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Iの奇妙な冒険/祝福の風 ◆7pf62HiyTE




「アジトへ向かう前に言っておく……ッ! あたしは今やつの魔法をほんのちょっぴりだが体験した」



「こなた……?」



「い……いや……体験したというよりはまったく理解を超えていたんだけど……
 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 『あたしは森の中でアジトへ向かっていたと思ったらいつのまにか(森は)消えていた』」



「いや、それリインも体験しているですよ!」



「な……何を言っているのかわからねーと思うがあたしも何をされたのかわからなかった……」



「その口調の方がわけわからないですよ!」



「頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」







「………………満足したですか?」
「………………うん」
「確かにこなたの言う通り理解を超えているですね」



 泉こなたとリインフォースⅡはスカリエッティのアジトへ向かう為、森の中を北へと進んでいた。
 が、気が付いた瞬間に森は消失し平野が広がっていた。周囲を見ても森は欠片も見当たらない。
 そこでこなたは地図と磁石を出して周囲を確認する。
「地図でいうところのD-9かE-9だと思うけど……でも森になってなきゃおかしいよね」
「北には何も無いですね。それに……」
 北方向を見ても森は欠片もなく。東方向には市街地が見えると共に微かに煙が見える。
「あたし達のいた場所は東端なんだからそれより東には何もない筈だけど」
「もしかしたら地図に描かれていないだけでその先にも何かがあるのかも知れないですよ」
「だけど……地図にない場所に出られるんだったら最初からそこに逃げ込めばいいんじゃないのかな。幾ら何でもそんな事はさせないよね」
 と、こなたは首輪を触る。要するに場外は禁止エリアとして扱われ、首輪が爆発するという事を暗に語っているのだ。それはリインも理解している。
「ここは場外ではないという事になりますよ」
「場外じゃなかったら何処なの?」
「東に市街地が見える平野はB-1~E-1……確かB-1が禁止エリアになっていた筈ですからC-1かD-1、E-1になるですよ」
「D-9かE-9からどうやってD-1かE-1に移動を……あれ?」
 こなたは指をD-9とE-9の境目からD-1とE-1の境目の間を動かしている内にある事に気付いた。
「整理すると、『D-9辺りにいると思ったらD-1辺りにいた』って事だよね」
 と、磁石を片手に西方向を向く。
「じゃあ、もしかして……」
 そして足を進めると突然周囲に森が広がった。





「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 『あたしは木1本無い平野を進んでいたら……』」
「そのネタもういいですよ!!」

 リインは軽くこなたの頭をポンと叩いた。





「つまり、区切られているエリアの端と端は繋がっているという事ですね。東端と西端、北端と南端という感じですね」
「でも北に進んでいた筈なのにどうして東に?」
「さっきまで磁石出さないで走ったり歩いたりしたから方向がずれてしまったんじゃないんですか?」
 実際、こなた達の進行方向は若干東にずれてしまっていた。故に、東端のラインを越えて西端へとワープしたのである。
「そういえばあの天使、東から西方向に飛んでいた様な飛んでいなかった様な」
 今更ながらに放送より少し前にホテルアグスタの屋上に消えた天使の事を思い出した。確かあの天使は南東から北西方向へ飛んでおり、屋上で消えていた。
 だがホテルの位置は東端のF-9だ。つまり、天使の進行方向を踏まえれば天使はエリア外から来たという事になる。もっとも、この時こなた達はそこまで思考が回らなかったが。
 しかし、先程起こった現象を踏まえればこの現象は簡単に説明出来る。
「あの天使は客船や船着き場のある海方向からやって来たという事になりますね」
「何にせよ、端と端はワープ出来るって事だね」
「恐らくプレシアがリイン達を逃がさない為にこのフィールドに仕掛けた仕掛けだと思うですよ。
 それでこれからどうするですか? さっき見た感じだと市街地では戦いが起こっているみたいですけど……」

