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銀色クアットロ(前編) ◆7pf62HiyTE




―――This world is a stage and every man plays his part―――





          ―――この世は舞台、人は皆それぞれの役を演ずる―――











 F-4に1人の女性が歩く―――その方向はF-5にあるスマートブレインのある東に向いていた。
 目的はそこで首輪解除の手掛かりを得る事―――『だった』。
 その理由は簡単な事、彼女の手には何も無かったのだ。いや、荷物だけではなく胸にも斬られた傷があり、今も出血を続けている。
 それでも足を止めるわけにはいかない、何故なら後方には今にも自分の命を脅かそうとする漆黒の剣士が迫っているのだ。追いつかれたらどうなるかなど考えるまでもない。
 真面目な話『奴』の思惑に乗る形になっている為、正直悔しさと怒りを感じている。それでも自身の目的を果たす為には足を止めるわけにはいかない―――





 彼女―――■■■■■は何処で間違いを犯したのだろうか?





   ★   ★   ★   ★   ★





 ひたすらに八神はやてとクアットロは東へと走っていた。その道中はやてはクアットロに翠屋で起こった事を説明していた。
 まずはセフィロスの境遇の話―――彼の世界のはやてに保護され機動六課に入りそしてJS事件後この場にやって来たそうだ。
 とはいえはやてもシャマルもセフィロスの存在など知らなかったし、セフィロスの方もこの場でもう1人のはやてと出会ったが彼女もセフィロスを知らずそれとは別に仮面ライダーを知っていたという話だった。
 さて、はやて達にしてみればその事は並行世界で説明できるためその事をセフィロスに説明したわけだが……
「……でも、普通に話出来たんでしたらどうして?」
 クアットロの指摘はもっともだ。セフィロスの境遇や彼と情報交換出来たならばはやての味方になる事はあっても敵になる事は無いはずだ。しかしはやてからの返答はない。
「……まさか私がいた事が原因なんですか?」
 悲しそうな言葉で問いかけるクアットロ、敵であるクアットロと行動を共にしていた事が彼の逆鱗に触れてしまったのだろうか?
「まぁ、全く違うわけではないけどな……」
 はやてによるとクアットロと同行している事を指摘され、その事について説明している際にいきなり襲いかかってきたのだ。それによりシャマルが致命傷を負い、逃走を余儀なくされたのである。
「あの……今すぐにでも戻ればまだ助けられ……」
「シャマルは私を守る為に盾になってくれたんや! シャマルの為にも今は逃げるんや!」
 シャマルを助けたいと語るクアットロに対しはやては声を強く訴える。
(そうや……シャマルの犠牲を無駄にするわけにはいかん……何としても奴を仕留めんと……)
 はやての内心にはセフィロスに対する怒りがあった。が、それはシャマルを殺された事によるものではない。
 あの男は自分が『八神はやて』ではないと完全否定したのだ。他者を平気で斬り捨てる自分は『八神はやて』ではないと―――
『他者を利用し陥れることを嫌い、他者を切り捨てることを嫌い……
 ……たとえ自分が傷つこうとも、その目に映るもの全てを、その手で守り抜こうとしていた』
 そうだ、確かに昔はそうだっただろう。その当時の自分しか知らない人間にしてみれば信じられないのも無理はない。
 だが、ゴジラの封印の為に犠牲になった家族を助ける為には仕方がなかったのだ、自分だって誰も犠牲にしない方法があるならばそれを実行していただろう。
 大体、自分が本当に守りたかったものは何も変わっていない。それは自分の家族であり、彼女達を助け守る為に赤の他人を犠牲にする事を否定する謂われは全く無い。
 そもそもの話、何よりも大切な家族は犠牲にして名前すら知らないその他大勢を助けてへらへら笑っている自分などどう考えたって自分ではない。
 何も知らない奴に自分を否定されるいわれは全く無い。何としてでも奴は自分の手で仕留めなければならない―――はやてはそう考えていた。

