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冥府魔道 ――月蝕・第二章(前編) ◆9L.gxDzakI




 ――やめろ、セフィロス!

 頭の中で、絶えず同じ声が響いている。

 ――今ならまだ引き返せる! そっち側に踏み込んじゃ駄目だっ!

 黒い髪を生やした男。
 ソルジャーの青色に瞳を染めて、背中にはアンジールのバスターソードを担いで。
 クラス1stへ上り詰めることを夢見て、遂にその境地へと至った若者。

 ――アンタ一体どうしたんだよ!? どうして英雄のアンタが、こんなことを!?

 ザックス・フェア。
 子犬のザックス。
 お調子者だが強い芯を持った、アンジールの夢と誇りを受け継ぐ後輩の名だ。
 あの炎のニブルヘイムの中、私に立ちはだかって敗れた男だ。

 ――引き返せ、セフィロス!

 もう1つの声を発するのは、やはり同じバスターソードを振るう者。
 金色の髪を逆立てて、同じく瞳にソルジャーの光を宿した、あの男。

 ――アンタは、ようやく大事なものを手に入れたんだろ……ようやく光を掴んだんだろ……!

 クラウド・ストライフ。
 セフィロスコピー・インコンプリート。
 アンジールの魂を継いだザックスの、更にその魂をも背負った若者。
 かつての私の操り人形であり、現在の私の宿敵となった男。
 誰よりも弱く脆い男のくせに、私の前に立ちはだかり、唯一この私を滅することのできた者。

 ――もうやめるんだ、セフィロスッ! また同じように闇に堕ちるのか! あの子の想いも……俺達の憧れも裏切って!

 うるさい。
 お前達に一体何が分かる。
 大切なものを喪いながらも、他の何かで埋め合わせる余地のあったお前達に何が分かる。
 私は独りだ。
 ザックスにとってのエアリスはいない。
 クラウドにとっての仲間はいない。
 愛すべき母の名も知らず、共に歩むべき親友からも逃げられ、世界の全てからも拒絶されて。
 この孤独と絶望の中で手に入れた、最後の光さえも失われた。
 他に一体何が選べる。
 他に一体どの道を歩める。
 この怒りと悲しみと憎しみの矛先、奴らに向けずして何に向ける。

 ――受け入れろ、セフィロス。

 あの男が哂っていた。

 ――お前は俺と同類だ……同じ殺戮の軌跡を歩むことでしか、救いを勝ち得ることはできないのさ。

 2人の友の片割れが。
 鮮血色のコートを纏い、茶色の髪を風に揺らせた、詩人かぶれのあの男が。
 同じ片翼を持って生まれ、救いを求めて剣を握ったジェネシス・ラプソードス。

