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メビウスの輪から抜け出せなくて(前編) ◆gFOqjEuBs6




本来は、とある街の商店街に存在していた筈の喫茶店――翠屋。
殺し合いとは大凡無縁である筈のこの喫茶店が、ここに存在する理由は誰にもわからない。
確かなのは、このデスゲームが始まってから、既にこの場所には何人もの参加者が立ち寄っているという事。
そして、その一人が彼――ヒビノ・ミライだということ。

「誰もいない……か」

言葉の通り、この喫茶店には誰もいない。
ミライは、なのはやユーノといった、この殺し合いに反発する仲間を求めてこの場所へと訪れたのだ。
しかし、結果は見ての通り。この場所には誰も居ないし、誰かが伝言を残した形跡も無い。
この翠屋の家の子であるなのはか、もしくは翠屋を知っているフェイトのような存在ならば、ここへ来てくれるかと淡い期待を抱いていたのだが、どうやらその当ては外れたらしい。
強いて誰かが来た形跡を挙げるならば、この店の角砂糖が袋ごとごっそり無くなっている程度。
だが、最初から砂糖など眼中にもなかったミライがそれを知る由も無く。

これからどうしようかと、ミライは傍に備え付けられていた椅子へと腰掛けた。
デイバッグから地図を取り出し、テーブルに広げる。そして広げた地図を眺めて、次の行動を思考する。
近くにもっとパッとした施設があればいいが、生憎と翠屋の最寄りの施設は立体駐車場とスーパーのみ。
立体駐車場なんてどこにでも有り触れた建物をわざわざ地図に書き入れる意味がミライにはわからなかったし、
恐らく自分から好き好んで立体駐車場へと向かう参加者はそうはいないだろう。
ならばここから一番最初に向かえて、誰かと出会う可能性があるのは、スーパーだろうか。
おまけにその少し北に向かえば、商店街まで存在する。
ミライが興味を引かれたのは、聞き慣れない施設の多い中心部よりも、一般的に聞きなれたスーパーや商店街といった施設だった。
それは本来ウルトラマンである自分が守るべき街の一部であるし、何よりもミライと同じような思考を持った一般人ならば、ここへ集まると思ったからだ。

そうと決まれば、善は急げだ。
ミライはすぐに荷物を纏めて、翠屋の扉から一歩、外へ出た。
最後に一度だけ、ミライは翠屋店内を見渡した。平和な世界で、平和に過ごす人々の為に造られたこの場所を。
絶対に、生き残った人々と協力して、このゲームから脱出すると誓って。
そして、散っていった者たちの思いは、絶対に無駄にしないと、心に誓って。
その信念を胸に、ミライは長く続く一本道を歩き始めた。
長く続くこの道の先から、狂気に駆られた一人の少女が向かってくるとも知らずに。




長い長い一本道を、ひたすらに走る少女がいた。
ただ真っ直ぐに、目的の場所へと向かって。
その姿は、何かから逃げようとしているようにも思えた。

『オイ宿主サマぁ……本当にこっちで良かったのかよ?』
「うるさい! 南に向かえば、Lがいるのよ!」
『そりゃそうだがよぉ、宿主サマァ……Lがずっと同じ場所にいるとも限らねぇぜ?』

頭の中で響く声に軽い苛立ちを覚えながら、少女は――柊かがみは、奥歯を噛みしめた。
かがみがひたすらに走り続ける理由。それは至って簡単な事。
単純に、“時間切れ間近のモンスターに与える餌を探すため”だ。
かがみの持つカードデッキに与えられた猶予時間は切れかけている。
そして今の自分が生き残る方法は―――
一つ、ミラーモンスターと戦ってこれを打ち倒す。
一つ、とにかく餌となる参加者を探し出して、モンスターに与える。
一つ、誰かにデッキを押しつけてしまう。
つい先程、万丈目にやられたばかりの手段を含めた、三通りのパターンしか今のかがみには思いつかなかった。
そして、このゲームに乗り、全ての参加者を殺して元の世界へ帰ると決めたかがみが取る行動は、素直に餌となる参加者を見つけ出し、モンスターに差し出す事だ。
そうすればベルデの力は引き続き使えるし、自分の命も助かる。一石二鳥だ。
しかし、その為に何処に逃げたか解らない万丈目を追うのは時間の無駄だし、同様に何処にいるかも解らない参加者を探し出すという行動もまた、時間の無駄。
しかし一人だけ例外がいる。唯一かがみが居場所を把握している人物―――

