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Yな戦慄/烈火剣精は見た! ◆7pf62HiyTE




「む……」
 意識を取り戻した時に真っ先に感じたのは口の中に広がる違和感、
 次に感じたのは肌を滑る風の冷たさ、
 周囲を見回すとそこは何も見えない平野であった。
「ふぐ……」
 喋ろうとしても声が出ない。何かを口に詰め込まれている様だ。
 身動きを取ろうとしても両手両足を何かに拘束されている為動けないでいた。
「はんはのほ……ふぇ!?」
 そして自分の姿を見て驚いた。身に着けている物を全て剥ぎ取られていたのだ。
 どうやら自分の身に着けていたホテルの服で拘束している様だった。
 当然、先程まで身に着けていた千年リングとベルトも無くなっている。
「ひゃぁほれは……」
 そして今自分の口に詰め込まれている物が何か気が付いた。それは――自分が身に着けていた下着である。
「はにはほほっはほ!!」
 怒り苛立つ中、

「お目覚めか?」
 目の前にはスバルと同じ制服を身に着けていた女性が小刀を構えて立っていた。
「おはよう、かがみん」
「はっ……はんはがははひを!」
「そう怖い顔するなや、ちょっと『お話』しようと思っているだけや」



 その女性の笑みはどことなく冷たかった――




















(はぁ……本当にどうしたもんかな……)

 八神はやては内心で頭を抱えたかった。その理由とは――

 今現在置かれている状況を整理しよう。
 先程ホテルアグスタ周辺に自分を含め8人もの参加者が集結した。
 その8人ははやて、スバル・ナカジマ、ヴィヴィオ、金居、相川始、エネル、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、柊かがみだ。
 ある者達はホテル内で戦い、ある者達はホテル外で戦い、またある者達は状況の動きを見ていた。
 その後、はやてとヴァッシュはかがみを連れてホテルを離脱しスバルの仲間が待つらしいスカリエッティのアジトへと移動していた。
 ちなみに、今現在もホテルでの戦いは続いている。

 次に、今現在も生き残っている参加者をはやての視点から整理しよう。
 放送時点で残り19人、その後ヴィータとアーカードの死亡を確認し残りは17人。
 なお、はやては気絶していた為先程の放送自体は聞き逃しているが、金居から大まかな内容である死亡者の名前と御褒美の話は聞いていた。
 では、はやて自身を除く残り16人を整理しよう。

 まず、現状殆ど情報が無い参加者がアレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、天道総司、ヒビノ・ミライの5人。残念ながら敵か味方かの判断は不可能だ。
 次に高町なのはとユーノ・スクライア、断言こそ出来ないがこの両名が殺し合いに乗る可能性は低い。更に言えばその能力は高く是非とも合流し味方に付けたい所だ。
 問題人物の1人としてクアットロがいる。真面目な話、彼女のスタンス自体はある程度理解しているし、彼女と決裂したのもある種自業自得だったのも理解はしている。
 だがあの女の事、なのは達と合流して自分の悪評を振りまいている可能性が高く、自分達との対立は不可避だ。故に自身の目的達成の障害にしかなり得ない。何とかして排除したい所だ。

 ホテルでの戦いに関係のない9人の内これで8人。あとの1人に関してはある理由からひとまず外す。

 ここから7人は先の戦いの関係者だ。まずその内5人について整理しよう。

 まず、現在ヴァッシュに背負われているかがみだ。ヴァッシュによると殺し合いに乗っており先の戦いでスバル達3人を圧倒した緑の仮面ライダーという話だ。もっとも変身する為のベルトはスバルが預かっているらしい。
 ヴァッシュからの証言だけなので詳しい事は不明だがこの場に来てから各所で酷い目に遭い続け、妹である柊つかさも無惨に殺されたそうだ。
 それ故に殺し合いに乗ったと好意的に解釈する事も出来なくはない。しかし、一方で彼女がお人好しなヴァッシュ達を騙している可能性……いや、確実に騙していた。
 何しろ、スバルが危険人物という偽情報を伝えヴァッシュとの無用な戦いを起こし、乱戦に入った時には掌を返し皆殺しにしようとしたのだ。
 こんな危険人物を信用する事などはやてには無理だ。聞いた所、自暴自棄になり皆殺しにして自殺すると言い張っている。
 迷惑極まりない、そんなに死にたいなら誰にも迷惑かけずに1人で死ねと言いたい。
 スバルとヴァッシュによるとアジトで待つスバルの仲間ならばかがみを説得出来るらしいが、正直それも全く信用していない。
 どうせまた、こちらが隙を見せた所を裏切り自分達を一掃するのがオチだろう。
 真面目な話、早々に彼女を斬り捨てた方が良い。とはいえ、それをやろうとすればヴァッシュやスバル達と対立するのは明白、故にむやみに行うわけにはいかないのが辛い所だ。