 市街地では微かに煙が上がっていた。これを踏まえれば少なくても誰かがいた事は確実。
 しかしそれは必ずしも味方とは限らない。殺し合いに乗っている参加者という可能性もある。
 更に言えば煙が上っていることから戦いが起こっている事はほぼ確実。
 リインとしては市街地に向かいたいという気持ちが無いわけではない。しかし制限の都合上こなたの同行が絶対に必要となる。
 こなたを危険に巻き込む可能性が非情に高い。何の力もない一般人を危険に遭わせる事は避けるべきである。
 その一方、あの場所に仲間がいる可能性もある。数少ない家族や仲間との合流の機会を逃したくは無いというのも本音である。
 故にリインはこなたに判断を仰いだのである。

「勿論、最初の予定通りアジトに向かうつもりだよ。もしスバルがアジトに来た時にあたし達がいなかったら……」
「そうでしたね。わかったですよ、このままアジトに向かいます」
 こうして2人は再びアジトへと足を進めた。
「今東端にいますから少し西寄りに行かないと密林を迷う事になるですよ」
「大丈夫、今度は磁石も確認するから」
「それだけならまだ良いですけど気付かないで進んで禁止エリアのA-9やB-1へ飛び込む可能性もあるですよ」
「だからわかったって」





   こ   な   ☆   り   ん





 その放送はあまりにも無機質かつ無慈悲であった。それ故に淡々と事実だけが伝えられた。
 無機質かつ無慈悲であったからこそその衝撃は非常に大きなものであった。



「シャマルまで……」



 リインにとって大事な家族であるシャマルの死亡が伝えられた。
 勿論、リインの世界のシャマル達は妖星ゴラスの媒介になっている筈なので呼ばれたシャマルはリインとは別世界の彼女だという事実は頭では理解している。
 しかし、それでも溢れ出す深い悲しみの感情は止まる事はない。故にリインの目からは涙がただただ溢れていた。
 それでも何とか放送自体は聞き逃さず聞きとめた。しかしそれが限界だった。リインの思考は大事な家族が再び失われた事で真っ白になっていた。

 そして脳裏には家族であり主でもある八神はやての姿が浮かぶ。


 前述の通りシャマル達守護騎士はゴジラを封印する為の妖星ゴラスの媒介となった。これだけならば只の悲劇で済む話だ。
 しかし、封印は決して永久ではない。その限界はたったの1年、それを過ぎればゴジラは再び復活する。
 1年を経過した時点でシャマル達の犠牲は完全な無駄となってしまうのだ。そんな事をはやてが許すわけがない。
 そして家族を助ける方法が1つあった――簡単な事だ、妖星ゴラスが限界を迎える前にゴジラを完全に抹殺する事だ。
 当然、シャマル達の限界を踏まえるならば1年などと言わず早ければ早い方が良いのは言うまでもない。

 故に、彼女は家族を助ける為にこれまでの彼女からはまず考えられない非道な事を行った。
 各次元世界に生息する怪獣達を使い魔に、時には洗脳すら施してゴジラにぶつける為の決戦兵器としたのだ。
 当然だが高町なのはやフェイト・T・ハラオウンも従いながらもそれを受け入れているわけではない。故にはやてと衝突を起こした事もあった。
 全ては家族を助ける為、故に許される許されざるは別としてそれ自体は決して否定出来るものではないだろう。
 だが、客観的に言えばそれは決して許される事ではないし、自分達が当事者にならなければリインもその行いを認める事は無かっただろう。

 はやてがこの放送を聞いたとすればどうするだろうか?
 容易に想像が付く、死んだ家族を生き返らせる為、優勝を目指す可能性が非情に高い。
 もしくは優勝ではなくプレシア・テスタロッサの技術を奪う為に他の参加者を陥れてでも彼女に迫ろうとするだろう。
 それが許されざる事なのはリイン自身もわかっている。だが、リインはそれを止める事が出来ない――

