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いきなりは変われない(前編) ◆HlLdWe.oBM




なんでこんなことになったんだろう?


     ▼     ▼     ▼


目覚めてまず目に入ったのは広い天井だった。
つまりそれは今自分が外ではなく、どこか建物の中にいる事になる。
しかも天井の広さから考えると建物の規模は相当なものらしい。

とりあえず状況を整理しよう。

私は誰だ?――チンク。
稀代の科学者ジェイル・スカリエッティことドクターが生み出した戦闘機人、その5番目に当たる。
全員で12人から構成されるナンバーズという姉妹の中で私は姉としてまとめ役に徹する事が多い。

そして今はデスゲームという名の殺し合いに参加させられている。
同じくナンバーズからはクアットロとディエチが参加させられて、既にディエチは帰らぬ身となった。
まったく姉として不甲斐ない限りだ。
そして私も不意を突かれて両腕を文字通り焼失して、それから――。

そこで記憶は途切れているが、おそらく気を失ったのだろう。
確か気を失う前は外にいたので誰かが建物の中に運んでくれたのだろう。
ここに運んでくれた者が殺し合いに乗っていないのか、または情報欲しさに助けたのかは分からない。
今はこんな身になっても生きているだけで良しとしよう。
そうだ、生きてさえすれば何か手は打てるはずだ。

たとえこの身が動かなくても、私を運んだ者にせめて――。

「ダメだ、やはり俺が行こう」
「でもルルーシュ」
「こいつが目を覚ました時、お前が傍にいないと話ができないだろ」
「……まあ、そうだけど」
「なら、スバルはここに残れ。そんなに心配するな、もうすぐこなたやレイも戻ってくるはずだ」

不意に男と女の声が聞こえてきた。
男の声には聞き覚えがなかったが、女の声には聞き覚えがあった。

『タイプゼロ・セカンド』スバル・ナカジマ。

なるほど、彼女ならこの対応も納得がいく。
たとえ敵対していても管理局に所属するタイプゼロ・セカンドが怪我人を放置するはずがない。
しかもその姉であるタイプゼロ・ファーストは私達が目の前で拉致している。
その行方を聞き出すために助けたという可能性も高い。
どちらにせよ最終的に殺される可能性がだいぶ低くなって安心した。

「ルルーシュ、大丈夫かな」

同行者の名前はルルーシュか。
先程までどちらがここを離れるかで言い合っていたが、ルルーシュという者が行く事になって奥の方に入っていった。
私が起きた時のためにタイプゼロ・セカンドを残すと提案した事。
そこから考えてどうやらこちらの事情をある程度把握して且つ的確な判断が下せる人物のようだ。
なかなか有能な参加者だ……だが、なぜだろう。何かが頭に引っ掛かる……。

「あ、チンク! よかった、気が付いたんだね!」

ようやく私の意識が戻った事に気付いたか。
怪我のせいで身体が思うように動けなかったからこちらからコンタクトが取れなかったが、これでその問題もクリアだ。
そういえばタイプゼロ・セカンドは地上本部襲撃の時にかなりのダメージを負っていたはずだが、そのようには見えないな。
ああ、なるほど。
少し考えれば分かる事だ、つまりは私と一緒か。
私と同様にこの殺し合いに参加させるに際してプレシアが修理したのか。
だがそれはこの際置いておこう。

「一応ある程度の手当てはしたけど、その、あの……」

そう言ってタイプゼロ・セカンドは私から目を逸らした。
だがその目がチラチラと私の全身そして『両腕のあるはずの場所』に向けられている事はすぐに分かった。
全身火傷を負った上に両腕を失った私を気に掛けているのか。
どうやら本気で助けようとしているようだ。
それなら尚更安心だ。

「あ、そうだ。さっきチンクのデイパックの中身見ていたらさ、なのはさんの実家のシュークリームが入っていたから食べなよ。
 ほら、何か食べた方が身体には良いからさ」

ほう、精一杯の励ましか。
さっきから一言も喋っていない私をなんとか元気づけようとしてくれるのか。
だが少しずつ口に運ばれるシュークリームはかなり美味しかった。
おそらくミッドチルダに店を出せば評判は上々だろう。
今私の胸の中には敵同士でなければもっと違う関係を築けただろうという悔やむ気持ちが微かにある。
全く奇妙なものだ。
だがこうして敵味方関係なく接するタイプゼロ・セカンドなら任せられる。

