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想いだけでも/力だけでも◆9L.gxDzakI




 ――力がないのが悔しかった。


 ぐわん、としなる音が鳴る。
 空を切り裂くどころでなく、大気を踏み潰さんばかりの重量感。
 傷を負わせたは負わせたが、あの程度ではまだ戦闘に支障ないらしい。
 極太のミラーモンスターの尾が、彼女の顔面目がけて振り抜かれた。
 スバル・ナカジマの頭へと、紫のベノスネーカーの体躯が、鞭のごとく襲いかかった。
 ぐっ、と。
 思いっきり身を反らして避ける。
 まさに間一髪の回避だ。文字通り青色の前髪が、数本千切れてはらはらと舞った。
 姿勢を立て直した彼女の元へと、入れ替わりに襲いかかるのは鎧の戦士。
《SWORD VENT》
 仮面ライダーだ。
 紫電の甲冑を身に纏い、毒蛇の意匠を持った仮面ライダー王蛇だ。
 今やコブラの魔人と化した柊かがみが、目にもとまらぬ速さで突っ込んでくる。
 やはり、速い。
 その姿を見た時から、あれがハイパーゼクターの説明書にあった、仮面ライダーなのではないかと思っていた。
 そしてこの人間離れした速力である。
 間違いなくかがみのものではない。何らかの強化が施されているのは明白だ。
 であればその正体は、マスクドライダーシステムなる強化服に他ならない。
 びゅん、と鳴る裂空。
 振り下ろされたのは黄金の刀剣。
 巨大なコブラの尻尾を模した、ソードベント・ベノサーベルだ。
 紙一重の動作でこれをかわす。
 殺到するのは更なる追撃。
 縦に、横に、斜めにと、次々と繰り出される斬撃の連続。
 されど先のベノスネーカーのそれに比べれば、幾分か読みやすい素人の剣術。
 相手が素手でなかったことが幸いした。
 どう考えても、かがみは戦闘経験の乏しい一般人である。
 対してスバルは、シューティングアーツを会得した、接近戦のスペシャリスト。
 そんな相手に、腕力に物を言わせて攻撃を当てられるのは、せいぜいパンチやキックまで。
 より複雑な技術を要する武器を持ったままでは、確実に命中させられるわけがない。
 とはいえ、終始余裕というわけではない。
 狙いは確かに拙いが、振りそのものは速いのだ。
 何度か冷や汗をかいているし、おまけにこちらにはもうバリアジャケットがない。
 殺傷設定の刀剣型デバイスなど、一撃でも食らえば命が危ない。
 故に、ばっ、と跳び退る。
 バックステップで鋭く地を蹴り、アームドデバイスのリーチ範囲外へ。
 着地した地点の足元を見れば、そこに転がるのは瓦礫の欠片。
 欠片といえどそのサイズは、子供の顔面にも匹敵する大きさだ。
 相手を黙らせるための武器としては、まさにおあつらえ向きのサイズだ。
「ちょこまかするんじゃないわよっ!」
 再度王蛇が襲来する。
 金色の魔剣を振りかぶる。
 繰り出すまでの隙が大きすぎだ。狙いもあまりに読みやすすぎる。
 痺れを切らした大振りの一撃。故に、回避するのは容易。
 先ほどのそれと同じように、ばっとバックステップでかわす。
 代わりに両手に抱えた瓦礫を、素早く頭上へと持ち上げた。
 平時のデバイスの補助はない。
 魔力効率は格段と落ちている。
 されどスバル・ナカジマは、体力自慢のグラップラーだ。
 これくらいの打撃攻撃に、身体強化など不要だ。
「そぉいッ!」
 叩きつける。
 振り下ろす。
 渾身の筋力を両手に込め、岩石の一撃を叩き込む。
 紫のヘルメットに直撃した瓦礫が、鈍い音を上げて砕け散った。
「うっ! ……このぉ!」
 されど、さしたる効果は得られず。
 仮面ライダー王蛇は健在。
 ほんの一瞬の怯みの後に、苛立った声と共に突きを放つ。
 びり、と裂音が鳴り響いた。
 身をよじってかわしたスバルの上着の脇腹辺りが、しかし避けきれずに切り裂かれた。
 ぞっ、と。
 顔から血の気が引くのを感じる。
 危なかった。あと数ミリ身体が刃に近ければ、そのまま傷を負っていたところだ。
 その場からダッシュし、距離を取る。
(駄目か……!)
