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E-5涙目ってレベルじゃねーぞ!! ~自重してはいけない・なのロワE-5激戦区~(前編)◆jiPkKgmerY



「シルバーァァアアアアアアッ!!!」

地上本部にて行われている、兄弟喧嘩というには余りに傍迷惑で超規模な戦闘。
まず最初に攻め込んだのはキースシリーズ末弟であるキース・レッド。
腹底からの咆哮を吐き出しながら、ARMSによりもたらされた身体能力をフルに活用し接近。
刃状に変形させた両腕を上下左右から振るい、澄ました顔で此方を睨む兄へと連撃を加えていく。
その速度たるや超絶の域。常人には目端で捉える事すら叶わないであろう速度で、キース・レッドは自身の両腕を動かしていく。

「遅いぞ、レッド!」

その必殺を目的てきとした連斬に相対するはキースレッドが実兄キースシルバー。またの名をアレックス。
感情を隠そうともせずに突貫を続けるキース・レッドとは裏腹に、アレックスは嘲りの笑みを浮かべながらキースレッドの攻撃を次々に回避していく。
硬質の爪に形状を変えた両の腕。それ等を使用する事なく体捌きのみでキース・レッドの斬撃を避けて、避けて、避けまくる。
キース・レッドの攻撃は幾ら振るえど掠める事すらない。
これが『出来損ない』と評価されたキースシリーズと正規のキースシリーズとの実力差なのか、傍から見ただけでは勝負は歴然として見えた。

(ふん、いい気になってるんじゃないぞシルバー)

だが、その心の内は違う。
キースレッドは強かに機が熟すのを待ち続けている。
今は小さな芽でしかない勝機が完全に花開くのを、侮辱と嘲笑の言葉を受けながらも待ち続ける。
彼は端から純粋な戦闘力でキースシルバーを打ち負かそうとはしていない。
今自分が有する全ての要素を活用して、キースシルバーを滅殺する。いや、そうでもしなければ自分は勝利をする事など有り得ない。
その事を理解しているからこそ、キースレッドは憤怒に駆られる心情を必死に抑圧しながら、ただひたすらに積み重ねる。
自身が勝利する為の布石を―――積み重ねる。

(……妙だな)

対するアレックスもキースレッドの攻め方に僅かな違和感を感じていた。
とはいえ具体的にどう、という訳ではない。ただ漠然と何か違和感を覚える。
『戦闘の神』として培ってきた察知能力が違和感を告げている。
今の憤怒に染まった表情は仮のものだ、と。
この出来損ないは何かを狙っている、と。
絶対に油断はするな、と。
理性の更なる奥……本能と呼ばれる場所が警鐘を鳴らしていた。

「殺ったぞ、シルバー!」

と、思考に意識を向けていた所為か、遂にキースレッドの斬撃がアレックスの上腕部を掠め、切り裂いた。
そしてキースレッドの攻撃はただの斬撃で終わる程、甘い物ではない。
瞬間、斬撃を受けたシルバーの上腕部がひび割れ―――爆ぜた。
その現象は俗に言う振動。だが、そのレベルは人知の成せる範疇を遥かに逸脱している。
触れる物体全てを分子レベルにまで分解する事ができる、まさに必殺の能力。
キースレッドの腕に掠め取られたアレックスの上腕は、文字通り分子レベルまで分解され、宙へと霧散していったのだ。
とはいえ粉砕した箇所はアレックスの上腕のほんの一部。ARMSによる治癒能力を有するアレックスからすれば、殆ど存在しないと言っても良い傷である。
その耐久力の高さは、同じキースシリーズであるキースレッドが何より知っている。だからこそ、ここぞとばかりに攻撃に厚みを加え、キースシルバーを追い詰める。

「ちぃッ!」

キースレッドのこの能力を知っていたからこそ、アレックスは防御をせずに完全な回避を心掛けて戦いを行ってきた。
謎の制限によりARMSの治癒力が著しく低下している今、無駄なダメージは避けたいと考えていたし、何より眼前の出来損ないを相手に負傷すること自体をアレックスの矜持が許さなかった。
だが、その目論見も僅かな心の隙を突かれた事により破綻した。
腕に走る灼熱の如く痛覚が、アレックスのプライドに油を注いぐ。
此処まで防戦一方だったアレックスが攻勢に転じたのは、その直後の事であった。