「……た、頼みが……あ……」
「チ、チンク! え、頼みって、なに!? なんでも言ってみて!」

まさか敵に頼む事になるとは思ってもみなかったな。

「クアットロを……妹の事、た、頼んだぞ……」

まるで遺言だな。


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少し前までは普通に生活していたはずだったのに。


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「……どうしたらいいんだろう」

目の前に横たわる銀の長髪の少女チンクを眺めながら、青のショートカットの少女スバル・ナカジマは悩んでいた。
あれから少し話した後、チンクはまた眠りに就いてしまった。
どうやら思った以上に体力を消耗していたらしく、当分は安静にしておいた方が良さそうだ。
結局チンクはシュークリームを一つ食べただけで残りはスバルが支給されていた食料と一緒に頂いていた。

だがその僅かな間にいくつか分かった事がある。
まず一つはチンクが殺し合いをするつもりがないという事。
これだけでスバルは幾分ほっとした。
もちろん嘘という可能性もあったが、今のチンクの様子からそれはないと判断した。
どのタイミングでここへ連れて来られたのかは聞けなかったが、これなら穏便に話は進められる。
そしてもう一つは今まで出会った参加者の情報。
少なくても黒髪に黒コートの少年、アンデルセン、ヴァッシュは確実にデスゲームに乗っているらしい。
一方で天上院明日香、ユーノ・スクライア、アンジールは味方となり得るらしい。
ちなみにルーテシアの事をチンクはスバルに伝えていない。
まだ憶測の域を出ないのでしばらくは伏せておく事にしていたのだ。

スバルにとってチンクが明日香やユーノと知り合っていた事は幸いだったが、逆に素直に喜べない事もあった。

一つは黒髪に黒コートの少年。
どうもレイの知り合いの万丈目準という少年と風貌が一致するようだ。
そうなると万丈目はレイの危惧通り危険だと判断するのが妥当だろう。
もう一つはアンジール。
名前から参加者名簿に載っているアンジール・ヒューレーという参加者に間違いない。
チンクから詳しい経緯は聞けなかったが、そのアンジールはアンデルセンに襲われていたチンクを助けたらしい。
その行為だけ見れば良い人に思えるが、よく考えれば単純にそうとは言い切れない。
つまりチンクの味方だがスバルにとっては味方ではない場合もあるのだ。
元々スバルとチンクは敵同士であり友好的になったのはつい最近だ。
だからアンジールがチンクにとって味方であって、スバルにとって敵という可能性は十分ある。
さすがにこれは実際に会ってみなければ判断しかねる。
この問題は一時保留として、ルルーシュやみんなが戻ってからまた考え直した方が良い。
他にもクアットロの事も考えなくてはならない。
だがこればかりは拘束という形で保護する事で妥協してもらうしかない。
いくらチンクの頼みとはいえ相手があの悪名名高いクアットロでは用心せざるを得ない。
あとは先程回収したチンクが持っていた名簿の件もある。
これも後々みんなと話し合っておかなくてはならない。

(それにしてもルルーシュ、大丈夫かな?)

現在ルルーシュは保健室にシーツなどの補給に出向いている。
チンクの応急処置とこれからの事を考えて必要だと判断しての行動だった。
最初はスバル自身が行くと言ったのだが、チンクと話せるのはスバルだという理由でルルーシュが行く事になった。
正直なところスバルはルルーシュにあまり無理はさせたくないと思っていた。
まだ怪我も応急処置だけで安心できない状態な上に先程のシャーリーとの一件だ。
シャーリーと断定する要素はルルーシュの態度だけだが、それ以外に考えられなかった。
あれからルルーシュとその事について話していない。
だが顔には出さないが相当参っている事ぐらいスバルでも分かっていた。

(何もなければいいけど――)

いろいろと物思いに耽りつつ最後のシュークリームで栄養補給を終えたその時――。

『6時間ぶりね。みんな、ちゃんと聞いているかしら』

――悲報を告げる二度目の放送が始まった。


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平凡だったあの日々がなぜか遠くに感じられる。


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「今度は9人。全体の人数が減った事を考えるとペースは変わらずか」

