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光なき場所で ――月蝕・終章一節 ◆Vj6e1anjAc




 友が、できたと思った。
 光なき場所に。
 孤独の真ん中に。
 たった一人きりの暗闇の中に、再び光が差した気がした。

 親もいない。
 友もいない。
 世界からも見捨てられた。
 無よりも深く、黒よりも暗い闇の中。
 確かなものなど何もなく、故に迫るもの全てを殺すことでしか生きられなかった、無間の生き地獄の中で。
 この人外の身体をも受け入れ、共に歩まんとしてくれた者達がいた。
 誰彼構わず拒絶した己に、それでも決して諦めることなく、手を差し伸べ続けてくれた女がいた。
 どれほど眩しかったことだろう。
 どれほど暖かかったことだろう。
 足の踏み場の確かさすら知らず、羽ばたき続けることしか知らなかったこの身に、羽を休める巣ができた心地は。
 帰る故郷すらなかった孤独の生涯に、帰りたいと願うことのできる場所が与えられた心地は。
 きっと世界中の誰にも実感できぬほど、尊く喜ばしいことに違いなかった。

 嗚呼――それなのに。
 彼女の命は喪われた。
 八神はやてはこの地で死んだ。
 愛すべき友と呼べたあの娘の破片は、この俺の未熟故に死の闇へ落ちた。
 救いたかった命なのに。
 守りたかった居場所なのに。
 逃げることさえ許されないこの世界で、あいつのことだけは守りたかったのに。
 とめどなく溢れる悲しみは、決して消えぬ傷跡へと。
 優しいだけの言葉では、決して癒せぬ傷跡へと。
 たったひとつの命を喪ったことを、これほどに悲しむことができるのか。
 改めて己の脆さに驚愕すると共に。
 胸の奥より湧き上がる憤怒と憎悪に従い、再び戦うことを誓った。
 別の世界のはやてであろうと関係ない。
 あれは紛れもなく、八神はやてだった。
 ジェノバの友からも見捨てられたこの俺に、ようやくできたかけがえのない存在だった。
 それを奪われて黙っていられるほど、俺は腑抜けたつもりはない。
 たとえこの道を進むことが、あいつに背くことであろうとも。
 仲間殺しの大罪が、故郷へと帰る道を閉ざすことに繋がろうとも。
 俺は奴らを皆殺しにすること以外に、この心を満たす術を知らない。
 ああ、そうだ。
 ずっとそうしてきた。
 母なるジェノバの遺志を継ぐために、俺はもとよりずっと戦い続けてきた。
 その修羅の道へと戻ること以外に。
 はやてを殺した者達に報復する以外に。
 俺が俺を保つ術など、ない。

 そして、それ以上に許せない者がいる。
 八神はやてを騙る者。
 八神はやてと瓜二つの姿をしながら、薄汚れた畜生へと堕ちた悪辣者。
 何故だ。
 何故あいつが生きている。
 本物のはやてだけが死に、あの偽物がのうのうと生きていていい理由がどこにある。
 生きていることさえも許せない。
 その存在そのものをもって、死したはやてすらも穢すあの女を、決して生かしておくわけにはいかない。
 その血肉の一片に至るまで、決してこの世に残すものか。
 塵の一粒すらも残さず、八つ裂きにして根絶やしにしてくれる。

 そのためにも、まずは目の前のアーカードからだ。
 あの八神はやての偽物を葬り去るためにも、今まさに邪魔をしているこいつを始末しなければならない。
 吸血鬼アーカード。
 自らを化物(フリーク)と称する男。
 八神はやてへと牙を剥いた、傲岸不遜な死者の王。
 思えばこの男と戦うのは、これで実に三度目だ。
 一戦目は再生力に押され劣勢に立たされた。
 二戦目はヴィータの横槍で中断された。
 そして、これが三戦目。
 こいつも許せる相手ではない。
 優しきはやてをの心を傷つけ、結果として死の理由まで作った奴だ。
 今度こそこの場で倒してみせる。
 その心臓を刺し貫き、この手で息の根を止めてみせる。
 はやてを騙る偽物は、この男を始末してからだ。