 ――何しろリイン自身の中からも外見とは真逆のどす黒い邪悪な感情が湧き上がっているのだから。





 ジブンガサンカシャナラバユウショウシテデモカゾクヲトリモドシタイ





 いや、わかっている、わかっているのだ、家族や仲間がそれを望んだりしない事は。
 それ以前に自分自身、そんな事はしたくはないのだ。
 何の罪のない人々を傷付けたり陥れる事なんてしたくはないのだ。

 それでも、湧き上がる感情はとどまらない。リインは何とかそれを抑えようと――







 その瞬間、轟音が響いた。



「えっ……!?」



 音はホテルの中からだ。
 ホテルには先に安全確認の為にスバル・ナカジマが向かっていた筈だ。今現在ホテルで何が起こったのだろうか?
 確かホテルには屋上に降り立った『天使』がいた。となれば『天使』が殺し合いに乗っていて、スバルと交戦状態に陥ったのだろうか?
 真実は不明だが1つだけ確実な事がある。それはホテルは危険な場所だという事だ。


 我に返った瞬間、リインは自分の愚かな思考を恥じた。
 自分が今すべき事は何なのか? 何の力を持たない少女を守る事じゃなかったのか?
 にもかかわらず自分は今何をしていた? 家族が死んで泣いて……いや、正直それ自体は仕方がない。
 問題なのはこの瞬間まで足を止めていてあまつさえ僅かだが殺し合いに乗ろうかと考えていた事だ。
 今の自分の姿を見たらゴジラを封印する為にゴラスの触媒となったシグナムやシャマル、ヴィータにザフィーラが見たらどう思う? 軽蔑するに決まっている。

 自分は何者か? 無限に続く悲しみの呪縛より解放された先代よりその名を受け継ぎし蒼天をゆく祝福の風リインフォース・ツヴァイではないか?

 その名を持つ自分が他者に悲しみを与える事などあってはならない。与えるべきは祝福でなければならない。

 故に今は自らのすべき事を、目の前の少女泉こなたを守らなければならない。
 放送からどれぐらい経過しただろうか? 幸い攻撃の余波はここには届いていないがそれは結果でしかない。
 これまでの戦いを踏まえればホテルからこの場所に届く程の攻撃など無数にあり得る。惚けて棒立ちなど愚行以外の何物でもない。
 一歩間違えればこの一撃でこなたが致命傷を受けていた可能性もあるのだ。愚かと言わず何というのだろうか。

 このまま犠牲を出してしまう事は家族や先代リインフォースに対する最大の裏切りだ。彼女達の為にも二度と堕ちたりはしない――そう考えリインは周囲を見回しながら次の行動を考える。

 スバルに関しては負傷はしているものの戦闘機人としての力が使えれば余程の相手では無い限り後れを取る事はない。最悪、逃げ切る事は出来るだろう。
 ジェットエッジを渡してあるから移動に関してもおおむね問題はない。
 だが、戦闘機人としての力は威力が強すぎる。敵を倒す事に関してはともかく、周囲に及ぶ被害は甚大なものとなる。先程の轟音ももしかしたらスバルのIS振動破砕によるものかもしれない。
 つまり、この場所にいればこなたを戦いに巻き込むという事だ。スバルもそれを恐らくは理解している。
 故に自分達がこの場所にいる限りスバルは全力を出せない。相手次第だが全力を出さないで切り抜けられるとは思えない。