 次に現在の同行者であるヴァッシュ、まだ詳しい情報交換はしていない為、その全貌は掴みきれてはいない。
 しかし、強敵とも言える先の仮面ライダーとの戦いでのダメージが殆ど無い事からその実力はトップクラスと言えよう。
 思考に関しても馬鹿すぎる程のお人好しなのは把握した。つい先程まで自分を殺そうとしていた相手を殺さず保護していたからだ。
 だが気になる事もある。殺し合いに乗らない人物でなおかつ凶悪的なパワーを持つ人物をそのまま殺し合いに放り込む事をするだろうか? 何かしらのデメリットを抱えてはいないだろうか?
 ヴァッシュ自身の頭髪にも違和感を覚えた。黒髪に約1割の金髪が混じるという不自然な髪色だ。何故彼はそんな不自然な髪型をしているのだろうか?
 これが今後にとって致命傷になる可能性はある。もっとも、これは現状些細な事ではあるが。
 むしろ問題なのはお人好しという点だ。折角敵にトドメを刺せる状況になってもこの男ならばそれを強引にでも止めかねない。
 それ自体は善行と言える。だがこの場では少々不味いと言わざるを得ない。危険人物を残しておいてその逆襲を受けて此方の戦力が削られるならむしろ逆効果だろう。
 とはいえ、ヴァッシュの思考そのものはなのは達に近い。下手にそれを咎めると自分が孤立するのは明白、故に現状ではその事について口出す事は出来ないだろう。

 続いてホテル外で戦闘中のエネルだ。言うまでもなく殺し合いに乗っている危険人物でその実力もトップクラス。
 真面目な話現状のはやて達に手の打ち様が無い以上、ヴィヴィオが倒してくれる事を期待するしかない。

 だが、そのヴィヴィオに関しても大きな問題を抱えている。
 何が原因かは不明だが彼女は聖王状態となっておりエネルに匹敵する力を持っていた。だがそれは必ずしも自分達にとって良い事ばかりではない。
 その最大の理由がヴィヴィオがほぼ無差別に殺意を向けていたという事だ。一歩間違えれば自分達にその殺意が向けられていた可能性がある。エネルとの戦いに入った事はむしろ幸運だったのかも知れない。
 一応、ヴィータからヴィヴィオを助けてと頼まれた事もあり、それが無くてもなのはの娘である彼女を助ける事についてはさほど異論はない。
 だが、あの状態のヴィヴィオを止めるなど自殺行為以外の何物でもない。悪いが今のヴィヴィオを助ける事は不可能と言って良い。
 とはいえ倒す事もまず不可能だ。エネルと同等もしくはそれ以上の強敵を倒す手など今の自分にはない。
 勿論、弱点も幾つかある。遠目で見たところ、今のヴィヴィオは感情の赴くままに全力で戦っていた。
 あんな状態で戦い続けて負担がかからないわけがない。断言も出来ないし何時になるかは不明ではあるが、戦い続ければその内ヴィヴィオは自滅するだろう。
 もう1点気になる事がある。それはヴィヴィオが持っていた鎌の様な武器だ。どことなく今自分が所持している憑神刀と雰囲気が似ていた。
 同系列の武器ならば、前述の仮説がより裏付けられる事になる。なにしろ憑神刀も強い力を発揮する反面、消耗が大きい武器だからだ。
 そういえば、クアットロが大きな鎌を持ったキャロに襲われたと言っていた。もしかするとあの鎌はキャロが持っていたものかもしれない。

 何にせよ、ヴィータやなのは達には悪いが両名の戦いにおける理想の決着は共倒れだ。
 仮にどちらかが勝った場合、勝者はそのままホテルに突入する可能性が高い。疲弊しているとはいえホテル内の連中にとってもそれは同じ。避けたい結末である事に違いはない。

 次はホテル内の金居と始の戦いの場に残ったスバルだ。
 残った理由は始を、いや始も金居も死なせずに戦いを収める為らしい。勿論、スバルの性格を考えるならばその行動自体は理解出来る。
 だが、正直悪手以外の何物でもない。金居の話から察するに両名の戦いは相手を完全に滅するものだ、両名とも死なせずという事はまず不可能だ。
 それでなくても金居と始がスバルに牙を剥けないとは言い切れないし、戦いの余波に巻き込まれて命を落とす可能性もある。
 運良くそれをどうにか出来たとしよう。だが、その後素直にアジトへ向かってくれるだろうか?
 いや、もしホテル近くでヴィヴィオが戦っている事を知ったら彼女を助けに向かうのは明白だ。
 なのはや自分ですら勝てない相手に向かうなど自殺行為以外の何者でもない。戦力としてはアテにできるのにどうしてこんな頭を抱える様な行動ばかり取るのだろうか?

