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バトルはやて ◆gFOqjEuBs6




ビルが密集した市街地の路地裏。
薄暗いビルの影の中で、はやては壁にもたれて、周囲の様子を窺っていた。
神経感覚を総動員して、聞き耳を立てる。耳を澄ませて、いつでも走れる体制を作っておく。
ずっと走り続けたはやては、休憩のつもりで路地裏に身を隠した。
されど、こう気が張っていては休憩になりはしない。
誰もいない午後の市街地は、思いの外彼女に焦燥を募らせていた。
それは、今現在自分が追われる身であるからこそ経験できる感情。
最早胸の痛みなど感じはしない。ただ胸が熱く、麻痺したように感じるだけだ。
元々大したダメージでは無いのだ。この程度、はやての行動を妨げるには至らない。

現在のはやてが目指す目的地は、スマートブレイン――では無い。
スマートブレイン本社ビルは既に、はやての後方に位置していた。
その身を隠しながら進む先にある施設は、地上本部。
何故あれだけ計画的に、目的地と定めていたスマートブレインへ向かわずに一度訪れた施設へ向かうのか。
その理由は、至って単純。今の状況でスマートブレインへ向かうのは、自殺行為に他ならないからだ。

現在の自分は、追われる身である。それがはやてを焦らせる一番の理由と言える。
追う者の名はセフィロス。銀髪を棚引かせた、黒衣の堕天使。
八神はやてという存在を否定し、八神はやてという存在を殺人の標的と定めた堕天使。
今の自分では、どう足掻いても勝ち目は無い最悪の敵。
恐らくセフィロスは知っているのだろう。八神はやての目的地が、スマートブレインである事を。
そしてもう一つ。スマートブレインには、自分を襲撃した明確な敵が居る。
ジェイル・スカリエッティによって造られた、四人目のナンバーズ――クアットロだ。
自分のデイパックを強奪されたのは癪だが、今はそんな小さな事に拘っている場合では無いのだ。

自分は少々、冷静さを欠いていた。
クアットロの行動により、改めてそれを思い知らされた。
確かに、クアットロの言う通りだ。自分は今まで、クアットロを含めて油断し過ぎていた。
結果八神はやてと言う役割を演じ切れずに、自分はこの窮地に立たされる事となった。
だが、それは幸いとも言える。命に関わる危機が訪れる前に、それに気付かされたのだから。

(そうや、まだ私は終わって無い……)

自分に言い聞かせる。
これが八神はやての終わりでは無い。
これが、八神はやての始まり。本当の戦いが、ようやく始まったのだ。
この胸の傷がはやてに教えてくれる。冷静さを欠くな、と。
もうこれ以上のミスは絶対に犯してはならない。油断も慢心も許されない。
何としても、生き残る。生き残って、守護騎士たちを救わねばならない。
その為ならば、手段など選ばない。最早形振りなど構っては居られない。
全てを利用し、何としてでも生き残る。

だからこそ、スマートブレインには向かわない。
クアットロから装備を奪い返したい気持ちもある。
スマートブレインの探索をしたい気持ちもある。
されど、それ以前に命を失ってしまっては何にもなりはしないのだ。
だから一先ずは地上本部方面に向かい、利用出来る仲間を探す。
仲間が無理だとしても、地上本部に向かえば籠城する事は出来る。
仮にセフィロスに追いつかれても、あの“罠”を利用すれば離れる事くらいは出来るだろう。
最初に訪れた時にはさほど重要性を見いだせなかったが、地上本部ならば消耗した体力を回復する事も出来る。
おまけに、罠とは言え緊急時の脱出経路の存在する。セフィロスをやり過ごすまでの籠城場所としては、申し分ない。
その過程で仲間を見つける事が出来れば、自分にもまだ勝機はあるのだ。
八神はやては、決意を新たにアスファルトを蹴った。


