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Aの残光/強襲ソルジャー ◆gFOqjEuBs6




 この短時間の内に、彼はヴィヴィオに会って、帰って来た。
 天道が齎したその情報は、なのはにとっては重要な意味を持っていた。
 何せこの半日以上、片時も忘れはしなかった大切な一人娘に会って来たと言うのだ。
 そんな一大ニュースを聞いて、なのはが慌てない筈は無かった。

「あ、会ったって……!? 何処で!? ヴィヴィオは無事なんですか!?」
「ああ、とりあえずは無事だ」
「とりあえずって……!」

 天道は飄々とした態度を崩さない。
 しかし、それは逆になのはを安心させる事となった。
 これ程までに落ち着き払っているからには、ヴィヴィオの身は安全なのだろう。
 冷静極まりない天道の視線に見据えられて、なのはも黙らざるを得なくなった。

「――すみません……少し、取り乱してました」
「無理もない、気にするな」
「それで……天道さんは、今まで何処で、何をしていたんですか?」

 まずはそこから話を聞かなくてはならない。
 それから天道が話してくれた話は、先程商店街で大混乱を招いたカードデッキに深く関わる話だった。
 コップの水面から、ミラーモンスターに引きずり込まれたのはなのはも既知の事。
 会場中から集められ、ミラーワールドに集められた参加者は、主犯者も含めて十数人居たと言う。
 そして、肝心の主犯者というのが、先程も話した浅倉威という男。根っからの危険人物らしい。
 浅倉はプレシアが最初に行った見せしめと同じ要領で、二人の若い男女の命を簡単に奪った。
 それを受けてか、集められた参加者のほぼ全員が殺し合いに乗り、戦いを始めたと言うのだ。
 そんな中、天道は自分のライダーシステムであるカブトの奪還に成功。
 カブトとして、戦いに乗った他のライダーと戦おうとした、その時。
 乱入して来たのは、金髪をサイドポニーに束ねた、オッドアイの少女。
 それを聞いた時点で、なのはには大方の予想が出来ていた。
 天道は対話を試みたらしいが、金髪の少女――ヴィヴィオは一向に応じなかった。
 というよりも、ヴィヴィオには言葉すら通用しなかったらしい。
 ただただ“なのはママを傷つけた者を殺す”事だけを戦いの理由にしていたのだ。
 結局何の進展も得られず、突如現れた不死鳥によって自分は元の場所へと連れ戻された。
 それが天道の身に起こった全てであった。

「ミラーワールドの中で、そんな事が……ヴィヴィオ、またあの姿になっちゃったんだ……」
「また……だと?」
「あ、はい……」
「なら今度はこっちから質問だ。幼い子供の筈のヴィヴィオが、何故大人になって戦っていた?」
「それは……」

 今度は、天道からの質問だった。
 ここまで情報を教えてくれた天道に、何も教えない訳には行かない。
 天道のお陰でヴィヴィオの安否も確認出来た事だし、何よりも自分の娘が天道に迷惑を掛けたのだ。
 故に、ヴィヴィオの身に起こった事情を秘匿する理由などは皆無。
 だからなのはは、重い口を開いて説明を始めた。

 そんな二人の耳朶を第三回目の放送の音が叩いたのは、話し始めてから暫く経ってからの事だった。




 ソルジャーの持てる全力。
 それは並みの参加者のそれとは比べ物にすらならない、比類なき力。
 体力面に於いても、持久力に於いても。
 あらゆる面に於いて、ソルジャーは優れている。
 それら全てを出し尽くして、市街地を掛ける。
 目的は、只一つ。

「何処だ……チンク! クアットロ!」

 守るべき、大切な家族を保護する為。
 その為に、戦士は駆ける。




 現在位置は、差し込む光も薄れ始めた、薄暗い喫茶店――翠屋。
 今現在彼女を照らす光源は、傾き始めた太陽による僅かな光のみだった。
 誰も居ない喫茶店。横たわる首無しの惨殺死体。垂れ流しになった体液に、立ち込める異臭。
 そんな場所にたった一人佇む彼女の姿は、ともすれば“異様”とも取れるものだった。

(これでよし……と)

