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ひとつ分の陽だまりに ふたつはちょっと入れない ◆vXe1ViVgVI




『殺せ、あの虫螻共を根絶やしにしろ』

 鳴り響く。

『他に寄生し、全てを奪い尽くす人間共を殲滅するんだ!』

 何時までも何時までも、鳴り響く。

『殺せ、殺せ―――殺せ!!』

 ―――まるで目覚めのない悪夢を見ているようだった。

 いつ如何なる時でも心の中で喚き立てる呪詛の言葉。

 全ての始まりはあの時から。

 あれからずっと―――受け止め切れぬ現実から逃げるように走っていたあの時も、

 森林の片隅にて壮大な雰囲気の社を発見したあの時も、

 こんな自分の姿を見て、それでも尚側に居続けてくれた物好きな青年と出会ったあの時も、

 青白い雷撃を自在に操り、自身を神と称していた不思議な恰好の男と戦闘していたあの時も、

 常に怨念は脳内を埋め尽くしていた。

 涙はもう枯れ果てた。

 人々を助けたいという気持ちもある。

 ただ、どうすれば良いか分からない

 こんな身体でどうやって人々を助けるというのか。

 近付くだけで全てを斬り刻むこんな身体で―――どうしろと言うのか。

 分からない。

 あの雷を操る男との戦いでも、新庄の言葉がなければ自分はあの男を殺していた。

 どうしようもないのだ。

 自分の意志だけではどうする事も出来ない。

 自分は精一杯だった。

 殺さないよう、暴走する右腕を抑え込むので精一杯。

 だが、それでも右腕の動きを止める事はできない。

 殺したくない、救いたい、でも―――殺してしまう。

 どうしてこうなったのか。

 どうすればいいのか。

 分からない。

 分からない。

 分からない。

 ただ怖かった。

 意志に反して活動するこの左腕が。

 脳裏に鳴り響く、執念にまみれた怨みの言葉が。

 そして何より、この両腕に秘められた途方も無く巨大すぎる力が。

 ―――怖い。

 またあのような惨劇―――『ロストジュライ』のような惨劇を引き起こしてしまうのではないかと。

 また仲間を―――フェイト・T・ハラオウンの時のように仲間を巻き込み、殺してしまうのではないかと。

 人と会う事が、怖かった。

 ああレム、教えてくれ。

 こんな僕でも未来への切符は白紙なのか?

 僕はまた誰かの為に戦う事ができるのか?

 僕は、僕達は、生まれてきてよかったのか?

 教えて欲しい。

 誰でも良い。

 どんな答えでも良い。

 誰か―――教えてくれ。

 ああ―――頭の中では怨嵯の声が遠雷のように鳴り響いている―――


◆ ◇ ◆ ◇


 地図上でA―2と位置付けられている草原。その草原を一人の男が俯きながら歩いていた。
 焦燥と疲労に満ち満ちた顔に、竹箒のように尖らがった金髪を乗せた男。
 男の様子は端から見るだけでも、疲労困憊といった風。
 右手で剥き出しの左肩を抑えながら、何かに怯える様に身体を縮こまらせて、男は道無き道を行く。
 人気の無い方へ、人気の無い方へと、ただひたすらに歩く。何時しかその身体は草原を踏破し、細い光のみが届く薄暗の森林へと侵入していた。
 男は苦悩する。目指していた理想とは余りにかけ離れた、今の自分自身に。
 男は自問する。近寄る者全てを切り裂く、文字通り天災と化してしまった自分の、その存在意義を。
 男は絶望する。何時の間にか漆黒に塗り潰されていた未来への切符に。
 男は苦悩し、自問し、絶望し、それでも前へと進んでいた。
 覚める事のない悪夢に心を蝕まれながらも、無人の森林を突き進む。

 ―――さて、此処で一つ思い出して貰いたい事がある。

 男がひたすらに邁進を続ける北。彼は気付いていないが、会場の端と端は原理不明の転移装置により繋がっている。
 北は南へ、東は西へ。このバトルロワイアルが開催かれている会場は延々とループをしているのだ。
 男が現在居る地点は北の端であるA―2。そして彼が進行している方角は北。
 さて、此処まで言えば何がどうなるかは容易に想像できるだろう。
 そう、彼は自らも知らぬ内に再び転送機能を行使する事となる。
 北上するその身体は、前振り無しの問答無用で会場の南端へとワープ。
 そして男の居るA―2に対応する地点は―――I―2。
 殺し合いが開催されて早半日。その半日もの長きが経過し、未だ前人未踏とされている地点がI―2である。
 しかしながら、少し考えてみればそれもその筈。
 会場の端の端に位置するI―2。豪華客船と船着き場という施設があるものの、参加者の殆どそれらに気を止める事すらない。
 唯一、自他共に世界最高の探偵と認める男のみがそれら施設を重要視していたが、結局彼も様々なアクシデントに巻き込まれ、到達を果たす事は出来ずにいた。
 その地点に誰よりも早く、男―――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは訪れる事となる。
 ただ一つ重大な、下手をすれば彼の命にすら関わる問題を上げるとすれば、それは―――彼が辿り着くI―2の南端が海抜地域だということ。
 勿論、飲み水にすら困窮する砂の惑星で育った彼が水泳等といった行動を成せる訳がない。
 そうして男の身体は森林の奥底へと消えていき、遂には転送機能に接触する事となり―――