 だからこそ自分がとるべき判断は――





「リイン、行くよ」

 その答えを出す前にこなたが声を発した。
「え? 何処へ?」
「ここにいたらスバルに迷惑がかかるよ、だから……」
 既にこなたの足はホテルとは逆の方向に向いていた。奇しくもリインと同じ判断をこなたはしたのだ。
 しかし、あまりにも的確な判断であったが故、リインは驚きを隠せなかった。
 そもそも、何故こなたはそこまで冷静なのだろうか?確か放送では――
「大丈夫、スバルだったら何とかしてくれるよ。スバルが全力で戦う為にもあたし達はここにいない方がいいんだ!」
 こなたの声は何時もののほほんとしたものではなく、力強いものだった。
「確か、あの時ホテルの他にもう1つ目的地決めていたよね。そこに行こう、スバルも戦いが終わった後で来てくれる筈だよ」
 そう言いながら、その方向へとこなたは走り出した。リインもこなたの横を飛びながら移動をする。
 リインもおおむね同じ考えだった為、こなたの判断自体に異論はない。しかし、人の話も聞かずに行動をする事は決して良い事ではない。
 故にその事について口を出そうとするが、
「こなた、少しはリインの話も聞い――」
 横顔を見た瞬間、彼女の心情を理解した。そう、こなたは冷徹な程冷静なわけではなかったのだ。
「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けると思う……だから急がないと」
 こなたの目からは涙が溢れ流れていた。
 放送では彼女の友人である柊つかさの死亡が伝えられた。彼女にとって大事な友人である彼女の死に衝撃を受けないわけがない。
 真面目な話、暫くはショックで動けず俯いているのが自然だ。最悪、生き返らせる為に殺し合いに乗ってもおかしくはない。
 しかし、こなたの表情にはその様などす黒い感情は見えない。むしろ、スバルの為にこの場所を離れようとするこなたの瞳には強い意志が宿っていた。

 そうだ、何の力も持たないか弱き少女だって負けずに戦おうとしているのだ。自分も負けずに戦わなければならない。

 だからこそ今はこなたを守る為に戦おう。夜空に祝福の風を巻き起こすかの様に――








 こうして、こなたとリインはホテルを離れスカリエッティのアジトへと移動を開始した。
 駅にてスバル達は次の目的地としてホテルとアジトの2つを考えていた。
 その為、戦いが終わった後、ホテル周辺に自分達がいなければアジトへと向かったと判断してくれると考えたのだ。
 書き置きは何もない。残す余力が無かったというのもあるが、下手に残した所で戦いの余波に巻き込まれ紛失する可能性もあり、危険人物に読まれる可能性もあったからだ。
 ちなみに、ホテル到着直前スバルはデュエルアカデミアに向かおうかと考えていたがその事をこなたもリインも聞いていない為、それは全く考慮に入っていない。
 もっとも、崩壊の可能性があるアカデミアに戻るのも危険なので仮に聞いていたとしても選択肢に入らない可能性は高いだろうが。
 この地に残らないで移動を行った理由は前述の通り今回の戦いに巻き込まれるのを避ける為、
 これまでの事を踏まえホテルが崩壊する可能性は非常に高く、その崩壊に巻き込まれて死亡する可能性は高い。
 また攻撃の余波に巻き込まれて死亡する可能性も言うまでもなく高い。
 更に前述の通り、近くにいるとスバルは自分達を巻き込まない為に全力を出せないだろう。この状況でそれは避けるべきだ。
 また、こなたが殺された場合、当然スバルは強いショックを受けるがそれとは別に避けるべき事項が存在する。
 放送で伝えられた殺害者のボーナス支給品の話。この話を踏まえればこなたが誰かに殺された時点でその参加者は支給品を1つ確保しそのまま強化される事になる。
 それでなくても武装に乏しい状況だ。危険人物の強化は絶対に避けなければならない。
 故に、自分の身を守る為にも、スバルの身を守る為にも、2人はホテルからの待避、アジトへの移動を選択したのだ。





 こなたとリインがこの場を離れたのは放送から約10分後、幸か不幸かホテルでの戦いに巻き込まれる事を回避する事が出来た。
 だが、結果として2人はそれぞれが最も再会したい人物との再会の機会を逃す事となった。

 簡単に放送前後から2時間強の間にホテルで起こった事を客観的に説明しよう。勿論、大部分はこなたもリインも知り得ない事である事を補足しておく。

 放送直前、スバルはホテルロビーで『天使』ことヴァッシュ・ザ・スタンビートとつかさの姉でありこなたの友人である柊かがみと遭遇した。
 だが、かがみはヴァッシュにスバルは危険人物と説明した為、両者は緊迫した状態となり、かがみはホテル地下の駐車場へと移動した。
 そして放送、このタイミングでヴァッシュ自身の左腕が暴走し無数の白刃が繰り出された。
 その白刃の斬り口からスバルはルルーシュ・ランペルージの右腕を切り落とした人物と断定し戦闘機人モードとなりヴァッシュとの交戦に入った。

