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崩落 の ステージ(前編) ◆HlLdWe.oBM




「私、ずっと前からルルの事が好きだったの!!!」

それは乙女の秘めたる想いだった。
きっかけは偶然目にした無愛想だった彼の意外な優しさ。
そして気付いた時にはもう彼の事を好きになっていた。
最初は気付かれないようにしていたが、それはもはや限界。
日に日に心の内から溢れる想いを抑える事はもう出来ない。

だからシャーリーはその想いをルルーシュに打ち明けた。

そこに後悔はない。
あとは答えを聞くだけ。
ただひたすら待つ。
水泳の試合の時以上に心臓の鼓動を強く感じた。
いつの時代どの世界でも『告白』とは乙女の一大事に変わりない。
胸の高鳴りがどうしようもなく抑えられなくなり、今すぐにでも逃げ出したいとさえ思った。
だがまだ答えを聞いていない。
だからひたすら待つ。
本当は1分も経っていないが、その時間がまるで永遠とも思えた。

そしてルルーシュはその真摯な想いに答えを返した。

「俺もだよ、シャーリー」

ここに乙女の願いは成就した。

「ルル、ありがとう」

それはまるで夢のような瞬間だった。


     ▼     ▼     ▼


シャーリー・フェネットは逃げていた。

「はっ……はぁ……ぁ……ひぃ……」

その姿は一見すれば酷いものであった。
あれほど鮮やかだったオレンジ色のロングヘアはところどころチリチリに焦げて振り乱れるままになっている。
温泉で手に入れた新品の浴衣も埃や焦げ目で随分とみすぼらしいものに変わり果てている。
しかもよく見れば顔には恐怖の表情が現われて汗や涙でその深刻さは増していた。
もうそこに以前のような健康的なシャーリーの姿はなかった。

そもそも逃げるという行為は一人では出来ない。
逃げるものと追うものの二者によって初めて成り立つ行為だ。
だが必ずしも追うものが形あるものとは限らない。
目に見えぬ精神的な重圧、忌避したい出来事、避けられぬ運命。
それらの場合は他人にとっては当事者一人での苦悩と見えるが、当事者自身にしてみれば確かに自分を追うものなのだ。

最初シャーリーは目に見えぬ形なきものに追われていた――所謂『罪悪感』というものだ。

これより少し前にシャーリーは赤いジャケットの少女を撃っていた。
撃たれた少女はその場では死ななかったが、撃った本人であるシャーリーにはその生死を確認するだけの冷静さは残っていなかった。
シャーリーは自分が人殺しになったと思いこみ激しいショックを受けていた。
ついこの間までは普通の恋する女子高校生だったシャーリーにとってそれは受け止めるには重すぎるものであった。
だからシャーリーはその場からすぐに立ち去った。
少女を殺したという罪悪感から逃げるため、人殺しを犯してしまった自分から逃げるため。
そしてその後同行者であるヴィヴィオを見失った時にはシャーリーにもう満足に考えるだけの余力は残っていなかった。
唯一考える事ができたのは天道総司への謝罪。
シャーリーが一方的に親の仇ゼロだと勘違いして勝手に決め付けて憎悪を向けた男性、天道総司。

『一言謝りたい』

その想いからシャーリーは天道がいると思われる北の温泉に向かった。
途中で元同行者であった浅倉威に発見されていたが、温泉に向かう事だけを考えていたシャーリーは浅倉の視線に気付く事はなかった。
人殺しの罪を犯したという精神的重圧もあってシャーリーは気が急いていた。
だから自然と温泉に向かう足は若干早足になっていた事も浅倉に気付かなかった要因の一つだ。

だがその目的は途中で新たに現れた追うものによって叶わなくなってしまった。

新たに追うものは目に見える形あるものであったが、その姿は妖しいものであった。
幼い体躯、腰までかかる藤色の髪、肩を曝け出す扇情的なゴスロリファッション。
特に藤色の髪は風の戯れるままに靡かせて、まるで獲物を惑わすような古の怪物メドゥーサの蛇の頭のようである。
さらに追うものの顔には能面のような無機質な表情が貼り付いていて、見る者に得体の知れない恐怖を与えていた。
シャーリーも例外ではなく恐怖を感じていつのまにか足は竦んでしまい歩みを止めていた。

