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Kな魔王/ダークナイト ◆gFOqjEuBs6




 ヒビノ・ミライは、宛ても無く彷徨っていた。
 目的地と定めた場所は、銀髪の男の向かう先、八神はやての居るであろう場所。
 されど、大通りを真っ直ぐ西へと進んで、辿り着いたのは、何も無い浜辺であった。
 歩いていた時点で、既にその風と匂いが、近くに海がある事を知らせてくれては居たのだが。
 それでも進み続けた結果は、銀髪の男どころか人っ子一人居ない場所。

「うーん、困ったなぁ……」
「ミライのダンナ、もしかして道を間違えたんじゃ……」

 傍らのおジャマイエローの言葉に、ミライは表情を曇らせた。
 おジャマイエローの言葉は、まさしく図星であった。

「そうみたい……急がなくちゃいけないのに」

 苛立ちを覚える。
 浜辺から移動を開始して、既に数十分が経過している。
 それなのに、銀髪の男はおろか参加者一人とも遭遇してはいない。
 こんな事をしている間に、何処かで誰かの命が奪われているかも知れないのに。
 ウルトラマンである自分は、何としてもそれを止めさせなくてはならないのに。
 ミライがこの会場に来てから出来た事と言えば、緑のモンスターを倒した事くらいしかない。
 赤のコートの男には逃げられ、銀髪の男を止める事も出来ず、挙句の果てには気絶した。
 これではウルトラマン失格だ。

「元気出してよ、ミライのダンナ。落ち込んだ顔なんて似合わないわよ?」
「え……?」
「ほら、そんな暗い顔しないの。きっとまだ間に合うわよ!」
「そっか……ありがとう、おジャマイエロー」

 気付けばミライは、表情までも沈んでいたらしい。
 おジャマイエローの言葉でそれに気付かされた。
 励ましてくれるおジャマイエローに礼を言い、ミライは歩を進める。
 そうだ。まだこのゲームは終わってはいない。
 救える命はまだ沢山ある筈だ。
 そう信じて、ミライは市街地を進む。




 市街地を闊歩するは、漆黒のマントに漆黒の仮面。
 その名、漆黒の魔王ゼロ……もといスペードのキング。
 ミラーワールドから連れ戻されたキングは、この上なく退屈だった。
 折角の大乱戦を強制的に終わらされて、ゼロとしての遊びも終わらされて。
 キングは、不機嫌であった。

「ちぇっ、プレシアの奴、もうちょっとくらい遊ばせてくれたっていいじゃん」

 仮面の左目部分を展開させて、不満げに呟いた。
 この機能は、元の持ち主であるルルーシュがギアスを使用する為に用意したギミックであった。
 暇だから、という理由で意味も無く左目をかしゃかしゃ動かして遊んでいるのだ。

「折角面白くなってきたのにさ」

 独り言では無い。
 プレシアに対する、愚痴だ。
 どうせこの声だって、首輪を通してプレシアに届いているのだろう。
 その前提で言った軽口だし、まさかそんな事で首輪を爆破される事もあるまい。

「はぁ」

 溜息を落とした。
 それにしても退屈だ。
 先刻までのゲームが、面白過ぎた。
 よっぽどの事が無い限りは、この心を満たせはしないだろう。
 どうしてくれるんだよプレシアこのやろう、などと心中で呟いた。
 さながら、玩具を取り上げられて、不機嫌になった子供の様だった。

「あれ……?」

 不意に、何かを思い出した気がした。
 まともな親ならば、子供にはきちんと勉強をして欲しい物だ。
 子供がゲームで遊んでばかり居ると、それを取り上げる事もあるだろう。
 そして遊んでばかり居ないで勉強しなさい、と言う筈だ。
 言われた子供は、渋々ながらに勉強をする。
 そして、例えば、定期テストで高得点を取ったとする。
 そうすれば、親は子供を褒めてくれる。
 頑張って子供に、ご褒美をくれる。
 だから子供は頑張れるのだ。