 ――奪えセフィロス。その力で……英雄の剣で、全て。

 私に歩めるのは――この道しかない。


「――はやてちゃんっ!」
 ばたん、と勢いよく響いた音と共に。
 喫茶翠屋の店内へと飛び込んできたのは、湖の騎士シャマルの茶色い制服姿だ。
 柔らかな印象を与えるその顔立ちに、今まさに浮かんでいるものは衝撃。
 穏やかな微笑の似合うその顔が、今は驚愕と絶望の混ざり合った色に歪んでいる。
 理由はわざわざ問いただすまでもない。
 八神はやても――そして同席していたクアットロもまた――彼女と同じ声を聞いていたのだから。
「フェイトちゃんとザフィーラが……ギンガも……十代君まで……!」
 わなわなと肩を震わせる。
 へなへなとその場にへたり込む。
 両の手を喫茶店の床へつくと、そのまま顔を俯かせる。
「やられたな……」
 つとめて深刻そうな声色で、はやてはシャマルへと応じた。
「フェイトちゃん達が別の世界から来たんやったら、戦力を失っただけで済む。同じ世界から来とった場合は……考えたくもないな」
「ええ……みんな、犯罪者の私達にも優しくしてくれた方ばかりなのに……」
 クアットロもまた、同じく掛けていた椅子の上で俯いた。
 暗い顔色、弱々しい声音。
 今にも泣き出しそうなその表情は、果たして本物かはたまたブラフか。
 同じ悲しげな表情とは裏腹に、はやては極めて冷静な脳内で、現状を速やかに分析する。
 いつ来てもお客の笑顔に溢れていた、高町夫妻の営む翠屋。
 その店内には場違いなまでの重苦しい気配、一体どこまでが本物か。
 確実に本気で死を悼んでいると断言できるのは、恐らくシャマルただ1人だろう。
 はやて自身はというと、せいぜい五分五分でしかない。
 仮にフェイト・T・ハラオウンが、本当に自分と同じ世界から来ていたとしよう。
 その場合は確かに悲しい。いくら疎遠になっているとはいえ、唯一無二と呼べる親友の片割れが、命を落としてしまったのだから。
 だが残る3人はというと、正直な話、どうでもよかった。
 ザフィーラは確実に同じ世界の人間ではない。よって赤の他人であり、それこそ戦力となる可能性がなくなったに過ぎない。
 ギンガ・ナカジマはどちらの場合にせよ、ただの部下に過ぎない女だ。今更その程度の人間の死を悲しむ余裕などない。
 遊城十代に至っては、面識すら全くない相手。もう本当にどうでもいいとしか言いようのない人間だ。
(まぁ、私がみんなをどう見とるかはどうでもええ……問題はクアットロやな)
 横目で機人の少女を見やる。
 もしもこの悲哀の表情が本物だったならば、その時は彼女を味方と認めてやってもいいだろう。
 冷徹にして嗜虐的なクアットロに、情が芽生えたことの証明になるからだ。
 だがそれは裏を返すなら、そうでなかった場合は、やはり自分達を騙していることに直結するということ。
「大丈夫か? クアットロ」
 労わるような声音を作り、震える少女へと問いかける。
 シャマルに同じことを尋ねなかったのは、特にアクションをかける意味がないからだ。
 仮にツッコまれたとしても、どう見ても大丈夫ではないから、という風に言い訳もできる。
「さすがに、十代君達まで救えなかったのは悲しいですけど……チンクちゃんなら、こう言うはずです。
 くよくよしている暇があったら、自分の身を守ることを考えろ……それが死んでいった者達への一番の恩返しだ……って」
「……そっか」
 気丈に振舞おうとするクアットロの肩を、右手でぽんぽんと軽く叩く。
 慈母のごとき微笑みを湛え、共感するようにスキンシップ。
 しかし。
 その実、その笑顔の裏では。
(駄目やな、こいつは)
 さっぱり共感などしていなかった。
 もう駄目だ。分かってしまった。
 こいつは絶対に味方などではない。
 シャマルからクアットロについて聞いた時、第一回目の放送の後、最初に立ち直ったのは彼女だったと聞いた。
 妹にしてパートナーであるディエチの死を悲しみながらも、自分達を励ましてくれた、と。
 そして今回も同じように、この場の3人の中でも最初に、立ち直る旨を口にした。
 頼りがいのある姿を見せるのは、信用を獲得するにはもってこいの振る舞いだろう。
 だが、それが最大の分かれ目だった。
 その時クアットロの取った行動は、あまりにもシチュエーションに合致していなかった。
(見てみい、シャマルの顔を。家族っちゅうんは、普通はそない簡単に割り切れるもんとちゃうんや)
 シグナムとザフィーラ。
 彼女と同じく、これまでに家族を2人喪った女の姿を見やる。
 陳腐なたとえではあるが、まさに悲しみのどん底といったところだ。
 何か外部からの刺激でもない限り、向こう数分から十数分以内は立ち直れないだろう。
 これが普通の家族なのだ。
 兄弟にも等しきエリオを喪い、殺し合いに乗ったというキャロのように。
