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ロリッ!幼女だらけのクリスマスパーティー ~ボインもあるよ!~(前編)◆Vj6e1anjAc




 それは小さな願いだった。

 何事もない穏やかな日々、ずっと求め続けていた温もり……何よりも愛しかった日々に、暗く、静かに落ちた影……

 運命という名の鎖を断ち切る力を、この手に得ることができるなら、全てを捨てても構わないと思った。

 嗚呼――なのに、何故。

 私は、こんな所へ来てしまったのだろう――


 ただひたすらに、這いずるように逃げていた。
 カートリッジはない。自分の得意とするタイプの武器じゃない。
 何より、今も傷口から流れる血が、体力と思考力を根こそぎ奪い続けている。
 こんな状況で挑んだところで、まともに勝てるはずもない。
 故に見つからないようにすることだけを考えて、みっともなく逃げ続けていた。
 巨大な戦艦の内部を歩いていく。
 ふらふらとした足取りで、がらんどうの闇の中を進んでいく。
 もう自分がどこにいるのかも、どの道筋を辿れば出られるのかも分からない。
 有体に言えば、迷っていた。
 これだけうろつき回ったのだ。右腕から溢れる血痕の道も、ぐちゃぐちゃに混線していることだろう。
 唯一救いがあるとするならば、そうして追っ手をかく乱できたことくらいか。

 何故、自分は逃げているのだろう。
 ふと、ぼやけた脳内で思考する。
 出来損ないのはずの自分が、何故この期に及んで逃げているのだろう。
 もはや居場所なんてないのに。
 人殺しの罪を犯した自分を受け入れる者など、誰もいないというのに。
 生きていく意味も、共に生きたいと思える仲間も、全てなくしてしまったというのに。

 命は何にだって一つだ。
 他の何かで代用できる命などない。命はそれぞれに等価値なんだ。
 そんな言葉を、どこかで聞いたような気がする。
 他人に命の品定めをされ、結果捨てられた自分にとって、その言葉はひどく優しく聞こえた。
 けれど。
 だからこそ、今になって理解できる。
 命の価値を決めるのは、他人ではなく自分自身。
 すなわちそれは、自分を無価値だと決め付けるのは、他ならぬ自分自身だということ。
 自分は無価値だ。
 まるで命に意味を見出していない。
 まるで生きようとしていない。
 幾度となく迷い悩んでも、大切な人達に支えられ、その度に道を切り拓いてきた。
 しかしそれは裏を返せば、他人という存在がいなければ、今の自分は存在しえなかったということ。
 ■■■■・■・■■■■■という人間は、いわばファミレスのガラスコップ。
 色とりどりのドリンクを、他人から注がれることがなければ、ただ透明で空っぽなだけの存在。
 他人の存在なしにしては、何の個性も得られず、何も決められず、何を為すこともできはしない。
 観賞用にも使えぬコップに、一体どれほどの意義がある。
 たった独りの空虚な自分に、一体どれほどの価値がある。
 死ねばいいのに。
 死ねば助かるのに。
 死んでしまえば、少なくともこの苦痛と絶望からは、解放されるというのに。

 嗚呼。
 なのに、何故――死ぬことは、こんなにも、怖い。

 今ここで自分の命が失われれば、何もかもが虚無へと還る。
 右腕を苛む痛みも、誰からも愛されぬ悲しみも、あっという間に捨て去ることができる。
 けれどそれは、他の全ても捨てる選択肢だ。
 大切な人に出会えた喜びの記憶も。
 大切な人と培ってきた楽しい思い出も。
 大切な人を救いたいと願った真っ直ぐな意志も。
 何より、この身体と魂を持って生まれた、■■■■・■・■■■■■という存在そのものも。
 自分なんて大嫌いなのに。
 自分であることがひどく苦痛なのに。
 自分が消えてしまうのが、怖い。
 憎しみや悲しみだけでなく、喜びさえも消え去って、何もなくなってしまうのが怖い。
 無様なものだ。
 死にたいくらいに絶望してなお、死ぬのは怖いと足掻いている。
 生きていても仕方がないのに、生きていたいともがいている。
 本当に。
 なんて、無様。