「……でも、どうするんですか?」
「どうするって、何をや?」
「敵になったんだったら何れはどうにかしないといけないんですよね? 止める方法なんてあるんですか?」
 セフィロスを殺すと頭で考えた所でそれは困難な事だ。推測レベルだがあの男の実力はほぼ確実にシグナム……いや、恐らく高町なのは及びフェイト・T・ハラオウン以上と考えて良いはずだ。
 勿論、本来の武器が無ければその実力は発揮出来ないだろうが、奴の口ぶりから考えて既に自身の実力を発揮出来る武器―――正宗と言ったかそれを所持している筈だ。
 いや、それ以前にシャマルを斬る時に使われた刀ははやての目から見ても明らかに異質な武器だった。
「クアットロ、奴の武器は見たか?」
「ええ……何かは知りませんけど異様な感じが……」
 紫の光を放つ魔剣―――本来の武器であろう正宗を使わず敢えてそれを使っているのが少し引っかかるが、それは強力な武器に違いない。
 また正宗の事も踏まえ奴は本来の力をほぼ発揮出来ると考えて良いだろう。
 対してこちらはどうだろうか? こちらは自身のデバイスを奪われている為本来の実力は発揮出来ないし仮にデバイスを手に入れて全力を出せる状態でも正直厳しいというのが本音だ。
 しかしそれでも奴を倒す手段を考えなければならない。はやての脳裏には3つの方法が浮かんだ。
 1つ目―――度重なる激闘で疲弊した所を仕掛ける。
 2つ目―――なのは及びフェイトクラスの強さ(最低でもヴィータ以上)を持つ参加者2名以上で一斉に仕掛ける。
 3つ目―――遠距離からの強力な攻撃で仕留める。
 だが、1つ目の方法は状況頼みというあまりにも都合がよい話なので除外する。
 その為必然的に残る2つの手段という事になる。しかし、2つ目の方法も正直厳しいだろう。
 セフィロスとある程度戦える参加者としては最低でもヴィータ以上の強さが必要だ。正直な所スバルやチンク辺りでは心許ない。
 だが、それ程の強さの参加者などどれだけ残っている? はやての知る限りなのは、フェイト、ヴィータ、ゼスト・グランガイツぐらいだ、聖王状態になれる場合のヴィヴィオを入れた所で5人しかいない。
 また、運良く合流出来ても各々のデバイスが無ければ実力が発揮できない為その意味でも難しいだろう。
 更に言えば、正直な所セフィロスは自分自身の手で仕留めたい為、違う方法をとりたいと考えている。
 では3つ目だが、要するに近接戦を得意とする相手に馬鹿正直に近接戦を仕掛ける必要は無いという話だ。遠距離からの強力な攻撃を仕掛ければいかに強力なセフィロスでも仕留められるはずだ。
 この方法の最大の利点は条件さえ揃えばはやて1人でも実行に移せるという事だ。遠距離からの攻撃は自身の得意分野、十分に有効な手段だ。
(その為に必要なのは……夜天の書、そいつがあれば勝機はある!)
 必要なのははやて自身のデバイスである夜天の書だ。他のデバイスではセフィロスを仕留める程の威力を出せる保証がないが、夜天の書ならばそこから必要な魔法を読み込めば十分にいけるはずだ。
 制御について不安はあるが、セフィロスを仕留められるならば多少の犠牲は問題ではない。
(とはいえ……どちらにしても困難な話やけどな……)
 しかし何れの手段を執るとしても困難な事に変わりはない。
(まずは大至急で戦力を確保せなあかん……けどなぁ……)
 優先すべきは戦力の確保、セフィロス対策の意味でもそれ以外の分野でも必要な人材だ。
 シャマルを失った今、自分の傍にはどう考えても此方を利用するだけしてボロ雑巾の様に捨てるつもりとしか思えないクアットロだけだ。
 もっとも、クアットロの手口は参加者を口車や演技で此方を騙したり操ったりするもので実質的な戦闘力は戦闘機人の中では最弱の部類、直接戦闘になればまず勝てるはずだ。それがわかっているクアットロがここで仕掛ける可能性は低いだろう。
 恐らくクアットロの場合セフィロスに追いつかれた時に自分を盾か囮にして切り抜けようとするはずだ。そんな事など誰がさせる、その前に逆にシャマル同様盾になってもらおうと考えていた。
 クアットロの利用価値はその知略とチンクに対する人質と盾役程度だ、その時までせいぜい利用させてもらう。
 話を戻そう、今後の為にもクアットロ以外の戦力の確保は急務。気になるのは戦力になる人物が殺し合いに乗るかどうかだ。放送でのプレシアの言葉によって殺し合いに乗った人物が増えた可能性はある。
(流石に騎士ゼストやヴィヴィオ辺りは無いやろけどな……なのはちゃんとフェイトちゃん辺りは読み切れん……ヴィータは……)
 ヴィータに関しては五分五分と言った所だろう。確かに『八神はやて』の名前が呼ばれた事で殺し合いに乗る可能性は十分にある。
 だがヴィータは少なくても自分……『八神はやて』を偽物だと思い込んでいる。つまりヴィータが既に死亡した『八神はやて』を自分……偽物の『八神はやて』だと判断しているならば……可能性は十分にある。
(あの場にはヴィータはおらんかった……ヴィータがあの状況から私が殺されたと思ってくれたなら……後はどうやって味方に引き込むかやな……)
 自分を敵視している以上、自分が目の前に現れたらもう片方が死んだと判断されてしまう。そうなればその時点で殺し合いに乗る可能性が高い。
(いや、もう片方の私がどんな私かはヴィータは知らん……ならば……)
 ヴィータに対しては最初に出会った時の自分ではなく、もう片方の『八神はやて』として接する事を考えた。つまり死亡した『八神はやて』を自分だと思い込ませるのだ。
(上手くいけばヴィータに関する問題はクリアや……)