「――で……どうするんだよ、ヴィータ」

烈火の剣精が問うた。
アスファルトを駆ける少女は、ただひたすらに真っ直ぐ走っていた。
その表情からは、困惑の色は抜け切っては居ない。だが、それでも。
ヴィータが向かう方向は、八神はやてが走り抜けて行った方向であった。
はやてに追い付いて、どうすればいいのか。それはヴィータ自身にも解らない。
されど、このまま何もしなければ、きっと自分は後悔するから。

「アイツを追いかける」

だから、ヴィータは走る。
この戦いが始まって、自分は何が出来た。
思い返すが、殺し合いを止めたいと願いながらも、出来た事など一つも無い。
もうかなりの時間が経つのに、自分は一人で何をやっていた。
この殺し合いに葛藤を抱き、無駄に時間を費やすだけ。戦闘になればまるで役立たず。
これでは守護騎士が聞いて呆れると言う物。

だからこそ、今度は自分の意思で行動する。
何をすればいいかは解らない。
されど、どの道はやての姿をした偽物との因縁に決着を付けなければ、この心のモヤは晴れはしないだろう。
だからヴィータは、はやての後を追いかける事にしたのだ。

「でもあのはやてはお前の仲間を殺したんだろ? もし襲ってきたらどうするんだよ!」
「その時は……――」

言葉に詰まった。
あのはやてがギルモンを背後から刺し殺した瞬間は、今でもヴィータの脳裏に焼き付いている。
おまけに先程聞こえて来た話では、はやてはシャマルを捨て石に使ったのだという。
味方である訳が無い。そんな悪辣な女が、はやてである訳が無い。
だが、何故かあの女を敵と切り捨てる事が出来ないで居た。あの女を殺す決意が出来ないで居た。
それはきっと、あの女は仮にも“八神はやて”の姿をしているから。
だからここできっちり話を付ける。この気味の悪さとも、ここで決着を付ける。
そして、もしもあの女がはやての名を語る小悪党であったなら、その時は。

「――その時は、私がこの手でぶっ殺す!!」

今のはやてをセフィロスが追いかけているのだとしたら、きっと自分と同じ考えなのだろう。
セフィロスがもう一人のはやての死を切欠に狂ってしまった事は大方想像が付いている。
偽物とは言え、もう一人のはやてに命を救われたセフィロスが、あの悪辣なはやてを認めるとは思えないからだ。
だからこそ、セフィロスよりも先にはやてに追いつかなければならない。
鉄槌の騎士は決意を新たに市街地を駆け抜ける。
因縁の女との決着を付ける為に。


二人が邂逅するのに、それ程の時間は必要としなかった。
合間合間で休憩を挟み、いざと言う時の為に体力を温存しながら走っていた八神はやてと。
ただひたすらに、はやてが走って行った方向へと走り抜けて行ったヴィータ。
次第に距離が縮まって行くのは当然の結果と言える。
はやてが路地裏から飛び出した瞬間、背後から声をかけられた。

「はやてッ!!!」
「その声は……ヴィータ!?」

はやての目の前で、ヴィータは立ち止まった。
はぁはぁと、息を切らしながら。睨み付けるようにはやてを見据えていた。
ここまで必死に走ってきたのだろう。はやてと合流するために、ひたすらに走って来たのだろう。
何故走って着いて来たのか。一体何処から着いてきたのか。ヴィータが何を考えているのか。
それら全てが謎に包まれているが、今はどうでもいい。

「ヴィータ……無事やったんやね。良かった……ホンマに、良かった!」

瞳に、涙を浮かべる。
ようやく再会出来たのだ。八神はやてが泣いて喜ぶのも無理はない。
そう、八神はやてなら。クアットロやセフィロスの言う彼女なら、そう言った反応を見せるのも無理はない。
だからはやては、何の躊躇いもなく涙を流した。
今度こそ、このヴィータを手に入れる為に。

「……お前、本当にギルモンを殺したあのはやてなのかよ」

対するヴィータの返事は、質問だった。
怪訝そうな表情。警戒しているのだろうと言う事は、一目で理解出来た。
それもその筈。ギルモンとは恐らく、あの時ヴィータと一緒に居た赤い怪獣のことだろう。
やはりあの怪獣はヴィータの仲間だったのだ。自分は図らずもヴィータの仲間を殺してしまったのだ。

――さて、どうする?

