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Don't lose yourself(前編) ◆gFOqjEuBs6




――どこだ? ここは

真っ暗な闇の中で、始は意識を取り戻した。
まだぼんやりとした意識で、今までに起こった状況を整理する。
始の記憶の中での最も新しい情報を呼び覚ます。
そうすることで、段々と記憶が蘇る。
始は確か、市街地で一人の男と戦っていた筈だ。
それは、神を名乗って、殺戮を繰り返す半裸の狂人。
雷を使って、自分と戦う姿が。男の気味の悪い高笑いがフラッシュバックする。
次に感じた疑問は、自分は今どういう状況にあるか。
男と戦っていたはずの自分が、どうしてこんな真っ暗な空間にいるのか。
始の周囲には何もない。あの男はおろか、建物も何もない。
前後左右、どちらを向いても永遠に続く真っ暗闇。
そこで気付いた。自分はそもそも目を開いていないのだ、と。
しかし、目を開けようにも、瞼に力が入らない。
なら身体は? 身体は動くのだろうか?
腕に力を入れる。しかし、反応はしない。腕が動いた気がしない。
それらを踏まえて考えた結果は一つ。
始は負けたのだ。あの狂人に、ビルから叩き落されて。
込み上げてくる悔しさから、拳を握り締めて、己の不甲斐なさを呪う。
護ると誓ったのに。あの家族を護るために戦うと誓ったのに、自分はあんな奴に負けてしまった。
そんな始を嘲笑うように、今度は誰かの声が聞こえてくる気がした。

『ジョーカー……ジョーカー……』

その声は、気味の悪い声で何度も、何度も名前を呼んでいた。
どこかで聞いたことのある声が、始の頭の中で響いている。
忌々しい声を振り払おうと、始は頭を揺さぶる。
されど、声は止むことなく始に語りかける。

――俺と戦えというのか。

始は頭の中で呟いた。
何度も始を呼ぶそいつは、始と決着を付けようとしているのだろう。
そうだ。この声には聞き覚えがある。
あの雪山での戦いで、とうとう決着を付けられなかった敵の声だ。
その声の主はまさしく、ダイアのカテゴリーキング――ギラファアンデッド。
カテゴリーキングの声が、何度も何度も俺を呼ぶ。
戦え、戦えと。逃れられない運命に従うままに、その忌々しい名前を呼び続ける。
そこまで決着を付けたいと言うのなら、始に逃げる理由など存在しない。それこそ望むところだ。
その声はもしかしたら幻聴なのかもしれないが、そんなことは関係ない。
ギラファアンデッドが始と戦いたがっているのは恐らく事実なのだろう。
相手が戦いを求めるのなら、始はそれに応える。そして、恒久的な闇へと封印するのみだ。
ギラファアンデッドの声に呼び覚まされるように、始は全身の感覚が戻ってくるのを感じた。
瞬間、始ははっと目を開き、飛び起きた。
自分に掛けられた薄い毛布を払いのけ、周囲を見渡す。
見る限りどこかの医務室だろうか。微かな薬品の匂いと、自分の周囲に設置された器具からそう判断する。
自分の腕を見れば、ご丁寧に包帯まで巻かれていた。
怪訝な表情を浮かべながら、始は自分の腕をぼんやりと眺めていた。
ふと、始が寝ていたベッドから離れた場所で、音が聞こえた。
それは、ガタッ、と。何者かが椅子から立ち上がるような音。
始は、突然聞こえた物音に視線を向ける。
紺色のショートカットの女が、銃を携えて立っていた。
その傍らには、金髪に眼鏡を掛けた女が一人。
こいつらには、確かな見覚えがある。
そう。それはつい数時間前、自分が襲った人間達。
命を刈り取るために、カリスになって襲った人間達だ。




時は数時間前へと遡る。
相川始を背負ったギンガ・ナカジマは、実に一時間という時間をかけて目的の場所へと移動した。
その目的地とは、言うまでもなくインテグラル卿の待つHELLSING本部。
しかし、真っ先に目指すのはインテグラル卿の待つ地下牢ではない。HELLSING本部内の、医務室だ。
その理由も最早説明するまでもないだろう。先刻自分が見つけ、保護したこの青年の治療をする為だ。
医務室にたどり着いたギンガは、備え付けられたベッドに、始を寝かせる。
始が持っていたデイバッグと、自分の持っているデイバッグをベッドの脇に置くと、まずは戸棚の中から消毒液を取り出した。
まずは怪我を治療することが先決だと判断したからだ。
だが、ギンガはここで驚愕することとなる。