 片手にはキッチンから持ち出した大きめの出刃包丁。
 片手には目の前に転がる死体から剥ぎ取った首輪が一つ。
 首輪の裏には、「シャマル」という名前が刻まれていた。
 クアットロがこの翠屋に訪れたのは、これで二度目になる。
 一度目は、八神はやてとシャマルと共に。
 二度目は、死んでしまったシャマルの首輪を回収する為に。

(想像はしていましたけど、やはり死体から外しただけでは首輪は爆発しない、と……)

 心の中で呟きながら、首輪を無事回収出来た事に安堵。
 死体から首輪を外しても爆発しない――これに当たって、考えられる理由は二つ。
 一つは、首輪自身に装着者の生死を認識する能力がある、という可能性。
 一つは、主催側が常に見張っていて、危険と思った時点で爆発する、という可能性。
 何とかして解除するのであれば、機械的な前者の方が都合がいいが。

(……ま、これに関しては、もう少し下調べが必要ですわね)

 何の情報も持たない今、これについて思考しても進展は無い。
 状況を進展させる為には、首輪を解析するだけの設備が整った施設へ向かう必要がある。
 そして、首輪を解析する事が可能なラボとして思い当たるのは、二つ。
 片方は、自分達ナンバーズを生み出したスカリエッティのアジト。
 もう一つは、仮面ライダーを生み出したスマートブレイン本社ビル。
 この二つの施設ならば、首輪を解析するくらいの設備は整っているだろう。

(最も、プレシアが何も対策を講じて居ないとは考えにくいですけど)

 もしも自分が主催側であれば、首輪を解除させるだけの施設なんて態々設置してやる程優しくは無い。
 仮に解除できたとしても、先程考えた通り、会場毎捨てられてしまえばそれでお終いだ。
 故に、迂闊に首輪を解除する様な馬鹿を野放しにする訳には行かない。
 そんな馬鹿は始末するなり自分の管理下に置くなりする必要性がある。
 そして、管理した上で必要となるのが、確実に勝利を収めるだけの戦力と、確実に首輪を解除する為の頭脳。
 後者については他ならぬ自分自身の存在を勘定に入れれば、頭脳としては既に大きな戦力を持っている事になる。
 それらを揃えて、失敗が許されない完璧なタイミングで首輪を解除しなければならないのだ。
 状況は、当初クアットロが想像していた以上に不利。

(不本意ですけど、このゲームからの脱出はもう、私個人の問題では無いという事ですね)

 自分一人ではどうしようもない。
 かといって、自分を警戒している参加者だって多いであろうこの状況下で、下手な演技は逆効果。
 これはあの無能な夜天の主の例から考えても、既に実証された事実だ。
 出来もしない演技に掛けて、窮地に立たされるのは御免被りたい。
 不本意この上無い事だが、ゲームから脱出するまでは、小競り合いをしている場合では無いのだ。
 管理局員や他の世界の勢力と手を組んででも、確実にこのゲームから脱出したいところだ。

(まず、アンジール様は何としてでも味方に付けるとして……でもでも、もうゲーム開始から随分と時間も経ってますしぃ……
 純粋な対主催勢力ってあとどのくらい居るんでしょう……下手をすれば、もう皆死んでしまったって可能性も……)

 無きにしもあらずだった。
 そもそも、殺し合いに乗らず、皆と一緒に戦う……なんて甘ちゃんはこのゲームでは生き残れない。
 シャマルだってそうだ。その甘さ故に、信じて居た主からボロ雑巾の様に捨てられ、死んでいった。
 生き残っているとしたら、純粋にゲームに乗った参加者と、戦えるだけの力を持った対主催勢力のみ。
 現在誰が生き残っているのか、性格な情報が欲しい。
 その為には、6時から始まる放送を確実に聞きたい所だが――

 『こんばんは。
 これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います。 』

 おりしも、放送が始まった。
 まずはこの放送を聞いて、残った戦力について考える必要がある。
 ――のだが、それ以前に引っ掛かる事が一つあった。

(え……この声って、まさか……というかやはり……)