 こなたとリインはその戦いの衝撃から、ホテルは危険だと断定し待避するという選択を選んだのである。

 勿論、2人の待避後もホテルでの戦いは止まらない。スバルとヴァッシュの戦いは続いていた。
 その一方、かがみは駐車場にあった装甲車を発進させ、ホテル近くまで来ていた相川始を轢き殺そうとした。
 結果は失敗、そしてそのまま両名はホテル方面へと移動しながら戦闘に突入した。

 ちなみに、かがみが装甲車でホテルから出たタイミングは放送から約30分後、こなた達が既に遠く離れた後だ。故にかがみはこなたが少し前まで近くにいた事を知る事は無かった。
 もっとも、再会した所で今のかがみはそのままこなたを殺す可能性が高かった為、それを避ける事が出来たのはある意味では幸運だったのかも知れないが。

 さて、放送から約2時間後、ホテルロビーでは何とかスバルとヴァッシュは和解しかけていた。しかしこのタイミングでかがみと始がロビーに乱入し4名は再び戦闘に突入した。

 それだけではない。この直後、はやてと金居が地上本部にあった魔法陣を使いホテル前までワープして来たのだ。
 このはやてはリインと同じ世界から連れて来られている。その為、リインにとって最も会いたい人物である反面、外道に堕ちてでも目的を達しようとする危険人物でもある。
 更に金居と始は元々の世界での敵同士、両者が出会えば戦いになる事は明白だ。

 そして、更に2人の『神』がホテルに迫っていた。
 1人は雷神・エネル、ヴァッシュに敗北を喫し威厳を奪われた神はヴァッシュ他全てを抹殺する為に自らの身に雷を纏いホテルへと足を進めていた。
 1人は死神・ヴィヴィオ、母を無惨に奪われ死神の鎌を手にした神は母を殺した者全てを抹殺する為に自らの身を血で染めホテルへと足を進めていた。

 ホテルにおけるこの後の物語は今はまだ語らない――だがこれだけは確実に言える。今最も危険な場所はこの場所だということだ。





 こなた達が再会の機会を潰した事は不幸だったのかも知れない――だが、こなたがここに残ったところで出来る事など特にない。むざむざ殺され下手人を強化させるのがオチだ。
 再会出来たけどすぐに死亡しました。それもまたある意味では不幸な結末だろう。そう、柊姉妹が再会しつかさが無惨に惨殺された時の様に――





 少なくてもそんな結末はこなたもリインも、そしてスバルも望んではいない。再会するならば当然お互いに笑顔で再会すべきだろう。





 その意味では、こなた達は祝福の風を受けていたのかも知れない――





   こ   な   ☆   り   ん





「マンガとかで、無理矢理怒らせたり、悲しい気分にさせたりする超能力ってあるよね?」
「いや、リインに同意を求められても困るんですけど。そういうのあんまり読まないですし」
「でさ、そういう気の利いた魔法とかってある?」
「ありますよ。例えば……」
 リインはこなたにコンシデレーション・コンソール、怒りや悲しみの感情を強化する洗脳技術について簡単な説明をした。
「……ってもしかして参加者の中に洗脳されている参加者がいるって言い出すんじゃないですよね?」
「いや、そういう意味じゃなく、もしかしたらあたし達の考え方や感情が操作されているんじゃないかってちょっと思って」
 こなたの言いたい事はこういう事だ。
 知らず知らずの内に自分達の思考や感情が殺し合いする上で都合の良い風に誘導されているのでは無いかという事だ。
「少なくても、こなたやスバル、それにルルーシュを見る限りそんな様子は無かったですよ」
「でもね、レイやシャーリーの豹変がどうしても気になったんだよね。それにかがみんも……」