ルルーシュは二度目の放送をデュエルアカデミア内の廊下で聞いていた。
特に問題もなく保健室での用事を済ませてスバルの元へ帰る途中にその放送は始まった。
今回禁止エリアに指定されたA-4は初めての施設が存在するエリアだ。
そのエリアには神社という施設があったが、ルルーシュ達はまだ誰一人として訪れていなかった。
果たしてそこに何があったのか。
現状その答えをルルーシュが知る術はない。
そしてこの6時間で死んだ者は9人、デスゲーム開始からこれで22人、既に全体の3/1以上が死んだ事になる。
だがその事実よりも今回発表された死者の内容の方がルルーシュにとっては何よりも重要だった。
それはつまり放送の内容によってスバル達が受ける影響が深刻であると考えていたからだ。

(まず俺とこなたは大丈夫だ。俺は間接的に知った者ばかりで、確かこなたも同じはずだ)

しかしこなたの場合は知り合いと言っていたフェイトの名が上がった事が唯一の心配点ではあった。
だが前の放送でも同じ立場の高町なのはの名が上がっていたが、ある程度受け入れていたようだ。
今回もいくらか悲しみはすれど大きな問題にはならないと判断していいだろう。

(そしてチンクは情報不足なので保留。次にスバルだが――)

スバルの場合。
今回スバルの関係者で名が上がった者は実姉のギンガ、上官のフェイトとはやて、そして仲間のザフィーラ。
実に死者9人中4人がスバルの知り合いなのだ。
たまたま事前にフェイトの死は知っていたとはいえ内一人は実の姉だ。
いくらスバルが毅然とした態度を取っても相応のショックを受けているはず。
しかも前の放送でも6人の知り合いが死んだ事が発表されている。
前の放送も含めて気持ちを整理するための時間が必要かもしれない。

(しかしスバルはあれで強い奴だ。きっと大丈夫だ……問題は、レイだな……)

レイの場合。
これが最大の問題だった。
今回発表された死者の中にいた遊城十代という人物はレイの知り合いの一人だ。
しかもレイと最も繋がりが深い参加者である可能性が極めて高い。
その根拠はレイと情報交換をした時の発言だ。
あの時知り合いの人物関係を聞かれたレイは次のような答えを返した。

『遊城十代、万丈目準、天上院明日香の3人です』

この時レイが真っ先に上げた参加者が他ならぬ遊城十代なのだ。
あのような場合たいてい反射的に最も思い入れがある人物を先頭に持ってくるものだ。
他にも五十音順でない事や異性である男性の名という事からも推測できる。
つまりレイにとって遊城十代はこのデスゲームの中で最も気に掛ける人物という事になる。
それがどういう関係だったかは知らないが、これは由々しき事態と言えよう。
レイはスバルと違って普通に生活を送ってきた只の一般人だ。
そんな彼女が今回の悲報を聞いて大人しくしているとは到底思えない。
最悪の場合今回の放送の内容に耐えきれずにパニックに陥る可能性さえある。

この時ルルーシュはある人物の事を思い出していた。
それは先程出会ったシャーリーだ。
ルルーシュ自身キスするまで知らなかったが、シャーリーはルルーシュに恋をしていたのだ。
だがルルーシュが最愛の父を死に追いやったゼロだと知ると、シャーリーはルルーシュを殺そうとしたのだ。
結果的にシャーリーのルルーシュへの想いが凶行を止めたが、一歩間違えればルルーシュが死んでいた可能性は十分にあった。
だからルルーシュは十代を失ったレイがシャーリーのような行動に出るかもしれないと思ったのだ。
そしてその矛先はレイの行動を縛った自分達にも向けられる可能性もあった。

(これは不味い事になったな。もしレイがそんな事になれば余計な被害が出てしまう。そうなる前にいっそ――)

無味乾燥な寂しい廊下がルルーシュの脳裏に暗い影を落としていく。
そうつまりレイがパニックに陥る前に禍根を断とうというのだ。
備えあれば憂いなし、疑わしきものは排除するべきだという思考が即座にルルーシュの頭の中で組まれていった。

(――いや、何を考えているんだ。そんな事をすればスバルやこなたに反発される事は明らかじゃないか)

ルルーシュは一瞬浮かんだ最悪のシナリオから目を背けさせた。
なによりまだ何もしていないレイを殺すなど正気の沙汰としか思えない。
むしろそのような状態にならないようにレイに精神的なケアを施すべきだ。

(いったい俺はなんでこんな事を……焦りすぎだ。疲れているのか?)