 そんな中、はやてはクアットロがちゃんと後方を走っているのを一目確認し、
「そういやクアットロ、さっきの放送で何か気になった事は無かったか?」
「そういえば新しいボーナスを検討するとかどうとか言っていた様な……それでちょっと気になる事が……」
「何かあったんか?」
「ええ……殺し合いに乗った人ってもう何人も殺している人いるはずですわよね? その人達にボーナスを手に入れたら面倒な事になるんじゃ……」
「つまり、今までの分も対象になるかやな……確かにその懸念はあるな……」
 仮定の話だが、これまでの死者も対象になるならばその殺害者に御褒美が与えられる。そうなれば殺し合いに乗っている参加者が有利になるのは言うまでもない。
「……とはいえ、それについては今言っても仕方がないな。大体放送の時点では検討すると言っただけやろ? 具体的な事は次の放送を待ってもええと思うが?」
「そうですわね……」
「むしろ私が気になったんは『また』御褒美の話を持ち出して来たってことやな」
 はやては2度目の御褒美の話からタイムリミットが存在する可能性をクアットロに説明する。
「成る程……で、そのタイムリミットって何時ぐらいなんですか?」
「今のペースだけを見れば48時間で残りは10人前後……決着が着くのは大体60時間……」
「……でもそれじゃ長いから御褒美の話を持ち出したんですよね……だとしたら48時間ぐらいかしら?」
「最終的なタイムリミットはその可能性が高いな。プレシア自身は余裕持ってもっと早く決着を着けたいと考えるだろうから……ペースを上げる理由に説明が付くな」
「それなら最初から食料を1日分にするなり、禁止エリアを一気に6つ付けるなりすれば良かったんじゃ……」
「んな事は知らん。でもな、制限時間があるといってもそれはこっちも同じや、プレシアから見れば最終的に首輪を爆破すれば済む話なんやからただ逃げれば良いって事にはならんからな」
「つまり、制限時間内に何とかする方法を見付けると?」
「そうや、具体的な時間をクアットロの仮説通り48時間にするとして、残り35時間でどうにかせなあかん……もっと短いかも知れんしな……」
「あんまり時間ありませんわね……」
 そう、残り35時間程度で戦力を集め、殺し合いに乗った参加者を全て排除し、同時進行で首輪の解除を行い、更にプレシア・テスタロッサの元に辿り着く方法を見付け実行に移さなければならない。
 それだけではなく、プレシアの所に辿り着いてからは交渉するにせよ打倒するにせよ何かしら戦いが待っている。十分な戦力が無ければ返り討ちに遭うだけだ。
 約13時間の戦果で得た物はあまりにも少ない、1つだけでも困難な事を残り35時間で全て実行するには時間が少なすぎる、正直無謀としか言いようがない。
 更に言えば、タイムリミットが迫る中で参加者が多く残っているならば再びプレシアが何か仕掛けてくる可能性がある。状況の厳しさに拍車をかけるのは言うまでもない。


(せやけどやるしかない……私は何としてでもプレシアの元に辿り着いてシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラを取り戻さなければならないんや……その為やったら誰を犠牲にしたって構わん……なのはちゃんやフェイトちゃん達であってもな……)
 何を犠牲にしても成し遂げる―――そう考えたはやての脳裏にセフィロスの言葉が響く、
『お前は――『八神はやて』ではない』
 その言葉ではやての中に怒りが湧き上がってくる、
(巫山戯るな……何も知らん奴が偉そうに『私』を語るなや……『私』の何を知っているというんや……『私』を否定した事……絶対に後悔させてやる……!)







