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冥府魔道 ――月蝕・第二章(後編) ◆9L.gxDzakI




「正宗を抜いておくべきだったな」
 眼前のセフィロスが口にしたのは、字面通りの刀剣の名前なのだろうか。
 薔薇を象った紫の太刀筋は、はやてを切り裂くには至らず、シャマルを傷つけたのみに留まる。
 妖艶に輝く魔性の刃を、赤き鮮血がつぅっと伝った。
「はや、て……ちゃ……?」
 困惑も露わなシャマルの声。驚愕も露わなシャマルの顔。
 制服の胸元は瞬きの間に断ち切られ、豊かな谷間が外気に晒されている。
 されど、よほどマニアックな男でもない限り、それに欲情することはないだろう。
 風の癒し手の豊満なスタイルには、もはやその本来の魅力は宿されていない。
 真一文字の刀傷は、深々と血肉を引き裂いていた。
 一直線に引かれた真紅のラインから、どくどくと赤い蜜がしたたっていた。
 その痛みさえも、既にシャマルの意識からは、驚愕によって押しやられているらしい。
「……何の真似や」
 そのシャマルの驚愕さえも、意に介さぬ冷徹な声だった。
 淡々とした口調と鋭い眼光。
 家族を盾にするという凶行への弁明など、更々する気もなさそうな態度と共に、八神はやては問いかける。
 仲間であるはずのこの自分に、いきなり刃を抜いたセフィロスへと。
「お前が下手な真似をしなければ、寸前で剣を止めるはずだった」
 淡々と。
 仲間を切り捨てるという凶行への弁明など、やはり更々する気などないといった態度で。
 無感情なポーカーフェイスが、低い声で言葉を紡ぐ。
「そうしてお前の真偽を確かめるつもりだったが……もはやその必要もなくなった」
 流水のごとき青の光。
 シャマルの方へと向けられる魔性の視線。
 主に裏切られ盾とされた、哀れな従者の姿を見やる。
 どくどくと流れる血液が、管理局の制服を赤黒く染めた。
「私の知る八神はやてとは、愚直なまでのお人よしだ。
 何がきっかけなのかは知らんが、他者を利用し陥れることを嫌い、他者を切り捨てることを嫌い……
 ……たとえ自分が傷つこうとも、その目に映るもの全てを、その手で守り抜こうとしていた」
 それはあるべきはやての姿。
 かつてはやてであったもの。
 父と母と足の自由を失い、孤独に生きてきた過去と。
 夜天の書の新たな主となり、愛すべき家族と出会った誕生日の夜と。
 嘆きと闘争の果てに出会った、銀髪と黒装束の悲しき娘と。
 出会ったばかりの5人目の家族との、あまりにも早すぎた聖夜の別れ。
 だからかつてのはやてはその道を選んだ。
 自分と同じ悲しみは、誰にも味わわせたくはないと願った。
 故に時空管理局へと入局し、命を守る者とならんとした。
 嗚呼、されど。
 最後の夜天の主の心には、今や根深き影が巣食ってしまった。
 もう二度と失いたくないと思った大切なもの。
 白熱の閃光を纏う漆黒の魔獣。
 怪獣王ゴジラへの報復を果たすために――愛する家族を取り戻さんとするために。
 歪んだ愛は憎しみへと変容し、八神はやてを鬼へと変えた。
 復讐のため、一切の良心を捨て去った姿に。
 修羅をも食らう羅刹となり、屍の山を築き上げる姿に。
 かつての面影は、どこにもない。
 故に。
 自らと同類であるが故に。
 同じでなかったはずのものが、同じ闇へと堕ちたが故に。

