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Mの姿/鏡 ◆gFOqjEuBs6




 私は悪くない。
 悪いのは全部私をここまで追い込んだ奴らだ。
 ここで出会った奴……皆して私を裏切った。
 だから私は、こんな所まで来てしまったのだ。
 嗚呼……どこで間違えてしまったんだろう。
 どうしてこんな、最期の最期まで苦しい思いをしなくてはいけないのだろう。
 体中から流れる大量の血液が、柊かがみの意識を急速に奪っていく……そんな感覚。
 四肢から流れ出た血液が周囲に赤の血だまりを作り、腹部から流れる血液が下腹部を濡らす。
 人間は通常、身体の三分の一から二分の一の血液が無くなった時点で、死に至ると言われている。
 もうそろそろ流れ出る血液は三分の一に達する頃だろうか。
 「死」が、もうすぐそこまで迫っているのだ。
 それはかがみ自身も、直感的に感じていた。

(ああ……私、死ぬんだ。嫌だ……死にたくないな……)

 次第に薄くなって行く意識の中で、かがみは思った。
 つい先ほどまでは、他の皆を殺して自分も死ぬつもりだった。
 だけど、一瞬で死ねるならまだしも、こんな苦しい思いをして死ぬなんてのは、予想外だ。
 だからかがみは、急速に接近する「死」を、受け入れられずにいた。
 成程確かに、八神はやてに言われた通りだ。自分は本当に都合がいい考えをしていた。
 そもそもの話、他を皆殺しにして自分が死ねばそれで全て終わるなんて、虫が良すぎたのだ。
 それでいていざ「死」が迫ると、自分はそれを受け入れられずにいる。

(死にたくない……死にたくないよ……)

 止めどなく溢れ出る涙。高鳴る心臓の鼓動。
 感覚が鈍って行く。目眩と涙とで、視界が歪む。
 死にたくないんだ。私は今、生きたいと願っているんだ。
 だけど、ここで生き延びたってする事なんて何もない。
 だってもう、柊かがみは全てを失ってしまったのだから。

 人間が最も簡単にPTSD(トラウマ)に陥る理由は、大きく分けて二つ。
 一つは、明確な殺意を持った者によって、「殺される」という恐怖を与えられる事。
 一つは、不可抗力にせよ何にせよ、誰かほかの人間を「殺してしまう」こと。
 エリオを殺してしまった。シグナムを殺してしまった。だからはやてに殺されてしまう。
 この一日でそれらの条件を尽く満たしてしまったかがみに、冷静な判断など出来る訳が無い。
 心に大きな傷を負ったかがみが、この先に希望を見いだせる訳が無いのだ。
 つまり今のかがみは、死にたくも無いが、生きたくもない……ただ絶望に打ちひしがれるのみ。
 第一、エリオやシグナムを殺してしまった自分に、この先も平然と生きていけるとは思えなかった。

(エリオ……シグナム……そうだ……私が、殺したんだ……)

 先程の少女――はやての表情を思い出す。
 瞳を見れば解った。あのはやてという少女、最初から自分を殺すつもりだったのだ。
 自分は彼女の大切な家族を――シグナムを奪ったのだ。この手で……。
 他の世界だろうが何だろうが、そんな事は関係ない。
 家族を殺された。だからはやては私を殺す。至って単純な事だ。
 憎しみによって繋がる負の連鎖。何処かで断ち切らねば永遠に続く悪循環。
 それが巡り巡って、明確な殺意となってかがみへと返って来た。
 殺された者の無念。遺族の愛憎。行き場の無い憎悪。
 それら全てを、殺意と言う形でぶつけられたのだ。
 それは浅倉につかさを殺された時、はやてにこなたを殺されたと言われた時、自分自身も感じた筈だ。
 結局のところ、八神はやては先程までの自分自身と同じ。

(どうして……私は……)

 どうして、こんな簡単な事に気付かなかったのだろう。
 本当に大切な者は失ってから初めて気付くとか、自分が経験して初めて気付くとか。
 そういう事は良く言うけど、こうして一人でじっと考える機会が訪れて、ようやく気付いた。
 自分は、人を殺した。周囲が悪かったから……という理由も多分にあるが、それだけでは言い逃れられない。
 人を殺せば、その人の人生も、未来も失われる。そうすれば、その人の遺族にも憎まれる。
 考えればすぐに解った筈なのに……自分の事でそんな事にも気付けなかった。
 そしてかがみを襲ったのは、家族を殺された者からの、愛憎による殺意。
 今更反省したところで遅いし、そんな虫の良い事をする気にもなれない。
 自分は本当に、どうにも取り返しのつかない事をしてしまったのだ。