 嗚呼、それにしても。
 はやてを喪い、独りになって。
 誰一人としてすがるべき者のいない、たった一人きりの自分に戻ってみて、改めて理解させられる。
 あいつに出会い、言葉を交わす。
 たったそれだけの、当たり前に過ぎなかったはずの営みの、何と幸福な時間だったことか。
 いかに鮮やかに咲く花でさえも、色褪せて見えるほどに美しく。
 遥か遠くのいかなる星よりも、眩く愛おしく思える大切な記憶。
 追想の中の八神はやては、常に変わらぬ笑顔のままだ。
 その笑顔は目の前の吸血鬼達によって、永久に記憶にしか残らぬものになってしまった。
 そしてその記憶すらも、あの偽物への憎悪に押され、じわりじわりと塗り潰されていく。

 だが。

 言い換えるならば。

 それは奴を消し去りさえすれば、少なくとも、記憶の中の笑顔は取り戻せるということ。

 奴を抹殺することができれば、奴への憎しみを拭い去ることができる。
 そうすればあの顔を思い出す度に、余計な怒りを抱くことはなくなる。
 憎むべき偽物の顔ではなく、愛すべき本物の顔だけを思い出せる。
 永遠に変わることも色褪せることもない、変わらない笑顔だけを見ていられる。

 そうだ。
 はやてそのものが喪われたとしても、少なくともその笑顔だけは俺のものだ。
 憎むべき全ての敵を殺し尽くしたその時には、その笑顔だけでも勝ち得ることができるはずだ。

