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Lを継ぐ者/Sink ◆7pf62HiyTE






『放送は僕――オットーが担当させていただきました。』





 淡々とした声による放送が終わった――
 西の空を見ると赤い夕日が沈んでいくのが見える――
 東の空を見ると赤い満月が昇っていくのが見える――
 そして周囲を闇が空気を染めていく――
 それに呼応するかの様に――





 彼の心も暗い闇に沈んでいく様だった――





『マスター――』





 声を発したのは『人』ではない――フェイト・T・ハラオウンのデバイス閃光の戦斧バルディッシュ――
 『彼』は自身のマスターであるフェイトの死を悼んでいた――

 ショックがないと言えば嘘になる――
 出来れば無事に再会したかった――
 だが、それは最早叶わぬ事だ――

 この場にいた2人のフェイトが自分の世界及び時間軸のフェイトである保証はない――
 無事に元の世界に戻る事さえ出来れば無事に再会出来る可能性は十分にある――
 その可能性はブレンヒルトと出会った時から推測出来ていた事だ――



 しかし――そんな推測に意味は無い――



 如何なる世界、如何なる時間軸であろうとも自分のマスターである事に変わりは無いのだから――
 彼女の喪失が大きな空虚を生む事に変わりはない――



 彼女がこの場でどの様に行動し死に至ったのか――それを知る手段はない――
 例えば、誰かを守るか助ける為に強敵と戦い散っていったのか――
 親友である高町なのはを生き返らせる為に修羅の道を行き朽ち果てていったのか――
 もしかすると一瞬の不注意で死に至った可能性だってある――



 だが――1つだけ確かな事がある――



 フェイトは死の瞬間まで誰かの為に戦っていたという事だ――



 それが誰なのかはわからない――
 プレシアの願いを叶える為かも知れない――
 なのはやアリサ・バニングスを生き返らせる為かも知れない――
 プレシア・テスタロッサの真意を確かめるとともに殺し合いを止めて多くの人を救う為かもしれない――
 そして――娘を助ける為かも知れない――





 バルディッシュは願う――





 フェイトの最期が誰かの助けとなった事を――無為に終わる事の無い事を――






 ここまで思考しバルディッシュはある違和感を覚えた――





『Mr.ユーノ――?』




 先程からユーノ・スクライアは淡々と名簿と地図を眺めている――
 呼ばれた人数は19人と非常に多い、それだけではなくユーノが気に掛けていた少女達や数多くの仲間達の名前が呼ばれていた――
 だが、ユーノは呼ばれた瞬間こそ驚いていたもののその後は冷静に名簿と地図をチェックしていた――
 彼はショックを受けていないのか――いや、彼の性格を考えるならばショックを受けないわけがない――
 では、何故彼はその素振りを見せずにいるのだろうか?
 彼は何を考えているのだろうか――





 そしてその口がゆっくりと開かれる――





「バルディッシュ――確か君は僕から見て4年後の未来から連れて来られたんだよね――」
『Yes――』
「だったら――教えてくれないか――君の世界で起こった事を――」





 その声は――何処か淡々としていた――





 ここにいるユーノ・スクライアはバルディッシュのいた世界のユーノ・スクライアとは別人だ。
 但し、その差異はLの存在の有無と約4年の時間軸の違いぐらいだったが――

 ちなみに言えばその事自体はブレンヒルトと行動を共にしていた時点で把握していた。
 しかし、ユーノ自身は世界が違う事については別段気にしていなかった事もあり深く切り込んだりはしなかった――
 つまりユーノの世界から見て4年後に起こるであろう機動六課設立やJS事件に関して殆ど全て聞いていなかったのだ――

 情報が大きな武器になるのは無限書庫の司書長をしているユーノ自身がよく理解している。
 参加者の中に機動六課やJS事件の関係者が数多くいるならばその情報は得るべきなのは誰にだって理解出来る。
 仮にその情報を知っていればもっと違った推測だって出来た筈である――

 つまりここに至ってそれを知らない・知ろうとしなかった事は完全な悪手でしかない――

 そういう余力が無かった――いや、明日香との遭遇後、温泉で休息を長い間取っていたし、
 ブレンヒルトと行動を共にしていた間も休息していたのが多かった為、その時にバルディッシュから確認する事は出来たはずだ――

 何故、ユーノはその事を知ろうとしなかったのだろうか――?





