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しにがみのエレジー。~名もなき哀のうた~ ◆9L.gxDzakI




 広大な学校のグラウンドに、1つ佇む影がある。
 赤い影はアーカード。真祖の吸血鬼たるアーカード。
 長身のコートの裾をたなびかせる、真紅の人影が佇んでいる。
 眼下に倒れ伏すは主君の遺体。少し視界を傾ければ、数時間前に屠った恐竜の死骸。
 されど血吸う鬼の魔眼は、遥か上空を眺めていた。
 したたる鮮血のごとき双眸が、ぼんやりと陽光へ向けられていた。
 太陽。
 夜の一族(ミディアン)と称される吸血鬼にとって、最も忌むべき凶悪な天敵。
 アーカードほどの吸血鬼でなければ、即座に焼き殺されるであろう煉獄の業火。
 されど不死なる王の視線は、その太陽にも向けられてはおらず。
 されど不死なる王の視線は、その先の魔女の声へと傾けられる。
 思い返すのは先の放送だ。
 首輪から流れる声を聞いた時、ふと6時間前のことを思い出した。
 そういえば、最初の放送を聞いていなかったと。
 かのアレクサンド・アンデルセンとの闘争に没頭し、最初の放送を聞き逃していたと。
 不思議と、あの神父のことを思い出していた。
 何かを暗示するかのように。
 真実、それは暗示であった。

 ――アレクサンド・アンデルセン。

 それが真っ先に呼ばれた死者の名だ。
 新たに死亡した9人の参加者のうち、一番最初に呼ばれた名だ。
「逝ったか、神父」
 ぽつり、と呟く。
「お前も私を置いて逝ってしまうのか」
 アンデルセンは死んだ。
 ヴァチカン特務13課・イスカリオテが誇る、最強の化物掃除屋が。
 あの死と破壊をもたらす砲弾に引き裂かれ、互いに離れ離れとなった後に。
 自分の預かり知らぬままに、何者かの手によって殺された。
 否、あるいはあの瞬間、既に命はなかったのかもしれない。
 激烈な猛威を振るう光球に飲み込まれ、塵一つ残ることなく消え去ったのかもしれない。
「無様な、ものだぞ……」
 声が震える。
 僅かに揺らぐ。
 握り締めた右の拳が。
 左手に掴んだパニッシャーが。
 かたかたと微かな音を立て、アーカードの全身が揺れ動く。
 その手を、その肩を、その身体を震わせるものは。
 誇り高き不死王(ノスフェラトゥ)をも駆り立てる、抑えきれぬ激情の正体は――
「……巫山戯るなよ、アンデルセンッ!」
 遂に吸血鬼は絶叫した。
 白き十字架の先端を、グラウンドの大地に叩きつけた。
 極大の憤怒をその声に滲ませ、極大の憤怒にその顔を歪ませ。
 堰を切ったかのように、己が激情を爆発させて。
 怒れる吸血鬼アーカードの叫びが、びりびりと大気をも振動させた。
「貴様それでも殺し屋か! 貴様それでもイスカリオテが鬼札(ジョーカー)か!」
 アレクサンド・アンデルセン。
 史上最強のユダの司祭(ジューダス・プリースト)。
 HELLSINGが掃除屋として新生して以来、最も興味をそそられた男。
 化物じみた再生能力を持ちながら、何者よりも化物を否定した、確実に人間であった男。
 最も頑強なる人間であり。
 最も容赦なき人間であり。
 最も狂おしき人間であり。
 最も誇り高き人間であり。
 最も好ましき人間であった。
 こいつにならば殺されてもいい、などと生ぬるいものではなく。
 こいつ以外に殺せる者はいない、と思わせるほどの男であった。
 幾度となく刃を交えた最強の宿敵。
 夢の幕引きにふさわしい最高の好敵手。
「このおれをくびり殺すのではなかったのか!
 それがどこの誰とも知れぬ輩に、糞のように殺されたとでもいうのか! 恥を知れ! 恥を知れ!! 恥を知れ!!!」
 そのアンデルセンはもういない。
 史上最強の宿敵は死んだ。
 史上最高の好敵手は死んだ。
 神の代理人であったはずのあの男が。
 神罰の地上代行者であったはずのあの男が。
 故にどこまでも神ではなく、故に果てしなく人間であったあの男が。
 絶滅させるべき異端共の巣窟の中、逆に何者とも知れぬ輩に絶滅させられた。
 無様なものだ。
 止め処ない怒りがこみ上げてくる。
「殺ったのは誰だ! おれから奴を奪い去ったのは何者だ! 狗か!? 人か!? 化物か!?」
 否。
 その憤怒はアンデルセンに向けられたものではなかった。
 その灼熱の怒りの矛先は、名も顔も声も知らぬ何者かであった。
 狗が囲って嬲り殺したか。
 人が知恵を使って謀殺したか。
 化物が力にものを言わせて捻り殺したか。
 許せない。
 たとえ誰であろうとも。
 矜持もなくただ群れるだけの狗。
 力及ばず姑息な手を弄した人間。
 無力に耐えられなかった化物。
 そのいずれにも、アンデルセンを譲ってやる気などなかったというのに。
 なんと狂おしき怒りの形相。
 なんと狂おしき悲しみの形相。
 加害者に抱くものこそが怒りならば、被害者に抱くものはすなわち悲しみ。
 もう二度と奴とは戦えない。
 もう二度と奴に期待はできない。
 最も期待すべき人間には、もはや何一つ期待することは許されない。
 最愛の恋人にも等しき。
 最高の親友にも等しき。
 最強の宿敵との永別。
 最低の形での永別。
 手を伸ばした先にあったかもしれない死を失い。
 永遠の生の牢獄に、また、独り。
「………」
 怒りが、悲しみが。
 静かになりを潜めていく。
 独り全てをぶちまけた吸血鬼が、その顔に平静を取り戻していく。
 くっ、と。
 首を傾けた。
 足元で眠る女性へと、己が真紅の視線を向けた。
 主君インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング。
 この6時間で命を落としたもう1人の人間。
 最期の瞬間に再会し、最期の命令(オーダー)を残して逝った女だ。
 その言葉には逆らえない。
 その言葉になら従える。
 500年前のエイブラハム・ヴァン・ヘルシングの血を引くに相応しき、この女の言葉にならば従ってもいい。