内心で、思考を巡らせる。
この場合に考えられる解答は2パターン。
一つ、「自分はもう一人のはやてで、ギルモンとは無関係」という答え。
一つ、「あれはキングに騙されてやった事で、ヴィータを助けたかっただけ」と言い張る。
どちらの方がヴィータを落としやすいだろうか。
前者はそもそも自分とは全くの無関係だと言い張ってしまい、ここへ来て初めてヴィータと出会った事に出来る。
上手くいけば自分のミスを無かった事にしてしまえるが、もしも何らかの切欠で嘘がバレてしまった時の事を考える。
その場合も想定して、後々の憂いを消すために後者を選択するべきか。
一拍の後に、はやては自分の中で結論を出した。

「ヴィータ……それについて、話したい事がある。でも、今の私には時間が無いねん」
「セフィロスに追われてるから、か?」

ヴィータの問いに、眉をしかめた。
何故自分がセフィロスに追われている事を知っているのだ。
そもそもヴィータは一体何処から自分を付けて来た。何故真っ直ぐ自分に追いつくことが出来た。
はやての中で、瞬時に数パターンの仮説が成り立った。
ヴィータがクアットロあたりと接触したパターン。
自分がセフィロスといざこざを起こす瞬間を目撃されたパターン。
クアットロに襲われた直後の会話を全て聞かれてしまったパターン。
もしも3つ目のパターンであったなら、それは最悪のパターンだと言える。
あの時自分は怒りに身を任せていたとはいえ、少し喋り過ぎた。それを全てヴィータに聞かれていたとしたら。
最悪のパターンを想定して、暫くは下手な嘘は吐かない方がいいだろう。
何処から着けて来たのか、ヴィータ側の情報を聞いてからこちらが与える情報量を操作するべきか。
これ以上失敗するわけにはいかないのだ。やはり慎重に行くべきだろう。

「ヴィータはセフィロスの事知ってるん……?」
「知ってるも何も、こっちはお前とクアットロの話を全部――」
「あぁ、あたしはセフィロスを知ってる。なんでお前がセフィロスに追われてるのかも、だいたい想像はつく」

ヴィータの横で喋ろうとしたアギトを遮って、ヴィータが告げた。
だがはやてが最も興味を示したのは、遮られてしまったアギトの言葉だ。
やはり、はやての想像通り。こいつらは事情を全て知っている。
自分がヴォルケンリッターを利用する腹積もりで居る事も、セフィロスに追われている事も。
どうする。ここまで知られた相手を騙せるか……?
もしも手駒に入らないなら、セフィロスあたりにぶつけてしまう方がいいかも知れない。
勿論その隙に自分は逃げるつもりだ。何なら殺害数を稼ぐために、自分で殺したっていいかも知れない。
殺害数を稼いでプレシアに要求すれば、もしかすると夜天の書などのデバイスが手に入る可能性もあるのだ。

「……解った。全部正直に話す、だから今は私を信じて欲しいんや。
 見ての通り、今の私は武器になりそうなものも何も持ってない」

無防備の証として、両手を広げて見せる。
交渉に武器は必要ない。この状況では、支給品を奪われた事は逆に相手の信頼を勝ち取る鍵と成り得る。
ヴィータはアギトと目を見合わせ、少し考えるような仕草を見せる。
そこではやては、「時間が無いねん」と一言。相手を急かして、判断を鈍らせる。
結果、一拍の間を置いてヴィータは肯定の返事で返した。