『まぁ、確かにLって奴は自分からあまり動きまわる奴だとは思えねぇけどよ……
 それで目当てのLにも会えず、このままモンスターに食われてお陀仏……なんてマジで勘弁だぜ?』
「あぁもう……うるさいってば! いいから黙ってなさいよ!」

緊張感の欠片も無さそうなバクラの言葉に、かがみは行く宛ての無い怒りをぶつけるように怒鳴り散らした。
最早、頭の中で口出しを続けるバクラに何も言い返せないのだ。
Lがまだ同じ場所にいるという保証は何処にもない。が、しかし今はもうそれに掛けるしか無いのだ。
その為に、時間が切れるまで全力で走り続ける。最早バクラに何を言われても、それは頭に入らず―――
かがみはただひたすらに、走る。走れば走るほどに、聞こえる耳鳴りも強まっていく。
ふと横に視線を向ければ、周囲の建物のガラスから、自分を狙う緑色のカメレオンの姿が見えた。
ベルデのカードデッキの契約モンスター―――バイオグリーザだ。
バイオグリーザは、デッキの猶予が切れるのを、腹を空かせて待っているのだ。
猶予期限までの数分間、こうしてかがみを付け狙い、猶予が切れた瞬間に鏡の世界から飛び出す。
そのままかがみを鏡の世界に引き込み、捕食するつもりなのだ。別に洒落のつもりではないが。
その時がやってくるまでバイオグリーザは、逃げ惑うかがみを見て楽しんでいるかのようにも見えた。
そんなバイオグリーザの影を振り払うように、かがみはただ走り続ける。
その行く先は、奇しくもかがみと同様に逃げるように走り続けた万丈目とは、正反対の方向であった。




(チッ……こりゃちょっとマズイかもしんねぇなぁ……)

かがみの中に潜む闇――盗賊王バクラは、誰にも気取られること無く毒づいた。
かがみはこっちに向かえばLは居ると言うが、それは何の根拠もない。ただその可能性にすがっているだけだという事が、バクラには手に取るように解っているからだ。
バクラにも間違いなく解るのは、Lは頭脳派の参加者であるという事のみ。
今もあの場所に留まっている可能性も無くはないが――その可能性は低いだろうというのがバクラの本音だ。
かがみの境遇を考えるに、この殺し合いでは何が起こっても不思議では無い。突然の事態にLが移動したという可能性も大いにあるのだ。
いや、仮にLが移動していないにしろ、そこまでたどり着けるのかという問題もある。
現に、既にカードデッキの猶予期限は切れかかっているのだから。
それはかがみの周囲のガラスからこちらの様子を窺うモンスターの存在からも一目瞭然。

(あの野郎……今からもう宿主サマを狙ってやがる)

バクラの視線が、バイオグリーザへと注がれる。
バイオグリーザの目はまさしく、虎視眈々と獲物を狙う狩人の目。盗賊時代の自分と同じように。
だからこそ、もうあまり時間がないのだという事はバクラにも伝わっていた。

(どうすっかなぁ……最悪の場合、今の宿主サマを捨てるのもありだが……)

そう、バクラが思考する通り、かがみを捨て置くという手段もあるにはある。
モンスターに食われる直前に、バクラがかがみのからだを乗っ取り、千年リングをどこかへと投げてしまえばいい話なのだ。
しかしそれをすれば、最悪の場合自分は二度と誰にも拾って貰えずに永遠誰かを待ち続ける羽目になる可能性もあるし、
また万丈目のような正義面した参加者に拾われる可能性もあるのだ。故にそれは最悪の場合として、視野に入れておく。
バイオグリーザの影を振り払うように走り続けるかがみの姿を見れば見るほど、言いようのない焦りがバクラに募っていく。

と、その時であった。
がむしゃらに道路を走り続けるかがみの行く先に、一人の男が見えたのは。
青いジャケットを着た男が、視界のずっと先でこちらに向かって走っているのだ。
――男を見つけるや否や、バクラの表情から不安の色は消えていた。