「これは……傷が無くなってる……?」

先ほど見た時は確かに火傷の傷だらけだった。
されど、現時点での男の身体は、黒い煤さえ残っているものの、火傷らしき痕が一つも見当たらないのだ。
それはどういうことか。いくつかの理由がギンガの脳裏に浮かぶが、やはり最終的に思い当たる理由はただ一つ。
この男は、自分がここまで移動するまでの一時間で回復したのだ。
その理由として最も考えられるのは、“この男も人間ではない”という単純な理由。
殺生丸さんや、吸血鬼アーカードのような人外の存在が参加させられている以上、それ以外の生物が居ても何らおかしいことではない。
すぐにその考えに至る事が出来たのも、やはり日頃の捜査官としての眼力の賜物だろう。
次にギンガは、打撲していると思しき青紫の痣をいくつか発見した。
恐らく、単純な外傷は回復したが、内部に及んだダメージまでは回復が追いついていないのだろう。
まずはそういった箇所の治療を優先しようと、始の腕を取ったところで、ギンガは気付いた。

(血が黄緑色をしてる……)

所々に残った緑色の液体は、恐らく人外であるこの青年の血なのだろう。
そう考えるなら、この体中を汚す緑の液体の正体にも納得がいく。
消毒液は人間の物しかないが、大丈夫だろうか。そんな不安がギンガの頭を過る。
しかし、悩むのも一瞬。少し不安だが、きっと使わないよりはマシだろう。
血こそ緑色ではあるが、だからといって消毒液が効かない事には繋がらない。
それにこうしている間にも回復が進んでいるのなら、さして悩む事でもないだろう。
打撲した箇所に包帯を巻き終えたギンガは、デイバックからパンとペットボトルに入った水を取り出す。
今度はコップと、医務室の戸棚に入っていた熱に効きそうな薬をいくつか用意し、それらを始の傍らにそっと置いた。
最後に、医務室の冷凍庫に入っていた氷を漬けた水道水に浸したタオルを絞って、始の額に乗せると、
ギンガは極力物音を立てないように注意しながら、医務室を後にした。




薄暗い地下の牢屋の、その一室。
狭い部屋の隅で、インテグラは膝を抱えて座っていた。
ふっと微笑むと、懐かしい思い出を記憶の中から呼び覚ます。
そういえば、あれは今から調度十年前だったな、と。小さく微笑んだ。
十年前のあの日。それは先代ヘルシング家の当主が死んだ数日後。
権力に目が眩んだ叔父に命を狙われたインテグラは、その日も今のように小さく座り込んでいた。
あの時と違うのは、一つだけ。自分の横に、あの吸血鬼が居るか、居ないか。
吸血鬼とは、HELLSING機関の宿敵にして、人間の天敵。
吸血鬼とは、不死の化け物――アンデッドなどど呼ばれた存在。
吸血鬼とは、インテグラの世界で人間が最も恐れるべき存在。
そんな吸血鬼と、自分はここでじっと隠れていたのだ。
そんな思い出に浸りながら、インテグラはふと、ぽつりと呟いた。

「なぁ、アーカード」

記憶の中の吸血鬼に。
そして、今も自分と同じこの会場に居る吸血鬼に。
インテグラは呼びかけた。
その一言に込められた気持ちは、アーカードに対する疑問も込められていた。
お前は一体何人の人間を殺したのだ、と。
先ほど行われた放送で死んだ13人のうち、一体お前は何人殺したのだ、と。
きっとあの吸血鬼ならば、出会った人間は皆殺しているのだろう。
もしもその脅威を碌に知りもせずに、あの吸血鬼に命の取り合いを仕掛けるバカがいたなら。
そいつはまず間違いなく生きては帰れないだろう。
どんな武装をしていたって、せいぜい軽い平手打ちの一発で首ごとふっ飛ばされるのが関の山だ。
それほどまでに、アーカードは凶暴なのだ。アーカードは人間が匹敵する相手ではないのだ。
もしかしたら、先刻の放送で呼ばれた13人のうち、12人がアーカードに殺された可能性だって否めない。
殺生丸と呼ばれるヨウカイを殺したのはあの金髪であろうことから、12人に減らしてはいる。
あくまで可能性の一つであり、アーカードのような殺人鬼が他にもいるとすれば、その確率は低いという事は彼女にだって解る。
されど、そんな不安を抱かずにはいられない程に、アーカードは危険な存在なのだ。
少なくとも、半分近くの人間を殺しているのは間違いないのだろう。
そして、あの放送に踊らされ、相手の実力も知らずに命を奪おうとするバカがもし、アーカードと出くわしたら。
また人が死ぬ。同じ事の繰り返しだ。
死んだ人間が生き返ることなど、吸血鬼にでもならない限りあり得ないのに―――