 誰にも邪魔はさせない。
 これまで幾度となく奪われ続けてきたのだ。
 これ以上大切なものを奪わせてなるものか。

 あいつの記憶は俺のものだ。

 魂は奪われたとしても。

 その思い出までは奪わせはしない。



 ダレニモアイツハワタサナイ――――――




「次元が違う……」
 ぽつり、とはやてが呟いた。
 その視線の先にあるのは、激戦を繰り広げるセフィロスとアーカードの姿。
 確かに想像していたよりは、パワーもスピードも若干劣る。恐らくはヴォルケンリッターが将・シグナムと同程度だろう。
 だが冷静に考えてもみれば、それはそれで大問題だ。
 奴らにも自分達と同じように、プレシアによる能力制限が架せられているはずである。
 その制限が機能している上で、制限も何も存在しない、全力のシグナムと互角なのだ。
 自分とその仲間達ですら、この状況下であれほどの立ち回りなどできるはずもない。
 故に、彼女は呟いたのだ。
 次元が違うと。
 真っ向から殺り合って勝てる相手ではない、と。
 数時間前にヴィータが見たものと同じ光景を目にした結果、そう判断せざるを得ないと認めたのだ。
 彼女と違い、まともに言葉を選んで口にできたのは、やはりボキャブラリーの差なのだろうか。
(悔しいけど、やっぱり今の状態では太刀打ちでけへん)
 こちらの兵力は僅かに2人。
 うち片方のはやて自身は無手だ。
 仮にヴィータがアギトとユニゾンすることで、セフィロスとの実力差を埋められたとしても、
 それだけではアーカードとやらに対処できない。
 かと言って、セフィロスを見逃していいわけがない。
 アーカードに敵対視されることなく、セフィロスを始末するにはどうすべきか。
「どうする、ヴィータ?」
 ひとまず、傍らの騎士に振ってみた。
 逃げるにせよ応戦するにせよ、パートナーの意見は聞いておいた方がいい。
 今後の参考にはならずとも、味方として見ていることをアピールできる。
 結果として、それが僅かでも信用を勝ち取ることに繋がる。
 そして今回は、それ以上に気になることがあった。
「あいつは……あのアーカードって奴は、ほっとけない」
 あの赤いコートの男に対する反応だ。
 青い瞳をぐっと細めて。
 白い歯牙を食いしばって。
 今なお幼き鉄槌の騎士は、あのアーカードをじっと睨みつけている。
 射抜くような眼光に宿るのは、灼熱の憤怒と剣呑なる殺意。
 ただならぬ様子ではない。
 いかに気性の荒いヴィータといえど、これほどの反応は明らかに異常。
 少なくとも味方ではないだろうし、初対面であることも有り得ない。
「あいつはクロノ・ハラオウンと、それからアグモンって奴を殺してる……セフィロスと同じか、それ以上に危険な奴だ」
「殺し合いに乗っとるっちゅうわけやな?」
「ああ。あいつを生かしておいたら、みんなあいつに殺されちまう……
 ミライも、テスタロッサも……高町なんとかも殺られちまうんだ……!」
 ぎゅっ、と。
 小さなヴィータの右手が、怒りに震える左腕を掴んだ。
 なるほど確かに、その通りなのだろう。
 セフィロスと互角に渡り合うあの男のパワーは、素手の一撃ですらエース級。
 スピードも決して鈍くはなく、堕天使の片翼にぴったりと追いすがっている。
 そして攻撃が命中したそばから、即座に回復していく再生能力。
 あのセフィロスにすらない人外の業――あれを危険とせずに何とする。
 殺し合いに乗っているというのも、あながち間違いでもないのだろう。
 セフィロスを捕捉した時の笑みがその証だ。
 アーカードには恐らくシグナム以上に、闘争に快楽を感じている節がある。
 殺さない限り止まらない、不死身の身体を持ったトリガー・ハッピー。
 こんなもの、殺す気になってかからなければ、止める術などないではないか。
「なら、お互いやるべきことは同じだな」
 と。
 不意に。
 横合いからかけられる、声。
 眼鏡をかけ、線の細い印象を持った黒ジャケットの男の声だ。
 そういえばこのアーカードの同行者の存在を、つい一瞬前まで忘れていた。
「俺もあいつに脅されていた身だ。そうでもしなきゃ止められないのなら、と、隙を突いて殺せるタイミングを探していた」
 言葉そのものを、どこまで信用していいのかは分からない。
 先ほどまでは殺し合いに乗っていないと信用することができたが、それも若干怪しくなってきた。
 戦闘狂のアーカードの性分を考えれば、脅すような相手を殺さずに手元に置いておくというのは考えがたい。
 だがいずれにせよ、あの不死身の化物が邪魔だというのは確かなのだろう。
 ならば少なくともこの瞬間だけは、利用できると見ていいかもしれない。
「だけどよ、あんな連中の間に割って入るなんて、それこそ自殺行為もいいとこだぜ?」
 唯一反論の声を上げたのがアギトだ。
 彼女がこの対戦カードを見るのはこれで二度目だし、何よりセフィロスの方は、ゲーム開始の瞬間からずっと見続けている。
 奴らの危険性を身にしみて理解しているからこそ、不用意な介入を避けたがるのだろう。
「誰も真正面から挑むとは言っちゃいないさ。
 お互いにギリギリまで傷つけ合って、本当に死ぬ間際までボロボロになったところを始末する。
 不死身のアーカードも、結局は傷を治せるだけだ。疲労までそう簡単に癒せるとは思えない。……それに」
 そこまで言いかけたところで、眼鏡の奥の視線が動く。
 街頭の激戦に向けていた瞳が、はやて達の方へと向き直った。
「お前達のことは高町なのはから聞いている。ヴィータと、そっちの関西弁は……八神はやてだな?」
「なのはちゃんと会うたんですか!?」
「ああ。俺もアーカード程ではないとはいえ、ある程度戦う力を持っている……そこへお前達ベルカ騎士だ。
 これだけの戦力があれば、少なくとも、弱ったところへとどめを刺すことくらいはできるだろう」
「なら、決まりだ。今度は絶対にしくじったりしねぇ」
 最後に口を挟んだのはヴィータだ。
 そしてはやて自身もまた、その判断に異存はない。
 2人では厳しかった不意打ちも、3人目がいるとなれば話は別。
 この男の協力が得られるなら、武器を分けてもらうことも可能だろう。
 あとは巻き込まれないようにして、ひたすらに時を待てばいい。
 そして残り2人がアーカードに向かっている隙に、この手でセフィロスを始末する。
「極力、人殺しは避けたかったんですけど……こうなった以上、止むを得ませんね」
 一応の建て前を口にして、同盟関係を結んだ。