 ち、と舌打ちをした。
 あれを顔面に叩きつけた程度では、肉体的ダメージを与えられないことなど分かっている。
 求めたのは頭の粉砕ではなく、脳震とうによる気絶。
 仮面ライダーの装甲ならば、あの程度で砕け散ったりはしないと、信頼した上での攻撃だ。
 しかし、あの毒蛇型のヘルメットは、こちらの信頼以上に堅かった。
 物理的ダメージはおろか、副次的な衝撃さえも凌ぎきってしまったのだ。
 全く効果がないわけではない。現にほんの一瞬だけ、苦悶と共に動きが止まった。
 だが、その一瞬だけだ。
 それだけでは有効とは言えないのだ。
 今の一撃で駄目ならば、現在の装備と場所のままでは、さしたるダメージは与えられない。
 更なる武器を探す必要もある。
 一瞬ルルーシュ達のことが気になったが、彼らにはリインフォースⅡがついているはずだ。
 あれでスバルの上官である。
 仲間を平気で見捨てる冷徹な人間ではないが、仲間を危険地帯に留まらせるような馬鹿でもない。
 先ほどの砲撃の轟音を聞いていたならば、ちゃんとここから脱出しているだろう。
 故にスバルは迷うことなく、エントランスの窓ガラスから、素早くその身を投げ出した。


 幼い頃、空港火災に巻き込まれたあの日、自分には何もできなかった。
 ただただ恐怖に涙を流し、助けを求め続けるだけだった。
 なのはさんに救われて。
 かっこいいと思える強さに触れて。
 そんな力のなかった自分が、生まれて初めて情けなく思えて。
 何もできなかった自分が嫌いで、初めて悔しさに涙を流した。
 ただひたすらに――力がないのが、悔しかった。


 ばりん、と響く音と共に。
 受け身を取って大地を転がる。
 相手に追いつかれるよりも早く、態勢を立て直して足を進める。
 デュエルアカデミアから離れんと、全速力で一直線。
 ガラスの破片のこびりついた上着は、走りながら脱ぎ捨てた。
 茶色の上着が地へと落ち、白いワイシャツ姿が顔を出す。
 分厚い布地から解放された胸元が、僅かに勢いを増して揺れた。
 足音が聞こえる。戦闘機人の鋭敏な聴覚が、迫りくる脅威の音を認識している。
 並走する地を滑るような音は、あの紫色の巨大なコブラか。
(まだ追いつかれるわけにはいかない)
 速やかに街の店舗などを巡り、武器に使えそうなものを探さなくては。
 疾駆と共に思考するスバルが、近場の適当な建物へと飛び込む。
 潜り込んだのは書店のようだ。
 照明の落ちた薄暗い部屋の中、無数の本が陳列されている。
(ハズレか)
 内心でがっくりと肩を落とした。
 こんなものでは戦えない。
 生身の人間を殺せるレベルの重量でなければ、あの魔人には有効打を与えられない。
 少年ガン■ンは人を殺せる厚さだと誰が言ったか。
 とんでもない。
 どう見てもあの瓦礫ほどの強度もない漫画雑誌が、こんな状況下で役に立つものか。
 カウンターにある文房具にも、残念ながら期待は持てない。
 シャーペンやボールペンを突き立てたところで、生身に届く前に折れる。
「逃げるなっ!」
 と。
 その、瞬間。
 ヒステリックな叫び声が、店外から勢いよく鳴り響いた。
 ぐしゃ、と。
 同時に轟く、破砕音。
 壁を砕き侵入してきたのは、やはり鏡の世界の大蛇。
《シャアアアァァァァァッ!》
 牙を剥き首を持ち上げるベノスネーカーが、鋭い叫びを上げて威嚇。
 追いつかれたか。
 ち、と舌打ちをしながら。
 手の届く範囲の本の中でも、最も分厚いものをショーウィンドーに投げつける。
 強烈な音と共にガラスが粉砕。
 強引に作りだされた出入り口から、一分の逡巡も見せずに脱出。
 一瞬ちらとかがみを見た後、すぐさま次の店へと入る。
 されどそこから続いたのは、今の状況の繰り返しだ。
 肉屋に飛び込んでみれば、そこにあったのは冷蔵庫と、いくつかの肉を捌く包丁のみ。
