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第四回放送/あるいは終焉の幕開け(後編) ◆Vj6e1anjAc




 身体強化術式を行使。
 速度強化と、腕力強化を最優先。
 AMFによる強化阻害の影響は、無視できるほど小さくはない。
 普段より数段重く遅い身体を、それでも懸命に力を込め、振るう。
『Scythe Form.』
 排気音と機械音を伴い、デバイスを近接攻撃形態へと移行。
 どうせ魔力弾は通用しないのだ。ならばこそ、接近戦に特化したフォームを選択するのは必然。
 振るう。振るう。薙ぎ払う。
 斬る。斬る。斬り刻む。
 迫る攻撃は全てかわした。
 普段より労力がかかる分、防御のタイミングはよりシビアだ。なればバリアになど頼っていられない。
 360度全方位に視線を配り、一心不乱に立ちまわる。
「はああぁぁっ!」
 柄にもなく気合の叫びを上げながら、リニスはひたすらに戦斧を振るった。
 我ながら大した出来だ――自らの手に握りしめた得物に、そんな感想を抱き、笑みを浮かべる。
 このバルディッシュは完璧だ。
 攻撃力も、魔力効率も、演算速度も申し分ない。さすがにフェイトのために、大枚をはたいて作っただけはある。
 フェイトはこの力作を気に行ってくれただろうか。
 オリジナルの私が最期に残したものを、喜んでくれていたのだろうか。それだけが気がかりだった。
(今の私にはこうすることしかできない……でも、彼女達にはできることがある)
 今のリニスを突き動かすのは、その一心だ。
 自分には何もできなかった。
 面と向かって立ち向かうこともできず、陰でこそこそと動くことしかできず、
 結局できたことといえば、参加者への可能性の丸投げだけだ。
 やがてプレシアに手足をもがれ、それすらも不可能となっていた。
 そして訪れた結末は、侵入者ごと抹殺対象となるという有り様。
 まったくもって不甲斐ない。大魔導師の使い魔とまで言われておきながら、情けないことこの上なかった。
「たぁっ!」
 しかし、彼女達は違う。
 彼女達はあの戦いを生き延びた。
 自分達を追うことに命を懸け、遂にはこのアルハザードにまでたどり着いた。
 何かを変えられるのは自分ではない――あの娘達だ。彼女達にこそ、希望があるのだ。
 ならば自分は捨て石ともなろう。
 こうして囮役を引き受けることで、希望を繋ぐことができるなら、喜んでここに屍をさらそう。
 犯してしまった罪を償う術が、こうする他にないのなら――
『――まったく、困った使い魔ね』
 その、瞬間。
 ぶんっ、と空気を揺らす音。
 不意に目の前に表れたのは、通信端末の空間モニター。
 画面越しに語りかけるのは、ウェーブのかかった黒髪と、冷たく射抜くような紫の視線。
『見え見えなのよ、あんな臭い芝居は。命を惜しむような柄でもないでしょう、貴方は』
「プレシア……」
 プレシア・テスタロッサ。
 全ての元凶たる大魔導師にして、山猫の使い魔リニスの主君。