この場所をマップで表示するならば、調度E-5に入ってすぐの場所だ。
比較的目立たなさそうな建物を探し、ヴィータとはやての二人(アギトも含めると三人)は内部へと入って行った。
はやてとしても、いつの間にかアギトまで味方に付けたヴィータに正面から敵対するつもりは無い。
突然襲われる心配が無いためか、アギトもヴィータも信頼はしないまでも警戒のレベルは下がっているようだった。
彼女らが入って行った建物は、何の変哲も無い一軒のテナントビルだった。
一階は何の変哲もない一般的な事務室で、その奥に設けられていたのは小さな居住区。
備え付けられた簡易キッチンに、テーブルやソファ、テレビ等が設置されていた。
二階へと続く階段もあったが、ここに長居するつもりは無い為に、一階の居住区で話をする事にした。

はやてがヴィータ達に話した内容を纏めると、こうなる。
前提として、自分たちはあらゆるパラレルワールド・時間軸から連れて来られている。
はやての世界は、ヴィータと出会ってから10年後――JS事件が終結した後の世界。
恐らくヴィータが自分を知らない理由は、ヴィータが10年前から連れて来られて居るから。
そこまで説明した時点で、既にヴィータの表情は驚愕一色に染まっていた。
一方で、アギトは妙に納得したような態度で頷いていたが。

「じゃあ、お前は未来のはやてだって言いたいのかよ!?」
「そうや。私はヴィータ達の事なら全部知ってる。ヴィータ達が私を助けるために、闇の書を完成させようとしたことも」

ヴィータの目を見るからに、自分の話をまるで信じていないのは明白。
流石にいきなり未来から来た八神はやて本人だと言われても、無理があるのだろう。
ましてやギルモンやシャマルの事もある。慎重に行かなければ、またヴィータを手放してしまう事になってしまう。
出来る事なら、それだけは避けたいところだ。

「でも、それなら確かに納得行くな」
「どういう事だよ、アギト?」
「いや、実はさ……私もこのはやてとだいたい同じくらいの時間から連れて来られたんだと思うんだ」
「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

ヴィータは、今日何度目になるか解らない驚愕でアギトに答えた。
はやての目の前で、アギトが証言を始める。これははやてにとっては僥倖。
既に味方としての信頼を勝ち取っているアギトが、はやての証言を裏付けてくれるのだ。
これ程心強い物は無いと言える。

「そもそも、あたしが居たのは多分、はやての言うJS事件の真っ最中だった筈なんだよ」
「何で今までそれを黙ってたんだよ!?」
「仕方無いだろ! 違う時間から参加者を集めてるなんてこっちだってビックリだよ!
 だいたい、そう言うヴィータだって全っ然そんな事気付いてなかったじゃんかよ!」
「う……それは、まぁ……」

アギトの反論は尤もだ。
そもそもヴィータもアギトも、頭で考えて行動するタイプでは無い。
その上彼女達はこれまで出会った参加者の影響もあってか、情報も決定的に不足していたのだ。
時間軸の違いやパラレルワールドなんて、想像出来る訳が無い。

「でも、確かにそう考えたら納得行くな……ずっと可笑しいと思ってたんだよ」
「何がだよ?」
「いや、私の世界じゃヴィータは管理局に入ってる筈だし、はやてだってちゃんと自力で立ってたんだよ」
「何!? じゃあ、未来じゃはやては無事に助かって、皆管理局に入ってるって事かよ!?」
「……そういうことや。あまり未来の事を教えるんは良くないと思うから、詳しくは話せへんけど……
 私が言ってる事が嘘やないってことは解ってくれたやろ?」

はやての言葉に、渋々ながらも納得したようだった。
これで、未来の自分に対する問題はクリア。着実に条件はクリアされている。
後はギルモンとシャマルの事も上手く説明する事が出来れば、ヴィータを味方に付ける事が出来る。
しかし、はやての予想に反して、ヴィータは予想だにしなかった言葉を告げた。

「じゃあ、死んじまったもう一人のはやても……未来のはやてって事かよ!?」
「な……昔の私に会った……!? このゲーム内で!?」
「いや……会ったって程じゃ無いけど、まぁな」