 ギンガという唯一血の繋がった姉を喪い、悲嘆に暮れているであろうスバルのように。
 なのはとフェイトという2人の母を喪い、泣きじゃくっているであろうヴィヴィオのように。
 シャマルと全く同じ境遇に置かれ、やり場のない怒りに震えているであろうヴィータのように。
 家族とは最愛の人間の1人だ。
 それを喪うということは、何物にも及ばぬ苦痛なのだ。
 それにひきかえクアットロは、あまりにも平然とし過ぎている。
 家族だけでなく、多くの仲間が命を落とした現在でも、この有様だ。
(情に目覚めたとか言う割には、随分と冷淡な反応やないか)
 内心でせせら笑った。
 これがシャマルなら引っかかるだろうが、はやてを騙すにはあまりにもお粗末。
 何てことはない。
 空気を読めなかった。
 そして家族という概念に対し、あまりにも無知でありすぎた。
 それがクアットロの敗因だ。
(さて……クアットロの件はこの辺で切り上げておいて、と……)
 ひとまず彼女の立場についての結論が出たことで、次なる案件へと思考をシフトする。
 クアットロの扱いに関しては、疑いの度合いが濃厚から確証へと繰り上げになっただけだ。
 警戒を強める以外は、今まで通りで構わないだろう。
 どちらかと言えば自分より考えが顔に出やすいであろうシャマルにも、このことを伝えるべきかどうか、という懸念はあるが。
 ともあれ、今真っ先に考えるべき点はそれではない。それは彼女が落ち着いてからの話だ。
「クアットロ、代わりに外に出とってくれへん? 今はシャマルがこないな状態やから……」
「ええ、分かりましたわ」
 適当な理由をつけて人払いをする。
 からんころん、と喫茶店特有の音を立て、少女が扉の外へと出た。
 これから考えることには、余計な茶々を入れられたくない。
 クアットロに話すにしても、自分の中で考えをまとめてからだ。
 表面上はそっとシャマルの肩を抱え、店の中の方へと誘導する。
 先ほどまで自分達がついていた席に座らせながら、はやては1人思考の海へと意識を落とした。
(さっきの放送で分かったことがある)
 今回の焦点は、先ほどの第二回目の放送だ。
 禁止エリアと死者の発表。
 願いを叶えるというご褒美を提示したはいいが、思ったよりも殺し合いに乗る人数が増えなかった。
 そこで新たに、殺した人数に応じたボーナスを設けることにした。
 そして最後に追伸として、実の娘のフェイトが死亡してもそのまま放置した、と念を押す。
 内容の要点をまとめると、大体こうなる。
(プレシアが焦りを感じてるのは確かやな……そして、考えられる要因は2つ)
 1つは、思った以上に死者が出なかったということ。
 そしてもう1つは、殺し合いに積極的でない人間ばかりが生き残ってしまったということ。
 恐らくそのどちらもが正解なのだろうが、より濃厚だろうと推察できるのは後者だ。
 というより、前者の可能性が低い。
 一度目の放送までに死んだのは13人、二度目の放送までに死んだのは9人。
 全体の人数が同じなのだから、比率としてはさほど変わらないはずだ。
 故に問題なのは死者の人数というより、生き残った殺人者の人数にあると推測する。
 キャロがプレシアの口車に乗ったのはほぼ確定と見ていいが、それ以外の多くの参加者は、何とか踏みとどまってくれたということか。
 加えて言うなら、クアットロやキングも「積極的に」殺し合いに乗っているとは言いがたい。
 やはり可能性が高いのは後者と見て間違いないだろう。
(にしても、2回も連続でルール追加を表明するのは、さすがに急ぎすぎにも思えるな。
 ねっとりじっくりやっとれば、禁止エリアも広なるし、痺れを切らして殺し合いに乗る連中が出てきたりするやろうに……)
 我知らず顔をしかめ、思考する。
 1日のうちに増加する禁止エリアの数は、3かける4の合計12。
 フィールド全体は81マスに仕切られているのだから、6日半も経てば移動可能なエリアは僅か3つになる。
 そうなれば、禁止エリアから逃げ切れずに死ぬ者も大勢出るだろう。
 食糧のあるエリアが全て通行不可になれば、飢え死にを避けるために優勝を目指し、ゲームに乗ろうとする人間も出るはずだ。
 つまり、こうして早期の決着を望まずとも、持久戦に持ち込めば、終盤には自ずと死者の出るペースも増すというもの。
 にもかかわらず、プレシアは2度に渡ってルールを改竄した。
 何日もかける覚悟があるならば、わざわざ結果を急ぐ必要もないはずなのに――
(――待てよ)
 は、と。
 軽く両目が見開かれる。
 不意に脳裏にひらめいた仮説が、表情に微かな驚きの色を宿らせる。
 仮にその認識が間違いだったならばどうか。
 何日もかける覚悟など、最初からなかったとするならば。
 元々このデスゲームが、短期決戦であることを念頭に置いてセッティングされていたとするならば。
 つまり。
(タイムリミットがあるっちゅうことか……?)