『おい、停まれ! 停まれ宿主サマッ!!』
「何なのよ!? もう時間が――」
『いいからこの先を良く見てみろ』
「え……?」

突然停まったせいか、全身から汗を吹きだしながら、かがみはぜえぜえと息を切らす。
それでもかがみは、バクラが視線を送る先を見上げ―――

「あ……あれは……!」
『そうだ宿主サマぁ! やっと見付けた獲物だ! やるこたぁわかってんだろうなぁ!?』
「わ……解ってるわよ……! もう万丈目の時みたいなミスは犯さない……」
『よぉし、じゃあ早速朝食を食わせてやろうじゃねぇか、腹を空かしたモンスターによぉ!』

青年を見つけたのは、バクラにとっては幸運以外の何者でも無かった。
あの男を食わせてしまえば、目下の問題は解決、おまけにベルデの力も補充できる。
さらに好都合な事に、あの男はまだこちらの存在に気付いてはいない。
たとえ残りの猶予時間であの男を食えと命令したとしても、まだギリギリ時間は間に合う筈だ。
最悪時間切れを起こしたとしても、あの男を食って猶予が再チャージされるなら問題はない。

「悪いけど……ここで死んでもらうわよ……」
(そうだ、それでいい! あの男を食って、お前も立派な殺人鬼の仲間入りだ!)

バクラの思い通り、かがみは視線の先の男を指差していた。
バイオグリーザとしても、ちゃんと餌が与えられるのであれば主人を襲うつもりはない。
すぐに標的を男へと変え――鏡の中へと潜んで行った。




翠屋を出たミライは、まっすぐにスーパーへと続く道を前進していた。
どうやらこの空間にいる限り、通常時のミライの体力は普通の人間並になってしまうらしい。
だがそれでも、ミライは自分に出来る限りの全速力で駆ける。
一刻も早く、このゲームから脱出しようとする仲間と出会うために。
だが、皮肉なことにミライが翠屋を出て最初に遭遇するのは、そういった所謂“対主催参加者”では無く――

それは、ようやく翠屋が見えなくなってくるかという程の距離を走ったミライを襲った出来事であった。
真っ直ぐに走り続けるミライの身体に向かって伸びるのは―――真っ赤な、舌。

「……ッ!?」

ミライが気付いた時には、反対側の歩道――その建物のガラス窓の中から、真っ赤な舌が飛び出していた。
凄まじい速度で飛んでくる舌を、しかしミライは咄嗟に飛びのく事で回避。
寸での所で回避には成功するが、咄嗟の事に思考が追いつかない。

「一体、何なんだ……」

それが、この事態に陥ってからミライが発した最初の言葉だった。
ミライが混乱している間にも、赤い舌は先程と同じく高速でガラスの中へと戻っていく。
舌が完全にガラスの中に入る頃には、敵の気配も完全に消える。だが―――
次の瞬間には、ミライの真後ろに位置するガラスから、緑のモンスターが飛び出していた。
モンスターに組みつかれたミライは、咄嗟に態勢を崩し―――
そのまま一回転、二回転と地面を転がり、そのままの勢いで突進してきたモンスターを投げ飛ばした。

「お前は何者だ!?」

問うが、モンスターは答えない。
ミライに投げ飛ばされたモンスター。その外観から、どうやらカメレオンに似た生物なのだろうと判断。
モンスターはそのまま起き上がり様に、口から長い舌を飛ばす。
が、同じ手を二度も食らうミライではない。眼前の敵に応戦する為、左腕を翳す。
炎を纏い、現れたのはメビウスブレス。ミライを光の戦士へと変化させるブレスレットだ。
そのまま両腕を前方に突き出す事で、モンスターの舌を弾き返す防護壁を形成。
ウルトラマンメビウスの技の一つ――メビウスディフェンサークルだ。
弾き返された舌は、そのままモンスターの元へと戻っていく。
同時に左手のメビウスブレスに右手を翳し―――その腕をモンスターへと突き出した。
メビウスブレスの中心――クリスタルサークルで集束されたエネルギーが、光弾となってモンスターを襲う。
光弾が命中したモンスターは、体を爆ぜさせながら大きくのけ反った。
人間の姿を借りた、地球人として生活していたこの姿でも、ミライは数々の宇宙人と戦ってきたのだ。
そんなミライが今更、碌な知能も持たないミラーモンスターとの戦いで遅れをとることなど、考えられなかった。