 冷蔵庫は武器にするには大きすぎる。包丁の切れ味では鎧は切れない。
 大きな肉の塊でも置いてあれば、投擲武器にはなっただろうが、食材の類は一切なかった。
 そのままベノスネーカーの追撃を逃れ、次の店へと飛び込んでいく。
 入った先はエステサロン。当然収穫などありはしない。
 ベノスネーカーに追い立てられる。そのまま次の店へと入る。
 入った先は喫茶店。とりあえず椅子を1つ抱えた。
 ベノスネーカーに追い立てられる。飛び出しかがみへと椅子を投げつける。
 さしてダメージも与えられず、そのまま反撃を受ける前に移動。
 八百屋、服屋、不動産屋。
 行く店行く店どれもこれも、まともな武器が置いていない。
 自動車の店でもあったならば、タイヤ辺りがが使えたのだろうが。
 現地調達品で敵と戦えるのは、せいぜいビデオゲームの世界ぐらいかと実感する。
(このままじゃまずい)
 間違いなく詰む。
 次に入った事務所らしき建物にも、大して使えそうな物はなかった。
 急いでここから出なければならない。
 今できることがあるとすれば、敵から逃げ回ることだけだ。
 入り組んだ机の間を縫い、入ってきた扉へと向かわんとする。
「もう逃げられないわよ」
 しかし。
 その先に。
 開け放たれた出口の向こうに、待ち構えていたのは蛇の甲冑。
 コブラを引き連れた蛇の王が、仁王立ちになって構えている。
 柊かがみだ。
 仮面ライダーだ。
 待ち受ける敵に出口を塞がれていた。
 ごくり、と。
 我知らず、喉が鳴る。
 これはまずい。
 確かにこれでは逃げ場がない。
 現在スバルが立っている場所は、事務所に並んだ机の合間だ。
 左右を塞がれている。
 後方に逃げ場を求めようにも、眼前にはベノスネーカーが待ち構えている。
 体当たりの態勢は万全だ。こちらが下がりきる前に、突撃を食らってお陀仏だろう。
 万事休す。
 まさに危険な綱渡り。
 一瞬の判断ミスや動作の遅れが、即座に死に直結するシビアな環境。
 かがみが一声下僕へと命じれば、すぐに決着をつけるのも可能だろう。
 しかし、彼女はまだそれをしない。
 余裕のつもりなのだろうか。はたまた威嚇のつもりだろうか。
「どうしてかがみさんは、殺し合いに乗ったんですか……?」
 その間に問いただしておきたかった。
 何故彼女は戦うのか。
 何故パラレルワールドの話を聞いた途端に、殺意を露わにして襲いかかってきたのか。
 ただの高校生であるはずの彼女が、こうして他人を殺めんとしている。
 その理由が知りたい。
 もしかしたら彼女の言葉から、説得の糸口が見つかるかもしれない。
「決まってるでしょ! 私が生き残るためよ! このゲームで優勝する以外に、帰る方法なんてないんだもの!」
「でも、それじゃあこなたやつかささん達だって……!」
「どうせあの娘達は私の世界のあの娘達じゃないんでしょ!? そんな奴ら相手に、迷ってなんていられないのよっ!」
 苛立ちの滲む声でかがみが叫ぶ。
 何と凶暴な主張か。
 何と醜悪な殺意か。
 こんな態度はかがみらしくない。
 少なくともこなたから聞いた限りのかがみは、こんなに割り切りのいい人間ではない。
 自分の目的のために、友や妹と同じ顔をした人まで、無惨に殺せる人間ではないはずだ。
「駄目ですよ、そんなのっ!
 こなたは言ってました……貴方は怒りっぽいけど、根は優しい人だって……だから……!」
「じゃあ他にどんな道があるっていうのよッ!」
 喉の奥から絞り出すような。
 肺の空気全てを吐き出すような。
 思いっきり上げられた大絶叫に、今度こそスバルは一瞬震えた。
「殺らなきゃ殺られるの! 他の脱出法を探してる時間なんてないのよ!
 どうせほとんど無傷のアンタには分からないだろうけど、現に私はもう何度も殺されかけてるの!