 実子アリシアを蘇らせるために、大勢の命を犠牲にし、フェイトさえも手にかけた魔女。
 これまで沈黙を続けていた彼女が、遂にこうして回線を開き、再び姿を現していた。
 そしてそれに呼応するようにして、これまで戦っていたガジェット達もまた、一斉にその動作を止めた。
『本当に困った使い魔だわ……お仕置きされて反省するどころか、敵と結託するだなんて』
 ふぅ、とため息をつきながら、呆れた様子でプレシアが言う。
 自らが犯した大罪も、目の前で起きている反乱すらも、まるでに歯牙にもかけぬように。
「……私は間違っていました……
 貴方を止めたいというのなら、こそこそ隠れるのではなく、こうして戦うべきだった」
 何が悪かったというのなら、最初から何もかもが悪かった。
 本当に主の暴挙を制するのなら。
 本当に己が罪を償いたいのなら。
 黙ってその命に従って、この手を汚すべきではなかった。
 可能性だけを参加者に与え、解決を委ねるべきではなかった。
 たとえ相手が主君であろうと、あの2人の娘達のように、真っ向から立ち向かうべきだった。
 自分はそれに気付くのが、途方もないほどに遅すぎたのだ。
『どっちにしても間違いよ』
 ぎろり、と。
 刹那、冷たく輝く紫の双眸。
 纏う気配は絶対零度。肌を切り裂き臓腑を射抜き、血肉を凍てつかせる氷雪の殺意。
 気だるげな様相が一転し、威圧的な形相へと姿を変える。
 やはり、そうか。
 プレシアは己の意に背く者は、誰であっても許しはしない。
 利用価値のない者ならばなおさらだ。間違いなく自分はここで殺されるだろう。
『馬鹿げたことをしてくれたわね……それとも何? まだフェイトを切り捨てたことを根に持っているの?』
 ぴくん、と。
 帽子の下の耳が、一瞬揺れた。
『貴方があの子をどう思おうと、あんなのは所詮アリシアの出来そこないなのよ。私にとっては――』
 ああ、そうか。
 やはり、そうなのか。
 どれほどの経験を重ねても、結局貴方はそうなのか。
 あの子にどれだけ尽くされようとも、貴方にはまるで届かないのか。
 あの子をどれだけ傷つけようとも、貴方にはまるで響かないのか。
 貴方にとってのあの子とは、そんなものでしかないのか――!
「――黙れ」
 自分でも驚くほどに、冷たく低い声音だった。
 これほどに冷酷な声が出せるのかと、一瞬自分で自分が信じられなかった。
 画面の奥のプレシアも、さすがにこれには驚いたらしい。
 氷の刃のごとき視線が、一瞬丸くなったのがその証拠だ。
「私は貴方達家族のことは、ほとんど何も覚えていない……
 貴方とアリシアがどんな親子だったのかは、私には知る由もない……それでも、これだけははっきりと言える……!」
 肩がわなわなと震える。
 バルディッシュがかたかたと鳴く。
 使い魔となる前の記憶は、ほとんど頭の中に残されていない。
 自分がアリシアに懐いていたことも、アリシアが自分を拾ってくれたことも、主体として実感することはできない。
 故に、プレシアとアリシアの関係について、とやかく言うつもりはない。
 それでも。
 だとしても。