「答えろ! お前は一体何者なんだ!」
『………………ッ!』

再度問うが、答えは返っては来ない。
ただ己へと向けられる殺気でもって、威嚇を続けるのみだ。
この反応から、恐らくこのモンスターは参加者では無いのだろう。そう、ミライは判断した。
恐らくは――クロノが使っていたあの赤い龍のような存在。主人に仕える、怪獣の一種だろう。
だとすれば、何処かにこのモンスターを扱う主人が居る筈だ。
ミライはモンスターを視界から外さないように注意しながら、周囲を見回した。
すると、翠屋とは反対方向の道路から、とぼとぼと歩いてくる一人の少女が目に入った。
胸にはやたらと目立つ金色の首飾り。長い紫髪をツインテールに結んだ、学生服の少女だ。

「君は……――」
「何で……私の思い通りに行かないのよ……どいつも、こいつも……ッ!」

少女の声は、ミライにも解るほどに、怒りに震えていた。
そんな少女の怒りに呼応するかのように、緑のモンスターが再び舌を飛す。
が、今度はミライに向かって飛ばした訳では無い。狙ったのは―――上空の電線だ。
電線を舌で掴んだモンスターは、そのまま宙に浮かびあがり、少女とミライの間に立ち塞がった。
まるで、少女を守るかのように。間違いない。この怪獣は、この女の子と何らかの関係がある。ミライがそう判断する。
次に少女がポケットから取り出したのは、少女の手より少しばかり大きな、長方形の箱。

刹那、ミライの脳裏に、一人の少年の姿が思い浮かぶ。
何処か、何処かであれと似たものを見なかったか? 聞くまでもない、今もまだ、ミライの記憶に焼き付いて離れない記憶がある。
そうだ。自分たちの――皆の命を守るため、最後の最後まで勇敢に戦ったあの少年と、同じ箱ではないか。
その少年は――クロノは、今の少女と同様に長方形の箱を取り出し―――
それを、クロノはどうした? 確か、箱を小さな手鏡に翳して―――
ミライがそれを思い出すのとほぼ同時。少女は、緑の箱を真横の窓ガラスに翳した。
ここまで、あの時のクロノとほとんど同じ動作。つまり、次に起こる出来事は―――変身だ。

――一緒だ。あの時と……クロノくんの時と……!

ミライがそれを理解するのに、そう時間はかからなかった。
少女の腰に巻かれたのは、やけに大きな銀色のベルト――Vバックル。

「ちょ、ちょっと待って……!」
「――変身」

ミライが制止の声を発するが、既に遅かった。
少女は手に持った箱を、ベルトに装填し―――その姿は、いくつもの虚像が重なり。
ミライが言葉を言い終える頃には、既に少女は少女では無くなっていた。
そこに居たのは、何処かカメレオンのような装甲を纏った緑の仮面ライダー―――ベルデだ。

「残った時間、全部を使ってでも――あんたを殺す!」

死にたくない。こんなところで、死にたくない。
低く唸るような少女の声が、ミライには生き残るために必死な、一人の人間の声に聞こえた。
ある意味では被害者とも言えるであろう少女に、ミライは―――




バイオグリーザであの男に奇襲を掛ける。
あの男に気取られる前に、一撃で仕留めて、カードデッキの残り時間を補充する。
仮に一撃で仕留められなかったにしろ、自分達がこれほどまでに恐れたモンスターからの襲撃に、耐えられる人間などいる筈がない。
それが柊かがみと、バクラの完璧な筈の作戦であった。勿論、この作戦が間違っているとも思えない。
しかし、状況はかがみの思い通りにばかり行く訳もなく。
あろうことか、男はバイオグリーザの攻撃を回避し、反撃に打って出たのだ。
ただでさえ切羽詰まったこの状況で、こんな予想外の抵抗を受ける。流石の二人も焦らずにはいられなかった。

「何なのよ、アレは一体……!」
『チッ……どうやらアイツも妙な力を使う参加者らしいぜ、どうする宿主サマ』

バクラの問いに、かがみは俯き――思考する。
どうすればいい? このままでは、バイオグリーザだけでは、あの男を時間内に仕留められる保証はない。
寧ろ残った数分では、あの男との決着を付けられないかもしれない。いや、寧ろその可能性の方が高いだろう。
それでは困るのだ。もしも決着が付かぬまま時間が切れてしまえば―――自分は間違いなく喰われる!
それだけは、その結末だけは絶対に避けたい。
ならばどうすればいい? どうすればあの男を倒せる?
それを考えた結果、かがみが出した答えは―――