 迷ったら殺される! 気を許したら騙される! だから私はみんなを殺す!
 慣れ合いなんて必要ない! もう間に合ってるの! バクラがいれば十分なのよっ!!」
 ばん、と紫の胸板を叩く。
 右の手のひらで胸元を押さえ、語調も荒く吐き捨てる。
 極大の憎悪に塗り潰された、どす黒く鋭い言の葉の数々。
「バクラ……?」
 その中に、気になるものがあった。
 バクラという名称だ。
 どうやら誰かの名前らしい。文脈からすると、協力者だろうか。
 だがおかしい。バクラなどという名前は、あの名簿の中にはなかったはずだ。
 それはまだいい。偽名を名乗っているのだと説明づけられる。
 だが問題は、そのバクラなる人物が、今一体どこにどこにいるのかということだ。
 彼女の言動から察するに、別行動を取っているとは考えがたい。
 こうまで人間不信に陥ってしまった彼女を、1人にしておくということは、即座に自分の信頼を失うことに直結する。
 それが分からないほどそのバクラも馬鹿ではないはずだ。
 いいやそもそもそうだとしたら、彼女がバクラを頼ることなどないはずだ。
(……待てよ)
 その時。
 ふと、脳裏にひらめいた仮説。
 かがみが変身する前に、その胸元には何があった。
 彼女が仮面ライダーの鎧を身に纏ったことで、一体そこに何が隠されていた。
 あそこに首からかけられていたのは、黄金色のネックレスではなかったか。
 そして自分達の世界に存在する、物質でありながら人格を持つ物――インテリジェント・デバイス。
 ならば、これも同じということか。
 自分達のデバイスと同じように、あの不気味なリング状の首飾りに、何らかの意思が込められていたということか。
 そしてそこから更に推測できることがある。
 かがみの豹変。
 協力者の存在。
 その者への依存。
 そこから導き出される答えは――
「お前は誰だ! 一体かがみさんに何を噴き込んだっ!!」
「ベノスネェェェカァァァァァァァァ―――――――――ッッッッ!!!」
 返事が返ってくることはなく。
 無慈悲な絶叫と共に放たれた大蛇が、扉の枠を押し拡げ襲いかかった。


 自分に力があったのなら、エリオを助けられたかもしれない。
 戦う力があったのなら、こんなに恐ろしい思いをすることもなかったかもしれない。
 だけど、自分には力がなかった。
 弱いから何もできなくて、エリオを見殺しにするしかなかった。
 弱いから変身の解けた隙を突かれて、Lに拘束されてしまった。
 全部、自分が弱かったからだ。
 だから――力がないのが、悔しかった。


『最後の最後で、俺様の存在に気付きやがったな』
 面白くないといった様子で、バクラが吐き捨てるようにして呟いた。
 こういうところが、このかがみという新たな宿主の悪いところだ。
 冷静になった時の頭の回転は悪くない。心理誘導もたやすく、自分の意思に従わせやすい。
 だが如何せん実戦経験がないからか、随所に迂闊な部分が見られる。
 今だって名前を口にしなければ、自分の存在を隠し通すことができたはずなのだ。
 その点では、万丈目の方がまだ用心深かったかもしれない。
「うっさいわね……今ので殺したんだから、正体なんて関係ないじゃない」
『いや、まだとどめは刺せてねぇみたいだぜ?』
「それってどういうことよ?」
 かがみの視線が虚空を向く。
 現実にはそこには何もないのだが、彼女の意識下では、バクラはそこに浮いているように見えるらしい。
『あれを見な』
 そのバクラが促した先は、ベノスネーカーを突っ込ませた小さな事務所だ。
 壮絶な体当たりの果てに巻き起こった粉塵が、ようやく晴れかけたところである。
 もしスバルがその一撃で命を落としていたならば、今頃はその機械仕掛けの身体を、大蛇に貪り尽くされているはずだ。
 だが、しかし。
 どうにもベノスネーカーの様子がおかしい。
 瓦礫の山の上に立つコブラは、彼女が倒れているはずの足元には目もくれず、ひたすら周囲をきょろきょろと見回している。
「アイツ、何やってるの?」
『逃げ出したエサを探してんだろうな』
 実際、視線を傾けてみたところ、そこには彼女の姿はなかった。
 あの状況下でスバルは突撃を回避することに成功し、まんまとこの場から逃げおおせたのだ。
 格闘戦型の魔導師の底力というものには、心底感嘆せざるを得ない。
 何せつい一瞬前に気付くまで、バクラでさえ殺したものとばかり思っていたのだから。
「そんな……ここまで追い詰めておいて……!」
 ぎり、と。
 仮面ライダーのマスクの下で、細かな歯軋りの音が響く。
 あれほど苦労して追い詰めたにもかかわらず、この期に及んでまた逃げられたのか。
 かがみに比べれば気の長い方であるバクラから見ても、その心情は察するに余りある。