「……おとなしく死んで」

その唐突な死を宣告する言葉と共に放たれたのは黒いダガー。
それはシャーリーのすぐ傍の地面に着弾すると盛大に土埃と爆風を伴って爆ぜた。
動く暇もなく浴衣の裾が汚れたが、シャーリーはそんな事に構っている余裕などなかった。

「はっ……はぁ……ぁ……ひぃ……」

そして今に至る。
シャーリーはいきなり突き付けられた恐怖に太刀打ちできず、すぐさま今来た道を逆走していた。
だが今度は目に見えぬ形なきものではなく、目に見える形あるもの。
だから僅かな気力を振り絞って追うものを撃退しようと抵抗を試みた。
今手元にあって使える武器は少女を殺した銃だけ。
一瞬また撃つかどうか躊躇ったが、命の危機が迫っている状況で天秤はすぐに傾いた。

必死に逃げる、銃を撃つ、見えない壁に弾かれる。
逃げる、撃つ、弾かれる。
逃げる、撃つ、弾かれる、逃げる、撃つ、弾かれる。
逃げる、撃つ、弾かれる、逃げる――撃てない、弾切れ。
反射的に使えなくなった銃を投げた――黒いダガーに当たって破壊された。
おもむろにデイパックに手を突っ込んで触れた物を投げた――何かのバッグみたいだが先程と同じように破壊された。
もっと大きな物ならと思ってデイパックを投げた――投げた拍子に落ちたもう一つと一緒に拾われた。
そこで投げるのを止めた――それはつまり抵抗を諦めた事と同意だ。

これ以上投げたら拾われて自分が不利になるだけ。
それに加えてあれは自分がレイを殺した手掛かりになるかもしれないものだ。
だからシャーリーはもう無駄な抵抗は止めて逃げ切る事だけに専念した。
あとは後ろを振り返る余裕など無いほどただひたすら走った。
どこを走って曲ったか分からなくても自分を追うものから形振り構わず逃げるために一心不乱に走った。
既にシャーリーはいつ果てるともしれない逃避行によって精神的・肉体的に危ういところまで追い詰められていた。
だから当然ながら温泉に向かっていた時よりも周りの様子など全く目に入っていなかった。

だがそんな絶望的な逃避行に変化が現れた。

「はっ……はぁ……ぁ……ひぃ……――ぁ!?」

それは空飛ぶ銀色のカブトムシ――ハイパーゼクターだった。
さすがに目の前から飛んで来る銀色のカブトムシにはシャーリーも気づいた。
それはいきなり現れてシャーリーの周りを旋回すると道案内をするかの如くシャーリーを誘導しようとした。
シャーリーにとってそれは地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸のように見えた。
迷う間もなく藁にも縋る思いでシャーリーは銀色のカブトムシの導きに従い、進行方向を西に変えたのだった。

「……はぁ……ぃ……あれは――」

長い逃避行の終着点には何やら派手な建物が見えた。
看板には「アニメイト」と書かれていて店の周囲には何かのキャラクターのポスターが貼られていた。
先導するカブトムシはまるであそこに入れと言っているように見える。
そして自分の役目はここまでだと言わんばかりにハイパーゼクターは姿を消した。
さすがに一瞬戸惑ったが、気づけば誰も追ってはいなかった。
だからシャーリーは銀色のカブトムシを信じてアニメイトに入る事を決意したのだった。

天道への謝罪。
襲いかかって来た謎の少女。
自分を助けてくれた銀色のカブトムシ。
いろいろ気になる事はあったが、それらの気掛かりはアニメイトに入った瞬間一蹴された。

ハイパーゼクターに導かれてアニメイトに入ったシャーリーを待っていたのは予想だにしなかった事態だった。


     ▼     ▼     ▼


早乙女レイは瀕死の状態にあった。

(……寒い……な)

左胸には真っ赤な銃痕が4つも穿たれて、そこから生の証である赤い血が流れ出ていた。
そのせいで元から赤かったジャケットはさらに赤く染まり、今では黒ずんでさえいる。
そしてレイを中心に冷たいコンクリートの上には盛大に血だまりが作られている。
もう既に意識も朦朧としていて身体を動かす事はもちろん、腕一本はおろか、指一本すら動かす事も出来ない状態であった。
今レイの頭を駆け巡るものは『冷たい』という感触だけ。
もう致死量に匹敵する程の出血に加えて、撃たれてからずっと野晒しの状態で風に当たり続けている。
既に身体は冷えきってもう感覚まで無くなりかけている。