何時もの彼女であれば何の問題も無かった―――







だが、怒りは冷静な判断力や注意力を低下させてしまった―――







それでも人の知る『八神はやて』を演じて切れていれば何の問題も無かった―――







しかし、彼女は演じきる事が出来ず他人から見ればあまりにも醜悪な自分を晒してしまった―――







「え……」







故に―――『それ』に気付く事が出来ず―――







「がはっ……」







激痛が走った瞬間になって初めて気が付いた―――







だがそれで終わる事はなく、次の瞬間には何かに蹴り飛ばされた衝撃を受け―――アスファルトの床を転げ回ったのだ。


「ぐっ……」
 激痛が走る中考える。一体何が起こったのか?
 セフィロスがもう追いついてきたというのか?
 それとも全く別の殺し合いに乗った参加者が襲ってきたというのか?
 あまりにも突然の事にクアットロを盾にする事すら出来なかった。
 胸が血で赤く染まっている。どうやら胸を何かで斬られた様だ、そしてそのまま傷口を蹴り飛ばされたのだろう。
 だが、前を斬られたのだとしたら何故それに気が付かなかったのだ?
 何故相手の蹴りに気が付かなかったのか?
「ちょっと待て……」
 いや、1人いるではないか、相手に察知されることなくそういう行動を取れる人物が……





「……これはいただきますわよ」





 声だけがはやての耳に響く―――そういえばいつの間にか持っていたはずのデイパックが無くなっている。恐らくさっきの事で思考が追いつく前に奪ったのだろう。
 そいつが誰なのかは考えるまでもない。つい先程まで自分と話していた奴だ、