「お前は――『八神はやて』ではない」

 片翼の天使は、静かに言い放った。
 くわ、と瞠目する夜天の主。
 冷徹さを貫いていたその表情に、微かな感情の揺らぎが宿る。
 両の肩がわなないた。握られた右手がほどかれた。
 支えを失ったシャマルの身体が、ごろりと無造作に床に転がる。
「……随分と勝手な言い草やな……」
 それは刹那の間であったか。
 それは永劫の間であったか。
 やがて口を開いたはやての、双眸が細く引き絞られていく。
 そこに宿されていたものは、先ほどまでの平静ではなく。
 ぐっと奥底に噛み締められた、しかし誤魔化しようのない鋭き怒り。
「確かに私は変わった。変わらなければならんかった。
 せやけどそれは、好きで選んだ道やない。たとえそれが冥府魔道であろうとも、それ以外に選べる道なんてなかったからや……」
 嗚呼、確かにそれは認めよう。
 八神はやては確かに変わった。
 大切な家族を取り戻すために、手段を選ぶことをやめた。
 数多の怪獣達を蹂躙し、惨たらしくその尊厳を陵辱し、心無き操り人形へと変えた。
 そうまでしてでも、取り戻したかった。
 血の赤にべっとりと染まったこの顔に、かつての笑顔は浮かばない。
 死の赤にべっとりと染まったこの心に、かつての優しさは今はない。
 だが、それでも。
 それは八神はやてを捨てるための変化ではない。
 それは八神はやてに戻るための変化に過ぎない。
 何物にも変えがたき半身を奪い返し、かつての日常を取り戻すための戦いだ。
「何も知らんお前に……そないなことを言われとうない……!」
 一度外道に堕ちた者は、二度と正道には戻れないのか。
 血と骨で築かれた外道の仮面は、二度と剥がれることはないのか。
 八神はやてを捨てた者は、八神はやてには戻れないのか。
 そんなことは認めない。
 そんなことを決めつける権利は、誰にもありはしない。
 お前のような殺人者に、それを決めつける資格などない。

「私は私や! どんなに腐って汚れようとも、他の何者でもない『八神はやて』や!
 たった1つ残された私の存在……あの子らが身を挺して守った私の存在……誰にも否定なんてさせへんッ!!」

 怒りと殺意の滲む声で。
 右手を己の胸に突いて。
 遂にはやては絶叫した。
 冷徹な仮面の下に宿る激情を、漆黒の魔剣士へとぶちまけた。
 言い終えると同時に身を翻す。
 背中に負ったデイパックの肩紐を掴み、強引に己が身より引き剥がす。
 びゅん。
 フルスイングで、投擲。
 ばりん。
 鳴り響いたのはガラスの音。
 烈音と共に打ち砕かれたのは、席のすぐ横に張られた窓ガラスだ。
 店外へ弾き出された鞄を追うように、ソファー状の席を駆け上がる。
 窓枠へと片足をかけたはやては、そこで再びセフィロスを睨んだ。
「生憎と、私の手元には接近戦用の武器しかない……お前と戦ったところで、命の保障がないんは分かっとる……」
 一太刀で分かる。相手は剣術系の接近戦型だ。
 素人目だが、恐らく攻撃速度はシグナムと互角。
 いかにデルタギアがあるとはいえ、ろくに技術や経験のない格闘戦を挑むには分が悪い。
 故にここは逃走を選ぶ。
 たとえみっともない選択だとしても、次に確実に打ち倒すために、今はあえて背中を向ける。
「せやけどな……」
 ああ、認めよう。確かにこれは自分のミスだ。
 相手の残虐性を読みきれなかったが故に、こんな結果を迎えてしまった。
 自分の正体を確かめるために、わざわざ刃まで向けるような相手であったことを読みきれなかった。
 だが、このままでは終わらない。
 絶対にただでは終わってやらない。
「次に会うときは必ず殺す! お前は私の手で、絶対にブチ殺したるッ!!」
 憤怒と憎悪に歪んだ顔で。
 セフィロスを指差すはやての形相に、やはりかつての面影はなかった。