「そのJS事件で僕は――なのはの――」
『Ms.なのはの?』
「――いや、何でもないよ――それにしてもあのティアナが機動六課に入っていたなんてね。そういえばなのはも彼女の事を気にしていたっけ――」
『意外ですね、Ms.チンクやMs.ルーテシアの事を知らなかった貴方がMs.ティアナの事は知っていたとは』
「ああ、話を聞いて思い出したよ――彼女、少し前に僕の世界で起こったある殺人事件で協力してくれたんだ――さてと」




 と、バルディッシュからJS事件に関する事を聞き終えたユーノは名簿を手に取り、





「バルディッシュ――今までの放送は全て覚えているね」
『Yes――』
「だったら――今から、僕は今も生き残っている参加者の名前を読み上げるから合っているか確認してくれる?
 アーカード、相川始、アレックス、アンジール・ヒューレー――」
 ユーノの口から現在も生存している参加者の名前が五十音順に次々読み上げられる――
「――ヒビノ・ミライに片方のはやて――そして僕の計19人――何処か間違っているかな?」
『――いえ、漏らしも間違いもありません。その19人で間違いありません』
「わかったよ」






『Mr.ユーノ――これからどうするつもりですか?』
 バルディッシュは地図を見ているユーノに問う。ユーノ自身の様子を見る限り基本的な方針は変わっていない事だけは間違いない。
 しかし、具体的な行動については全く不明瞭である。
「そうだね――実はまだ決めていない。僕が市街地に向かおうとしたのはルーテシアや明日香を止める為だったけど――」
『両名とも先の放送で呼ばれています』
「うん、残念だけど最早説得は不可能になった」
 ユーノが市街地に向かっていたのは一時期行動を共にしていたが殺し合いに乗り市街地に向かったであろう天上院明日香とルーテシア・アルピーノを説得する為である。
 しかし、先の放送で名前が呼ばれた以上、両名は死亡した事が確定した為それは不可能となった。

「だけど――実の所行動を決めかねている理由はそれだけじゃないんだ。
 僕がブレンヒルトに話した脱出の手段については覚えているね、
 でも、正直な所現状のままだと厳しいかもしれない。
 いや、当初のプランはほぼ潰れたと考えて良いと思う――」
 ユーノは眼鏡に手を当てながら口を開く――
「幾つか理由はあるよ――」

 ユーノがブレンヒルトに話した脱出のプランを簡単に振り返ろう。
 次元干渉型の結晶体であるジュエルシードの力を解放し意図的に次元震を引き起こしこのフィールドを覆う結界を破壊するというものだ。
 仮に破壊に失敗したとしてもその反応を時空管理局が捕捉する事によりデスゲームは破綻するという寸法だ。
 その一方で首輪解除の手段をLが模索するというプランだ。

「まず、当初必要だった仲間が既に死亡している事――」
 先のプランの問題点としてジュエルシードの力を制御出来るのかという問題がある。
 ユーノ自身も自分1人では難しいと考えており、補助系の魔法に長けているシャマルかザフィーラが必要だと考え合流を考えていた。
 しかし、2回目の放送でザフィーラ、先の放送でシャマルの名前が呼ばれた――彼等の力を借りる事は不可能となった。
 また、先の放送でLの死亡が伝えられている――故に、首輪解除をLに頼る事も出来なくなった。





『確かにMs.シャマル達の損失により難しくなりました――ですが、制御ならばMs.なのは達でも可能では――
 首輪の解除にしてもMr.ユーノの手元にも首輪がある以上、Mr.ユーノがそちらも進めていけば――』

「そうだね――
 実はさっき生存者を確認したのはジュエルシードの制御や首輪の解析が出来そうな人を割り出す為というのもあったんだ――
 でもね――僕が潰れたと考えている理由は他にもあるんだ――
 僕がこのプランをブレンヒルトに話した時――彼女が何て言ったか覚えているかい?」