「待てよ」

と、そこでインテグラの思考はストップした。
自分は今何を考えた? 死んだ人間を生き返らせようと思えば、吸血鬼にするしかない。
仮にあのアリサと呼ばれる少女が、最初から吸血鬼にされていたとしたら、どうする?
それも、ただの吸血鬼ではない。アーカード並の、最悪の部類に入る吸血鬼だ。
もしそうであれば、頭が爆ぜたにも関わらず、次回放送で生き返っていた理由が納得できる。
頭を潰されようが、四肢を潰されようが、奴ら吸血鬼には関係ないのだから。
心の臓を潰されない限り、何度だって蘇る。
それが吸血鬼。それが人間が吸血鬼を恐れる理由の一つ。
しかし、あの女にそんな事が出来るのか? あの女は自分の世界とは何のかかわりも無かった筈なのに。
いや、そう決めつけることも出来ない。例えあの女が吸血鬼でないとしても、その技術を持っているとしたら。
この会場には、このHELLSING機関を始め、自分やアーカードのような存在までも集められている。
この本部と、吸血鬼が一人と、主人が一人。たったそれだけだと、誰が断言できる。
このHELLSING本部を丸ごと持ってこられたくらいなのだ。
あの女が自分の世界からそれだけしか持ってきていない等と、誰も断言出来やしない。
もちろんこれはただの仮説に過ぎないが、アリサが復活した理由としては、吸血鬼化という理由で十分に説明できるのだ。
そして、もしもプレシアが吸血鬼の情報を持っているとしたら。

(あの女がナチと関わっている可能性もある……ということか)

そう。あの忌々しきナチスの残党。
ミレニアムの連中と関わっている可能性も考えられるということ。
そう考えると、少々厄介な相手になる。
どうしたものかと。インテグラは思考を巡らす―――その時であった。
足音が聞こえる。この地下牢の中をゆっくりと歩いて接近してくる、何者かの足音が。
インテグラは念のため、牢屋の扉に設置された小さな窓から死角になる位置に身を潜める。
もしもこれが敵なら、今はなんとかやり過ごすしか自分には出来ないから。
しかし、そんな不安は取り越し苦労に終わったらしい。

「お待たせしました。大丈夫ですか? インテグラル卿」

入口の扉の向こうから聞こえる声は、まさしく待っていた人間の声。
ギンガか? と、一言つぶやくインテグラに、少女は一言、はいと答えた。
直後。インテグラは、牢屋に入ってきたギンガの顔を見るや否や、まず一番に驚愕した。

「お、お前……その頭はどうした?」
「これが私の……私なりの決意の証です。そんなに可笑しいですか?」

ギンガの言葉に、一拍の間を置いて、インテグラはいや、と答えた。
次にインテグラの顔に浮かぶのは、小さな微笑み。ギンガには気づかれないように小さく、ふっと微笑む。
この一時間と少しの間に、ギンガの表情がすっかり変わっていたからだ。
殺生丸が死んだとあって、流石のギンガも随分と堪えていたようだが、今のギンガにその顔色は見られない。
もしもこのままギンガが腑抜けになってしまうようであれば、
インテグラはギンガを捨て置いて先に進むつもりであったが、どうやらその心配も取り越し苦労だったらしい。
恐らく殺生丸の死を受け止め、その上で前に進むことをギンガは選んだのだろう。
インテグラは、小さな満足と安心を胸に湛えながら、牢屋から一歩、足を踏み出した。