「そうだ、それだよプレシア! 僕、二人分のボーナス貰えるんだよね、プレシア!」

 嬉々とした表情で、キングが言った。
 プレシアはあの時言った筈だ。
 参加者を殺せば、その数に応じてボーナスをくれると。
 つまり自分は、C.C.とペンウッドを殺した分のボーナスが貰える。
 何にしようかな、などと子供らしく考えてみる。
 ライダーに変身する為の道具が欲しい、なんてどうかな。
 考えるが、ライダーのアイテムがあったところで、ここまで碌な参加者に出合いはしなかった。
 仮面ライダーだってせいぜい浅倉威と天道総司しか居ないんだし、インパクトに欠ける。
 そんな訳で、今のキングはそれほど変身アイテムを求めては居ない。
 ならば好きな参加者の居場所を教えて貰う、なんていうのはどうだろう。
 別に特別会いたい参加者も居ないし、そんな事の為にボーナスを使うのも勿体ない。
 浅倉とは会いたいが、それくらいは自分の力で探せば済む話だ。
 やっぱり、もっとゲームのルールに関わる様なボーナスが良い。

「そうだな、僕を主催側にしてくれるとか……やっぱだめかなぁ」

 言ってみたが、間違い無く却下されるだろう。
 たかだか二人を殺したくらいで主催側へ移動とは、やはり虫が良すぎる。
 そもそもキングはこのゲームを滅茶苦茶に破壊してやることが真の目的なのだ。
 プレシアに協力してやるつもりなんか毛頭ないし、どうせならもっと面白い注文をした方がいいだろう。

「何にしよっかなぁ……僕に掛けた制限の一部を解いて貰う、なんてのはどうかなぁ」

 キングは本来、自分以下の生命体を自由に操る洗脳能力を有していた。
 それは、言い様によっては、絶対遵守の力とも取れる。あの男、ルルーシュの様に。
 せっかくゼロの衣装を着ているのだから、ギアス能力(に似た力)も使いたい。

「でもやっぱり二人じゃ足りないよなぁ」

 そう、問題は殺した人数だ。
 たかが参加者二人くらい、きっと自分以外にも殺してる奴が居るだろう。
 せめて後一人、欲を言えば後二人か三人くらい、追加で殺せないものだろうか。
 あと一時間もすれば放送も始まるだろうし、残された時間は余り無い。
 流石に残りの僅かな時間で更に参加者を殺して回るのは、無理か。
 諦めかけた、その時であった。

「あれ、あそこに居るの……」

 歩みを止めて、左目を露出させた。
 遮る物が無くなった左の視界に、一人の男が映り込んだ。
 スーパーのすぐ近く、先程自分がC.C.達を殺した場所だ。
 そこに居るのは、ブラウンのコートを身に纏った、体つきの良い男。
 仮面の下で、キングはにたぁ、と笑った。




 目的地はスーパー。
 そこに、標的である高町なのはが居る。
 ブラウンのコートを翻し、市街地を進む男の名はゼスト・グランガイツ。
 関係の無い者を巻き込み、その命を奪う悪鬼、高町なのは。
 命を弄ぶ、ふざけたゲームの主催者、プレシア・テスタロッサ。
 以上二名の殺害を行動理念に、一度は死した身体を突き動かす。

(だが、もしも高町なのはが悪鬼で無かったなら……)

 魔女C.C.が残したメモについて、思考する。
 先程出会った黒服の少年、万丈目準との情報交換は、彼にとって大きかった。
 お陰でこの会場に居る参加者がそれぞれ別の世界から連れて来られて居るという事を知ることが出来たのだから。
 もしもメモに残された内容の通り、高町なのはが別人であるとするなら。
 もしも、時空管理局の機動六課に所属する高町なのはであったなら。
 或いは、結託する事も可能かも知れない。

(敵と定めた女と行動を共にする……か)

 実感が湧かない。
 そもそも、ゼストの知る高町なのはは悪鬼でしか無い。
 闇の王女としての高町なのはしか知らないゼストだからこそ。
 そうでない高町なのはと、一つの目的の為に共闘する、という事が想像出来ないで居た。
 高町なのはがまともな管理局の魔道師であるなら、このゲームを善しとはしない筈。
 それはきっと、プレシア打倒の為の心強い仲間になれる。
 そんな考えを元に、禁止エリアを迂回し、道なりに進んで行く。
 不意に、ゼストの目に入ったのは。

(あれは……!?)