 前述のプラン――ジュエルシードを利用する事を彼女に話した際、彼女は3つの問題を指摘していた。
 1つ――ゲームの盤台を崩しかねない物を主催者であるプレシアが支給するとは思えない問題
 2つ――ジュエルシードの解放して自分達は無事で済むのかという問題
 3つ――フィールドとは別に首輪をどうするのかという問題
 その内、一番最初の問題であるジュエルシードに関してはルーテシアに支給されている事実があった。
 故にユーノもブレンヒルトもそれ以上この問題については考えていなかったが――

「だけど――その前提が間違っていた可能性が高いんだ――」

 そもそもジュエルシードが支給されていた理由に際し、ユーノはこう考えていた。
 ジュエルシードを使えば高確率で暴走を引き起こし所持者はモンスターとなり――参加者間に戦闘を引き起こし殺し合いを促進させる――
 故に、ジュエルシードは複数支給されている可能性もあると――

 そして、その仮説が正しい事はユーノ自身が身を以て体験した――
 明日香がジュエルシードの力を使い夜天の書の力を解放したのを目の当たりにしたのだ――
 一見するとその仮説は正しいと誰もが考える――






『それの何処が間違っているのですか、Ms.明日香の力はMr.ユーノが身を以て体験した筈です』
「あれから今までずっと考えていたんだ、ジュエルシードの力は本当にあの程度なのかという事をね――
 そして気付いたんだ――あの程度がジュエルシードの全力じゃない事をね――」

 ユーノは語る――なのはとフェイトが出会う前、街に現れた巨大な大樹の怪物の話を――
 それはジュエルシードの力によって生み出された怪物――そしてそれを生み出したのは少年だったのだ――
 ジュエルシードは強い想いを持った者が願いを込めて発動させた時、一番強い力を発揮する――
 だが、生み出した少年はジュエルシードの事など何も知らない、発動させたとしてもその願いは恐らくささやかなものだっただろう――
 つまり――最初から強い願いを込めて意図的に発動させたならば、当時のなのはでは対処しきれない程の怪物になっていた可能性はあったという事だ――

 ここで明日香がジュエルシードの力を引き出した時の事を思い出して欲しい。
 明日香は既にジュエルシードがどういう物かについて大まかに説明を受けていた。
 彼女がそれを発動したのは強い衝動に押されてというのもあっただろうが、おおむね意図的と考えて良い――

『今更な話ですが彼女は何故ジュエルシードを発動したのでしょうか――?』
「それについてはある程度推測出来るよ――そう、僕が刺されてから彼女がどうしていたのかを含めてね――」

 ルーテシアがユーノを刺した時、明日香はその場所にいた――
 突然のルーテシアの凶行を目の当たりにし、一般人である明日香が恐怖を感じるのは想像に難くない――
 あの現場を見れば大抵は『ルーテシアがユーノを刺殺し、次は自分を襲う』と考えるだろう――
 故に明日香はその場から逃げ出した――

「その時にルーテシアの持っていたデイパックを持ち去った。いや、奪ったんだろうね――」
『成る程、そのデイパックの中にジュエルシードと夜天の書が入っていたと――』
「ルーテシアに持たせた筈のそれを明日香が持っていたからそれはほぼ間違いないよ」
『すみませんMr.ユーノ、あの現場を見ていた筈でしたがその事に気付けませんでした――』
「仕方ないよ、事態が事態だったからね」

 そして逃げ出した明日香はどのルートを通ったのかこそ不明だが十中八九海鳴温泉にたどり着き暫しその場所で身を休めていたのだろう。
 だが、彼女の心中にはルーテシアに対する恐怖が強く刻み込まれた可能性が高い。
 そして、次に襲われた時に対処する為にジュエルシードをと夜天の書を使おうかと考えていたのだろう――

『しかし、Mr.ユーノが襲われてから彼女との再会まで6時間あった筈――
 何故、彼女はそれまでジュエルシードを使わなかったのでしょうか?』
「それは勿論、その危険性を理解していたからだよ。それについてはしっかり説明しておいたからね――
 でも、ある2つの出来事が彼女のタガを外してしまい――衝動的に発動させてしまった――
 1つが死んだはずの僕が姿を現した事――」

 仮に目の前に死んだはずの人間が現れたらどう思うだろうか――
 子供染みた理論ではあるが、恐らく死者の国へ連れて行くと考えてもおかしくはない――
 つまり、自分を殺す為に現れたのだろうと――恐怖が刻み込まれている彼女がそれを考えてもおかしくはない――
 故に、自らの身を守る為に――