「――逃げるで、クアットロ!」
 ばりんとガラスの音が鳴った後、クアットロの元に現れたはやては、何故か店の裏側からやって来た。
「ど、どうしたんですか急に……セフィロスの説得は……?」
「失敗した! アイツの思考を読みきれんかった私の落ち度や……早いとこ逃げんと殺される!」
 片手に掴んでいたデイパックを背負いながら、眼前で早口で捲くし立てるはやて。
 軽く取り乱してみせたクアットロだったが、実際にはこの返答の予想も、ある程度ついていた。
 何せわざわざ窓ガラスから脱出してきたのだ。何らかの緊急事態でない方がおかしい。
 故に内心では冷静に、駆け出すはやての後へと続く。
 相手の油断を誘うため、わざと驚いた顔をしながら。
「に、逃げるってどこへ?」
「東の橋や! このままスマートブレインに直行する!」
「あっ……そういえば、シャマル先生は!?」
「アイツにやられた! もう助からん!」
「っ……そんな……!」
 驚愕と悲嘆の表情を作った。
 わざとそのように装った。
 自分の語った設定上では、彼女は更生した自分を支えてくれた恩人だ。
 故に敬愛するシャマル先生の死を嘆き悲しむかのように、わざと泣きそうな顔を演出する。
「ぼさっとしとったらあかん! 追いつかれたら、シャマルの犠牲まで無駄になる!」
 叱咤するはやての声は力強い。
 本来なら大切な人間であるはずのシャマルを喪ってなお、その声には覇気が残されている。
 冷酷なまでの余裕。
 これがクアットロ自身であればまだ納得がいった。
 だが相手は、本来お人よしであるはずの八神はやてだ。
 そもそも彼女が自分の知る彼女ならば、シャマルを見捨てて逃げたりはせず、無謀な戦いにも身を投じたはずだった。
 やはり異なる世界のはやてには、人格形成の上で何らかの変化があったのか。
 これまで抱いていた疑念が、更にその色を濃くしていく。
(適度に甘ちゃんが抜けて魅力的になったのは確かだけど……)
 共に戦うというのなら、喜ばしい変化だ。
 この八神はやてならば、余計な情に流されることなく、現状のように常に生き残ることを優先して行動するだろう。
 だが。
 その一方で、異なる感情を抱いたのもまた事実。
(……そろそろ切り時かしらね?)
 これでこいつの失態は二度目だ。
 一度目はキングに騙された時。
 そして今回、セフィロスに敵と認識されたのが二度目。
 ヴィータにもセフィロスにも恨まれ、キングには殺人を犯したという証拠を握られた女。
「くそっ……なんでよその世界の私は、あんな危ない奴を仲間に引き入れたんや……!」
 悪態をつくはやてを見やる。
 彼女には敵が多すぎる。
 改心した善人を装い、集団にもぐり込むことを目的とした自分には、いい加減邪魔な存在になってきたのではないか。
 ならば近いうちに、手を切った方が得策ではないか。
 エリアの境界を跨ぎ、廃墟と化した街並みへと踏み込んだ頃。
 クアットロの脳内では、冷徹な思考が渦を巻いていた。


【1日目 日中】
【現在地 F-3】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】健康、スマートブレイン社への興味
【装備】ツインブレイズ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×3、スモーカー大佐のジャケット@小話メドレー、主要施設電話番号&アドレスメモ@オリジナル、
    医務室で手に入れた薬品(消毒薬、鎮痛剤、解熱剤、包帯等)デルタギア一式@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    デルタギアケース@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カリムの教会服とパンティー@リリカルニコラス
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.スマートブレインに向かう。その道中でクアットロと情報交換を続ける。
 2.ヴィータを戦力に加える。
 3.クアットロを利用する(おかしな行動は絶対にさせない)。
 4.ある程度時間が経ったらメールの返信を確かめる(多少遅くなっても良い)。
 5.セフィロスを許さない。絶対に自分の手で殺す。
 6.キングの危険性を他の参加者に伝え彼を排除する。もし自分が再会したならば確実に殺す。
 7.首輪を解除出来る人&プレシア達に対抗する戦力の確保。
 8.以上の道のりを邪魔する存在の排除。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※ヴィータと戦う事になったのはキングが原因だと断定しました(その事を許すつもりはありません)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※プレシアの目的はアリシア復活で、その為には普通の死ではなく殺し合いによる死が必要だと考えています。
※プレシアには他にも協力者がいると考えています。
※施設には何かしらの仕掛けが施されている可能性があると考えています。
※キングのデイパックの中身を全て自分のデイパックに移して、キングのデイパックも折り畳んで自分のデイパックに入れています。
※図書館のメールアドレスを把握しました。
※シャマル、クアットロと情報交換しました。
※クアットロは善人のふりをして自分を騙していると確信しました(ただし、ある程度利用出来るとは思っている)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し、それが決して長いものではないという可能性に気付きました。