 ――見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ! 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ! そして、あのプレシアを……

 それが最後に下された命令だ。
 全ての邪魔者を殲滅せよ、と。
 であればこの状況において、我らHELLSINGの邪魔者とは一体何だ。
 何がHELLSINGの邪魔になる。いかなる目的の邪魔となる。
「やはり、プレシア・テスタロッサか」
 それが殺人(マーダー)のターゲットだ。
 国教騎士団HELLSINGの目的とは、かのナチスの残党共の殲滅。
 狂った少佐に率いられた、あの恐るべき大馬鹿共達に、今度こそ敗北と絶滅を叩きつけること。
 女王直々に突きつけられた任務だ。
 その最大の障害は、言うまでもなくあの黒髪の魔女だ。
 奴を叩き潰さねばならない。
 あの女をこの手でくびり殺し、速やかに元の世界へと帰還せねばならない。
 最後に言いかけた言葉からも、あのプレシア・テスタロッサが最大の標的であることは、論ずるまでもない事実だ。
 ならば、どうする。
 どうすれば魔女の根城へとたどり着ける。
 この箱庭にそれらしき場所はどこにもない。であれば、外に出なければならない。
 そのためには――
「……首輪を外してみるか?」
 す、と。
 白い手袋の指先で、鉄の首輪の表面をなぞった。
 全ての根源はこの首輪だ。
 この首輪をつけた時からおかしくなった。
 首輪をつけた時から命を握られ、首輪をつけた時から力が衰えた。
 放送もこの首輪から聞こえてきたものだ。
 であればこの首輪こそが、奴が自分達参加者を管理するための端末。
 それが外れたならばどうなる。
 自分達の管理下にない者が生まれたらどうする。
 処分するしかない。
 迅速に始末するために人手を割くしかない。
 いかに魔法技術を持っているといえど、これほど大掛かりなゲームを1人で管理することは不可能なはずだ。
 であれば、奴には必ず手を出す余裕がある。
 ルーク・バレンタインやトバルカイン・アルハンブラのような。
 多かれ少なかれ必ず下僕を用意していて、それを自分の元へと送り込んでくる。
 そしてそれらを呼び寄せれば、それらがこの箱庭へ飛んでくる手段が明らかになるはずだ。
 その手段を利用すれば、逆にこの箱庭から飛び出すことも可能になるはずだ。
 仮にそうでなかったとしても、こんなものに命を握られていては、さしものアーカードも太刀打ちできない。
 ここに目的は決定した。
 首輪を外す。
 そしてプレシアの元へたどり着き、かの魔女を打倒する。
 目的地は工場でいいだろう。道中、機械に詳しい者を探してもいいかもしれない。
 どちらにせよ、ここから工場まではそれなりに遠い。残念だが、闘争に興じている時間はない。
「いや」
 ふ、と。
 不意に浮かぶ、笑み。
 必ずしも闘争が望めないというわけではない。
 避けなければならない戦いとは、自分から敵に突っ込んでいくという戦いだ。
 敵から自分に突っ込んできた戦いなら、避けてならぬという道理はない。
 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ――インテグラからの命令にも合致する。
 幸いにも、自分は既に多くの人間に恨まれた。