『ですが放送さえ聞けばMr.ユーノの生存は確認出来る筈では?』
「簡単な事だよ、既に明日香の中では僕の名前が呼ばれるのが確定していた――
 そして、その部分を聞き逃していたとしたら――僕の名前は呼ばれたものとして補完する筈――」
『その可能性はありますが彼女は大事な放送を聞き逃す様な人物なのでしょうか?』
「行動を共にしていたのは短い間だけど、少なくとも彼女はそんな不用意な人間じゃない。
 頭に入らなかったんだ――多分、その前後で彼女の大切な人物の名前が呼ばれたんだと思う。
 その時の放送で順番的に僕のすぐ近くになるのは遊城十代――恐らく彼の死のショックでその前後が頭に入らなかったんだ――
 同時にそれがもう1つの理由――」

 大切な仲間である十代の死亡、その直後で死亡したはずのユーノとの遭遇――
 それでなくても強い恐慌状態に陥っていた彼女に冷静な判断を求める事は不可能――
 理性や良心は完全に駆逐され、恐怖を振り払う為に触れてはならない領域に足を踏み入れてしまったのだろう――
 その願いは自分を傷付ける物を全て駆逐する――その為の力を手に入れる事――






『成る程――それで、結局の所Ms.明日香の状態の何が問題なんですか? あの力はほぼ確実にジュエルシードによるもの――十分に実証されている筈では――』
「――本当にそう考えているのかい? もし、彼女が本当にルーテシア達を殺す為の力を欲してジュエルシードを発動させたならば――
 あの時の大樹以上の怪物が生み出されないとおかしい筈なんだ――」

 ユーノの推測が正しいならばその時の明日香の願いはあの時の少年の比では無いのは明白――
 あの時の規模は海鳴市を覆うものであった――それを踏まえるならば制限の存在を加味したとしても――

 発動したその力によってあの一帯は完全に崩壊していなければおかしい事になる――

 だが、現実として強い力とはいえ常人の手に負える範囲でしか力は発動していなかった――
 確かにB-7の中央部を崩壊させたが同じB-7にある海鳴温泉にはその力は届かず無事そのもの――
 それが意味する事は――

「恐らく支給されているジュエルシードには何かしらの細工が施されている、
 その出力は本来より大幅に抑えられていると考えて間違いないよ――」
『成る程、つまり意図的にジュエルシードを発動させたとしてもフィールドを破壊する事は無いという事ですか』
「うん、まさしくブレンヒルトが口にした通りだったんだ――プレシアが何の対策も無しにジュエルシードを支給する筈がないってね――
 僕達はそれにもっと早く気付くべきだったんだ――」
『もっと早く気付けた筈という言い方ですね――』
「そもそもジュエルシードは誰に支給されていたのか――そしてその人物の近くに誰がいたのか――」

 ジュエルシードは誰に支給されていたのか、その人物はルーテシアだ――
 同時にその近くにはジュエルシードについて熟知しているユーノがいた――夜天の書を支給された上でだ。

『偶然じゃないでしょうか?』
「さっきも聞いたけど、ルーテシアは母親を目覚めさせる為にスカリエッティに協力していたんだよね?」
『ええ、ですがJS事件は既に解――』
「僕と同じ――例えばJS事件解決前に連れて来られていたとしたら――」

 ルーテシアがJS事件前から連れて来られている場合、彼女はどのように行動するだろうか?
 恐らく母親を目覚めさせる為に行動を起こす。
 最初の放送で伝えられた優勝者への御褒美、それを聞いた瞬間どう考えるだろうか?
 優勝さえすれば母親を目覚めさせる事が出来るのではないかと考えるだろう。
 ルーテシアがユーノを刺したのは放送直後、タイミング的に合致する――

 つまり、遅くても最初の放送が終わった時点でルーテシアが殺し合いに乗る事は確定事項だったのだ。
 そして、ルーテシアにジュエルシードと夜天の書を使わせ参加者を皆殺しにさせる算段だった可能性が高い――