「私にとってのフェイトは本物だ!
 紛い物でも出来そこないでもない……あの子を否定することは、私が許さないっ!!」

 遂に私は絶叫した。
 己の胸にこみ上げる怒りを、ありのままにぶちまけた。
 プレシアのアリシアへの愛が、本物だというのなら。
 私のフェイトへの愛もまた、本物であるのは間違いないのだ。
 彼女と出会って、魔法を教えて、笑い合う日々を幸せだと思った。
 彼女がいかなる生まれの人間だったかなど、自分には何の関係もなかった。
 フェイトと積み重ねた想い出も。
 フェイトからもらった信頼も。
 フェイトへと向ける愛情も。
 それら全てが本物だから。紛い物でもなんでもない、確かなものであると言い切れるから。
 だからこそ、私はプレシアを許さない。
 誰かの勝手な悲しみに、誰かを巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない。
 自分のエゴで作ったフェイトを、自分のエゴで殺す愚を、私は決して許さない。
『……もういいわ。お前はもう死になさい』
 一拍の間を置いて、一言。
 それを最後通告として、プレシアの顔は目の前から消えた。
 通信の終了と同時に、静まり返っていたガジェット達が、再び駆動音の唸りを上げる。
 これが終わりの始まりなのだろう。
 ここからが、本当の最期の戦いなのだろう。
 随分と魔力を無駄遣いしてしまった。まだまだ半分くらいは残っているが、それではこの数相手には心もとない。
 それでも、自分は決して絶望しない。最後の最後まで抗うことをやめない。
 囮としての戦いは終わった。十分に時間は稼げたはずだ。
 だからこれから始めるのは、自分の個人的な戦い。
 プレシアに叩きつけたこの想いを、最期の瞬間まで示し続けるためだけの、自分勝手なプライドを懸けた戦いだ。
「バルディッシュ」
 右手のデバイスへと語りかける。
「こんな身勝手に付き合わせてごめんなさい」
 結局は自分も、プレシアと何ら変わらないのかもしれない。
 自分で複製したこのバルディッシュを、本来担うべきだった目的すら果たさせずに、
 自分の勝手なエゴに巻き込んで、ここで果てさせてしまおうとしている。
 己の欲望の果てにフェイトを死なせた彼女と、変わらないことをしようとしているのかもしれない。
「それでも……貴方が私を、まだマスターだと認めてくれるなら……最後の力を、貸してください」
 祈りのような言葉だった。
 それがリニスの口にした、最後の言葉と呼べる言葉だった。
 両の手で長柄を強く握る。
 サイズフォームの光刃を輝かせ、眼前のターゲットを見据える。
 意識は怖ろしいほどにクリアーだ。
 もう何も怖くはない。死でさえも自分を怖れさせはしない。
 ただ、刃を振るうのみ。
 最期に事切れる瞬間まで、前に進み続けるのみだ。
「……うおおおおぉぉぉぉぉーっ!!」
 咆哮と共に、山猫は駆ける。
 黄金と漆黒のデスサイズを携え、大魔導師の使い魔は疾駆する。
 間合いを取ると共に、切り裂き。
 間合いを詰めると共に、薙ぎ払った。
 AMFの壁に阻まれようとも、ひたすらに刃を叩き込んだ。
 全身をレーザーに焼き焦がされ、五体を触手に貫かれようとも、一心不乱に斧を振るった。
《アルフ》
 心残りがないと言えば、嘘になる。
 しかしそれらを叶える機会は、当に自身の手で投げ捨ててしまった。
 それでも、最後の1つだけは、どうにか叶えることができた。
 故に最後の力を振り絞り、猫の使い魔は言葉を紡ぐ。
 声ではなく思念通話を通して、願いの先へと想いを伝える。
《大きく……なりましたね》
 フェイトと共に面倒を見てきた、小さな狼の娘・アルフ。
 フェイトに会うことはできなくとも。
 フェイトの成長した姿は見れなくとも。
 その愛らしい使い魔は、大きく勇敢に育ってくれた。
 その姿を見られただけでも、彼女は十分に幸せだった。
 記憶を引き継いだクローンとして、蘇った意味はあったのだと。
 最期の瞬間に、そう実感することができた。


 上へ、ただに上へ。
 延々と続く階段を、上り続ける女がいる。
 漆黒のマントとオレンジの髪を、走る勢いにたなびかせ、ひたすらに駆け抜ける者がいる。
 ひく、と獣の耳が揺れた。
 ぴく、とマントの肩が揺れた。
「……ばかやろうっ……」
 瞳を光らせる獣の女が、震えた声で呟いていた。