「……ぅ……ぁ……」

当然満足に声を出す事も叶わない。
もう以前のような年相応に快活な声をレイから聞く事はない。
今は微かな呻きを漏らすのが精一杯な状態だ。
これでは例え誰かが近くを通ったとしてもレイが自分の居場所を相手に教える事は出来ない。
しかも視界も徐々に霞み始めていて両の瞳からは光が消えかかっている。
もう既に生きる望みを放棄しているレイはただ漫然と死を待つだけの存在だった。

だから目の前に影ができた時、レイは心底驚いた。

まだ太陽が沈む頃でない事は微かに感じる日の光の暖かさと周囲の明るさで把握していた。
だが今それが一瞬にして消え去って影が降りた。
それはつまり誰かがレイに気付いて近くまで来たという証拠。
おそらく今レイは誰かに見降ろされているのだろう。
そのせいで影が遮られているのだ。

(やっ、た……助かった、きっと死んだ十代様が助けてくれているんだ……ありがとう、十代様、十代様、十代様――)

その時レイは歓喜のあまり最期の涙を流した。


     ▼     ▼     ▼


ヴィヴィオは幼い身体で懸命に治癒魔法を掛けていた。

「お願い、目を覚まして……!」

その相手は以前一度だけ目にした青年、ルルーシュ・ランペルージ。
少し前まで行動を共にしていたシャーリー・フェネットと関係の深い人物だ。
ヴィヴィオがルルーシュの治療を決意したのは自分も何か皆の役に立ちたいと強く願ったからである。
デスゲームが始まってもう半日以上が経過していたが、今までヴィヴィオは守られてばかりで何もしていない。
もちろん周りは少しもそんな事でヴィヴィオを迷惑とは思っていない。
だがヴィヴィオ本人は自分だけがいつまでも守られてばかりで皆に迷惑をかけているのが嫌だった。
あの優しくて強いなのはママやフェイトママのように自分も誰かの役に立ちたい。
いつしか守られてばかりのヴィヴィオはそう強く思うようになっていた。

「だからヴィヴィオもがんばる」

再会したルルーシュの状態はかなり酷いものだった。
本当ならソファーのような柔らかい場所に寝かすべきだが、その移動すら命取りになりかねなかった。
だからこうしてアニメイトの入口から少し離れた場所の固い床に寝かしておくしかない状況からもルルーシュの危うさが窺い知れる。
リインのヒーリングで命を繋いだもののまだ完全に助かるには至らないのだ。
だがここで一筋の光明が存在した。
それはシャーリーがヴィヴィオの身を案じて置いていった道具。
ヴォルケンリッターの湖の騎士『風の癒し手』の二つ名を持つシャマルのアームドデバイス、クラールヴィントだ。
クラールヴィントは本来の持ち主シャマルに合わせて癒しと補助に特化したデバイスとなっている。
つまりこれを上手く使えればルルーシュの傷を癒す事が出来るかもしれないのだ。

しかしここで問題があった。
それは誰がクラールヴィントを使うかという事だ。
この場でルルーシュに治癒を施せそうな人物はリイン、こなた、ヴィヴィオの3人だけ。
だが一番適任であるリインは先のヒーリングで既に魔力はほぼ使い切って、しばらく休息しないと満足に動けない状態だった。
そしてこなたはそもそも魔力を持たないので上手く発動できる保障がない。
そうなると残るは一人。

幼き身でありながら内に聖王の力を秘めたヴィヴィオに白羽の矢が立つ事になる。

しかもヴィヴィオの魔力資質はシャマルと同じ古代ベルカ式であり、クラールヴィントを使うのに適している。
ただヴィヴィオ自身が聖王状態以外では一度も魔法を使っていないという事が不安の材料だった。
だが今は悩んでいる猶予はない。
それにヴィヴィオには初めて自分が役に立てる事を全力全開でやり遂げる強い決意があった。
そしてヴィヴィオの強い要望もあってこなたとリインはルルーシュの治癒を任せる事にしたのだった。

その結果、クラールヴィントでの治癒は上手く進んだ。

ここに来る前に聖王として覚醒して多種多様な魔法を使ったおかげである程度魔法を使う下地ができていた事は幸いだった。
ヴィヴィオは自分が誰かの役に立てた事がこの上なく嬉しかった。
きっとなのはママもフェイトママもこんな気持ちだったのかな。
緑色の光に包まれながら徐々に顔色の良くなるルルーシュを見てヴィヴィオは静かにそう思うのだった。