(こなた……こんな私じゃ、もう友達だなんて言ってくれないかな……)

 また、瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
 本当に信頼出来る、数少ない友達を胸に思い描く。
 出来る事なら、最期にもう一度その顔を見たかった。
 死を前にして初めて解った。結局自分は、こなたを求めているのだ。
 どうせ別の世界だから……なんてのは、はやての言った通り自分を誤魔化す為の言い訳に過ぎない。
 だから自分は、つかさが死んだ時だってあんなに取り乱してしまったのだ。
 だけど、それに気付くのも……何もかもが、遅すぎた。




 炎上するスーパーの前に佇む、三人の男女。
 一人は赤の装甲に身を包んだ仮面ライダー――天道総司。
 一人は時代を感じさせる着物に身を包んだ少女――高町なのは。
 そして最後の一人は、全身黒ずくめの仮面――魔王ゼロだ。
 両手を高らかに掲げて前進する魔王ゼロの姿は、見る者に異様な迫力を与えるようだった。

「聞け、力を持つ参加者よ! 刮目せよ! 私はゼロ……魔王ゼロだ!
 私は悲しい。繰り返される無秩序な殺戮、略奪! ルール無用の殺し合い!
 私はこの野蛮なバトル・ロワイヤルを善しとしない!」

 漆黒の仮面の奥から響く声は、低く、重たく、周囲へと響き渡った。
 言っている事はつまり、この殺し合いには乗って居ないという事だろうが……
 それは最早、天道となのはにとってはナメくさっているとしか思えない言い分であった。
 C.C.やペンウッドを誘拐し、今し方自分達を砲撃したこいつの何処が殺し合いに乗って居ないと言うのだ。

「だから私は、ここに新たなゲームを提案する! それに当たって、参加者の戦力は平等でなければならない!
 故に私は、ゲーム進行の妨げと為り得る乱入者達を、今し方このゲームから排除した!」
「ゲーム、だと……?」

 カブトの仮面の下、その表情の更に下側に明確な“怒り”を隠して、天道が問うた。
 こいつのふざけたゲームの為にC.C.とペンウッドは犠牲となり、今現れたもう一人の少女は死んだ。
 恐らくは奴がアンジールの妹なのだろうと言う事は、アンジールの反応を見れば解る。
 アンジールは、目の前で妹を無惨にも爆殺されたのだ。
 それを思えば、天道も冷静ではいられなかった。

「そうだ。ゲームという物は本来、決められたルールの下で楽しむべきもの!
 それ故に、私はこのゲームに新たなルールを設けた上で、諸君らに参加して貰いたく思う!」
「ふざけるな! そんな事の為に、貴様は何人もの命を……!」
「少し黙って貰おうか、仮面ライダー。貴様に拒否権は無いんだよ。」

 それ以上、言葉は必要なかった。
 カブトクナイガンが閃き、カブトの赤き装甲が踊る。
 卓越した戦闘センスで一瞬のうちにゼロとの距離を詰めたカブトが、短刀を振るった。
 きんっ! と、鳴り響く金属音。現れたのは、カブトの攻撃を遮る様に浮かぶ、黄金にも近い色の盾。
 構うものかと、続けて放つはハイキック。されど、それも先程と同じくして現れた盾によって阻まれる。

「私はゲームマスター、言わばプレイヤーだ。そして君たちは、プレイヤーによって盤上で動かされる駒。
 盤上で踊るべきキャラクターがプレイヤーに反逆する事は不可能! よって、君の攻撃は通らないよ!」

 言うが早いか、ゼロが掌を突き出した。
 巻き起こる突風。突風はカブトの身体を浮かばせ、そのまま後方へと吹き飛ばす。
 同時にカブトが肩から担いでいたデイバッグがカブトの身体から引き剥がされ、宙へ浮かぶ。
 浮かんだデイバッグは、カブトの身体とは反対方向――即ち、ゼロの方向へ向かって飛行。
 カブトが雑居ビルの壁に身体を打ち付ける頃には、デイバッグはゼロの手に握られていた。

「ゲーム開始時に初期装備が充実し過ぎていては、ゲームバランスが崩れかねないだろう?
 さぁ、仮面ライダーカブトよ……貴様の初期装備品はそのカブトゼクターのみだ!」
「貴様……ッ!」
「次はお前だ、高町なのはよ!」
「え……っ!?」