【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】左腕負傷(簡単な処置済み)、脇腹に裂傷(掠り傷程度)、眼鏡無し、髪を下ろしている、キャロへの恐怖と屈辱
【装備】私立風芽丘学園の制服@魔法少女リリカルなのは、ウォルターの手袋@NANOSING、
    血塗れの包丁@L change the world after story
【道具】支給品一式、クアットロの眼鏡、大量の小麦粉、セフィロスのメモ
【思考】
 基本:この場から脱出する。
 1.スマートブレインに向かう。その道中ではやてと情報交換を続ける。
 2.はやての信頼を固めてとことん利用し尽くす。が、そろそろ切り時か……?
 3.首輪や聖王の器の確保。
 4.生きているフェイトが(StS)の方だった場合、接触は避ける。
 5.ギルモンの分のキルスコアが活かせるよう、ボーナスの内容を考える。
【備考】
※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
※アンジールからアンジール及び彼が知り得る全ての情報を入手しました(ただし役に立ちそうもない情報は気に留めていません)。
※アンジールの前では『アンジールの世界のクアットロ』のように振る舞う(本質的に変わりなし)。
※基本的に改心した振りをする(だが時と場合によれば本性で対応する気です)。
※デュエルゾンビの話は信じていますが、可能性の1つ程度にしか考えていません。
※この殺し合いがデス・デュエルと似たもので、殺し合いの中で起こる戦いを通じ、首輪を介して何かを蒐集していると考えています。
※デュエルモンスターズのカードとデュエルディスクがあればモンスターが召喚出来ると考えています。
※地上本部地下にあるパソコンに気づいていません。
※制限を大体把握しました。制限を発生させている装置は首輪か舞台内の何処かにあると考えています。
※主催者の中にスカリエッティや邪悪な精霊(=ユベル)もいると考えており、他にも誰かいる可能性があると考えています。
※優勝者への御褒美についての話は嘘、もしくは可能性は非常に低いと考えています。
※キャロは味方に引き込めないと思っています。
※シャマル、はやて(StS)と情報交換しました。


 何が何だか分からなかった。
 シャマルはただひたすらに混乱していた。
 第二回目の放送が流れた時、読み上げられた4つの名前。
 10年来の仲間と同志。
 機動六課で知り合った部下。
 この殺し合いの場で、共に戦うと誓った少年。
 またしても、守れなかった。
 シグナムやなのは達のみに留まらず、ザフィーラ達の命までも救えなかった。
 悲哀と自責が胸中で渦巻き、精神の均衡が崩れ去っていく。
 そこに現れたのがあの男。
 銀髪と黒衣のあの男。
 いきなり刃を向けられた。
 いきなり胸元を切り裂かれた。
 いきなりはやてに盾にされた。
 いきなりはやてに使い捨てられた。
 信じていた主の裏切りと、眼前に散った血液の花弁。
 まともな思考力を奪い去るには、十分すぎる衝撃の連続。
 ガラスの割れる音と共に、はやてが1人で逃げていく。
 はやての姿が見えなくなると同時に、胸の激痛を知覚していく。
「く……ぁ……あぁぁ……っ」
 呻きが上がった。
 のた打ち回った。
 焼け付くような傷の痛みと、気が抜けるような失血感。
 このままではまずい。確実に死ぬ。出血多量で命を落とす。
 急速に実感していく死の恐怖。
 それをもたらすのは頭上の男。
 死期を早めるのは銀髪の剣士。
 無慈悲に。無情に。
 見上げた先の漆黒の袖が、刃を掴んで振り上げられる。
 あれを食らえば、今度こそ自分は死ぬだろう。
 あれが刺されば、今度こそ自分という存在は消えるだろう。
「い……いや……いやぁ……」
 そんなのは嫌だ。
 死んでしまうのは嫌だ。
 自分が消えてしまうのは嫌だ。
 うっすらと目尻に浮かぶ透明な雫。
 内腿をじわりと濡らす金色の液体。
 どくどくと乳房の谷間を這う鮮血。
「た、すけ……て……たすけて……だれか……っ……」
 死にたくない。
 何が何でも死にたくない。
 怖い。
 怖い。
 死ぬのが怖い。
 誰でもいい。誰か私を助けてくれ。
 高町なのは。
 フェイト・T・ハラオウン。
 ヴィータ。
 ユーノ・スクライア。
 スバル・ナカジマ。
 キャロ・ル・ルシエ。
「はやてちゃん……」
 か細い声でその名を呼ぶ。
 消え入る声で主を呼ぶ。
 されど、声に応える者はなく。
 されど、この身はこれほどまでに孤独。
「たす、けて……はやてちゃん……」
 どうして。
 どうして誰も助けに来てくれない。
 どうしてはやては自分を助けに来てくれない。
「はやて、ちゃん……」
 信じていたのに。
 愛していたのに。
 愛してくれると言っていたのに。
 たとえ世界が違っても、家族であることに変わりはないと言っていたのに。
「はや、て……ちゃ……」
 なのに何故自分はこんなにも孤独だ。
 何故こんなにも無様な姿を、たった独りで晒さなければいけない。
「わたし……」
 嫌だ。
 こんな結末を迎えるのは嫌だ。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
 死にたくない。
「しに、たく……な……」
 ぐさり。