「なっ……!?」



 ―――気付いた時にはもうどうしようもなく、その身体は物の見事に視界を覆う青色へと着水していた。
 全てを覆い尽くす水と至る所から湧き出る泡に、完全に歪み切った視界。
 口腔や鼻腔に侵入した海水が気道にまで広がり、呼吸を阻害する。
 身体は緩慢とした抵抗感に包まれ、また先程までは当たり前のように羽織っていた服が異常なまでに重い。
 何も見えず、息もできず、身体も動かない。
 唐突すぎる状況の変化にさしものヴァッシュ・ザ・スタンピードといえど平静を保つ事は不可能だった。
 絶望に染まりきっていた思考が沸騰し、俗に言うパニック状態へと陥る。

(何が……起きた……!?)

 彼が水泳というものを体験していれば、もしくは会場の端と端がループしているという事実を知っていれば、ヴァッシュにも対応の術は有ったかもしれない。
 だが、今の彼はそのどちらの要素をも知る事はなく、現状を把握する事すら出来ないでいた。
 視界が歪み、息ができない。
 全身を圧迫され、身動きも取れない。
 訳が分からない、何が起きた、苦しい。

(俺は―――)

 歪む視界に同調するかのように意識すらも遠退いていく。
 パニックを通り越した思考は徐々にその機能を低下させていき、考えるという事自体が行えなくなる。
 苦しい、苦しい、苦しい。
 思考も、意志も、信念すらも通り越して、ただ苦しみだけが意識を占領する。
 ああ―――と、ぼやけた意識の中ヴァッシュは理解する。
 ああ、これが『死』なのだろうと―――ヴァッシュは理解する。

(……………でも…………これで…………)

 だがしかし、死を目前にしたヴァッシュの心中には言い様の無い安堵が居着いていた。
 天災と化した自分。
 生きる目標であった宿敵も、最早この世に存在しない。
 守りたかった少女も、もう居ない。
 このまま全てを傷付けて生きていく位ならば、此処で孤独に死ぬのも良いのかもしれない。
 ヴァッシュは苦悶の渦中にいながら微笑みを浮かべていた。
 これで解放されるのだと思いながら、ヴァッシュは微笑う。
 仲間を殺害した罪から、あんなに優しかったジュライの人々を消し去った罪から、何より―――殺戮しか生み出す事のないこの右腕から解放されるのだと―――、

 ―――ヴァッシュは死の直前で歓喜する。


(…………これで…………もう……………)


 そうして一世紀半もの長きに渡り人類を見守り続けてきたガンマンは瞳を閉じる。
 絶望と悲しみ、そして希望に満ち溢れた人生を歩み、最期の最期は抗いようのない絶望に押し潰された男。
 人の死を何より嫌い、最期の最期は人々に死を振り撒くだけの存在へと堕ちてしまった男。
 男の身体が水面から消え、更なる深淵へと沈んでいく。
 そして男は考える事を止め―――



『……泣いたり、しないんですか』



 ―――寸前、一人の少年の姿が脳裏をよぎった。
 それと同時に男の右腕は行動を開始していた。
 白色の発光と共に天使を想わせる白翼へと変貌していくその右腕。
 白翼の中心に見える砲台。
 変化を終了すると共に真上を向く、その銃口。
 タメに用いられた時間はほんの少し。
 一瞬後には砲台から万物を消滅させる『持っていく力』が発動した。
 『持っていく力』により男の周囲を包み込む海水が刹那の間に消滅。その規模は男を中心に凡そ数十メートルの範囲にまで及び、海のど真ん中に巨大なクレーターを形成した。
 『持っていく力』により周辺の海水を消滅させたものの、その穴には次から次に新たな海水が注ぎ込まれていく。
 徐々にその姿を縮小させていくクレーター。ヴァッシュはそのクレーターの中心にて膝を付きながら、大きく咳き込み、気管に入り込んだ塩水を吐き出す。