『どうすんだ、宿主サマ? このまま追いかけるか?』
「決まってんでしょ! まだそう遠くには逃げてないはず……何としてでも探し出してやるわ!」
 苛立った声を上げながら、かがみが建物の中へと踏み込む。
 狭苦しい室内を探索し、開け放たれたままの裏口を見つけると、そこから再び外へと出た。
 恐らくあのスバルもまた、ここから脱出したのだろう。
 そして同時に、思い出したように王蛇の変身を解く。
 ベノスネーカーもまたそれに呼応し、散らばっていたガラスへと引っ込んだ。
 変身制限のデメリットは痛いが、無駄に猶予時間を浪費して、そのまま食われるよりはましだ。
『ミラーモンスターを戦わせるんだったら、メタルゲラスを優先して使うことをオススメするぜ』
「ベノスネーカーの猶予時間を回復したばかりだから?」
『それもあるが、もうそっちはしばらく休ませた方がいいだろ』
 ああ、と、かがみから納得したような声が上がった。
 彼女の方は気付かなかったが、傷ついた身体で突撃を繰り返したベノスネーカーは、徐々にその動きを鈍らせていたのだ。
 そろそろ体力が弱ってきたのだろう。であれば、不用意に戦闘させることは避けるべきだ。
『ん?』
 と、その時。
 バクラの短く漏らした声に、不意に怪訝な響きが宿る。
 何か気になるものでも見つけたのか。
「どうしたのよ?」
 同じく怪訝な表情になったかがみが、バクラに向かって問いかけた。
『……居場所の分からねぇ獲物を探すのと、居場所の分かる獲物の所に向かうのと、どっちがいい?』
 にやり、と。
 意識下の少年の顔に浮かぶ凶悪な笑み。
 享楽的にして嗜虐的な双眸は、遥か上空へと向けられている。
 彼の意識する方へと、彼女も視線を向けてみる。
 そこにあったものは。
「煙……?」
 もうもうと立ち込める黒煙だ。
 果てなく広がる蒼穹の中、不自然に一筋の煙が直線を描いていた。
 あれはどう見ても火事の煙。それも燃えている建物は1軒だけ。
 それほどの火災が起こせるような人間が戦った場合、もっと派手に燃えてもいいはずなのだが。
『そりゃあ、俺らみたいにゲームに乗ってる奴が、戦う相手を呼び寄せるために燃やしたんだろ』
 声に出して問いかける前に、バクラが答えを先取った。
「あっちに行けば、もっと手っ取り早く餌が見つかる……」
『だろうな。で、どうするよ?』
「まぁ……あたしもあっちに行くことに異論はないけど……」
 かがみの回答は、しかし語尾を濁すようにして勢いを失う。
 妙に不安げな色の宿った視線が見つめるのは、自らが背負ったデイパックだ。
 否、正確な対象はその中身。
 そしてバクラにはそれが分かっていた。
『大勢の敵と戦うのは不安か』
 こくり、と。
 先ほどのヒステリーが嘘のように。
 すっかり意気消沈した少女が弱々しく頷き、紫色のツインテールを揺らす。
 恐らくあの狼煙を見た参加者は、自分1人だけではないはずだ。
 であれば、あの2人の剣士と戦った時のように、乱戦になる可能性が高いのは目に見えている。
 手元にある変身アイテムは2つ。
 バイオグリーザが撃破され、ほぼ無力化した仮面ライダーベルデのデッキ。
 高い戦闘能力を持つが、向こう1時間は変身できない仮面ライダー王蛇のデッキ。
 つまり今から約1時間は、ミラーモンスターのみで戦わなければならないということ。
 不特定多数の敵を相手に戦うには、生身というのはあまりにも危険すぎる。
 そうでなくともあの戦闘では、同じ仮面ライダーのデルタに変身していながら、一方的に叩きのめされたのだ。
 一対一のスバルとの戦いとはわけが違った。
『どうしても怖いってんなら、その時は俺が代わってやろうか?』
「アンタが?」
『俺様はデュエリストだったからな。こういうのの扱いには慣れてるのさ。
 それに千年リングのパワーが使えるってだけでも、だいぶ有利になるはずだぜ』
 アドベントカードとバクラの相性はいい。
 事実として万丈目に憑依していた時の対チンク戦で、バクラはベルデのデッキを巧みに使いこなしていた。
 千年リングの念力も、デルタギアの使用によって獲得した放電能力と併用すれば、強力なバリアになるだろう。
『もっとも、俺もいつになったら、また入れ替われるようになるかは分かんねぇけどよ』
 実際には王蛇の変身制限時間の方が、千年リングの憑依制限時間よりも早く切れる。
 だがそうとは知らないかがみにとっては、幾分と気休めにはなった。
「……そうね……じゃあ、その時はお願いするわ」
 ありがとう、と。
 声にならない感謝の言葉が、小さく現実の言葉と重なる。
 心の奥底でそっと囁いた言葉が、バクラの耳には届いていた。
(ったく、面倒なもんだぜ……)
