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変わる運命(前編) ◆HlLdWe.oBM




「ほぅ、なるほど」

F-3南部に停車している黒の騎士団専用トレーラー。
その内部に設けられたレクレーション室の中央に置かれている比較的大きなテーブル。
現在そこには様々なものが置かれている状態だ。
右端の方にはデスゲームの参加者に配られたデイパックが3つ。
内訳はLの物が1つ、ザフィーラの物が1つ、そして柊かがみが持っていた3つを1つのデイパックに入れた物が1つ、これで合計3つだ。
左端の方には銀色のアタッシュケースと同じく銀色のベルト、狂気の変身道具デルタギア一式とそのアタッシュケース。
その間に周囲の様子を窺うための首輪探知機、手鏡やサバイバルナイフなどの小道具、そして大量の角砂糖とその包み紙のゴミ。
それらが散乱するテーブルの前にはソファーに腰を沈めた世界一の探偵Lの姿があった。
Lはソファーに身体を預けながら手の中にある銀色の輪――シグナムの首輪をじっくりと眺めていた。
しかし、ただ眺めているだけではない。
天井のライトに翳してみたり、上下に振ってみたり、指先で軽く叩いてみたり、テーブル上を転がしてみたり。
首輪の分解こそしていないがLは首輪の解析に努めていた。

本来ならトレーラーに備え付けられた設備を使いたいところだったが、それは無理だった。
発見した当初はその外見から首輪解析の助けになると思われたのだが、その後に思わぬ落とし穴に見舞われる結果となった。
オペレーティングシステム――通称OSと呼ばれるソフトフェアの存在だ。
今では地球とミッドチルダの両方のOSを知るLであったが、ここのOSはそのどちらとも違うものだった。
これではOSを書き換えるか或いはこのOSを知る世界の参加者に出会う事でしか使用する事は出来ないが、現状どちらも不可能な状況だ。
それと言うのも前者はそこまでするだけの時間がなく、後者は未だそういう参加者とは出会えずじまいの状態だからだ。
これはトレーラーに備え付けられていた通信システムも同様だった。
下手に全機能がコンピューター制御に設定されていたためにこのトレーラーのあった世界の人にしか動かせないようになっていたのだ。
元々このトレーラーはデスゲームの主催者であるプレシアが会場内に置いたものだ。
首輪解析設備・通信機能付きの移動手段が何の仕掛けもなく置いてある訳がない。
発見直後に喜んでいただけあってこの事実を知った時ザフィーラは若干気落ちしていたが、Lは別にそこまで落胆する事はなかった。
寧ろ自分の想定より上手く事が運んでいると思っていたので、これぐらいの処置は当然だと受け止めていたからだ。

だから最初は首輪を無事に入手できたらすぐに解析できそうな場所に赴くつもりだったが、それはしばらく考えた末に保留とした。
もしこのまま先を急いで進行したとしても、無事に目的地に辿り着ける保障があるとは言い切れない。
殺し合いに乗った者に遭遇する可能性や、目的地に望んでいる機材がない可能性もある。
それにもしかしたらこのトレーラーの設備を動かせる参加者に会えるかもしれない。
手元の首輪探知機には一向に反応はないが、それでもこの無駄にデカイ目立つトレーラーに興味を抱く参加者が近付いてくる可能性はある。
探知機はデスゲーム開始から常に稼働しているのでいつ切れるか不明だが、それでも液晶の様子からしばらくは大丈夫だと予想できる。
だが徐々に液晶に影が差し始めている事から電力を消費している事は一目瞭然だ。
探知機の電源が外からオフにできない構造になっているため、ここで探知機の方も少し調べて電力の回復を可能ならばやっておきたい。
一瞬先に何が起こるか軽々しく予想できない以上出来る事は出来る時にしておいた方が賢明だ。
それがLの辿り着いた結論だった。

(とりあえず今はこれが限界ですね)

Lは一仕事終えたような様子で手の中にあった首輪をそっとテーブルの上に置いた。
首輪の簡単な構造ぐらいは把握しておきたいというのが偽らざる気持ちだったが、今の手持ちの道具でそれをするには不十分だった。
よって今は外から眺めたりするしかなかったLだが、それでも首輪について僅かながら掴めたものもある。

(まずは表側の外見からはやはり何も分かりませんでしたね)