 一応、考えてはいた。
 もしかすれば、自分達の創造主であるジェイル・スカリエッティも関わって居るのではないかと。
 クアットロが尊敬する数少ない人物の一人――スカリエッティならばやりかねない、と
 例え自分の手駒だとしても、他の平行世界に存在するクアットロならば容赦なく斬り捨てるだろう。
 そして、淡々と放送を読み上げる声の主は、まさしくスカリエッティの手駒の一人であった。




 まるで早送りの映像でも見ているかのように、街の景色は流れて行く。
 それも全ては、アンジールの人並み外れた走力が成せる業だった。
 アンジールはまだ知らない。
 守るべき、家族の死を。
 斃すべき、友の死を。

「放送――もう6時かッ!」

 耳朶を打ったのは、6時間毎の定時放送。
 自分の周囲で起きている事実など知る訳も無く。
 何も知らないアンジールへと、残酷な運命は付き付けられた。




 6時の放送が終わってから、経過した時間は既に一時間弱。
 たった二人しかいない事務所は今、深い悲しみに包まれていた。
 悲しみの原因は最早語るまでも無く、先程行われた放送だ。

 先程まで共に行動していたペンウッドとC.C.は死んだ。
 誤解を解かねばならない筈だった騎士、ゼストも死んだ。
 大切な教え子であるキャロも、まだ幼いルーテシアも死んだ。
 10年間という長い時間を共に過ごしてきたシャマルも、フェイトも死んだ。
 亡くなってしまった命はもう戻っては来ない。
 皆なのはにとっては大切な人間だった。
 いくら精神が強いとは言え、それに耐えて平静を保てる程、なのはの精神は頑丈では無かった。 
 そして、それが解っているからこそ、天道も下手に声を掛けはしなかった。
 天道にしても、守るべき命を19人も殺されて、全く意気消沈していないと言えば嘘になる。
 例え見ず知らずの人間であっても、罪の無い人が死んで行くのは天道の意思に反する。
 ここまでの自分は、余りに無力過ぎた。
 自分がもっとまともに戦えて居れば、救えた命もあった筈なのだ。 
 デスゲームが始まってからの戦いを振り返れば、そう思うのも仕方が無い。

(それにしても……ヴィヴィオ、か)

 不意に、思い出す。
 今回の放送では、その名が呼ばれる事は無かった。
 戦闘の意思を見せなかったとは言え、カブト相手にあれだけの戦闘力を発揮したのだ。
 そう簡単に他の参加者に殺されてしまう心配は無いだろう。
 というよりも、逆に他の参加者を殺してしまうのではないかと言う懸念すらある。

(そうなる前に、ヴィヴィオを止めたいが)

 ヴィヴィオに関する話は、大体高町なのはから聞いている。
 なのはが初めてヴィヴィオに出会ってから現在に至るまで、あらゆる話を、だ。
 始めは本当に甘えん坊で、一度なのはから離れるとなれば、大泣きは避けられなかった事。
 その度に宥めるのが大変で、それでもなのははヴィヴィオの仮初の母親として接した事。
 やがて正式になのはがヴィヴィオを引き取る事が決まって、晴れて本当の母親になれた事。
 これから本当の家族としての時間を一緒に過ごして行こうと、この親子の未来は輝いていた事。
 それらの話を天道に聞かせる時、なのはは何時になく饒舌で、楽しそうな顔をしていた。
 そんななのはの顔を見れば、どんな思いで母親としてヴィヴィオを世話していたのか等、すぐに解った。

 天道から言わせれば、高町なのはという人間は、間違いなくヴィヴィオの母親だ。
 この親子の間に、血の繋がりだ聖王のクローンだなんて事は一切関係無い。
 揺るぎ無い絆で結ばれた二人は、誰が何と言おうと間違いなく家族なのだ。
 だからこそ、それは天道に決意をさせる十分な理由となり得た。

(もう一度、高町が楽しそうに笑う顔が見たくなった)

 絶対に、もう一度ヴィヴィオとなのはを再会させる。
 そして皆で揃ってプレシアを打破し、このゲームから脱出する。
 その時にはきっと、なのはは再び笑顔を取り戻してくれるだろう。
 彼女ならば、多くの仲間を失ってしまった悲しみを乗り越えられる筈だと、信じて居る。
 だから、もうこれ以上は誰も死なせない。
 生き残った全員の命を救った上で、何としてもこの親子を守り抜いて見せる。
 それが、天道の決めた新たな方針だった。