「クアットロ……!!」





 彼女の姿は見えない、それでもはやては虚空にいるであろう彼女を睨み付ける。
「思ったよりも簡単に上手くいきましたわね」
 声だけだが彼女には余裕が感じられる。
「シルバーカーテンを此処で使ってきたか……」
「あら? 私はちゃんと後ろを走っていましたわよ?」
「アホ言え……それはシルバーカーテンを使った幻やろ……恐らく本物は姿を消して密かに前に来てタイミングを見計らっていたって所やな……」
「大体正解ですけど、仕掛ける直前まではちゃんと後ろにいましたわよ。だってそうじゃないと声の方向でバレるでしょ?」
「くっ……」
「何にせよ気付くのがほんのちょっと遅すぎましたわねぇ」
「やっぱり改心したという話は嘘やったんやな」
「そもそも最初から私の話なんてこれっぽっちも信じてなかったくせに」
 確かにクアットロが改心したという話は嘘だと判断していた。その為、絶対に何かを企んでいる事も考えていたし武器に関しても何か隠し持っている事ぐらいは予想出来た。
 だが、まさかこのタイミングで直接仕掛けてくる事は想定していなかった。
 考えてみて欲しい、クアットロの立場にしてみれば自分は十分に利用価値があるはずだ。味方のグループに入り込むのであれば自分を敵に回すなど愚行でしかない。そんな事をすれば自分や機動六課を利用する事など不可能になるからだ。
 真面目な話クアットロが単身で生き残る事など不可能に近い。彼女の味方となりそうなのはチンクとルーテシア・アルピーノぐらいだ。
 機動六課の面々は言うまでもなく敵と認識しているし、それ以外の参加者も彼女達経由で危険性を把握している可能性は高い。
 ならば何故このタイミングで折角得た六課とのパイプを斬り捨てたのだろうか?
「腑に落ちない顔していますわねぇ、まさか私がこのタイミングで裏切るとは思ってなかったんですかぁ?」
「ああ……動くのは他の仲間と合流してからやと思っとったわ……」
「私だってもう少し付き合っても良かったんですよ、実際さっきまでは協力的だったじゃありませんでしたか? 一応言っておきますけどはやてちゃん達に話した事は大体本当の事ですよ? キャロが殺し合いに乗っている話は事実ですからね」
 確かに先程までのクアットロの態度は協力的だったし話している内容も大体真実と考えて良い。嘘だったら露呈した段階で自分が窮地に追い込まれるからだ。少なくてもキャロが殺し合いに乗ったのは確かな話だろう。
「でも幾つかは嘘吐いているんやろ?」
「それはご想像にお任せしますわ……極端な話、生き残れるんでしたらこのままずっと協力していても良かったんですよ? その為だったら多少利用されるのもやぶさかではありませんでしたし」
「そんな言葉信じると思うか?」
「私だって1人で行動するより他人と組んだ方が生き残れるのはわかっていますわ……可能性が高い手段を執るのは別におかしい事じゃないでしょ?」
「……そこまでわかっていて何故今裏切ったんや?」
「それはひょっとしてギャグで言っているんですか? 言ったはずですわよ、可能性が高い手段を執ると……
 はやてちゃん……私を利用するだけ利用してボロ雑巾の様に捨てようって考えていましたわね?」
「!!」
「しかもセフィロスに追われているこの状況……シャマル先生に続いて今度は私を捨て石にするつもりなんじゃありませんか?」
「くっ……待て、今何て言った!?」
 クアットロの言葉にはやてが驚愕する。
「あらあら、まさか本当にシャマル先生を盾にしていたとはねぇ……」
 楽しそうに語るクアットロの声が響く。はやては『やられた』と言わんばかりの表情で、
「くっ……カマをかけたんか?」
「割と適当に言っただけなんですけど……正直どっちでも良かったですしね、とはいえ予想は付いていましたわよ」
(何故や……何故私がシャマルを盾にした事がわかった?)
 はやてには何故自分の行動が読まれたのかがわからなかった。クアットロにはセフィロスの攻撃でシャマルがやられた事しか話していないはずだ、自発的に庇ってきたとは考えなかったのだろうか?
「バレていないと本気で思っていたんですかぁ? はやてちゃんが本当はシャマル先生を家族ではなく只の手駒だと思っている事を」
「何故わかったんや……」
 はやてにはその理由がわからなかった。確かにはやてはこの地にいるシャマル達が違う世界から連れて来られている事を知っていたし、彼女達は本当の家族じゃないから利用する手駒程度にしか考えていなかった。
 しかし、少なくともシャマルに対しては彼女の家族を演じ切れていたはずだ。家族愛を理解出来ないであろうクアットロが見破れる筈がない。
「まぁシャマル先生は最期まで気付かなかったんでしょうけど……はやてちゃん貴方の態度、私から見ても明らかに不自然だったんですのよ?
 キャロみたいに殺し合いに乗った参加者を平気で斬り捨てる様な事、少なくても私の知る彼女はそんな事言わないはずですわ。だって私の知るはやてちゃんは甘々な人間なんですのもの。
 まぁそれだけだったら甘さを捨てるほどやさぐされる何かがあった程度で済むんでしょうけど……ついさっき確信しましたわ、はやてちゃん……貴方、元の世界でシャマル先生達を失っていますわね?」
 はやてが驚きの表情を見せるが、それに構うことなくクアットロの話は続く。
「故にこの地にいるシャマル先生達を本物だと認めなかったと……認めてしまうのは死んだシャマル先生達に対する裏切りだと……まるで死んだ恋人のそっくりさんが現れた時の心境ですわね」
「違う! 死んでなんかない! まだ助けられる!」
 図星を突かれてしまいはやてはついつい本音を口にしてしまう。
「あらあら……これも推測レベルの話だったのに……まさかこれも当たりだったとはねぇ? もしかして、貴方の世界のシャマル先生達を助ける為にプレシアの技術を奪おうって考えているのかしら?」
「ぐっ……」
 はやての表情に悔しさが滲み出る。
「ちなみに失ったって思ったのは、失っていない状況なら例え違う世界の人でも変わらないと考えると思ったからですわ。まぁ、私にとっては間違いでも構いませんけど。
 重要なのははやてちゃんがシャマル先生達を便利なアイテム程度にしか考えていないという事」
「そうや、何故それがわかったんや!?」
 既に冷静沈着な部隊長の姿はない。