実際先程からルルーシュは身体がだるいと感じていた。
ここに来てから実に波乱な出来事ばかりだった。
特に病院での金髪男との邂逅は九死に一生を得る程の危機であった。
そのような事があったために身体にいつも以上に負担が掛かっているのだと結論付けた。

(少し荷物をデイパックの中に仕舞って負荷を軽くするか)

今ルルーシュが身に付けている物は元から着ているゼロの衣装、そして拳銃とインカム、それとアサルトライフルだ。
アサルトライフルは元々スバルの支給品だが、ミッドチルダには質量兵器がないから扱うのに難があると言うので受け取っていた。
スバルの戦力を削るようだが慣れない武器では逆に不利になる可能性もあったので、そこはルルーシュも納得していた。

(ここでアサルトライフルを使う事はないだろう、とりあえず仕舞っておくか。
 それとインカムは……付けておくか……、なんだかディエチの遺品みたいになってしまったな。
 あと拳銃は――う……)

そこでルルーシュの視界は一瞬ぼやけ、そして続いて若干の眩暈を感じるようになった。
身体の気だるさと相まってルルーシュは立っている事さえ覚束なくなり始めていた。
さすがにこれは不味いと思って軽く頭を振って気持ちを切り替えようとした瞬間――。

――小さかった揺れは大きくなり、一度きりのはずの揺れが何故か二度三度と続いた。

(え、なんだ? 視界が暗く――)

そしてその揺れが身体全体に広がった時、ルルーシュは廊下に倒れ伏していた。


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でも、もうどうしようも出来ない。


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「さっきの施設の話ですけど――」

泉こなたと早乙女レイ。
ルルーシュの元へ異変を告げるべく急いでいた二人の頭上から声が掛けられたのは少し前にルルーシュが通った廊下だった。
二人に声を掛けたのはレイに支給されていた人格搭載型のユニゾンデバイスであるリインフォースⅡ。
ここで話の見えないレイにこなたは先程の施設に関する危惧の説明をした。
つまり人が集まりそうな機動六課や地上本部は既に破壊されているのではないかと。

「こなたが抱いている危惧はむしろ他の施設の方が当てはまると思うんですよ」

この会場内にミッドチルダを知る者が何人いるかは知らないが、まず全員という事はない。
実際にこなたはここに来るまで存在すら知らなかったし、ルルーシュやレイも大して知ってはいなかった。
そのような魔法やミッドチルダを知らない者にすれば首輪解除のために向かう施設は当然機動六課や地上本部ではなくなる。
彼らにとって首輪解除のために向かう施設は一般的に知れ渡っている工場や軍事基地となるはずだ。
つまり破壊される可能性が高い施設とはそういった誰でも知っている施設になるのだ。

「だから結局どこも同じだと思うんですよ」
「そっか、確かにそうだよね。いやあ、『あたし』もまだまだ――あっ!?」
「どうしたの?」
「……一人称が『ボク』から『あたし』に戻った」

こなたはこれより2時間前にルルーシュから『一人称を『ボク』に変えろ』と云うギアスをかけられていた。
これ以降こなたの一人称はいつもの『あたし』から『ボク』へと変わっていた。
そして今『ボク』から『あたし』への一人称が戻ったという事はルルーシュの絶対遵守の力ギアスの効力が切れた事を意味する。
それに逸早く気付いたリインはすぐさま持続時間の確認に入った。
リインにはギアスの継続時間を計るという役目が課せられていたからだ。

「だいたい2時間というところですね」

素早く出されたリインの答えにこなたとレイは複雑な表情を浮かべた。
このデスゲームにおいて2時間も相手を意のままに操れるとしたらそれはかなり有利だ。
だが相手に下せる命令は一度だけ、しかもそのたびにルルーシュに相応の負担が掛かってくる。
この結果をルルーシュがどう思うかは正直本人がいないと分からなかった。