煮え切らない返事だが、今は問題は無い。
それよりもはやてが危惧するのは、もしも自分が先程「ギルモンを殺したはやてとは別人」と答えていたら、である。
もしもその様な嘘を、もう一人のはやてを知っているヴィータに吐こうものなら、間違いなく一瞬で見抜かれていた所だろう。
あの時の自分の判断は間違いではなかった。慎重に行動して良かった、と。
はやては内心でホッと胸を撫で下ろした。

「そうか……でも、過去の私が死んだなら今ここにいる私も消える筈や。だからきっと、それは別の世界の八神はやてやと思う」
「あぁ、そっか……このはやては未来で、あのはやてはパラレルワールド……って事か」

頭を抱えて考えるヴィータに、はやては言葉を続ける。

「そうや。だから、私は偽物でも何でもない。紛れもなく、正真正銘本物の八神はやてや」
「で、でもお前はギルモンを――」
「それは誤解やッ!!」

声を張り上げて、はやては言った。
目元に涙を滲ませながら、苦しそうに言葉を紡ぎだしていく。
はやてがこれから話す内容は、事実を織り交ぜたフィクション。
まず初めに、はやてはキングという怪しい男に出会った事から話した。
非常に危険な男で、平気で人を騙す男だ。事実、はやても幾度か騙されている。
そしてはやては、ヴィータとの擦れ違いの原因はキングにあると語った。
キングは近くでヴィータを目撃したと言った。当然はやても、ヴィータが居ると知れば合流したくなる。
誰よりも大切な家族の一人なのだ。家族が危険に晒されようものなら、自分が何としても救わねばならない。
そしてキングは言った。「ヴィータが赤い恐竜に襲われている。このままではヴィータは殺されるかもしれない」と。
それを聞いて、焦りを感じた。こんなところで家族を殺されてたまるか。一刻も早くヴィータを救いに行かねばならない。
そう、はやても未来で様々な怪獣と戦っていた為に、ヴィータが危機に晒されているのだと思い込んでしまったのだ。
結果として、ヴィータを救いたい一心で、はやてはギルモンを殺害してしまった。
形振り構っては居られなかったのだ。何せ、ヴィータが武装をして居なかった為に、ギルモンに迫られているようにしか見えなかった。
もう少し徹底した状況把握を怠らなければ、こんな事にはならなかった。
それから先は、ヴィータも知っている通り。はやてとヴィータは敵対する形となったのだが、その際にもキングは嘘を吐いた。
本物のヴィータが自分を偽物扱いする訳が無い。あのヴィータは偽物だ。
はやての家族と同じ姿をして、殺し合いを促進させるのが目的の、悪質な罠だ。
激情した二人の激突は避けられなかった。
今にして思えば、本当に申し訳ない事をしたと思っている。
謝って許される事ではないという事も、解っている。
だが、自分に出来るのは同じような過ちを二度と繰り返さないようにするだけだ。

絶えず涙を流しながら、はやては以上の話を告げた。
ヴィータもある程度は納得したのか、ギルモンの事に関してはこれ以上追及するつもりは無いようだった。
これでまた問題を一つクリアした。残った問題など数少ない。
ここまで話に引き込んでしまえば、単純なヴィータを騙す事など造作も無い。
と言っても、キングの事に関してはあながち嘘でも無いのだが。

「で、でも……じゃあ、シャマルを見捨てたってのはどういうことなんだよ!?」
「それも、全部……クアットロの罠や……! 私がシャマルを見捨てる訳ないやろ!?」

涙を流す。声を荒げる。
大切な家族を見捨てたなどとお門違いな事を言われれば、はやてが怒るのも無理は無い。
実際にはヴィータの言う通り、身捨てたのだが――そんな素振りは一辺も表に出しはしない。
ここから話す話は、ここまでのはやての身に起こった出来事。ただし、フィクションを多く取り入れているが。