「……何で……」

 粗方の海水を吐露し終えた後、ヴァッシュは俯いたままで言葉を絞り出す。その右腕は既に通常の状態に戻っていた。
 代わりに形状を変えていたのは、左腕。
 先の右腕の変化同様に、透き通った白色の翼へと姿を変える左腕。しかし色は同じであっても、形状はまるで違う。
 東の空から届く日光を照らし返す白色の刃。
 既にヴァッシュの身長を超える程に巨大化したそれは、数秒の間を空けた後に陸地と化した海抜地帯を一直線に駆け抜ける。
 刃が向かう先は北。北、つまりは陸地が存在する方角。
 ヴァッシュの左腕から発現した巨大な白刃が、グングンと物凄い勢いで風を切って北上していく。
 ヴァッシュが入水した海がI―2に位置する地点だったという事も幸運だった。
 I―2には距離にして500メートル程か、海へと突き出すように存在する岬に、船乗り場という施設が設置されているのだ。
 この特別に突き出した地形へとヴァッシュの左腕は到達。
 直進してきた勢いそのままに、岬を構築している灰色のコンクリートへとその巨大な白刃が突き刺さる。
 大の大人数人分はあろうかという全長を誇る白刃は、その根本まで人口の地面へと侵入させ、自身を固定させた。
 同時に収縮。伸びきったゴムが元に戻っていくかのように、数百メートルの距離を駆け抜けた白翼が収縮していく。
 白翼の先端にある巨刃はコンクリートに固定され動かない。必然的に引っ張られる形で移動を開始したのは、その根本に居るヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 その膨張した左腕と比較すれば余りに矮小な身体が、あらがいようの無い力に引かれ空を走る。
 飛行というには余りに不格好で無理矢理な移動術。
 そんな無茶にも程がある移動術に平穏無事な着地法などある筈もなく、ヴァッシュの身体は盛大に地面へと叩き付けられ、一回、二回、三回転ほどした後でようやく動きを止める。

「何で……!」

 その壮絶な着地によりヴァッシュの身体は擦り傷だらけになっていた。
 一つ一つの傷口から発せられる掻痒感にも似た、ある種のまどろっこしさが含まれた痛覚。
 だがそんな痛覚など今のヴァッシュには知覚に値する事すらない。
 ただ絶望が―――彼を押し潰す。
 死ぬ事はできない。自分が死ねば彼が死ぬ。
 殆ど言葉は交わさなかった。ただ黙って隣に居てくれただけの人物。
 でも、彼は救ってくれた。再び人を殺そうとしていた自分を、止めてくれた。
 そんな彼をみすみす死なせる事など出来ない。
 自分という抑止力が消滅すれば、彼は意図も容易くあの雷を操る男に殺害されてしまう。
 自分は生き続けなくてはいけない。彼を死なせない為にも。
 でも、それは―――

「俺は……俺は……どうすれば良いんだ!」


―――この地獄すら生ぬるく感じる絶望の時を刻み続けなければいけないという事。


「俺は……俺は……俺達は……!」


 絶望の罪人の虚しげな慟哭が夕焼けの空に響き渡る。
 その問いに答えを返す者はいない。
 ただ世界は静寂をもって絶望の罪人を見下ろしている。
 残酷な、何処までも残酷な沈黙をもって、その天災を見下ろし続ける―――



◆ ◇ ◆ ◇



 ―――時は僅かに遡る―――


 ヴァッシュが未だ北端の森林を歩いていたその時、アンジール・ヒューレーは心中の焦燥に突き動かされるように市街地を駆け抜けていた。
 家族を救う、ただそれだけの想いを胸にソルジャーとしての身体能力をフルに活用し、市街地をひた走る。
 救えなかったと思ってた、命。だがその命はまだ生きている。
 償いようのないミスを自分は取り返す事ができる。まだ、挽回する事ができるのだ。
 ならば、歩いてなど居られない。
 走れ、そして周囲を見ろ。
 救えなかった命を次こそは救って見せろ。それが、自分のソルジャーとしての使命だ。

「待っていろ、チンク、クアットロ……!」

 アンジールは疾走する。
 今度こそは守り抜くと心に決意を堅め、その決意の強固さを体現するかのように疾走する。
 彼の家族であるチンクと離別した地点・G-6周辺は既に探索しつくした。
 しかし、それでもアンジールはチンクを発見することが出来なかった。影も形も、彼女が居た痕跡すらも発見する事ができない。
 その現実は内に募る焦燥を増大させるには充分すぎ、彼を今現在の疾走に至らせる大きな要因となっている。
 視界を流れていく景色。それら全てに目を通し、守護すべき家族がいないかを確認していく。
 走り始めて早数十分。体力面での問題はないが、周囲に人の気配は未だ見受けられない。
 焦燥だけが心に積み重なり、焦燥が苛立ちに変化していき心を揺さぶる。
 自身の選択は間違っていないのか、彼女等がいる方向とはまるで逆の方向に自分は進んでいるのではないか……様々な疑惑が浮かんでは消える。
 だが、それでも彼に出来る事は一つしかない。
 全力で駆け回り、この広大な殺戮の会場から残る二人の家族を見つけ出す事のみ。
 今はただ、走る事しかできない。