「……?」

 かつり、かつり、かつり、と。
 不意に、微かな靴音が聞こえてくる。
 追っ手のそれではない。あの巨大な鎌を引きずる、がりがりという音が聞こえてこない。
 こっそりと物陰から顔を出し、ばれないように正体を伺う。
 そこに歩いていたのは、1人の少女。
 きっと自分と同い年くらいの、紫色の髪の女の子。

 フェイト・T・ハラオウンのそれと同じ――赤い瞳をした女の子だった。


 インテリジェントデバイス・マッハキャリバー。
 あのへなちょこな新人のデバイスにしては、大した速度を持っている。
 胸元にぶら下がる水晶へと視線を落とし、ルーテシア・アルピーノは思考した。
 先のアニメイト襲撃から数時間が経過した今、彼女は聖王のゆりかごへと到達していた。
 マップ上の区切りで言えば、2マス分を斜めに突っ切ったことになる。
 多少時間はかかったものの、歩幅の狭い子供の自分では、徒歩でならもっと時間がかかったことだろう。
 最悪、途中で疲弊していたかもしれない。
 それを考えれば、第3回目の放送よりも早く、ここまで辿り着けたことは、僥倖としか言いようがなかった。
 眠るヴィヴィオを背中に担ぎ、薄暗いゆりかごの廊下を進んでいく。
 足元に血痕が見えたのが気にかかったが、さして重要なことではないと判断。
 恐らく戦闘でもあったのだろうが、血を流しているということは、手負いの死に損ないなのだろう。
 仮に加害者がいたとしても、自分にはイフリートという味方がいる。
 何せ本来なら制限の対象である召喚獣だ。そうそう簡単に遅れを取る場面は想像できない。
 そうこう考えているうちに、目当ての玉座の間へと到着。
 天井の高い殺風景な部屋に、ぽつんと飾り気ない椅子だけが置かれた場所だ。
 聖王とはあくまで主権者ではなく、強力な兵器でしかなかったことが、否応なしに理解できる。
 かつり、かつりと靴を鳴らし。
 入り口から、灰色の玉座へと到着。
 この部屋に血の痕は見られなかった。ということは、ここは無人なのだろう。
 誰かが隠れていて、物陰から襲いかかってくる――その可能性を排除できただけでも、幾分か安堵できた。
 かちゃん、と鳴る音。
 座らせた器を、椅子に備えられた拘束具をもって固定。
 首にかけたマッハキャリバーを端末とし、ゆりかごを起動せんと準備に取り掛かる。
「………」
 ふと。
 意識のない横顔を見て、思った。
 この娘もまた、自分と同じだったのではないかと。
 たとえ偽りのものであったとしても、ヴィヴィオはあの女を――高町なのはを母親として慕っていた。
 彼女もまた、自分の母と引き離され、1人その背を追い続けていたのではないのかと。
 眠る母を蘇らせるべく、孤独に戦う自分と同じ存在ではないのか、と。
 同情はする。
 大切なものを失い、それを取り戻したいと願う気持ちは理解できる。
 その命を奪うということは、その意志を否定することではないのか、ということも、理解している。
 しかし、してやれるのは同情だけだ。
 今は確かに殺さない。ヴィヴィオが死ねば、聖王のゆりかごは起動しなくなる。
 だが、この戦艦が他の全ての参加者を抹殺すれば、ルーテシアは迷うことなくその首を刎ねるだろう。
 誰だって我が身が一番可愛いのだ。
 自分の母親の命を救うためなら、他人の願いだって踏みにじってみせる。
『プログラム構築、完了』
 マッハキャリバーの音声が響く。
 もやもやした気分を振り払い、己がデバイスへと意識を向けた。
 組んだプログラムは2つだ。
 基本となる聖王のゆりかご起動のためのものと、最終防衛手段としての、聖王モードへの強化改造用のもの。
「あとは……レリック」
 準備は整った。
 残るはヴィヴィオを改造するための材料――レリックさえ手に入れば、すぐにゆりかごを飛び立たせることができる。
 拘束はしておいた。必要なレリックは、今から探しに行けばいい。
 行動方針を定め、今まさに振り返らんとした。