 確かに早乙女レイが突如豹変しルルーシュに対し発砲した事はある意味異常だった。
 またシャーリーがレイを射殺した事も事前に聞いた人物評から考えれば異常である。
 そしてかがみが殺し合いに乗って何人か殺している事実などこなたにとっては今でも信じがたい話である。

 また、2人は知る由もないが貴重な首輪確保の機会を何故か逃したり、
 示し合わせたかの様に出会えば対話を放棄し戦いに突入したり、
 思考する事を放棄して安易に諦め殺し合いに乗ったり、
 元々殺し合いに乗る筈の無い人物の精神が破綻し破滅を撒き散らしたり、
 ゲームを破壊するつもりが何故かゲームを促進させてしまったり、
 冷静に見れば殺し合い継続という意味では都合の良い出来事が頻繁に起こっている様な感はある。

「突然殺し合いに放り込まれたらそういう行動に出てもおかしくは無いと思いますよ」
 リインの言う通りだ。突然殺し合いに放り込まれて普段と同じ行動をしろというのも無茶な話だ。
「あたしもそう思うけど……それで説明が終わるぐらいにわかりにくく知らず知らずの内にそういう風にもっていかれている様な感じがするんだよね」
 理由を『殺し合いだから仕方がない』と説明出来る程度の異常を発生させて参加者全員に殺し合いを加速させようと目論んでいるという説だ。
 それは極々僅かな異常だからこそ、普通はまず気付かない。
 また選んだ危険な選択肢も選ぶ可能性は低くても0ではなく状況を考えれば有り得ない話ではないと納得出来るものだ。
 そして考えられない異常があった時は『殺し合いだから』で思考を止めてしまえばそれで終了だ。
「やっぱり毎回毎回ノストラダムスのせいにするミステリー調査班みたいな有り得ない仮説なのかな?」
「リインにはよくわからない例えを出されても困りますよ」
 こなた自身もこの仮説はあまりにも突拍子も無い説だという事は理解している。リインもその仮説を軽く流そうと――
「……有り得ないとは言い切れないですよね」
 リインは先程自分の奥底で湧き上がったどす黒い感情を思い出した。
 少なくても湧き上がった感情自体は本心によるもの、それは否定しない。
 だが、それとは全く真逆の理性もあったのだ。少なくとも何時ものリインが本来の理性を全て放棄してどす黒い感情のまま行動する事などまず有り得ないと自分では思っている。
 だが、先程の状況を思い出す限り、感情のままに暴走する可能性は否定出来ない。

 つまり、殺し合いに都合の良い感情が僅かに出やすい様に強化されているという事だ。
 僅かであるが故に、普段はそれに気付かない。パニックに陥った時に良心は駆逐され倫理観を捨て去る様にし向けるという事だ。
 それがいかに異常であっても前述の通り全て『殺し合いの状況だから仕方がない』と片付ければまず気付かれる可能性はない。

「コンシデレーション・コンソールの応用で可能だと思いますが……幾らそれが弱いものでもこの舞台全部に仕掛けているなら相当大げさな装置になるですよ」
「さっきのループといい何でもありだね」
「それに、こなたの仮説通りだとしても、結局の所この舞台をどうにかしないとどうにもならない事に変わりはないですよ」
「何か良い手段は無いかな?」
「(一応今スバルが持っているハイパーゼクターが使えるかもという話ですけど……幾ら何でもプレシアがそれを見落とすわけもないですから、別の方法も考えておかないと……)
 それを見つける為にも、今はアジトへ移動しないと」
「……で、方向ってこっちで合ってる?」
「まさか迷ったってオチは無いですよね?」
「……」
「…………」
「………………」
「こー! なー! たー!」