「ッ……なんだ、あれは?」

 ―――そして、アンジールは見る事となる。
 遥か遠方の南の空。
 僅かに紅に染まりかけたその空から、一瞬、ほんの一瞬ではあるが確かに発せられた、陽光にすら迫る強烈な白色の光。
 刹那の閃光とはいえ、それは疾走するアンジールの視界を焼き付けるには充分。
 アンジールは思わず脚を止め、発光が起きた方角を沈黙と共に見詰めた。
 だが、その静止もほんの数秒と保つ事はなく、アンジールは再び地面を蹴り走り始めていた。
 その脚が向かう先は―――謎の発光現象が発生した南。
 別段深い考えがあった訳ではない。アンジールは今、ただ単純に情報を求めていた。何でも良い、家族に関する情報を。
 謎の発光現象が起きた場、もしくはその周辺には誰かしらの人物が居る筈だ。その人物からどんな些細な事でも良いから、家族に関する情報を入手したい。
 入手できなかったとしても、その人物が優勝を狙う愚者であれば斬って捨てれば良いだけ。
 その参加者が家族を護ってくれそうな好人物であれば、見逃す事も選択肢に入れても良いだろう。
 ただ家族の無事に繋がるのであれば、何がどうなろうが構わない。
 自分の命が潰えようと、
 誰かの命が潰えようと、
 今のアンジールにはどうでも良かった。
 家族の無事さえ確保できれば、それで良い。

「必ず……必ず救ってやる……!」

 漆黒の剣士はただ奔る。
 力無き者を救う―――そのソルジャーの教えに背く事になろうと、今はただ家族の為だけにこの剣を振るう。

「だから……」

 どんな敵であろうと打倒してみせる。
 この殺し合いを開催した魔女であろうと。
 飄々とした様相で自分を騙し、捨て置いたガンマンであろうと。
 最強のソルジャーであり、家族の仇であり、そして自分よりも遥か高見の実力を持つ―――親友であろうと。


 ―――家族の前に立ち塞がるのならば全て斬り裂く。


 一度は失った命。何も惜しむ事はない。
 家族が無事で済むのなら、喜んでこの命を差し出そう。


 だから、


「それまでは死なないでくれ……!」

 漆黒の剣士は、強固な、余りに強固すぎる想いを胸に奔り続ける。
 十数メートルにも及ぶ距離を一足飛びに走り抜け、参加者が居るであろう場へと接近していく。
 時にはビルを足場にして、時には街頭を足場にして、一直線に先へ先へと。
 鍛え抜かれたその身体が、風を切り裂き進んでいく。
 そして、遂に―――彼等は出会う事となる。


(……あれは……)


 ようやく開けたコンクリートのジャングル。
 前方に広がるは延々と、それこそ地平の彼方にまで続く圧倒的な量の青色。
 青色の海と灰色の海岸線との境に、その男は座り込んでいた。


「あいつは……!」


 その男を認識すると同時にアンジールの鼓動が喚きたった。
 アンジールは疾走の勢いをそのままに男へと近付いていき、流れるような動きで背負っていた大剣を両の手に握る。
 男との距離が凡そ十メートル程にまで縮まったその瞬間、アンジールはタン、と強く地面を蹴り、大平の大剣を上段に抱えて、宙を舞う。


「ヴァッシュ・ザ・スタンピード!」


 そして、接触。
 自身の身長すらも越えた大剣と男の右腕から発現した白刃が、両者の間で火花を散らした。
 アンジールはその瞳に敵対心を、海岸線に座り込む男―――ヴァッシュはその瞳に虚無を。
 交差する刃達を間に挟みながら、それぞれまるで正反対の感情を映し出した瞳がぶつかり合う。
 こうして再会する二人の男達。離別の時から凡そ半々日の時を経て、ガンマンとソルジャーは三度目の再会を果たした。



◆ ◇ ◆ ◇



「君は……」

 ヴァッシュは驚愕していた。
 唐突に現れた見知った顔。ああ生きていてくれたのかと安堵する一方で、更なる絶望が頭をもたげ表れてくる。
 早く、今すぐにでも離れてくれ。
 そうでなければ僕は君を殺してしまう。
 殺したくないんだ。僕は君を殺したくない。
 だから、お願いだ。

「こんな所にいたとはな、ヴァッシュ!」

 アンジールは驚愕していた。
 完全に相手の虚を突いた、非の打ち所のないまさに必殺の一撃。
 それを易々と防がれた。速度も、威力も、タイミングも全てが揃った一撃が、その左腕から現れた刃により易々と。
 以前戦闘した時、眼前の男は拳銃を主武器として戦っていた。このような能力など片鱗も見せてはいなかった筈だ。
 これがヴァッシュの本当の力なのか。先の戦闘では手を抜いていただけなのか。
 手強い、とアンジールは思う。

「逃げろ!」

 そして、そこまで思考したアンジールは再び驚愕する事になる。
 全身に渾身の力を込め、鍔迫り合いを押し切ろうと挑んでいたアンジールへと、十数本の刃が殺到したのだ。
 その刃群が出現した箇所は、言うまでもなくヴァッシュの左腕。
 前腕、後腕、手の甲、左肩……左腕の至る所から白色の刃が突出し、主を害する者を打倒しようと動く。
 勿論、純然たる殺意と共に、だ。