 白髪の頭をぽりぽりと掻く。
 信用を獲得するというのは悪くない。そうすればより利用しやすくなる。
 だが元々盗賊王バクラとは、馴れ合いや友情とは縁の薄い一匹狼だ。
 いちいち感謝されたり恩義を感じられるのは、正直目的うんぬん以前にむずがゆい。
 それもあまり気に入らないタイプの女から向けられるとあれば、なおさらだ。
『まぁともかく、ちゃっちゃと行って済ませちまおうぜ』
 そしてそんな感情はおくびも表に出さず、バクラはかがみに道を促したのだった。
 こくり、と小さく頷くと、アスファルトの道路を進んでいく。
 かつりかつりと靴音を鳴らし、ゆっくりと北へと向かっていった。
『……つーか、防御が不安なんだったら、バリアジャケットぐらいでも着ておけばいいんじゃねぇか?』
「バリアジャケット……ああ、これに入ってる防護服か」
 左手に収められたストラーダへと視線を落とし、思い出したようにかがみが言った。
 バクラも今の今まで忘れていたが、確かにカードデッキの使えない今では、貴重な防御手段である。
『そりゃあ仮面ライダーよりは脆いと思うが、気休めくらいにはなると思うぜ』
「ええ、分かったわ」
 返事と共に、指示を出す。
 腕時計型のデバイスが発光。
 瞬時に衣服が分解され、スレンダーな素肌が露出される。
 衣服の上からは目立たなかったが、確かな膨らみを持つ2つの乳房。
 女性的なラインのウェストに、ややふくよかな印象を受けるヒップ。
 刹那の間に裸身を包むのは、あらゆる猛威を跳ね除ける奇跡の甲冑だ。
 真紅に映える長袖のセーター。漆黒のミニスカートとニーソックス。
 装着は瞬きの間に完了した。
 宿主の記憶を辿ってみれば、どうやら彼女の世界で人気のキャラクターの服装らしい。
『ゲームキャラのコスプレか……発想は悪くねぇが、もうちょい強そうなのもあったんじゃねえのか?』
「さぁ……私も何でこれを選んだのか、よく分かんないんだけど……」
 分からないはずがない。
 バリアジャケットとは想いの形だ。自身の思い描く最強のイメージの具現化だ。
 故にその形状は、自身の意思と経験に大きく左右される。
 そして元よりこのゲームを知ったきっかけは、同じ学園に通っていた、あるクラスメイトとの交流。
 見た目には脆そうな服装であるにもかかわらず、わざわざこの形を選択した。
 すなわちそのイメージとは、未練を完全に断ち切れていないことの証明。
(思ったよりも殺し合いに向いてねぇのかもな……こいつは)
 柊かがみの未練を垣間見た盗賊王は、ほんの僅かに同情した。


 力がないのが悔しかった。
 だけど、今この手には力がある。
 仮面ライダーやミラーモンスターという武器があるし、バクラという頼もしい相棒もいる。
 だったら、もう生き残るためには何もいらない。
 この力さえあればいい。
 別世界のこなたやつかさが現れても、そんなことはもう関係ない。
 仮面ライダーと千年リングがあれば、もう仲間意識とか想いやりなんて必要ない。
 生き残るために。
 元の世界へ帰るために。

 私はこの仮面ライダーの力で、全てを薙ぎ払う。


【1日目 日中】
【現在地 G-6】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】健康、肋骨数本骨折、2時間30分憑依不可(バクラ)
【状態】健康、肋骨数本骨折、2時間30分憑依不可(バクラ)
【装備】バリアジャケット、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、
    カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎(1時間変身不可)、
    サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎
【道具】支給品一式×2、ホテルの従業員の制服、
    Ex-st@なのは×終わクロ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ランダム支給品(エリオ0~2)、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎、柊かがみの制服(ボロボロ)、スーパーの制服、
    ナンバーズスーツ(クアットロ)
【思考】
 基本:死にたくない。なにがなんでも生き残りたい。
 1.バクラ以外の何者も信じない(こなたやつかさも)。
 2.煙の上がった場所(=レストラン)にいる参加者を殺しに行く。
 3.2の後で映画館に向かう。
 4.万丈目に対する強い憎悪。万丈目を見つけたら絶対に殺す。