「――来てたんだね、ルーちゃん」

 その、瞬間。
 背後から聞こえる、声。
 入り口からかけられた呼び声に、反射的に身体の回転速度を上げる。
「来てたのなら、挨拶くらいしてくれてもいいのに」
 そこに立つのは桃色の少女。
 淡い桜色の髪の少女。
 自分と同じくらいの身体を、どこぞの伝統衣装に包んだ娘。
「貴方……六課の」
 機動六課、ライトニング04。飛竜フリードリヒを駆る竜召喚士。
 確か、名はキャロ・ル・ルシエとかいったか。
 執務官の保護者と、赤毛の友人に囲まれた、幸せたっぷりな笑顔を浮かべていた無知な餓鬼だ。
 その、はずだった。
「来てたって分かってたら、ちゃんとおもてなししたんだよ? ひどいね、ルーちゃんは」
 であれば、今まさに歩み寄ってくるこいつは何だ。
 黄金と漆黒で彩られた、その禍々しきデスサイズは一体何だ。
 何より、その顔。
 くすくすと笑うその表情。
 果たして彼女の笑う顔は――これほどに空虚なものであったか。
 いかに無知な子供といえど、その顔には確かに温もりがあった。
 笑顔を浮かべるに相応しいだけの幸福感が、そこには確かに宿されていたはずだ。
 なら何故、今の彼女はそんな笑顔を浮かべられる。
 喜びも何も込められていないような、虚ろな目をすることができる。
 何故、そんな。
「……嫌な顔」
 吐き気を催すような、忌々しい笑顔を浮かべられる。
「仕方ないよ、エリオ君が死んじゃったんだもの」
 感情の希薄な声でキャロが言った。
 エリオとは、確か例の赤毛の少年の名か。
 ライトニング03、エリオ・モンディアル――違法技術・プロジェクトFの遺産。
 富豪の家に生まれた御曹司である、本来のエリオのコピーとして生まれた、長槍を振るう少年騎士の名だ。
 そういえば、彼もまた放送で名前を呼ばれていたか。
 最初の放送で呼ばれた死者など、ほとんど忘れかけていた。
「エリオ君が死んじゃって、私はとっても悲しかった……だから、決めたの」
 ぶん、と巨大な鎌を振るう。
 身の丈の倍ほどはあるであろう、死神の大鎌を難なく構える。
 込められるのは禍々しき魔力。
 顕現するのは奇妙な魔法陣。
 ミッド式ともベルカ式ともつかぬ、極彩色をしたそれは、さながらコンピューターのデジタル紋様。
「エリオ君を取り戻そうって――みんな殺して優勝して、エリオ君を生き返らせてもらおうって」
 ああ、そうか。
 ようやく合点がいった。
 その言葉を耳にしたことで、ようやく理解することができた。
 彼女の顔に浮かぶ表情は。
 そのいけ好かない嫌な目は。
「そう……貴方も、私と同じになったの」
 他ならぬ、自分自身のそれだ。
 大切なものを失って、他の全てに価値を見出せなくなった、空虚でがらんどうな目だ。
 かけがえのない者と一緒に、心までも殺されてしまった、何もない空っぽな人間の放つ視線だ。
「そうだね……今の私なら、ルーちゃんの気持ちが理解できる」
 くすくす、とキャロが笑う。
 どうりで気に食わないわけだ。
 自分と同じ存在など、到底好きになれるわけがない。
 他ならぬルーテシア自身が、現状の自分を嫌っているのだから。
 心のない自分が許せないからこそ、死せる母を蘇らせて、自分を変えようとしているのだから。
「それにルーちゃんだからこそ、私の気持ちも分かるよね?」
 ああ、そうだとも。
 その動機は痛いほど分かる。
 自己の半身とでも言うべき存在をなくす痛みは、現在進行形で味わっている。
 ましてや、彼女は自分の保護者すらも喪った。
 フェイト・T・ハラオウンの名前は、二度目の放送で読み上げられていた。
 半身と半身を失ったのなら、なくしたものは合計して一身。
 自己の存在そのものすら、揺るがしかねない強烈な痛みだ。
「だから死んで。私のことを思うなら、私のために、ここで私に殺されて」
 そしてその要求も、理解できる。
 自分以外の人を殺せば、大切な人が蘇る――同じ立場に立たされたなら、自分だってそうするだろう。
 否、それどころか、自分も同じ立場に立たされている。
 しかもかのプレシア・テスタロッサが、人を殺せば願いを叶えると、直接顔を合わせて約束したのだ。
「……悪いけど、それは無理」
 だからこそ、返事も決まっている。
 ヴィヴィオの時の焼き回しだ。
 キャロの境遇に同情はするが、それ以上のことなどしてやらない。
 彼女のために殺されてやらない。
 彼女の願いの礎になどならない。
「私にも、退けない理由があるから」
 逆にこの場でキャロを殺して、自分の願いの礎にする。
 大体、彼女に自分の気持ちが分かるなら、こちらも同じ想いで戦っていると分かっているはずなのだ。
 それを知ってなお、こちらの願いをないがしろにするというのなら。
 そんな自分勝手な女になど、誰が従ってやるものか。
「お願い、イフリート……」
 す、と宝珠を懐から取り出す。
 ルーテシアの指先で光り輝くのは、紅蓮の召喚獣を封じ込めたマテリア。
 灼熱纏いし地獄の鬼神――イフリートを呼び出す魔法の宝石だ。
 小さな珠へと魔力を込める。
 召喚の力を具現化する。
 リンカーコアより力を注ぎ、異界の門を叩いて開く。
 荒ぶる火炎の獣の声を、内に聞いたその瞬間。
「――遅いよ」