「そうだリイン。時空管理局ってあたしたちを助けに来られる程の力あるの?」

いきなりのこなたからの質問にリインは少し驚いたが、こなたは真剣だった。
スバルもリインも時空管理局なる組織に所属している以上、元の世界からいなくなれば何かしらの騒ぎになるはずだ。
つまり時空管理局がプレシアの企みを察知して救援にやってくる可能性があるのだ。
これはこなたにしてみればゲームにおける援軍ユニットのようなものだ。
これがあるのとないのとでは今度の戦略に多少なりとも影響あると思ったのだ。

それは今まで大して何の力にもなれなかった自分に焦った結果だったのかもしれない。
その焦りがどんな小さな事でもいいからみんなのために役に立ちたいとこなたを急かすのだろう。
そしてこれがどんな情報でも活用できないかと必死に頭を働かせた結果だった。

「うーん、確かに時空管理局は次元世界の秩序を司る組織。このような事態なら既に捜索が為されていると思います。でも――」

リインはそう前置きしてから自分の考えを述べていった。
曰く、時空管理局の助けは期待できない可能性が高いと。
それがリインの出した結論だった。

まずこのような大規模な企てを管理局の目から隠蔽し続ける事は困難であるはずだ。
少なくとも管理局や元の世界の仲間が既に何らかの捜索の手を打っていると考えていいだろう。
だがその一方でプレシアは一度管理局にアリシア復活の計画を破綻させられた経緯がある。
しかもプレシア自身も以前はミッドチルダの中央技術開発局で第3局長として働いていた経歴を持っている。
これらの事から当然ながら管理局の力の程はよく知っているはずだ。
その上でこのような大規模な殺し合いをするという事は余程管理局に察知されない自信があると考えて間違いない。
さらにいくつものパラレルワールドから参加者を連れて来るという事はその世界の数だけ管理局の目に留まる可能性が高くなる。
例えばスバルとリインは別の世界から連れて来られたので、それぞれスバルの世界の管理局とリインの世界の管理局が捜索の手を打っているはずなのだ。
これは参加者の一部であるので本当のところはもっと多くの世界の管理局が何らかの行動を起こしているはずだ。

それにもかかわらず未だ管理局が動いているという兆しが全くない。

つまりこのデスゲームはかなり高度に隠蔽されている可能性が極めて高い。
それゆえにリインは時空管理局の助けを得るのは難しいという結論を出したのだ。
もちろんこれはリインが管理局の力を信じていないという事ではない。
むしろ管理局に所属して直にその力を知っているからこそ辿り着いた結論だ。

「そういう訳であまり外からの援軍は期待できないかもなのですよ」
「そっか。でも一度失敗しているから同じ過ちを繰り返さないようにするのは当然だよね」

リインの回答に質問した当人であるこなたは少し落胆しつつも一抹の同意を示していた。
そして改めてプレシアが一筋縄ではいかない相手であると再認識するのであった。
外からの援軍が期待できないという事はますます中にいる自分達が何とかしないといけない。
これからの険しい道のりを考えてこなたは少々表情を暗くして、それを見てリインも一抹の不安を隠せないでいた。


このままならこの話はここで終わるはずだった。
二人の傍で全てを聞いていた一人の少女さえいなければ――。


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いまさら後戻りなど出来るはずがない。


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「ルルーシュ、ルルーシュ! しっかりして!」

誰だ、俺の名前を呼ぶのは。
誰だ、俺の眠りを妨げるのは。

「やっぱり傷口が化膿しています。は、早く治療しないと!」

ん、この舌足らずな声はリインフォースⅡか。
それにさっきの声はこなたか。
いったいどうしたんだ、そんなに慌てて?
それに俺は何をして……。
確か保健室にシーツを取りに行って……エントランスに戻る途中で……どうやら気を失ったようだな……。
疲労か、貧血か、あるいは両方か。
それによく考えてみればここに来てから目まぐるしくて何も食べていなかったな。
いろいろな要因が重なって廊下に倒れこんだのか。
そしてそこに通りかかったこなたとリインが俺を見つけて――ん、向こうにもう一人いるな。

あれは……レイか……?
まだ視界がぼやけてはっきりとは分からないが、あの赤い服装はレイで間違いないな。
でもなぜ離れた場所に立って、両手に拳銃を――。

え?

おい待て。

レイが両手に握っているあれは――俺が持っていた拳銃じゃないか!?
いつのまに取られたんだ!?
それよりも確かあの型はSIG P220だったはず、あれなら多少の無茶でレイでも撃てるぞ!