「なッ!?」

 だが少なくとも、今回に限ってはその殺意がアンジールの命を救った。
 ソルジャーとして幾多の死線を乗り越えてきたアンジールにとって、殺意の察知は自身の命を守る上で何より必要なスキル。
 その殺意に身を包まれたアンジールは、思考するよりも意識するよりも早く、後退の二文字を行動に移していた。
 一足飛びに開く十メートル程の距離。退避と同時に追随する数々の白刃をバスターソードで叩き付け、打ち払い、受け流す。
 そして再度、後方へと跳躍。
 眼前へと迫る白刃を防御していきながら、驚異的な反射速度と移動速度でアンジールは必死の間合いからの退却を図る。
 が、それでも尚、完全な回避には至らない。
 迫り来る剣の数々はそれ程までに早く、重く、何より執拗に迫り来る。

「チィっ!!」

 一瞬の内に行われる幾数もの剣戟。
 上下左右から包み込むように迫る白刃はアンジールの抵抗虚しく、着実にその距離を詰めていく。
 攻撃開始時の立ち位置が余りに悪かったのだ。プラントの反射速度で振るわれる刃の群列を受けきるには、如何にアンジールといえど距離が近すぎた。
 このままではアンジールが死地から脱出する事は不可能。
 そう、このままでは―――だ。

(この程度で……!)

 遂にはその数多の刃達はアンジールの迎撃をかいくぐり、その左胸―――人体を動かすに不可欠な心の臓が存在する部位へと迫る。
 剣を引き戻すにも、回避を行うにも決定的に時間が足りない。
 この戦闘を知覚できる者が居れば決着を確信するだろう。アンジールの死による決着を、誰もが確信する筈だ。

(この程度で俺を殺せると思うな!)

 それは唐突な変化であった。
 隆々とした筋肉により構成されたアンジールの右肩から生まれる、繊細でありながらも力強い純白の片翼。
 バサリ、とその翼が上下に揺れる。たったそれだけの動作でアンジールの身体が更なる加速を以て、後退を成し遂げる。
 胸板の寸前にまで迫った白刃を置き去りにして、アンジールは空を疾走する。
 そして、数十メートル程の距離を空けて、ヴァッシュを見下ろすかのように滞空。
 その射殺すかのような視線をヴァッシュへと投げつけた。

「それがお前の……本当の姿か」

 触手のように蠢く左腕を一瞥し、アンジールはポツリ動作言葉を零す。
 怒りと、そして幾分かの落胆が含まれた口調。
 視線の先には苦悶の表情で自分の左肩を抑えているヴァッシュ・ザ・スタンピードのその姿が在る。
 そんなヴァッシュの姿にアンジールは思わず自嘲の笑みを浮かべてしまう。
 異常な……様々な戦場を生き延びてきた自分ですらも異常だと思える程の殺意をたぎらせた男。
 何時ぞやか語っていた不殺の信念からは余りに逸脱した強大な殺意。あれは並大抵の人間に放てる殺意ではない。
 地獄に次ぐ地獄を経験し、苦悩し、絶望へと辿り着いた者でなければ、あのような殺意を発散する事など到底不可能。
 この男は世界を心の奥深く、根本の根本から憎悪しているのだろう。
 そんな男を、自分は信じた。
 まるで道化だな―――と、アンジールは自嘲の笑みと共に思考を打ち切った。

「一つだけ質問をさせてもらう。青色のボディースーツを纏った女達を見なかったか?」

 片翼の剣士の問い掛けに地べたでくるまる男は答えを返す事はない。
 怯えきった表情を俯かせ、何かを堪えるかのように歯を食いしばるだけ。

「……俺から、離れてくれ……」

 そして、一言。やっとといった様子で、ヴァッシュは言葉を吐き出した。
 それはアンジールの問いとは何ら関係の無い、懇願するような一言であった。

「それは無理な申し出だな。お前は危険だ、放っておく訳にはいかん」

 しかしながら、アンジールは一笑をもってヴァッシュの必死の願いを切り捨てる。
 それが当然だ。彼の行動理念は家族の守護。
 一目で分かる危険人物が眼前に居るというのに、みすみす見逃す訳にはいかない。
 家族の危機を招く可能性は如何に微小なものであろうと、排除しておかねばならない。
 それが強大な力を秘めた化け物であろうと、例えその戦闘で自分の命がおびやかされようともだ。
 とはいえ、現状のヴァッシュに何ら疑念を感じないという訳でもない。
 前回と戦闘の際とはまるで違ったヴァッシュの様子。
 全てを諦め、全てを恐れ、全てに絶望してしまったかのようなヴァッシュ・ザ・スタンピードのその表情。
 根拠の無い自信にも似た感情に占められていたその瞳も、今は恐怖と絶望が入り混じったかのような虚(うろ)しか投影されていない。
 まるで自分がこの世界に居る意味を見失ってしまったかのような、そんな表情。
 これがヴァッシュの本質なのか。現在瞳に映っている虚こそがヴァッシュを構成する感情なのか。
 分からない。
 分からないが―――先の驚異にすら値する深淵を含んだ殺意からして、この男が危険な人物だという事は確実。
 ならば、殺すしかない。