 “死ヲ刻ム影”!



 痛烈な衝撃が、胸元を襲った。
「――ッッ!?」
 じわり、じわりと。
 激烈な衝撃が身体を襲う。
 強烈なエネルギーが身体を蝕む。
 魔力が表皮から体内へと浸透し、内側でのたうち回る不快な感触。
 熱い無数の手が臓物をえぐり、容赦なく五体を陵辱し尽くす感触。
「データドレイン、って聞いたことある?」
 苦痛と不快感の向こうから声が聞こえる。
 艶っぽい吐息に混じったキャロの声が、波動を押しのけ響いてくる。
「使うにはたくさんの魔力を消費しなきゃいけないんだけど……
 命中すれば、魔力結合の組成を書き換えたり、壊したりすることができるんだって」
 くすくす、と笑いながら声が迫った。
 かつり、と靴を鳴らしながら足音が迫った。
 一歩一歩着実に、悶え苦しむルーテシアへと歩み寄る。
「リンカーコアの機能だって、停止させることができるらしいよ?」
 突きつけられたのは絶望的事実。
 くわと瞳が見開かれた。
 全身の体毛が総毛立った。
 脳の思考は一瞬停止し、目の前が真っ暗になったような錯覚を受ける。
「ん……んうぅ……っ」
 喘ぎにも似た苦悶の吐息。
 よがるように身をくねらせる。
 なるほど、不快感の正体はそれか。
 刹那の思考停止の間を置いて理解した。
 全身を這いずり回る奔流が、体内を侵食していくのが分かる。
 魔力の源泉たるリンカーコアが、その感覚を喪失していくのが分かる。
 ぽとり、とマテリアを床に落とした。
 召喚獣の声は既に聞こえなかった。
 シャットアウト。
 全ての機能は停止する。
 動力炉は静かに動きを止め、バイパスは残らずシャッターを下ろされた。
 我が身を駆け巡る魔導の力が、軒並み遠退いていく脱力感。
「世界は広いよねぇ、ルーちゃん」
 その言葉を皮切りに、全ての責め苦は終了した。
 解放される。
 全身を這う衝撃と圧力による拘束から、小柄な身体が解き放たれる。
 されどリラックスすることもできず、その身は床へと投げ出された。
 ばたん、と鳴る音。
 それが自身が床に倒れた音だと理解するのにも、更に一瞬の間を必要とした。
 顔中に浮かんだ脂汗に、前髪が鬱陶しくへばりつく。それを払うことすらもかなわない。
 身体が重い。
 息が苦しい。
 節々が痛い。
 五体に満足に力が入らない。
 暴漢に囲まれ犯し尽くされた後のような、苦痛と脱力と疲労感。
 投げ出された華奢な体躯が、びくんびくんと痙攣した。
「私もすっごく疲れたけど……これでルーちゃんは、しばらく一切の魔法が使えない」
 霞がかかった意識の中で、エコーを伴う声が響いた。
 ぐっ、と前髪が鷲掴みにされる。
 ぐい、と顔面が引き寄せられる。
 だん、と右足が腹を踏みつけた。
「私の勝ちだね」
 にぃ、と口元を吊り上げるキャロの顔を、黙って見上げることしかできなかった。
 ああ、忌々しい。
 身体にまるで力が入らない。
 魔力の使えない餓鬼などこんなものか。
 リンカーコアの機能を封じ込められただけで、こんなにも自分は弱くなるのか。