 続いて金居だ。金居の実力については本人の言葉を信じるならば仮面ライダーに匹敵すると考えて良い。エネル程ではないとしても強者には違いないだろう。
 そして現状では自分達に協力する素振りを見せている事から利用出来ると考えて良いが、クアットロと似た性格である金居を完全に信用は出来ない。水面下では自身の優勝を目指す為に暗躍している可能性がある。
 状況証拠として、先程持っていなかった筈の銃がある。金居自身は拾ったと言っていたが、もしかすると密かに誰かを殺してそのボーナスで得た銃という可能性もある。
 とはいえ、現場を押さえたわけではない為これ以上は追求は出来ない。とりあえずボーナスで得たなら殺した人物は自分達の仲間ではない事を祈るしかない。
 何にせよ、金居自身も此方が警戒しているとわかっているならば下手な動きは見せないだろう。具体的に手を下すのは動きを見せた時だ、今はひとまずそれで良い。

 その金居が『人類全ての敵』と言っていたのが始だ。あの戦いの様子やヴァッシュの証言からも彼がスバル達と対立していた事は間違いない。
 しかし、その始がスバル達を助けあの戦いでの敵であったかがみを倒した事実がある。同時にスバルやヴァッシュの証言から彼は現状他の参加者を殺すつもりはないという話だ。
 つまり、金居の証言と違い味方になり得る可能性が高いという事だ。はやて自身金居の証言を鵜呑みにしているわけではない、貴重な戦力、得られる物ならば得たい所である。
 だが、『人類全ての敵』という言葉に引っかかりが無いわけではない。金居が無用な嘘を吐くとは思えない、その言葉の解釈次第では始が自分達に牙を剥く可能性は十分にあるだろう。
 月並みな言葉ではあるが始に対しても警戒はしておいた方が良い。元々敵対していたわけだ、不満を言われる筋合いはない。

 何にせよ、両名の戦いは不可避だ。どちらかが退場する可能性が高いだろうが、はやてとしてはそれでも構わないと思っている。
 どちらにも危険な要素がある以上片方が潰れる事はむしろ都合が良い。スバルさえ巻き込まなければ正直それで良いと考えている。

 だが、理想を言えば片方には生き残って欲しい。その理由がこれまで言及を避けてきたキングの存在だ。
 キングははやてが最初に出会った相手で彼に翻弄されたお陰でヴィータと仲違いをし、更に開始6時間を殆ど無為に過ごす結果を引き起こした。
 あの後、奴の動きは全く見受けられない。だが逆を言えば自分の知らない所でかき回しているという事だ。
 つまり、今現在もホテルの戦いに関わっていない8人の内の誰かに仕掛けているという事だ。クアットロといった危険人物を潰す事については一向に構わないが、なのは達を潰されるのは非常に不味い、何とかして早々にキングを排除したい所だ。
 では、キングを排除する手段に関してはどうだろうか? 実の所1つ気になる事があった。
 金居と話してわかったことだが、金居の口ぶりからどうやらキングを知っている様だった。確証こそ無いが元々の世界で敵対していた可能性もある。少なくても味方という事はないだろう。
 となればこういう話は成り立たないだろうか? 金居、キング、始の3名は互いを知っていてなおかつ敵対しているという事だ。
 つまり、金居と始のどちらかをキングに対するカウンターにすれば良いという事だ。
 幸い、金居も始も味方になりそうな感じではある。キングが元々の敵であるならばキングを倒す為に協力してくれる可能性は高いだろう。
 故に金居と始の戦いでは共倒れではなく片方に生き残って貰いなおかつスバルも無事な状態でホテルから離脱して欲しいという事だ。
 だが、その為にはどちらにしてもエネルもしくはヴィヴィオとの戦いを避けなければならない。とはいえ、金居はともかく始とスバルが素直に離脱してくれるとは思えないわけだが。







(全く頭が痛いなぁ……)