「……簡単な事ですわ……だって、はやてちゃん―――





 シャマル先生が目の前で殺されたって言うのに全く悲しそうな顔していないんですもの」





 その通り、はやてはセフィロスによってシャマルが斬られても彼女を犠牲にした事については殆ど意に介してはいなかった。
 その時はセフィロスに自分を否定された怒りと迫り来る脅威から逃げるのに夢中で悲しみの演技をする余裕など無かった。
「……おい、別に私がシャマル達をどう扱おうがお前にとってはどうでもいい話やろ? それとお前の行動に何の関係がある?」
「ちょっと考えればわかる事ですわ。自分の家族すらボロ布の様に扱うんですもの……私をどう扱うか何てすぐに推測付くとは思いません?」
 と、クアットロの声が少し小さくなっている。距離を取っているのだろう。
「クアットロ……何をする気や?」
「今にもセフィロスが迫っているんですよ? 逃げるに決まっているじゃありませんか?」
「私にトドメを刺さんでええんか? 私はお前を許すつもりはない……絶対にこ……」
「それはセフィロスから逃げ切ってから言ってください」
 その言葉を聞いてはやてはクアットロの狙いに気が付いた。
「私を囮にする気か!?」
「ええ、はやてちゃんがセフィロスを引きつけている間に私は悠々と逃げさせてもらうと、その間にまた新しい手駒を探しますわ」
「お前の口車に乗る参加者がいるとは思えんがな」
「シャマル先生は騙されていましたけどねぇ……まぁ、仮にそうでも管理局の甘ちゃん達だったら少なくても殺すって事は無いと思いますわ」
「くっ……」
 その通りだ、殺し合いに乗っていなければなのは達はクアットロを警戒する事はあっても殺す事だけはまず有り得ない。
「あ、仮にはやてちゃんが運良く合流して私を殺す様言っても同じ事だと思いますわよ。むしろ彼女達と仲違い起こす事になるだけじゃないかしら?」
「う……」
 何しろゴジラのいる元の世界でもなのは達とは衝突していた。知っていても可能性が低い上、ゴジラを知らない彼女達ならば甘さを捨てるとは思えない。
「きっとみんなセフィロスと同じ事言うんじゃないかしら? 『貴方は『八神はやて』じゃない!』ってねぇ」
「黙れ……」
「まぁ仲違いは幾らしても良いですけどお願いですから私達の足を引っ張らないでもらえます?」
「足を引っ張る? それはむしろお前やろ?」
「何を言うのやら、ここまで自分が信用されていないのにそんな無茶はしませんわよ……大体はやてちゃんがもう少し冷静になっていればヴィータちゃんとも敵対せずに済んだでしょうし、セフィロスだって味方に引き入れたかもしれないじゃないですか?」
「違う、ヴィータの事は全部キングのせいや! それにセフィロスの件だって奴が危険人物……」
「そうでしょうか? 私やシャマル先生のいた世界のはやてちゃんだったらヴィータちゃんとも仲違いせずにすんだでしょうし、セフィロスだって変な気は起こさなかったと思いますけど?
 まぁ、否定したいんだったら否定しても構いませんわよ。でも、仲違い起こすとわかっていて本音を隠さないのはどうなのかしら? 敵である私にすらバレているんじゃ只の大根役者ですわね」
「お前が言えた事か!」
「それにしてもシャマル先生やヴィータちゃんも災難ですわねぇ、主や家族と思っていた人にボロ雑巾扱いされて……ちょっと同情しますわ」
「心にも無い事を……」
「ともかく、先にスマートブレインで待っていますわ。頑張ってセフィロスから逃げてくださいね」
「その言葉忘れるなよ……」
 と、姿は見えない為実際の所は不明だがクアットロが離れていくのを感じるが、





「そうそうはやてちゃん、もう一言追加良いですか―――





貴方はまた―――守れないかもね―――」





「クアットロー!!!」





はやての叫びが空しく木霊した。





   ★   ★   ★   ★   ★





 結局の所、はやての失敗はクアットロに対する見極めの甘さと自身の本心を隠しきれなかった事だ。

 確かにクアットロが警戒すべき相手だというのは理解していただろう。しかし、それは一体どういう意味だっただろうか?
 その口車で人を惑わし騙し扇動する―――その狡猾な手口や性格ばかりを警戒していなかっただろうか?
 クアットロが幻覚を操るISシルバーカーテン、それを使う可能性を考慮に入れていただろうか?
 クアットロ程度ならば何をしてきても自分の力で簡単に抑えられると甘く見てはいなかっただろうか?