『オイオイ……本気かよ宿主サマぁ!?』
「問題ないわよ。残った時間で、アイツを殺せればそれでいいんだから」

バクラの視線の先、かがみがポケットから取り出したのは、ベルデのカードデッキ。
このカードデッキを使って、バイオグリーザと共に闘い―――あの男を殺す。
本来デッキの契約モンスターと共に闘うのが、デッキを渡された仮面ライダーの戦闘スタイルでもあるのだから。
どのみちもう迷ってる暇は無かった。
どういう訳か、バクラの表情も何処か嬉しそうに歪んでいる気がしたが、もうそんなことはどうでもいい。
今のかがみを突き動かすのは、生き残るための手段―――あの男への殺意だけだった。
故に、もうバクラの声も、あの男の声も頭には入らない。
ただ殺意という感情に突き動かされるままに、あの男の眼前へと歩み出る。

「――変身」

カードデッキを装填することで、いくつもの虚像がオーバーラップし、仮面ライダーの鎧を形作る。
目の前の男は驚愕に表情を歪ませている。悪いが、今のうちに仕留めさせて貰う。
否―――悪いが、等という感情は最早存在しない。それが当たり前のように、柊かがみは男を殺すつもりであった。
そうだ。これは自分が生き残るための手段。“自分が悪い”のではなく、“こうするしか方法は無い”のだ。
バイオバイザーからカードキャッチャーを伸ばしたベルデは、一枚のカードをベントインした。

――HOLD VENT――

聞こえる電子音声と共に、手に握られるヨーヨー状の武器。
これがベルデの専用武器――バイオワインダーだ。
かがみはベルデの能力を知っていた訳では無い。ただ、武器になるものをと望んだ結果、引いたカードがこれだったのだ。
刹那、かがみはヨーヨーを男に向けて飛ばす。
男は例の如く光のバリアでそれを防ぐ。そんな事は予想通りだ。
男がバリアでヨーヨーを弾き返した瞬間、男の真後ろに回り込んだバイオグリーザが、その舌を飛ばす。

「ぐあ……っ!」

凄まじい速度で迫る舌は、男が何らかの反応を取る前に、男の背後を直撃した。
苦痛に表情を歪めた男を、今度は前方からバイオワインダーで攻める。
男は咄嗟に、右腕で左腕のブレスを擦り、光弾を発射。バイオワインダーにぶつける事で弾き返す。

「……どうして、こんな事をするんだ! その力で、誰かを救うことだって出来る筈なのに!」

男がよろめきながらも、問いかけてくる。
勿論そんな戯言に付き合うつもりは無いし、ここで殺すつもりの男とまともに話をするつもりもない。
ベルデは無言のまま、再びワインダーで男を攻める。
しかし今度は、飛び退いて回避する。どうやら、普通の人間よりも運動能力が高いらしい。

「やめてくれ! 僕は君と戦うつもりはない!」
「なら、死んでよ……!」

それだけ言うと、再びベルデはヨーヨーでの攻撃を再開。
契約猶予時間限界ギリギリにまで迫ったバイオグリーザも、隙を見付けては男に攻撃を仕掛ける。
半分以上の攻撃は光のバリアと、あの腕から出す光弾で叩き落としてはいる。が、やはり生身の男と仮面ライダーとでは、力の差は歴然。
徐々に男へのダメージは蓄積されていき、勝利が近づいているのが目に見えるようだった。
最初の一撃で食う事が出来なかったこの男を餌にするには、弱らせて食らわせるしかない。
その一心でかがみは、男を蹂躙する。このまま行けば、自分は助かる。生き延びることが出来る。
そんな考えの元に、残虐な子供のように男を傷付け続ける。タイムリミットが、すぐ目前へと迫っている事にも気付かずに。




―――僕はどうすればいいんだ。
ミライは、ベルデの攻撃を受け続けながら、思考していた。
あの少女もまた、プレシアに殺し合いを強要され、無理に戦わされている参加者の一人なのだろう。
それは彼女の悲痛な声を聞けば、痛いほどに良くわかる。ミライにはあの叫びが、少女の心の涙としか思えなかったのだ。
こんな事をしなくたって、助け合えば絶対に脱出出来る筈なのに。それなのに、彼女にミライの声は届かない。
皆の命を救うために――誰かの為に、自分の身を投げ出してまで勇敢に戦ったクロノと、同じ力を使っているという事は一目見ただけで解る。
それなのに、その力の矛先は正反対。誰かの為に使う力と、自分の為だけに使う力。
自分のことしか考えていない――それを言ってしまえば、今のかがみはあのジャーナリスト、ヒルカワと同じだ。
己の利益の為だけに、ミライを、そしてCREW GUYSの仲間たちを貶めるような記事を書いたあのヒルカワと、何も変わらない。
何も変わらない筈なのだが―――生き残るために必死に戦っているかがみとでは、何処かが、何かが違う気がした。
それが解っているから、ミライにはどうしていいのかが解らないのだ。