「やめろ……頼む、やめてくれ!」

 最早アンジールはヴァッシュの言葉に耳を貸そうとはしなかった。
 両腕で大剣を握り締め、構え、片翼をはためかせる。
 静から動へ。ただそれだけの動作で、その身体は瞬く間に己が出せる最高の速度へと加速するだろう。
 先程自らが命懸けで開いた距離を、再び命を懸けて縮めなければならい。
 再び殺到を始めるだろう剣撃の間を縫い進み、その奥底に座する男を斬り裂く。
 言葉にすれば容易く、実行するには果てしなく困難。だが、大切な人を守る為には達成せねばならない。
 ただ、それだけの事。
 アンジールは変わらぬ決意を持って、プラントという圧倒的な暴風の前へと立ちふさがる。
 そして―――



「やめろと言ってるのが―――分からないのか!!」



 ―――始動の寸前、アンジールの身体が蛇に睨まれた蛙のように、動きを止めた。いや、止められた。
 その瞬間男の身体から噴き出した暗黒に、本能が意志を上回ってしまったのだ。
 余りに濃密で、歴戦のソルジャーですらも想像を絶する深い暗黒が、一瞬その冥き淵をのぞかせた。
 眼前の男の内側から―――。

「お前は、一体……」

 ふと見れば、男の容姿は更なる変化を遂げていた。
 男の右腕から発現した、アンジールのそれにも良く似た白翼がその身体を包み込み―――抑え込んでいた。
 左腕から発現した白色の刃を、その刃により突き破られながらも、抑え込む。
 自身の身体から噴出する刃を、自身の身体から生み出した片翼で抑え込んでいる。
 眼前の男は何をしているのか―――と、疑問を感じたその時、アンジールはその光景に驚愕を覚えた。
 男の左腕から生えた幾数もの刃。
 その数が桁違いに―――増加しているのだ。
 先の一瞬の剣劇の時とよりも、何倍、何十倍にもその本数が増加している。
 男の制止がなければ、男がのぞかせた暗黒がなければ、自分は豪雨にも迫る数の白刃を身体に突き刺し、絶命していた。
 避けられる訳がない。防ぎきれる訳がない。
 自分は、死んでいた。

「……もう無理なんだ……意志だけじゃあ抑えきれない……もう言うことを聞かない……今すぐにでも離れてくれないと……僕は、君を、殺してしまう……」

 ヴァッシュの言葉にアンジールは自身の考えが間違いであったと気付く。
 この男は、殺し合いに乗ってなどいない。
 この男は、力を手に入れてしまっただけだ。
 自身の身に余る、御しきる事のできない圧倒的な力を男は手に入れてしまったのだ。
 不殺を信条としながらも、その意志とは反し、守護したい人々を殺害してしまう呪われた力。
 だから、ヴァッシュは必死に、みっともない程の懇願を零して、逃走を促した。
 考えてみれば、そうだ。
 一度目の戦闘の時、ヴァッシュの左腕には機械造りの義手が装着されていた。だが、今彼の左腕を構成するは、は謎の刃を発現する呪われし腕。
 それは到底義手には見えない。
 つまりは―――そうだ。
 そう考えれば自分を放置して消えた訳にも説明が付く。
 巻き込まないようにと、ヴァッシュは離れたのだ。
 この制御しきれない圧倒的な力で殺してしまわないようにと、ヴァッシュは離別の道を選択した。
 そして巡り巡って、奴と自分とは再会した。
 この殺し合いの中、再び出会ってしまった。

「……そういう事か……」

 それでもヴァッシュは抵抗していたのだろう。
 殺さないように、死なせないようにと、制御しきれぬ力を必死に抑え込み、相対する人々を救おうと抵抗した。
 だからこそ、十本程の白刃で済んだ。気を抜けば、何十何百もの刃が噴出しそうになる刃を、たたの十数本に留めた。
 奴の強靭な意志があったからこそ成せた所業だったのだろう。
 しかし、その意志にも限界が近付いている。力を入手して数時間、抗い続けた意志は磨り減り、磨耗し、限界を向かえている。
 その現れが、眼前の光景だ。意志だけでは抗いきれない力を、無理矢理に力で抑え込んでいる。
 精神的に限界を向かえようと、それでもまだ救済をしようと抵抗しているのだ。
 何なのだ、この男は。
 何が男を此処までさせる。
 この男は、何を成そうと生きているのだ。