 死体だった。
 首と身体が離れた、二人の人間の死体。
 片方はスーツを着た中年男性の死体。優しそうな顔をした男だった。
 見開かれたままのその目を見れば、この男がどんな人間だったのかは、大体解る。
 それはまさしく、漢の目。最期まで意思を貫いて、散ったのだろう。
 男のすぐ近くで、同じように首を切り離されて死んでいたのは。

「C.C.……逝ってしまったか」

 何故、という疑問よりも先に、口から出たのは言葉。
 一体どのような経緯でこうなったのかは定かではないが、先程まで共に行動していた人間が死んで良い気分はしない。
 また一人、仲間を失ってしまった。
 そんな後悔の念が押し寄せる。
 せめて最後は自分の手で手厚く葬ってやろう。
 そう思い、二人の遺体に近付こうとした。

 ――ピーーーーーーーーーーーー。

 不可解な音が、首輪から聞こえた。
 何事かと、思考は一瞬。すぐに状況を理解する。
 そうだ、ここは既に禁止エリア内。
 自分は禁止エリアを避ける為に態々迂回していたのではないか。

『現在あなたがいるエリアは禁止エリアに指定されています。30秒以内に退去してください』

 首輪から発せられる、警告。
 しかしゼストにしてみれば、30秒もあれば十分過ぎる程だ。
 ピ、ピ、と鳴り響くカウント音をまるで意に介さず、ゼストは二人の遺体を抱え上げた。
 一度禁止エリアの外に遺体を運び出して、もう一度中に入る。
 今度は二人分の頭部を持って、すぐに禁止エリアから退避した。

(まともな墓を作ってやれないのが残念だが、今は我慢してくれ)

 そう心中で念じて、ゼストはすぐ近くの花壇に視線を送った。
 街の美観の為であろうか、大きめの花壇は二人を埋葬するには十分過ぎる大きさであった。
 目的地であるスーパーは、既に目と鼻の先だ。
 この二人を埋葬すれば、自分もすぐに向かおう。
 そして、そこに居るであろう高町なのはに、事の真相を問い詰める。

「ほう、その二人は貴様の仲間か」
「――ッ!?」

 低くくぐもった、男の声だった。
 背後からかけられた声に振り返れば、そこに居たのは仮面の男。
 黒の仮面に、黒のマント。中から僅かに覗けるのは、紫のスーツ。
 傍らにデイバッグを落として、男はゼストを見詰めていた。

「お前は何者だ」
「私はゼロ……力無き者の味方だッ!!!」

 ゼロと名乗った男が、高々と宣言した。
 参加者名簿にゼロなどと言うなの男が居ただろうか、と疑問に思う。
 しかし、あの時の自分は悪鬼高町なのはと、魔女プレシアの事で頭が一杯だった。
 そこへ来てルーテシアの名前まで発見したとあれば、他の参加者への注意が散漫になるのも仕方が無い。
 一応C.C.と情報交換をした際に名簿は一通り見たが、やはり知っている名前にしか目は行かなかった。
 それよりも何よりも、目下の懸念事故は、この男が本当に信用に足る人物なのかと言う事だ。

「つまり……この殺し合いには乗っていない、という事でいいのか?」
「――当然だッ!」

 漆黒のマントを翻し、両手を広げた。
 かつかつと靴音を立てて、歩を進める。
 デイバッグはバイクの上で、武器は一切見当たらない。
 両手を広げて歩み寄るゼロは、無防備である事を主張している様だった。

「私は、強い者が弱い者を一方的に殺すことは断じて許さない!!」

 声を震わして、ゼロは続ける。
 まるで目の前の二人の死に、打ち震える様で。
 感情の込められた声が、ゼストの耳朶を叩く。

「その二人は、力を持った者の手によって殺された!」

 まるで、この二人を知っているかのような口ぶりだった。
 二人の遺体に視線を落とし、再び仮面の男に視線を送る。

「そんな不条理があって良いのか!
 ――いいや、答えは否だ! 良い訳が無い!!」

 果たして、ゼロの言う通りであった。
 まるでゼストの心を代弁している様だった。
 ゼストの正義と理想を、その口で語っている様だった。

(そうだな。そんな事が、許される訳が無い)

 思いだすのは、高町なのは。
 関係の無い人々を巻き込み、その命を奪う悪鬼。
 奴の行動は、絶対に許されるべきでは無い。
 力を持った強者が、力を持たない弱者を殺す。
 そんな愚行を、ゼストは絶対に許さないし、許せもしない。