自分は先程まで、クアットロとシャマルと一緒に行動していた。勿論、戦えない参加者を保護して行くのが目的だ。
しかし、クアットロだけは違った。奴は最初から集団に潜り込んで、他の参加者を貶めるつもりだったのだ。
目的は恐らく、この戦いで生き残る事だろう。シャマルも自分も、クアットロの本性を見抜けずに、完全に騙されていた。
結果として、自分達はクアットロに見捨てられる結果になった。
クアットロによって、自分とシャマルはセフィロスと鉢合わせさせられてしまったのだ。
勿論はやてはシャマルと二人で、状況を説明しようとセフィロスに語りかける。だが、それは叶わず。
クアットロはシルバーカーテンと呼ばれる能力を保持している。他人に幻覚を見せる事を目的とする至って悪質なISだ。
それを使って、クアットロは「八神はやて達が殺し合いに乗っている」と思わせる何らかの工作をしたのだろう。
結果、自分たちの説得はセフィロスには通じず、それどころかセフィロスを騙そうとしているのだと判断されてしまった。
セフィロスは別の世界で八神はやてに何らかの思い入れがあったらしく、余計にそれが許せなかったのだろう。
その手に持つ剣で、突然切り掛かって来たのだが――咄嗟にシャマルがはやてを守るための盾となり、代わりに斬られてしまった。
この殺し合いの中でようやく出会えた家族なのだ。はやてが悲しまない筈は無い。
シャマルを何とか助けようとしたが、シャマルは言った。
「もう自分は助からない。はやてちゃん一人だけでも逃げて下さい」と。
勿論はやては断った。一人だけ逃げる等という卑怯な真似を出来る訳がない。
されど、無情にもセフィロスの剣は、死にかけのシャマルにトドメを刺しに掛かった。
シャマルは命をかけてはやてを守ったのだ。はやてに自分の出来なかった願いを託して。
一人だけでも、この場から逃げろと。
仲間を集めて、ゲームから脱出しろと。
その思いを無駄にする事は、シャマルの死を無駄にする事に繋がる。
はやては後で必ずシャマルの墓を作りに来ると心に誓い、その場から離脱した。
それから、事件が起こった翠屋を後に、外に居たクアットロと共に逃走を開始。
この時点では、クアットロの暗躍に気付いて居なかった。
当然だろう、いきなりセフィロスに斬り掛られて、パニックに陥るのも無理はない。
そしてその直後、クアットロは自分を切り捨てた。この胸に残る傷は、クアットロによって付けられたものだ。
持っていた荷物も全部奪われ、はやてをセフィロスから逃げる為の囮にするつもりなのだ。
その際に全て打ち明けられ、自分が今まで騙されていた事を知った。

これが、ここまでのはやての物語だ。
それを話した時点で、少し大げさ過ぎるくらいの涙を流していたが、問題は無い。
シャマルが死んだ時は、ろくに泣けなかったのだ。思い出して泣いたとしても可笑しくは無いだろう。
腕を組んで考えていたアギトが、呆れたような口調で呟いた。

「……確かに、クアットロならやりかねないなぁ……」
「おい、そのクアットロって奴はそんな危険人物なのかよ?」
「そのはやての話を聞いての通り、正直あたしもアイツはあまり好きじゃない」

またしてもアギトがはやての話を裏付ける。
これでクアットロを危険視するのは間違いないだろう。
シャマルを殺したきっかけがクアットロと言っても過言では無いのだから。
ここで、さらに釘を打っておく。念には念を入れて、慎重に。

「それを……クアットロは、私がシャマルを見捨てたって言った……
 何にも知らん癖に、私がシャマルを見捨てて逃げ出したなんて……!」
「はやて……」
「私かて、シャマルを見捨てたくなんて無かった! でも……そうするしか、無かった……!」

計画通りだ。
涙ながらに声を荒げるはやてを、ヴィータは完全に信用している。
ヴィータ自身も気付いては居ないかも知れないが、いつの間にか自分のことを「はやて」と呼ぶようになっている事からも、それは明白。
クアットロとの会話、「はやてがシャマルを見捨てた」という下りを聞かれたとしても、これならば説明が出来る。
捨て石とは言葉が悪いが、この状況ならばはやてが自分自身に負い目を感じて言い返せなかったとしても、無理はない。