首輪の表側は鈍い銀の光沢が滑らかな触感と共に目を引いている。
だが、感想としてはそれだけだ。
どれだけ見てもカメラや盗聴部らしき部分を見つける事は出来なかった。
どこまでも銀の滑らかな表面が一周ぐるりと目に映るだけだ。
しかし目に映らないからと言って監視と盗聴の機能がないと考えるのは少々早計だ。
Lが参加者を見張るための装置を組み込むとすれば何はともあれ首輪にカメラや盗聴器ぐらいは仕込んでおく。
だが相手はLにとって未知の領域である魔法という力を操る魔導師プレシアだ。
カメラや盗聴器なしでこちらの動きを察知する方法がないとは言い切れない。

(そして裏の表記は……個々の識別のため、でしょうか)

そして今回初めて拝む事の出来た首輪の裏側には「No.30-シグナム」の文字を見る事ができる。
これであの死体がシグナムだった事が100%確定した。
名前の前に付いている番号は名簿の番号と一致していて、所謂識別番号のようなものである事が窺える。

以上が外見から推測できる事だ。
あといろいろ試して判明した事は殺し合いを目的にしている以上戦闘が起こる事を想定して少々の衝撃では起爆しないという事ぐらいだ。
つまり戦闘による不慮の余波で爆発という結果はプレシアも望む事ではないと推測できる。
ただ首輪を無理やり外そうと試みる行為や過度の衝撃は対象外と考えておいた方が無難だ。

(あと内蔵されている機能があるとすれば……)

まずは爆破機能、位置確認や遠隔爆破などの電波送受信機能、この辺りは確定と言ってもいいものである。
あと考えられるものは参加者の力を抑制する装置。

(しかし、果たしてこの首輪にそれだけの機能が内蔵できるかどうか)

Lが見る限りこの首輪は緩すぎず窮屈すぎず特に気にならない程度の大きさとなっている。
不思議な事に重さもそれほどなく、銀色の冷たい感触さえなければ違和感は然程ないぐらいだ。
だが、Lの知る限りの知識ではこのサイズの首輪に爆破と電波送受信の機能、力を抑制する装置を全て仕込むのは無理だ。
これらの全ての機能をどう小型化しても容量を大幅に逸脱する事は確実だった。

(まあ『魔法』なら可能なのかもしれませんが、ここは私の知る知識で考えてみましょうか)

Lが注目したのは「力を抑制する装置」の存在だった。
実際ザフィーラは『魔力』を、アレックスは『ARMS』を、それぞれいつものようには使えないようだった。
仮に首輪に『魔力を抑制する装置』と『ARMSの力を抑制する装置』が組み込まれているとしよう。
二人の説明を聞く限りでは二つの力(前者は外部の魔力素に作用して使う力、後者は細胞レベルの変化による力)は系統が異なる故に同一の機能では抑制できないと考えられる。
だが、おそらくこれ以外にも未知の力がある事は確実だ。
かがみの持っていたデイパックの中にあった支給品の一つEx-stもその一つだ。
説明書によれば魔法ともARMSとも異なる力『概念』によるところの武器だ。
このような武器があるという事はつまりこの場には概念を使う事の出来る参加者がいるという事に繋がる。
これで制限しなければいけない力がまた1つ増えた。

余談だがEx-stを支給された人物はJS事件後の世界から連れて来られた高町なのはであった。
なのはは最初にデイパックの中を調べたのだが、Ex-stがあるのにデバイスはないと嘆いた。
なのはがEx-stをデバイスだと思わなかった理由は単純にEx-stがあった世界でのデバイスとなのはの世界のデバイスが根本的に違っていたからだ。
なのはの世界ではデバイスとは魔法補助のための道具だが、Ex-stの世界のデバイスとは概念兵器の事を指すのだ。
これによってなのははEx-stをデバイスだと判断できなかったのだ。

それとL自身に支給された最後の支給品「レリック」という一見すると可愛らしい花。
説明書には一言「レリック 可愛らしいでしょう」とこちらを馬鹿にしたような言葉が書かれていた。
だがわざわざ武器の枠を削ってまで入れられた代物だ。
何かしら未知の力があってもおかしくはない。
因みにザフィーラにはまだこの事は言っていない。
八神はやての安否を多大なまでに気遣っているところで聞いては知っている情報も得られないと思って聞いていなかったのだ。
だが今のはやて捜索が終われば前より少しは落ち着いてくれるだろうから一度聞いてみよう。
そうLは頭の片隅で考えつつ、すっと思考を目の前の首輪に戻した。