「調子に乗るなよ、出来損ないがッ!」

攻勢に転じたとはいったものの、アレックスの取った行動は後退。
その行動は傍目には、余りの猛攻にアレックスが後退を選択したとも見えるが―――実のところはまるで違う。
後退こそが、アレックスの初手。
後退こそが、彼の能力を最大限活用する為の初手なのだ。

「させるか!」

アレックスの能力を知るキースレッドは、即座に敵の狙いを読み取った。
距離を開けさせまいと、地面を踏み抜きアレックスに追随するキースレッド。
アレックスの後退に追い付いたキースレッドは、刃と化した両腕を目の前の敵目掛け振り下ろす。
が、焦燥から出たその一閃はアレックスに届く事なく、カウンターの蹴撃を以て返された。
強烈な左ハイキックがキースレッドの顔面へ炸裂。その身体が大きく後方へと吹き飛び、一、二度バウンドした後にロビー端の壁へと激突する。
二人の距離が完全に開いた。

「消えて無くなれ」

完全に開ききった距離。
蹴撃により体制を崩しているキースレッド。
お膳立ては済んでいた。
アレックスは甲殻類の如く変貌した右腕を掲げ、その先端を、壁にめり込み膝を付くキースレッドへと向ける。
タメに用いられる時間は僅かに一秒程。
発現するは、万物を蒸発させる防御不可の究極の砲撃。
この戦闘に於いて初めて発現するアレックスが持つ最強の能力―――荷電粒子砲・『ブリューナグの槍』。
光速で発射されるそれを、射出後に回避する事は不可能。
数万度の熱を持って直進するそれを防御する事は不可能。
その威力の程はキースレッド自身が良く知っている。
この超振動をも遥かに上回る能力。
これこそが全ての要因。同じ遺伝子を元として産まれながらキースレッドが『出来損ない』と処断された、大きな要因。
それがこの能力の差だ。

「ウ、オオオオオオオオオオオオオ!!」

『ブリューナグの槍』を前に策謀も何も存在しない。
どんな不様に見えようと、この瞬間のみは回避に全てを費やす。
砲撃が発射される前に体勢を立て直し、砲撃が発射される前に全力で移動を開始する……当然、キースレッドはそう行動するとアレックスは予測していた。
が、キースレッドは動かない。発射直前にある最強の砲撃を前に、回避行動を取ろうともしない。
思わず疑問を浮かべど、しかし砲撃を止める気は微塵も無く、アレックスは『ブリューナグの槍』を射出。
青白い閃光が床を灼き溶かしつつ、キーレッドへと直進。そして命中―――の直前、不可視の壁にぶち当たり、その矛先が歪曲した。

「なにッ!?」

何時の間にか、キースレッドの右手には一振りの短刀が握られていた。
それは『超振動』を動力源として『ブリューナグの槍』すら防ぎきる最強の楯を発生させる、ナイフを象った防御兵器。
名はベガルタ。『小怒』を冠した防御兵器が、アレックスが放った必殺の砲撃を防ぎきっていた。

(隙だらけだぞ、シルバー!)

予期せぬ現象に驚愕するアレックスの傍ら、キースレッドは体勢を立て直し、再び距離を詰めていた。
ベガルタを右腕に、左腕のみで攻め込むキースレッド。攻め続けるレッドに避け続けるアレックス、数刻前の剣戟が全く同様の形で行われる。

(それが貴様の切り札か……無駄な事を……)

再度引き込まれた接近戦に顔を歪めながらも、アレックスは冷静であった。
ベガルタの装備によりレッドの攻めは片腕のみの甘いものへとなっている。
その攻撃一つ一つをアレックスは見極め、見切り、的確に反撃を行う。
一瞬の隙を見て打ち込んだ蹴撃をフェイントに、その左腕が握るベガルタへとARMSによる一閃。
そして吹き飛んだベガルタに意識を取られたキースレッドの顔面へと、返しのARMSを直撃させる。

(マズい!)

真っ黒な視界の中でも、キースレッドにはシルバーが成そうとしている行動が予期できていた。
先の一撃により再度開けてしまった奴との距離―――奴が狙う事はたたの一つだけだろう。
脳内を蹂躙する恐怖にも似た巨大な危機感。再びキースレッドは自身の両脚へと意識を集中させる。
未だ歪んでいる視界の中、キースレッドは何よりも先ず回避を優先させた―――が、それでもまだ間に合わない。
数メートルの距離を移動したその瞬間、キースレッドの左腕を灼熱が占領する。
掠めた『ブリューナグの槍』は、たったそれだけで鉄をも切り裂くキースレッドの左前腕を溶解させた。

「チィッ!」

キースレッドは大きな舌打ちを残しながら、アレックスの方へと視線を向けようともせずに疾走する。
相手はあのキースシルバー。一度離されてしまった間合いを正面から詰めさせてくれる程、甘い相手ではない。
ならば、残された道は一つ。一旦姿を隠してからの奇襲しかない。

(ッ……間に合え!)