 守る為に、殺す。
 大切な者を守る為なら、それ以外の命など取るに足らない。
 かつてのアンジールならば、そんな考えは持たなかっただろう。
 だが今は違う。違ってしまった。
 守るべき者を知った時、人は変わるのだ。

「また俺は、守れなかったのか」

 そして、守るべき者まで失ってしまったと知った時――




 既に日が落ちた市街地を進む影があった。
 否、それは正確には影と言える物では無い。
 他者からすれば、影すら見えない不可視の物質。
 戦闘機人ナンバーズが4番目――クアットロ。

(頼もしいのはいいんですけど……少し速すぎじゃありません事?)

 クアットロは、心中で思う。
 先程翠屋の中で、自分は確かに見た。
 偽りの兄妹、戦闘機人・アンジールの姿を。
 その桁違いの走力で、市街地を駆け抜けて行く勇姿を。
 戦闘能力はセフィロスにも追随するトップクラス。
 走力・体力・持久力。共に化け物染みたレベル。
 頼もしいったりゃありゃしない。
 ――追い付くことが出来れば、の話だが。

(もう、一体全体この数分間でどれだけ先へ行ったって言いますの……!?)

 事実としてクアットロは、アンジールに追い付けずに居た。
 そもそも前線に出る事のないクアットロが、クラス1stの走力に追い付く事自体が難しい事なのだが。
 それでも、折角見付けた千載一遇のチャンス。
 みすみす逃すわけにはいかない。

(そう……セフィロスは死んだ様ですけど、まだ他の脅威が残っている事に変わりはありませんから)

 セフィロスクラスに対応出来るだけの戦力を味方に付けて置くに越したことは無い。
 あれだけの戦力を持った者が味方に居れば、それだけで戦略の幅は広がるのだ。
 故に、何としてもアンジールを見逃す訳には行かないのだ。
 何としてもアンジールを取り込まねばならない。

(それにしても……はやてさんは一体どんな手を使ったんでしょう。
 まさかあの状況から、セフィロスだけを殺して生き残るなんて……)

 クアットロの知る限り、八神はやては何の道具も持ち合わせては居なかった。
 だとすれば、考えられる方法は絞られてくる。
 他の参加者と合流して助けて貰ったか、何らかの方法で油断させて不意を打ったか。
 まぁ、普通に考えたら前者の方がよっぽど現実的だが。

(だとすれば、少々やっかいですわねぇ)

 はやてには少々、余計な事を言い過ぎた。
 自分の悪行を広められてしまっては、余計に動きにくくなると言う物。

 ――否、自分はあの無能な部隊長と違って、まだ人殺しをしてはいない。
 どうせ最初から自分は警戒されているのだ。素直に信じてくれる御人好しなんてそうは居ないだろう。
 それなら、まだいくらでもやり様はある。
 何せ端から日和見に傾く腹積りだったのだ。
 都合の悪い事は、「様子見の為の嘘でした、ごめんなさい。もう嘘は付きません」とでも言っておけば、後は機転を利かせればどうとでもなる。
 故にはやてに関しての問題はそこまで大きな問題とは言えない。
 何せ既にギルモンやシャマルを殺しているはやての方が、状況は圧倒的に不利なのだから。

(で、主催側にはやはりドクターが絡んで居たようですけど……)

 自分を参加させている事から考えるに、「スカリエッティに頼ってゲームからの脱出」は絶望的だろう。
 ゲームから脱出させる為には、“この世界のスカリエッティ”すらも欺かなければならない。
 だが、それに関してはもう悩む必要も無い。
 スカリエッティだって平行世界の自分をこうも簡単に斬り捨てたのだ。
 自分だってそんなスカリエッティに忠義を尽くす義理は無い。
 クアットロが唯一使えるのは、クアットロが居た世界のスカリエッティなのだから。

(故に、この世界のドクターは敵……ま、これに関しては考えるまでもありませんね)