     ▼     ▼     ▼


ルルーシュ・ランペルージが目覚めた瞬間に目にしたものは『眼鏡をかけた貧弱そうな少年』のポスターだった。

「…………?」

そのポスターをよく見れば描かれている人物は少年ともう一人、主面をした女性も一緒にいた。
構図としては少年が女性に対して傅くようなものになっている。
それを見た瞬間ルルーシュはどこか他人とは思えない不思議な感じになったが、すぐにどうでもいい事だと忘れる事にした。

「……ん、ここは――」
「ルルーシュ!!」

ルルーシュは自分がどうなったのかまるで記憶がなかった。
だからまずは現在地を確認しようとしたのだが、その疑問はすぐ傍で待機していた青髪の少女によって遮られた。
その少女を見た瞬間ルルーシュの緊張は半ば解けた。

「こなた……か?」
「うん、そうだけど……も、もしかして記憶喪失!?」

泉こなた。
オタクの知識が豊富なこと以外は普通の女子高校生。
そしてこのデスゲームにおいて行動を共にする新生黒の騎士団の一員。
よくよく思えば以前も気絶から回復した時こなたが傍にいたなとルルーシュは思い出していた。
その時はスバルもいたが、今はいない。
そんな感傷に浸りつつルルーシュはこなたの姿を改めて目にした。
もうすっかり見慣れたはずのこなただが、今のルルーシュは少し戸惑わざるを得なかった。
それがルルーシュの緊張が半分しか解けなかった理由であり、こなたが記憶喪失の可能性を疑った理由だった。

「いや、その服、どうしたんだ」
「あ、この制服? えっと、いろいろあってね。それにしても、まさかこの制服をこんなところで着る事になるなんて……」

それはこなたの服装が気絶する前と全く違っていたからだ。
こなたが口籠るように言い訳を言っているが、ルルーシュが戸惑ったのも無理はない。
今こなたが着ている制服は高校のセーラー服には違いないが、元々着ていた陵桜学園の臙脂と白の制服ではない。
白を基調として水色の襟と胸元の臙脂のリボンが特徴的なセーラー服、襟と色を合わせた水色のスカート。
それは某有名アニメ涼宮ハル○の憂鬱に出てくる北校の制服を再現したものだ。
ちなみに主人公の涼宮ハル○仕様として黄色のカチューシャと団長の腕章もオプションで付いていた。

(腕章に書かれた文字は『団長』か? だが黒の騎士団に団長などいないぞ。あとで言っておくか)

だがその『団長』の文字が黒の騎士団ではなくSOS団を示している事などルルーシュは当然知らない。
もちろんこなたは詳細を思い出せないまでも腕章の由来ぐらいは知っているが、自ら進んで制服の説明をする気はなかった。
なにせ着替えた理由がデュエルアカデミアの一件や全力逃避行のせいで制服が埃や汗で汚れたため。
さすがにこなたも一端の女子高校生。
この異常事態下でそのような理由は言い出し辛かった。
ちなみにヴィヴィオも着ている服があまりにもみすぼらしかったので見かねて着替えを用意してあげた。
一仕事終えて汗をかいていたヴィヴィオはこなたの勧めに従って今はプリズム・アー○のフェルの衣装を着ている。

そもそもこなたがこの制服を着るのはこれが初めてではない。
以前にもコスプレ喫茶で同じ制服を着ていたから自然とこの異常な状況下で懐かしさを覚えていた。
この非常事態で着替えたのはそんなささやかな日常を思い出したかったという面もあったかもしれない。

「それよりも起きていて平気なの?」
「ああ、身体を起こすぐらいならどうにか」
「そうか、ホント良かった。あとでヴィヴィオちゃんに御礼を言っておくんだよ」
「ヴィヴィオ? 確かスバルが言っていた女の子の名前だな、なぜその名前が出てくるんだ?」

そしてここまでの経緯を把握していないルルーシュはこなたに情報を求めて、そして知った。
死にかけていた自分の命を懸命に救ってくれた3人の少女の功績を。

「そうか、お前らのおかげか」
「私は運んだだけ。本当に頑張ったのはリインとヴィヴィオちゃんだよ」
「だがお前がここまで俺を背負って逃げてくれたから俺は今もこうして生きているんだ、だから感謝しているよ」
「そんな……それに御礼なら皆が起きてからの方がいいよ」