後方から光速で飛来する紫電に当たらないよう、信じてもいない神へと祈りを飛ばしながら、キースレッドは全力で地上本部一階・ロビーを駆け抜ける。
左右にフェイントを入れて、少しでも『ブリューナグの槍』の狙いが逸れるよう試みながら、駆けるキースレッド。
彼が目指すは外界。
地上本部の外には破壊され尽くした高層ビルの数々が巨大な瓦礫となり、まるで鬱蒼と生い茂る密林の如く視界を遮蔽している。
外にさえ出れれば、姿を眩ませる事は可能な筈だ。
ほんの数十センチ脇を通過する摂氏数万度の光線。
幸運な事に射出されたその全てがキースレッドに命中する事なく、ただ地上本部・ロビーとその後方に展開している市街地を焼き尽くすに終わっている。
そして、遂に―――キースレッドは死地からの脱出に成功した。
その表皮の所々は、空気を伝達した『ブリューナグの槍』の圧倒的な熱量により焼け爛れているが、核金により向上している治癒力を考慮すればダメージの内にも入らない。
数分もあれば全快に至る筈。溶解した左前腕も十数分ほどの時間があれば、ある程度の回復はするだろう。
何ら問題はない―――、そう考えながらキースレッドは数多の瓦礫を伝って夕暮れの市街地を走り抜ける。
こうしてキースレッドは宿敵から一旦の離脱に成功した。

「……中々に難しいものだな」

そうして一人残されたアレックスは、無人のロビーにて小さな溜め息と共に言葉を零した。
現在のアレックスの狙いはキースレッドの撃破ではなく、拘束。
キースレッドから管理局と敵対しようとしている組織についての情報を入手する事が、彼の現段階での最優先事項であった。
それはキースレッドなど何時でも始末できるという自信の、悪くいえば慢心の現れでもあるのだが、それにアレックスが気付く事はない。
如何なる策謀を組み立てようと、如何なる武器を装備しようと、所詮『出来損ない』は『出来損ない』。
その断定からの選択に従って行動した結果が、コレ。三度に渡る取り逃がしだ。
隙だらけの背中に『ブリューナグの槍』を撃ち込もうにも、謎の制限が架せられている今、当たりどころが悪ければキースレッドを殺害させてしまう。
とはいえ、高速で不規則に動くキースレッドの、その急所を上手く外して狙撃する事もそう簡単な事ではない。
敵対者の無力化は、単純な撃破よりも遥かに困難だとアレックスも認識していた。
だが、それでも相手は自分の『出来損ない』でしかない圧倒的な格下。その男を相手に三度もの逃亡を許してしまったのだ。
それは、彼の心に苛立ちを蓄積させるに充分すぎる要素であった。

「次はないぞ、レッド」

忌々しげに言葉を吐き捨て、アレックスもキースレッドが消えていった市街地へと足を踏み入れる。
次こそは確保してみせると、苛立ちが混同された決意と共にアレックスは戦地を走る。



◆ ◇ ◆ ◇



瓦礫の影に腰を降ろしながら、キースレッドは思考する。
瓦礫の向こう側には周囲に警戒を飛ばすキースシルバーの姿。
その立ち振る舞いに隙はなく、接近を仕掛けようと飛び出したとしても三歩と進む事なく、その両腕の荷電粒子砲で狙い撃ちされるであろう。
やはり厄介な相手だ、とキースレッドは心中で愚痴を零す。
皮膚の爛れはもう全治し、直撃を受けた左腕も手首の辺りまでは回復してきている。
右腕が完全修復まで恐らくあと十分程は必要か。
制限さえなければ、とも思うが、それはキースシルバーも同じ事。むしろ制限が無ければ、左前腕を吹き飛ばした一撃で胴体も霧散していた可能性だってある。
威力がセーブされてるからこそ、自分はまだ生存しているのだ、この瞬間に於いては制限という存在に感謝せねばいけない位だ。