 はやて自身クアットロの能力と直に接触したのは初めて遭遇した時だけ、しかもその時はまだクアットロの正体も知らない状態だった。後はJS事件での戦いでのデータや事件後に得た資料で得た知識しかない。
 能力よりも性格や悪行の方が印象付いていた為どうしてもシルバーカーテンに対する警戒は甘くなってしまう。他の参加者も大体同じ印象を持っていただろうからはやてだけが悪いとは言わないがやはり警戒は怠るべきではなかった。
 また自分ならば抑えられるというのも驕りとしか言いようがない。知略戦を別にしても、通常の戦闘能力を甘く見てはいけなかった。
 確かにクアットロの能力は戦闘向けではないがそれでも彼女は前線に出る事のある戦闘機人だ。並の人間よりは当然身体能力は上であるし前述の通りシルバーカーテンは健在だ。
 対してはやては魔力こそ参加者中でもトップクラスだがデバイスのない状況では無意味とまではいかないがあまり役には立たない。しかも彼女も後方で指揮をする事が多く最前線で戦う事は少ない、故に直接的な戦闘力は一般人並と考えて良い。
 それでも何時ものはやてならばまだクアットロの殺気を察知出来た可能性はあった。だが、前述の通りセフィロスから逃げる事を重視していた為にクアットロに対する警戒が若干甘くなっていた。
 その僅かな隙を突かれたのがこの結果である。

 いや、仮にそうでも自身の本心を悟られなければまだクアットロがはやてを見限らない可能性はあった。自分には十分に利用価値があるからだ。
 少なくとも彼女自身は本心を終始隠し通す事が出来たと考えていた。少なくともシャマルは最期の瞬間まではやての本心には気付いていなかった。
 しかし、彼女の根底にあるものだけはどうしても言動に表れてしまう。その不自然さは特に親しくはないクアットロにすら不信感を抱かせてしまった。冷静に見極めれば見破る事自体は難しく無いだろう。
 勿論、クアットロの視点から見た場合、部隊長の思考としてはあながち間違っているとは言えない。その為、セフィロスがやって来るまでは違和感レベルの話だった。
 が、決定的だったのはシャマルに対しての反応だ。セフィロスに対する感情のあまりはやては遂に本心を隠そうとはしなかった。シャマルに対して一切悲しみを向けなかったのである。
 それが決定的だった。クアットロははやての本心を察した―――それははやてがクアットロを敵だと断じたのと殆ど同じ理由。本当に大切な存在ならばもう少しシャマルに対して悲しみを向けるはずだからだ。
 いくらクアットロが家族に関する知識に乏しくてもそこまで不自然な事をされれば流石に気付く。
 せめて演技でももう少しシャマルに対して悲しみを向けていればクアットロに見破られる事は無かっただろう。
 セフィロスに対する怒りがそれを忘れさせたのか、本当の家族に対する裏切りだからやらなかったのか、それは今となってはどうでもいい話だ。



―――結局の所、彼女は皆の知る『八神はやて』を演じきる事が出来なかったという事だ―――



 ここまでの体たらくは全てそれが原因だ。
 ヴィータを守る為とは言え赤い恐竜を殺したばかりに彼女から偽物扱いされたのも、
 キングに振り回され最初の6時間を殆ど無為に過ごしたのも、
 セフィロスの行動に対しシャマルを盾とした事で彼に自分を否定されたのも、
 クアットロに自分の本心を見抜かれ見限られ道具を奪われたのも、



 勿論、彼女の心情はわからないではない。どんなに堕ちても自分は自分、それを否定する者は許せないだろうし、堕ちた経緯だって客観的には理解出来る。
 しかし、真面目な話何も知らない他人が彼女を認めるかどうかは全くの別問題だ。
 それでなくても元の世界でのフェイト達とも衝突を起こしていたのだ、何も知らない彼女達が今のはやてを理解出来るわけがないだろう?
 結論を言えばヴィータやセフィロスに偽物扱いされ、クアットロからも今後も問題を起こす可能性を指摘されて当然の話だ。