 ここまでの話だけでも現状が非常に厳しい事は理解出来ただろう。
 前述の通りホテルの戦い次第では貴重な戦力とも言えるスバル、始、金居の3名がエネルもしくはヴィヴィオによって潰される可能性が高いのだ。
 残り人数の少ない状況でこれ以上戦力が潰されるのは痛い。はやてが頭を抱えるのも理解出来るだろう。
 真面目な話、スバルぐらいはホテルから離脱して欲しかったというのが本音だ。アジトに仲間を1人向かわせているという話ならばなおの事だ。
(まぁ、私も全く失敗していないわけやないけどな)
 勿論、はやて自身にも全くミスがないわけではない。
 実はこうやって移動している最中に気付いた事だが、シャマルとクアットロと情報交換した際に罠ではないという結論を出していた事を思い出していた。つまり、金居に魔法陣が罠だと説明した際にはその事を忘れていたという事だ。
(その後、色々ありすぎて私自身も整理ついていなかったからな……嫌な夢も見たし)
 もっとも、魔法陣に関しては金居の助言があったので別段大きな問題はなかった。むしろ、その際に金居とキングの関係のヒントを得られた為、その意味では幸運だったのかも知れない。

(そんなことはひとまずどうでもええか……それに……)
 先程万一に備え武器を探した際に夜天の書を構えようとしていた。しかし、それに触れた瞬間何か嫌な予感がしたのだ。気のせいだろうと思ってはいたが、脳裏にある危惧が浮かんだのだ。
(あの餓鬼……夜天の書にいらん細工せんかったか?)
 思い出せばジュエルシードのエネルギーは全て使い切られていた。はやて自身はそれで安全に使えると考えており深くは考えていなかった。
 だが、こういう解釈は出来ないだろうか。夜天の書を使っていた人物、はやて自身名前は知らないが天上院明日香が夜天の書を自分に都合の良い風に使う為にジュエルシードを利用したという事だ。
 分かり易く言えば、かつての闇の書の様に改変を行った可能性があるという事だ。
(あの餓鬼は異常なまでに力を欲しがっていた……その辺の力を蒐集出来る様に改変した可能性は無いとは言い切れん……)
 力への渇望そのものははやて自身も望む事がある為それ自体を咎める気はない。しかしその為によりにもよって夜天の書を改変しようとした事が問題なのだ。
 かつての夜天の書が改変された闇の書は多くの深い悲しみを生んだ。はやて自身もその管制人格であるリインフォースとの辛い経験をしている為、それを痛い程理解している。
 長きの時間苦しみ続けて最後に散ったリインフォースの為にも二度と闇の書を生み出してはならないのだ。
(冗談や無い……そんな事許してたまるか……! あんな餓鬼の自分勝手な都合で闇の書が生み出されてなんてたまるか……!)
 心情的な問題はともかく、実際に改変された場合、殺し合い云々以前の問題になる可能性がある。
 勿論、プレシア・テスタロッサがデスゲームを壊す事態を許すわけはないだろうが、どちらにしても自分達の障害となる可能性は否定出来ない。
 少なくてもアーカード戦の時に使った際には別段問題は無かった。だが、夜天の書の安全が保証されたわけではない。表面上はそう見えても中枢が改変されている可能性はある。
 下手に改変された場合破壊したタイミングで周辺一帯を破壊に巻き込む可能性もあり安易に処分するという選択は取れない。もっとも、大事な夜天の書を安易に処分するという選択肢もないわけだが。
 理想は改変された部分を元に戻す事だ。今の夜天の書ははやて自身が作ったからそれ自体は可能だ。あとはそれを行える大規模な施設が必要となる。
 勿論、何の問題もない可能性もあるがはやて側から見た場合、専門の設備で調べなければそれも出来ないだろう。何しろジュエルシードによる改変だ、どうなっているかは想像も付かない。
(まぁ、私の考えすぎという説もある……というかそうであって欲しいけどな)
 勿論、夜天の書の改変云々ははやての過剰な警戒という説もある。だが、闇の書事件の当事者であるはやてがそれを警戒するなと言うのも無理だろう。
 どちらにせよ、夜天の書に関しては何処か専門の施設で安全を確かめる必要がある。運が良ければアジトでそれを行える可能性はある。