そうか。
レイ、やはり十代の死のショックで自暴自棄になったのか。
残念だ、だがそれなら仕方ないな。

スバルを、みんなを守るためにも、お前には死んでもらう!

「ヒッ!?」

突然レイが小さな悲鳴を上げた。
それに釣られてかこなたとリインも何か異常が起きていると察知したらしい。
だがもう遅い。
レイ、今頃見つかった事に気付いて身体が震えているのか?
それは好都合だ、その隙にチェックメイトだ!

「レイ、俺に従え!」

だがそのギアスはレイに届く事はなかった。
それを阻んだものはこなたでも、リインでも、ましてやレイでもなく――。


――天から降り注ぐ瓦礫だった。


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また何人も人が死んだ。


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ここで時間は少し巻き戻る。

「そんな……ギン姉まで……」

デュエルアカデミアのエントランスで放送を聞き終えたスバルは呆然としていた。
一応禁止エリアと死者は放送を聞きながら書き記しておいた。
そして最後のプレシアからの提案を聞き終えた時、スバルは深い悲しみに包まれていた。
今回発表された死者は9人。
1回目の放送より減っているとはいえ全体の人数から考えれば殺し合いは止まる事なく順調に進行しているようだ。
それだけでもスバルは悲しみと憤りを隠せなかった。
だがそれ以上に死者の中に知っている名前が6人もいた事がスバルを悲しみへと誘っていった。

アレクサンド・アンデルセン――先程チンクから聞いた危険人物(誰であっても人の死は聞きたくなかった)。
遊城十代――レイの知り合い。
八神はやて、フェイト・T・ハラオウン、ザフィーラ――機動六課の仲間。

そして――ギンガ・ナカジマ。

スバルの実の姉もこの6時間で死んでしまった。

スバルは泣いていた。
身体から悲しみを吐き出すように。
最初はすすり泣くように、そして次第に嗚咽を交えて泣いた。
ここまで発表された死者22人のうち、スバルと縁のある者は10人にも及ぶ。
普通ならその悲報に押しつぶされそうなところだが、皆を守ると決めたスバルは込み上がる感情の激流に耐えていた。
だがそれでも耐えきれずに泣く事もある。
しかもギンガは実の姉であり、スバルと接していた時間が最も長い。
もしかしたらギンガは別の世界のギンガでスバルの知っているギンガでなかったかもしれない。
それでも悲しいものは悲しい。

(ギン姉……ギン姉……)

ふと思い返せばギンガとの思い出が鮮明に思い出される。
そのたびにスバルはまた涙を流すのだった。
今ここには前の時のように守るべき対象であるこなたやルルーシュはいない。
一応チンクがいるが、すぐに目覚める気配はない。
だから少しぐらいなら情けない姿も晒せた。

だから今のうちに悲しみは全て出し切ろう。
そして気持ちの整理が付いたらまた新たに進もう。

そんな事を思ってスバルはまた涙を流そうとして――。

「誰!」

――来訪者の存在に気付いた。

下を向いていたのですぐには分からなかったが、足音が聞こえたので気付いたのだ。
スバルはすぐに気持ちを切り替えて来訪者の正体を確かめるべく顔を上げた。
年頃の少女だった顔は一瞬で鍛え抜かれた魔導師の面に変貌した。

そしてスバルの視線の先にエントランスホールの入口に身体を半分隠してスバルの様子を窺う一人の少女がいた。
ホテルの従業員のような服を着た紫髪のツインテールの素直そうじゃない少女が。


     ▼     ▼     ▼


もう余計な事は考えないでおこう。


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柊かがみとバクラは二回目の放送をホテルのロビーで聞いていた。
プレシアの声で進行する放送を聞きつつ禁止エリアと死者を名簿と地図に記す作業は淡々としたものだった。
唯一かがみの手が止まったのは死者の名前にLの名前がない事に気付いた時だった。。
だがすぐにバクラとの協議の結果、万丈目のように誰かにカードデッキを押し付けて難を逃れたのだろうと結論付けた。
王蛇のカードデッキが放置されていて今のところ問題なく使用できている点が何よりの証拠だった。
Lは少女を縛りあげて監禁するような危険人物であるから自分の命欲しさにそういう行動に出ても不思議ではなかった。
ちなみに一回目の放送の内容もバクラから聞いていたので禁止エリアで爆死という心配もなくなり安心した。