 5.同じミスは犯さないためにも12時間という猶予時間の間に積極的に参加者を餌にして行く。
 6.メビウス(ヒビノ・ミライ)を警戒。
 7.デルタギアを使用する際には、バクラに代わりに変身してもらう。
【備考】
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています。ただし何かのきっかけで思い出すかもしれません。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※Lは自分の命が第一で相手を縛りあげて監禁する危険な人物だと認識しています。
※万丈目の知り合いについて聞いたが、どれぐらい頭に入っているかは不明です。
※王蛇のカードデッキには未契約カードがあと一枚入っています。
※ベルデのカードデッキには未契約のカードと封印のカードが1枚ずつ入っています。
※「封印」のカードを持っている限り、ミラーモンスターはこの所有者を襲う事は出来ません。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間~1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※こなたとつかさの事は信用しないつもりですが、この手で殺す自信はありません(でもいざという時は……)。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
※ベノスネーカーが疲弊しているため、回復するまではメタルゲラスを主軸として使っていくつもりです。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.かがみをサポート及び誘導して優勝に導く。
 2.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 3.こなたに興味。
 4.可能ならばキャロを探したいが、自分の知るキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
 7.かがみが自分の知るキャロと出会った時殺しそうになったら時間を稼いで憑依してどうにかする。
 8.デルタギアを使用する際には、かがみと人格を交代して代わりに変身する。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※千年リングは『キャロとバクラが勝ち逃げを考えているようです』以降からの参戦です。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。



 王蛇が去りてしばらくの後。
 静けさを取り戻した街中に、静かに蠢く影がある。
 物陰から事務所の裏を除いていたのは、十代半ばほどの少女の体躯。
 青いショートカットの頭は、逃げ延びたスバル・ナカジマのものだ。
 息を殺し様子を伺っていた彼女の顔には、びっしりと脂汗が浮いている。
 張り詰めた緊張が解けていき、ふぅ、と軽く息をついた。
「っ……ん、ぅう……ッ」
 と、同時に。
 くぐもった苦悶の声が漏れる。
 自然とアスファルトに手のひらをついていた左腕の、二の腕の部分を軽く抑えた。
 身をよじり、痛みに耐える。
 ここで下手に大声を出しては、存在を彼女らに気取られかねない。
 そうなれば勝ち目はゼロだ。逃げることすらも不可能になる。
 何せ武器がないだけでなく、手負いの身にまでなってしまったのだから。
 右の手のひらを引き剥がした二の腕には――赤黒い痣が浮かび上がっていた。
 触れていた手に熱を感じる。確実にフレームが折れている。
 つくづく戦闘機人技術とは、妙に芸が細かいものだ。
 見た目も痛覚も、人間の骨折そのままではないか。
 確かにスバルはベノスネーカーの体当たりに対し、直撃を避けることには成功していた。
 だが、その後がまずかった。
 デスクを飛び越える際に生じた一瞬のタイムラグが、彼女の動きを鈍らせていた。
 結果完全に回避するには至らず、左の二の腕を掠めてしまい、内部フレームをへし折られてしまったのだ。
 苦痛に震える身体に鞭打ち、ぐっと両足を立ち上がらせる。
「添え木になるもの……探さなくっちゃな……」
 ぽつり、と力なく呟く。
 もちろん、すぐに固定するわけではない。
 患部を自力で接合させるのは危険だ。
 人間の場合、人為的に骨折箇所を繋ごうとすれば、ショックで意識を失うこともあるらしい。
 こんな戦場のど真ん中で気絶するのはどう考えてもまずい。
 故に仲間と合流するまでは、使用は避けるつもりである。