 まともに働かなくなった思考の中、ぼんやりと恨み言を捻り出す。
 相手の言葉に従うのなら、条件はさほど変わらないはずだった。
 珠のような汗を浮かべるキャロもまた、膨大な魔力を消耗しているはずなのだ。
 されど、違う。
 相手の魔力量は僅かでしかなく、ゼロのルーテシアよりは多い。
 おまけにその手には死神の鎌。
 完全に無手のルーテシアとは、比べ物にならないアドバンテージ。
 完全に、詰みだ。
 悔しいが、認めるしかなかった。
「時間も惜しいから、さくっと殺しちゃいたいんだけど……何か言い残したいことはある?」
 嫌な笑顔で彼女が囁く。
 嫌な瞳で問いかけてくる。
 ああ、自分もこんな目をしていたのだろうか。
 こんながらんどうの視線を向けて、多くの人を傷つけたのだろうか。
「……くたばれ」
 呪いの言葉を投げつける。
 それが最期の抵抗だ。
 ああ、くそ。
 忌々しいったらありゃしない。
 こんなところで終わるのか。
 こんなところで自分は死ぬのか。
 あれほど大勢殺したというのに、こんなに呆気ない形で殺されてしまうのか。
 母を助けることもできないままに。
 心を手にすることもかなわないままに。
「ふふっ……じゃあね、ルーちゃん」
 金色の刃が迫り来る。
 漆黒の殺意が襲いかかる。
 これで何もかも終わりか。
 この9年間の人生の足跡は、全て無駄に終わってしまうのか。
 何も為せず、何も掴めず。
 たった1つの大切な命すら、守ることもできないままに。
 最期の瞬間、脳裏に浮かんだものは。
(母さん――)
 最期まで求めて止まなかった、愛しき母親の笑顔だった。


 ごとり、と鈍い音が鳴る。
 ぶしゅう、と噴水の音が鳴る。
 赤い血霞の中に佇むのは、嗜虐的な笑みを浮かべた可憐な少女。
 竜鱗の右手に携えるのは、命を刈り取る死神の刃鎌。
「あははははっ! やった、やっと殺せた! 見てた、エリオ君? 私もちゃんと殺せたよ!」
 無邪気な笑い声が木霊する。
 瞳を閉じた王者の前で、壊れた少女が笑いを上げる。
 キャロ・ル・ルシエとルーテシア・アルピーノ。
 互いに異なる組織に属し、互いに大切なものを失った召喚士は、いわば宿敵と呼べる間柄であっただろう。
 されど一たび世界を違えれば、運命が定めたルーテシアの敵はキャロではなかった。
 少女の携える大鎌は、太古の昔より蘇りし魔具――<死の恐怖>憑神鎌(スケィス)。
 本来あるべき世界においては、かのエリオ・モンディアルが操っていたものだ。
 そして死神の処刑鎌(デスサイズ)の世界において、ルーテシアの敵はそのエリオだった。
 同じ巫器(アバター)に選ばれた者同士、彼らは互いに刃を交え、激しくしのぎを削り合った。
 そして今、ここに少女は散る。
 同じ世界のキャロ・ル・ルシエと。
 違う世界のエリオ・モンディアル。
 母を求める少女は逝く。
 ルーテシア・アルピーノという少女は、二重の宿命に討たれたのだった。