 カブトにはもう用無しだと言わんばかりの変わり身の早さで、なのはへと向き直る。
 驚く隙すら与えずに、ゼロが巻き起こしたのは先程と同じ突風。
 強力な念動力によって起こされた突風を回避する事は難しい。
 回避も防御も出来ずに、なのはの身体からデイバッグが引き剥がされた。
 それらもすぐにゼロの元へと飛行し、そのままゼロの手中へと収まった。

「これで君のアイテムは無くなった……だが、それではフェアじゃあない……。
 そこで特例として、君に初期装備アイテムを支給しようと思う。受け取りたまえ!」
「わっ、とと……え、これって確か……デルタギア!?」

 ゼロのデイバッグから取り出されたのは、銀色のアタッシェケース。
 放り投げられたアタッシェケースを何とか両腕でキャッチ。
 それは、なのはにとって確かな見覚えのあるベルトであった。
 そう。それは本来自分に支給された筈のベルト――デルタギア。
 それを手に取り、なのははゼロを見据える。

「これで準備は整った。君達にこのゲームのルールを説明する!
 カブト、デルタ……君達仮面ライダー二人には、タイムリミットまでに何人の参加者を殺せるかを競って貰う!」
「冗談じゃない……誰がそんなゲームに――きゃっ!?」
「まだ説明は終わって居ないよ、高町なのは……いや、デルタよ」

 カブトのすぐ傍らのコンクリの壁に、なのはの身体が叩き付けられた。
 念動力による突風だ。それに吹き飛ばされ、なのはの身体も飛ばされたのだ。

「君たちは私の駒だ。私の思い通りに動くしかない。さもなくば……残念だが、私はこいつを殺すしかなくなる」

 デイバッグの中へと突っ込まれたゼロの腕が掴んだのは、細い首だった。
 白く、美しい毛並みの小さな竜。仮にもなのはと組んだ相棒――フリードリヒだ。
 苦しそうに足掻くフリードなど意に介さず、力強く握り締めたその腕を、天高く振りかざした。
 月明かりの元、いつでも殺せる状況へと追い込まれたフリードが、じたばたと暴れていた。

「フリード!」
「ドラゴンと言えど命は命。それを尊く思うなら、私には逆らわない事だ。さて、それでは説明に戻らせて貰おう。
 ゲームは至って単純だ。次に私と出会うまでに何人殺せるか、いくつの首輪とボーナスアイテムを得られるかで競って貰う。
 そうだな……首輪のノルマは、一人につき二つ。それを満たせなかった場合は、この龍を殺す。
 君達が勝った場合は、次に出会ったとき、首輪四つとボーナスアイテム四つをこの龍と交換してやろう」

 これが、ゼロが持ちかけたゲームのルール。
 このデスゲームに新たな縛りを追加したものだ。
 次にゼロと出会うまでに、天道となのはは合計で四人の参加者を殺さねばならない。
 そして得た首輪と、ボーナスアイテム全てをフリードと交換しなければならないのだ。

「一応言っておくが、これまでの放送で名前を呼ばれた者の首輪を持ってきても数にはカウントしない。
 君達が仕入れた、新しい首輪とボーナスアイテムを持って来なかった場合は、無条件にこの龍を殺す」
「そのゲームに乗る必要はない。何故ならキング……お前は今、ここで俺に倒されるからだ」
「……キング? はて、何の事かな」
「とぼけても無駄だ。今さっき貴様が出した盾、俺には見覚えがある」

 掲げられたカブトの指先が、ゼロへと向けられた。
 天道は一度、コーカサスアンデッドへと変身したキングの姿をその眼で見ているのだ。
 その際に、キングが腕に装備していたソリッドシールド。それはまさしく、先程カブトの攻撃を防いだ盾だ。
 もう言い逃れは出来ないと言わんばかりに、カブトは真っ直ぐにゼロを指差していた。
 天道の思惑を察したゼロも、これ以上の演技に意味は無い事を悟ったのだろう。

「……あーあ、つまんないなぁ。まぁ、気付かれたからって僕の要求は変わんないけどさ」

 さもつまらなさげに呟きながら、その漆黒の仮面を外した。
 ゼロの正体は、案の定今となっては明確な敵となったキングであった。
 仮面を外した途端に声が変わった事を考えると、あの仮面には変声機でも付いているのだろう。