「話を聞いてくれ! 僕たち皆が助け合えば、こんなゲームだってすぐに終わらせることが出来る筈だ!」
「うるさい、私にはもう時間がないのよ……あんたを殺さない限り、私はここで死んじゃうのよ!」
「どうしてなんだ! そうじゃないだろう!」

怒鳴るように言うと、ミライは再びメビュームスラッシュを発射。ミライが放った光弾は、見事緑の鎧に命中。
ベルデの装甲に命中したメビュームスラッシュは、ベルデの動きを止めるには十分だった。
今だとばかりに、ミライは態勢を立て直し、大きく息を吸いこんだ。

「どうしてちゃんと話し合おうとしないんだ! 僕なら、他の皆なら、何か力になれるかもしれないのに!
 君がそんなに必死に誰かを殺そうとするのは、何か理由があるからじゃないのか!?」
「力になる? 無理よ。諦めて殺されなさい!」
「く……ッ」

しかし、ミライの声は届かない。
ベルデは声色一つ変えずに、ヨーヨーを飛ばす。
しかし、それを回避はしない。ミライはそれを出来る限り弾きながら、前へと進む。
だが、それでも落とし切れなかった数発はミライの身体を打ち付ける。
一撃、一撃と。受けるたびにミライは地にひれ伏しそうになる。が、ミライはくじけない。
もしもミライがただの人間ならば、とうの昔にくじけていたことだろう。
だが、ミライはウルトラマンだ。ウルトラマンは、どんな状況でも、絶対に諦めはしない。
最後まで希望を捨てず、信じる心の強さが不可能を可能にする。それがウルトラマンなのだ。
ミライはそれを、立派な兄弟たちと、共に闘う仲間たちから教わったのだ。
故に、ここで負ける訳には行かない。この少女を救う、その為に、ミライは前進を続ける。

「君を、必ず救ってみせる……! だから、僕を信じてくれ!」
「しつこいのよ……いい加減に、しなさい!」

ミライが、ベルデの眼前に迫る。
しかし、凍てついた少女の心に―――ミライの声が届く事は無かった。
既にダメージが蓄積されたこの身体に、重い一撃を受ければどうなるか。それは想像に難くない。
言葉とともに、至近距離まで迫ったミライの身体に打ち込まれたのは、10トン以上にも及ぶ強烈なパンチ。

「が……ぁ……ッ」
「……さよなら」

さよなら、と。それがミライが最後に聞いた言葉だった。
薄れていく視界の中で、ベルデの隣にバイオグリーザが並び立つのが見える。
だが、ミライに、それと戦う力はもう残されてはいなかった。




『ヒャハハハハハ! やるじゃねぇか宿主サマァ! とっととコイツを食わせて、次の獲物を探しに行こうぜ!』
「言われなくてもわかってるわよ……ほら、とっとと食いなさい」

かがみは冷たく言い放つ。
最初は何の変哲もないただの少女だったのに、この数時間でついに自力で殺人まで犯した。
その事実に、バクラは心底笑わずにはいられなかった。これで自分が助かると思えば、それは尚更の事。
ベルデの言葉に釣られるように、バイオグリーザがミライの傍に立つ。
これでようやく食事にありつける、と。バイオグリーザは嬉しそうにミライへと手を伸ばした。
――その時であった。

「……何やってんのよ、早くそいつを食べなさいよ!」
『オイ……何か様子がおかしくねぇか?』

ミライに手を伸ばそうとしたバイオグリーザが、その動きを止めたのだ。
何が起こったのか、疑問に思いながらも二人はバイオグリーザに視線を集中させる。
否―――もう何が起こったのか、頭では理解しているのだ。ただ、それを理解してしまうのが嫌だった。
ここまで敵を追い詰めて、餌まで用意して、ようやく助かった。そう思ったのに。

『まさか……! ここまで来て時間切れだと!?』
「そんな、冗談じゃないわよ! 餌は目の前にあるのに、何で!」

かがみが言うと同時に、バイオグリーザはベルデへと向かって長い舌を発射する。
咄嗟にバイオワインダーでそれを受ける。ベルデが構えたバイオワインダーはその舌に巻かれ―――
大きく開かれたモンスターの口内へと、消えていった。
それを見たかがみの思考が、一気に凍りつく。自分もこんな風に食われてしまうのか?