「そう思うだろう! 貴様も!」

 ああ、と。
 短く問いに答えた。
 ゼロはまさしく、正義の代弁者であった。

「ああそうだ、こんな行いは間違っている。こんなゲームは、間違っているッ!!」

 再び両手を掲げて、ゼロは叫んだ。
 己が欲望の為に他者を巻き込み、その命を奪う。
 それが、プレシア・テスタロッサの行い。
 こんな行いに、こんなゲームに、正義などある筈が無い。

「貴様も解っている筈だ。プレシアに、正義は無いと! 我々こそが、正義であると!」

 そんな事は言われるまでも無かった。
 少なくとも、ゼストの目に映ったプレシアは、揺るぎ無い悪だ。
 他者の命を弄ぶ、絶対的な悪であるプレシアと、戦わない理由は無い。

「確かにお前の言う通りだ、ゼロ。その為に俺は――」
「だが! 状況はどうだ? 我々参加者は、圧倒的に不利だ!」

 それも、ゼロの言う通りだった。
 今の自分達に、プレシアに立ち向かう戦力は無い。
 これから集めるつもりではあったが、それでも確実に勝てる保証は無い。

「そこで! プレシアと戦うと言う前に、私の質問に答えて貰いたい!」
「何……?」

 眼前の男の動きが、止まった。

「正義で倒せない悪が居る時、君はどうする?」

 まさしく、今がその状況であった。
 いくら自分達が正義を掲げようと、プレシアには届かない。
 参加者の命をプレシアが握っている限り、自分達には勝ち目はないのだから。

「悪に手を染めてでも、悪を倒すか――」

 そんな事は御免だ。
 プレシアを倒すためとは言え、罪の無い命を殺す事は出来ない。
 だからゼストは、最後まで自分の正義を貫く。

「それとも、己が正義を貫き、悪に屈するを善しとするか」

 質問は、それで終わりだった。
 答えなど既に決まっている。最初から、決まり切っている。
 正義を確かめる為ならば、自分は悪にでもなる。
 その覚悟はあるし、それも原点は正義故の行動。
 だが、プレシアのゲームに乗るつもりは無い。
 だから。

「俺は俺の正義に従って行動する。例え正義で悪を倒せないとしても、な」

 改めて思いを固め、口を開いた。
 志半ばに散って行った二人の遺体に視線を落とす。
 もう二度と、こんな被害者を出してはならない。
 だから、最初に決めた答えは絶対に揺るがない。
 最後まで正義を貫いて、その手で悪を倒す。
 それが、ゼストの答えだった。

「そうか、なるほど。私なら――」

 果たして、ゼロの解答は如何なるものであろうか。
 ゼロの答えを待つが、一向に帰ってくる気配は無かった。
 痺れを切らしたゼストが、二人の遺体から視線を外した。
 そしてゼロへと向き直った時、返事は激痛となって帰って来た。

「が……はっ――」
「――悪を成して、巨悪を討つ!」

 視線を落とせば、腹に大剣が突き刺さっていた。
 見るからに剛健な大剣が、ゼストの身を貫いていたのだ。

「何……故、だ」
「君にはその為の捨て石になって貰おう」

 何故、俺を攻撃した。全て、嘘だったのか。
 そう告げようとすれば、言葉よりも先に口を出たのは、大量の鮮血。
 大剣の柄を握ったゼロの手が、ぐりぐりと動いた。
 ぐちゃり、ぐちゃりと。音を立てて、腸が引き裂かれる。

「ごほっ……がはっ、きさ……まァ……ッ!」
「騙されたと恨むか。ならば、たった一つの真実を貴様に残してやろう」

 抉られ、潰され、斬り刻まれて。
 内蔵から、夥しい量の血液が喪失して行く。
 腹筋から、背筋まで。間の肋骨までもが、破壊されて行く。
 激痛と失血によって、意識が遠のくのを感じた。