「ホントに使えない子ばっかりねぇ……」
 ぽつり、と。
 つまらない、とでも言いたげに。
 微かな声で呟きながら、かつりと足で小石を蹴る。
 ふらふらと周囲の見回りをしながら、不満げにクアットロが呟いた。
 言うまでもなく、先ほどまでのリアクションは演技である。
 今更手駒が1人減ろうが2人減ろうが、さして悲しむこともないのだ。
 もっとも、所詮は一般人に過ぎないであろう十代には、最初から特に何も期待していなかったのだが。
(そういえば、さっき言ってたボーナスだけど……あれ、3回目の放送より前の死者も対象になるのかしら?)
 ふと、先の放送を思い出す。
 第三回目の放送以降は、殺した人数に応じて何らかの特典を用意する、というやつだ。
 一見殺し合いとは無縁に思えるこのグループだが、実は既に殺害数のストックが1つだけある。
 はやてがキングなる男に騙され、うっかり殺してしまった恐竜の分だ。
 これからクアットロが出す予定の死者はともかくとしても、果たしてこの恐竜の分のボーナスはもらえるのだろうか。
 もし本当にもらえるのなら、その分有利に立ち回ることができるだろう。
 プレシアの言うとおり、今のうちに何か考えておくか。
 そんな風に考えながら、何の気なしに大通りの方へと視線を向ける。
 と。
 その、瞬間。
「え……?」
 目に留まる、影があった。
 視界の中に飛び込んできたのは、大通りの上を歩く1つの人影。
 影は漆黒と白銀を纏う。
 月なき朔の宵闇を思わせるコートと、細い銀月を思わせる見事な長髪。
 異性が一目でも見れば、たちまちに心奪われため息を漏らすであろう絶世の美男。
 されどクアットロにとっては、大きく異なる意味合いを持つその姿。
(まさか……セフィロス!?)
 それはアンジールから聞かされた男。
 それは雷神の目の前に姿を現した男。
 それは翠屋にメモを残していった男。
 容赦のない危険な存在として、メモリーに焼き付けていたあの男。
 その、セフィロスだ。
 川上で一瞬の邂逅を果たしたあの男が、ここまで追いかけてきたというのか。
「っ!」
 瞳が動く。
 青が煌く。
 魔性の光を湛えた視線と、クアットロの視線が重なる。
 まずい。気付かれた。
 あの男に関する情報は、アンジールから聞かされたものが全てだ。
 機動六課の面々に混ざっていたこと以外、詳しいことはまだ分からないという。
 だが六課とかかわりがあるということは、間違いなくあれは自分の敵だ。
 そして彼の最後に記憶したセフィロスは、敵と定めた相手には、躊躇も容赦もなく牙を剥いていた。
 もたもたしていては殺される。
 アンジールと互角以上に戦える実力者だというのなら、まともに戦っていては勝ち目がない。
 頬に浮かんだ冷や汗を弾けさせ、身を翻さんとした。
「おい」
 その、矢先。
 投げかけられた、声に。
 びくり、と。
 震える身体が、静止する。
 動けなかった。
 たかが一声かけられただけだというのに。
 高々一度声をかけられただけで、全身の人工筋肉が萎縮した。
 ぎこちない動作で首を後ろへと振り返らせれば、コートの裾を翻すセフィロスが、一歩一歩と近づいてくる。
 恐らく竦み上がっていた時間は、本来なら僅か一瞬で済んだのだろう。
 こうして振り返ることをしなければ、運がよければ逃げ切れたかもしれない。
 だが、もう駄目だ。
 見てしまったからには。
 無言の圧力を察知してしまったからには、硬直時間は一瞬から数瞬へと跳ね上がる。
 そうなれば、多分、逃げ切れない。
「近くにいるんだろう。八神はやての元へと連れて行け」
 ちゃき、と鳴る刃金の音。
 見れば首筋に向けられたのは、左手に握られた一振りの刃。
 あの男の雷撃を真っ向から凌いだ、妖しき紫の光を放つ魔剣。
「は……はい……」
 それをゼロ距離に突きつけられては、他に返せる言葉などなかった。
 聞き届けた命令を、即座に忠実に実行する。
 男に刃物を向けられて、ぎくしゃくとした仕草で歩む様は、第三者の目にはさぞ滑稽に映るだろう。
 放っておいてくれ。
 たとえかっこ悪かろうと、こちらは生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
 強い奴には逆らわない。生き残るにはそれが最善の道だろうが。
 やがて翠屋へと帰還を果たし、正面玄関の前に立つ。
「は、はやてさん……えーっと、その……」
「無用だ」
 ドア越しに状況を説明する前に、短く告げるセフィロスが手を伸ばした。
 空いた右手でドアノブを掴み、くるりと捻って扉を開ける。
 からんころん、という鐘の音と共に。
 視界に飛び込んできたものは、未だ席について俯いたままのシャマルと、それを慰めるような姿勢をとるはやて。
 茶髪の六課部隊長は、一瞬突然の来訪者に目を丸くし。
 それもほんの一瞬のうちに掻き消え、真剣な眼差しを男へと向け。
「……来たか」
 開口一番に発した、僅か3文字の言葉だった。