そしてもう一点死者の中にこなたとつかさの名前がなかった事がかがみにとってはほっとできる事であった。
だがそんな甘い考えは捨てた方がいいと同時に思った。

その後相談の結果、二人はまずはデュエルアカデミアに向かう事にした。
バクラ曰く、早く行かないと他の奴に使える物を全部持って行かれるかもしれないからと。
その意見にかがみも賛同して、途中の映画館はひとまず素通りする事にした。
もう既にかがみのバクラへの信頼はかなりのものにまで昇華していた。
それはここに来てから最も真摯に対応してくれた者がバクラであったというところに寄っている。

そしてすぐにホテルを引き払ったが、その際のかがみの姿はホテル到着時と変わっていた。

まず身に付けている服装がナンバーズスーツからホテルの従業員の服装に変わっている点。
これは汗や埃で汚れた下着や潮臭いスーツを替えたいというかがみの要望が理由だった。
ホテルの従業員が使う部屋を見つけたついでに下着と服を拝借したのだ。
ちなみにナンバーズスーツも着替えたのはナンバーズスーツだと身体のラインがくっきりと見えるという理由もあった。
今までの服装と比べて従業員の服装は清潔且つ淫らではなく、何より見慣れた服装なので安心できるものだった。
その事でバクラが少々渋っていたが、そこはかがみの意見を尊重する事で合意した。

もう一つは持っている道具だった。
かがみがホテルに来た時、持っていた道具はEx-stという白い砲塔型のデバイスだった。
だが今かがみが持っている物はサーフボードのようなもの――ライディングボードになっていた。
それはナンバーズ11番ウェンディの固有装備であり、元々はエリオに支給されたものだった。
だがエリオはそれを確認しないまま命を落とし、巡り巡ってかがみの手に渡ったのだ。
その説明書きを見た結果少しコツを掴めば誰でも乗れるという事に気付いた二人がこれを使わない理由など無かった。
これを使えば歩くよりも早く移動できるようになり、それは行動範囲が広がる事に繋がる。
一方でEx-stは邪魔になるようなので今はデイパックに仕舞っている。

そして移動を開始してライディングボードをなんとか上手く乗れるようになった頃、かがみはデュエルアカデミアに到着した。
そこで最初に目にしたものがエントランスの中央で泣き崩れている青のショートカットの少女と傍らで横になっている少女だった。
遠くからではこれ以上の事は分からなかったのでもっと近くで様子を探ろうとしたその時――。

「誰!」

――青髪の少女に気付かれてしまった。

いきなり顔を上げてきたので当然ながらきちんと姿を隠す時間などなかった。
当初は慎重に身を隠しながら近づいて様子を窺ってから行動するつもりだったが、呆気なく破綻してしまった。
こうなれば強硬手段に出るしかないかと観念したその時――。

「もしかして柊かがみさん?」
「え? なんで私の名前を知っているのよ?」

――なぜか初対面の相手に名前を呼ばれた。


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私は死にたくない、生き残りたい、ただそれだけが望み。


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スバルは困惑していた。

確かにエントランスの入り口にいた少女は柊かがみであった。
だがここでスバルにとって複雑な問題が持ち上がった。
かがみはスバルの事を全く知らなかったのだ。
元々スバルがかがみの事を知っているのはこなた経由で情報を得ていたからだ。
そして「ゆーちゃん」という人物のクラスにスバルが転入してきた事もこなた経由での情報だ。
だから当然親友であるかがみもスバルを知っていると思っていたのだが、そうではなかったらしい。

しかしスバルにはその原因に心当たりがあった。
参加者がそれぞれ別々の世界や別々の時期から連れて来られた可能性だ。
つまりここにいる『柊かがみ』は『こなたの世界の柊かがみ』ではないのだ。

実際にこなたとかがみの間では僅かなズレがある。
詳しく言うと、こなたはなのは達が転校してきてしばらく時間が経過した時から連れて来られたのに対して、かがみは転校初日の夜から連れて来られている。
なぜプレシアがそのような事をしたのかは杳として知れないが。