 その判断は、至って単純なもの。
 問題はそれよりも、どうやってスカリエッティを出し抜くか、だ。
 別の世界とは言え、相手はあのスカリエッティなのだ。
 生半可な計画では容易く見抜かれてしまうだろう。
 何とか仲間を集めて、上手くシルバーカーテンと組み合わせて首輪を解除する。
 シルバーカーテンの能力は絞られているとはいえ、頭脳戦に於いてこれ程に心強い物は無い。
 必ずやこの能力は役に立つ。それだけの確信がある。
 だから、今は焦らず仲間を集めるのだ。




 失った者は、この場に残った家族。
 失った者は、この場に残った親友。
 出来る事ならば、家族を傷つけた友は、この手で倒してやりたかった。
 それが友、セフィロスに出来るせめてもの手向けだった。
 だが、それももう出来ない。
 そして何よりも。

「チンク……」

 守るべき者を失った時、人はやはり変わる。
 もうアンジールに、精神的な余裕など残されている筈も無かった。
 守護の対象は、クアットロ一人に絞られた。
 クアットロを守り抜く為ならば、何だってする。
 妹を守る為ならば、他の全員を殺すことも厭わない。
 アンジールは再び、アスファルトを蹴った。
 友と家族の死を、その剣に背負って。




 小さな非常灯に照らされた事務所内。
 音一つ無い、静かな世界だった。
 否、正確には全くの無音では無い。
 声にもならない嗚咽。
 絞り出す様な泣き声。
 それだけが、静寂の中で響いていた。

(ペンウッドさん……C.C.……)

 ペンウッドは臆病で、まるで頼りにならなかった。
 年配者なのに、自分に頼りっぱなしで、戦力としては数えられなかった。
 だけどその半面、彼は誰よりも気高い勇気を持った男だった。
 自分の命を投げ出してまで、なのはを救ってくれたのだ。
 そんな事、簡単に出来る事じゃない。
 C.C.はC.C.で、基本無表情で、何を考えているのか解らなかった。
 だけど、殺し合いに反発していたのは間違いない事実。
 ルルーシュという人物と再会する為に、共に闘う筈だった。
 だけど、C.C.も、ルルーシュも、死んでしまった。
 もう、二人が再会する事は無くなってしまったのだ。

(キャロ……騎士ゼスト……)

 キャロはまだ10歳の女の子で、なのはの教え子だった。
 こんな殺し合いに参加させられて良い訳が無い、将来有望な子供だったのだ。
 それも、なのはが一から魔法のいろはを教えた少女が、こんな下らない戦いで死んでしまった。
 エリオも、ティアナも、キャロも、皆死んでいく。
 ゼストだって、キャロ以上に頼もしいストライカー級魔道師だったのに。
 これからゼストと合流して、誤解を解かねばならないと思っていたのに。
 それも果たすことなく、その命は再び散ってしまった。

(シャマルさん……フェイトちゃん……!)

 何よりもなのはの胸を締め付けるのは、10年来の仲間の死。
 二人とも、この10年間をずっと共に過ごしてきたのだ。
 闇の書事件以来、心強い味方として御世話になっていたシャマルさん。
 辛い時も、楽しい時も、共に数多の戦場を駆け抜けて来たフェイトちゃん。
 特にフェイトの死は、ここへ来てから二度目になる。
 幾ら心を鋼鉄で武装しようにも、耐えられる訳が無かった。

 泣くだけ泣いて、顔を上げた。
 時計を見れば、既に放送から一時間弱が経過していた。
 背後に人の気配を感じ振り向けば、そこに居るのは天道総司。
 この人はまた、自分に気を遣ってくれたのだ。
 一時間近く泣いている間、何も言わずに休ませてくれたのだ。

「ごめんなさい……もう大丈夫です」
「そうか」

 涙を拭って、立ち上がる。
 これ以上、ここで立ち止まっている訳には行かないのだ。
 フェイトだって、死んだ皆だって、きっとここでなのはに挫けて欲しくは無い筈。
 彼女らが成せなかった事を、自分が成し遂げて見せる。
 散って行った皆の意思を継いで、このゲームを破綻させて見せる。
 決意を新たに、天道に向き直った