 筋書きとしてはこうだ――
 ルーテシアとユーノを何とかして出会わせ彼女の近くにジュエルシードと夜天の書があるという状況を作り出す。
 勿論、スタート地点を近くにするだけでは不完全、しかしある一計を案じる事でで高確率で出会う状況を作り出した。
 それはルーテシアのスタート地点を川の上にする事、これによりルーテシアはスタート早々川に落ちる事になる。
 その後近くにいたユーノを駆けつけさせ彼女を保護させるという流れだ。
 2人は予定通りに互いに情報交換及び支給品の確認も行う――この時、ユーノにジュエルシードと夜天の書について説明させる事も予定通り。
 そして、ルーテシアが殺し合いに乗ったタイミングで彼女にユーノを殺させ、2人分の支給品を全て総取りさせ――
 後はジュエルシードの力で夜天の書を使い全ての参加者を一網打尽にさせると――

『確かにその仮説はあり得ますが、それならば最初から彼女に夜天の書とジュエルシードの両方を支給させれば良かったのでは?』
「駄目なんだ――最初から両方を支給するぐらいに優遇したら流石に気付かれる可能性が出てくる。
 だからといって、近くに僕がいなければ夜天の書とジュエルシードの情報を得る事は出来ない。
 だからこそ、ジュエルシードをルーテシアに、夜天の書を僕に支給したと思う」
『そう簡単に上手くいくでしょうか? 実際それらはMs.明日香の手に渡ったわけですし――』

 バルディッシュの指摘はもっともである。ルーテシアが殺し合いに乗るタイミングは最初の放送の後、
 つまり、その瞬間までルーテシアが無事でいなければ策は成り立たない。
 だが、ユーノに言わせればそれは大きな問題ではない――
 仮にルーテシアが最初の放送の前に退場したとしても、その場合は高確率でユーノも退場している。
 つまり、その下手人の手に夜天の書とジュエルシードが渡る可能性が高いという事だ。下手人がその力を発動すれば何の問題もない。
 同じ理由で明日香の手に渡る事も想定済みだったのだろう。その2つのロストロギアを手にした者がその力を発動すれば良いわけだから――
 また、これらの事が想定外の事態により起こらなくても別段問題はない。何しろ、これは殺し合いを促進させる為の策の1つでしかない。
 1つ策が潰れた程度で状況が大きく変わる程、脆弱な構造にはなっていないという事だ――

「前置きが長くなったね――
 僕が言いたいのは要するに最初からルーテシアにジュエルシードと夜天の書を組み合わせて使わせるつもりだったって事――」
『そんな事をすれば、Ms.明日香の時以上の事が起こりますね』
「当然プレシアがそれに対する対策を怠るわけがない、そうさせる様し向けているから当然の事――
 そう、これはもっと早く僕がルーテシアがどういう人物かがわかっていればわかった事だったんだ――」
『しかしMr.ユーノが連れて来られたタイミングはJS事件より前――わからなくても仕方が――』
「でも、JS事件の事を知っているバルディッシュと合流したのは半日も前の事だ――
 その時にちゃんと僕が知ろうとすればもっと早く――ブレンヒルトが生きている時に自分のプランの欠陥に気付けた筈だったんだ――」