(おそらくこれ以外にも未知の力が存在する事は明らかでしょう。このカードデッキの力もその1つ。つまり……)

いくつあるかは分からないが、それらを全て制限するなどこの首輪だけではまず容量不足だろう。
では、力を制限しているものは首輪以外に存在するのだろうか。
Lはそれに対して答えはYesだと考えている。
簡単な話、力を制限する装置を外に置けばいいのだ。
この会場内の地上のどこか、もしくは地下、或いは会場外。
既に魔法を制限するAMFという技術が存在する以上プレシアが様々な力に対するAMFのような装置を製作した可能性は否定できない。
少々飛躍している部分もあるが、現状こう考えればLとしては一応の納得は得られた。

(この装置がどこにあるか、今は推測するには情報が少なすぎですね。もっとも元から存在しなければ無駄骨ですけど)

そしてLにはもう一つ首輪についての懸念があった。
最初に確認した通り、この首輪を肉眼で見た限りでは繋ぎ目が見つけられなかった。
しかし、それに対しては繋ぎ目を精巧に隠しているという可能性が提示できる。

(でも、あの転移魔法を使えば――)

最初の広間から参加者を一斉に会場に移動させた転移魔法。
あれを使えば繋ぎ目無しの首輪でも全員の首に付ける事が可能だ。
首輪の中に力を制限する装置があれば難しいかもしれないが、外にあれば実行する事も可能だ。

(ですが、もしこの推測が正しければ少々不味いですね)

当然ながらこの会場内で個人レベルでの転移魔法など使えるはずがない。
それは以前ザフィーラに試してもらった事があったのでLは知っていた。
元より個人での転移魔法が可能なら早々に仲間との合流が可能になるのでプレシアがそれを見過ごすはずないのだ。
つまりLの推測が正しければ首輪を外すためには最初にどこかにある力を制限する装置を破壊、そして転移魔法で首輪を首から転移させて解除する。
こういう手順になる。
もっとも首輪を工学的な側面から解除できる可能性や、元よりLの推測が誤りである可能性もある。

(とりあえず今考えられるのはここまでですね。
 結局ここにいても誰も来ませんでしたし、続きは機動六課隊舎で二人を待ちながらでもやりますか。
 今度は私一人でも使える機材が置いてあればいいんですけどね)

そう全ては仮説の上に成り立つ推測にすぎない。
だがそれはLにとって元々いた世界でキラを追い続けてきた時の事と然して変わりはない。
自らの武器である持前の頭脳を駆使してこの状況を打開する。
それが今の自分がするべき事だとLは考えていた。

(とりあえず念のために今の考えを書き残しておきましょう。その方が後々説明するのが楽になりそうですしね)

Lは自分のデイパックからメモ帳を取り出すと、今考えていた事を書き始めた。
あまり時間はかけられないので要点のみを的確に素早く書き連ねていく様子は流石に世界一の探偵と言ったものだった。
その内容は以下のようなものになった。
  • 首輪の外見は銀色のリング、一通り見た限りでは繋ぎ目は発見できず→隠蔽の可能性あり。
  • 繋ぎ目がないのは転移魔法で首輪を装着した証拠?→情報不足により保留。
  • 裏側には「No.○○-□□□」という表記を確認。○○は名簿の該当番号、□□□は本人の名前の可能性が極めて高い。
  • 首輪は少々の衝撃では起爆する事はない。ただし首輪を無理やり外そうと試みる行為や過度の衝撃は禁物だと判断。
  • 首輪には爆破機能、位置確認や遠隔爆破などの電波送受信機能、参加者の力を抑制する装置がある可能性あり。監視・盗聴については保留。
  • ↑について補足。参加者の力を抑制する装置は首輪内に無い可能性もあり。
  • 参加者の力を抑制する装置の設置場所候補地:会場内(地上or地下)、会場外→情報不足により保留。
5分もしない内にこれらを書き終えると、それをデイパックに入れかけたところでLの目に紫色の四角いケースが映った。