「分かった……ヴァッシュ・ザ・スタンピード」

 アンジールは、ヴァッシュを過去の自分と重ねていた。
 望まぬ力を手に入れたアンジール。望まぬ力を手に入れたヴァッシュ。
 人々の為に戦おうとしていたアンジール。人々の為に戦おうとしていたヴァッシュ。
 人々を傷付けるモンスターと化してしまったアンジール。
 人々を傷付けるモンスターと化してしまったヴァッシュ。
 境遇は違えど、二人の生き方は何処か似ていた。
 アンジールは部下であるソルジャーに全てを託し、死んだ。
 夢も、誇りも全てを託してアンジールは死ぬ事が出来た。
 ならばと、アンジールは思う。
 家族を守る為全てを殺害しようとする自分に、夢を受け取る事はできない。
 家族を守る為全てを殺害しようとする自分に、誇りを受け取る事はできない。
 ならばせめて……ならばせめて、叶わぬ相手に最後まで抗い続けたその信念を胸に、死なせてやろう。
 その信念を忘れずに居よう。家族の代わりとして自分が死する短い間であろうが、その誇り高き信念を覚えていよう。



「俺がお前を―――殺してやる」



 意志とは関係なしに殺戮をバラまくヴァッシュの存在は、何時の日か家族にも危害を与えるだろう。
 その力を抑圧しきれなくなっているヴァッシュならば尚の事だ。
 しかし、今回の判断は家族の事だけを思って決断した訳ではない。
 何よりその信念を尊重して、アンジールは眼前の男を殺害しようと決断した。
 男を終焉のない苦悩から解放したくて、アンジールは剣を振るうと決めたのだ。

「何を言っている……死にたいのか!」
「死にたければ、死んでも良いと思っているのなら、抵抗するな。死にたくなければ、死ぬ訳にはいかない理由があるのならば、抵抗しろ」

 どちらにせよ眼前の男は害敵に値する存在だ。
 殺害するしか他はない。
 アンジールはその言葉を最後にバスターソードを掲げ、剣の腹を額へと付ける。その動作は覚悟を決める為の儀式。
 男を、ヴァッシュ・ザ・スタンピードを殺害する為の覚悟。
 これからの戦闘が文字通り命を懸けた戦闘になるだろうことを予知しての覚悟。
 片翼が、ブルリと震えた。
 二人の間に開かれた距離は凡そ数十メートル。
 片翼を生やしたアンジールであれば、加速時間を含めても三秒と必要としない距離。だが、その距離を詰めるには幾多もの死線を越えねば到達しえない。
 勿論アンジールはその困難さを理解している。理解していて尚、退却の二文字を脳裏によぎる事はない。
 守護すべき者の為に、眼前の男の為に、退却など思考の縁にすら浮かばない。

「行くぞ、ヴァッシュ―――!!」

 咆哮と共にアンジールの身体が加速する。
 その加速はさながら、限界まで引き絞られた弓矢が射出されたが如く。アンジールは一筋の線となり打倒すべき敵へと接近していく。
 アンジールの接近に反応するはヴァッシュの左腕。右腕の白翼により抑え込まれている刃達が、接近中の敵対者を殺害すべく活動を始める。
 白翼による囲いを無理矢理に突破しようと、更に多くの白刃が生み出され、思うがままに暴れ回る。
 ヴァッシュも白翼の枚数を増加させ緊急の対応を見せるが、精神的に困憊しているからか、完全に白刃を抑える事ができない。
 遂には数本の白刃が白翼の合間を縫い出て―――目にも留まらぬ速度で迫る片翼の剣士へと直進を始めた。
 互いの速度が相乗され、接触までの時間はコンマ二秒と掛からない。
 始動と殆ど同時に両者は接触し―――


「ウオオオオオオオオッ!!!」


 ―――全ての白刃が、全力を以て振るわれたバスターソードにより、軌道をねじ曲げられた。
 しかしながら、アンジールも完全に回避しきれた訳ではない。軌道を逸らしたとはいえ、急所への命中を何とか避けただけ。
 三本の白刃はアンジールの右腕、左脚、脇腹へと深い傷を刻み込んでいた。
 傷は三カ所。そのどれもが決して無視する事ができない程に深く、灼熱のごとき痛覚を訴えている。
 ともすれば動きを止めてしまいかねない傷。だが、アンジールは欠片の減速すらも見せる事はない。
 その痛覚に更なる加速をもって答えを返す。

(まだだ……まだ……!!)

 白刃は次々にアンジールへと襲い掛かる。
 ヴァッシュも自身の白翼を活用し、白刃の動きを阻害しようとは試みてはいる。
 しかし、抑えきれない。精神と肉体に架せられた余りに巨大な疲労が影響し、白翼の動作を鈍らせる。
 そうして抑えきれなかった白刃がアンジールへと殺到する。
 ヴァッシュの抵抗により相当に密度は低下しているものの、それでも十数には及ぶ白刃が片翼の剣士へと集結していく。
 それら濁流にも似た刃の流れの中を、アンジールは数多の傷を負いながらも邁進する。
 父の形見である大剣一つで命を繋ぎ止めながら、着実に敵へと接近していく。
 そして、遂にアンジールは―――自身の間合いへとその身体を滑り込ませた。

(―――取った!!)