 悪いのは自分――ユーノの言動からそう言っている様に感じ取れた――





『仮にジュエルシードや夜天の書に細工が施されていたとしても、その細工を処理すれば可能では無いでしょうか――』
「細工を処理――いや、それはそれで危険――まあいいや、確かにそうかも知れないけど――
 実はもう1つあるんだ、それでもこのプランでは難しいという理由がね――」
 そう言いながらユーノは周囲を見渡す――
『周囲に人の反応はありませんが――』
「空を見て――」
 空を見上げるとそこは雲一つ無く、日が沈んだ事もあり星が瞬いている――そして東側を見ると赤みのかかった満月が浮かび上がっている――
『この空がどうかしましたか?』
「18時間以上経ってもずっと晴れ渡り雲一つ見えない空――
 ミッドチルダでも地球でも見た事の無い星の形――
 そして、1日経過しても欠ける事のない月――
 そのどれをとっても現実的には有り得ない現象――
 それだけじゃない――
 あるラインを越えたら反対側にループする不可思議な現象――
 魔法の発動を阻害する何かの存在――
 6年前と殆ど同じだった海鳴温泉――
 更に翠屋や地上本部、機動六課隊舎といった施設の配置――
 つまり――この空間は何から何まで異常だということさ――」
『異常――確かにそれは感じていましたが――』
「それ自体は僕も最初に気付いてはいたよ――恐らくプレシアがこのデスゲームを行う為に作り出した空間と考えて良いと思う――」
 ユーノが口にするのはこの空間の異常性――
 制限やループの発生は言うに及ばず、永久に晴れ続ける空や未知の夜空に欠ける事のない月、そして自分達の知る施設の存在――
 何れも現実的には有り得ない事だ――
 これについてユーノは超巨大な結界を構築した上でその中に擬似的な戦闘フィールドを構築したのだと考えたのだ――
 なお、これ自体は最初からある程度推測出来ていた事ではある――
『その空間を破壊する為にジュエルシードを使う――という話だったのでは?』
「その前に――これだけの結界を構築するのにどれぐらいの手間と魔力が必要かわかるかい?」
『シミュレータだとしても相当な労力が必要です――もしこれが現実に行われているならば――その労力は想像を絶すると考えて良いでしょうね――』
「そう、これをプレシア1人で行うのは非現実的過ぎる。協力者自体はいるみたいだけど――」
 勿論、先の放送を担当したのがスカリエッティの戦闘機人の1人オットーという時点で何れかの平行世界のスカリエッティ達が協力している事は推測出来る――しかし、
『この規模ならば何処かの世界のスカリエッティとその仲間達が協力しても難しい――』
「それに、プレシアクラスの魔導師が何人か集まっても難しいと思う――」
『プレシアクラスの魔導師、それを何人も集めるのも至難――』
「つまり――この空間を作り出しているのはプレシア達の構築した『装置』だと思う――」
 ユーノの推測――それはこの空間を作り上げているのはプレシア及びその仲間達が用意した『装置』によるものだと考えたのだ。
 『装置』さえ上手く機能すれば後は『装置』が正常に働く様に監視を怠らなければ最小限の労力で済むという事だ――
『しかしその『装置』があるとしても大規模である事は確実――そんな『装置』を用意する事は可能なんでしょうか?』
「うん、ロストロギア級の道具を幾つか用意――いや、それ自体は恐らく僕達の知る物でも十分構築は可能だよ――」
『我々の知る物――それはもしや――』

「バルディッシュの想像通りだよ――夜天の書とジュエルシード――その2つ、もしくは準じるものがあればこの舞台を作り出す事は可能――」

 夜天の書は一時期数多の世界を滅ぼした『闇の書』と呼ばれる非常に危険なロストロギアであった――
 だが、その本質自体は魔導師の技術を蒐集し研究を行う為に作られた収拾蓄積型の巨大ストレージデバイスでしかない――
 『闇の書』へと変貌したのも結局の所、元々あった機能が変化したものでしかない――
 故に――夜天の書を端的に言えば最高級のストレージデバイスよりも数十段優秀なストレージデバイスと考えて良い事になる――
 ストレージデバイスはバルディッシュ等に代表されるインテリジェントデバイスと違い自らの意志を持たないデバイスだ――
 自らの意志を持たないとはいえストレージデバイスがインテリジェントデバイスより劣るという事ではない――
 勿論デバイス自体がサポートする事が無い為、魔法の発動の全てを使い手自身が決定しなければならないという弱点はある――
 反面人工知能を搭載していない事から、その分処理速度は数段速い――
 つまり――優秀な使い手ならば高速かつ確実に魔法を発動出来る――条件さえ揃えばインテリジェントデバイス使い以上と言っても良いだろう――
 勿論、人工知能を搭載しない為術者の成長による能力向上はあっても、元々の性能以上の力を引き出す事は出来ないという弱点はあるが――
 要するに――優秀なストレージデバイスの演算能力は非常に高いという事だ――

 ジュエルシードは前述の通り通り次元干渉型エネルギー結晶体である。
 暴走した場合は周囲の動植物を取り込み大惨事を引き起こす事は言うに及ばず、単体でも次元震を引き起こす程の非常に危険なロストロギアだ。
 何しろ、1個の全威力の何万分の1の力程度で小規模次元震を引き起こすのだ。そのフルパワーがどれぐらいなのかは想像を絶するものなのは理解できるだろう。
 だが、扱いこそ非常に危険ではあったがその本質は莫大なエネルギーを有する結晶体でしかない。例えて言えば米粒大で1年分のエネルギーをまかなえる夢の超物質的な物という事だ。
 つまり――ジュエルシードも暴走さえ起きなければ只の魔力タンクでしか無いという事だ――