 湖の騎士の心臓は、はたとその鼓動を停止させた。
 左胸を一直線に貫いた刺し傷からは、とめどなく血液が流れ出している。
 横薙ぎに切り払った傷痕と合わされば、さながら不恰好な十字のようだ。
 弔いのような。
 呪いのような。
 死と鉄の臭いの漂う湖に浮かんだ屍へと、深々と刻み込まれたブラッディ・クロス。
 血溜まりに仰向けに横たわるシャマルだった亡骸を、セフィロスは静かに見下ろしていた。
 シャマルは死んだ。
 風の癒し手はこの手で殺した。
 血と涙と小水にまみれた無様な死体を、たった今この手とこの刃で生み出したのだ。
 決定的とも言える殺人を。
 ヴィータの時には未遂に終わった仲間殺しを。
 かつての仲間達との明確な決別の証を、遂にこの翠屋に刻みつけたのだ。
「………」
 僅かに、額に皺が寄る。
 微かに、顔がしかめられる。
 ざく、と。
 乱暴に叩きつけられた憑神刀(マハ)の切っ先が、木製の床へと突き刺さった。
 てらてらと輝く赤黒い血が、魔性の凶器を染め上げていく。
(まだ悔やむか)
 自問した。
 ほんの僅かに揺らぎを浮かべる、己自身の形相へと。
 ほぼ無表情でありながら、今にも泣き出しそうな気配を宿した相貌へと。
 まだ痛むのか。
 まだ苦しむのか。
 八神はやてという形に、決別の刃を向けたことを。
 八神はやてという形を、この手で明確に否定したことを。
 ようやく見つけた居場所を手離し、仲間に牙を剥くことを。
 いずれまた杯を交わそうと誓った、暖かな居場所を捨てたことを。
(今さら何を怖れている)
 弱い心だ。
 いつの間に自分はこんなにも腑抜けた。
 そんなこと、今に始まったことではないではないか。
 かつてニブルヘイムを訪れた自分が、迷いなく選び歩んだ道ではないか。
 何を迷うことがある。
 何を悔やむことがある。
 剣を取れ。
 前へ進め。
 それ以外に道などない。
 それ以外に救いなどない。
 母なるジェノバの意志を貫く他に、この冷たき孤独の殻を破る術などない。
 幾度となく胸の中繰り返し。
 突き立てた切っ先を抜き放つ。
 かつり、とブーツの音が鳴り、翠屋の店外へと足が向けられた。
 からんころんという音と共に、扉を開いたその先には、既にはやて達の姿はない。
 少しばかり間を空けすぎた。恐らく今から追いかけても、そう簡単には見つけられないだろう。
 だが、扉越しに聞こえた口やかましいやり取りから、スマートブレインなる場所が目的地であることは分かっている。
 ならば今すぐに見つけることはできずとも、時間をかけさえすれば、見つけること自体は難しくない。
 やがて自分とあのはやての出来損ないは、再び相まみえることになるだろう。
 そうなれば恐らく両者共に、出会った瞬間に殺し合う。
 その時こそが、彼女の最期だ。
 あのどこまでも八神はやてに近い姿をしながら、どこまでも八神はやてとかけ離れた女の最期の時だ。
 今度は取り逃がしはしない。
 確実に殺してみせる。
 誰でもない己自身の、この手で。