【リニス@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】











「まったく……使い魔風情が偉そうなことを」
 はぁ、とため息をつきながら。
 リニスの死亡を確認した主君――大魔導師プレシア・テスタロッサは、うんざりとした様子でそう呟いた。
 腰掛ける椅子に右肘をつき、己の頬を手のひらに預ける。
 これで彼女は独りきりだ。
 たった1人の協力者を、自らの手で切り捨てたプレシアは、本当に独りになってしまった。
 もはや周りにいる者は、得体の知れないあの男から借りてきた、いかがわしい機械人形達だけしかいない。
 それでもプレシアは、それで別に構わないとさえ思っていた。
 どうせもうすぐ片はつく。あとたった11人の人間が死ぬだけだ。
 そうなれば儀式は完遂し、冥府の扉を開くための59人の生け贄が揃う。
 最後の1人の身体に魂が宿り、アリシア・テスタロッサの完全な復活は完了される。
 自分には、ただアリシアさえいればいい。
 そしてその時は、もう目前にまで迫ってきている。
「ミズ・プレシア。動力炉への兵員の配備、完了しました」
 その時。
 かつ、かつ、かつ、と靴音を立て。
 機械人形のうちの1人――ボーイッシュなナンバーⅧ・オットーが姿を現した。
「ああ、そう」
 まったくもって面白味のない奴だ。
 せっかくいい気分に浸っていたのに、余計な水を差すなんて。
 無粋な来訪者の報告に、興味なさげな発音で返す。
 裏切り者のリニスを排除した今、残された問題はあと2つ。
 夜天の融合騎・リインフォースと、犬の使い魔・アルフの2名である。
 そのうちアルフに対しては、ほとんど無視に近い対応を取っている。
 どの道あの使い魔程度の実力では、この部屋に入ることなど不可能だと分かりきっているからだ。
 となると、残る問題はリインフォース。
 こちらへまっすぐ向かってくるならまだしも、夜天の魔導書を狙われるのはまずい。
 さすがにこちらは無視できないということで、オットーに兵力の派遣を指示しておいたのだ。
 ナンバーⅦ・セッテと、ナンバーⅩⅡ・ディード――最後発組2名が相手とあれば、
 欠陥を抱えた融合騎など、ひとたまりもなく消し飛ぶだろう。
 そうなれば、全てはチェックメイト。
 このプレシア・テスタロッサを邪魔できる者は、広大な次元世界の海に、誰1人として存在しなくなる。
 今度こそ誰にも邪魔されることなく、アリシアと再会することができるのだ。
 込み上げる笑いをこらえきれず、我知らぬままに口元がにやけた。
「……あら?」
 そして、その時。
 ふと、ほんの僅かな違和感を覚えた。
「貴方、さっきまで羽織っていたジャケットはどこにやったの?」
 それはオットーの身なりへの違和感。
 中性的な容姿をした彼女は、その胸元を隠すように、グレーの上着を羽織っていた。
 しかし今、彼女の身体にそれは確認できない。
 ナンバーズスーツの上には長ズボンだけ。慎ましやかな胸の隆起が、スーツ越しに見受けられるようになっている。
「それはですね……」
 そして。
 プレシアがその返答を聞くよりも早く。