「ま、僕もそろそろゼロには限界感じてたからいいんだけどさ」
「キング……殺し合いには乗って無いっていうのは、やっぱり嘘だったの?」
「嘘じゃないさ。僕にとっちゃ人間同士の殺し合いなんて微塵も興味無い。それはホント。
 ただ、こうした方が面白いだろ? 正義の味方が人を殺すなんて、最高の見世物じゃんか!」
「そんな下らない理由の為に……!」
「やめろ高町……最早こいつには何を言っても無駄だ」

 カブトの、天道の冷静な声に宥められるなのは。
 ――否。カブトの声色にも、確かな怒りと最大限の侮蔑が込められていた。
 やはり人として感じる憤りはなのはも天道も変わらない。
 こいつは、キングは最悪だ。図らずも二人の意見は一致していた。

「貴様はここで俺が倒す。それで何の問題も無い」
「ちょっとちょっと、ゲームのルール聞いてなかったの? 僕は別に戦う気は無いんだってば! 第一僕、戦い嫌いだし」
「貴様こそ俺の話を聞いてなかったのか。俺は貴様を、ここで倒すと言ってるんだ」
「ああもう……わっかんない奴だなぁ! 戦ったとしても、お前レベルじゃ僕は倒せないって言ってんの。
 折角生き残るチャンス与えてやってんのに、何で無駄死にしようとすんのさ? 馬鹿なの? 死ぬの?」

 君の頭を疑うよとでも言いたげに、キングが両手を広げた。
 この自信、ハッタリ等では無い。それは天道自身にも良く解る。
 アンジールとの戦いで疲弊した今、果たして万全の状態のキングに勝てるだろうか。
 ……いや、勝てるかどうかではないのだ。倒さなければならないから、倒す。
 だから天道は、天の道を貫く為、キングに戦いを挑まなければならない。

 ――きぃんっ!!――

 刹那、何かの金属音が響いた。
 聞き覚えがある。キングの盾と、刃物が激突する音。
 カブトから見て、キングの後方にソリッドシールドが形成されていた。
 そして、ソリッドシールドと一緒に見えた影は――純白の、片翼。

「アンジールか……!」
「あぁそっか……最後の妹、死んじゃったんだ。だから他の参加者を手当たり次第に殺す事にした?」
「黙れッ!!!」

 激昂したアンジールが、反逆の名を冠した剣を横一閃に振った。
 されど、それはキングの身体に届く事は無く、直前でソリッドシールドによって阻まれる。
 キングの言う事は正しい。事実、アンジールはクアットロを失った事で、夢も誇りも失った。
 もう、先程までのアンジールは死んだ。今ここにいるのは、ただ殺す為だけに戦う堕天使。
 事実、盾に防がれていなければ、アンジールの剣の軌道はどれも確実にキングを死に追いやる太刀筋であった。

「アンジール……それがお前の選んだ道か」

 ぽつりと吐き出された天道の言葉は、何処か言い様のない寂しさを帯びていた。
 だけど、アンジールが全ての参加者を殺す事に決めたのなら、それも理解出来る。
 もしも自分が、掛け替えのない妹――樹花やひよりを殺されたら、その時は自分だってどう行動するか解らない。
 妹の為だけに戦うアンジールは、言わば天道とは鏡映しと言って良い。限りなく似て非なる存在なのだ。
 だからアンジールの行動を責める事は出来ないし、アンジールの判断を間違いとも思わない。
 なれば、今の自分には何が出来るだろう。これ以上アンジールの誇りを汚さない為には……。

「やはり、倒すしかないか」

 ぽつりと呟かれたカブトの言葉など、まるで意に介さない様子だった。
 アンジールの身体が、片翼による羽ばたきで、刹那の内に上空へと掻き消えたのだ。
 キングに只の斬撃は通用しない事を学んだのだろう。アンジールが次に狙った相手は――

「――ッ!?」
「どこを狙っている……アンジール?」

 きぃん、と響く金属音。
 なのはの首筋を狙い、一直線に振り払われた剣を、カブトクナイガンが受け止めた。
 咄嗟の判断でカブトがなのはの眼前へと躍り出なければ、ここでなのはは死んでいた。
 もう、この男に誇りという物は無い。殺せるならば、女子供に関わらず手当たり次第に殺す。
 ならば天道は、その刃に脅かされる命を守り、アンジールを倒さなければならない。
 カブトクナイガンを翻し、リベリオンを払いのける。
 勢いそのまま、アンジールへと躍り掛かろうとするが――