   ★   ★   ★   ★   ★





 胸の傷は浅く血こそ止まっていないが動けなくなる程のものじゃない。
 それでも状況は最悪だ、道具は全て奪われ後方にはセフィロスが迫っている。
 足はクアットロが待つと言っていたスマートブレイン方向に向いているが、このまま移動すべきかどうかはわからない。何処かに隠れて治療する傍らやり過ごした方が良いかも知れない。
 もう少しクアットロに対する警戒を強めるべきだっただろう、最悪道具を奪われる事は避けられたはずだ―――


 只々悔しかった―――
 認めたくなかった―――
 しかし、もっともな指摘だった―――


 そうだ、悔しいがクアットロの言う通りだ。
 昔の自分だったらヴィータに偽物扱いされる事も無かったしセフィロスにも自分を否定される事は無かっただろう。
 せめてシャマルが死んだ事に対してもう少し悲しみの演技をしていればクアットロに自分の本心を見破られる事も無かっただろう。

 だが、そんな事など出来るわけがない。
 今の自分は家族を取り戻す為に他者を犠牲にしているだけであってそれを否定される謂われなんて無い。
 この場のシャマル達に対して悲しむという事は元の世界のシャマル達に対する最大の冒涜だ。

 自分は『八神はやて』だから大丈夫だと思っていた―――
 しかしそんなのは幻想に過ぎなかった―――
 今の自分がなのは達と合流しても火種を増やすだけかも知れない―――
 指摘したのが最悪の敵だったのが最大の皮肉でありそれが正直気に入らなかったが―――

 それでも諦めるつもりなど毛頭無い―――絶対にプレシアの元に辿り着く―――
 例え世界中の人間が自分の敵に回ったとしても―――絶対に家族を取り戻す―――


「まだや―――八神はやては―――私はまだ終わってない―――」


 そう口にしてもたった1人という状況はあまりにも辛い―――
 この分ならばクアットロの指摘通り仲間達はきっと自分を否定するだろう―――
 仮になのは達が自分の世界から来ていても衝突する可能性は高い―――
 嗚呼、まさしく孤立無援の状況だ―――
 幾ら冷徹になろうとも本質はまだ20前後の少女でしかない―――


「リイン……」


 口にしたのは彼女の世界において唯一健在な家族の名前だ。彼女は一体どうしているのだろうか?
 参加者名簿には無いから無事なのだろうか?
 ユニゾンデバイスとして誰かに支給されているのだろうか?
 勿論、仮に支給されていたとしても自分の世界の彼女かどうかはわからない、しかしシャマル達と違いそうではないという保証もない。
 支給されていないならば元の世界で1人寂しい想いをさせているだろう、支給されているならばこの過酷な状況だ、どちらにしても心配だ。
 何故今の今まで存在を忘れていたのだろうか? きっと、家族を取り戻せると思い熱が入りすぎて忘れていたのだろう。
 だが、全てを失い傷ついた状態になって―――今更ながらに会いたくなったのだろう―――
 そんな都合の良い話などあるわけがない―――孤独な主は一人歩き続ける―――

 一筋の風が吹いた―――
 それは何を意味するのだろうか―――



【1日目 日中】
【現在地 F-4】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】胸に裂傷(比較的浅め、出血中)、スマートブレイン社への興味
【装備】無し
【道具】無し
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.このままスマートブレインに向かうか? それとも何処かに隠れて治療をしつつセフィロスをやり過ごすか?
 2.ヴィータ等戦力及び首輪解除出来る人を集めたいが……
 3.夜天の書等遠距離攻撃に向いたデバイスの確保。
 4.セフィロスを許さない。絶対に自分の手で殺す。
 5.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.以上の道のりを邪魔する者を排除したいが……
 8.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。少なくても現状改めるつもりはありません。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※ヴィータと戦う事になったのはキングが原因だと考えており彼を許すつもりはありませんが、自分にも原因があったのを自覚しました。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※プレシアの目的はアリシア復活で、その為には普通の死ではなく殺し合いによる死が必要だと考えています。
※プレシアには他にも協力者がいると考えています。
※施設には何かしらの仕掛けが施されている可能性があると考えています。
※図書館のメールアドレスを把握しましたが、メモが無い為今も覚えているかは不明です。
※シャマル、クアットロと情報交換しました。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※自分の考え方が火種になっている事を自覚し、仲間にも拒絶される可能性がある事を認識しました。



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