 ――ぐさり。




「ッ……!?」
 腹部へと激痛が襲いかかった。
 焼けつくような痛覚が、腹と脳髄を苛み焦がす。
 久しく味わうことのなかった鉄の味が、口の中へと満たされていく。
 アルハザードの叡智を用い、己が病を克服して以来、久方ぶりに感じる吐血の感触。
「あ……ァあ……」
 喉から漏れる声は、言葉にならず。
 震える両手は、傷口へと届かず。
「――こういうことなんですよ」
 それらが意味をなすよりも早く、何者かの声が耳朶を打った。
 聞き覚えのない女の声。
 嘲笑うような不愉快な声。
 のろまと言っても差し支えない動作で、声の方へと首を向ける。
「オットーの上着は、正式名称をステルスジャケットと言いまして……
 その名の通り、あらゆるセンサーの索敵から、身を隠すことができるんです」
 そこに立っていた者は、プレシアの知らない女の姿。
 全身をフィットスーツで覆った容姿は、オットーら戦闘機人と共通したもの。
 しっとりと光るブロンドを、腰まで伸ばした妖艶な女性。
 そしてその胸元には――ナンバーⅡの刻印が施されていた。
「ばか、な……まるで……気配、が……」
「あらあら、こちらは隠密が仕事なんですよ? 科学者ごときに、私を気配を捉えられるはずがないじゃないですか」
 にぃ、と笑う女の顔。
 同時に腹を襲ったのは、ずぷ、という音を伴う更なる苦痛。
「ぅううッ……!」
 目の前が一気に真っ赤に染まった。
 何かしらの得物でせき止められていたらしい血液が、一挙に傷口から噴き出した。
 ぶしゅう、と響く音と共に、勢いよく噴き出される紅色の噴水。
 患部から吐き出される赤色は、プレシアの身体の体力さえも、根こそぎ流し出していく。
「申し遅れました。私は戦闘機人のナンバーⅡ・ドゥーエでございます。以後、お見知りおきを……」
 意味深な響きと共に放たれた言葉を、どこまで明瞭に聞けたのかは分からない。
 もはや椅子に座ることすらも、プレシアには不可能な動作であった。
 ごろごろ、と豪快な音が上がる。
 深紅に染まった黒のドレスが、椅子から転げ落ちて床へと横たわる。
「そん……な……」
 何だこれは。
 何だというのだ、この有り様は。
 信じられないといった形相で、うつ伏せのプレシアが声を漏らした。
 一体何が起こっている。
 どうしてこんなことが起きている。
 あと一歩のところまで来たのに。
 アルハザードへと到達し、その上悲願達成の目前までたどり着いたのに。
 何故だ。何故こうも上手くいかない。
 何故誰もかれもが立ちはだかる。何故こうも誰もが邪魔をする。
 私の行いがそんなに悪いのか。
 幸せを求めるのがそんなに間違っているのか。
 私は。
 私は、ただ。
「ア、リ……シア……――」
 ただ――――――娘の笑顔が見たかっただけなのに。