(まぁ、そのアジトが何事も無く使えるとも思えないのが問題やけど)
 今現在はやて達はアジトでスバルの仲間と合流する事が目的となっていた。同時にかがみにその人物と会わせてかがみを説得し改心させる手筈となっている。
 正直それがそのまま上手く行くとは思えなかった。そもそもスバルの仲間が無事にアジトに辿り着いている保証もないし、そのアジトが危険人物によって潰されている、もしくは牛耳られている可能性もある。
 仮に以上の問題が無くてもかがみの説得が上手く行くとは思えない。大体、スバルとヴァッシュは何をもって改心出来ると確信しているのだろうか?
 話せばわかるという単純かつ馬鹿な理由もあるだろう。だが、幾らスバルでも何の考えも無しに危険人物と他人を遭遇させるなんて考えない筈だ。つまり、高確率で説得出来る相手がいるという事だ。
(真っ先に考え付くのは家族……けど、彼女の家族らしき人物は死亡している……となると友達か?)
 はやてはその人物がかがみの友人だと推測した。ヴァッシュが名前を聞いていなかった為その人物が誰か全くわからないわけだが。
 では、説得は可能なのだろうか? 確かに説得出来る可能性は0ではない。しかし成功する可能性も100ではないのだ。
 スバルやヴァッシュと言った参加者を陥れる様な危険人物だ、説得された様に見せかけて隙を見せた所を一網打尽にする可能性が高い。
 それでも説得を繰り返すという理論もあるだろうが正直人の生死が懸かっている以上そんな余力は全く無い。たった1人の危険人物を改心させる為に何人もの貴重な戦力を減らす意味など無い。
(けどなぁ、絶対に私の方が間違っているって言われるに決まっているからな……)
 客観的に見ればはやての考えはある種正しい。しかし、スバルやヴァッシュははやての考えを否定し危険人物も絶対に殺したりはしないだろう。
 同時に恐らくはなのはやユーノもスバル達の考えを指示するのは想像に難くなく、かつてのはやてもスバル達の考えを指示していただろうというのは自分でも理解している。
 つまり、危険人物だからと言ってかがみを排除する事は現状難しいという事だ。かといって、説得が成功する保証も無く、どちらにしてもはやてが望まない展開となる可能性が高いとなる。

(胃薬が欲しくなってきたな……)







「……んでだよ……なんでアイツが……」
 そんな中、はやての傍で声が響く。
 声の主は融合騎である烈火の剣精アギトだった。ヴィータの死後ずっと彼女の死を悲しみデイパックの中で泣いていたのだ。
 いや、それだけではなく先の放送で彼女の仲間であるゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノの死亡も伝えられていた。そのショックから完全に抜け出せてはいなかったのだろう。
 故にはやては現状アギトに関してはこのままにしていた。だが、そのアギトがいきなり口を出してきたのだ。
「少し黙っていてくれるか、今色々考えて……」
「おい、はやて! 何でアイツを連れているんだよ!」
「……アイツってどっちや? ヴァッシュさんか? それともかが……」
「紫の髪した女の事だよ! 見てわからねぇのかよ!」
 紫髪の女といえばかがみの事だ。アギトの口ぶりが確かならかがみと何処かで面識があったというのだろうか?
 そういえばヴィータと合流した時、自分の側の説明はしたがヴィータ側、特にアギトの事情はあまり深い所まで聞いていない事に今更ながら気が付いた。
 いや、そもそもアギトは最初からヴィータと同行していたのかも不明瞭だ。最初に接触した時には見かけなかったからだ。
 何にせよ、アギトが何か知っている可能性が高い。
「なぁ、紫髪の女が何かしたんか?」
「アイツが……○○○○を殺したんだ!」
「なん……やって……」







 その一方、ヴァッシュもある事を考えていた。
(どっかで会った気がするけど……)
 そう、ヴァッシュ自身、はやてを見た記憶があったのだ。しかし、ヴァッシュ自身それに関して強い確証が無かったのである。

 結論から言えば、ヴァッシュ自身はやてと面識は全く無い。しかし、はやてとその家族についての記憶は確かにあったのだ。
 思い出して欲しい、今のヴァッシュは自身の兄であるミリオンズ・ナイブズと融合している事を。
 融合した際に彼の記憶と動向をヴァッシュは把握した。この殺し合いでなのはを含む4人を殺した事を、そして元の世界での彼の記憶をだ。
 そう、この殺し合いに連れて来られる直前のナイブズの記憶もまた例外ではなかったのだ。
 ヴァッシュがなのはに保護されたのと同様に、ナイブズもまたはやてに保護されていた。その際に彼女の家族であるヴィータ達とも出会っていたのだ。
 では、何故ヴァッシュは確証を持てなかったのだろうか?
 まず、記憶のはやてとこの場にいるはやてが似ていたとはいえあまりにも違いすぎたのだ。ここにいるはやては20歳の女性、記憶の中のはやては9歳の車椅子の少女なのだから。
 また、そもそもナイブズがはやてに保護されてという記憶がヴァッシュにはある意味現実味が薄かったのだ。ナイブズが何度と無く人間を虐殺するのをヴァッシュは見ていたのだから。
 そして、融合以降約10時間前後力の暴走とそれによりフェイト・T・ハラオウンを殺したショックからヴァッシュ自身それどころでは無くなっていた。
 以上の事からヴァッシュははやての記憶を持ちながらもそれについての確証が持てなかったのである。