「カードデッキ、ですか」

Lは考える。
カードデッキはこの会場にいくつ支給されているのだろうか。
現在の時間はデスゲーム開始から9時間が経過したところだ。
何もしなくても、あと3時間経てばカードデッキの制約通り所有者が襲われるはずだ。
自分のようにまだ猶予がある者はいい。
だがこの力を戦闘に使い続ければそのタイムリミットはそれだけ短くなっていく。
そのような者がいたとすれば今頃どうしているのだろうか。
そんな妙に感傷的な感想を抱いた事にLは若干驚いていた。

≪00:38≫

『なあ、宿主サマよ。確認したい事があるんだが聞いてくれよ』
「……なんだ」

D-2市街地北部に佇んでいる一人の影。
黒い制服を羽織った少々人相が悪そうな少年の名は万丈目準。
人呼んで「万丈目サンダー」である。
今まさに万丈目は他の参加者に出会うために商店街へ向かおうとした時だったが、その足を誰かが止めた。
万丈目の周囲には声をかけた者がいるはずだが、それらしき人物は影も形もない。
それも当然だ。
今この瞬間万丈目に話しかけてきたのは彼が身に付けている金色の装飾品――千年リングに宿った盗賊王バクラの魂の声である。
千年リングを付けた者にしか聞こえないため傍目からは独り言を喋っているように見える。

『単刀直入に聞くぜ。誰かを生贄にする覚悟はあるのか、ないのか、どっちなんだい?』
「――ッ! 何度も言っているだろ、俺は誰かを生贄にするなんて……したくない」
『はぁ? いつまでそんなこと言っている気だぁ。猶予が切れる時もそう遠くないはずだぜ。その時も宿主サマは同じ事を言うのかよ』

その言葉を聞いて万丈目は一瞬言葉を返せなかった。
確かに猶予の12時間が切れる時までに生贄を差し出さないと死ぬのは自分だ。
万丈目も好き好んで死への道を歩みたいとは思わない。
だが、それでも万丈目には誰かを犠牲にして助かるという方法を選ぶ事を躊躇っていた。

「だが、しかし……」
『それなら他の参加者を守るために自分が喰われる気か。ほんとにお優しい宿主サマだぜ』

実際のところ万丈目にそこまで崇高な自己犠牲の考えは存在しない。
ただ誰かを生贄にすれば、それは殺人と変わりない。
そんな考えが頭にあるから躊躇しているだけだ。
だが万丈目は何とかして自分も他人も死なずにこの問題を解決する方法を考え続けていた。
そして、不意にある考えが浮かんだ。

『おいおい、なんだよ! 正気か!?』

身に付けている者の心が読めるバクラは当然万丈目の考えがすぐに分かったが、同時に驚いた。
その万丈目が出した答えとはミラーモンスターを破壊する事だったのだ。

「ああ、もうこれしかない。これがベストな答えだ」
『せっかく手に入れた力をみすみす手放すって言うのかぁ』
「所詮これは参加者にとっては過ぎた力なんだ。こんな強大な力は無くしてしまった方がいい」
『はぁ? 過ぎた力? 強大な力? 大いに結構な事だぜ! 問題はよ~その力を恐れる宿主サマの心の闇なんじゃねえか?』
「なんとでも言え」

万丈目の意思は固かった。
誰かを犠牲にする力など参加者にとっては災いにしかならない。
恐らくプレシアに狙いはこれによって悲劇を生みだして、殺し合いを進める魂胆なのだろう。
その思惑には乗らずに仲間を集めてミラーモンスターを破壊する。
万丈目一人では無理でも力のある者が一人でもいれば、あるいは何人も集まればきっと実現できるはずだと信じていた。
だが、万丈目の決心とは裏腹にこの時バクラの中にある考えが生まれていた。

『(はぁ~やってられないぜ。けっ、余計な正義感が邪魔だな)』

それは失望という感情だった。
自分の命が掛かれば他人を犠牲にすると思っていたが、逆にここまでの馬鹿だとは予想外だった。
同時に万丈目と同行する意義もどうでもよくなってきて、次に会った参加者に乗り換える事も視野に入れ始めていた。
当然その時は万丈目には済まないが生贄になってもらう。
バクラの目的は己の知るキャロとの再会、そしてこのデスゲームを大いに楽しむ事だ。
万丈目とはたまたま支給先であっただけで別段ずっと一緒にいる事はない。
もっと利用しやすい参加者がいればそちらにした方が都合はいい。