「ほう……状況は把握した。それで、その化け物(フリークス)の青年は?」
「今は医務室で寝かせています。一応治療も済んでます。」

ギンガは、インテグラを医務室へと連れて行く途中、この一時間に起こった出来事を報告していた。
恐らく、自分たちを襲ったエネルなる人物が、一つのエリアを壊滅させたのであろうこと。
その際の災害に巻き込まれ、倒壊したビルの麓で倒れていた青年を保護し、医務室で治療をしていたこと。
青年の血は緑色で、尚且つ驚異的な回復力を持ち合わせている事から、恐らく人外の存在であること。
殺生丸の刀を回収し、その思いと力を受け継いだ事までは、インテグラには報告しなかった。
それは報告するまでもないことだし、きっとインテグラもそれについては聞きはしない。
インテグラも、そこまで無粋な性格をしていないということは、ギンガも良く解っていたから。

「さて……その青年を拾うのは構わんが、一つ問題があるな」
「はい。彼がこの殺し合いに乗っているのかどうか。」
「そして、そいつがこの六時間で一人でも誰かを殺したのかどうか、だ。」

インテグラの言葉に、ギンガはその表情を僅かに曇らせた。
勿論その状況もギンガが想定していなかったことは無いが―――もしもあの青年が殺し合いに乗っていたら。
戦力を持たないインテグラを危険に晒すことになる。自分だって人外相手にどこまで戦えるかは解らない。
それ故に、あの青年が味方であってくれることを願うのみだ。

ややあって、医務室にたどり着いた二人は、小さなテーブルに向き合って座った。
念のためにコルトガバメントをすぐ傍に置き、いつでも青年の襲撃に耐えられるように。
幸いにもベッドは部屋の奥に設置されており、テーブルは比較的入口に近い位置に備え付けられている。
それ故に、もしもの時の為に入口の扉は開けっ放しにし、脱出経路は用意しておく。
常に青年から目を離さないようにしながら、ギンガとインテグラは状況を整理していた。

「ギンガ、あの放送の……参加者を生き返らせるという言葉についてはどう思う?」
「私は不可能だと思います。」
「ほう、それは何故?」

インテグラの鋭い眼光が、眼鏡越しにギンガを見据える。
しかしギンガは、今更それに委縮することもなく、言葉を続けた。

「私たちはパラレルワールドから連れて来られている事は既に解っている事です。
 それを利用すれば、別の世界の同一人物を連れてくることも可能かと。」
「ふむ……上出来だ、ギンガ。確かにその可能性もあり得る」

ギンガが言いたいのは、至って簡単な話だ。
例えばギンガの居る世界には、機動六課に所属するスバル・ナカジマが存在する。
勿論他の部隊に転属になった話など聞いたことが無いし、六課を止めたという記録もない。
しかし、インテグラの世界に存在するスバルの経歴は、六課だけには止まらない。
インテグラの世界に存在するスバルは、六課から出向し、HELLSING機関にまで所属しているとのこと。
これらを踏襲した上で、パラレルワールドにおける同一人物という特性を利用すれば、あのショーは実演可能となる。
勿論、ギンガが考えていることは常識外れ極まりない。そんなことはギンガ自身にだって解っている。
しかし、ここではこれまでの常識は通用しないということもまた事実。
現に自分とは異なる世界に生きていた筈のインテグラが、こうして目の前に顕在しているのだから。
そして、それを成したのは他でもない主催者――プレシア・テスタロッサその人なのだから。
それはいい。ギンガには別に引っかかる点が存在した。
それは、インテグラの物言いについてだ。
彼女は確かに、「その可能性もあり得る」といった。つまり、他の可能性も考えているということになるのだ。

「その可能性……と、いう事はインテグラル卿も何か別の可能性について心当たりが?」
「あぁ。まぁな……お前の説に比べれば随分と突飛な話になるが、あり得ない話ではない」
「……それは一体、どういった話でしょうか?」
「我々人類が吸血鬼を恐れる理由の一つとして、その不死性が挙げられる―――」

怪訝そうに尋ねるギンガ。
インテグラは、まずは吸血鬼の不死性について語り出した。
アーカード並の吸血鬼ならば、頭を爆発させられた程度で死ぬことはまずない。時間がたてば元通りだ。
HELLSING本部を丸ごと移動させ、あらゆる世界の施設を一つの会場に持ってきたプレシアならば、
考えたくはないが普通の吸血鬼の不死性を遥かに凌駕した、それこそアーカード並の吸血鬼を生み出すことも不可能ではない。
何せ、ここでは不可能はないのだ。傍で寝ている青年だって、殺生丸だって、人間ではない。
もしかしたら、吸血鬼以上の不死性を備えた化け物だって存在するのかも知れないのだから。
といっても、アーカード以上の不死性はインテグラには考えられないらしいが。
それだけにアーカードは危険な存在なのだろうと、ギンガも再認識する。