 とはいえ現状それは大きな問題ではない。いち早くアジトに向かい背負っているかがみをスバルの仲間に会わせる事が今の最優先事項だ。

 と、気が付いたらはやてよりも数十メートルも先行していた事に気が付いた。
「ちょっとー!!」
 最初の放送直後、ヴァッシュは自身のデイパックを奪われており以降地図も磁石も持たずに行動していた。その為、はやての道案内無しにアジトへ向かえる道理は無い。
 ともかく、ヴァッシュははやての所に戻り、
「はやて! ……ってあれ?」
 口を出そうとしたが、はやての傍に見慣れない小人がいた事に気が付きあっけに取られた顔をした。
「あ、すみません、ちょっと考え事していたんで」
「それはいいけど……って君は?」
「あたしは……」
「ああ、この子は仲間のアギトです。それよりヴァッシュさん、少し貴方とお話したいんですけど」
 はやての口から発せられたのは情報交換の提案だ。
「え、でもそれはアジトに行ってからゆっくりやれば……」
 確かにアジトまではそう遠くない。ここで無理に行わずともアジトに付いてからスバルの仲間を交えて行えば済む話ではある。しかし、
「ここ数時間殆ど休みらしい休みを取ってないんです、ヴァッシュさんもホテルでの戦いから休んでないですよね? 休憩がてら貴方の事情を聞きたいんやけど。
 それにアジトについてすぐに戦いになる可能性も否定出来ません。万全な状態にしておくべきやと思いませんか?」
「うーん……」
 はやての言い分は理解出来る。しかしヴァッシュとしては一刻も早くアジトへ向かい、かがみをスバルの仲間に会わせたかった。故に素直に提案を受け入れられなかったが、
「こう言っては失礼かも知れませんけど、私は貴方を完全に信じたわけやないです。仲間達の命が懸かっている以上、信用出来ない相手に背中を任せるわけにはいきません。
 勿論、全部話してとは言いません。知り合いやこの場に着てから何をしてきたかを話してくれればそれで良いです」
「……わかった」







 まず、ヴァッシュは自分が管理局に属していてこの場に大切な仲間達がいる事を説明した。
「なのはちゃんにフェイトちゃん、ユーノ君とクロノ君……1つ確認したいんですけど、なのはちゃんとフェイトちゃん何歳ぐらいでした?」
「確か10歳ぐらい……って、はやての口ぶりだとなのは達を知っている様に聞こえるんだけど」
「それについて後ほど、とりあえず続けて」
 はやての言葉が気になるもののヴァッシュは説明を再開した。更に、危険人物としてナイブズが参加している事を説明した。
 まずヴァッシュは最初にアレクサンド・アンデルセンと出会い彼と行動を共にしていた事を話した。アンデルセンの話ではアーカードが危険人物でティアナ・ランスターがアーカードによって吸血鬼になったという話である。
 ちなみに、はやて達は既にアーカードが死亡している事を知っているがそれに関してはヴァッシュに伝えなかった。
 その後、2人は家族を守る為に殺し合いに乗っていたアンジールと遭遇し彼を無力化した。そしてアーカードの放送が響き渡りその場所へ向かったが――
「(そうか、あの時乱入したのがアンデルセンだったんだな……)ん、でアンタはアーカードの所に行ったのかよ?」
「いや……」
 ヴァッシュはアンデルセンを見失い、その後ナイブズの存在を察知し彼を止める為、アンジールを近くのビルに置いて1人その場所へ向かったが――
「アイツは死んでいた――」
 その後、気が付いたら何者かに襲われ左腕を斬り落とされ――
「じゃあその左腕は何なんです?」
「信じられない話かも知れないが聞いてくれ――ナイブズが俺の左腕になった――」
「1つになった……っていう解釈で良いんですね?」
「……って、妙にあっさり受け入れている!?」
 確かに驚きではあるし詳しくは聞きたい所だ。しかし今はそこの説明に必要以上の時間を取られるわけにはいかない。最低限把握出来れば十分なので、話を進める事にした。
「こういう事には慣れていますから。で、その後どうなりました?」
 ヴァッシュの口調は重いものの話は続けられた。
「アイツと一つになった事で宿った力を僕は制御出来なかった……それで……フェイトを殺した……」
「そう……ですか」
 その後、自身の制御出来ない力に他者を巻き込まない様に彷徨い神社へ辿り着きそこで新庄・運切と出会った。
 新庄を死なせまいと離れる様に言ったものの彼はそれを聞かずヴァッシュの傍にいたのだ。
 そして2度目の放送の後、雷を放ち自らを神と名乗る男が2人を襲撃してきた際にヴァッシュ自身が制御出来ない力で彼を殺しそうになった事があった。ヴァッシュは名前を知らなかったがその特徴はエネル以外に有り得ない。
「な……エネルに勝ったというんか……」
 その後、新庄がエネルを監視する名目で同行し、ヴァッシュは新庄の為に禁止エリアとなっていた神社から離れた。
 そして気が付いたら海に落ち、海から上がった後、アンジールと再会した。
 忌まわしき力はアンジールを殺さんと暴走したものの、アンジールのお陰で遂に暴走は収まった。
 その後、ヴァッシュはホテルへ移動しそこでかがみと出会ったのだ。その後、スバルと遭遇した際に放送が鳴り響き、新庄の死のショックで再び左腕が暴走しスバルと交戦する事となった。そして――
「……何とか暴走が収まりスバルと落ち着いて話そうと思ったらかがみと始が来て混戦状態になったわけですね……ちょっと整理しに行って良いですか?」