「ん? あれは!?」
『どうしたんだ、宿主サマよ』
「ああ、後ろの方から何か音が聞こえて……」

そんな事を考えていたバクラの思考を遮ったのは宿主である万丈目が急に上げた疑問の声だった。
万丈目はバクラの考えに気付く事もなく、音の正体を確かめるべく首を回し始めた。

≪00:21≫

(主はやて、いったいどこに……)

F-3市街地廃墟の中を進む影二つ。
影の正体であるザフィーラとアレックスは数時間前に廃墟と化したその一帯を捜索していたが、今は大通り沿いに機動六課隊舎へと向かっていた。
Lと別れてから今までずっと八神はやての捜索を行っていたのだが、結局僅かな手掛かりさえも何一つ見つからなかった。
ここまでして見つからない理由はもうここにはいないというものしか二人には考えられなかった。
とりあえず放送では無事が確認された事や約束の10時に間に合う事も合わせて仕方なく捜索を打ち切ったのだった。
ザフィーラは今までの捜索が無駄だったと思うと情けなかった。
こうしている間に別の場所にいるはやてが危機に晒されているかもしれない、そう不安が募って仕方ない。
だが皮肉にもその予感は的中していた。
この時もう既に二人が探している八神はやては数km離れた場所で身代わりのような形でこの世を去っている。
当然二人がそれを知る由もない。

「そうだ、ひとつ聞きたい事がある」
「なんだ」

既にアレックスは第一回放送の内容をザフィーラから聞いている。
死んだ13人の中に知った者もいたが、今はそれよりも聞いておきたい事があったのだ。

「さっき俺が説明した中に出てきたキース・レッドという奴には会った事ないんだな?」
「ああ、俺がここで見かけたのはLと紫髪の少女とお前だけだ」
「……そうか」

放送で呼ばれていないのでまだ生きている事は確かだが、今この瞬間どこで何をしているのかは分からない。
キース・レッドは自分を狙うとアレックスは半ば確信していた。
自分に劣るとはいえキース・レッドは間違いなく強者の分類に入る。
なるべく犠牲者が出ない内に自らの手で殺したいが、これまで有力な情報は皆無という結果だ。

(案外遭遇しにくいのか。俺の他に会ったのが紫髪の少女一人とは……)

そんな取りとめのない事を思いながらもアレックスはザフィーラと共に機動六課隊舎に足を向けるのだった。

≪00:15≫

(なによ! なによ! なによ! なんで、私が、こんな目に、遭わなくちゃ、いけないのよ!!!)

E-2市街地北部を疾走する一人の少女。
Lとザフィーラによって保護された紫髪の少女――柊かがみは必死になって北を目指してただ走っていた。
目的は唯一つ、Lから逃げるためだ。
既にかがみの中ではLは相手を縛りあげて監禁する危険な人物という認識になっていた。
確かにかがみが目覚めた状況からしたらLに対してそんな印象を抱いても無理はない。
だが実際はかがみが罪の意識から逃げたいが為に作った詭弁という側面が大きい。

『自分は悪くない、悪いのは自分以外だ』

そう思わないと自分が壊れてしまいそうな気がして、かがみはそう思い込もうとしていた。
実際今までの事の責任が全てかがみにある訳ではない。
寧ろほとんどの事が不慮の事故、そしてそれに付随して起きた悲劇とも言える。
だが理由はどうあれ『柊かがみが人殺しをした』という事実は変わらない。
この事実が変わらないからこそ、その原因を曲解しようとする。
その考えはまともな思考を通り過ぎ、もはや異常なまでの憎悪の域にまで達しようとしていた。

(私が何をしたって言うのよ! 何も悪い事なんてしていない! それなのに……それなのに――!!)

エリオを殺した――違う! あれは不幸な事故だ! それに私は死を以て償おうとした。
なのはに酷い事をした――違う! 悪いのはなのはだ! 私の償いを遮って挙句に私を助ける事ができたと身勝手な自己満足に浸っていた。
戦いの果てに一人の女性を殺した――違う! あの人達が襲ってきたからだ! 私はただ生きていたい、殺されたくない、ただそれだけだ!