 改めて向かい合ってみると、相当な威圧感を感じるものだ。
 セフィロスと名乗った男を前に、八神はやてはそう実感する。
 恐らくは特別頭の回る方でもないだろうが、生半可な嘘ならば、即座に見抜かれてもおかしくない。
 全身ずぶ濡れという情けない姿でありながら、それを全く感じさせない存在感。
 戦士としての力量は、ヴォルケンリッターの将・シグナム以上か。
 それだけの実力の持ち主ならば、おのずと風格もついてくるというもの。
 この男、なかなかの強敵らしい。
 僅かな緊張を胸の内へと隠し、相手の話へと耳を傾ける。
 聞けば彼は次元漂流者で、「八神はやて」によって保護され、機動六課に一時的に所属することになったのだそうだ。
 そしてジェイル・スカリエッティの軍勢と戦い勝利を収め、その後自身の複雑な身の上故に、雪の日にミッドを発ったという。
「どや、シャマル?」
「そうね……やっぱり私達の世界でも、そんな話はなかったわ」
 いくらか落ち着いた様子のシャマルが、はやてを見上げて確認に応じる。
 予想以上に早かったセフィロスとの再会による刺激は、彼女にいい方向の刺激を与えたようだ。
 落ち込んでる場合じゃなくなった、と言わんばかりに、こうしてまともに会話に参加できるようになっていた。
「私かて同じや。残念やけど、私ら2人とも、セフィロスさんのことは知らんのですよ」
 現在この翠屋の店内では、3人の人間が対話を行っている。
 1人ははやて、1人はシャマル。そして最後の1人がセフィロス。
 はやてとセフィロスは、互いに立ち話の状態だ。
 未だ信用できる相手とは限らない。故に即座に逃げ出せるよう、席に座ることは避けたのである。
 もっとも、シャマルは椅子に腰掛けたままなのだが。
 そしてクアットロはというと、無用な刺激を与えないようにと、再度外へと出しておいた。
 彼のいたという世界でも、やはり彼女は管理局の敵だったらしい。ややこしい要素は排除しておいた方がいい。
「もう1人の八神はやてにも会ったが、あれも私のことを知らなかった」
「それについては、ある程度察しがついとるんです」
 今度ははやてが説明する番だ。
 これまでに目の当たりにした認識の差異を、これまでに出会った人数分だけ説明する。
 八神はやての世界では、機動六課が解散してから、既に数ヶ月が経過していた。
 シャマルの世界でもJS事件は解決しているが、六課は未だに存在しており、同時にセフィロスの認識する時期ともまた異なる。
 遊城十代なる少年の世界では、六課は解散しているが、少なくともそれから数年は経っているようだ。
「タイムスリップか?」
「というより、パラレルワールドなんやと思います」
 この殺し合いに集められた参加者達は、それぞれ別々の世界で生きてきた人間であり、
 互いに面識のある人間同士も、異なる歴史を歩んだ平行世界から集められている可能性が高い。
 これまでの情報を統合し、はやてが至った結論だ。
 セフィロスの会ったという幼いはやてが、自分の知らない仮面ライダーなる存在を知っていたことも、更にそれを裏付けた。