こなたの言葉でルルーシュはふと違和感を覚えた。
こなたの話通りなら少なくともリインとヴィヴィオが一緒にいるはずだ。
だが見たところこの周囲には自分とこなたの二人以外誰もいないようだ。

「リインとヴィヴィオはどうしたんだ?」
「あの二人なら奥の事務室で眠っているよ。特にヴィヴィオちゃんは初めてなのに無理するから余計にハラハラしたよ。リインも――」
「リインならここにいますよ」

いきなり少々舌足らず声が上空から声が上空からこなたの発言も遮った。
そこにいたのはまさしく今話題に挙がっていた功労者の一人。
茶色の士官服に身を包んだ妖精のようなユニゾンデバイス、リインフォースⅡだ。

「リイン! もう動いても平気なの」
「お気遣い感謝です。まだ本調子ではないですけど、もう動くぐらいなら問題な――」

だがこなたの発言を遮ったリインもまた別の人物に発言を遮られる事になった。
その人物は正面入り口の自動ドアをくぐって入ってきた不意の来客。
それは息を切らせて全身掠り傷だらけの浴衣を着た少女だった。

「だ、誰かいるの!?」

だがこの3人の中で唯一ルルーシュだけは一目見ただけでその少女が誰なのか分かった。
それも当然だ。
その少女はルルーシュと同じ世界の人物であり、数時間前にはデュエルアカデミアの前で最悪な別れ方をしてしまった人物なのだ。

「まさか、シャーリー!?」

こうしてルルーシュとシャーリーは二度目の再会を果たす事になった。


     ▼     ▼     ▼


シャーリーとルルーシュはお互いに思いがけない再会に戸惑っていた。

「うそ、なんでルルがこんなところに……」
「シャーリーこそ、なんでここに……」

それは唐突すぎる再会だった。
確かにシャーリーは少し前まではルルーシュに会おうと行動していた。
だが今は事情が違う。
人殺しの罪で汚れた今の自分にルルーシュに会って裁く資格など無いと思っていた。
だからこの再会はシャーリーにとっては望まぬ再会だった。
一方のルルーシュはいつか再びシャーリーに会わなければいけないと思っていた。
そして改めて二人で話し合わないといけないと思っていた。
だがそれはもう少し先になると考えていた。
だからこの再会はルルーシュにとっては早すぎる再会だった。

「……シャーリー、聞いてくれ」
「な、に?」

だが似ているようだが二人の間には大きな違いがある。
それは覚悟の重さ。
シャーリーはルルーシュと会って裁くと決めていたが、その決意は不安定なものだった。
つまり覚悟ができていなかった。
それに対してルルーシュはシャーリーに会えばどうするかはっきりと決めていた。
つまり覚悟ができていた。
この差は大きい。
だからこの時、先に言葉をかけたのはルルーシュの方だった。

「俺はゼロだ。君のお父さんを殺した仇、ゼロだ」
「…………」
「だから君に裁かれても仕方ない。だがせめてこのデス……ぅ――」
「ルルーシュ!?」

不意にルルーシュの声が呻き声に変わる。
それは無理もない。
治癒魔法で回復したとはいえそれは最低限命が助かったという事でしかない。
案の定その顔は蒼白だった。
咄嗟に傍にいたこなたが腕を伸ばして支えようとしたが、ルルーシュは敢えてそれを断った。
そこにはルルーシュの並々ならぬ決意があった。

「ありがとう、こなた。だが、これくらい大丈夫だ」
「ルル……その腕……」
「ああ、ちょっとな……だけど、最後まで聞いてほしい……」
「なんで……なんでそんなボロボロで……」
「俺はもう、俺はもう失いたくないんだ……何一つ、失いたくない……うっ……」

右腕の喪失を気遣ったシャーリーの優しさに感じ入りつつルルーシュはまだ弱っている身体を無理やり起こそうとした。
だがそんな無理は現実という道理に阻まれた。
怪我が完治していない身体での急激な体勢移動はルルーシュに立ち眩みという仕打ちを与えた。
だが倒れそうな身体に差し伸べられる手があった。
今度はこなたではない――シャーリーだった。