 視界に広がるは白色の翼に包まれ、その内で地面に座り込む金髪の男の姿。
 伸ばせば剣の届く距離。
 白刃は全て受けきり、反撃の可能性は皆無。
 否、仮に反撃があったとしてもこのタイミングならば自分の斬撃の方が先に届く。
 アンジールに迷いはなかった。
 突撃の勢いはそのままに、アンジールはバスターソードを刺突の形で突き出す。
 残る数十センチという距離を駆け抜ける幅広の切っ先。
 引き延ばされる時間。
 瞬きの間に消失するかと思えたその数十センチの距離が、アンジールにとっては予想以上に長く感じた。

 だがそれでも、着実に詰まっていく距離。
 その切っ先がヴァッシュの胴体へと触れ―――



 ―――消滅した。


(なん、だと……?)

 守るべき者の為に、救いたい者の為に行われた、死をも厭わぬ無謀な突貫。
 なけなしの信念を振り絞り行われた、死力を尽くした抵抗。
 それら二つの要素により、ようやく届いたかと思われた刃。
 その刃が、命中の寸前で―――消滅した。
 それはエンジェルアームの真なる力が齎した現象。
 大都市から銃弾まで狙った対象全てを消滅させる神技と言っても過言ではない、プラントに秘められたら絶対的な能力―――『持っていく力』。
 交錯の瞬間、その能力が発動されたのだ。
 対象はバスターソードの切っ先のみという、規模としては極小規模の発動。
 だからこそ、出も早く、アンジールの神速の刺突にも対応する事が出来た。
 勿論、この発動もまたヴァッシュの意志からかけ離れたもの。
 彼の左腕に秘められた呪詛が、宿主であるヴァッシュを殺させまいと発動したのだ。
 そうして唯一無二の絶好の好機は防がれてしまい、アンジールは寸前にまで迫った勝利から一転、窮地へと追い込まれる事となった。
 加えて、エンジェルアームの全容を知らないアンジールは唐突に発生した謎の状況に驚愕し、敵前だというのに致命的な呆けを見せていた。
 その隙を見逃す程、相対している敵は甘い存在ではなかった。

 アンジールの眼前に、ほの暗き穴が出現する。

(なっ……!)

 これまた唐突に出現した光球を見て、アンジールは本能でその危険度を察知する。
 回避せねば、発射を防がねば、確実に死ぬ。
 この距離、このタイミングから回避を行う事は不可能。
 ならばあの光球が放たれるより早く、ヴァッシュの身体を斬り裂き、その攻撃を妨がなければならない。

(間に合え!)

 だが、呆けにより弛緩している身体は急場の命令に対応する事ができない。
 何とか切っ先の消滅したバスターソードを振るうまでには持っていけたが―――遅い。
 眼前に差し迫る危険を回避するには、その一振りの速度は余りに遅すぎた。
 ここで終わりか、と、死を寸前にして諦めにも似た感情がアンジールの胸中に広がっていく。
 結局、何も出来なかった。
 家族を救う事も、眼前の男を救う事も、親友であり最大の敵でもあるソルジャーを止める事も出来なかった。
 後悔ばかりが、ただ押し寄せる。
 ソルジャーとしての道を捨ててまで選択した道の末路が、こんなものなのかと。
 アンジールは思わずにはいられない。


 ―――そして、光球が更なる閃光を生み出し、極光へと移り変わる。


 発現するは『持っていく力』とは対の存在である『持ってくる力』。
 異次元から『持ってきた』膨大なエネルギーが数千の薄刃へと変換され、射出される。
 人一人を殺害するには過ぎた力。完全なオーバーキルでしかない。
 アンジールが如何にタフネスといえど、その力を前にすれば枯れ枝と変わらない。
 自嘲めいた薄い微笑みと共にその極光を見詰めるアンジール。
 手中の大剣もヴァッシュへと急迫してはいるものの、光球の発動には到底間に合わない。

(―――終わった)

 ―――だが、彼の諦観とは裏腹に終焉の時が訪れる事はない。
 数瞬の時間が経過した時点で、アンジールもなかなか訪れる事のない終焉に気付く。
 アンジールを殺害すべく出現した『力』もまた『持っていかれた』のだ。
 何時の間にか砲台を思わせる形状へと変化していた、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの右手。その砲口から発射された『持っていく力』によって―――。
 放たれる事のなかった『持ってくる力』。
 諦めの渦中にいたもののアンジールはバスターソードを振るう手を止めようとしなかった。
 『持ってくる力』がヴァッシュの『持っていく力』により消滅させられた今、アンジールの一閃を阻止する要素は存在しない。



 遂に―――その刃がヴァッシュの呪われし身体を切り裂いた。



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