(極力したくはなかったが、か)
 内心で苦笑しながら、カテゴリーキング・ギラファアンデッド――金居は思考する。
 かの高町なのはから聞いた彼女らは、殺し合いになど絶対に乗らない人間達のはずだった。
 しかしてその割には、随分あっさりとアーカード抹殺を決めたものだ。
 これははやてだけの話ではない。むしろヴィータの方が決断は早い。
 相手が人間でないと知るや否や、彼女らはひどくあっさりと手のひらを返した。
 人間ならば殺しはしない。
 ただ、相手が人外の化物であるからこそ。
 あの人間離れした吸血鬼の力を見てしまったからこそ。
 決して理解し得ない化物と見なして、殺害も止むなしと切り捨てたのだろう。
(まぁ、無理もないか)
 だからと言って、別にそれを責めるつもりもない。
 自己にとって理解し得ぬものを拒絶するのは、生命体として当然の帰結だ。
 差別は人間のみが行う行動ではない。
 そんな些細なことで、人間を傲慢な愚者だと罵るつもりもない。
 自分と違う生き物だから、ライオンも安心してシマウマを食える。
 自分と違う生き物だから、野生の熊は人間を恐れる。
 自分と違う生き物だから、アンデッド達も殺し合えるのだ。
 その生命として然るべき本能に従って、彼女らはアーカードを切り捨てたに過ぎない。
 それを責めるのは馬鹿らしいし、むしろ容赦がなくなってくれるのは、こちらとしてはありがたいくらいだ。
(おかげで奴を始末できる可能性が見えてきたんだからな)
 全ては彼女らの功績だった。
 銀髪と隻翼の殺人鬼を引き連れ、アーカードにぶつけたのも。
 奴との戦いに集中させることで、アーカードの注意を逸らせたのも。
 その間にこうして手駒を手に入れ、アーカードを倒す算段を立てられたのも。
 その作戦に反対することなく、アーカード抹殺に協力してくれたのも。
 全ては八神はやてとヴィータのおかげと言っても過言ではなかった。
 とんとん拍子にやってきた幸運と、それを連れてきてくれた2人に、内心で感謝した。
(それにしても……)
 ふと。
 思い出したように、視線を向ける。
 レンズ越しの景色に舞うのは、漆黒と真紅の殺戮者達。
 圧倒的猛威を振るう薔薇の魔剣と、冗談のような破壊力を有した機関銃。
(次元が違う、か……確かに的を射た言葉だな)
 改めて苦笑した。
 今まさに繰り広げられている決戦の、何と壮絶にして激烈なことか。
 地上、そして空中と目まぐるしく舞台を変える戦いの規模は、自分とかの仮面ライダーカリスのそれですら比較にならない。
 仮に自分の制限が解けたとしても、それでも勝てる自信がない。
 これで奴らが制限から解き放たれてしまえば、一体どうなってしまうのか。
 身震いすらも覚える絶望的推測だった。
 なるほど確かに、奴らは次元の違う存在だ。
 最強のカテゴリーに当たるキングクラスですら、今の装備を持った奴らには敵わない。
 何故貴様はこれほどの悪魔を生んだのかと、プレシアに抗議してやりたい気分だった。
(今なら殺せるということは、逆に言えば、もう後がないということに他ならない)
 心せねばならない。
 この機会を逃せば、チャンスは二度と訪れないと。
 あのアーカードと互角に殺り合える相手など、そうそういるはずもないだろう。
 このセフィロスとの戦いでケリをつけなければ、以降アーカードが追い詰められる機会は激減する。
 そうしてチャンスを逃さぬために、ここで決着をつけなければ。
(お前達も上手く立ち回ってくれよ?)
 手にした金属の感触をなぞりながら、内心ではやて達へとささやいた。
 今彼が右手に握っているのは、ヴィータから渡されたイカリクラッシャーだ。
 自分の持っていた拳銃は、今ははやての手に握られている。
 武器を持たず、かといって錨を操るには腕力が足りない。
 そんな彼女の問題を解決するため、このような武器の配分がなされたわけだ。
 実質魔法を使えるのがヴィータだけと知った時には、正直判断を誤ったかと落胆したものだったが、
 あのアギトという小人は、魔導師の能力を高めるユニゾンデバイスなるものだという。
 なれば少なくともヴィータの方は、戦力として十二分以上に機能してくれるだろう。
 はやての分のマイナスはそれで帳尻が合うし、いざとなれば自分もアンデッドの姿に戻ればいい。
(せいぜい俺のために頑張ってくれ)
 殺人者アーカードに脅されていた、という嘘は、今のところ誰にもばれている気配がない。
 仮にばれていたとしても、何の反論も返ってきていない以上、それでも構わないと見なされたのだろう。
 まぁ、今はそれでいい。
 信用を勝ち取るのは、この大取り物が片付いてからでいい。
 このギラファアンデッドが生き残り、最後に勝利者となって笑うための、一世一代の鬼退治。
 全てはそれが片付いてからだ。