【1日目 日中】
【現在地 F-2 翠屋玄関】
【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(中)、魔力消費大、全身にダメージ(小)、僅かな動揺、全身ずぶ濡れ、ジェノバ覚醒(ジェノバとしての思考)
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~、
    正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【思考】
 基本:全ての参加者を皆殺しにする。
 1.はやて(StS)とクアットロを追って殺す。
 2.今はまだアンジールは殺さない。ぎりぎりまで生かし、最高の痛みと苦しみを味わわせる。
 3.はやて(StS)、アーカード、仮面ライダーの娘(=柊かがみ)、アレックスは優先的に殺す。
【備考】
※身体にかかった制限を把握しました。
※アレックス(殺し合いには乗っていないと判断)が制限を受けている事を把握しました。
※参加者は別々の世界・時間から連れて来られている可能性に至りました。
※トライアクセラーで起動するバイク(ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~)は
 立体駐車場に埋もれていると思っていますが、運転はできないので無理に探すつもりはありません。
※「仮面ライダーリリカル龍騎」における仮面ライダーの情報を得ました。
※デスゲームと仮面ライダーの殺し合いに関係があるのではないかと思っています。
※アーカードの弱点が心臓である事を見破りました。
※はやて(StS)を本物の「八神はやて」ではないと認識しました。
 また、ヴィータもはやて(StS)を偽物のはやてと見なしている可能性が高いと思っています。


 瞳孔の開いた虚ろな視線が、じっと天井を仰いでいる。
 生命の光の宿らぬ瞳は、二度と安らかな眠りに閉じられることはない。
 かくて喫茶店の店内には、たった1つの亡骸のみが残される。
 シャマルの最大の不幸は、自分の持っていた支給品の効力を、最後まで確認できなかったことだろう。
 具体的に言うならば、あのハネクリボーというカードだ。
 遊城十代の相棒たるそのカードは、特殊効果を持ったモンスターだ。
 それを発動することができたなら、セフィロスに浴びせられた攻撃を、少なくとも一度は無効化できたはずなのだ。
 しかし、悲しいかなシャマルはそれを知らなかった。
 ラッキーカードとなるべきそれは、かくして役立つことなく終わった。
 あるいはその目でカードの精霊を知覚してもなお、玩具が武器として使えるという非常識な可能性を、信じきれなかったのかもしれない。
 いずれにせよ、彼女はここで命を落とした。
 心優しき風の癒し手は、二度と微笑むことはない。
 銀幕芝居の綴り手に利用され、堕ちた夜天の主に見捨てられ。
 しかしそれらを自覚することもかなわず。
 誰からも助けられることなく、極大の死の恐怖の中、孤独にその生涯を終えたのだ。
 そう。
 どれほどもしもを重ねても、そこにさしたる意味はない。
 意味を持つのは事実だけだ。
 シャマルが命を落としたという事実。
 セフィロスがはやてと敵対したという事実。
 それがこの場に残された、たった2つの価値ある真実。
 かくして月は闇へと沈んだ。
 湖の騎士の命を贄とし、今ここに完全なる月蝕は成った。
 銀月の魔剣士の気高き心は、今や朔よりも暗き深淵の中。
 全ての良心としがらみを捨て去り、かつて星の破壊者として怖れられた堕天使へと、完全に戻ってしまったのだ。
 英雄と謳われた人間・セフィロスは。
 今はもう、どこにもいない。


【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
【残り37人】
※F-2の翠屋店内に、シャマルのデイパックが放置されています。


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セフィロス Next:バトルはやて






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