 では、夜天の書とジュエルシードでどのようにしてフィールドを作り出すのだろうか?
 まず、フィールドを作り出す魔法の術式そのものはプレシアが予め用意したものと考えて良いだろう。
 仮にアルハザードに到達しその地の技術を手に入れたならば、必要な術式を組み上げる事はそれ程難しくはないだろう――
 問題となるのは維持と制御を行う為の手段とそれらに必要な莫大な魔力エネルギーだが――
 いかにプレシアが優秀な魔導師であっても単独でそれを賄うのは不可能ではあったし、プレシアクラスの魔導師が何十人いても難しい事に違いはないだろう。
 そう――その為に夜天の書とジュエルシードを利用したという事だ――
 夜天の書を維持と制御を行う為の装置代わりにし――
 ジュエルシードをフィールドを維持し続けるだけの魔力の供給源として――

『プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は9個、それだけあれば――』
「違うよバルディッシュ――見落としていないかい、彼女は異なる平行世界を行き来出来る事を――
 プレシアがその気になれば無数の平行世界から好きなだけジュエルシードを集める事が出来る筈――
 100個でも1000個でもね――
 勿論、これは極端な話――でもね、プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は多めに考えておいた方が良い――
 ここまで言えば何故僕の言ったプランが使えないのかわかるよね?」
『ジュエルシード1個や2個程度の魔力の総量ではエネルギーが足りない、そういう事ですね』
「そう、残念だけどこれは完全に僕の見極めが甘すぎたと言わざるを得ない――
 いや、本当はブレンヒルトに指摘された時点で気付くべきだったんだ――」

『そんなゲームの盤台をひっくり返すようなものを、
 あの腹黒そうなオバサンが私たちに支給するとは思えないわ。』

 ――あの時ブレンヒルトはこう言っていた――だが、ユーノは実際に支給されたという事実だけでその指摘を遮った――
 そして、ルーテシアを説得しジュエルシードさえ取り戻せればそれで何とかなると考えていた――
 だが、それがそもそもの間違いだったのだ――
 支給されるはずのない物が支給される理由、それを考えなければならなかったのだ――
 そう、ジュエルシードと夜天の書だけでは不可能――その結論にもっと早く気付かなければならなかったのだ――

 勿論、ジュエルシードと夜天の書の力でフィールドが構築されているのはユーノの推測でしかない。全く別のロストロギアを使っている可能性は大いにありうる――
 だが、如何なる方法であったとしても結論そのものは変わらない――
 手段そのものはジュエルシードと夜天の書を使ったものに置き換える事が出来る――
 ジュエルシード1個や2個分のエネルギー総量では足りないという結論に変わりはないのだ――





『ですがそれだけの大規模魔術であれば管理局が察知すると思いますが?』

 確かにこのフィールドに関し、内部からの破壊は現状困難だと考えて良い。
 しかし外部からはどうなのだろうか? あれだけの大規模魔術であれば管理局がその反応を捉える可能性が出てくる。
 フィールド構築に必要な魔力が大きくなれば大きくなる程比例して察知される可能性が高くなるのは誰でも理解出来る。
 勿論、それをカムフラージュする為の結界は当然施しているだろう。
 だが、膨大な魔力を隠す為に膨大な魔力を消費する――ある意味本末転倒だ、隠すのにも限界が出てくるのは明白――
 管理局に察知される事に関する対策は考えていないのだろうか?