 ぱっ、と右手を軽く振る。
 ピアッシングネイルにこびりついた血糊を、床に目掛けて振り払う。
 ふぅ、と軽く息をついて、戦闘機人の次女・ドゥーエは、左手で金の長髪を梳いた。
「これにてお仕事完了、と……悪いわね、貴方の服を汚しちゃって」
「いえ。お疲れ様でした、ドゥーエ姉様」
 微かに返り血の付着したジャケットを脱ぎ、それをオットーへと投げて渡す。
 右手を束縛する得物をも外すと、両手を頭の上で組み、んっと背伸びする姿勢を取る。
「っ、とぉ……やれやれ、本当にお疲れだったわ」
 まったく、創造主も無茶を言ってくれる。内心でそう毒づいた。
 これまでにも様々な潜入任務を行ってきたが、丸々1週間何もしないで待ち続けたのは初めてのことだ。
 他のナンバーズ達と共に時の庭園に入り、しかし自身はプレシア達と接触せず、誰にも存在を気取られず施設内に潜伏。
 そして指示が下ると同時に、デバイスの探知を免れられるオットーと共にプレシアに接触、これを殺害する。
 これこそが、彼女の受け持った任務の全容である。
 侵入者に付け入られ、たった1人の仲間であるリニスが排除された時点で、プレシアは用済みとなったのだ。
『――やぁ、ドゥーエ。どうやら滞りなく終わったようだね』
 そして、その時。
 室内のモニターに浮かんだのは、通信機能のカメラ映像。
 スクリーンに大映しになったのは、1人の男の顔だった。
「これはドクター。お達しの通り、つつがなくお仕事を終わらせましたわ」
 そう。
 この男こそ。
 ドゥーエがかしずくこの男こそが、彼女達を束ねる創造主。
 紫色の長髪と、爬虫類のような黄金の瞳に、白衣がトレードマークの男。
 無限の欲望とあだ名される、広域次元犯罪者。
 Dr.ジェイル・スカリエッティ。
 プレシア・テスタロッサの協力者にして、今まさに彼女を裏切った、最悪のマッド・サイエンティストである。
『実に結構。……ウーノ、いるかい?』
『はい、ドクター。ここに』
 同時に2つ目のウィンドウが開き、ウーノの顔が映し出される。
 彼女は今、別の仕事を行うために、次元航行船用のドックで作業をしているはずだ。
『プレシアの研究成果の全てを持ち出すまでに、あとどれくらいの時間がかかる?』
『今から約6時間ほどかかります』
『では、脱出艇の調整にあとどれくらいの時間がかかる?』
『そちらも6時間ほどかかります』
『結構』
 にぃ、とスカリエッティが笑った。
 それこそがウーノの請け負った仕事であり、同時にこの稀代の科学者が、プレシアに接近した最大の理由である。
 アルハザードに存在する、優れた文明の遺産の強奪――それが彼らの目的だ。
 誰よりも旺盛な知識欲を持ち、貪欲なまでに未知を求めるスカリエッティにとって、
 その故郷とでも言うべきアルハザードは、何物にも勝る宝の山に他ならなかった。
『ではウーノ。参加者達に架せられた首輪の爆破装置を、誰にも気づかれないようにオフにしてくれたまえ』
『爆破装置をオフに、ですか?』
『時間制限という新たな制約がついたんだ。それ以上に制約を設けるのは、アンフェアというものだろう?』
『……ドクター、貴方また遊ばれるおつもりですね?』
 はぁ、とウーノが呆れたように溜息をついた。
『せっかくプレシアが始めたゲームだ。まだ終わっていないのだし、我々も乗らせてもらおうじゃないか』
 モニターの向こうのスカリエッティは、くつくつと愉快そうに笑っている。
 それに呼応するようにして、ドゥーエもまた苦笑した。
 目的はこれで十中八九果たされたも同然だが、どうやら創造主の退屈は、未だ満たされてはいないらしい。
『……ではドゥーエ、君はプレシアの代役を。0時10分頃を目途に、彼女に代って放送を行ってくれたまえ』
「分かりました」
『オットーはディード達と合流し、夜天の融合騎の迎撃を』
「了解です」
 頷くと同時に、オットーは部屋を去っていった。
 ディードやセッテもそうだが、クアットロが教育したという最後発組は、どうにも感情表現が希薄だ。
 戦闘においてはそれでも構わないが、日常生活を送るにはどうにも面白味が薄い。
 これが終わってラボへと帰ったら、その辺りをクアットロにツッコんでおかねば。
 そんなことを思いながら、遠ざかる短髪の背中を見送った。
『クク……さぁ、それではゲームを再開しよう。
 彼らが勝てば全て終わり。負ければアルハザードからの脱出手段を我々に奪われ、二度とここから帰れなくなる。
 タイムリミットは次の放送を迎えるまでだ。そしてそれを過ぎた時点で――』
 かくして新たな幕は開いた。
 当事者達の知らぬ裏側で、異変は着々と侵攻していた。
 魔女は塔から引きずり降ろされ、第一楽章は終了する。
 新たなゲームマスターは、不敵に笑う金眼の道化師(クラウン)。
 ここに戦争の時代は終わり、世界の終わりが始まった。
 最悪の24時間が終了し、最悪の6時間が始まった。
 第二楽章はここから始まる。
 語り部が力尽き倒れてもなお、狂気の綴る悪夢の詩は、未だ終わることはない。










『――バトルロワイアルは、中止だ』










【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】

【参加者勝利条件変更:ナンバーズ一派の、時の庭園からの脱出阻止】
 ※参加者の首輪の爆破装置が、全てオフになりました。
 ※リインフォースに強奪されたため、
  黒龍@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~が支給不可能となりました。
 ※セッテ、オットー、ディードの3名が、時の庭園最深部の動力炉に配置されました。

【バトルロワイアル終了まで――――――05:50:00】



Back:第四回放送/あるいは終焉の幕開け(前編) 時系列順で読む Next:闇よりの使者
投下順で読む Next:闇よりの使者
プレシア・テスタロッサ GAME OVER
リニス GAME OVER
リインフォース Next:せやけど、それはただの夢や
アルフ Next:せやけど、それはただの夢や
オットー Next:せやけど、それはただの夢や
ドゥーエ Next:せやけど、それはただの夢や






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