイオ・チョップの三枚。フロートのカードを使うのはこれで二度目だ。
初期APを7000として、現在残ったAPは7000-3200で3800。
3600APを消費して、カード三枚によるコンボ攻撃を繰り出す。

――Float――
――Drill――
――Tornado――
――Spinning Dance――

カリスの周囲を疾風が渦巻き、ゆっくりと空へと浮かび上がる。
脚をエネルへと向け、激しいきりもみ回転を加えながら急降下する。
これがカリスの現時点での最大技――スピニングダンスだ。
上空に舞い上がったカリスの回転速度がピークに達したところで、正面に顕在するエネルに向かってカリスは急降下を始める。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「雷獣《キテン》」

カリスが迫るなか、エネルも背中の太鼓を一つ、鳴らした。
同時に現れるは青白い狼。ついさっき、あの高層ビルを破壊した幻獣だ。
上空から急降下するカリスと、上空に向かって駆けてゆく幻獣。
二つが激突し、目を背けたくなる稲妻が、周囲に拡散する。
エネルが立っている屋上の床にも、雷と風が激突した衝撃が降り注ぐ。
激しい竜巻と、その中で輝く稲妻。やがてエネルの周囲にまで火の手が迫り―――エネルが、薄く微笑んだ。

「私の勝ちだ」

言うが早いか、カリスの回転が止まる。
雷に飲み込まれたカリスの身体は、そのまま落下を始める。
しかしエネルは、ただ落下させることはしない。

「教えてやる、戦士よ。これが神の裁きだ」

再びその腕を光らせて―――エル・トールは、カリスへと放たれた。
落下途中で無防備な姿をさらけ出していたカリスの身体は、エネルの放った電撃により、弾き飛ばされる。
電撃を受け、落下地点の修正を加えられたカリスの視界の先にあるものは、数十メートル下の、堅いアスファルト。
カリスは、声にならない叫び声とともに、遥か下方のアスファルトへと吸い込まれていった。




「ヤーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」

今度こそ、一人になった屋上に。エネルの笑い声が響きわたる。
それは先ほどまでの爽快感に加え、勝利による歓喜も含まれていた。
しかし、いつまでもここで高笑いをしている訳にも行かない。
既にこのビルは火の海に包まれており、このままでは逃げ道がなくなってしまう。
故にエネルは、先ほどの高層ビルから脱出した時と同じように、ビルから飛び降り―――神の裁きを放った。
エネルの放った電撃は、今度はビルの中心を貫き、爆発。轟音と共に崩れ去った。
そうしてエネルは、崩れたビルのすぐそばに佇んでいた電柱の先につま先を下ろし、着地。
エネルの視線の先にあるものは、遥か彼方へと続く北への道。
このまま北へ直進し、他の参加者も殺す。皆殺しにしてやる。
エネルは不敵に、しかし非常に上機嫌そうに笑った。
ヤッハッハと、聞く者に異様な威圧感を与える声が、壊滅した街に響いていた。


【1日目 朝】
【現在地 E-6 壊滅した街】
【エネル@小話メドレー】
【状態】疲労(大)、胸に大きな打撲痕
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
 基本:主催者も含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1:北に向かい、狩りを楽しむ
【備考】
 ※心網の策敵可能範囲がおよそ1エリア分であることに気付きました
 ※漆黒の鎧を纏った戦士(カリス)及び相川始を殺したと思っています




「天音……ちゃん……」

壊滅したビルの麓で、ベージュ色のコートを着た一人の男が倒れていた。
男は護ると誓った者の名を呼びながら、拳を握り締めた。
悔しい。護ると決めたのに。あんな奴に敗れて。
ただただ、悔しかった。その感情だけで、今は一杯一杯だった。
そんな始を、デイバッグの中から密かに見守る影があったことに、始は気付きはしない。
もしもその存在に気付けていたのなら、エネルとももう少しだけ違った戦いが出来たのかも知れない。
が、今となっては後の祭り。
これ以上は何も考えることはなく、始の意識はゆっくりと薄れていった。


【1日目 朝】
【現在地 E-6 倒壊したビルの麓】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】気絶中、疲労(大)、重症(回復中)、1時間変身不可(カリス)
【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【思考】
 基本:栗原親子の元へ戻るために優勝を目指す。
 0.…………(気絶中)
 1.見つけた参加者は全員殺す(アンデットもしくはそれと思しき者は優先的に殺す)
 2.あるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
【備考】
 ※参戦時期はACT.5以前。なのは達の事は名前のみ天音より聞いた事がある(かもしれない)程度です。
 ※自身にかけられた制限にある程度気づきました。
 ※首輪を外す事は不可能だと考えています。
 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝者となるのではないか」という推論を立てました。
 ※相川始本人の特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘した場合、その位置をおおよそ察知できます。
 ※エネルという異質な参加者の存在から、このバトルファイトに少しだけ疑念を抱き始めました。


【共通の備考】
 ※一日目 朝、エネルによってE-6エリア全域のビル及び建造物が破壊されました。エリア内全域に渡って火災が発生しています。
  また、このエリア全域が停電状態で、ほぼ全ての電気機器は使用不可になりました。
 ※数十分に渡り、ビルの倒壊及び破壊による激しい轟音が発生した為に、周囲のエリアにも音が聞こえている可能性が高いと思われます。
  また、大規模な火災により黒い煙がそこかしこで発生しているため、他のエリアからも肉眼で確認出来るかも知れません。


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エネル Next:暇をもてあました神々の遊び
相川始 Next:誇りの剣






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