 はやてとアギトはヴァッシュから少し距離を置き、
「はやて……どうするんだ?」
 ヴァッシュの人格そのものに関してはアギトも信じて良いとは思っている。だが、左腕が暴走した際の危険性は否定出来ない。
「確かに暴走は怖い……けど、その実力は確かやし性格に関しても十分すぎるぐらいのお人好しや。あのエネルを殺せるのに殺さへんかった事からもそれは明らかや
 (そのお人好しさ加減のお陰で誰か死なせているけどな。十中八九新庄を殺したのはエネルや、全く……あの場で仕留めてくれれば良かったんに……まぁ、その場合ヴィヴィオを相手にせなあかんかったけどな)」
「そんなにエネルってヤバイのかよ?」
「アギトはデイパックの中にいたからよくわからんかも知れんけど、あそこの雷全部アイツの仕業や」
「確かに厄介そうだな……」
「暴走さえ除けば十分信頼出来ると思う」
「はやてがそう言うんだったらいいけどよ……」
(それに……幾つか面白い事も聞けたからな)
 その1つがアンジールの存在だ。アンデルセンはヴァッシュと出会う前にアンジールと交戦していたらしい。詳しい事情は不明だがアンデルセンがアンジールの家族に害を及ぼすという話なのだ。
 ここで、はやてはある話を思い出す。クアットロがこの場に来て神父らしき男に襲われたという話があった。その神父がアンデルセンである可能性が高い。
 彼女を助ける為にアンジールが現れアンデルセンと交戦した可能性があるという事だ。何の為に? それはアンジールからみてクアットロが家族だからだろう。
 それを裏付ける証拠として、アンジールは青いスーツの女達を探していた。これは言うまでもなくクアットロ達ナンバーズだ。故に、アンジールから見てクアットロ達は家族という事になる。

(けど、これだけやと根拠として弱いな……)
「そうだ、アンジールと言えば……」
「何かあったんか?」
「ああ、もう1人のお前殺していたぜ」
「って、見ていたんか!? そういう大事な事は先に言えや!」
「そんな余裕無かっただろ……」
「ていうか、ヴィータ何してたんや……」
「その時、セフィロスのデイパックの中だったんだよ。そういやアンジールとセフィロス知り合いみたいだったな」
「それ本当か? そうか、それなら……」

 アギトの話からはやてはある仮説を立てた。
 クアットロがアンデルセンに襲われた際、アンジールがクアットロを助けアンデルセンを退けた。
 その後、クアットロはアンジールを利用して参加者を殲滅しようと目論んだ。故にはやて達に対しアンジールの存在を伏せておいた。
 そして、クアットロがはやてを斬り捨てた際に強気だったのは、セフィロス対策にもなる確実な味方のアンジールがいたという事になる。
 勿論、これは推測でしかない。しかしこれまでの証言からその可能性は高いだろう。
(となると、アンジールは敵ということになるな。クアットロと敵対する以上交戦は避けられん……)