「クアットロはホンマに危険な奴や。あいつは恐らく、皆を騙して優勝を狙っとる……このまま野放しにする訳には行かへん」
「わかった……じゃあ、お前ははやてで、殺し合いには乗ってないんだな?」
「そうや……私はこの殺し合いから生き残った皆で脱出したい思うてる。」

涙を拭い、視線を真っ直ぐにヴィータに向ける。
もうこれ以上ギルモンやシャマルのような犠牲は出したくない。
その思いを強く瞳に宿らせ(るフリをし)て。

「ヴィータ、私に手を貸して欲しい。一緒に仲間を集めて、脱出するんや!」


さて、どうする。
ヴィータは現在、はやてから少し距離を置いていた。
理由は簡単、ヴィータ達が持ちかけたのは、作戦タイムという奴だ。
少し考えを整理して、どうするか決めたい。そう言って、アギトと二人ではやてに背を向けて話し合っていた。

「で、アギトはどう思う?」
「どうって……ヴィータこそどうなんだよ? あたしはアイツの事良く知らないから何とも言えない」

アギトの言葉に、ヴィータは腕を組んで考えた。
確かに、このはやての言う事は不自然ではない。はやての言う通りの話ならば辻褄が合う。
クアットロという奴もアギトの話通りの奴らしいし、信じる事もやぶさかではないだろう。
だが、何かが引っ掛かるのだ。何か、見落しているような、腑に落ちない感覚。
それが何なのかは解らないが――少なくとも、まだ完全にはやての事を信じていいとも思えない。

「でも、パラレルワールドって事は少なくとも偽物じゃないんだよな」
「どうだろうな……それならはやてが死んだのにあたしが消えない事も納得は出来るけど……」

だが、それならば憂いが残る。
もしも偽物では無く全て本物のはやてなのだとしたら。
違う世界のはやてが死亡したところで、自分の世界のはやてが死んだ訳ではない。
故に守護騎士である自分が消滅しない事にも納得が行くが――それは、別の世界の自分が消えるという事だ。
この戦いで死んでしまった一人目のはやては、未来なのかパラレルワールドなのかは解らないが、
死んでしまったはやてに付き従っていた守護騎士四人は恐らく、既に消滅してしまった。
はやてが死んで、自分たちを含めた守護騎士も死ぬ。それは非常に悲しい事だ。
自分の事では無いとはいえ、ヴィータ自身も胸が苦しくなるのを感じた。
仮にあの時死んでいたはやてが未来のはやてだったとしたら、自分は未来で消えてしまうのだろうか。
そんな不安が胸に残る。

「決めるのはヴィータだ。こうなった以上、あたしも脱出するまではヴィータに着いて行くぜ」
「アギト……」

そうだ。あのはやての目的は脱出。
このゲームから脱出する為の仲間を集めると言ったのだ。
その行動に恐らく嘘は無いだろう。はやて自身だってこんな戦い望んではいない筈だ。
確かに色々と怪しいところは残っているが、今回だってきちんと話が出来た。
全て不幸な誤解が招いた惨劇だったのだ。
ならば、自分はどうすればいい。どうすれば、あいつらとの約束を破らずに済む。
答えは既に、ヴィータの中で導き出されていた。
ギルモンとの約束。ヴィヴィオを守って見せる、と決めた事。
ミライとの約束。殺し合いに乗った参加者以外とは戦わない、と宣言した事。
約束は破らない。

「解った……暫くは様子見だ。あのはやてを信じて、一緒に行動する」
「お前がそう決めたのなら、あたしは着いて行くよ、ヴィータ」

こうして、二人の行動方針は決まった。
一先ずははやてを信用し、共に殺し合いからの脱出を目指して行動する。
死んだシャマルも、ギルモンも。きっとそれを望むだろう。
だが、もしもはやてが嘘を吐いていた場合は――この手で殺す事も、辞さない覚悟でいた。



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