「い、いや……死にたくない……こんな、ここまで来て……!」
『チッ……こうなったら戦うぞ、何としても生き延びろ!』
「わ、わかってるわよ! 絶対死なない! 絶対生き延びるんだ!」

強い口調で怒鳴るバクラ。かがみは必死にそう応え、デッキから一枚のカードを取り出した。
例の如くそれをバイザーに装填し、電子音声がカードの名前を読み上げる。

――CLEAR VENT――

電子音声が鳴り終わる頃には、ベルデの姿は不可視のものとなっていた。
これで奴の目を欺いて、逃げる。とにかく逃げる。
それがかがみの講じた作戦。だが、バクラには一つの懸念が存在した。

(悪くはねぇ……悪くはねぇけどよ……)

それは至って単純な問題。少し考えれば解ること。
“そもそもカメレオン相手に不可視が通用するのか”というもの。
ましてや、この仮面ライダーの力はバイオグリーザから借りているものなのだ。
モンスターの力を借りて戦うライダーが、そのモンスター相手に戦えるのか?
――というのがそもそもの疑問。
今こうしている間にも、ベルデはひたすらに走り続ける。
バイオグリーザとの距離はどんどん開いて行くが―――

「う……っ!?」

必死に走って、ようやく100メートル近くの距離を駆けたところで――かがみの、声にならない嗚咽が漏れた。
見れば、ずっと後方から続く真っ赤な舌が、ベルデの首に巻きついていたのだ。
バイオグリーザの舌の長さは、距離にして600メートル。たかだか100メートル近く逃げたところで、それはほとんど意味を成さなかった。
舌に掴まれたベルデは必死に逃げようともがくも、モンスターの力は凄まじく、だんだんと元居た場所へと引きずられて行く。

『ったく、なんて長さしてやがんだ……化け物が!』
「バ、バクラ……このままじゃ、私……食べられちゃうよ……!」
『冗談じゃねぇ! 宿主サマが食われちまったらお終いじゃねぇかよ!』

バクラの言うとおり、この状況でベルデの鎧をまとったかがみが食われれば――。
千年リングを外す事もままならないまま、かがみと一緒に仲良くお陀仏だ。
かといってここでバクラがかがみを乗っ取っても、何も出来ることはない。
ベルデの鎧に包まれている限り千年リングは外せないし、仮に変身を解除したとしても、恐らく助かりはしないだろう。
バイオグリーザの怪力に引かれながら、こうして踏ん張っているのは、ベルデの仮面ライダーとしての力が大きいからだ。
もしもここで変身を解除すれば、千年リングを外す間もなくかがみは一瞬で食われることだろう。

気付けばベルデは、成す術も無いままに、バイオグリーザの眼前にまで引きずり寄せられていた。
ベルデをすぐ目の前にまで引きずり出したバイオグリーザが、ベルデの体をがっしりと掴む。
そんなモンスターから逃れるため、ただ生き残るため、ベルデは我武者羅に手足をじたばたさせる。
だがそんなかがみの行動も無駄の一言に尽きる。モンスターに首を掴まれ、後ろ向きに引っ張られているという状況で、何も出来ることが見当たらないからだ。
バクラも何か助かる手段はと、思考をフル回転させるが、こんな時に限って案は思いつかない。
そしてついに―――ベルデの身体に、バイオグリーザがかじりついた。

「バクラ……助けて、バクラ……!」
『チッ……』
「嫌……死にたくない……バクラぁ……助けて……!」

かがみが、弱々しい声で言葉を紡ぐ。
しかしバクラにどうにか出来る問題では無く。
ベルデの仮面の下、かがみが一滴の涙を流した―――その刹那。

諦めかけたかがみとバクラの視界に広がったのは、光。
眩いばかりの輝きを放ちながら、“∞”の形をした光が広がっていくのが、かがみにも確認出来た。
何が起こったのかも分からずに、ただ光を見つめるだけしか出来ないかがみが、ぽつりと呟く。

「メビウスの……輪……」

どういう訳か、∞の光を見たかがみの口から最初に出た言葉が、これであった。



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