 それでも、用意するに越したことはない。この辺りの店を探れば、材料はすぐに手に入るだろう。
 ふらり、ふらりと。
 力ない足取りで、道路を進む。
(見ていることしかできなかった……)
 彼女を苛むものは、肉体的苦痛のみではない。
 重い後悔がのしかかる。
 かがみを止めるはずだった。
 チンクの死を無駄にしないためにも、何としてでも止めなければならないはずだった。
 だが、結果はこうだ。
 チンクを殺され、仲間とはぐれ、かがみを見失い、左腕までも潰されてしまった。
 得られた戦績など何一つない。むしろ失うものばかりという体たらく。
(最悪だ)
 頭を抱えてしまいたい心地だった。
 自ら止めると決めた相手が、鉄火場へと勇んで進んでいくのを、そのまま見送ることしかできなかった。
 そもそもこの殺し合いが始まってから、自分はろくに役に立った覚えがない。
 せいぜいあの吸血鬼からこなたを守った時くらいだ。
 最初の瞬間だけ頑張っただけで、全く後に続いていない。
(このままじゃ、駄目だ)
 強く己を戒めた。
 痛む左手を押さえながら、それ以上の決意を胸に誓った。
 このまま何もできないままでは終われない。
 この腕に治療を施した後で、改めてかがみを止めに行く。
 否――あのリングに宿っていたであろう、バクラなる存在の意思から、本当のかがみを取り戻す。
 だが、1人では駄目だ。
 あの紫の鎧の仮面ライダーには、丸腰で挑んでもかなわない。
 現に左腕を折られたのだ。文字通り、痛いほどに分かる。
 ならば、どうする。
 決まっている。
 仲間達を集め、協力を仰ぎ、皆で彼女を救い出すのだ。
 決意を固めたスバルの表情に、ほんの少し力が戻った。


 力がないのが悔しかった。
 それを手に入れた今でも、まだ悔しい。
 この声は彼女に届かなかった。
 デバイスを奪われてしまったがために、力で止めることもできなくて、ただ見送ることしかできなかった。
 あたし1人ではまだ足りない。
 想いに力が伴っていない。
 自分1人の力だけでは、彼女の胸には届かない。
 だけど、まだ諦めてはいない。
 ルルーシュ達と力を合わせて、何度でも呼びかけてみせる。

 あたしは必ず、かがみさんを救い出す。


【1日目 日中】
【現在地 G-6】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、全身にダメージ小、左腕骨折、ワイシャツ姿、若干の不安
【装備】なし
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、
    炭化したチンクの左腕、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。ルルーシュを守る。
 1.骨折箇所の添え木になるものを探す
 2.ルルーシュ達と合流し、かがみを止めにいく
 3.ルルーシュに無茶はさせない、その為ならば……。
 4.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 5.アーカード(名前は知らない)を警戒。レイにも注意を払う。
 6.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 7.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
【備考】
※質量兵器を使う事に不安を抱いています。
※参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付きました。
※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※自分の存在がルルーシュの心を傷付けているのではないかと思っています。
※ルルーシュが自分を守る為に人殺しも辞さない及び命を捨てるつもりである事に気付いています。
 でもそれを止める事は出来ないと考えています。また、自分が死ねばルルーシュは殺し合いに乗ると思っています。
※ルルーシュの様子からデュエルアカデミアから出て行ったのはシャーリーだと判断しています。
※自分に割り振られた調査エリアを調べ終えました。何かを見つけたか否かは後続の書き手さんにお任せします。
※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在していることに気付きました。
 また、かがみが殺し合いに乗ったのは、バクラにそそのかされたためだと思っています。


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