「シャーリー!?」
「ルル、ルル、ルル、ルル、ルルゥゥゥウウウ……――」

泣いていた。
シャーリーはルルーシュの身体を抱きしめて支えながら泣いていた。
それは気付いたからだ。
ルルーシュの気持ちを、決意を、覚悟を。
だから父の死を許せるかと言うとまだ分からない。
だが今は今だけはこうしていたかった。
それをルルーシュは拒まなかった。
どこにも拒む理由など無いからだ。

「シャーリーもういいんだ、もう」
「でも、ルル……私、人を撃っちゃったの……赤いジャケットの女の子を、だから」
「俺のせいだ、シャーリーは悪くない」
「ルルのことも撃とうとした」
「だが君は思い止まってくれたんだろう、だから俺は生きている」
「でも、私は……」
「俺が許す、君の罪は全部俺が――」

そしてルルーシュは残った右腕でシャーリーを強く抱きしめた。
そこにある感情を知っているのはルルーシュだけ。
そしてシャーリーも自信を包む温もりからそれを一身に感じ取っていた。

「朝は必ず来る」
「え?」
「朝は来る。忘れる事なんて出来ない悲しい事はたくさんあるが、それでも朝は来る。だから無理して抑え込むな」
「……そうだね、私もそう思うよ」

『朝は来ますよ』――それはルルーシュが以前ギアスで記憶を失くしたシャーリーに言われた言葉だった。
だからこれは過去のシャーリーへのせめてもの償い。
ルルーシュは何も言わずただシャーリーを抱きしめ続けていた。


     ▼     ▼     ▼


スバル・ナカジマはアニメイトの裏口の前で立ち往生していた。

(やっぱり誰かいる……もしかしてルルーシュ達かも……)

スバルがここに辿り着いたのは少し前になる。
柊かがみとの戦闘のせいで離ればなれになった仲間を探している最中にハイパーゼクターを見つけた事がきっかけだった。
そのハイパーゼクターは何かを教えるように頻りにスバルをアニメイトに誘おうとしたのだ。
そしてアニメイトはスバルの仲間であるこなたに関係ありそうな建物なので入ろうとしたのだが問題があった。

正面の自動ドアが開かなかったのだ。

無論一般的なガラスでできた自動ドアだから壊して入るのは簡単だが、それでは元から目立つ建物がさらに目立ってしまう。
それにもしも中にルルーシュ達が避難していた場合、正面の入口を破壊する事は好ましくない出来事になってしまう。
どうしようか悩んでいたスバルに助け船を出したのはまたしてもハイパーゼクターだった。
その銀色のカブトムシが示す先には裏口であり、表が無理なら裏と思い立って今に至る。
しかし残念ながら裏口も固く鍵を掛けられていて侵入者を許そうとはしなかった。
だがそれは裏返せば誰かが中にいる証拠でもある。
そしてここは表の正面口と違って裏口なので目立つ心配はあまりない。

(……別にいいよね)

スバルはここに至って裏口を壊して中に入る事を選択した。
まず軽く周囲に誰もいない事を確認して拳を構える。
骨折している左腕に響かないように注意しながらゆっくりと右手に魔力を込める。
そして一気に繰り出そうとして――

「ちょっとスバル待った!!」
「え!?」
ガッゴン!!!

――突然開いたドアに顔面強打される事で中断された。

「え、あ、ごめん」

そして中から現れたのはスバルが探していた一人、泉こなただった。
こなたはドアに付いていた覗き穴でスバルの強行突破を発見して急いでドアを開けたのだ。
だがその時スバルの顔に勢いよく扉がぶつかる事まで気が回らなかった。
だからこなたは仲間との再会にもかかわらず少々気不味い表情を浮かべていた。

「……イタタ、大丈夫、気にしなくていいよ。でも、二人が無事で良かった」

何が起こったのか把握したスバルはまず気不味そうなこなたに心配かけないように言葉を掛けた。
とりあえず離ればなれになった他の仲間や制服が変わっている事も気に掛かったが、何よりもまずは無事に再会できて安堵した。
スバルの言葉を聞いてこなたもようやく笑顔を浮かべ、その肩の上で複雑そうな顔をしていたリインもスバルとの再会を喜んでいた。

こうしてスバル・ナカジマと泉こなたとリインフォースⅡも意外な形で再会を果たす事になった。


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