(『策』を行うにはせめて両手が使えねば……)

今現在、自分が持つあらゆる要素をつぎ込まねばシルバーには勝てないとキースレッドは思考している。
だから憎悪に任せた無謀な突貫は行わない。辛抱に辛抱を重ねて機が熟すのを待つ。
これが、この辛抱こそが『出来損ない』と差別され続けた屈辱の人生からキースレッドが学び取った最大の策謀。
能力にかまけた無謀など必ず選択しない。
キースレッドは待ち続ける。最良の攻め時が訪れるのを、瓦礫の海の中で座したまま、息を潜めて待つ。
そして遂に―――その時が訪れる。
溶け消えたキースレッドの左前腕が完全な回復を見せた。
復活した左手を二度、三度握り込み、その具合を確認するキースレッド。
大丈夫だ、全快している。
これならいける。
キースレッドは、完治した左腕にニヤリと口端を吊り上げると、その右腕を刃状に変化させ、先端を瓦礫から突き出した。
刃に反射する光景を見て周囲を確認する。

(……そこか)

数秒の探索の後に、キースレッドはアレックスの姿を発見する。
アレックスは当初の位置から大して動いておらず、両の瞳を閉じて立ち尽くしていた。
その両腕は未だ戦闘形態を取っており、仄暗い砲口からは空気を灼く音と共に紫電が放出している。

(誘っている、な)

アレックスが立つ場は、コンクリートのジャングルの中にしては見晴らしの良い、少し開けた地点であった。
その中央にて身動き一つせず立ち尽くすアレックス。
あの状態からの狙いは一つ。襲撃しようと身を踊らせた瞬間を待ち構えての狙撃しかない。
成る程、遠距離に対する攻撃法を持たないキースレッドを相手にするには、単純であれど悪くはない手段であろう。
だが、その策は、

(見誤ったな、シルバー!)

まさにキースレッドの思惑通りの展開。
二度に渡る戦闘が幸をそうした。あの二度の戦闘でキースレッドはたった十二発の弾丸しか放っていない。
加えてその中に、アレックス自身を狙って撃った弾丸は皆無。そのどれもが逃亡の中、碌に狙いもせずに闇雲に撃ち放ったものばかり。
アレックスは理解していない筈だ―――この拳銃達の馬鹿げた威力を。
もし理解していても、それは完全ではない。精々通常の拳銃よりかは強力だろうという程度。
それが、その思い違いこそがキースレッドの思い描く勝機。
この拳銃は、特にこの漆黒の拳銃は違う。
化け物専用の拳銃を持ってしても殺害しきれない人間、その人間を殺す為に開発されたのが、キースレッドの手中にある漆黒の拳銃。
名はジャッカル。もはや人類に扱える域を遥かに逸脱した超絶兵器である。
キースレッドは瓦礫から身を翻しながら、ジャッカルと.454カスールを右手と左手にそれぞれ握り、連射した。
ただし最初の掃射に使用されたのは、左手に握られた.454カスールのみ。
切り札であるジャッカルの使用は、最良のタイミングの到来まで辛抱する。
引き金が絞られた回数は三回。その動作に伴い、.454カスールから三発の弾丸が射出された。

(下らんな、レッド)

勿論、アレックスもキースレッドが装備している二丁の拳銃には気が付いていた。
それを見越しての待ち伏せである。キースレッドの射撃に、アレックスは頭部と胸部を硬質化させた左腕で覆い隠して、対応する。
どんな馬鹿げた改造をしてあろうとそれが拳銃という形状である以上、ARMS適合者である自分を殺害する事は不可能。
とはいえ、今は忌々しい制限によりその防御力、回復力ともに大幅な弱体化を強いられている。
当たり所によっては、最悪のケースも有り得るだろう。
だから、不本意ではあるが、防御の態勢を取る。
潰されれば即座に死へ繋がる頭部とARMSコアが埋め込まれている胸部を、変形させた左腕で防御。
残る右手を攻撃に回し、右手からの『ブリューナグの槍』で奴の両手両足を焼き消す。
もう外さん。必ず、当ててやる。
そう思考した上でのアレックスの選択であったが―――その行動はキースレッドの策謀からは決して脱していない。
空を切り裂き、音速をも越えた速度で迫る三発の弾丸。
それは、不死の吸血鬼すら殺しうる威力を秘めた凶弾。だが、その凶弾も戦闘用ARMS『マッドハッター』を貫通するには至らない。
硬質化した表皮へ僅かにめり込む程度で侵攻を止めてしまう。

(下らん足掻きだな。が、これで……終いだッ!)