(何もかも悪い方向に向かってやがる)
 漠然とだが、アギトは現状をそう判断していた。
 さながら守株の説話そのものではないか。
 いつやって来るか、そもそもやって来るのかも分からないチャンスを、ひたすらに狙い続けて待ちぼうけ。
 しかも昔話とは違い、ここは田ではなく戦場だ。
 雑草が茂るよりも遥かに早く、瓦礫を脳天に食らって死ぬかもしれない危険地帯。
 こんなところに延々と居座るなどというのは、リスクにメリットが見合わなさ過ぎる。
 少なくとも、はやてとヴィータの両者にはない。
 奴らを殺したいというのならば、多少時間をかけてでも、すぐにここを離れて仲間を集めた方がよほど安全のはずだ。
 この戦いもその頃には終わる。決着がついて、片方が死ぬ。
 これまでの戦闘を省みても、この戦いの果てに双方が生き残るような結末は想像できない。
(そうまでしてここで始末したがるってことは……逃げられない事情か、逃げたくない事情があるってことか?)
 視線の矛先は眼鏡の男だ。
 この金居と名乗った優男は、個人的にどうにも気に食わない。
 上手く説明できないが、どうにも胡散臭さがプンプン漂ってくるのだ。
 こいつが身に纏っている空気や雰囲気は、かの戦闘機人ナンバーⅣ・策士クアットロのそれに似ている。
 現状も、上手いことこいつの口八丁に乗せられた感が否めない。
 最終的にヴィータ達の背中を押したのはこの男だ。
 彼の一声がなかったならば、ヴィータはともかく、はやてがここに留まることもなかっただろう。
 ならば何故、奴はその一声をかける気になった。
 どうしてもあの吸血鬼からは逃げおおせることのできないからくりがあるからか?
 はたまた逃げている隙に、あの吸血鬼に広められてはまずい情報でも握られているのか?
 そのどちらかか、あるいは両方か。
 アギト自身は知る由もないが、そのどちらもが正解である。
 アーカードの有する第三の目からは、少なくともこの距離では逃げられない。
 主催者に反抗する立場にあるアーカードから逃げるということは、自分が殺し合いに乗る気があるとおおっぴらに公言するようなもの。
 そのどちらも、あくまでアギトには知る由もないのだが。
(それに、はやてもはやてだ)
 続いて見やるのは八神はやて。
 本来なら殺し合いに乗ることはないと断言できる、お人よしの機動六課部隊長。
 先ほどの彼女の反応も、おかしいと言えばおかしかった。
 あの人道主義の機動六課のまとめ役にしては、アーカードらの排除に乗るのが早すぎる。
 本来なら、「それでも殺し合うことなんてできません」と、真っ先に金居の申し出を否定してもおかしくはないはずだ。
 だが、彼女はそれをしなかった。
 あるいは彼女の仲間を殺したセフィロスに、よほどの殺意を抱いているのかもしれない。
 しかし、それもにわかには信じがたい。
 少なくともかのジェイル・スカリエッティは、はやてがそんな人間であるとは一言も言っていない。
 たとえ別世界の人間であったとしても、それほどに人格に差が出るものだろうか。
 それこそあのクアットロの話が、嘘八百ではなく真実であるような。
(どっちにしろ、今の状況はまずい)
 だが、はやての件は今疑ってかかっても仕方がないことだ。
 憂うべきは目の前の現状。
 そして疑うべきは現状を招いた眼鏡の男。
 恐らくこの状況の不穏な気配に気づいていないのは、仮のロードとなったヴィータだけだ。
 彼女は今、仲間の仇を前に、完全に頭に血が上っている。
 冷静な状況分析など到底できはしない。現状打開には全く期待できない。
 地上本部での戦いの時にもその兆候は残っていたが、10年前はここまで短気な奴だったとは。
(あたし自身、この面子の中じゃああまりに無力だ)
 戦闘能力ではない。
 発言力が、である。
 全員が全員、アーカード討つべしという意見に傾いている中、反対を訴えるのは自分だけだ。
 おまけに自分は人間ではなくあくまで物。鬱陶しい、の一言で、有無を言わさずデイパックに閉じ込められても仕方がない。
 何かきっかけでもない限り、まともに取り合ってもらえるとは思えない。
(頼むから、何事もなく終わってくれよ……)
 藁にもすがるような思いで、ろくに微笑んでくれたためしもない神に祈った。



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