「ならば、今すぐゆりかごへ向かうぞ」
「え……?」
「何だ、聞こえなかったのか。ゆりかごへ向かうと言っているんだ」
「い、いや……そうじゃなくって、どうして」
「愚問だな。逆にお前がゆりかごへ向かわない理由があるなら聞かせてみろ」

 なるほど、そういうことか。
 天道は、ヴィヴィオを救うつもりで居るのだ。
 だから、聖王と関わりの深いゆりかごへ向かうと言い出した。
 他にヒントが無い以上、ヴィヴィオの手掛かりはゆりかごにしか無いのだ。

「でも、他の皆だって助けなきゃならないのに」
「無理をするな。お前だって本当は一番に助けたいんじゃないのか?」
「……はい。たった一人の、娘ですから」
「それでいい。もしもお前が娘よりも他の参加者を優先していれば、俺はお前に失望していた」

 なのはは思う。
 天道総司という人間は、一見クールに見えて、実は人間臭い。
 金居曰く“正義の味方”という建前の元で戦う男という事だが、それは間違いだ。
 この男は正義だとか、英雄的行為だとか、そんな物に縛られてはいない。
 ただ自分の信じる正義に従って、守りたい道を貫き通す。
 ある意味では、どんな英雄よりも信用出来るタイプだ。

「でも、ゼロはどうするんですか?」
「下らん……奴はキングだ。これ以上奴のお遊びに付きやってやれる程、俺達は暇人でも御人好しでも無い」

 天道が、さもつまらなさそうに言ってのけた。
 なのはも薄々は感づいて居たが、確かにゼロはキングの可能性が高い。
 ペンウッドとC.C.の二人は死んだのに、キングだけは死んでいないのだ。
 それだけでキングを犯人だと決めつけるのはどうかと思うが、もう一つ、犯人をキングだと断定させる理由があった。
 それは、口で嘘を吐く事は出来ても、どうしたって隠し切れはしない物――瞳に宿る光だ。
 キングの瞳に宿った邪気は相当な物だったし、それに気付けないなのはでも無い。
 恐らく、ゼロはキングで間違いないだろう。
 故に、これ以上ここに留まる理由も無い。
 二人はすぐに行動を開始した。




 最早、言葉は必要ない。
 目の前に敵が居るならば、それを駆逐する。
 アンジールの視界に映っているのは、確か管理局のスーパーエース。
 管理局であるなら敵だ。我ら家族の敵だ。
 相手が敵ならば、持てる全力を尽くして叩き潰すまで。
 例え夢も誇りも失ったとしても、最後に残ったものだけは失いたく無いから。
 家族を守る為。そんな大義名分を盾に、八つ当たりにも似た襲撃を開始した。




 放送を聞き終えたヒビノ・ミライは、たった一人市街地を歩いていた。
 その表情は、暗い。ミライの周囲を覆う夜の闇よりも暗い。
 理由は単純明快、先刻行われた放送。
 死んでしまった参加者の人数は、19人。
 前回の放送の比では無い。
 余りに多すぎる。

(こうしている間にも、19人も死んでしまうなんて……)

 その中には、先程目の前で殺されたあの人も含まれているのだろう。
 19人も名前を読み上げられれば、その中の一人を特定するのは難しい事だが。
 そして何よりも、ミライを最も悔やませるのは、その中で呼ばれた一人の名前。

(万丈目君……)

 万丈目準。
 ミライと行動を共にする、おジャマイエローの相棒。
 おジャマイエローが再会を望む、最愛のパートナー。
 絶対に再び合わせると約束したのに、それを果たす事無く、その命は奪われてしまった。
 これでは、おジャマイエローに合わせる顔が無いと言う物。
 幸か不幸か、おジャマイエローはデイバッグに引きこもっていた為に、この放送を聞いてはいない。
 このまま言わなければ、万丈目の死を知らずに済むかもしれないが……

(……いや、そんな訳には行かない)

 脳裏に過った考えを振り払う様に、ミライは首を振るった。
 確かに知ることが無ければおジャマイエローが悲しむことは無いだろう。
 だが、それは間違っている。
 本当の事を言わずに方便の嘘を吐いた所で、それはその場凌ぎでしか無いのだ。
 いつか知ってしまうなら、正直に話すべきだ。
 だが、ミライはそれでも悩む。