【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡確認】





 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。
 聖王のゆりかごの玉座の間に、電子音声が鳴り響く。
 コンソールを操る指先は、鋭く禍々しき黄金の爪。
 憑神鎌の籠手を身につけたキャロが、1人キーボードを叩いていた。
 ヴィヴィオの座る玉座には、紐の千切れたマッハキャリバーが置かれている。
 生前のルーテシアが何やら操作をしていたので、もしやと思い調べてみたが、やはり当たりだったようだ。
 本来スバル・ナカジマの首にぶら下がっているはずのデバイスには、
 ゆりかご起動とヴィヴィオの改造のためのプログラムデータが保存されていたのだ。
 この娘もさっさと殺してしまおうと思っていたが、思わぬ置き土産が手に入った。
 ならば、このまま死なせるのは惜しい。
 たとえ小型のレプリカといえど、聖王のゆりかごの力が手に入れば、ぐっと楽に殺しができるはずだ。
 ヴィヴィオの方は言うまでもない。
 エース・オブ・エース――高町なのはと互角に渡り合う戦闘力を我が物にできるのだ。これ以上美味い話はあるまい。
(最後の仕上げ――レリックもちゃんと手に入った)
 にやり、と口元に三日月を描き、虚ろな視線を下方にずらした。
 足元にごろりと置かれているのは、煌々と輝く血塗れの宝石。
 莫大な魔力量を内包した、深紅に煌くロストロギア――レリック。
 これはキャロの支給品でも、ましてやルーテシアの支給品ではない。
 否、ルーテシアの持っていたものという範疇ならば、ぎりぎり後者に近いだろうか。
 これは彼女の体内から、直接摘出したものだ。
 先ほど遭遇したルーテシアだが、そこにはキャロの認識と大きく食い違うところがあった。
 額に刻まれた紋様が消えていなかったのだ。
 JS事件が終わった後の世界からやって来たキャロの認識では、既にそれは消えていたはずだった。
 しかし、その赤い模様が、まだルーテシアの額に残されている。
 首を落とした後でもしやと思い、身体をぐちゃぐちゃに抉ってみれば、案の定そこにはレリックがあった。
 再び埋め込まれたのか、あるいは過去の時代からやって来たのか。
 どういう理屈かは知らないが、ともかくもこうしてキャロは、血みどろの肉塊からお宝を発掘したのだ。
 今や生首と元の形すら判然としないミンチになったルーテシアに、内心で感謝する。
 こうなれば後はこっちのもの。
 ゆりかごのコンピューターにマッハキャリバーのデータを流し込み、レリックを用いて聖王ヴィヴィオを覚醒させる。
 次元航行艦の操舵技術を持っていない以上、すぐにはゆりかごを動かせないのが玉に瑕だが、
 それもクアットロ辺りを捜して脅せば解決するだろう。
「もうすぐだよ、エリオ君。もうすぐエリオ君に会える……」
 ひょい、と宝石を拾い上げ。
 聖王の玉座へと捧げながら。
 ぽつり、とキャロが呟いた。
「うふふ……」
 ぴ、と。
 それが最後のスイッチだった。
 プログラムの片割れが起動する。
 魔力の結晶が発光し、王者の肉体へと溶け込まんとする。
 データドレインの影響を受け、不能になっていないかと不安に思っていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
 リンカーコアと魔力回路を蝕んだそれも、ぎりぎりレリックには届かなかったらしい。
 ともあれ、これで全てが上手くいった。
 全てがキャロに味方していた。
 運が向いてきたらしい。何もかもが、彼女の思うままに運んでいる。
 最強の味方を手に入れたとあれば、もはやキャロ・ル・ルシエに敵はいない。
 たとえキングだろうがクアットロだろうが、あの金髪の男や鎧だろうが。
 聖王と憑神鎌――2つの力を手に入れたキャロに、もはや死角はありはしない。
「あはははははは」





 ――ずどん。





「は」
 その、はずだった。



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