 ちなみに、現在位置はD-9中央の森林ではあったが、夜の闇は深く目印となる灯りも無い為、自身の位置を断定しきれない2人であった。





   こ   な   ☆   り   ん





 結論を先に述べれば実感なんてまだなかった。
 こう書くと現実を直視出来ない人に見えるが実際そうだったのだ。
 そう、こなたはつかさが本当に死んだとは思えなかったのだ。
 だがそれはある意味では仕方がない。こなたは幸か不幸かこれまでまともな死体を目の当たりにした事などなかった。
 故に、放送で淡々と名前を告げられただけで死んだ事を理解出来るわけではなかった。

 いや――だが恐らく放送は真実だろう。自分は実感出来なくても既に友人や家族の死を伝えられて泣いていたスバルやリインの姿を見ていたのだ。
 それを見ていながらいざ自分の時はその現実を認めず逃避する――あまりにも酷い人物だとこなた自身が思う。

 わかっている。まだ完全に実感したわけじゃないが――柊つかさは死んだ。少なくてもそれは認めなければならないだろう。

 勿論、残酷な話だが希望がまだ無いわけじゃない。
 仮につかさが自分のいた世界と違う世界から連れて来られていたならば、元の世界に帰っても変わらずつかさはそこにいるという可能性はある。

 そんな事を一瞬でも考えた自分を酷く嫌悪した。
 自分で巫山戯るなと思った。それを希望だと思った自分に腹が立った。
 それを認める事は別の世界のスバルでも変わらず守ろうと思ったルルーシュに対する最大級の冒涜だ。
 スバルやリインだって互いが別世界から来たとしても変わらず仲間だった筈だ、彼女達に対する侮辱だ。
 大体、別の世界のつかさだとしてもそれはその世界の自分自身の友人がいなくなった事を意味する。別の世界の自分を悲しませてどうするというのだ?

 結局の所、元の世界のつかさが無事という可能性があるというだけの話であってそれ以上でもそれ以下でも無いという事だ。決して希望ではない。

 真面目な話、つかさ達を生き返らせる――いや、ゲーム機のリセットボタンを押すかの様に優勝して全てを無かった事にしようかと本当に一瞬だけだが考えた。
 しかしそう考えた瞬間、今まで出会った仲間達、ルルーシュ、スバル、リイン、ヴィヴィオ、シャーリー達の顔が浮かんできた。
 彼等はどんなに悲しくても決して投げ出そうとはしなかった。なのに自分は何を考えているのだろうか?
 故にこなたはこのデスゲームのリセットボタンを押す事を止めた。いや、リセットボタンその物を破壊して二度と馬鹿な考えをしないと思った。





 だが、進もうとしている足は止まってしまった。スタートボタンを押してポーズした状態で動きを止めてしまったのだ。
 そう、どんなに先へ進めようとも起きてしまった事実は変えられない。つかさが死んだ事実は決して揺るがないのだ。

 高い確率でつかさとは二度と会えない可能性が高いのだ――その空虚は決して埋まる事はない。限りなく切なく空しい――

 覚悟はしていた筈だった。どちらにしてももう元の生活に戻る事はないと思っていた。だから前に進もうと思っていた。
 だが、本当は何処か甘く考えていた。覚悟なんて出来ていなかったのだろう。

 結局の所、現実はゲームやアニメ等とは違うという事だ。
 所詮、現実世界では泉こなたはヒーローでもヒロインでも何でもなく、只の何の力も持たない一般人Aでしかないのだ。



 故にこなた自身、もう前に進めないと思っていた――



『そうやって悩んで立ち止まるのは……生き残ってからでも出来るだろう』



 そう考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。



(ルルーシュ……?)



 そんなオカルトは決して有り得ない。既に彼は死亡している筈なのだ、首輪も回収している以上それは揺るがない真実だ。
 ならば幻聴だというのだろうか?