化け物ですら泣いて逃げ出す弾雨の最中に立ちながらもアレックスは、狙い定めた砲口を微塵たりとも動かさなかった。
既に砲撃への準備は整っている。位置の不把握という条件により先手は許したが、この程度の銃撃でどうこうなる身体ではない。
そして、遂に万物を貫く光槍が撃ち放たれる。

「なにぃッ!?」

―――アレックスが吐き出した驚愕の雄叫びと共に。

結果だけを言うならば『ブリューナグの槍』が標的に命中する事はなかった。
荷電粒子砲が放出されたその瞬間、砲口が大きくブレてしまったからだ。
その原因は一つ。
『ブリューナグの槍』が放たれるほんの一秒前に撃ち出された一発の弾丸。
漆黒の拳銃から螺旋を描いて放たれた13mm炸裂徹鋼弾が、アレックスの右足を根元から吹き飛ばしたのだ。
片足の喪失により崩れたバランス。
それにに伴い僅かにズレた砲口。
必然的に射線にもズレが生じ、射出された光線は狙撃対象に命中する事なく崩壊の市街地を駆けていった。
それは過信と、そして何よりも慢心から生まれた窮地であった。
どんな馬鹿げた威力を有する銃器であろうと、最高位の戦闘用ARMSであるマッドハンターを貫く事は有り得ない―――その思考こそが過信。
加えて相手は『出来損ない』のキースレッド、策を練る頭脳も、戦闘力も、ARMSも何もかもが劣種。そのキースレッドが思案した謀など、所詮薄ぺらな紙のようなもの―――その思考こそが慢心。
もし相対する相手がキースレッドでなければ、同様の策を使用されたとしても、アレックスは最善の対象を見せ、無事に乗り切れたかもしれない。
ただ生前から抱き続けてきたキースレッドに対する優越感が、その判断力を鈍らせた。
その慢心は、キースレッドの策謀や辛抱によって遂には致命的なタイミングでの暴発に至った。

「っ、レッドォオオオオオオオォオオオオオオオ!!!」

『出来損ない』にしてやられたという事実が、アレックスの思考を瞬間的に沸騰へと導いていた。
憤怒に支配された思考の中、アレックスはいわば反射的に右腕へと力を込める。
狙うは視線の先で凄惨な笑顔を満面に浮かべている『出来損ない』。その表情が尚一層アレックスの激情を駆り立てる。
地面へと倒れ伏せながらもアレックスはキースレッドへと砲口を向け直し―――瞬間、陽光にも似た山吹色の閃光がレッドの左腕から放出された。

その強烈な閃光が、アレックスの視界を、占領した。

(貴様なら反撃してくると思ったよ、シルバー)

両目が一時的にその役割を果たさなくなったのと同時に、アレックスは『ブリューナグの槍』を発射していた。
だがその光線もまた、キースレッドに命中する事はない。
キースレッドの身体は、既に射線から遥か離れた上空へと離脱していたからだ。
キースレッドの左手に握られていた筈の白銀と漆黒の拳銃は、掃射を終えると同時に投げ捨てられていた。
その代わりとして取り出された物は白銀の六角形。
そして、掛け声無しで発動した武装錬金―――サンライトハート改。
その石突部を地面に突き刺してのエネルギー放出により、キースレッドは目眩ましと超速移動を同時に敢行。
移動先はアレックスの真上。
無闇に突撃すれば『ブリューナグの槍』が直撃する可能性もあり、また横方向に移動する為にサンライトハートの角度を変更している暇もない。
結局、『ブリューナグの槍』を回避するには上空しか逃げ道が存在しなかったのだ。
宙に浮いた状態でサンライトハートを収縮させるキースレッド。
その石突部と握り手は『ブリューナグの槍』の通過点の間近に置かれていたせいで、焼き溶けている。
伝導される灼熱を掌から感じながらも、キースレッドは攻勢を止めようとしない。
間際にまで迫った勝ち鬨と比べれば、その程度の痛みなど知覚にすら至らない。
キースレッドはサンライトハートの穂先と変形させた自身の右手を、俯せに倒れ伏すアレックスへと向けた。
そして、その両者を同時に伸長。
未だ視覚機能が低下しているアレックスは回避どころか、反応をする事すら適わなかった。
サンライトハートは、アレックスの左腕を貫通し地面へと縫い付ける。
その右腕は、アレックスの右腕を貫通し地面へと縫い付ける。
加えて右腕から発動するはキースレッド固有の能力『超振動』。
粉砕され、霧散するアレックスの右腕。
同時にキースレッドは右腕を収縮させ、再度伸長させる。
その矛先が次に貫通するはアレックスの胴体部。その身体を地面へと固定させ、その背中へと着地した。