そんな被害妄想に浸るしか今のかがみにはできなかった。
そうでもしないと心の奥にある良心の呵責に押し潰されてしまいそうだから。
それに加えて今のかがみは所謂危機的な状況だった。

『グゥォォォォォオオオオオ!!!!!』
「――ッ! こ、来ないでよ!!」

現在進行形で鋼の犀メタルゲラスに追われているのだ。
おそらく現所有者になったLが口封じのために放ったのだろう。
以前は自分に従っていた怪物が今は牙を向く理由をかがみは必死に逃げながらそう解釈した。
確かにLがメタルゲラスにかがみを捕まえるよう命令して放ったのは事実だ。
だがメタルゲラスはLから参加者には危害を加えるなと厳命されているので仮に捕まっても危険な訳ではない。
またL自身もかがみ一人を放置するのは危険だからという親切心からの行動であり、口封じなど全く考えていない。
だからかがみがここまで必死になって逃げる必要性はないが、その事実を知らない当人からすれば逃げる以外の選択肢など無かった。

あれからこの追いかけっこが始まってだいぶ経つ。
逃げる普通の高校生の柊かがみと追いかけるミラーモンスターのメタルゲラス。
本来なら簡単に終わりそうな逃走劇をここまで長引かせている要因が二つある。

一つはメタルゲラスの状態。
今のメタルゲラスは幾度かの戦闘で全身傷付いている状態だ。
そして食事はおろか満足な休息もない中での命令では本来の力の半分も出せずに動きは大幅に鈍っているのだ。
もう一つはかがみの状態。
今かがみの右手には逃げる途中で拾った白と紺の槍――ストラーダが握られていた。
必死に逃げている途中でかがみが地面に突き刺さっていたストラーダを拾ったのは偶然だった。
セフィロスが使用しているのを見ていたため自分も電撃が放てるので使えるのかと思って引き抜いたのが発端。
咄嗟に接近してきたメタルゲラスに向けてみれば上手い具合に電撃が当てられたのでそのまま持っているのだ。
もっとも電撃が当たったのは電気の通り道ができたからで、別にストラーダの力のおかげでもないのだが。
だが、なんだかんだで逃げるかがみに道々助言を与えていた辺り、ストラーダはかがみに同情しているようだった。

「このっ! 来るな、来るな、来るなァァァアアア!!!」

傷ついた身体に加えて折を見て放たれる電撃でメタルゲラスはかがみとの距離を中々縮められないでいた。
途中の廃墟でザフィーラとアレックスに出会えば運命は違ったかもしれないが、結果的にかがみは誰にも出会う事なく走っていた。
このまましばらく一人と一匹の追跡劇が続くのかと思われたが、終焉は呆気なく訪れた。

「えっ!?」

かがみが地面の凹凸に足を引っ掛けて躓いたのだ。
既にかなりの時間を走っていただけあって体力は限界に近く、再び立ち上がろうにも足に力が入りづらかった。
そして当然その間にメタルゲラスは悠々とかがみの元に辿り着いていた。

「え、あ、来ないで……」

かがみはこの世の終わりが来たかのような心持ちになり、覚悟をきめて目を閉じた。
もう逃げる事も出来ない身である事を悟って、既に俎板の上の鯛のような境地に至っていた。
もうかがみはじっとその場で蹲るだけだった。

≪00:03≫

「さて、そろそろ行きますか」

あれからしばらくデルタのベルトについても少し調べていたが、やはり明らかにLのいた世界にはない技術だった。
つまりはここには多種多様な世界の住人がいる事が改めて見せつけられたのだ。
他の参加者とあまり遭遇できない以上今所持している支給品が多かった事は大いに考察の助けになった。
首輪探知機の方も詳しい事は結局分からずじまいだった。
だがあまりゆっくりしていて本題を疎かにしては本末転倒だ。
良い頃合いだと判断してLは運転席に移動するべく、今まで座りっぱなしの体勢を崩した。
その際いつものようにテーブルに置いている角砂糖を手に取ろうとしたが、なぜか手は空を切るばかりだった。
静かに考え事をしている最中も絶える事なく摂取し続けていたので、とうとう翠屋から持ってきた分がなくなっていたのだ。

「ああ、なくなってしまいましたか。機動六課隊舎にあればいいんですけど」

Lは心から残念そうな表情を浮かべつつもテーブル上の道具をデイパックに詰め直し、一度トレーラーの外へと出た。
別に深い考えがあった訳ではなく、単純に外の空気を吸っておこうと思っただけだった。

そして結果的にその判断が――

≪00:00≫

――Lの運命を決めた。


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