「ダメダメ! ゲームの邪魔はルール違反だよ!」

 カブトの刃がアンジールと再び接触する前に、アンジールの身体が吹っ飛んだ。
 同時にアンジールの身体からデイバッグが引き離され、キングの元へと飛んで行く。
 それを片手でキャッチし、自分のデイバッグの中へと放り込み、言い放った。

「ようこそアンジール、君は三人目のゲームプレイヤーだ! ライダーチーム対堕天使アンジールってね!」

 漆黒のマントをばさりと広げ、高らかに言い放った。
 だが、天道は最早キングの言葉になど耳を貸していない。
 カブトがその視界に捉えたのは、開きっ放しになったキングのデイバッグのみ。
 そして、考える。先程の戦いで疲弊した今、キングとアンジールを同時に相手にするのは確かに骨が折れる。
 だが、今のアンジールは目に映る者全てを殺すマーダー。そしてキングは、揺るぎなき明確な「悪」だ。
 ならば……戦う以外にも、こいつらを潰し合わせる事は出来る。

「高町!」
「え……!?」

 ――CLOCK UP――

 自分の背後に控えたなのはの腰を掴んだ。
 そのままなのはの意思などお構いなしに、腰のスイッチを叩く。
 同時に響いたのは、クロックアップの開始を告げる電子音。
 天道は元々の体力が人並み外れているとはいえ、今はアンジールとの戦闘直後。
 その上なのはをも抱えている事を考えれば、クロックアップ出来る時間はそう長くない。
 だから、勝負は一瞬だ。一瞬で“それ”をこなし、戦闘から離脱せなばならない。
 残り僅かな加速を使い、カブトはキングに掴み掛った。




 一瞬で、カブトの姿が掻き消えた。
 なのはの姿も一緒に掻き消えて、残されたのは二人きり。
 炎上するスーパーの炎に照らされながら、キングは再び漆黒の仮面で顔を隠した。

「やれやれ……逃げるなんて、仮面ライダーとしてはどうかと思うんだけど、なぁ?」

 全てを言い終えるまでもなく、キングの眼前にソリッドシールドが形成された。
 言うまでもなく、ソリッドシールドを出す要因となったのは、アンジールの剣だ。
 有無を言わさずに、アンジールはキングへと斬り掛かって来たのだ。

「あぁ、そういう事。アンジールと僕をぶつけようって? 甘い甘い! それじゃ甘いよカブト!」
「何をごちゃごちゃと……!」

 今度は、真っ赤な火球だ。
 だけど、それもキングの元へと届く前に現れた盾によって掻き消された。
 アンジールもそろそろ気付く頃だろう。自分の攻撃はキングには通用しない、と。
 それを理解できるまで、キングは防戦一方というスタンスを貫く。
 そして、幾度かアンジールの攻撃を防いだ後で、キングが口を開いた。

「今のアンジールを、ザックスが見たらどう思うかな」

 キングは知っている。
 アンジールに、愛弟子が居る事を。
 夢と誇りの全てを託した者が居る事を。
 それをネタに揺さぶりを掛けるが……どうやら少し軽かったらしく。
 アンジールの剣による剣戟が止む事は無かった。
 流石にこの程度では決意を揺らす事は出来ないか。

「バスターソードはどうした? 父の形見では無かったのか?」

 アンジールが振るう剣の軌道が、ほんの少しだけズレた。
 ザックスに、バスターソード。流石に「何故コイツがそんな事を知っている」とか思い始めても可笑しくは無い。
 だけど、それだけならば誰かからの伝聞で知ったと言う可能性もあり得る。
 故にアンジールの剣は止まらない。
 さて、ここで働くのが現代で学んだキングの知恵だ。
 人間の心を揺さぶる為の――相手をを騙す上での基本。
 簡単な事だ。まずは、相手を信用させる為の地盤を築く。
 今回キングがその地盤として選んだのは、普通なら知り得ない情報を知っているというアドバンテージ。
 存外アンジールの心は動かなかったようで、あまり面白くは無かったが、とりあえずはこの辺りでいいだろう。

「クアットロに、チンク、ディエチ。戦闘機人、ナンバー4、5、10……お前の大切な妹達だな?」
「だから、どうした!」

 マスクのお陰で、キングの声は低く響くような声へと変声される。
 それがアンジールに異様な迫力を与え……アンジールの表情が、変わった。
 流石にそろそろ疑念を抱き始めたのだろうか。キングの言葉に耳を貸した。
 これはチャンスだ。こいつはやはり妹ネタに弱いらしい。