「貴様はここで死ぬ、という真実をな」
「……がはっ……ゼ、ロォォ……ッ!」

 ゼロが、大剣を引き抜いた。
 抜く時も、巨大な刃はゼストの身体を傷つける。
 流れ出た大量の血液で、刃はどす黒く濁っていた。

「貴様はさっき何故、と言ったが、逆に教えて欲しい」
「が……あ、ぁぁぁぁぁぁぁ――ッ」

 ようやく抜かれた刃は、しかし再び突き刺された。
 太腿の筋肉が引き裂かれ、骨が突き砕かれる。
 刃に貫通されたゼストの脚は、最早脚としての機能を果たしはしない。
 自立する事敵わず、ゼストの身体は刃からずり落ちた。
 それに伴い、再び肉が裂かれ、鮮血が飛び散った。

「この殺し合いの場で、貴様は何故私を信じた? 何故私に隙を見せた?
 私には貴様の行動が、正義という物が、理解できない」

 霞む視界は、それでもゼロを捉えて離さない。
 こんな悪鬼の言葉に惹かれ、一瞬でも油断した自分が馬鹿だった。
 このゼロという男は、人を騙して、食い物にする。正真正銘の悪だ。

「俺は……げほっ、げほっ」
「答えは聞いてないッ!!」

 ゼロの叫びと共に、刃は振り下ろされた。
 ぼとり、と。何かが落下する様な、不可解な音。
 それから、右の肩に今まで感じた事の無い熱を感じた。
 落下した物は果たして、自分自身の右腕であった。

「――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああッ!!!」

 不条理だ。
 不条理この上ない。
 この男は、楽しんでいる。
 殺す事に、何の躊躇いも持っては居ない。
 こんな悪に、挫けてたまるか。
 幾ら身体を破壊されようと、魂だけは屈しない。
 ぼろぼろの身体になって尚、鋭い眼光だけは崩さなかった。

「気に入らないな。貴様のその目……」
「……れは……絶対に、悪には……屈しな、い」
「あぁ、もういいよ。僕、君みたいなのって一番嫌いなんだ」

 ゼロの口調が、変わった。
 どす黒い剣を振り上げて、告げた。

「ばいばい」

 しかしゼストは、視線を逸らさない。
 最期の瞬間まで、決して瞳を閉じる事無く。
 視線は、射抜く様にゼロを睨みつけて居た。

「やめろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 V字の光が飛んで来た。
 光はゼロの持った剣を弾き飛ばして、消えた。
 何事かと思うが、最早深く考える事も出来はしなかった。




 市街地を歩いていたミライの耳朶を叩いたのは、悲鳴だった。
 大の男の物と思われる、低く響き渡る様な悲鳴だった。
 それを聞いてからのミライの行動は、速い。

「ちょ、ちょっと……どうするのさ、ダンナぁ!?」

 こうなったミライに、最早おジャマイエローの声は聞こえない。
 誰かが助けを求めて居るのなら、考えるよりも先に行動する。
 それがミライという、実に解りやすい男であった。

 それから、剣を持った仮面の男を発見するまでにそれ程の時間は必要としなかった。
 先程まで歩いてきた道を走って戻り、悲鳴の場所へと駆け付ける。
 振り上げた剣が、男を完全に殺す前に、ミライは力を行使した。
 左腕のメビウスブレス添えた右腕を、突き出した。
 V字型の光は真っ直ぐに飛んで行き、仮面の男の剣を弾き飛ばした。
 あくまで男を狙ったのでは無く、剣を狙った。それは、ミライの甘さであった。

「大丈夫ですか!」

 急ぎ駆け付け、崩れ落ちる男を抱き抱えた。
 ミライが踏み締めるアスファルトは、血で出来た水たまり。
 男自身も血まみれで、抱き抱えるだけでもミライに夥しい量の血が付着した。
 だが、そんな小さな事を気にするミライでは無い。

「何物かは知らないが、邪魔をするつもりかな?」

 仮面の男が、剣を振り上げた。
 ミライは咄嗟に、バリアを生成。
 メビウスディフェンスドームと呼ばれる、半球状のバリアだ。
 光のバリアはミライと男の二人を包み込んで、仮面の男と自分達とを隔離する。
 これで当分は邪魔される事は無い筈だ。

「しっかりして下さい!」
「き……み、は……」
「僕はヒビノ・ミライです! 貴方を助けに来ました!」

 その言葉を聞いても、男は喜びはしなかった。
 最早自分は助からない、と。男の目が言っているようだった。
 そんな瞳を見て居ると、ミライまでもが哀しい気持ちになってくる。