「察知される事も織り込み済みだとしたら?」
『どういう意味です?』
「これだけの規模を探知したとして――すぐに管理局が駆けつける事が出来ると思うかい?」

 管理局が異常を察知した場合どのように動くだろうか――
 まずはその反応を確かめ規模を確かめる――
 そしてその規模に応じて部隊を編成し鎮圧に向かう――
 だが、あれだけの膨大な力を発するロストロギアの反応場所を鎮圧する為に必要な戦力を集めるのには時間が掛かるだろう――
 勿論、火急であれば時間は短縮出来るだろう――
 しかし膨大な力の反応だけではそこまで迅速には動けない――慎重に行動する可能性が高く、実際に介入するまでには大分時間がかかるだろう――
 当然の事だが、生半可な戦力では返り討ちに遭う。戦力の無駄が出来ない以上、確実に鎮圧する為に時間を掛けてでも戦力を集める筈だ――

「察知したタイミング次第だけど――急いで鎮圧できるほどの戦力を確保出来ても――実際に介入するのは2,3日ぐらい先だと思う――」
『察知されない様にカムフラージュし、同時にその場所が介入しにくい場所にあるならば実際に踏み込むのはそれだけ遅れると――』
「つまり――結局の所、その間で全ての決着を着ければ何の問題もないんだ。
 これまで3回の放送があったけど、何れもデスゲームに貢献した参加者には御褒美の話が出ていたよね」

 前述の通り、最初の放送では優勝者への御褒美を、
 2回目の放送ではキルスコアを上げた参加者に対するボーナスの検討の話を、
 そして先の放送ではこの後キルスコアを伸ばした参加者には追加支給品を与えるという話を、
 何れにしても殺し合いを促進させるものであるのは誰の目にも理解出来るだろう――
 だが、何故ここまで殺し合いを促進させる必要があるのだろうか?
 禁止エリアのルール等だけでも十分デスゲームを行う事が出来、遅くても6日目には決着が着く。
 しかし、促進させるという事はそれだけでは遅すぎるという事を意味する――
 つまり――

「最初からこのデスゲームにはタイムリミットがあったんだ。
 管理局が介入してくるタイミングまでに全ての決着を着ける――
 そして、フィールドを覆う結界もその期間だけ維持出来れば十分だって事――
 その時間は管理局の動きや現状までの死亡者の数を踏まえて考え――
 約48時間――それがこのデスゲームの制限時間――」
『管理局が駆けつけるまでの時間としてはあまりにも短すぎます――それで、その制限時間を超過した場合はどうなりますか?』
「それに関してはまだわからない――フィールドを覆う結界魔法が解除される可能性は高いだろうけど――
 その内部にいる僕達が無事である保証は無い――」
『しかし、デスゲームが失敗した場合、プレシアはどうするでしょうか?』
「平行世界を渡る術を得ているのならば必要な道具だけを持って逃げれば済む話だね。
 そして条件を少しだけ変えて全く同じデスゲームを行う――
 でも、この可能性は低いと思う――」

 ユーノはプレシアが失敗した際にデスゲームをやり直す可能性は0ではないが低いと考えていた。
 確かに平行世界を行き来する術が無い限りプレシアを追う事は不可能だ。
 だが、このデスゲームを行う為に恐らくプレシアは数え切れないくらい数多くの平行世界に干渉をかけただろう――
 幾ら現状の時空管理局に平行世界を行き来する術を持っていなくてもそれだけ干渉をかければ何れは平行世界を行き来する者が現れる可能性が出てくる。
 そしてひと度その者が現れれば他の世界にもその手段が伝えられる――それにより管理局もその手段を手に入れるだろう――
 いや、今この瞬間にもその手段を得た者がプレシアを追っている可能性がある――
 今回は大丈夫であっても繰り返す内にリスクは大幅に高まるという事だ――

 故に――プレシアにとっては是が非でも今回でデスゲームを成功させに行く筈なのだ――
 プレシアがその対策を行っている可能性はある――が、仮にそうだとしてもリスクを最小限に抑える為に今回で決着を着けようとする事に変わりはないだろう――

「だから、やり直しが出来るとしてもプレシアは絶対に今回のデスゲームを成功させようと動く筈だ――
 そして、僕達にとっても今回だけがチャンスなんだ――
 プレシアは馬鹿じゃない――次行う時にリスクが大きいとわかっているならば、次は絶対に失敗しない様に今回以上に厳重な対策を施すはず――
 それこそ今度こそ止める事は不可能なぐらいにね――その為に、きっとまた多くの人を犠牲にする筈だ――
 それを止める為には――今回プレシアを止めなきゃならないんだ――僕が――





 僕が――止めなきゃならないんだ――」



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