「他の者は知り得ない情報を何故私が知っていると思う? そして何故私に攻撃が通用しないと思う?」

 あの携帯サイトを見れば全ての参加者の情報を得る事なんて容易い。
 攻撃が通用しない……これに至っては、キングの元々の能力だ。
 だけど、こうやって考えさせる事には確かな意味がある。
 アンジールの剣戟を盾で弾き返して、その両腕を大きく広げた。

「単刀直入に言おう。私は主催側の手の者だ……故に、私を殺す事は不可能!」
「なん……だと……!?」
「そして、私と手を組むと言うのであれば、貴様の妹達を特別に生き返らせてやる事も出来るが」
「何……!? それは本当か……!?」

 動きが停まった。表情が、固まった。
 まだ疑ってはいるようだが、ここまで来れば成功したも同然だ。
 あとはそれらしい理由を並べてこいつを自分の駒にすればいい。
 カブトは自分達を潰し合わせる腹積もりだったのだろうが、そうは問屋が降ろさない。
 カブトが考えた想像よりも、遥かに楽しい展開に持ち込んでやろう。

「未だに殺し合いに乗ろうとしない輩が多い事は想像に難くないだろう。
 私はそう言った参加者達を扇動する為にプレシアによって遣わされた者」
「そんな事はどうでもいい! どうすれば、妹達を生き返らせてくれる!?」
「私はこれから市街地へ向かい、他の参加者達に追加条件でゲームを持ちかける。
 君には逆らう者を黙らせる為の、私の兵隊になって貰いたく思うのだが」
「兵隊……だと?」
「ああ、勿論……私の申し出を聞かずに他の参加者を皆殺しにして、自力で妹達を生き返らせるのも結構。
 ただし、たった一人で戦って皆殺しにするか、主催側の私と繋がりを持った上で他の参加者を皆殺しにするか……
 妹達を生き返らせると言う一つの目的の上で行動するなら、どちらの方がより確率が高いかは考えるまでもなかろう」
「……俺、は……」

 嗚呼もう完璧だ。ニヤけが止まらない。
 このソルジャー、完全に自分の事を信じているらしい。
 やはり何よりも大切な妹が関われば、こいつはその考えを揺らしてしまう。
 ゼロのマスクが無ければ、仮面の下で笑っていた事が一発でバレていただろう。
 声だって多少笑いが込められて居ても、それはこの変声機のお陰で誤魔化せる。
 逆に嘲笑とも取れるし、余裕を見せつける上ではかえってプラスかも知れない。

(さあ、どうするアンジール?)

 従わないなら従わないで、ここで殺してしまえばいい。
 この男程度のレベルならば、変身すれば問題無く倒せるだろう。
 だけどそれでは面白くない。何よりもカブトの思い通りになるのが気に入らない。
 キングはただ、全て自分の思い通りなのだと言う事を知らしめてやりたいのだ。
 そしてもう一つ。高町なのはに渡した仮面ライダーデルタのベルトについてだ。
 デルタギア、恐らく自分ならば問題無く使いこなせるだろう。だが、それではつまらない。
 だから高町なのはに渡した。アレを使えば、如何になのはと言えど暴走は免れないだろうから。
 別にゲームに乗ってくれなくたって構わないし、その時はその時でフリードを殺せばいい話だ。
 そう……キングが何よりも楽しみにして居たのは、ゲームなどでは無い。
 なのはにデルタを使わせる事自体が、キングの楽しみだったのだ。

 ――されど一つだけ、キングも気付いていない事がある。
 それは、開け放たれたままのキングのデイバッグの中身についてだ。
 カブトが離脱する瞬間、クロックアップ空間の中でキングとカブトは一度だけ接触した。
 キングが知覚するよりも早く、ソリッドシールドが形成されるよりも早く。
 そう。カブトは一瞬よりもさらに短い刹那の内に、キングのデイバッグに掴み掛った。
 そして、無造作に掴んだデイバッグが二つ――ごっそりと、キングのデイバッグの中から消えていた。
 しかし、キングがそれに気付くのは、まだもう少し先のお話なのであった。



【1日目 真夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ボーナス支給品(未確認)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.まずはアンジールを駒にする。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。

【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.本当に妹達を生き返らせる事が出来るのか……?
 2.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが主催側の人間だと思っています。


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