 話し合いを終えたはやて達がヴァッシュ達の所に戻って来る。
「フェイトちゃんを殺した事に関しては決して許される事やないです。それが貴方の意志によるものやなかったとしてもや」
「ああ……それは……」
 ヴァッシュがフェイトを殺した罪の重さは今もヴァッシュは決して忘れない。
「せやけど……本当に悔やんでいるんやったらその力を……今度は人々を守る為に使ってくれませんか?」
「はやて……」
「だから約束してくれませんか、もう二度と決してその力を暴走させへん事を」
「……わかった」
「それなら貴方を仲間として迎えます。なのはちゃん達と力合わせて何とかこのゲームを止めましょう」
「ありがと……ん、ちょっと待って、はやての口ぶりだとなのはが生きている様に聞こえるんだけど……?」
 それは有り得ない。放送で名前も呼ばれていたし、ナイブズがなのはを殺す記憶をヴァッシュは見ている。だが、
「18時の放送でもフェイトちゃんの名前が呼ばれていた事に気付いてました?」
「えぇ!?」
 ホテルでの放送の時、新庄の名前が呼ばれた時点でヴァッシュの思考が停止していた為、フェイトの名前が呼ばれていた事を知らなかった。というより、フェイトの名前が呼ばれたのは12時の放送だった筈だ。一体何を言っているのだろう?
「名簿になのはちゃんとフェイトちゃん、私の名前が2つずつ乗ってます」
「そういえばそうだった様な……」
「それにですね、私の知り合いのなのはちゃん達も20歳ぐらいなんです。これらから考えて、私らは異なる平行世界から連れて来られているって事になるんです」
「あ、成る程」
 ヴァッシュ自身、なのは達にいる地球が自分の元々の世界の地球とは異っていた事を把握していた事から平行世界に関しては容易に理解出来た。
「せやから、此処にいるなのはちゃん達がヴァッシュの知る彼女達とは限らないという事になります。とはいえ、絶対に無いとは言い切れないし、別世界の別人だからってみんなの命を守る事に変わりはないですけどね」
「ああ」
 そう、仮に異なる平行世界の存在だとしても、なのはがナイブズに殺され、フェイトを自分が殺した事実に違いはなく、同時に守るべき命である事に変わりはない。結局の所、ヴァッシュにとってはさほど重要な問題ではないのだ。







「それじゃあ暫くアギトと色々話してくれますか?」
 と、アギトがヴァッシュの方へ移動する。
「ん? どういうこと?」
「私はちょっとその子と少し今後の事について『お話』しようと思いまして」
 つまり、はやてとかがみの2人きりにして話をするという事だ。
「ちょっと待ってくれ、それこそアジトに行ってからでも」
「いや、今のこの子は誰彼構わず憎しみをぶつけてきます。そんな状態で彼女の友達と会わせて取り返しのつかない事になっても困る、せやから彼女を落ち着かせた上で事情を一度説明しておこうかと思いまして」
「成る程……だったら僕も」
「ダメです、ついさっきまで命のやり取りしていたヴァッシュさんやったら彼女も警戒します。

 それに……女の子同士やないと話せない話もあると思いません?」

 その妖艶な笑みを浮かべるはやてに対し、
「そ、そうだね……」
 素直に頷くしかないヴァッシュであった。そしてヴァッシュの背からかがみが降ろされ、
「そうそう、これをどうにかしないと」
 と、彼女の首にかかっていた千年リングを外した。
「そのリングがどうしました?」
「ああ、スバルの話じゃこのリングに宿る人格がかがみをここまで追い込んだらしい。乗っ取られたりしない様に気をつけて処分してくれって言っていた」
 それを聞いたアギトが不思議そうな表情をしていたのをはやては見逃さなかった。
「ヴァッシュさんが乗っ取られたら困るんですけど大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫。絶対に乗っ取られたりなんてしないから!」
 力強い声でそう答えた。そして、はやてがかがみを背負い、
「それじゃ、決して覗いたりなんかしない様に」
 そう言って、深い森林の奥へと消えていった。

「はやて……大丈夫か……」
「大丈夫だって、リングも手元にあるから」
「(そうじゃねぇんだよ……)」
「あ!」
「何かあったのかよ」
「いや、ちょっとはやての喋り聞いていたらアイツの事を思い出しただけだから」
「アイツって誰だよ……」
 ヴァッシュの脳裏には関西弁を喋る牧師の姿が浮かんでいた。

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