 それらと顔を合わせれば、確実に向かってくることだろう。ならば、全く闘争が楽しめないというわけではない。
「喜ぶがいい、セフィロス。どうやらまだ、お前には構ってやれそうだ」
 あの男へと呼びかけた。
 漆黒のコートを身に纏い、銀色の長髪をたなびかせる麗人へと。
 暗黒の片翼をはためかせ、薔薇の魔剣を振るう化物へと。
 自分に敵意を抱いている、数多の者共の最強の1人へと。
「存分に妨害をしてみせろ。熱烈に立ちはだかってみせろ。
 お前が全身全霊をかけて邪魔をするならば、私も全身全霊をかけて、正当防衛を行使してみせよう」
 もはやあの男だけだ。
 仇敵と呼べるのはセフィロスだけだ。
 最も倣岸な無礼者。
 最も不遜な挑戦者。
 これまで相対してきた化物の中でも、とびきりに面白いと思える男。
 アンデルセンが最高の人間なら、セフィロスは最高の化物だ。
 殺し合いに乗ったあの男は、間違いなく自分の邪魔者たり得る。
 故に顔を合わせれば、今度こそ決着をつけることができる。
「待っているぞ」
 あの男こそは自分の獲物だ。
 自分だけに殺す権利があるのだ。
 今度こそ――誰にも渡してなるものか。
 ざく、と。
 グラウンドの地面を踏む。
 大地を踏み締め吸血鬼は進む。
 新たに課せられた命令(オーダー)の下に。
 最後に課せられた命令(オーダー)の下に。

 ――俺はいく。お前はいつまで生きるのだ。哀れなお前は、一体いつまで生きねばならぬ?

「膨大な私の過去を、膨大な私の未来が粉砕するまでだ」
 耳に聞こえた気がした声に、微かに笑みを浮かべて応じた。
「なに、直ぐだ。宿敵よ――いずれ地獄で」
 そう呟く吸血鬼の微笑は、どこか寂しげな色を宿しているようでもあった。


【1日目 日中】

【現在地 D-4 学校の校庭】
【アーカード@NANOSING】
【状況】健康、昂ぶり、アンデルセンの死への悼み、セフィロスへの対抗心
【装備】パニッシャー(砲弾残弾70%/ロケットランチャー残弾60%)@リリカルニコラス
【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
【思考】
 基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
 1.プレシアの下僕を誘き寄せるために、工場に向かい首輪を解除する。
 2.積極的に殺し合いに乗っている暇はないが、向かってくる敵には容赦しない。
 3.工場へ向かう道中で、首輪を解除できる技術を持った参加者を探してみる?
 4.セフィロスは自分の手で殺す。アンデルセンを殺した奴も殺す。
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る二人とは別人である事に気付きました。
※パニッシャーは憑神刀(マハ)を持ったセフィロスのような相当な強者にしか使用するつもりはありません。
※第1回放送を聞き逃しました。
※ヘルメスドライブに関する情報を把握しました。
※セフィロスを自分とほぼ同列の化物と認識しました。
※今回のゲームはプレシア単独で実行されたものではなく、共犯者ないし部下が協力していると考えています。
 また、首輪が解除された場合の主催者の対処法が、「刺客を送り込んで強制的に排除させる」というものだと考えています。



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