(一体、どんな顔をして伝えればいいんだ)

 守ると約束して、守れなかった。
 何も出来る事無く、目の前の男を死なせてしまったばかりか、約束の一つも守れない。
 こんな事で、何が光の国の戦士だ。何がウルトラマンメビウスだ。
 瞳を食いしばって、自分の無力に打ちひしがれる。
 どうしてこんなにも守れないのだろうか、と。
 そんな時だった。

 ――キィン。

 微かに聞こえた、金属と金属のぶつかり合う音。
 全ての思考を一時的にかなぐり捨てて、ミライは顔を上げた。
 これは恐らく、と言うよりも間違いなく、戦闘音だ。
 金属と金属がぶつかり合う、戦闘による効果音。
 誰かがこの近くで、戦っているのだ。

(音は……ここから近い!)

 今ならばまだ間に合う。
 この戦闘を止めるのだ。
 今度こそ、守って見せる。
 その為に、ミライは駆け出した。




 最初にアスファルトを蹴ったのは、アンジールであった。
 標的は、目前に居る男女――家族にとっての宿敵。
 敵が目の前に居るのであれば、殺してでも進む。
 その先に何があろうと、今は関係無い。
 放送を行った人物についてなど、後で考えればいい話だ。
 今は、激情のままに戦うのみ。
 そうだ。これは、家族を傷つけたやつら全てに対しての弔い合戦。
 先刻まで背に装備していたバスターソードを振りかざし、凄まじいまでの初速で距離を詰める。
 アンジールの腕力を以て繰り出された一撃は、しかし赤き閃光によって受け止められた。

「……ッ!?」
「やれやれ。やはり天は俺に試練を与えるか」

 天道総司が、ぼやくように言った。
 カブトムシにも似た赤の閃光は、ドリルの様に回転しながら、その角で正面から大剣を受け止めて居た。
 天道総司にのみ従うカブトゼクターは、地球上で最も硬いとされるヒヒイロノカネを素材としている。
 その硬度を以てすれば、如何にソルジャーと言えど、たった一撃の攻撃を凌ぐ事など、容易い事。
 カブトゼクターはバスターソードを弾き、アンジールは反射的に半歩後退した。

「戦う前に教えろ。お前は何故この殺し合いに乗った」
「家族の為だ……!」
「なるほどな。お前も高町と同じか」

 たった一人の娘を守る為に、戦うと決めた高町なのは。
 家族の為に戦っているという点では、アンジールもまた同じ。
 否――戦う理由は同じでも、この二人は決定的に違う。
 それは、単純な理由だ。

「だがお前は違う。家族の為などと大義名分を振りかざし、人殺しに走るお前は高町の足元にも及ばん」
「……知った風な口を聞くなッ!」

 再び駆け出そうとしたアンジールの行く手を、カブトゼクターが阻む。
 キュインキュイン、と機械音を鳴らしながら、天道総司の周囲を旋回した。
 天道の腰にいつの間にか巻かれていたのは、無機質な銀のベルト。
 そして、カブトゼクターがベルトに滑り込んだ刹那、変化は起こった。

 ――HENSHIN――

 続けて、鳴り響く電子音と共に、ベルトが大量の六角形を形作って行った。
 六角形は男の身体を瞬く間に覆い尽くし、それ自体が強固な鎧を形成。
 不格好な鎧だ。神羅の一般兵の鎧をそのままごつくしたような外見。
 剣を構える男に対し、目の前で鎧を装着する事は即ち、戦闘の意思有りという事。
 無防備な高町なのはを斬り捨てるよりは、幾らか気も楽だ。

「そんな鎧で、ソルジャーに勝てると思うなよ」
「俺の事よりも、自分の心配をするんだな」
「何だと」
「お前こそ、そんなナマクラで俺の命を奪えるとは思わない事だ」
「……随分と、ナメられたものだな」

 バスターソードを握る手に、自然と力が込められる。
 この男は父から受け継いだ誇りをナマクラと言った。
 アンジールの夢を、アンジールの誇りを、ナマクラと言った。
 最早この不遜な男との戦闘はどうあっても免れない。
 二人の戦闘の火蓋は、ここに切って落とされた。



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