「俺の……勝ちだ……!」

サンライトハートで貫いた左腕、『超振動』で粉砕した右腕……アレックスの攻撃の要である両腕は無力化されていた。
加えて先のジャッカルによる銃撃で右足も根元から喪失、今現在もその胴体にはキースレッドの凶刃が突き刺さっている。
曰わく、チェックメイト。
逃亡する術も、反撃する術も、最早アレックスには残されていない。
待ちに待った待望の瞬間だというのに、キースレッドの思考は自身でも驚く程に冷静であった。
歓喜に我を忘れる事もなく、ただ冷静に眼下の怨敵を見下ろす。
俯せに寝転がっている為、キースレッドにアレックスの表情を読み取る事は出来ない。
だが別段構わない、とキースレッドは感じていた。
勿論、長年憎悪し続けてきた張本人が『出来損ない』と侮蔑していた男に殺害される間際、どのような表情を浮かべるのか興味が無い訳ではない。
後でゆっくりと確認すれば良いだけのことだ。殺害した後にゆっくりと……。

「終わりだ」

言葉と共にキースレッドは残る左腕を刃状に変形させ、アレックスを見下ろす。
キースレッドとアレックスの間に存在した、埋められようのない大きな能力差。
その圧倒的な能力差を以て開始された戦乱は、キースレッドの策謀と数々の強力な支給品、何よりアレックスの慢心により、遂には劣等種とされたキースレッドの勝利で幕が閉じようとしていた。

そして、ベガルタが振り下ろされ―――その瞬間、彼等が立つ地点・E-5を桜色の暴風が支配した。

唐突に、前触れも無く発生したその暴風。いや、暴風というには多大な語弊が生じるか。
言うなれば、まるで暴風のような規模を有した発光現象。
鮮やかなピンク色に染まった光が遠方から発生し、半球状に展開。
その暴風を伴った光は、荒廃に置かれた市街地を更なる破壊を以て蹂躙し、全てを吹き飛ばしていった。
辛うじてその体裁を保っていた半壊のビルを、
片翼の天使と不死の王との激闘により既に数百の瓦礫と化しているビルだった物も、
―――それは、先刻まで究極の兄弟喧嘩を繰り広げ、ようやく因縁の決着を付ける事が出来たキースレッドさえも、
極光は、有象無象の区別なく全てを全て呑み込み、まるで紙切れのように宙へと舞い散らした。

「なっ……!?」

余りに急激な変貌を見せた状況に、キースレッドの理解は追随をする事が出来なかった。
木の葉のように宙を舞いながら、驚愕と混乱に目を見開く事しか出来ない。

「消し飛べ、レッドォオオオオオオオ!!」

対するアレックスはただキースレッドだけを見ていた。
到底堪え切れぬ、抑制などできる訳のない憤怒が、周囲で巻き起こされている異常な現象から意識を逸らさせていたのだ。
その俯せという体勢も、現在の状況からすると僥倖とも言えた。
その地面にへばり付くような体勢は、桜色の暴風によりアレックスの身体が吹き飛ばされる事態を回避させていたのだ。
寝転がった体勢のまま、左腕に刺さった鉄槍を無理矢理に引き抜くとアレックスは、空中で無防備な姿を晒すキースレッドへと左腕の砲口を向けた。

「…………シ、ル、バァァアアアアアアアアァァアアアアアアアア!!」

そして、砲撃。
桜色の極光の中を青白い閃光が駆け抜け、射手の宣言通りに狙撃対象の身体を消し飛ばす。
命中箇所はその胸部。ようやく命中を果たした『ブリューナグの槍』は、キースレッドの胸部を中のコアごと全て焼き尽くし―――蒸発させた。
制限の有る無しなど最早関係なく、コアを喪失したキースレッドに生存への道は残されてない。
崩壊する身体組織を自身の目で視認しながら、胸部に走る灼熱の痛みを知覚したまま、キースレッドは宙を舞う。
かすれゆく意識の中、ただただ混乱を胸に宿したまま、キースレッドは市街地を舞い―――そしてその機能が停止した。