「それでは……現状で考えられる理由は二つ。パラレルワールド説か、吸血鬼説か
 私は前者であって欲しいとは思いますが、もしも後者なら……」
「もしも後者なら、まず間違いなくあの女一人にそれだけの芸当をこなすのは不可能だ。
 間違いなく裏に仲間が存在する。それこそ、ミレニアムのような大規模な組織がな」

ギンガも、ミレニアムについてはインテグラと最初に情報交換をした際に少しだけ情報を聞いている。
もしも吸血鬼か、それに準ずる不死性を持つ生体実験のようなものが裏で行われていたとしたら、
プレシア一人でそれを成しているとは考え難いし、それは間違いなく最悪の事態だ。
しかし実際、これだけの量の施設を丸ごと転位させている以上、それも考えられない話ではない。
これほどの大規模な催し事をするのであれば、不穏な要素を孕んだ施設をわざわざ選んで転位させるとは思えない。
まずここにある施設はすべて、その情報をプレシアに掌握されているとみて間違いないだろう。
そう考えれば、吸血鬼や、その他の様々な技術もまた、プレシアの手に渡っている可能性が高い。

「でも……だからって、ここで立ち止まる訳には行きません」
「その通りだ、ギンガ……我々に退路は無い!」
「はい!」

インテグラの言葉に、ギンガは力強く頷いた。
様々な人間の思いを背負ったギンガに、立ち止まることは許されないのだから。
例えば、殺生丸さんから受け継いだ誇り。
例えば、矢車さんから受け継いだ完全作戦。
例えば、見捨ててしまったキャロへの思い。
そして、救えなかった全ての参加者への誓い。
それら全てが、ギンガを動かす糧となっているのだ。
もう同じ後悔はしたくない、と。
その思いを込めて、殺生丸さんの刀を受け継いだ。
長かった髪の毛を切って、この誇りと共に突き進むと、決めたのだ。
決意を胸に、ギンガは再び刀を握り締めた、その時であった。
ギンガの視線の向こうで、ずっとうなされてた青年が飛び起きたのだ。
咄嗟に置いていた銃を掴み取り、身構える――が、青年が襲ってくる様子は無かった。
ただぼんやりと、自分の手を眺めているだけで、何もしようとはしない。
やがてこちらに気づいたのか、青年は一言呟いた。

「何故俺を助けた」



青年は警戒心を剥き出しにしながら、ギンガ達を睨んでいた。
当然だろう。相手が銃を構えていれば、それは自然と相手を警戒させる要因となる。
相手に信用してもらうには、まずはこちらが武装を解除する必要がある。
少なくとも起きていきなり襲われる、という事は無かったのだ。
それ故にギンガは銃をテーブルに置き、ゆっくりと始に接近した。

「私は時空管理局陸士108部隊所属捜査官、ギンガ・ナカジマ陸曹です。
 まずは貴方の話を聞かせ――」
「何故助けたかと聞いているんだ」

先に質問したのは相手だ。
まずは自己紹介をと思ったが、どうやら相手はその返事を待っている様子。
仕方がないとばかりに、ギンガは口を開いた。

「目の前で人が倒れてるのを、無視して通り過ぎる事は出来ません」
「俺が頼んだ訳じゃない」
「どうやらこいつは、恩人に対しての口の聞き方を知らないようだな」

二人の会話にインテグラが割り込んだ。
その口調からは少しばかりの苛立ちが感じられる。

「勝手に助けたのはお前たちだ」
「そうか。なら次からは死にかけのお前を見かけても放っておこう」
「そうしてくれ」

それだけ言うと、もう何も話す事は無いとでも言いたげに、始は立ち上がった。
それと同時に膝から地面に崩れ落ちると、始は苦しげに唸り声を上げる。
どうやら小さな外傷は治っているように見えても、内側にまで及んだ傷はまだ完治していないのだろう。
すぐにギンガは始に駆け寄り、その体を再びベッドへと寝かせた。

「ほら、まだそんな体じゃないですか。無理しないで下さい」
「クッ……うぅ……」

苦しそうに呻くと、始は目を閉じ、眠りについた。

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