そしてスバルはかがみを混乱させないためにも参加者が別々の世界または時期から連れて来られている可能性について話した。
最初は呆然と聞いていたかがみも説明が終わると何やら深刻そうな表情になっていた。
自分の知り合いが実はそうではないかもしれないという事実が判明したのだから至極当然の反応だ。
しかも現時点で既にこなたとかがみは別の世界または時期から別々に連れて来られた事が確定したのだ。
一般人のかがみにとってその衝撃は相当なものだろう。
現にその事を知ったかがみは一人で考えたいと言ったきり、少し離れた場所で何か呟いていた。

それをスバルは黙って見ていた。
下手に余計な事を言ってかがみを刺激するのは良くないと思ったからだ。
だからそっと見守って時間が経ったらまた話そうと考えていた。
そんな事を考えていると不意にルルーシュの事が心配になって来た。

(それにしてもルルーシュの帰りが遅い気がする。やっぱり私が行けば良かったかな)

スバルはかがみと同様に保健室に向かったきり音沙汰ないルルーシュの事も気に掛かっていた。
本来ならもうとっくに帰ってきてもいい時間だ。
いくらルルーシュが本調子でないとはいえ遅すぎる程である。
やはり自分が探しに行くべきかとスバルが腰を上げた瞬間、いきなりエントランスに少女の声が響いた。

「そう、そうなのね」

それは先程まで落ち込んでいる様子を見せていた柊かがみのもの。
だがその事実をスバルは信じられなかった。
なぜならかがみの声には禍々しいものが混じっているような気がしたからだ。

「あ、はは、あはは、あはははは――!!!!!」

それはひどく破滅的な笑い声だった。
明らかに女子高校生の出すような笑い声では断じてなかった。

「え、かがみさん、どうし――」

その時スバルは気付いていなかった。
かがみの笑い声があまりにも異常だったために――。

『ッシャァァァァァアアアアア!!!!!』
「――ッ、スバル!!!」

――鏡の向こうから迫り来る敵に気付けなかった。


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また一人殺した、でも仕方ないでしょ。


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それに気付いたのは偶然だった。
ふと薄ら寒い殺気を感じて目が覚めたのだ。
これは虫の知らせと言うべきものか。
とりあえずそんな事はどうでもいい。
殺気の正体はすぐに分かった。
床に転がっている空のペットボトルとビニール袋。
おそらく食事の跡と思しきその残骸に紫の蛇が映っていた。

『ッシャァァァァァアアアアア!!!!!』
「――ッ、スバル!!!」

蛇が飛び出すのと私がスバルを突き飛ばすのはほぼ同時だった。
そういえばいつのまにか呼び方がスバルになっているな。
まあ、あの怪我でよく咄嗟にここまで動けたものだ。

だが身代わりに私が蛇に喰われてしまったがな。

結局、姉がしてきた事は何だったのか。

いや、もうすぐ死ぬ身だ。

いまさらあれこれを考える事もないか。

タイプゼロ・セカンド――いやスバル・ナカジマ、後は頼んだぞ……。


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もう私の手は血で汚れている。


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「うそ、チンク……チンク――!!!」

それは一瞬の出来事だった。
スバルの注意が一瞬疎かになったちょうどその時に起こった出来事だった。
だが何が起こったのかは把握できた。
紫の蛇に喰われかけたスバルを庇ってチンクが代わりに紫の蛇に喰われた。
言葉にすればそれだけで済むような出来事の中でチンクは死んだのだ。

(あ、あたしの不注意で死んだんだ……あたしがもっとしっかりしていればこんな事には――)
『ッシャァァァァァアアアアア!!!!!』
「う、プロテクション」

だがスバルにチンクの死を悼む暇はなかった。
チンクだけでは喰い足りぬかのように獰猛なベノスネーカーはスバルに再度襲いかかって来たのだ。
しかしスバルも同じ過ちは繰り返さないとばかりにプロテクションを展開してベノスネーカーの進行を阻む事に成功した。
ベノスネーカーの毒牙とスバルのプロテクションが競り合い、一進一退の様相を呈していた。
だがいくらなんでもベノスネーカーの巨体をいつまでも支えているのは今のスバルでも無理があった。

(不味い、このままだと競り負ける。どこかで打点をずらして体勢を整え『Aufmerksamkeit!(警告!)』え!?)

その刹那、レヴァンティンの警告を理解する間もなく背後から放たれた凶光がスバルの無防備な背中を飲み込んだ。


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だから決めた。


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