『今そのために何もできずに立ち止まってそのまま殺されては何もならない。誰も喜ばないだろう』



 その言葉はこなたの胸に深く突き刺さる。
 わかっている。今このまま無為に立ちつくしても無駄に殺されるだけだ。そんな事はスバル達は勿論、元の世界にいる家族や友人達も喜びはしない。
 それは絶対に許される事ではない。



『だから……今はまず、生き残ることを考えろ』



 その通りだ。所詮自分はヒーローでもヒロインでもない、しがない只の一般市民だ。
 生き続ける限り何度でも悩み立ち止まる事はあるだろう。だがそれでも生き続ける限り何か出来る事はあり、幾らでも前に進める筈なのだ。
 死んでしまえば最早進む事も戻る事も、悩み立ち止まる事すら出来なくなる。そうなってしまえばどんなに願おうとも誰も助ける事は出来ない。



(……つかさ、ごめん。今はまだつかさの為に何が出来るかは考えられないし、つかさのいない世界を受け入れられるかはわからない……
 でも、あたしはまだ生き続けるよ……まだ生きているスバル達や……なによりかがみんの為にも……)



 轟音が響く。



「!? もしかして、あの『天使』さん敵だったの?」
 恐らくホテルではスバルと『天使』が戦っているのだろう。ならば戦いが激しくなればこの場所も危ない。
 スバルが全力で戦えば『天使』が相手でも問題は無いだろう。だが、自分が近くにいると自分を危険に巻き込むまいと全力を出せなくなる可能性がある。
 更に、自分が不用意に殺されれば殺害者へのボーナス支給品が与えられスバルを危機へと追い込んでしまうし、それでなくてもスバルはショックを受けるだろう。
(それに……スバルと約束したんだ、自分の身は自分で守るって……だから!)

 そう考えたこなたの行動は素早かった。

「リイン、行くよ」
 早急にホテル周辺から離れ予め話していたもう1つの目的地であるスカリエッティのアジトへの移動を開始した。
 自分達が無事に離れればスバルは遠慮無く全力で戦える。確かスバルにはジェットエッジを持たせていたから戦闘後すぐにでもアジトに向かってくれるはず。
 ならば迷う事はない。移動しない手はない。というより、このままこの場所に留まっている方が危険が大きい。移動すべきである。



「こなた、少しはリインの話も聞い――」



 ああそうか、リインの意見を無視していた様だ。



「ごめん、でも攻撃に巻き込まれて怪我しちゃったらきっとスバルはショックを受けるから……だから急がないと」



 自分は今、泣いていたのだろう。それでもみんなの為に生き残る、その為に今は悲しみに負けないで走らないとならない。



 気が付けばルルーシュの声は聞こえなくなっていた。結局の所あの声は何だったのだろうか?
 いや、実を言えばルルーシュが言っていた言葉には聞き覚えがある。というよりあって当然だ。

 その言葉は、右腕を失い絶望しているルルーシュに自分自身が言った言葉と殆ど同じじゃないか。
 そして、つかさを失い絶望している自分にルルーシュがその言葉を返したという事――

 そんな都合の良い幻想なんて無い。きっと、自分を立ち直らせる為に自分の中のルルーシュにそれを言わせただけなのだろう。ある意味酷い妄想だ。

 だけど、正直そんな事はどっちでも構わないし大した問題じゃない。どちらにしてもルルーシュが助けてくれた事に変わりはない。




「ありがとう、ルルーシュ」
「何か言ったですか?」
「ううん、何でもないよ」



 そういえば、つかさの死亡を知ったらかがみはどうするだろうか?
 それでなくても殺し合いに乗っていたのだから。強いショックを受けて暴走してもおかしくはない。出会った人を次々襲っている可能性は十分にあり得る。




(どうしてこうなった……幾らかがみんがツンデレでも、平然と人を殺せるはずが無いんだけど……まさかあのおばさんかがみんに何かしたのかな?
 それに冷静に考えてみればあの状況でいきなりレイがルルーシュを襲う事だってヤンデレ化したと片づけるには何処か不自然だし……
 シャーリーにしたって、ルルーシュに聞いた彼女の性格から考えて状況が状況とは言えレイを有無を言わさず殺す何て事有り得ないしなぁ……
 ひょっとして……あのおばさんがみんなに殺し合いさせようと操っているんじゃ……
 ……いや、考え過ぎかな……本当にどうしてこなた……)

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