「ミ、ミライのダンナぁ……もうその人は助からな――」
「助けるんだッ! それでも! 絶対に!」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさーい!」

 きっと睨み付け、怒鳴った。
 おジャマイエローはすっかり委縮して、そのまま姿を消した。
 ミライの辞書に、諦めると言う言葉は存在しない。
 例えどんなに絶望的な状況であっても、決して諦めてはならない。
 それこそがウルトラマンであり、CREW GUYSの隊員だから。
 それこそが地球で学んだ、希望を掴む為の最善の行動だから。

「諦めないで下さい! 貴方は絶対に、僕が助けて見せます!」
「…………もう、……いい……んだ」
「何を言ってるんですか!? 諦めなければ、きっと助かります!」

 こんな殺し合いの場で、助ける当てなどありはしない。
 だけど、それでも。ミライは目の前の男を見殺しには出来ない。
 目の前で命が消えて行くのを、黙って見ては居られないのだ。
 だからミライは、どんなに絶望的な状況であろうと、呼びかけを止めはしない。

「すぐに止血して、病院に行きましょう! そうすれば、まだ間に合う!」

 上着を脱ぎ捨てて、袖を引き千切った。
 それを無くなった腕に括りつけて、血の流れを少しでも抑える。
 残った上着の布を、男の胴体に被せた。
 未だ血が止まらない腹部に巻き付けて、少しでも止血する。
 そして取り急ぎ病院に向かえば、まだ何とか助かるかも知れない。
 ミライの腕は、しかし残った男の左腕によって阻まれた。

「……何をするんです!? 手を離して下さい!」
「い……ん、だ……俺は……も……たすか……ない……」
「そんな事はありません! 一緒に、このゲームから脱出しましょう!」

 男の言葉は、ミライに絶望を与える様だった。
 もう助からないと、もう手遅れだと、男の目が訴えていた。
 死んでしまえば、この男が微笑む事は、もう二度と無い。
 今まで生きて来た記憶も、彼の命と共に消えてしまう。
 そんな事は、嫌だ。目の前で、救えるかも知れない命が散ってしまう。
 気付けば、ミライの瞳一杯に、涙が滲んでいた。
 この男を放置する事は、絶対に出来ない。
 誰かが死ねば、必ず誰かが悲しむ。
 こんな不条理なゲームで、誰かの優しい笑顔が奪われる。
 それは、それだけは、たまらなく嫌だった。

「……君は……生き、ろ……、高町……に……――」

 男は、そう言って僅かに微笑んだ。
 やがて、その瞳は閉じられて。微笑みも、消えた。
 真珠の様な大粒の涙が、ぽろりと零れ落ちた。
 自分の無力さに、守ると決めた人間の死に。
 後から後から、止めど無く涙が溢れて来る。

「貴方こそ、生きて下さい! 僕と一緒に、プレシアと戦いましょう!」

 それでも、呼びかけを続ける。
 男はひょっとしたら、少し眠っているだけかも知れない。
 ここで意識を手放してしまえば、男は二度と帰って来なくなる様な気がした。
 まだ名前だって聞いていないのに、これでお別れはあんまりだ。

「あ……そうだ! 名前を、貴方の名前を教えてください!」

 男は、何も言わない。
 肌はまだ暖かいのに、ぴくりとも動かない。
 それはまるで、本当に死んでしまった様に。
 胸が締め付けられるような痛みを感じた。
 ミライの声に、呻き声が混じり始めた。

「僕の名前は……ヒビノ・ミライ……貴方の、名前を……」

 それ以上は、言葉が続かなかった。
 涙が止まらなくて、言葉すら発せなくなった。
 名前も知らないまま、この男は帰らぬ人となった。
 一度もその名を呼ぶ事無く、ミライの目の前で息絶えた。
 こんな哀しい涙を流すのは嫌だった。嫌で嫌で、たまらなかった。
 二度と、目の前で誰も殺されない。
 二度と、優しい笑顔を奪わせない。
 その決意と共に、ミライはウルトラマンになった。
 それなのに、何も守れては居ない。
 赤コートの男の時も。今回だってそうだ。
 後悔の念が、ミライを押し潰す様だった。



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