(見た感じ、友好的には見えるんやけどな……)
 改めてはやては、このセフィロスという男を見定める。
 彼の語った話が本当ならば、その世界に住んでいる「八神はやて」とは、それなりに親しい間柄だったらしい。
 まさか恋人とまではいかないだろうが、友人と呼ぶに値するだけの信頼関係では結ばれていたようだ。
 単独でもそこそこ生き残れそうでありながら、わざわざろくに戦えない、もう1人のはやてを守っていたことからもそれが伺える。
 となれば、利用するのは思ったよりも簡単かもしれない。
 そう考えていることさえ悟られなければ、強力な味方になってくれるはずだ。
 ならばこれを見逃す手はない。何としても自分の元に引き入れなければ。
 どこまでの指示を許容してくれるかは分からないが、それは追々確認していけばいいだろう。
「では、あのクアットロは何だ。何故敵だった奴と行動を共にしている」
 と、その問いかけに我に返った。
 そう言えば彼女との関係は、まだセフィロスには説明していなかったことを思い出す。
「ああ……クアットロもまた、私らとは別の世界から来とるようなんですよ。
 何でも、管理局の更生プログラムの申し出を受け入れ、悔いを改めた世界から、だとか」
 本来なら、アリサの蘇生に並ぶ平行世界説の最大の証明がこれだ。
 クアットロのいる世界は、シャマルのそれと時期的には似通っているものの、その一点で大きく異なっていた。
 他の世界では最後まで頑なに受講を拒否していた彼女が、罪を受け入れ改心したという世界なのだそうだ。
 もっとも、それもまた、あくまで本人の言い分に過ぎない。
「せやけど当然、そないな都合のいい話を鵜呑みにしたわけやないんです」
「はやてちゃん!」
 シャマルから抗議の声が上がる。
 当然だ。彼女ははやてとは違い、クアットロの言い分を信じ込んでいるのだから。
 人を疑えと言うのは簡単だが、それでは今後シャマルとの仲がこじれる可能性もある。
 だからこれから言うことは、セフィロスを納得させた後で、そのための方便だと弁解しておこう。
「今はまだ泳がせとるけど、妙な真似をしようもんなら、ちゃんと切って捨てるつもりで――」





 ――斬。





 鳴り響いたのは剣閃の音。
 直前に視界にとらえたのは、デバイスが戦闘モードへと移行する輝き。
 接近戦は苦手だった。というより広範囲攻撃しかできない自分は、他のあらゆる技術に自信がなかった。
 そんな極端な騎士であっても、自分がSSランクを取得した実力者であることは理解している。
 10年前までのSランク級から、1ランク上げられるだけの成長は遂げたつもりだ。
 故にその過程で培った反応速度が、自分の命を救っていた。
 避けられないことは分かっている。
 だから抜刀される前に、すぐ脇に座る女の肩を掴んだ。
 条件反射的な動作だった。

「……え……?」

 横一閃に振り抜かれた斬撃を、シャマルの身体で受け止めていた。

 咄嗟の、判断だった。


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