結局のところ彼等の命運を分けたのはごく単純に運でしかなかった。
キースレッドは最善の判断を選び続け、遂には絶大な能力差を覆して実兄を殺害する直前にまで至った。
武装錬金や対化物専用拳銃、果てにはARMS殺しといった強力な支給品の活用。
『ブリューナグの槍』を前に矜持すらも押し殺し無様な回避を続け、それでも勝利の為にと模索し続けた精神。
キースレッドは強かった。
強かったが―――運というただ一つの要素が彼の行動の全てをひっくり返した。
唐突に発生した暴風が、彼を死に追い込んだのだ。

そして、後に残されるは悔恨の感情を抱いたまま倒れ伏す『出来損ないに敗北した男』。

四肢の七割五分を『出来損ない』の手によって喪失した男は、紅色の旋風の渦中にて空を見上げていた。
胸中に敗北の苦渋を溜め込みながら、だがしかしその現実を未だ受け止めきれず、男は旋風渦巻く空を見る。
その敗北が、もはや二度と払拭のできない過去だという事を、アレックスは気付いていない。
キースレッドを殺害してしまった事により、もはやリベンジという復讐劇すら行えない事に、まだ気付いていない。
紅色の旋風は何時しかなりを潜め、夕暮れの空が敗北者を見下ろしていた。



【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』 死亡確認】
【残り 20人】



【1日目 夕方】
【現在地 E-5】
【アレックス@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】疲労(大)、激しい怒り、左腕と右足を喪失(回復中)、右腕に貫通傷(核鉄「サンライトハート改」(起動状態)@なのは×錬金が刺さっている)、胴体に貫通傷
【装備】なし
【道具】支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1~3)
【思考】
 基本:自分の意思による闘争を行い、この殺し合いを管理局の勝利という形で終わらせる。
 1.俺が『出来損ない』ごときに……
 2.六課メンバーと合流する。
【備考】
※セフィロスはデスゲームに乗っていると思っています。
※はやて@仮面ライダーリリカル龍騎は管理局員であり、セフィロスに騙されて一緒にいると思っています。
※キース・レッド、管理局員以外の生死にはあまり興味がありません。
※参加者に配られた武器にはARMS殺しに似たプログラムが組み込まれていると思っています。
※殺し合いにキース・レッドやサイボーグのいた組織が関与していると思っています。
※他の参加者が平行世界から集められたという可能性を考慮に入れました。
※市街地東側に医療設備が偏っている事から、西側にプレシアにとって都合の悪いものがあるかもしれないと推測しています。
※特別な力の制限は首輪以外のもので行っていると考えています。

【全体の備考】
 ※E-5市街地にベガルタ@ARMSクロス『シルバー』、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(5/6)@NANOSING、.454カスール カスタムオートマチック(0/6)@NANOSING
 【道具】支給品一式、ヴァッシュのコート@リリカルTRIGUNA's、首輪×2(優衣、なのは@A’s)、優衣とカレンとアンデルセンのデイパック(道具①と②と③)
 【道具①】支給品一式、レリック(刻印ナンバーⅦ)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
 【道具②】支給品一式、ランダム支給品(元カレン:0~2)
 【道具③】支給品一式、各種弾薬(各30発ずつ/ジャッカルとカスール共に6発消費)、カートリッジ(残り13発)、レイトウ本マグロ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、杖@ゲッターロボ昴
  が、キースレッドの死体と共に散らばっています。




◆ ◇ ◆ ◇



キース兄弟の命運を分けた極光。
その極光が発生したのは四回目の放送が開始される、およそ30分程前の事。
発生源はE-5。
それは今回の話を構成するに欠かせない事象であり、また彼等の戦いを次なる域へと引き上げる切っ掛け。
その光が事の発端であり、序章の閉幕を告げる鐘の音であった。
さて、次の話ではこの始まりの光がどのようにして発生したのか、そこに焦点を置いて話を進めていきたい。
鍵を握るは、家族を想うが余りに闇へと染まってしまった夜天の主と、仲間を……想い人を想うが余りに闇へと染まってしまった白夜天の主。
互いの手に握られるは、次元震すら起こしかねない超常の力を秘めた三つのロストロギア。
さぁ、勝利を掴み取る事はどちらなのか―――時は僅かに遡る。



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